福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2017年3月号 月報

「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」研修会のご報告

月報記事

両性の平等に関する委員会 糸瀬 真理(65期)

1 はじめに

平成29年2月4日、大手門パインビル2階会議室に於いて、日弁連両性の平等に関する委員会副委員長である竹下博將先生(以下、「竹下先生」といいます。)をお招きし、「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」についての研修会が開催されましたので、ご報告させていただきます。

2 日弁連による提言の経緯

実務においては、平成15年3月に東京・大阪養育費等研究会により提案された算定方式(以下、「現算定方式」といいます。)及び算定表(以下、「現算定表」といいます。)が定着している状況です。しかし、現算定方式・現算定表は、その利便性ゆえに、定着過程において、詳細な検証もなく、無批判に受け入れられてきたという問題があります。また、統計資料の更新もされていません。竹下先生によれば、現算定方式・現算定表は、算定のモデルが示されていないため、そもそも検証不可能とのことです。日弁連は、平成24年3月15日付の「『養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表』に対する意見書」において、現算定方式・現算定表の問題点を指摘しています。そして、この意見書を具体化したものが、平成28年11月15日付で日弁連が取りまとめた「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」です。

3 新しい簡易な算定方式による現算定方式の修正

新しい簡易な算定方式(以下、「新算定方式」といいます。)による現算定方式の修正点の概要は以下のとおりです。

(1) 基礎収入算定のために総収入から控除される経費等

ア 公租公課

現算定方式は理論値を用いていますが、新算定方式においては、実額又は最新の理論値を用いることとしています。

イ 職業費

現算定方式では、家計調査年報の数値(更新されていない数値)が用いられていますが、家計調査年報に記載されているのは世帯の支出額であるため、職業費に含まれる項目は、有業人員のための支出額ではなく世帯の支出額で算出されているものがほとんどです。新算定方式では、最新の家計調査年報の数値を用いるとともに、全項目について有業人員のための支出額のみを職業費としています。

ウ 特別経費

現算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について、特別経費として総収入から控除されていますが、新算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について特別経費として控除することはしていません。

(2) 生活費指数

現算定方式では、生活費指数について生活保護基準を用いていますが、生活扶助居宅第2類(光熱費や家具什器購入費など)の世帯全体で算出される項目について、親1人世帯の場合と親子1人ずつの世帯の場合との差額をもって子の生活費の金額を算定しています。また、子どもの生活指数区分は、0~14歳と15~19歳の2区分しかありません。新算定方式では、居宅第2類については、世帯員数で頭割りして各世帯員の金額を算出し、子どもの生活指数区分も、0~5歳、6~11歳、12~14歳、15~19歳の4区分としました。

4 新たな算定表

新算定方式に基づき、新たな算定表(以下、「新算定表」といいます。)も作成されました。子どもの人数については、現算定表と同様に0~3人です。また、子どもの生活指数区分は、頁数の関係で新算定方式とは異なり、0~5歳、6~14歳、15~19歳の3区分です。

竹下先生からは、新算定表の見方等についてもご説明いただきました。新算定表の枠外には、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額が記載されています。今後は、調停や審判の場において、新算定方式・新算定表を用いることを裁判所に対して明示していく必要がありますが、それが採用されるまでには難航も予想されるところです。これに対して、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額については、現算定表のデータを新しくしただけの数値なので、裁判所の理解も比較的得やすいと思われることから、こちらについても積極的に活用したほうが良いとのことです。

また、新算定方式・新算定表を実務において定着させるには、まずは世間一般に広く普及させることが有効であるとのことで、関係各所に新算定表を備え置くほか、ブログやSNSなどを利用して広報していって欲しいとのことでした。

5 所感

私は今回の研修を受けるまで、現算定方式・現算定表について深く考えてみたことがありませんでした。しかし、今回の研修で、現算定方式・現算定表には、総収入から控除される職業費の中に、有業人員のための支出ではなく世帯のための支出額が多く含まれていることや、職業費の中に含まれている「こづかい」という項目は、家計調査年報における定義が不明であることなどを知って大変驚きました。その結果、収入に占める職業費の割合が、不必要に大きくなっていました。その他にも現算定方式・現算定表には様々な問題点が含まれていることを知り、これまで特に疑問を持つこともなく利用していたことを反省しました。

