福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2015年7月号 月報

給費制本部だより いよいよ最大の山場へ 院内意見交換会(6.3)のご報告

月報記事

会 員 石 井 衆 介(66期)

1 はじめに

平成27年6月3日、衆議院第1議員会館において、「司法修習生への給費の実現と充実した司法修習に関する院内意見交換会」が行われました。

前回2月18日の院内集会が満席になったことから、今回はより大きな会場を貸し切っての開催でしたが、なんと過去最多の390名の参加者が集まり、盛会となりました。

当会の給費制本部からは、市丸信敏、鐘ケ江啓司、髙木士郎、清田美喜及び私の5名の委員が参加いたしました。さらに、執行部から大神昌憲副会長及び小倉知子副会長のお2人にもご参加いただきました。

以下、意見交換会についてご報告いたします。

2 国会議員の出席状況等

意見交換会には、衆参両院から49名もの国会議員本人にご出席いただきました。代理出席も80名にのぼりました。これらはいずれも過去最多です。さらに、当日までに136通の議員メッセージが寄せられました。

給費制に関する問題意識が、国会議員の中でも勢いを増して広がっていることを、身をもって感じました。

また、意見交換会開催にあたって、2月の院内集会に寄せられた106通のメッセージと今回寄せられたメッセージとを議員の顔写真入りでまとめたものが配布されました。与党からも多くのメッセージをいただいていることから、参加者の方々も運動の盛り上がりを実感されていたように思います。

3 意見交換会の模様

今回の意見交換会では、冒頭、与党の中でのこの問題の最大のキーマンの一人である自民党の保岡興治衆議院議員(党司法制度調査会最高顧問)から、修習生が置かれている困難な状況を理解しており、手当の充実を、司法予算全体を拡大・充実させるとの見地から超党派で取り組んでいく旨の挨拶がありました。また、今回の集会では、与野党の各代表者から、司法修習生に対する経済的支援についてご発言いただくことができました。これは、各国会議員から個別に意見をうかがっていた前回までの集会と比べて、大きく前進した点といえます。

ご参加いただきましたのは、自民党の丸山和也参議院議員(党司法制度調査会会長)、公明党の遠山清彦衆議院議員(党法務部会長)、民主党の小川敏夫参議院議員(元法務大臣)、維新の党の石関貴史衆議院議員(党役員室長)、共産党の仁比聡平参議院議員(法務委員会委員)、社民党の吉田忠智参議院議員(党首)及び次世代の党の和田政宗参議院議員(党政調会長)の計7名です。

「ロースクールまでの奨学金と合わせて1,000万円の借金」という司法修習生の窮状、志願者数激減や合格者数削減といった司法の弱体化の観点、司法予算自体の拡充の必要性と、切り口は立場によって様々でした。しかし、現状に対する危機感及び司法修習生への経済的支援の議論が必要であるとの認識は、各党の間でも共有されており、超党派で取り組むべき課題としての位置づけも共通していたと思います。

各代表者のご発言に続いて、出席された国会議員からも個別にご発言をいただきました。その中でも、司法の役割や経済的支援の重要性が繰り返し指摘され、この問題への理解が一層深まっていると感じました。また、この運動を法改正につなげるための具体的な方策についても、意見が交わされました。

4 今後の闘いへ向けて

以上のとおり、給費制に関する風向きがかなり変わり始め、強い追い風となりつつあります。これは、給費制復活に向けたこれまでの粘り強い運動の成果といえるでしょう。

しかし、いよいよ、7月15日、法曹養成制度改革推進会議が設置期限を迎えます。これからの数か月が、法改正という結果を勝ち取るための最大の山場となることは必至です。

まずは、意見交換会での勢いを全国的な規模で加速させるため、各地域での集会が予定されており、既にいくつかの単位会では調整が進んでいます。集会に寄せられたメッセージを冊子にして、他の国会議員への説明の際にお配りするなど、議員要請の手法についても工夫しています。

さらに、法改正に向けて、日弁連では、給費制実現の具体策として修習手当の創設を提案するなど具体的な議論も詰めてなされつつあります。

このような現状を踏まえ、給費制対策本部は、今後も力強く活動していきます。引き続き、会員の皆様のご支援・ご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

(追記)

