弁護士会の人権救済申立制度

1 人権救済申立とは?

基本的人権の擁護は弁護士の使命であることに基づく弁護士会としての基本的な活動です。

人権擁護委員会では、弁護士会に寄せられる人権救済申立事件について調査を行い、事案に応じて適切な措置をとることを主な任務としています。

調査の結果、人権侵害が認められる場合、人権侵害を行っている者(相手方)等に対し、(1)警告(相手方、その監督者等に対し、委員会の意見を通告し、厳しく反省を促し、又は必要な是正処置をとることが必要であるとき)、(2)勧告(相手方、その監督者等に対し、被害者の救済又は今後の侵害の予防につき、適当な改善処置をとるよう要請することが必要であるとき)、(3)要望(相手方、その監督者等に対し、委員会の意見を伝えることにより、その趣旨の実現を期待するとき)等の措置をとります。

2 人権救済申立を行うには

◆方法:申立書を作成の上「福岡県弁護士会 人権擁護委員会」までご郵送ください

◆申立書について

  • 書式は問いません(手書き・パソコンいずれも可です)
  • 必須記載事項
    1. 申立人氏名、住所、連絡方法
    2. 被害者の氏名、住所、連絡方法(申立人と同一の場合は不要です)
    3. 相手方氏名又は名称、住所
    4. 申立事件の人権侵害の具体的事実
      *「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうしたのか」が分かるよう具体的に記載してください)
    5. 申立事件の処理等についての要望
      *ただし、要望通りになるわけではありません

3 申立書提出後について

  • 原則文書でのやりとりとなります(来館・電話での問合せには対応しておりません)。
  • 当会に送付された資料(写しを含む)は返却できません。

4 留意いただきたいこと

  • 人権救済申立制度は弁護士会の観点から人権侵害の有無等につき判断し、人権侵害があると判断した場合、措置をとるものであり、裁判や調停のような紛争解決のための制度ではありません。
  • 弁護士会による人権侵害の有無の認定の結論は裁判における法的責任(損害賠償義務等)とは別問題となります。
  • 全ての申立が、採用(調査開始・措置)になるとは限りません。
  • 委員会で申立を受付け、調査を行い、結論が出るまでには相当の期間を要します。
  • 調査の内容はプライバシー等の問題があるため、開示することはできません。
  • 弁護士会が相手方に警告、勧告、要望等の措置をとったとしても、法的拘束力や強制力があるわけではないため、措置を受けてどのように対応するかは相手方次第となります。
  • 調査の結論に納得がいかないという場合でも、不服申立はできません。

取り扱った人権救済申立事件のご紹介

2023年(令和5年)12月14日執行(2020-05号)

福岡県に対する勧告

表現の自由が、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要であって、事前だけではなく事後的に不利益や不当な圧力を及ぼし、国民を萎縮させることも許されないことから、人権啓発事業の一環として制作・放送されたラジオ番組をホームページ上のアーカイブに収載するにあたり、当該ラジオ番組のパーソナリティーを務める申立人に対し、一部(アトワク)の内容が政府の政治的見解と異なるとの理由を示し、番組を続けられなくなることは不本意なことなどと発言して、本件アトワクの削除を求めるとともに、今後の本件ラジオ番組の制作にあたり放送前にチェックして削除やとり直しを求められるシステムを作っていきたいと発言した県職員の行為は表現の自由を侵害するものであるとして、県に対し、職員が同種の行為を繰り返すことがないよう求めました。

2023年(令和5年)7月13日執行(2021-07号)

福岡県内の私立高校に対する要望

私立高校の担任教諭が、特定の生徒が定期テストにおいて不正行為を行ったことを、クラスメイトに実名で公表したことが、学校の指導の裁量の範囲を超えて、プライバシー権の侵害に当たるかどうかについて、ア.目的の合理性、イ.被る不利益の大きさ、ウ.他に選びうる手段が存在するか等を比較考量した結果、本件については、生徒のプライバシーを侵害するものであったと認定しました。そのため、私立高校に対して、今後は、テストで不正行為があったという事実の公表を超えて、不正行為をした生徒の名前を公表したり、生徒の名前の公表と同一の効果が生じうるような方法での反省個別指導をしたりするなど、テストで特定の生徒が不正行為をしたことが明らかになるような対応を取らないようにして頂き、生徒の心情に配慮した指導を行っていただくよう、要望しました。

