「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2013年3月2日

「ほう!」な話スペシャル版-中小企業 従業員の生活どう守る

年度末、特に中小企業の経営者にとっては資金繰りなどで厳しい季節を迎える。今月末には優遇措置で経営を支えてきた中小企業金融円滑化法も廃止される。従業員の生活をどう守るか。生活面で「『ほう!』な話」を担当している福岡県弁護士会に所属する4人に、法知識や対処法を解説してもらった。

●円滑化法 廃止に向け現状把握

【Q】中小企業金融円滑化法が廃止されたら、どんな影響があるのでしょうか。

【A】この法律は、中小企業が借入金の返済負担の軽減を求めた場合、金融機関はできる限り支払い条件の変更に応じるよう定めたものでした。恩恵を受けて元金返済の繰り延べなど支払い条件を優遇されてきた企業は、全国で30万~40万社あるといわれています。

心当たりのある事業者はまず、負債の総額が事業規模に見合っているか▽元金を約定どおり返済するとして月々の弁済原資は確保できるか▽売り上げの見通し▽経費バランス-など事業全体の現状を冷静に把握しましょう。

その後、経営改善計画を練って金融機関と支払い条件の緩和について協議するか、返済の見通しが立たなければ民事再生など法的に債務を整理するか、タイミングも見計らいながら方針を早めに決めましょう。

(池田耕一郎)

●経営の継承 早めの準備が不可欠

【Q】創業した会社を息子に譲るつもりです。何から始めればいい?

【A】まずは息子さんに本当に事業を継ぐ気持ちがあるか確認します。その気がなければ、社内から選定するか第三者に引き継いでもらうなど、ほかの方法を検討しなければなりません。

次に会社の現状を正確に把握する。資産や負債、株式保有者、会社の将来性、従業員数や年齢層・・・。これらを踏まえ、事業を引き継ぐための中長期(5~10年先)的な計画を立てます。

親族が引き継ぐ場合、中小企業経営承継円滑化法で遺留分(最低限の相続の権利)の特例、贈与税や相続税の納税猶予、事業承継のための金融支援制度などが定められています。従業員への継承や第三者への売却となると、さまざまな法律や税金の問題が生じます。継承がスムーズに進まないと従業員も不安を抱くので、早めに準備に取りかかることが大切です。

(本岡大祐)

●退職金 制度も利用し報いて

【Q】従業員が定年で退職します。何とか退職金を払ってあげたいのですが、経営が思わしくなくて…。

【A】従業員から会社側に退職金を請求する権利(退職金請求権)は、無条件で発生するものではありません。就業規則や労働協約などの根拠が必要です。そうした定めがなくても、退職金を支払う慣行や個別の合意があれば請求権が認められることがあります。

もっとも、中小企業退職金共済制度(中退共)などに加入して社外機関に毎月の掛け金を積み立てておけば、それらの機関から従業員に対して直接、退職金が支給されます。加入していなくて倒産した場合でも、独立行政法人労働者健康福祉機構が一定限度で退職金や未払い賃金の立て替え払いをする制度があります。ただし、利用には請求可能期間の制限があるので注意を。

従業員の長年の貢献にはできる限り報いてあげてください。

(濱田建介)

●解雇に不満 働きやすい職場整備

【Q】経営が悪化して従業員を1人解雇せざるを得なかったのですが、不満があるようです。

【A】個々の従業員と企業など使用者との間で起こる「個別労働紛争」の解決手続きとしては、労働審判制度があります。質問のケースも、元従業員が解雇の無効を主張するべく労働審判を起こす可能性があります。

解雇については労働契約法で制限があり、合理性・相当性が認められなければ、解雇権の濫用として無効となります。特に経営状況の悪化を理由とする「整理解雇」は、裁判例の集積によってできあがった基準(整理解雇の4要件)によって、解雇が有効かどうかが判断されることになります。

小さい企業ほど家族同様の付き合いだからと労務管理がおろそかになりがち。契約内容や就業規則を整備しておくことが大切で、従業員にとって働きやすい職場につながります。

(石立有)

<解説した弁護士>

▼池田耕一郎さん

▼本岡大祐さん

▼濱田建介さん

▼石立有さん

福岡県弁護士会 相談窓口(0570)783552

電話番号は「悩みここに」と覚えてください。最寄りの相談センターを案内します。中小企業のみなさんを対象にした全国共通の「ひまわりほっとダイヤル」=(0570)001240=もあります。各地の担当弁護士の事務所で無料相談が受けられます。

西日本新聞 3月2日分掲載

目次