この集会の後である6月11日、政府の法曹養成制度改革推進会議の決定案が明らかになりました。すでに日弁連のFAXニュースなどでご承知のとおり、決定案には「司法修習生に対する経済的支援については、必要に応じて、法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、必要と認められる範囲で司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」との文言が盛り込まれました。従前の、貸与制を前提としてわずかな運用改善にとどめる方針に終始してきた政府の姿勢からは、大きな前進と評価することができます。日弁連や給費制本部としては、ここに示された課題については、つとに繰り返し事実を指摘して給費制の実現を求めてきたところですが、引き続き、給費制の実現に向けて、さらなる運動に努めて行かなければなりません。

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紛争解決センターだより

月報記事

紛争解決センターあっせん仲裁人候補者 富 永 孝太朗(54期)

私があっせん人として関与し、和解が成立した抜歯治療に関する事案について報告をします。

■申立の内容

申立人が奥歯2本のブリッヂをしていたところ、ブリッヂ部分に食べかすなどが詰まったために、それを除去してもらう目的で相手方の歯科医院を初めて訪れ、ブリッヂを外すだけと思ったところ、事前の説明がないまま奥歯2本を抜歯されたというものでした。

■第1回期日前

申立人の申立書は、手書きの細かい字で10頁以上にわたって事実経過や心情が綴られており、抜歯されたことによる相手方に対する不信感や憤りが強く感じられるものでした。私としては、相手方が応諾してこないのでは無いかと思いましたが、幸いなことに相手方も応諾するとのことでした。相手方からは、「事前に説明をしており、問題があるとは思わないが希望があれば、ほとんど元の状態に戻す」という回答書が提出されました。

■第1回期日

申立人は、期日前に様々な文献を調べたり、他の歯科医師から意見を聞いたということもあり、私の予想よりも冷静な対応でした。申立人としては奥歯2本のうち1本は抜歯も仕方が無かったかも知れないが、もう1本は歯根が残せたかも知れず、抜歯以外の治療を模索したかったとのことでした。相手方院長も医学的には抜歯することには全く問題が無かったけれども、申立人が初めて訪れた患者であり、抜歯をしたことに納得をしていない結果からすれば、説明が必ずしも十分ではなかったという思いは抱いているとのことであり、金銭的解決の余地があるということでした。そこで私から申立人に対し金銭的解決の余地はあるが、相手方は医学的に抜歯することは問題が無いと考えており、必ずしも申立人が期待するような高額な解決金では和解をすることは難しいことを伝え、それを前提に話し合いを進めていくことに了解が出来るか尋ねたところ、申立人も了解するとのことでした。最後に申立人及び相手方に双方同席してもらい、解決するために譲歩できる最大限の金額を互いに次回までに検討して貰うようにお願いしました。

■第2回期日

申立人は、抜歯後、別の歯科医院にて25万円程度の治療費を支払ったことや慰謝料を加えて50万円を希望するとのことでした。相手方は、元に戻すための最大限の治療を行えば16万円程度であり、それに多少の慰謝料を加えることは検討できるとのことでした。私から双方に対し結果的に代替可能な治療を十分に説明せず自己決定権を侵害したと考えられる余地を考慮し、25万円の解決金を支払うという内容にて和解できるか次回期日までに検討して貰うようにお願いしました。

■第3回期日

双方とも私の提示した和解案を承諾してもらい無事和解が成立しました。

申立人からは「この制度を教えてもらって本当に良かった。解決することで前向きに生活することが出来ます」と感謝していただきました。

■事件を終えた印象

あっせん人としては、申立人の心情には共感しながらも、相手方の医学的見解を努めて冷静に説明を行ったことが申立人のADRでの解決意欲を高めたものと思っています。

申立書と回答書だけを見ると和解できる見通しは正直低いと思っていましたが、当事者双方の解決意欲に助けられた印象です。

結果的には、専門性が高いけれども費用対効果として訴訟には馴染まないというADRでの解決が相応しい典型的な事案だったと思います。

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◆憲法リレーエッセイ◆ 土曜夕方の天神に立って・・・

憲法リレーエッセイ

会 員 永 尾 廣 久(26期)

6月の土曜日、夕方4時すぎ天神

6月13日(土)夕方4時すぎ天神に立っていた。ソラリアの真向いのバス停近く。そのとき、私は、福岡県弁護士会のロゴ入りの真新しいゼッケンを身につけ、手には「戦争で平和を守れるの?」という絵入りプラカードを持っていた。何のために、そんなことをしていたのか・・・。

やがて、車道上を交通警察官の先導する一群の人たちがやって来た。ハンドマイクで叫ぶ女性がいる、「戦争反対、憲法こわすな。九条守ろう、ノーモア・ウォー」。私も、一緒に声をあげる。

