福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2019年11月号 月報

【北九州部会】~児童虐待研修会の御報告~

月報記事

会員 三苫 和喜(71期)

1 はじめに

令和元年10月4日、北九州弁護士会にて、北九州市子ども総合センター(児童相談所)児童虐待対策担当課長の菊原康弘さんを講師にお迎えし、児童虐待研修会が行われましたのでご報告いたします。

2 児童虐待の基礎知識

児童虐待とは、保護者がその監護する児童について行う、(1)身体的虐待、(2)性的虐待、(3)ネグレクト、(4)心理的虐待、をいうとされています。

(1)身体的虐待とは、児童の身体に外傷が生じ又は生じる恐れのある暴行を加えることとされ、殴る・蹴る・叩くといった行為だけでなく、部屋に閉じ込めることや戸外に締めだす等の行為も当たるそうです。

(2)性的虐待とは、児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせることで、子どもへの性的暴行だけでなく、子どもに性器や性交を見せる行為も当たるそうです。

(3)ネグレクトとは、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ることとされ、適切な衣食住の世話をしないだけでなく、保護者以外の同居人による身体的虐待、性的虐待、心理的虐待を保護者が放置することも、ネグレクトに当たるそうです。

(4)心理的虐待とは、児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこととされ、言葉による脅迫や無視といった典型的なものだけでなく、子どもの前で配偶者に暴力や暴言を行う面前DVも心理的虐待に当たるそうです。

3 児童相談所の虐待対応

児童相談所が相談を受け付けると、初動対応を協議する受理会議が行われ、原則48時間以内に児童の安全確認を行い、児童面接、保護者面接・指導、といった調査を行ったうえで、援助方針の決定をするという流れになるそうです。必要な場合には受理会議から調査までの間に職権による一時保護を行うこともあるそうです。この一時保護は子どもの安全の確保を最優先とする観点から保護者や裁判所の同意なく実施することができる強力な手段でもあります。

また、児童の心理的負担を減らすため、虐待を受けた子どもの児童面接に際しては、協同面接として児童相談所・警察・検察が連携し最小限の機会で被害内容を確認するようにしているそうです。

4 北九州市の取り組み

北九州市では、北九州市子どもを虐待から守る条例を平成30年12月の議会で議決し、平成31年4月1日から施行されています。

また、福岡県警・福岡県・福岡市・北九州市で情報共有に関する協定を締結し、警察との連携を図っているそうです。これまでは刑事事件として立件の可能性のある重篤な事案について警察への情報提供を行っていたそうですが、今後は、一時保護が検討された事案、虐待通告受理後48時間以内に安全確認ができない案件、虐待で一時保護、施設入所したものから家庭復帰する場合などが対象となり、警察への情報提供が広がったそうです。

さらに、虐待の予防の観点から、生後4か月までの乳児がいるすべての家庭を訪問し、支援が必要な家庭に対して適切な指導や支援を行っているそうです。乳幼児健康診断の未受診者には、保健師が未受診の理由や現在の状況を確認するといったことも行っているそうです。

虐待の早期発見の観点からは、保育所や幼稚園・学校等の職員に対し、児童虐待対応リーダーの養成研修を実施したり、拠点病院に児童虐待専門コーディネーターを配置し、地域の医療機関等からの児童虐待対応に関する相談への助言等を実施したりするといった対応、市民を対象に児童虐待問題連続講座を行うといった事業を行っているそうです。

5 おわりに

講義後の質疑応答や懇親会においても、参加した弁護士が具体的に悩んでいる事案等につき助言をいただくことができ大変有意義なものとなりました。

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研修会「災害からの復興支援とLGBT」

月報記事

LGBT委員会委員 浜田 輝彦(71期)

1 はじめに

令和元年9月17日(火)、福岡県弁護士会2階中会議室201にて開催された「災害からの復興支援とLGBT」の研修会について報告いたします。

今回は外部講師として、山下梓さん、川口弘蔵さんの2名の講師をお招きしました。山下梓さんは、弘前大学の男女共同参画推進室専任担当教員で、東日本大震災の際、LGBT  被災者支援のために「岩手レインボー・ネットワーク」(セクシャルマイノリティの当事者及び支援者のためのネットワーク団体)の立ち上げ、これをきっかけにLGBTなど多様な性を生きる人たちの災害時支援対応策などを広める活動を行っている方です。川口弘蔵さんは、「レインボーパレードくまもと2016」の共同代表で、ご本人もLGBT当事者としてLGBT支援活動を続けるなかで熊本地震に被災し、災害時の支援活動を間近で経験された方です。

2 本研修の意義

昨今、全国的にも地震や台風などによる災害が度々生じており、九州でも熊本地震・九州北部豪雨をはじめ、様々な災害が生じています。当会の弁護士も被災者の相談を受けたり、災害時の対応へのアドバイスを求められたりする機会が増えています。

