「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2025年4月17日

「硬貨は20枚まで」の理由

▼Q セルフレジに「硬貨は20枚まで」と書いてあるのを見かけます。どうしてですか?

▼A 「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」で、同一額面の硬貨の使用は20枚までと定められています。これを参考に上限を設定したものと思われます。もっとも、法律の上限は「同一額面の硬貨」についてですから、100円玉20枚と50円玉20枚の計40枚は同時に使用できることになります。

では、セルフレジの「硬貨は20枚まで」は法律違反かというと、そうではありません。

法律が定めるのは、飲食店での代金後払いなど既に契約が成立し、その支払の実行のために硬貨を使用する場面です。この場合、同一額面の硬貨20枚までは受け取りを拒否できません。しかし、セルフレジの場合、商品をスキャンして代金を投入した上で購入の申し込みをしていると解釈できます。従って、硬貨投入の段階では売買契約は成立していません。店側は「契約自由の原則」に従い、大量の硬貨での購入を断ることができます。つまり「硬貨は20枚まで」は「20枚まででの支払なら売買に応じる」という事前のお知らせの意味になります。

「硬貨は20枚まで」は、店の備品であるセルフレジ機の使用方法の注意でもあります。無視して過失でセルフレジ機を故障させた場合、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。いたずらなど故意で故障させた場合は、器物損壊罪や威力業務妨害罪などの刑事上の責任を負う可能性もあります。

 「硬貨は20枚まで」は単なるお願いではありません。ご注意ください。

西日本新聞 4月17日分掲載(角倉潔)

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