むし暑かったが、カンカン照りではないので、絶好のパレード日和だ。道行く人々は、何だろう、この人たちは・・・、と注視している。

車道を行進している人たちのなかに、足の悪い若い女性がいるのを見つけた。それでも、彼女は、一生けん命に歩いている。みんな真剣な表情だ。

「戦争、戦争、いらんばい」

「憲法9条でよかろうもん」

「ケンカせんでもよかろうもん」

「戦争法案、いらんばい」

その女の子が口を動かしているのにあわせて、私もこの「ぶらぶらコール」なるものを唱和した。私が40年以上も前の大学生のころには、シュプレヒコールと呼んでいた。リーダーのかけ声にあわせて「ナントカ反対」と叫ぶのだ。今では、そんなの古臭いと言われてしまう。なるほど、今の状況にあったことを言いたい。

目の前の集団が通り過ぎても、次の集団は、なかなかやって来ない。さすがに福岡・天神にはバスが多い。「切れ目ない」安全保障どころか、「安全」のためには、「切れ目」ばかりになってしまう。

次にあらわれた集団は、おばちゃんが元気だ。ハンドマイクなしにコールをする。さすがだ。前田和馬理事長が集会で言っていたように、中年女性が日本をリードしている。私も、おとなしくコールを唱和する。

いよいよ、最後の悌団がやって来た。すごい。仮面をかぶり、アフリカの民族太鼓を叩きながら行進してくる。コールもマイクを使い、本格的だ。

軽乗用車が止まり、「何をしているんですか?」と運転手の若い女性が訊いてくる。すぐさま、プラカードを示して、「戦争法案に反対して行進しているのよ」と説明する。「がんばってください」というエールが返ってきたのに、私も勇気百倍。

ようやく、解散地点の中央公園に到着した。サウンドカーには弁護士二人(後藤、栃木の両会員)も乗っていて、何やら楽しそうに踊りながら叫んでいる。

「戦争法案、いらんばい」

当会の会員でもある仁比聰平参議院議員が向こうから歩いてくる。パレードに最後まで参加したのだ。えらい。集会での挨拶も良かったけれど、パレードに最後までつきあったというので、改めて見直した。

6月の土曜日、午後1時すぎ、天神

午後1時、開場と同時に天神近くの福岡市民会館に少なからぬ人々が入っていった。午後1時半開場というのに、すごい。これは満員になると期待した。

午後1時半を過ぎると、入口は入場者が「切れ目ない」というより、なだれをうつように入ってくる。しかも、みな真剣な顔つきだ。国会で強行採決もありうるという情勢を反映しているのだ。何か楽しい催物を期待してきたという雰囲気ではない。

案内係は声を枯らして資料を配り誘導する。会場内は、市民集会がスタートした午後2時には、ほぼ満席になった。1770人収容の大ホールを弁護士会主催の市民集会で満杯にするなんて、信じられないことだ。でも、それが今、現実のものとなっている。結局、立見の人もいたので、実数で1800人が参加した。弁護士も200人の参加があった。

健康法は講演で思いのたけを話すこと

原田美紀会員(北九州部会)が司会して市民集会が始まった。

斉藤芳朗会長が、弁護士法に定める弁護士の使命から、憲法違反の安全保障法制案の成立は許されないと開会宣言する。

次いで登場するのは、憲法伝道師だ。集会のメインイベントは、伊藤塾の塾長でもある伊藤真弁護士の講演だ。

私は、津田聰夫元会長(実行委員長)と一緒に福岡空港に出迎えに行き、昼食を一緒にとった。会場までの車中で伊藤弁護士に健康法をたずねた。年間240回の講演会をこなし、前日も東京都内で6時間の講演・講義をすませたばかりだという。伊藤弁護士の答えは、自分の思っていることをすっかり吐き出すこと、それに尽きるという。別に、スポーツはしていないし、その時間もとれないという。

それにしても、パワーポイントの映像をつかった話は、明快であり、歯切れがいいから理解もしやすい。集団的自衛権の行使は、これまで政府が一貫して許せないとしてきたこと。それは自衛隊が海外で武力を行使することを意味する。憲法を変えずに、自衛隊が武力行使をするのは許されない。

