福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2019年5月号 月報

『ジュニアロースクール2019春 in福岡』開催報告

月報記事

法教育委員会 委員 田上 雅之(69期)

1 はじめに

年度が変わる直前の平成31年3月26日午後1時から午後4時まで、新会館2階大ホールにおいて、『ジュニアロースクール2019春in福岡』が行われました。例年当委員会で開催しているジュニアロースクールと比べ、かつてないほどの参加者が集う大盛況ぶりだったようです。

今年は、中・高生の参加者を15チームに分けて、それぞれ「被告人が有罪であるのか、それとも無罪であるのか」を証拠に基づき考えてもらうという刑事模擬裁判を行いました。

この度、鹿児島県弁護士会から登録換えをして間もない私でありますが、移籍後初の会務活動としてお手伝いをした平成最後のジュニアロースクールにつき、鹿児島の実情も交えつつ、以下ご報告させていただきます。

2 イベントについて
(1) 開催規模

例年開催しているジュニアロースクールの参加者は、中・高生合わせて30名程度のようです。

今回のイベントには、145名(中学生27名・高校生118名)もの参加者が集まりました。

この度の参加者増については、例年よりもイベント告知を早めたことから、より多くの中・高生にイベントの周知ができたことによるものであり、これに移転間もない新会館での開催であったことなどが後押ししたのではないかと考えられています。

(2) 事案の概要と進行

今回は、『家政婦は見た!・・・のかもしれない事件裁判』と題して、妻を毒殺したとして殺人に問われた被告人が、毒薬ではなくビタミン剤をコップに入れたに過ぎない、毒薬はその後に妻が自分で飲んだと主張する事案につき、中・高生に考えてもらいました。

当日は、当委員会の所属会員が公判手続の寸劇を披露しました。

配役は、被告人役(横山先生)・証人役(家政婦:佐渡先生、研究所職員:八木先生)・法曹役(裁判長:吉田(俊)先生、弁護人:柳先生、検察官:吉村先生)であり、それぞれ熱演を繰り広げました。

とりわけ、佐渡先生の家政婦(某テレビドラマの某登場人物を彷彿とさせる特徴の設定)や八木先生の研究所職員(被告人の実家で35年間家政婦を務めており、被告人に大変愛着があるように窺える設定)の役作りが素晴らしく、各グループに付いた所属会員のみならず、参加者もかなり爆笑し、釘付けになっていました。

参加者には、現場に遺留された物の状態を手がかりに、被告人がコップに何かを入れる様子を目撃していた家政婦や、事件前後の被告人や妻の様子を見聞きしていた研究所職員の供述を踏まえ、15に分けたグループ内で、ほぼ初対面の参加者同士で議論してもらい、家政婦に対する補充尋問・被告人に対する補充質問を考えてもらいました。

そして、証拠調べの後、有罪・無罪を理由と共に検討してもらいました。

(3) 「被告人・・・」

最後に、15のグループの代表者から、それぞれ判決主文と理由を発表してもらいました。

結論は、有罪0、無罪15となり、全てのグループが無罪としました。

各チームは、被告人がビタミン剤を入れたに過ぎず、その後に妻が自分で毒薬を飲んだ可能性を排斥できないということについて相応な理由を示していました。判決についての評議時間が約25分程度と限られていた中で、参加者一人一人が「ああでもない、こうでもない」と真剣に悩み、結論を導いていた点に感心しました。

(4) 他会では・・・

同じ九弁連管内である鹿児島では、当会と異なり、例年8月のお盆休み前に、三庁共催で小・中学生を対象に刑事模擬裁判を実施しております。定員29名に対して40名程度の応募があるといった状況です。

鹿児島のイベントは、地裁の裁判員裁判用法廷を会場として行っており、参加者を法曹三者にそれぞれ配役し、法曹三者からサポートを受けつつ公判手続をロールプレイングで実践し、尋問内容・論告弁論・判決を実際に考えてもらうというものになっています。