2023年(令和5年)3月28日執行(2022-04号)

北九州医療刑務所に対する勧告(三角発信を理由とする信書差止事件)

北九州医療刑務所の入所者である申立人が、信書を発出しようとしたところ、信書内に手紙の相手方以外の第三者を意味すると解される名詞として、知人の名前や「オレの母親」等の記載があることを理由に、名宛人を介して自己の意思を伝達するための内容(いわゆる「三角発信」である)を含む信書であるとして、差止めを行ったため、人権侵害(憲法21条1項の保障する信書発信の自由の制限)であるとして人権救済申立を行ったものです。

本件の問題点は、本件各信書が名宛人以外の第三者に対する伝言を含む信書にあたるか、いわゆる「三角発信」にあたることのみを理由として刑事収容施設法129条1項3号に基づき差止め等の措置をとることが信書発信の自由の制限として許されるかです

当会は本件各信書には第三者への伝言を明示的に依頼する記述は見当たらないことから、名宛人以外の第三者に伝言を依頼する信書であると認定することは困難と判断しました。また、第三者への伝言を含むことのみをもって信書の検査に関する管理運営上の支障を増加させるとは考えがたいこと等から信書に伝言が含まれるということのみを理由として刑事収容施設法129条1項3号に基づいて差止め等の措置をとるという運用は、合理性を欠くと判断しました。

その上で、北九州医療刑務所の差止め措置には理由がなく、憲法第21条第1項に違反し、信書発信の自由を侵害すると判断し相手方が差し止めた申立人の信書2通の発信を許可すること等につき勧告を行いました。

2023年(令和5年)3月27日執行(2022-02号)

福岡拘置所に対する勧告(既決拘禁者横臥禁止事件)

福岡拘置所に入所中の申立人(既決懲役受刑者)から、福岡拘置所では申立人を含む既決拘禁者に対して、休日の昼間に横臥することを禁止しているが、これは奴隷的拘束であるから運用を改め、全ての被収容者について休日には午睡時間帯に限らず横臥することが認められるべきとの人権救済申立がなされたものです。

本件では休日を含む昼間、既決拘禁者の横臥を一切禁止することが、被収容者の行動決定の自由(憲法第13条の幸福追求権の内容の1つである人格的自律権(自己決定権)として保障される)に対する収容施設内における規律・秩序維持の観点から必要かつ合理的な制限といえるかが問題になります。

既決拘禁者の昼間の横臥を禁止している理由について当会からの照会に福岡拘置所からは明確な回答はありませんでしたが、申立人によれば、収容生活において生活リズムを適切に保ち健康管理を行うことが必要不可欠と説明されているということでした。

しかし、横臥をすることで生活リズムが適切に保たれず健康を害することになるという帰結になるわけではないことは明らかであり、同目的と横臥を禁止することとの間に合理的な関連性は見出せないこと、生活リズムを適切に保ち健康管理を行うという目的は、集団生活を行う収容施設内の秩序維持の観点からのものと考えられるが、その目的であれば、既決拘禁者と未決拘禁者との間に差異を設けることの合理性も認められない等の理由から、既決拘禁者に対し、横臥を禁止するという運用は、その必要性、合理性が認められないことから、申立人を含む既決拘禁者の行動決定の自由を侵害にあたると判断し、全ての被収容者に対し、横臥をすることができる曜日及び時間を制限せず、終診時間帯以外でも、食事、運動、入浴、矯正処遇など決められた起居動作をする時間帯を除き、横臥することを認める運用に改めるよう勧告しました。

2023年(令和5年)3月27日執行(2022-01号)

福岡保護観察所に対する要望(NPO法人への個人情報提供事件)