もっとも、社会的にLGBTの方々への理解は広まりつつありますが、災害という緊急事態にあっては、未だにおざなりにされているというのが現状です。しかし、支援を必要とする被災者の中にも、少なからずLGBTの方々は存在しており、被災者LGBTの方々への災害時の支援活動に関する知識は必須のものとなっています。

そこで、災害時におけるLGBTの復興支援に関する理解を深めてもらうため、LGBT委員会と災害対策委員会が共催で研修する機会を設けました。

3 災害があってもだれもが尊厳をもって生きのびられるように(山下さん)
(1) 東日本大震災での経験

まず、山下さんには、東日本大震災の復興の取り組みの一環として「岩手レインボーネットワーク」を立ち上げ、岩手県内に住むLGBTの被災者の方々からの相談窓口として活動された経験についてお話しいただきました。同団体が活動するなかで聞き取った相談の中には、生理用品、下着、ヒゲソリなど、男女別に支給される物資を受け取りにくい。周囲から不審な目で見られるため男女別に設置されたトイレ・更衣室・入浴施設を使うことができない。ホルモン剤治療を継続していたトランスジェンダーの方が、ホルモン剤治療を中断せざるを得ず生理が再開し、生理用品をもらいにいくと不審がられた。性自認や性表現に沿った物資をもらいにいったりすると予期せぬカミングアウトに繋がるため、避難所に避難することができなかったなど様々な相談が寄せられたそうです。

しかし、一方で被災者の中には、避難所という狭いコミュニティのなかでは、緊急時にLGBTであることを伝えても配慮してもらえるはずがない、予期しないタイミングでのカミングアウトに繋がる、そもそもLGBTのことを理解してもらえるか不安であることなどを理由に相談することさえできない当事者の方も多数いたそうです。

1 LGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャク(B)、トランスジェンダー(T)の略称で、性的少数者(セクシャルマイノリティ)の総称としてよく用いられる言葉です。実際には、LGBTに該当しない性的少数者もたくさんいます。

(2) 多様性に配慮した被災者支援

山下さんは、災害などの緊急時には、見えにくいものはさらに見えにくく、普段から忘れられがちなことはさらに忘れられるようになり、LGBTの方や外国人などの少数者に配慮ある支援はおざなりになる傾向があると言います。しかし、被災者にも尊厳ある生活を営む権利はあり、可能な限り尊厳ある生活を営むための援助を受ける権利があります。このような多様な個性に合わせた被災者支援をするためには、普段から当事者の方々と繋がり、その理解を深めることが重要であり、被災地の相談所などにLGBTに関する理解者がいることがその改善への第一歩とのことでした。

実際に、山下さんは東日本大震災の経験から、高知県のLGBT支援団体(高知ヘルプデスク)と協力して、支援者や自治体向けに災害時の対応策をまとめた「にじいろ防災ガイド」を作成し、災害時に誰もが尊厳をもって生きのびられる災害支援対策を広める活動を行っています。山下さんらが作成した「にじいろ防災ガイド」には、誰もが使えるユニバーサルトイレの設置、多様性に配慮してボランティアや専門家などを通じて個別に支援物資を届けられるような仕組みの検討など自治体向けの対応策や支援の際の注意点など、災害時であってもだれもが尊厳をもって生きのびられるようにするためのアイディアがまとめられています。「にじいろ防災ガイド」は災害時の対応へのアドバイスや被災者からの相談の際にも非常に有意義なものであるため、皆様も是非一度ご覧いただければと思います。

4 熊本地震とLGBT支援(川口さん)

川口さんからは、当時の熊本の被災状況を紹介していただき、被災地での支援活動についてお話しいただきました。川口さんが避難された場所は、熊本市国際交流会館でした。国際交流会館は、避難対象場所とはなっていませんでしたが、普段同会館を利用する外国人の方など多くの人が避難していたため、炊き出しの際には、できる限り各国・各人の信仰に配慮した食事の提供などもおこなっていたそうです。

また、自らSNSなどで自分がLGBTであることを公言した上で、様々な理由により避難場所に避難できないLGBTの人たちのために、国際交流会館が理解者のいる避難所であることを発信し続けるなどしてLGBTに向けた被災者支援活動もおこなっていたとのことでした。

川口さんは、LGBTの方々は、他者の態度や反応に敏感であり、LGBTであっても気軽に相談できる相談場所を作ることが求められると今後のLGBTに対する被災者支援についても語ってくれました。

5 終わりに

災害時におけてLGBTの方々が直面する問題は、この他にも、パートナーの死を知らせてもらえない、災害公営住宅に同性カップルで住むことができない、ホルモン剤治療を辞めると体調が不安定になるため治療継続の必要があるが理解されないなど多岐にわたります。また、山下さん・川口さんのお話でもあったとおり、災害時にこのような要望を誰にも相談できない当事者の方々が数多く存在します。