6 最後に

新算定方式・新算定表は、単に権利者が得られる養育費や婚姻費用を増額させるためのものではなく、生活保持義務に基づいた適正妥当な金額を算定するためのものです。実際、権利者の生活費指数については、現算定方式・現算定表では常に100であったのに対し、新算定方式・新算定表では、養育する子の数に応じ、69、57、47、41と変動することになり、必ずしも権利者に有利になるように算定されているわけではありません。

提言には別紙がついており、別紙に新算定方式の概要や現算定方式との比較が分かり易くまとめてあります。また、新算定方式・新算定表を用いた場合の算出具体例も記載されています。今回の研修に参加されていない会員の皆さまも、提言をご一読いただき、今後は新算定方式・新算定表を積極的に活用していただくことをお勧めいたします。

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知的財産権に関する連続講義【第二弾】 「実用品に関する著作権侵害訴訟の組立て」 ~第2回 証拠の作成・整理・提出方法~

月報記事

弁護士 鬼束 雅裕(67期)

1 はじめに

中小企業法律支援センターは、会員の皆様に中小企業の相談を受ける際に役立つ知識・情報を提供するため研修会を企画・実行しています。

今回は、昨年12月22日に行われた知的財産権に関する連続講義「実用品に関する著作権侵害訴訟の組立て」の第二弾として、前回に引き続き、九州大学大学院法学研究院教授・寺本振透先生をお迎えし、著作権法について特に中規模・小規模の株式会社でも理解しておかねばらない著作権侵害訴訟の組立て方につきお話しいただきましたので、ご報告いたします。

講師の寺本先生は、東京の大手事務所のパートナー弁護士として多くの知的財産権案件に関与され、その後は東京大学法学政治学研究科教授として、そして現在は九州大学大学院法学研究院教授として知的財産権に関する研究をされております。

本連続講義においては、おそらく福岡県弁護士会初の試みだと思いますが、寺本先生の発案で、クリエイティブサーベイシステム(webを利用したアンケートコミュニケーションツール)を利用して、リアルタイムで受講者の回答を集約・データ化し、その結果を踏まえての講義を行うという取り組みがなされました。

2 本講義の概要

本講義では、「Tripp Trapp」という幼児用椅子について著作権侵害の有無が争われた知財高裁裁判例(「Tripp Trapp事件」。平成27年4月14日判決)を題材に、著作権侵害訴訟において、原告側として、どのような点に注意しながら証拠の作成・整理・提出を行い、攻撃・防御を組み立てていくかについてご説明いただきました。

本講義において、寺本先生は、著作権訴訟における原告側がおこなうべき作業手順を一つの「型」として示されたわけですが、その前提として、ふだん、ほとんど無意識にしている作業を、あえて「型」として示すことにより、同じ水準の作業を繰り返すことができるようになるという説明がなされました。

3 著作権訴訟における原告側がおこなうべき作業手順
(1) 戦場の設定

まずは、請求原因事実に対し、被告がどのような認否を行ってくるのかを予想することにより戦場となるのはどこであるかを確認する作業から始めます。

前回の講義でもご説明いただいたのですが、著作権の分野では請求原因事実そのものの存否が争点になるのではなく、請求原因事実の存在自体は認められるが、それが要件事実を充たすものといえるかという点が争点になることが多いということから、否認の中でも請求原因事実が存在しないという単純な否認と、請求原因事実の存在自体は認めるが要件事実を充たすものではないという面倒な否認とに分けて整理する必要があるとのことでした。

(2) 各戦場での作業手順

上記で確認された戦場において、原告としては、以下の手順で作業をしていく必要があるとの説明がなされました。

① 請求原因事実を書いてみる

著作物性に関する請求原因事実であれば、Tripp Trappの原デザインを特定するように、「昭和47年頃、ピーター・オプスヴィックが、別紙記載の製品をデザインした。」といったものになります。

② 請求原因事実が要件事実に対応することを説明する

著作物性の要件事実は抽象的なものが多く、そのため請求原因事実が要件事実を充たすことを説明しなければなりません。たとえば、Tripp Trappが「美術の著作物」(著作権法2条2項、10条1項4号)に該当することを説明するために、「Tripp Trappの原デザインの全体的な形状は、一見して驚くべきシンプルさで見る者の芸術的感性に訴えかけてくるものであり、日本を含む各国で数々のデザイン賞を受賞するなど、一定の美的感覚を備えた一般人を基準として純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を備えている。」といった説明を行うことになります。

