「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2025年4月3日

被害者の情報、守られる?

▼Q 電車の中で痴漢被害に遭いました。犯人はすぐに駅に突き出されました。被害届を出したいのですが、名前や住所が犯人に知られないか心配です。

▼A 刑事手続きでは、被疑者を逮捕する時に逮捕状を示します。被疑者の手続き保障のためには、何の件で逮捕するのかを明示することが必要だからです。これまでは、被害者の名前や住所も逮捕状に記されていました。そのため、被疑者に個人情報を知られることを恐れた被害者が、被害届の提出を断念するケースもありました。

2024年2月に刑事訴訟法が改正され、性犯罪や、情報を知られることで被害者の名誉または社会生活の平穏が著しく害される事件(暴力団事件など)については、被害者の特定につながる情報(個人特定事項)を被疑者に対し秘匿する制度が設けられました。被疑者が起訴された後の刑事裁判でも、公開の法廷では被害者の個人特定事項を伏せる制度があります。

民事訴訟法も同時に改正され、当事者の名前や住所を訴状に記載せずとも訴訟手続きを進めることができる秘匿制度が設けられました。ドメスティックバイオレンス(DV)や性被害の事件などを想定したもので、あなたが犯人に慰謝料請求をする場合にも利用できる可能性があります。

被害者に配慮した法整備は進んでいます。ためらわずに被害を訴えてください。ただし、実際に制度を利用するには、個別の事案ごとの判断も必要です。分からないことは弁護士に相談してください。

西日本新聞 4月3日分掲載(松澤麻美子)

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