刑事被告人であった申立人が刑事裁判の審理の際、裁判後、某NPO法人の地域活動支援センターで薬物依存からの回復専門プログラムを受ける予定を立て、NPO法人からも承諾を得、その旨の文書を提出し、執行猶予付きの判決を受けましたが、裁判後、NPOの担当者から、過去に申立人が更生保護施設で暴力事件を起こしたことを理由に入所拒否の連絡を受け、回復専門プログラムを受けることができなくなりました。申立人が以前更生保護施設で暴力事件を起こしたという情報提供は、福岡保護観察所から行われたものであるということであったため、申立人は、保護観察所の情報提供がプライバシー権の侵害であるとして人権救済申立を行ったものです。

この点、保護観察所はNPO法人への情報提供の事実を認め、情報提供した理由について「更生保護法第82条に基づく矯正施設に収容中の者の生活環境の調整を行うにあたっては、対象者の生活歴や刑事処分歴、問題性等について引受人と共有し、今後の受入れ体制等を整えていくことになるが、過去の更生保護施設内での暴行事件について秘匿して調整を行うことは、引受人側が受入れ体制を構築する上でも、また引受人との信頼関係にも影響を及ぼすことであり、本対象者の事例に限らず、情報を開示している」と説明しました。

調査の結果、相手方によるNPO法人への情報提供は、法令に違反するとは言えず、申立人が有するプライバシー権を侵害するものとまでは言い難いものの、過去に暴力事件を起こしたという情報は、前科前歴に準じてたとえ真実であっても、他人に知られたくない情報としてみだりに公開されてはならない性質の秘匿性の高い情報であることから、申立人への確認等を行わずなされた本件の情報提供は、申立人のプライバシー権に対する配慮、並びに申立人の更生への希望及びその機会の保障に対する配慮が不十分であったと判断し、今後、過去に更生保護施設で暴力事件を起こした旨の情報等本人にとって不利益な情報をNPO等に提供するに際しては、本人に弁明の機会を保障する等の観点から、提供の必要性について本人に対して十分な説明をした上で提供すべきと要望しました。

2022年(令和4年)12月27日執行(2018-03号)

福岡県内のスーパーマーケット運営会社に対する要望

福岡県内のスーパーマーケット運営会社に対し、同社の経営するスーパーマーケットの店長が、2018年10月13日、くも膜下出血による後遺障害のため身体の左半身の麻痺の身体障がいを有する利用者(申立人)に対して、店舗利用禁止措置を言い渡した行為について、同利用者の「自己の希望する店舗において買い物をする権利」を侵害し、平等権を侵害する行為であったと判断し、同運営会社に対し、申立人に対して行った店舗利用禁止措置を解除すること、申立人との間で、申立人が店を利用する際必要な支援内容・程度につき協議を行い、対応可能な限度において申立人の利用支援を行うよう検討することを要望しました。

2022年(令和4年)9月28日執行(2021-01号)

福岡刑務所に対する勧告及び要望

福岡刑務所に収容中の申立人が、(1)2020年(令和2年)12月3日以降、少なくとも2021年(令和3年)12月27日に至るまで「綿密な動静観察」目的で監視カメラ付居室に収容されているという事案において、申立人に自傷他害のおそれが疑われない中で、「動静監視」目的で1年以上にわたり継続して監視カメラ付居室に収容することは、憲法13条を根拠とする申立人のプライバシー権を不当に侵害するものであるため、今後、監視カメラ付居室への収容に関して、被収容者のプライバシー権に配慮した内規・基準を設け、慎重に収容の開始及び継続の可否を判断するよう勧告するとともに、現在も申立人を継続して監視カメラ付居室に収容しているのであれば収容を中止するよう勧告する。

また、(2)申立人を人格障害と診断して一般処遇可能と判断し、また、申立人の特異な動静を根拠に45日間から60日間に及ぶ閉居罰の懲罰を3度執行したという事案において、申立人はADHDなどの精神疾患を有し、精神障害者2級の手帳を保有していると述べており、国連拘禁者処遇最低基準規則や諸法令の趣旨に照らし、懲罰の根拠となる申立人の特異な動静がADHDなどの精神疾患を原因とするものか否かについて慎重に調査した上で、閉居罰及び医療刑務所への移送の要否について判断するよう要望する。