③ 抽象的な説明しかできないこと、だから、説明に説得力がないこと、を認識する。

上記「美術の著作物」該当性の説明からも、著作物性に関する請求原因事実が要件事実に該当するとの説明を行うのは難しいことが確認できます。

④ しかたがないので、「否定を否定する」戦術を採用する。

そこで、発想を転換し、Tripp Trappの原デザインが「美術の範囲」に該当することを説明するのではなく、被告が主張すると予想されるTripp Trappの原デザインは「美術の範囲外」との主張は認められないということを説明することにより、Tripp Trappの原デザインが「美術の範囲」に該当することを説得力のあるかたちで説明する戦術を採用します。

⑤ 被告の「否認の理由」を具体的に想像する。

そうすると、原告の仕事は、原告の請求原因事実が要件事実を充たさないことに関する被告の「否認の理由」の説得力のなさを説明することになり、そのため、被告の「否認の理由」を具体的に想像することとなります。たとえば、「美術」該当性に関する被告の否認の理由としては、原告によるTripp Trappの原デザインの定義付けは間違いであるとの理由と、原告による「美術の範囲」の定義付けは間違いであるとの理由の2つが考えられますが、前者については争いようがありませんので、後者を理由に否認してくるものと考えられます。

⑥ 「否認の理由」のうち、論理構造が脆弱な箇所を特定する。

上記の例でいうと、被告は「美術の範囲」について狭い定義を与える作業を行ってくることが予想され、その場合の手順としては、

  • 著作権法で美術の定義を探して、これを利用する(可能ならⅱおよびⅲで補強)。
  • (ⅰに失敗したら、ⅰの結果を否定しつつ)美術の範囲を説明した裁判例を探して、これを利用する。
  • (ⅰおよびⅱに失敗したら、ⅰおよびⅱの結果を否定しつつ)著作権法で、「美術の範囲」の説明(例示など)を探して、これを利用する。
  • (ⅰ、ⅱおよびⅲに失敗したら、ⅰ、ⅱおよびⅲの結果を否定しつつ)立法時の考え方に頼ることを考える。
  • (ⅰ、ⅱ、ⅲおよびⅳに失敗したら、ⅰ、ⅱ、ⅲおよびⅳの結果を否定しつつ)独自の定義を打ち出す。

という手順を踏むものと考えられる。もっとも、ⅰ、ⅱ、ⅲにより通常決着はつくので、ⅰ~ⅲについて検討する。

「美術の範囲」に関しては、著作権法に定義はなく(ⅰ)、裁判例は狭く説明したものと柔軟に考えたものがある(ⅱ)。「美術の範囲」に関しては、著作権法2条2項において、「美術工芸品を含む」とされている(ⅲ)。

以上の手順を踏まえると、被告は、「(ア)著作権法に『美術の範囲』に関する定義はない。(イ)そのため、『美術の範囲は』社会通念どおりとなるのが原則である。(ウ)一般的な、ふつうに教養ある常識人は、Tripp Trappのようなインダストリアル・デザインを『美術』とは扱わない。(エ)よって、Tripp Trappは「美術の範囲」には入らない」との主張をしてくることが予想される。

上記論理のうち、(ウ)は、「・・・はない」という構造の命題。そうすると、「有る」例を示せば、「・・・はない」という命題は突き崩せる。なので、(ウ)が脆弱。

⑦ 脆弱な箇所を撃破する戦術を準備する。戦術に従って、証拠を用意する。

上記でいうと、原告としては、(ウ)を衝く証拠を準備し、提出することとなる。例えば、有名な美術館でTripp Trappが展示されていることを証拠として提出する。

(3) 著作権侵害訴訟の難しさ

上記作業手順を戦場ごとに行っていくことをTripp Trapp事件を基に詳しく説明いただいたのですが、Tripp Trapp事件においては、「著作物性」が認められるか否かの戦場では原告に有利に働いていたTripp Trappの特徴を際立たせるための証拠が、著作権の「侵害」が認められるか否かの戦場では原告に不利に働いてしまった(被告製品はTripp Trappのような特徴を持たない)とのことであり、著作権侵害訴訟の難しさを認識させていただきました。もっとも、依頼者にとって、著作物性が認められたうえでの敗訴と著作物性自体が否定されたうえでの敗訴では全く異なることから、「侵害」が否定されることを恐れて「著作物性」の戦場で証拠の出し惜しみをしないように注意しなければならないとの説明をされておられました。

