「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2016年3月30日

事故治療費 保険診療に利点

▼Q 交通事故に遭い、通院中。治療費は加害者の保険会社が全額を払っています。先日、保険会社から、健康保険を使った診療に切り替えるように言われました。なぜ被害者である私の健康保険を使わなければいけないのでしょうか。

▼A 健康保険を使う保険診療の場合、診療報酬は診療内容ごとに定められた点数に従い、1点当たり10円で計算します。相談者は現在、健康保険を使わない自由診療扱いで、保険診療の価格に縛られないため、治療費が高額になる可能性があります(自由診療の場合、1点当たり20円前後で計算されることが多いようです)。

交通事故は、被害者に一定割合の過失が認められる場合が多く、治療費のうち被害者の過失分は被害者が負担します。加害者の保険会社が治療費全額を医療機関に払った場合、保険会社は被害者過失分をいったん立て替えた形となります。この立て替え分は休業損害・慰謝料などの損害を加えた総損害額から控除されます。

つまり治療費が高額になるほど、控除される額も高額になり、被害者の最終的な手取り額は少なくなります。被害者の過失が大きい場合、健康保険を使って治療費を抑えることは、被害者の最終的な受取額を増やす結果につながります。

相手方が任意保険に入っていない場合なども健康保険を使うメリットはあります。なぜ保険診療に切り替えるよう求めているのか、保険会社の説明を聞いてみてください。

西日本新聞 3月30日分掲載(野田幸言)

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