このような方々を本当の意味で支援するためには、普段からLGBTの方々の理解に努め、多様性に配慮した災害支援対策を議論することが肝要です。

先日、熊本県で、九州で初めて性的少数者への配慮を盛り込む形で災害時の避難所運営マニュアルを改訂する方針が発表されましたが、全国的にはまだ議論がはじまった段階です。災害対策・災害支援は今や身近なものであり、支援を必要とするLGBTの方々は必ず存在します。誰もが尊厳をもって災害支援を受けることができるようLGBTをはじめとするセクシャルマイノリティの方々を理解することから始めていきませんか。

研修会「災害からの復興支援とLGBT」 研修会「災害からの復興支援とLGBT」 研修会「災害からの復興支援とLGBT」にじいろ防災ガイド
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福岡国税不服審判官による研修のご報告

月報記事

会員 牟田 遼介(68期)

1 はじめに

令和元年9月18日、福岡県弁護士会館にて福岡国税不服審判官による研修会が行われました。当研修では、福岡国税不服審判所から現役の国税審判官をお招きし、不服申立制度の概要や実務に役立つ事例紹介等について御講義頂いています。当研修は、ここ数年、毎年1回開催されており、痒い所に手が届く研修として好評を博しています。

2 研修の概要

研修前半は、福岡国税不服審判所の金沢孝志所長より、まず国税に係る不服申立制度について御講義頂きました。国税不服審判所の事務運営の特色として、争点主義的運営であること(昭45.3.24 参議院大蔵委員会附帯決議)、国税庁長官通達に拘束されないこと(国税通則法99条)、基本は書面審理であること、原則1年以内に事件が終結するように処理していること(同法77条の2)など説明頂きました。また、審査請求書を提出する場合、必要事項の記載漏れがあると、補正の対象となるため、提出前に「審査請求書作成・提出時のセルフチェックシート」(国税不服審判所HPから入手可能)等を活用して、必要事項の記載漏れの有無につき、しっかりと見直して頂きたいとのことでした。

次に、最近の裁決事例の紹介として、"通帳の提示もれと仮想隠ぺい行為"が問題となった事案(平成29年8月23日裁決)につき、当事者の主張を踏まえて解説頂きました。当該事案の結論は、当初から所得を過少に申告する意図を有していたと認めることはできないとされました。紙面の都合上、事案の詳細な解説は割愛致しますので、ご興味がある方は、国税不服審判所HPの裁決事例集からご覧下さい。

研修後半では、福岡国税不服審判所の佐久間玄任国税審判官より、「実務に役立つ税務事例(裁決例等の紹介)」として、次の2つの事例を基に御講義頂きました。

事例①は弁護士が弁護士会等の役員としての活動に伴い支出した懇親会費等が、その事業所得の計算上必要経費に算入することができるかが問題となった事例(東京高裁平成24年9月19日判決)です。事例(1)では、(ア)弁護士会等の役員等として出席した懇親会等の費用のうち、弁護士会等の公式行事後に催される懇親会、業務に関係する他の団体との協議会後の懇親会、会務の執行に必要な事務処理をすることを目的とする委員会を構成する委員に参加を呼び掛けて催される懇親会等は必要経費に該当する(但し、二次会の費用は除く)としました。しかしながら、(イ)弁護士会会長又は日弁連副会長に立候補した際の活動等に要した費用、(ウ)日弁連事務次長の親族の逝去に伴う香典、弁護士会の事務員会の活動費に対する寄付金等については、必要経費に該当しない旨判示しました。

事例(2)は司法書士が支出したロータリークラブの会費等が、その事業所得の計算上必要経費に算入することができるかが問題なった事例(平成26年3月6日裁決)です。事例(2)では、司法書士が支出したロータリークラブ等の会費について、「クラブの会員として行った活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、登記又は供託に関する手続について代理することなど司法書士法第3条«業務»第1項各号に規定する業務と直接関係するものということはできず、また、その活動が司法書士としての業務の遂行上必要なものということはできない」として、必要経費への算入はできない旨判示しました。

事例(1)、(2)ともに、紙面の都合上、要旨のみしか記載できませんでしたので、事案の詳細について知りたい方は、判決文等をご覧ください。

なお、現在、国税不服審判所では、国税不服審判官の特定任期付職員の採用を行っています。審判官の仕事に興味・関心がある方は、是非ご応募ください。

3 終わりに

税務分野は、専門性が高く、敬遠しがちですが、知っておくと実務で大変役立つことが多いと痛感しました。税務分野に苦手意識を持つことなく、これから見識を深めて行きたいと思った次第です。

最後になりましたが、今回講師を務めて頂きました福岡国税不服審判所の金沢孝志所長、佐久間玄任国税審判官に深く御礼申し上げるとともに、簡単ではありますが、ご報告させて頂きます。

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