4 おわりに

本講義はTripp Trapp事件という著作権侵害訴訟を題材に行われたものですが、行われた説明内容は、著作権侵害訴訟はもちろんのこと、一般の民事訴訟においても、十分活用できるものとなっており、大変勉強になりました。

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中小企業法律支援センター企画「中小企業経営者と若手弁護士の交流会」

月報記事

弁護士 吉田 大輝(68期)

1 はじめに

去る平成29年2月17日(金曜日)、福岡市中央区天神、「西鉄イン福岡」にて、中小企業法律支援センター企画の「中小企業経営者と若手弁護士の交流会」が行われ、当職が出席させていただきましたので、ご報告いたします。

2 【第一部】ご講演 (ダイヤ精機株式会社代表取締役 諏訪貴子氏)

第一部は、講演がありました。

講演いただいたのは、「町工場の星」としてメディア等に多数出演され、また、経産省中小企業政策審議会委員等も務めておられる、諏訪 貴子(すわ たかこ)社長です。諏訪社長は、先代(お父様)を引き継ぐ形で、東京都大田区のいわゆる町工場、「ダイヤ精機株式会社」の代表取締役社長に就任されました。

諏訪社長は、大変パワフルかつ溌剌な方でした。諏訪社長の激動の人生は、「町工場の娘」「ザ・町工場」(いずれも日経BP社)で書籍化されているそうです。

諏訪社長は話がとても上手で(聞く者を飽きさせない、という点がとても秀逸でした)、1時間半があっという間に感じたのですが、その中で、当職が講演内容において感銘を受けた点を3点、ご紹介いたします。

まず一点目。(1)理念の重要性という点です。

諏訪社長は、リーマンショックによって倒れかけた会社を建て直す際、まずは理念及び方針決定から始めたそうです。「理念」の機能は、社員間のベクトル合わせであり、社員全員が一丸となって進んでいく上で不可欠であるとのことでした。また、先代の想いや思想・本流こそが、企業経営において必要不可欠であるということです。

もっとも、理念を定める際におけるポイントは、とにかく「分かりやすい」ものであることです。いかに崇高な理念を掲げたとしても、社員間で直ぐに共有できなければその意義がなくなってしまう、とのことでした。

二点目。それは、(2)自分の決断は強い意志を生む、ということです。

ダイヤ精機株式会社においては、新人社員に対しても、とにかく、自ら決定させることを励行しているようです。その理由は、「やらされる」ことでは成長しないが、「自らやってみる」という決断を下した場合、どんなことであっても責任を持ち、強い意志が生まれるのだ、ということでした。

例えば、ダイヤ精機では、非常に細かい部品に手作業で型番を掘るという作業を行うそうですが、ある新人女性社員が、「私、この作業で一番になります!」と宣言し、業務の合間を見つけてはひたすら練習し、その結果、誰よりも美しく正確に掘ることができるようになったため、超ベテランの先輩からもその作業をお願いされるようになった、というエピソードがあったそうです。

最後に三点目。(3)印象戦略の重要性です。

どういうことか。それは、相手に物事を伝える際の戦略術です。例えば、相手に物事を伝える際、ポイントを「3つ」に絞り、内容を伝える前に「ポイントは3点です。」と伝え、実際にそのように伝える、ということです(本月報記事もそれにならって3点に絞ってみました。)。またあるいは、計画を立てる際、「3ヶ月」・「3年」スパンで計画するなど、「3」という印象に残りやすく分かりやすい言葉を効果的に用いて、相手に印象づけ、実践する者にとって計画を実行しやすくする、といった取り組みのことです。

これは、尋問や依頼者との相談の際などにも、非常に応用できる内容であると思いました。

諏訪社長の講演は、このほかにもご紹介できないほどに数多くの示唆があり、非常に刺激的かつ有意義な内容でありました。

3 【第二部】名刺交換会(懇親会)

その後、懇親会場へと場を移し、講演聴講者(中小企業経営者及び当会の若手弁護士)が立食形式で軽食をつまみながら、名刺交換や日頃の経営上の悩みなどをざっくばらんに相談するなど、カジュアルな雰囲気で懇親する機会もございました。