3 参加者の様子から
(1) 「・・・についてどう思う?」

参加者には、イベント直前に起訴状と当日取り調べられる証拠書類の抜粋が配布され、「その場で見聞きして考える」を実践してもらいました。

各裁判体に所属会員がサポート弁護士として付きながらも、議論そのものは参加者に進めてもらうなどしました。

サポート弁護士が直前の寸劇の内容を改めて説明するなどして議論のポイントをそれとなく示すと、さすがは中高生です。特に誘導しなくとも、「証拠の○○についてはどう思う?」など想定している議論に次々と進んでいきました。

特に、高校生が学校の授業で学んだ「疑わしきは被告人の利益に」を意識しながら議論をリードし、証拠の評価を行っていたのがとても印象的でありました。

(2) あらゆる方向から証拠を検討する姿勢

今回のイベントの事案は、目撃者証人の当時の視認状況と内容が重要なポイントの一つになっていました。

座って議論していた参加者が、各裁判体に証拠物のコップが回ってくるとおもむろに立ち上がり、あらゆる方向からコップの見え方を確認するなどしていました。

あらゆる角度から証拠を吟味する重要性を改めて感じた次第です。

(3) 説得的に意見を述べる姿勢

グループの代表者に判決理由を発表してもらいましたが、家政婦の目撃供述について推認力の限界や、犯行に用いたとされるコップから被告人の指紋が出ていながら、薬包紙から被告人の指紋が出ていない不自然さを法曹さながらに説得的に言及する発表者もおり、大変圧倒されました。

4 本年度のジュニアロースクールに向けて
(1) アンケート結果から

イベント後に参加者アンケートを実施したところ、9割近くの参加者が「おもしろかった」と回答してくれているものの、7割近くの参加者が「難しかった」と回答しております。

これは、ほとんど初対面の参加者同士で議論し、参加者がよく考え悩みながらも結論を出すという体験を通じて、今回のイベントを充実したイベントであると感じてくれたという証であり、イベントの目的を存分に味わってくれたということになるでしょう。

(2) 題材はどうか

今回のイベントのアンケート結果では「有罪を決定づける証拠がない」とする回答が複数寄せられておりました。

今回の事案では、台所で被告人が何らかの粉末を入れていることが認定できる状況で(家政婦供述と被告人供述とは、被告人が台所で粉末を入れているという限度で符合しております。)、家政婦供述に基づき「台所で毒薬を入れた」という検察官の主張と、「ビタミン剤を入れた」という被告人の主張とが対立しているところ、妻の寝室で毒薬の成分が付着した薬包紙が落ちていたという事実が証拠により認定できるということになっていました。

参加者のグループ代表者の発表でも問題意識が表れていたように、仮に検察官の主張のとおり、被告人が台所で毒薬を入れたのであれば、その際用いた薬包紙を台所で処分するのが自然であると思われます。寝室で毒薬の成分が付着した薬包紙が落ちていたという状況自体、妻が寝室で自ら服毒したという被告人の主張を強く裏付けており、この点、特段検察官の反論を支える事実や証拠の手当てがなされていませんでした。

なお、鹿児島のイベントでは、毎年三庁から事案を持ち寄ってシナリオを決定していますが(無罪の昨年は検察庁が準備したものが、有罪の一昨年は弁護士会が準備したものが、それぞれ採用されています。)、シナリオとしては有罪・無罪がきわどいものとなっております。

(3) まとめ

当会の法教育委員会では、広く市民の方々に開かれた法教育の提供を目指しており、刑事模擬裁判に限らず、様々な方法で法や司法制度の背景にある価値観を発信し、とりわけ将来の担い手となる中・高生を対象として、「自分で、よく考え、物事の判断をすること」の重要性の"気づき"となる取り組みを続けています。

次回以降のジュニアロースクールのイベント実施にあたっては、結論の方向性への匙加減(証拠のちりばめ方)もよく議論することで、一つでも多くの"気づき"を提供でき、よりよいイベントとして好評を博するのではないかと考えています。

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2019年4月号 月報

あさかぜ基金だより ~弁護士過疎地における事務所開設披露,及び壱岐ひまわり基金法律事務所引継式に出席して~

月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所
社員弁護士 田中 秀憲(69期)


昨年12月31日まであさかぜで勤務していた服部晴彦・古賀祥多の両弁護士が弁護士過疎偏在地域に,それぞれ赴任,開業しました。その事務所の開設披露(平成31年3月2日)と引継式(平成31年2月12日)に出席してきましたので報告します。