最後に、あせらず、あわてず、あきらめずに取り組もうとの呼びかけがなされた。まったく同感だ。

画期的なメッセージ

自民党の有力な元議員が安保法制法案に反対しているというので、弁護士会としてメッセージを要請した。すると、すぐに山崎拓元副総裁からメッセージが届いた。

「今次、安全保障法整備法案は、わが国の集団的自衛権行使を容認する解釈改憲を前提としており、従来より堅持されてきた専守防衛政策や海外派兵を認めない防衛政策の重大転換を図ろうとするものであります。これに対する正しい国民世論を喚起する意味で、国会における徹底かつ慎重な審議並びに強行採決回避を要請する必要があり、本市民集会もその方向で強くアピールされんことを期待します」

つづいて、やきもきしているうちに、古賀誠元幹事長からも届いた。

「戦後70年、我が国の安保政策の基本は憲法に則り、ひたすら専守防衛でありました。今回、その考え方が憲法の解釈をかえることによって正反対に変えられようとしています。専守防衛を捨て去り、世界のどこへでも後方支援の名のもとに、武力行使しない国が行使をできる国に変わることになります。

我が国の安全保障政策の大転換であることは間違いありません。先の大戦で父を亡くした私の思いは平和の尊さと戦争の愚かさであります。平和な国を次の世代にも未来永却に繁いでいくことこそ私に課せられた責務なのです。国会における誠実で真摯な議論を熟望し市民集会の成果を期待し、関係者各位のご尽力に敬意を表し、我が国の平和と安全を祈念しメッセージと致します」

さすが仁比弁護士・・・・

集会では、政党代表の挨拶のあと、リレートークがあった。

政党では、民主党から野田国義議員がまず挨拶した。八女市長をつとめていたこともある野田議員は弁護士会とも親しい関係にあり、労働者派遣法の改正も重大な問題だと強調した。次に登場した仁比参議院議員の話は、いつ聞いても、なるほどと思わせるもので、秀逸だった。社民党副代表の話で、戦争しない国ということで、日本に留学する学生がいるということを知った。日本の平和ブランドは大切にしたいものだ。

リレートークは、時間が足りないなかで、それを気にせず話したい人ばかりで、進行係はやきもきせざるをえなかった。若者(大学生)、子どもをもつ母親、港湾労働者の徴用問題など、二人の学者を含めて大切なことが語られた。でも、いかんせん、時間をはるかにオーバーしている。前田和馬・九弁連理事長は、そんなことを気にすることなく、安倍政権は悪徳サギ商法と同じことをしていると強調したうえ、韓国の金大中大統領(故人)の言うように、良心があるなら行動に移すべき、本日のパレードにぜひ参加してほしいと訴えた。

予定時間をはるかにオーバーして、パレード担当者には命の縮まんばかりの思いをさせてしまった。申し訳ない。

それでも、集会もパレードも大成功した。この力で平和憲法を守り抜きたい。

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ITコラム

月報記事

HP委員会 委員 瀬 戸 伸 一(59期)

1 PDF書き込みソフト

最近は、仕事で使う書式や資料をPDFファイルで顧客等からもらうことも多くなってきたのではないでしょうか。

もらったPDFファイルについては、印刷をして、必要があれば書き込み、その書き込み済みの書類について、また電子データで残したい場合、再度、スキャナーで読み込んで、PDF化していたのではないでしょうか。(再度PDF化は面倒なので紙のまま保存されている方も多いかと思います。)

そこで今回ご紹介するのが、書き込み機能つきPDFビューアーソフトです。

有料、無料のものがありますが、私が使っているのが、PDF-XChange Viewerです。これは、無料で、書き込み機能、書き込み済みのPDF保存機能まで使えますが、有料版を購入すると、その他の拡張機能も使えます。PDF書き込みと保存の点だけでいえば、無料版で十分かと思います。

このようなソフトを使うと、PDFでもらった書式に直接PC上で書き込みができ、そのまま印刷、保存ができ、非常に便利です。

是非、お試しください。

2 PDF化について

紙媒体の資料をスキャナーで読み取って、PDF化し、メールで送付する場合、読み取りの設定をよく考えておかないと、データが大きくなりすぎて、メール添付で送付できないことがあります。また、メーリングリストに送付するメールに、添付データをつける場合もできる限り、データを小さくすることがマナーとされています。

カラーで読み取りをすると、白黒に比べて数倍もデータが大きくなりますので、必要がなければ、白黒でPDF化したり、解像度を200dpiに落としたりすると(一般的なFAXの解像度が200dpiだそうです)、データサイズが小さくなります。