まだまだ、企業経営者の方々にとっては、弁護士と出会う機会というのは珍しいようで、弁護士の潜在的ニーズをとても強く感じました。

4 最後に

このように、中小企業経営者の生の声を聞くことができ、そして、企業経営者と出会うことのできる機会は非常に有意義ですので、是非とも、今後とも継続して開催されることを熱く希望いたします。

最後になりましたが、ご開催いただきました中小企業法律支援センターの先生方、ご協力いただきました弁護士会館の職員の皆様に御礼の気持ちを申し上げ、以上をもってご報告とさせていただきます。

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給費制維持緊急対策本部だより 「修習給付金」制度、閣議決定される

月報記事

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 本部長代行 市丸 信敏(35期)

■ ご高承のとおり、さる2月3日、司法修習生に国が「修習給付金」を支給する新制度を設ける内容の裁判所法改正案が閣議決定されました。

同法案によれば、修習給付金は、司法修習生の全員に支給する「基本給付金」、自ら住宅を借り受けている修習生に対する「住居給付金」、修習に伴い引っ越しを必要とする修習生に対する「移転給付金」の三種類とされています。具体的な金額は、それぞれ最高裁判所規則で定めることとされていますが、これまでの折衝等で合意されている金額は、基本給付金13.5万円、住居給付金3.5万円の合計17万円です。

また、本改正案では同時に、現行の貸与制が変更され、「修習専念資金」として、修習給付金では足りない者に対して一定額を無利息で貸し付ける制度も設けられることになりました。

因みに、同改正案では、司法修習生の非行について、現行の「罷免」に加えて、新たに「修習停止」、「戒告」の制度も新設されることとされました。

改正法の施行日は本年11月1日とされ(附則)、第71期司法修習生から適用される予定です。

法案は、本年2月中旬頃には国会に提出され、同3月中には、成立が見込まれています。

■ 給付金の金額については、もう少し上を目指してきていたので率直に言って若干の残念感も否定できませんが、国家財政の危機的状況の下、日弁連会長自らも精力的に各方面に働きかける等したうえでのギリギリの到達点であること、日弁連が実施した修習生の生活実態調査(アンケート)から浮かび上がっていた必要生活費額ともほぼ符合する金額水準でもあること等から、さしあたりはやむを得ないものと受け止めています。

■ 平成22年4月、日弁連及び当会を含む全国の弁護士会が立ち上がって給費制の維持を求めて精力的な運動に取り組み始めてから7年、ついに悲願であった給費制の事実上の復活まであと一歩のところまでこぎ着けることができました。「一度廃止された制度が数年で復活するというのは、あり得ない」(某国会議員)ことが実現しつつあるのは、この間の、当会会員の皆さまの深いご理解、熱いご支援のおかげに他ならないものと篤く感謝致しております。そもそも市民にとって全く縁遠いこの課題が、市民ほか各界各層に広くご理解とご支援を仰ぐことができて、その結果としてここに至ることができたのは、当会会員の皆さまの長年に及ぶ日ごろからの地道で幅広い各種公益活動をはじめ、弁護士・弁護士会に対する信頼と理解があったからこそであると、運動を通じて強く実感しているところです。ただ、一方で、新しい法曹養成制度のもと、残念ながら法曹志願者が毎年減少し続けるという窮状が顕著となり、その大きな要因の一つと考えられる経済的負担を軽減する必要への理解が進んだこともあります。そして、この間の歴代執行部のご理解、何よりも、自ら無給制(貸与制)のもとで体験した苦労や不条理を踏まえ、後輩たちに同じ思いをさせてはならないとして、運動の絶望的状況の中でも決してあきらめずに、足を棒にして数え切れないほどの各種団体や国会議員回り、街頭行動や幾度もの市民集会開催等々の地道でねばり強い活動に身を投じ続けてくれた若手会員の皆さんの力に負うところが大です。この場を借りて、篤く御礼申し上げます。

■ 司法修習生に対して、いわば特別待遇をすることに対する異論はいまだ根強く残っていることも事実です。私たちは、戦後一貫して国民の負担で修習中の生活を保障してもらって法曹としての養成を受けてきたこと、また、今般、再びその在り方に戻すこととされたことの意義に思いを致し、改めて、深く胸に刻み込む必要があることは言うまでもありません。