佐賀県みやき町での事務所開設披露
みやき町での初めての法律事務所

佐賀県三養基郡みやき町は,人口が2万5000人の町で佐賀県東部に位置し,鳥栖市,吉野ヶ里町などに隣接するほか,福岡県久留米市とも筑後川を県境として接しています。服部弁護士は故郷のみやき町で,日弁連の過疎偏在対策解消支援制度を利用して,「みやき法律事務所」を開設しました。服部弁護士がみやき町で事務所を開設するまで,同町は,弁護士が存在しない偏在解消対策地区でしたが,服部弁護士が事務所を開設したことによって弁護士の偏在が解消されました。

事務所訪問

みやき町は西鉄久留米駅からバスで30分ほどのところにあります。西鉄久留米駅周辺には商店が軒を連ねていますが,みやき町に向かうにつれ,次第にその数が減り,かわりに,田畑やビニールハウスなどの,のどかな田園風景が広がってきました。

事務所最寄りのバス停で降り,幹線道路から住宅地へと入っていくと,みやき法律事務所が見えてきて,服部弁護士が出迎えてくれました。事務所内に案内され,事務所のレイアウトや什器備品類等を見学しつつ,事務所を開設するうえでの苦労話やこれからのみやき町での弁護士としての活動の抱負を聞かせてもらいました。弁護士のいない地域で新しく事務所を開設し,弁護士過疎偏在問題を解消しようとしている服部弁護士の姿を見て,私自身の赴任という,そう遠くない将来の自分に照らし合わされ身が引き締まる思いがしました。

壱岐ひまわり基金法律事務所の引継式
壱岐ひまわり基金法律事務所

壱岐市は,人口2万7000人,面積139平方キロメートル,福岡市から北西80キロに位置し,高速船で1時間です。海産物が豊富で,稲作も盛んです。

壱岐ひまわり基金法律事務所は,平成22年に開設され,梶永圭弁護士が初代所長に就任し,以降は,あさかぜのOBである,松坂典洋,島内崇,中田昌夫の三弁護士が所長を代々引継ぎ,このたび古賀祥多弁護士が中田弁護士から所長を引き継ぐこととなりました。

引継式

引継式では,中田弁護士の話が印象的でした。それは,もう少し早く相談してくれればよかったという案件があり,弁護士に相談することが住民にとってまだ敷居が高いことを実感したというものでした。住民の方がどんな理由から弁護士に相談ができないのか,はいろいろな事情・背景があって簡単には解消されない問題だとは思いますが,弁護士過疎地域で活動することの難しさを感じました。

このような中田弁護士の話を受けて,古賀弁護士が,ちょっとしたことでもいいから大ごとになる前に相談してもらえる事務所にするために,とにかく相談をすることの重要性を住民の方にも分かりやすいように説明していきたい,と決意を表明しました。それを聞いて,弁護士として相談が来るのを待つだけではなく,自ら出向いてでも住民の方の話に耳を傾けることが大事なんだと考えさせられました。

披露会

続く披露会では,壱岐の行政や裁判所,そして,公設事務所の設営・運営等に関わる関係者がたくさん出席され,中田弁護士がこれまで積みあげてきた信頼や古賀弁護士に対する期待の大きさを実感しました。

披露会では,地元壱岐で漁れた海の幸などがふんだんに振る舞われ,脂ののった刺身を大変美味しくいただき,大満足でした。

公設事務所支援委員会

披露会のあと,長崎県弁護士会による公設事務所支援委員会が開かれ,あさかぜ所員も委員会の一部に出席することができました。委員会では長崎県内のひまわり基金法律事務所における事件処理や運営状況の報告などが行われ,壱岐ひまわり基金法律事務所が長崎県弁護士会の強力なバックアップのもとに運営されていることを実感しました。経験年数が浅い弁護士でも事務所を運営するにあたっての悩みや問題点などを相談できる場が設けられていることを知り,赴任したときの不安がいくらか解消し,少しだけほっとした思いでした。

