「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは隔週木曜に掲載されます。

2025年10月30日

重大事件を起こした統合失調症の兄、今後どうなる?

▼Q 統合失調症の兄は、薬物依存もあり昨年、施設に入りました。しかし妄想がひどくなり果物ナイフで別の入所者さんに大けがをさせてしまいました。警察からは、病気が原因だから不起訴になるだろうと聞きました。でも施設には戻れないはず。家族も限界です。今後どうなるのでしょう。

▼A 精神疾患が原因で刑事事件を起こした場合、責任能力がなければ処罰されません。状況や善悪を判断できない人を罪に問えない、との考えからです。刑罰より治療を優先し、社会復帰を目指します。そのために心神喪失者等医療観察法があります。殺人や放火、強盗など重大犯罪が対象です。

お兄さんの場合、刑事手続きで不起訴になると、裁判所で医療観察法の手続きが始まります。強制入院となる可能性が高いでしょう。入院期間延長や通院への移行、手続き終了なども裁判所が判断します。

病院では、一般の精神科医療より手厚い治療を受けます。医師・看護師・臨床心理士・作業療法士・社会福祉士といった多職種のチームが担当。認知行動療法など多様な心理療法も受けます。知的障害や発達障害との重複障害事例や、お兄さんのような困難事例は、粘り強く対応します。このため、入院が5年以上の長期にわたる場合もあります。

手続き終了までは保護観察所の社会復帰調整官が支援します。お兄さんのように戻る場所がないケースは、新たな施設を探したり、福祉サービスにつなげたりします。

お兄さんの場合、以上のような手続きになるでしょう。

西日本新聞 10月30日分掲載(吉武みゆき)

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