無事に法改正が叶った暁には、この間、無給制(貸与制)で耐えてきてくれた65期生から70期生の皆さん、この運動の原動力でもあった彼らを、如何にして救済するかが、残された大きな課題です。引き続き、会員の皆さまのご理解とご支援をお願い申し上げます。(平成29年2月14日記)

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共謀罪シンポジウムに参加して

月報記事

情報問題対策委員会 松本 敬介(68期)

1 シンポジウムの開催

ここ最近いわゆる共謀罪法案が世間を賑わせております。

というのも、政府は共謀罪の名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変え、組織犯罪処罰法改正案として国会に提出しようとしているからです。

共謀罪法案は、平成15年に小泉政権下のもとで最初の法案が提出されてから現在に至るまで合計3回にわたって提出されてきましたが、野党等の反対によりいずれも廃案に追い込まれてきました。その共謀罪法案が、テロ対策目的というお題目を携えて、しかも名前を変えて復活したというわけです。

当会においてもこれまで共謀罪法案の問題点を指摘し、法案の成立に強く反対してきたところですが、共謀罪法案の再提出が差し迫っているタイミングで、今一度市民の皆様と問題意識を共有する必要があると思い至りました。

そこで、平成29年1月14日、当委員会主導のもと「政府批判はいけないことか?~共謀罪で表現の自由が奪われる!~」と題して、共謀罪シンポジウムを開催いたしました。

今回のシンポジウムの開催にあたっては、九州大学法学部の学生さん4名にご協力いただきました。また、ゲストとして、元北海道警察の警察官でジャーナリストの原田宏二氏、元共同通信の記者で同じくジャーナリストの青木理氏、九州大学で刑事訴訟法を研究していらっしゃる豊崎七絵教授をお招きしました。

当日は140名にものぼる多数の来場者により、追加でイスを出すもイスを設置するスペースが足らなくなるほどで、この問題に対する市民の皆様の関心がいかに高いかが分かります。

シンポジウムは、まず学生の皆さんからの基調報告からスタートしました。共謀罪法案の必要性、構成要件の明確性、処罰対象としての犯罪の範囲の妥当性、主体となる人的範囲の妥当性など、多角的に共謀罪法案を検討していただきました。

続いて、「共謀罪・盗聴法・デジタル捜査は、市民監視の3点セット」と題して、原田氏から基調講演を行っていただきました。原田氏は、Nシステム・インターネット監視・GPS捜査などデジタル捜査が高度化したことで捜査機関は個人監視の手段を着実に手に入れている、昨今の刑訴法改正に伴い通信傍受の対象犯罪が拡大するとともに要件が緩和し法的な意味でも監視しやすくなっている、さらに共謀罪が成立することでその構成要件の曖昧さが捜査機関側の恣意的運用を可能にし、共謀罪の捜査という名目で個人監視が堂々と行われることを訴えました。まさに元警察官という独特のキャリアを持つ原田氏ならではの講演内容だったと思います。

最後に、当委員会より武藤糾明委員長をコーディーネーターとして、青木氏、原田氏、豊崎教授のほか、学生の方から1名に登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。青木氏からは、共謀罪法案について捜査機関の目線にたった考察が重要であることや、路上の防犯カメラの設置など、本当に防犯対策になりうるか分からないにも関わらず、極めて表層的な安心や安全のために個人のプライバシーを譲り渡していいのか問題提起がされました。

また、豊崎教授は、共謀罪が成立した場合、従来の判例の傾向を踏まえると黙示の共謀が認められることになるのではと見解を示し、黙示の共謀を認定するために、個人の行動や場所の出入りから思想を推定することになるなど、懸念を明らかにしました。

2 雑感

国連越境組織犯罪防止条約の批准にむけた国内法整備の是非を皮切りに、長きにわたって共謀罪法案をめぐって議論されてきましたが、ここに来て条約の目的に含まれていないテロ対策を大々的に打ち出し、名前を変えてまで法案の再提出を図る政府の態度に、市民の方々も違和感があったかと思います。今回のシンポジウムは、政府の真の目的に迫るとともに、共謀罪法案だけでなく、特定秘密保護法や刑事訴訟法の改正を含めた全体的な考察が必要であることを、市民の皆様と共有できる機会になったと思います。

今後も、弁護士会として共謀罪法案の提出および成立に断固として反対する活動に取り組んで参ります。

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憲法リレーエッセイ 南スーダンの現状

憲法リレーエッセイ

会員 池上 遊(63期)