これからもがんばります

退所するまで一緒に活動していた先輩弁護士が,独立開業・赴任するのを見たのは今回が初めてでした。このような経験ができ,私も新天地に赴任したときにはしっかり弁護士としての職責をまっとうしたという思いを強くしました。残りの養成期間,赴任に向けてしっかりと研鑽を積んでいきますので,引き続きのご支援・ご指導をよろしくお願いします。

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2018年12月号 月報

「来たれ、リーガル女子!」~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~

月報記事

両性の平等に関する委員会 石田 淳(62期)

1 はじめに

平成30年(2018年)11月3日、西南学院大学法科大学院棟にて、内閣府・男女共同参画推進連携会議・日弁連・九弁連・当会主催の、学生・保護者・教員向けシンポジウム「来たれ、リーガル女子!」~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~が開催されましたので、ご報告いたします。このシンポジウムは、内閣府の男女共同参画推進事業の一環と位置付けられ、一昨年は、東京(早稲田大学法科大学院)で、昨年は大阪(大阪大学法科大学院)で、同様のシンポジウムが開催され、本年度は福岡にて九州初開催となりました。新聞の他、当日はテレビカメラ取材が入るなど、マスメディアの関心も高いイベントとなりました。また、このシンポジウムの基調講演及びパネルディスカッションは鹿児島大学、琉球大学にも中継され、それぞれの会場にも学生・保護者・教員が多数参加していたようです。

2 当日の状況

当日は、女子中高生・その保護者・教員等約100名が参加する盛況でした。「来たれ、リーガル女子!」という標題に表れているとおり、女子中学生・女子高校生をターゲットにしたシンポジウムではありますが、男子学生も参加可能でしたので男子学生も数名参加し、また、少数ながら小学生や大学の法学部生の参加(傍聴)もあり、関心の高さがうかがわれました。

第1部の基調講演(講師と聞き手の対談形式)では、講師の原田直子先生から「弁護士になって良かった!」とのタイトルで、ご自身の経験を踏まえ、弁護士になって良かったと感じたときのことや、法律家、特に弁護士になることを勧める理由などについてお話いただきました。福岡セクハラ訴訟で時代を切り開いた原田先生の目から見た、現在の我が国のセクハラ問題など、世間の関心の高い話題も多く、中学生・高校生にわかりやすかったのではないかと思います。

第2部のパネルディスカッションでは、弁護士、裁判官、検察官それぞれ1名ずつのパネリストが、職業選択の動機や、やりがい等を、お互いの職業と対比しながら説明しました。法曹が題材となったテレビドラマと実際との違い、たとえば、テレビドラマのように、法律家が1つの事件だけを1日中扱っているようなことは実際にはないといった話もあって、中学生・高校生の興味を引いたのではないかと思います。

第3部のグループセッションでは、中学生・高校生に6~8名程度ずつの、「民事・家事」、「刑事」、「国際関係」、「企業法務・組織内弁護士」、「憲法・人権」というテーマを設定した小グループに、概ね中学生・高校生の希望に沿って分かれていただき、各グループごとに、弁護士、裁判官、検察官の2名ないし3名からなる登壇者が仕事内容の紹介等をし、中学生・高校生が質疑応答できる時間を設けました。登壇者の話を熱心に聞き取り、メモを取る学生のほか、主体的に質問や発言をする学生の姿もありました。弁護士はドラマのように検察官とバチバチやっているのかとか、結婚相手は同業者が多いのかといった質問もあったようです。中学生・高校生は、将来の進路のために今何をすべきなのかという問題意識が高かったようです。

中学生・高校生がグループセッションを行っている間、保護者・教員向けに、宇加治副会長が裁判官、検察官のパネリストを交え、「法曹という職業選択について」と題する法科大学院、法曹としての就職等に関するガイダンスを行いました。中学生・高校生に負けず劣らず、保護者・教員が熱心に聞き入っていました。

