「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2011年12月17日

福岡県弁護士会=借金問題

景気低迷に東日本震災が重なり、経済的な苦しさを抱えたまま年末を迎えている人も少なくない。家族を路頭に迷わせかねない借金の問題を少しでも軽減できるよう、木曜生活面で「『ほう!』な話」を担当する福岡県弁護士会の4人に、最新の傾向と対策を解説してもらった。

●年金担保貸し付け 融資限度などを改正

年金を担保にお金を借りる方法には多くの問題が潜んでいます。この年金担保貸し付けができるのは法律上、独立行政法人福祉医療機構(WAM)のみです。

まずWAMは低金利ではあるものの、年金のみで生計を立てている場合、返済によって生活が困窮するのは避けられません。また、WAMの窓口業務は一般の金融機関が受託しているため、審査機能が必ずしも十分とはいえません。それをいいことに、判断能力の低下した高齢者や障がい者の年金を奪い、経済的虐待の手段として悪用されることすらあるのが現実です。

そこで今月から、融資限度額の引き下げや返済額の上限設定など公的年金担保貸し付けの仕組みが改められました。

2004年には違法年金担保融資対策法が施行されたものの、違法な手口が後を絶ちません。多重債務対策の一環として社会福祉協議会の貸付制度を見直す案もあり、年金担保貸し付けの在り方や必要性そのものが問われています。年金は生活に不可欠なもの。今後も注視していく必要があります。

(鐘ケ江聖一)

●ヤミ金の違法な高金利 元本返済の必要なし

ヤミ金とは、法律で義務づけられた国や都道府県への登録を受けず、法外な高金利で暴利をむさぼろうとする業者のことです。

携帯電話をかけるだけで口座にお金を振り込む(090金融)など簡単な方法で貸しますが、返済をめぐるトラブルや被害は後を絶ちません。例えば金利が1週間-10日で2-5割、年利に直すと1042-1825%になる例も。法律で認められるのは15-20%なので、異常さは明白です。

これほどの高金利では事実上、返済できるはずがなく、返済のために次々に別のヤミ金に手を出す悪循環に陥ります。そこで最高裁判所は2008年、ヤミ金そのものが違法なため「不法原因給付」として元本ですら返済の必要がないとの判決を出しています。

とはいえ、一般の人がヤミ金相手に対処するのは難しいもの。返済用の銀行口座を凍結したり、刑事裁判になった場合の被害回復給付金支給制度、携帯電話の利用停止など法的に対処する方法があるので、弁護士など専門家に相談してください。代わりに対応できます。

(朝雲秀)

●中小企業の再建・資金繰り 経営改善へ相談して

中小企業を取り巻く環境は依然厳しく、資金繰りや負債に関する相談が絶えません。解決策はあります。

まずは2002年に策定された「私的整理ガイドライン」による方法です。会社更生法や民事再生法の手続きを使うと、事業価値が著しく損なわれて再建に支障が生じかねません。ガイドラインに法的拘束力はないものの、債務の猶予・減免により真に再建に値する企業を支えることを目的としています。ただし、債権者全員の同意が必要です。

この点、裁判所を介した民事再生手続きは、債権者の過半数の同意か、負債総額の2分の1以上を有する債権者の同意で進めます。経緯や債権者の意向によっては、そのまま経営権を維持することもできます。

会社経営では連帯保証をめぐる悲劇も目立ちます。その観点から、保証人に債務者の資金繰り情報を提供する制度の導入など、法制審議会で民法の改正作業が進められています。

資金繰りに行き詰まる前に、あらかじめ経営の改善を。そのヒントを得るためにも弁護士を活用してください。

(池田耕一郎)

●多重債務の解決方法 過払い金請求も可能

保証人になったら知人が破産した、生活費を補うつもりで…。多重債務に陥るきっかけは身近なものばかり。解決方法は四つです。

(1)任意整理=裁判所を通さずに債権者と交渉し、原則として元本のみを長期分割(おおむね3年以内)で支払うことを目指す。

(2)特定調停=裁判所が間に入り、新たな支払い条件などを交渉。自分で申し立てでき、費用が安く済む。

(3)民事再生=ローン返済中の持ち家がある人にお薦め。自宅を手放すことなく住宅ローンだけ従来通り返済し、他の借金を大幅カットしてもらった上で、返済計画通りに支払えば良い。

(4)自己破産・免責=借金を払わず責任から解放される。破産すると選挙権を失う、パスポートが取れないなどと心配する人もいるが全て誤解。生活に最低限必要な財産(現金なら99万円)は手元に残すことも可能。

弁護士が介入すれば直ちに取り立てがやむので、落ち着いて現実的な解決策を選択しましょう。過払い金の請求もでき(時効10年)、取り戻した分で破産を回避できる場合もあります。諦めないで。

(緒方枝里)

<解説した弁護士>

▼鐘ケ江聖一さん

▼朝雲 秀さん

▼緒方枝里さん

▼池田耕一郎さん

●福岡県弁護士会相談窓口 (0570)783552

電話番号は「悩みここに」と覚えてください。最寄りの相談センターを案内します。相談料は、多重債務に関しては全て無料です。県外からもつながりますが、県外での対応は各県の弁護士会にお問い合わせください。

西日本新聞 12月17日分掲載

目次