2021年(令和3年)12月2日執行(2019-05号)

福岡県内の法人及び児童養護施設に対する勧告(児童養護施設虐待事件)

福岡県内の法人が運営する児童養護施設の元職員が2016年1月頃から2019年3月頃までの間、複数の入所児童に対して犯罪を行ったことについて、同法人及び同施設が児童福祉法及びその関連法令(条例を含む)の定める最低限の技術的基準を順守していなかったために被害を事前に防止することができず、かつ、被害を拡大させたことは、被害児童の人格権(憲法13条)、子どもの成長発達権(児童の権利に関する条約前文、6条、19条)や虐待から保護される権利を侵害することから、市からの改善勧告を遵守するほか、(1)子どもの権利擁護を強化し、(2)危機管理を徹底するなどして、二度と虐待が発生しないための対策を徹底するよう勧告する。

2021年(令和3年)10月29日執行(2020-01号)

福岡刑務所に対する勧告(懲罰情報告知事件)

福岡刑務所の職員が,刑務作業として計算係を命ぜられた受刑者に対して,当時収容されていた申立人が懲罰に付されている事実を告げた上,申立人の日課表にその旨の記載を命じたことについて,申立人(懲罰を受けた被収容者)の懲罰を受けたことに関する情報みだりに公開されないという法的権利(プライバシー)を侵害するものであることから,刑務作業として計算係を命ぜられた被収容者である受刑者に対して,他の被収容者が懲罰に付された事実を告げないよう勧告する。

2021年(令和3年)10月26日執行(2019-08号)

福岡拘置所に対する警告(監視カメラ付き居室収容事件)

死刑確定者として福岡拘置所に収容中の申立人が、2013年(平成25年)11月18日以降、現在(少なくとも2021年(令和3年)3月2日)に至るまで約8年間という異例の長期間にわたって、申立人が保管私物限度量を超える物品の所持をしたこと及びボックスファイルを使用して不正に制作した棚を所持したことを理由として、監視カメラ付き第二種居室に収容され、24時間体制で監視されているという事案において、監視カメラ付き第二種居室への収容及びその継続は、その理由となる事実自体が認められず、仮に認められたとしても自傷のおそれとの関連性がなく必要性が全く認められないものであり、申立人のプライバシー権、人格権を不当に侵害するものであるため、福岡拘置所に対し、申立人に対する監視カメラ付き第二種居室への収容を中止するとともに、今後、同居室への収容を行う場合には、被収容者のプライバシー権、人格権に対する制約となること、24時間体制の監視による被収容者への精神的負担が大きいこと、保護室収容については72時間以内と法定されていることなどを十分に考慮し、収容の開始及びその継続の必要性を慎重に判断するよう警告する。

2021年(令和3年)10月26日執行(2015-03号)

福岡拘置所小倉拘置支所に対する勧告(監視カメラ付き居室収容事件)

被告人として福岡拘置所小倉拘置支所に収容中の申立人が、ノートに遺書と題する家族に宛てた文章を記載したことから、自死のおそれがあるとして2015年(平成27)年1月6日から監視カメラ付き第二種単独室に収容されたところ、その後に申立人が自死の意思がないことから監視カメラ付き第二種単独室への収容を中止するよう複数回にわたって求めたものの、専門的知見を有する職員(医師等)による申立人に対する事情聴取や意思確認を行うことなく2016年(平成28年)4月25日まで漫然と収容が継続されたことについて、申立人のプライバシー権、人格権を不当に侵害するものであることから、監視カメラ付き第二種単独室への収容の開始及びその継続の要否を判断する際には、被収容者のプライバシー権、人格権に配慮した内規・基準等を設け、専門的知見を有する職員(医師等)による被収容者に対する事情聴取や意思確認を行うよう勧告する。

2021年(令和3年)8月3日執行(2019-07号)