3 所感

私は、両性の平等に関する委員会、法教育委員会、法科大学院運営協力委員会、対外広報委員会のメンバーからなる本シンポジウムの当会における実行委員会のメンバーとして、本年7月から準備業務に携わるとともに、第1部の基調講演の聞き手弁護士として登壇もさせていただきました。シンポジウム当日、中学生・高校生の前に座り、また、後ろから傍聴した者としては、法曹に関心を持ち、来場した中学生・高校生の真剣な眼差しや、登壇者の発言をメモに取る熱心さに驚かされました。また、学生同士の「面白かったね」との感想の会話が漏れ聞こえたという報告に接し、大変嬉しく思いました。同時に、中学生・高校生の関心、質問、発言を引き出すためにコーディネートする登壇者の必要性、重要性も認識し、この点においては学生向けイベントを定例的に実施している法教育委員会のメンバーの知見が大いに役立ったと感じています。

法曹人口における女性割合の拡大のため、また、法曹を目指す意欲ある学生の確保のために、このようなシンポジウムを開催し続け、かつ、開催していることを広く知ってもらうための広報活動が重要であることを改めて認識した次第です。

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第61回人権擁護大会シンポジウム「組織犯罪からの被害回復」~特殊詐欺事犯の違法収益を被害者の手に~のご報告

月報記事

民事介入暴力対策委員会副委員長 天久 泰(59期)

はじめに

日弁連民事介入暴力対策委員会が中心となって、第61回人権擁護大会(10月4、5日。青森市)において、特殊詐欺事犯に関する被害の防止、回復等を目指す大会決議について承認を得ることができました。本稿では、大会前日のシンポジウム(4部構成)の内容を中心にご報告します。なお、このシンポジウムに先立ち、本年7月28日には、北九州市において、「特殊詐欺事案の被害回復の現状とその課題」をテーマに、日本弁護士連合会及び九州弁護士会連合会と共催のもとプレシンポジウムが開催されています。

1 第1部「特殊詐欺被害の実態」

「特殊詐欺」とは、面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込みその他の方法により現金等を騙し取る詐欺をいい、オレオレ詐欺、架空請求詐欺に代表される振り込め詐欺、振り込め詐欺以外の特殊詐欺(金融商品等取引名目の特殊詐欺等)を総称したものです。2017年の「特殊詐欺」の認知件数は、1万8212件、被害総額は約394.7億円に上り、一向に減少の兆しが見えません。

第1部では、特殊詐欺被害者の被害実態に詳しい辰野文理教授(国士舘大学法学部)による基調講演を含む、パネルディスカッションが行われました。

その中では、特殊詐欺の手口も電子マネー型、収納代行利用型の手口が急速に増えつつあり、特殊詐欺を敢行する犯罪組織が、民間企業が社会に提供するサービスやツールを利用して、その利益の最大化を図っていることが報告されました。近年では、暴力団の特殊詐欺への関与が深まっている実態があり、2017年における検挙被疑者に占める暴力団構成員等の割合は約25.2%となっています。

実際に被害を受けた被害者のインタビュー映像も流されました。老後の資金として貯めた多額の現金を詐取された事例では、資金を失った喪失感とともに、加害者の言葉を信用した自らの落ち度を責め、心身に失調を来たしたり、自殺を図ることを考えたりする事態に追い込まれていることも報告されました(特殊詐欺件数1万3196件のうち、65才以上の割合は72.5%)。このような被害実態からは、他人に被害を打ち明けられず、一人で抱え込む傾向にあること、被害者の主体的な申告を期待するのではなく、事前予防こそが重要であるという意見が示されました。

2 第2部「特殊詐欺に対する行政・民間企業の各種取組」

被害者対策、通信手段対策について、行政・民間企業の取り組みに関する報告がありました。

通信手段については、IP電話の転送機能や転送電話サービスを悪用するなど、犯罪組織の手口は更に進化しており、必要十分な対策が講じられているとは言い難いようです。

その他、民間企業が提供するサービスやツールを犯罪組織に入手・利用させないことによって特殊詐欺による被害を未然に防止するよう自主的な取組の推進や、民間企業同士で特殊詐欺の手口や、これに対する有効な対応策及び取組事例について情報共有する仕組みなどの紹介がありました。

3 第3部「特殊詐欺に対する捜査と裁判の現状」

特殊詐欺に対する捜査と裁判の現状についてパネルディスカッションがありました。

具体的には、警察庁は、2015年1月29日、重点的に取り組むべき事項等、特殊詐欺対策の推進について指示した「当面の特殊詐欺対策の推進について」を発信する等、特殊詐欺の取締りを強化しています。その結果、2017年においては検挙件数4644件(2011年以降で最多。)、検挙人員2448人(過去最多だった2015年とほぼ同等の水準。)という成果を挙げています。