1 はじめに

2015年9月成立、2016年3月施行の安保法制法により、国際平和協力法が改正され、PKOに派遣される自衛隊は新たに駆け付け警護、共同宿営地防護といった任務の実施が可能となりました。現在、わが国は、アフリカの南スーダンへPKO部隊を派遣していますが、2016年12月に派遣された部隊から上記任務が与えられています。

遠い南スーダンで日本が果たすべき役割があるのか、現地の情勢がどうなっているのか、などに関心があり、現地で支援活動に従事する今井高樹さん(日本国際ボランティアセンター・スーダン現地代表)が1月22日に北九州でされた講演を聴いてきましたので簡単に紹介させていただきます。

2 南スーダンの現状

1956年にスーダン共和国がイギリスから独立、2度の内戦を経て2011年に同国から南スーダン共和国が独立しました。国連がPKO部隊(南スーダンミッション、UNMISS)の派遣を決定したのも同年です。そのわずか2年後の2013年、当時の副大統領をはじめとする一派がクーデターを起こして再び紛争が始まりました。今井さんは現状を「日本の戦国時代のよう」と評し、共存してきた二つの部族が南スーダン独立時に一旦はまとまったものの、財政や石油収入、国際支援で入ってくるお金をどのファミリーが使うかなど利権をめぐって大統領派、副大統領派の対立が生まれたと解説してくれました。軍隊は存在しますが、出身部族との関係でまとまりがなく今も内戦につながるおそれがあるそうです。ただ、今井さんの友人で南スーダンの方は、部族対立は結果であり、利害関係が軍の部族間対立を煽ったと言っているとのことでした。

2015年8月には、関係当事者が「南スーダンにおける衝突の解決に関する合意文書」に署名します(「外圧」によるものとのこと。)が、2016年7月に再度対立が激化し、現在は大統領派と副大統領派の間で再び紛争状態となっています。

自衛隊宿営地のあるジュバ(首都)でもヘリやロケット砲による攻撃が繰り返される一方、市場や国連食糧倉庫の襲撃、略奪(政府軍による略奪も含む。)もあり、これが国の軍隊かと思ったそうです。現在、市街地は比較的平穏だそうですが、警察が法令違反と言って市民を恐喝したり、入国管理局でも多額のお金を要求されるなど職権濫用が当たり前になっているようです。悪質なのが軍隊で、兵士による略奪やレイプを許しているという信じられない状況だそうです。インフレは700~800%、10年前には1ドルが2ポンドでしたが、今は100ポンドとなっているそうです。国連による支援が十分に行き届いていないことから、今井さんのグループは、人道支援として食料支援や教育支援に取り組んでいます。

3 南スーダンPKOと自衛隊

PKO部隊に対しては、2016年7月の紛争激化の際に市民が救助を求めたのに駆けつけなかったことなど助けを求めても何もしてくれないという批判が多いそうです。ホテルなどの施設を政府軍が襲撃しており、派遣すると政府との紛争になってしまうことから派遣できなかったようです。また、南スーダン政府も国連の避難民保護施設について反政府軍を匿っている、と批判しています。

駆け付け警護は現地の了解が必要で、南スーダンの現状では非現実的な任務です。自衛隊の任務は幹線道路建設の警護などですが、もし何かあっても戦闘の当事者が分からない、その結果同意を得ることもできない、誤って攻撃すれば敵とみなされることにつながります。

日本に対しては自動車メーカー「TOYOTA」の製品の質がいい、経済的先進国のイメージが強いようです。しかし、こうしたイメージも現地で何が起きるかで一転するでしょう。「駆けつけ警護」は必要ない。反政府勢力を含めバラバラになっている現状ではあらゆる勢力が集まって和平交渉を進める必要があり、非軍事的、外交分野にこそ日本の役目があると今井さんは話していました。

4 感想

南スーダンにはレベル4・退避勧告が発されています(外務省HP)。本原稿を書いている現在、報道によれば、2016年7月の紛争激化について破棄されたと政府が説明してきた自衛隊の報告書が「発見」され、同報告書に政府が否定する「戦闘」が起きていたとの記述があることが問題となっています。

紛争状態の現地に重装備の自衛隊を派遣してどんな支援ができるのか。日本が国際協調主義のもとで培ってきた信頼を失わないように本来の役割を果たすべきではないでしょうか。

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