福岡県警察本部、福岡県南警察署及び警察庁に対する勧告(DNA型記録等抹消請求事件)

勧告書(福岡県警察本部宛)
勧告書(福岡県南警察署宛)
勧告書(警察庁宛)
勧告書別紙・勧告の理由

遺失物横領事件の被疑者として任意に福岡県南警察署に出頭した申立人が、警察官から何の説明もなく写真、指紋及びDNAを取得され、約3年後、申立人が福岡県南警察署に対して自身の写真、指紋及びDNAの記録を抹消するよう求めたが、拒否された事案において、採取及び抹消拒否はいずれも申立人の人権を侵犯するものであるため、福岡県警察本部、福岡県南警察署及び警察庁に対し、以下のとおり勧告する。

福岡県警察本部に対して、(1)DNA採取は原則として令状に基づいてすること、(2)DNAの任意での採取は、採取の意味、利用・保存方法などを十分に説明の上で書面による承諾を得ること、(3)申立人の写真、指紋、DNAの記録について警察庁に対し抹消依頼を行うことを求める。

福岡県南警察署に対して、上記(1)及び(2)に加え、(4)身体拘束されていない被疑者からの写真、指紋の任意での採取は、任意であるため拒否できる旨を事前に説明した上で実施することを求める。

警察庁に対して、(5)申立人の写真、指紋、DNAの記録をデータベースから抹消することを求める。

2020年(令和2年)11月17日執行(2018-01号)

福岡拘置所に対する要望(出廷制限事件)

2018年第1号要望書別紙

死刑確定者が国を被告として、訴訟を提起し、第1回口頭弁論期日への出頭願を出したところ、拘置所が出頭を不許可としたことが、申立人の出廷権を侵害するものであるため、拘置所に対し,(1)原則として出廷を許可すべきであり、例外として当該具体的事情の下で、出頭を許すことによって刑事施設内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があることが十分な根拠に基づいて認められ、そのために出頭を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限って、不許可とすべきこと、(2)不許可の場合には被収容者に対し具体的な理由を告知するなどして、被収容者の裁判を受ける権利、自ら出廷し訴訟活動を行い公正な審理を受ける権利の実現に十分努めることを要望する。

2020年(令和2年)11月4日執行(2019-02号)

福岡県警察本部及び福岡県中央警察署署長(当時)に対する勧告

別件刑事事件で警察署留置施設に収容されることとなった者が、入室手続の際にエビ及びキウイフルーツのアレルギーであることを申告したにもかかわらず、収容期間中に小エビ入りのかき揚げやキウイフルーツを計5回提供され、これを申告した留置管理課職員から「弾いといて」、「出しといて」と申し向けられるにとどまったことは、憲法13条後段で保障される生命・身体の安全を危険にさらしたものとして人権侵害に当たり、警察官に対する厳正な措置と指導監督を徹底し、食物アレルギー対策の更なる改善措置を講じるよう勧告する。

2019(令和元)年6月17日執行(2014-07号)

福岡県警察本部らに対する警告(強制採尿事件等)

警告の理由(別紙)

強制採尿が、対象者の人格の尊厳を著しく害する強制処分であることに照らせば、医師がカテーテルの準備をしようとしていた段階で、自ら尿を出すという趣旨の発言をした申立人に対し、提出の機会を与えないまま強制採尿を実施した警察官の判断は不合理であり、申立人の人権を著しく侵犯したものであるから、該当する警察官に対して厳正な措置をとるとともに、今後、かかる違法な強制採尿がなされないよう福岡県警察本部のすべての警察官に対する指導監督を徹底するよう求める。

また、強制採尿令状執行にあたって行使できる有形力は、必要最小限度にとどまるべきものであるところ、本件において問答無用的に無理やり申立人を留置場から連れ出したことは不当な有形力の行使であるから、強制採尿令状執行に際しても必要以上の有形力が行使されないよう、福岡県警察本部のすべての警察官に対する指導監督を徹底するよう求める。

2019(平成31)年3月11日執行(2012-04号)

福岡県警察本部に対する勧告(引致前の弁護人依頼権侵害事件)