また、最高裁第三小法廷平成29年12月11日決定は、「だまされたふり作戦」の開始後に共謀に加功した「受け子」について、加功前の欺罔行為の点も含めて詐欺未遂罪の共同正犯としての責を負うとの判断をしたことなど、裁判実務においても積極的な判断がなされる傾向にあることが紹介されました。

もっとも、特殊詐欺を敢行する犯罪組織の首謀者らは、犯罪組織の実態を巧みに隠蔽しているため、末端の受け子や出し子に対して有罪判決が下されても、首謀者の検挙にまで至る例は少なく、特殊詐欺の犯罪組織の解明や被害回復には程遠い状態にあるとの指摘もありました。

4 第4部「特殊詐欺等の組織犯罪に係る被害回復」

被害回復手段について、スイス視察の結果報告が注目すべき点でした。

スイスでは、詐欺被害者に附帯私訴を申し立てる権利があること、犯罪被害者が、犯罪者、保険会社等の第三者からの補償を受けられない場合、犯罪者が支払った罰金、没収物等を被害者に給付することができること、有罪判決によらない没収手続があること、有罪判決によらない没収手続のうち、訴訟手続による没収は、検察官又は裁判官が凍結し、刑事責任を問えない限定的な場合に判決により没収すること、犯罪組織が処分権を有する全ての資産は没収できること、捜査手法として郵便・電気通信の監視、技術監視装置、観測、銀行取引の監視、司法取引、潜入捜査が可能であることの紹介がありました。

また、刑法にマネーロンダリング罪及び没収の規定があること、マネーロンダリング対策のための法(AMLA)では、「疑わしき取引の報告」が定められ、同法10条に「財産の凍結」が定められていることが重要であり、日本でも導入が検討されるべきであると指摘されました。

5 さいごに

シンポジウムの翌日の大会では、前日までのシンポジウム及び基調報告書の内容に基づき、大要以下のような内容の決議案が採択されました。

  1. 特殊詐欺による被害を未然に防止するため、各企業は各種防止措置を講じ、各業界団体は取組事例を周知共有して、業界レベルでの防止措置を推進するとともに、国及び地方自治体は特殊詐欺対策としての取組を強化すること。
  2. 国及び地方自治体は、十分な予算及び人員を投入し、特殊詐欺に係る捜査態勢を拡充すること。
  3. 国は、刑事訴訟手続を利用した実効性を有する犯罪被害回復制度を採用している諸外国の例も参考にしつつ、実効性のある被害回復制度を構築すること。
  4. 国は、金融機関による自主的取組として実施されている預金口座等の凍結を支援し、更に推進・拡充するため、実効的に被害の回復を行うことができる法制度の導入を検討すること。
  5. 国は、海外に移転された犯罪収益につき海外当局による没収を通じた被害回復のための国際的連携を強化すること。
  6. 国は、以上の取組を推進するため、犯罪対策閣僚会議において、特殊詐欺に係る対策の基本計画を策定し、関係各政府機関へその対応を指示することにより、官民一体の特殊詐欺対策を推進すること。

以上のような決議を前提に、民事介入暴力対策委員会のみならず、全ての弁護士が特殊詐欺の被害は甚大な人権侵害であるとの認識を持ち、積極的に被害回復と被害の事前予防に向けた各種方策の提言等、必要な活動を行うべきであると考えます。

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中小企業法律支援センターだより「創業応援セミナー~創業時のお金のハナシ~」

月報記事

中小企業法律支援センター副委員長 牧 智浩(61期)

1 はじめに

本年10月24日、「創業応援セミナー~創業時のお金のハナシ~」を福岡市スタートアップカフェにて、九州北部税理士会、日本政策金融公庫、福岡県信用保証協会と共催しました。

4機関での創業応援セミナーは昨年に続き2回目の開催でした。講演、パネルディスカッション、交流会・相談会の3部構成で開催しましたが、関係者を除く参加者が42名(定員50名)と大盛況でした。また、セミナー当日には、日経新聞の記者による取材もあり、10月25日付の紙面に記事が掲載されました。