添付送付資料の数が多いときは、上記のようにしてデータを小さくしたり、分割したりしましょう。

3 メールボックスの容量について

本年7月より、allfbenを含む福岡県弁護士会の全メーリングリストの添付可能ファイルのサイズが512KBから2MBに増加します。(正確にはallfbenの告知を参照ください。)

Outlook等のメール受信ソフトで、メールをメールサーバーに一定日数保存する設定(「サーバーにメッセージのコピーを置く」にチェックが入っている設定)をしている方で、さらに契約プロバイダのメールボックスの容量が小さい方(古い契約だと100MBというものもあるようです。)は、メールボックスが一杯になって、新しいメールを一定日数受信できなくなる可能性がありますので、メール受信ソフトの設定見直しやメールボックスの容量の確認をされてください。

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「転ばぬ先の杖」(第16回)

月報記事

会 員 中 野 俊 徳(56期)

1 はじめに

一般市民の皆様に弁護士の必要性を考えていただくためのリレーコラム「転ばぬ先の杖」ですが、今回の執筆は筑豊部会から私が担当させていただくこととなりました。

日頃、主に個人の方を相手に法律相談・依頼を受けている中で、「もっと早く弁護士にご相談いただいていれば」「弁護士に依頼されていればもっとうまく話が進むのに」と感じることは多く、今回は相続の場面をテーマに、そのような話をさせていただきます。

2 遺言書の作成

法律的なトラブルはいったん発生してしまうと、放置していても自然に収まることは少なく、問題が複雑化・拡大してしまうものです。

例えば、子ども達の間で親の面倒を誰が見るのかという問題があった場合、親と一緒に(あるいは親のすぐ近くに)住み、親の財産の管理を手伝いながら親の面倒を日常的に見た子と、親から遠く離れた場所に住み、金銭的な援助はしつつも、親の財産の詳細を知らないままの子との間では、親が亡くなった後の相続のトラブルに複雑化・拡大しやすいものです。

親から離れて暮らしている子は親と一緒に住んでいる子が親の財産を使い込んでいるのではないかと不信感を持つことが多く、親と一緒に住んでいる子は親の世話というお金に換えられない苦労を負わされた自分が遺産を多く相続するのは当然だと思うことが多いからです。

最近、そうしたトラブルが自分の死後に発生することを心配して、遺言書の作成を考えられている方が増えているように思います。

しかし、遺言書はその作り方次第ではトラブルを防止できず、かえってトラブルを拡大してしまうこともあります。

例えば、いつも自分の世話をしてくれる子に遺産の全部を渡すという内容の遺言書を残した場合、それでも残りの子には遺留分という遺産の一部を受け取る権利がありますから、その遺言書がトラブルを防止する役割を果たすとは限りませんし、遺言で遺産をもらえなかった子から恨まれることにもなりかねず、感情的にもトラブルが拡大してしまいます。

その他にも、遺言書はその作成方法が厳格に規定されていたり、記載の仕方によっては無効になったり、記載内容をどのように解釈するべきかでかえって相続人の間でトラブルの元になったりしますので、遺言書の作成をお考えになった際には、ぜひ弁護士にご相談いただきたいと思います。

3 遺産分割の話し合い

相続人の間で遺産分割を話し合う場面においても、弁護士にご相談ご依頼いただいたほうが、自分の権利を守れたり、話がスムーズに進むということが多いように思います。

遺産分割と言っても、今残っている遺産を法定の相続分(相続割合)に従って分ければ済むという単純な話ばかりではありません。

例えば、亡くなった方が生前に多額の贈与をしている場合、それがいつ誰に対してどのような目的でなされたものか、によって、遺産分割に影響を与える話になりうるのです。

遺産分割は、そのような意味で、単に遺された財産を分けるという話ではなく、亡くなった方と相続人らとの間の長い期間における家族関係の財産的な清算という意味合いもあり、そうした長い期間の膨大な事実の整理と、それぞれの事実の法的な意味の確認をするうえで、弁護士にご相談ご依頼される意味はとても大きいと思います。

4 インターネットの情報

インターネットが発達し続けている現在、インターネットで調べるだけで様々な情報を極めて低廉な費用で入手することが可能であり、最近では法律相談に来る前に、弁護士の多くも知らないような細かな情報を確認してきている相談者の方も珍しくありません。

しかし、インターネットの情報は正確性・信頼性が必ずしもあるとは言えず、また、特定の事案にしか該当しない断片的な情報であることも多いので、インターネットで得た情報を信じるのはかえって危険な場合もあることに注意しましょう。

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