2 第1部(講演)について

最初に、日本政策金融公庫福岡ビジネスサポートプラザ所長の高橋秀彰氏と福岡県信用保証協会保証統括部創業・経営支援統括課主任の沖隆一郎氏に、「創業時の資金調達のポイント」というタイトルでご講演いただきました。

高橋所長からは、参加者に対し、金融機関に提出する創業計画書作成にあたっては、(1)簡潔に読みやすく書くこと、(2)具体的に書くこと、(3)自己の強みをアピールすることが重要であるとの助言がありました。

また、沖主任からは、自己資本については、単純に額面のみではなくその形成過程にも着目しているとのお話がありました。

やはり金融機関の担当者の話には非常に興味があるらしく、参加者はメモを取るなどしながら真剣に聞いていました。アンケートでも、講演内容について、38%の方が大変参考になった、54%の方が参考になったと回答しており、参加者から高い満足が得られました。

3 第2部(パネルディスカッション)について

次に、「専門家に聞く!これだけは知っておきたい創業のイロハ」というテーマでパネルディスカッションを行いました。高橋所長、沖主任に加え、九州北部税理士会所属の寺井博志税理士、当会の日隈将人会員がパネラーとして登壇しました。

寺井税理士、日隈会員から、金融機関のお2人に対し、「初年度赤字の創業計画書でも大丈夫なのか?」、「創業計画あるいは事業計画に士業が関与している場合、融資審査の際の信頼度が上がるのか?」、「法人と個人とで融資の受けやすさに違いがあるという噂は本当か?」といった質問がありました。

みなさん、これらの質問への回答はどうだったと思いますか?

気になる方は是非、来年度の創業応援セミナーにご参加ください!!開催未定ですが・・・(笑)

また、高橋氏や沖氏からは、弁護士や税理士に対して、創業時の支援活動の内容やアクセス方法などについて質問がありました。

日隈会員が、無用な法的トラブルを避けることの重要性とリスク回避における弁護士の有用性を訴えたうえで、ひまわりほっとダイヤルなどの相談ツールがあることを参加者に案内していました。参加者や金融機関を含む関係者各位に、弁護士による創業支援活動を知ってもらういい機会になったと思います。日隈会員、お疲れさまでした!!

このパネルディスカッションの目的は、第1部の講演内容の掘り下げと、弁護士や税理士の有用性を伝えることでした。アンケートでは、パネルディスカッションに対して、概要、「シナリオがよかった」、「それぞれの機関の考え方を知ることができた」、「詳細な話が聞けてよかった」との意見が寄せられており、目的は十分に達成できました。また、パネルディスカッションについては、54%の方が大変参考になった、38%の方が参考になったと回答しており、非常に高い満足を得られたようです。関係者一同、講演へのアンケート結果も含め、安堵しました。

4 第3部(交流会・相談会)について

セミナーを開催した会場では、そのまま、参加者と登壇者との交流会を行い、同刻、別会場で相談会を開催しました。

交流会場では、各登壇者のもとに参加者が集まり、個別に話を聞いて盛り上がっていました。

また、相談会では、5つの相談ブースを設け、合計10組の相談を受けました。この相談会の特色は何といっても、日本公庫、保証協会、税理士、弁護士が同席して相談を受ける真のワンストップサービスの実現にあります。

相談を受けた方に私が感想をお聞きしたところ、「4機関に一度に相談できるのはスゴイですね!!」とのご回答がありました。

5 最後に

本セミナーを開催するにあたっては、多くの方にご協力いただきました。

お忙しい中にもかかわらず閉会のご挨拶をいただきました池田耕一郎副会長、また広報の面でお力添えいただいた対外広報戦略PTの南川克博会員には、この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

最後になりましたが、当センターでは、今後も、創業支援を含む中小企業支援を通じて、中小企業事業者の方たちに、弁護士をより身近に感じてもらえるように努力していきたいと思っております。会員のみなさまにおかれましては、今後とも、当センターの活動にご理解・ご協力賜りますようお願い申し上げます。

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