道交法違反容疑で現行犯逮捕を告げられた者が警察署に引致される前に弁護士と話をさせて欲しい旨申し出たにもかかわらず,警察官はその申し出に応じて警察署を通じて弁護人に本件逮捕と相談依頼の連絡を取る等の対応をしなかったことが弁護人依頼権を侵害するとして,警察官に対する厳正な措置と再発防止の徹底を勧告する。

2019(平成31)年2月22日執行(2017-01号)

(1) 福岡刑務所に対する警告

福岡刑務所が、他の受刑者から暴行され傷害を負った受刑者の刑事手続・民事訴訟に利用する目的を明示した医師の診断書の交付願いについて、必要性がないとして不許可としたことは、患者の診療情報を取得する権利・診断書の交付を受ける自由、知る権利・自己情報コントロール権の侵害である。

よって、受刑者からの診断書交付願いに対して、原則として、制限しないよう警告する。

(2) 法務省に対する勧告

福岡刑務所は、他の受刑者から暴行され傷害を負った受刑者の刑事手続・民事訴訟に利用する目的を明示した医師の診断書の交付願いについて、必要性がないとして不許可としたことは、患者の診療情報を取得する権利・診断書の交付を受ける自由、知る権利・自己情報コントロール権の侵害である。

よって、受刑者の診断書交付願いについて、原則として許可されるように、関係法令の解釈適用の変更又は制度改正をすることを勧告する。

(3) 総務省に対する勧告

福岡刑務所は、他の受刑者から暴行され傷害を負った受刑者の刑事手続・民事訴訟に利用する目的を明示した医師の診断書の交付願いについて、必要性がないとして不許可としたことは、患者の診療情報を取得する権利・診断書の交付を受ける自由、知る権利・自己情報コントロール権の侵害であり、受刑者からの診断書交付願いは、原則として許可される必要があるが、本件のような人権侵害発生の根本的な原因は、行政機関個人情報保護法45条で、一律に診療情報の開示を拒否する解釈適用を行っていることにある。

よって、同法45条の解釈適用の変更、または同法の適用除外規定の特別規定もしくは特別立法の制定等の制度改正をすることを勧告する。

2019(平成31)年2月22日執行(2014-06号)

糸島警察署長に対する勧告

(1) 事案

自動車を運転中のAは,警察官Bからスピード違反で呼び止められたところ,大便が漏れそうである旨Bに対して告げたが,BはAを現行犯逮捕しました。Aは逮捕頃大便を漏らしたが,警察署に連行後も身体を洗わせてもらえず,シャワーを浴びることができたのは,警察署到着後1時間半が経過した時点のことでした。この間Aに対しては1時間の取調べがなされました。

(2) 問題点

大便をもらしたままの被疑者をそのままの状態で取り調べてよいのか。

(3) 判断
  1. 大便を漏らしたままの状態を1時間半も継続する行為は,被疑者の人格権を否定するものです。
  2. 大便を漏らしたままの不快感,羞恥心のもとで取調べを行うことは,被疑者の人権を尊重すべしとした警察法の規則にも反します(被留置者の留置に関する規則2条)。
  3. 裁判例でも,失禁した被疑者を取り調べ,採尿した行為が違法であるとしたものがあります(東京地裁平成23年3月15日決定)。
  4. Bらの行為はAの人権を侵害するものと判断しました。

2018(平成30)年11月5日執行(2016-06号)

福岡拘置所に対する勧告(死刑確定者の信書受信不許可事件)

死刑確定者である申立人に対して申立人の実兄の養子が宛てた信書について,福岡拘置所が受信を不許可としたことは,親族間での信書の授受を認める刑事施設処遇法139条1項1号に違反し申立人の外部交通を違法に制限するものであるから,今後刑事施設処遇法に定める事由を超えて,信書の受信が不許可とされることがないよう勧告する。

2018年(平成30)3月28日執行(2012-11号)

報道機関に対する要望(実名報道後の「後追い取材・報道」事件)

相手方報道機関らがインターネット配信記事により申立人の逮捕について実名報道した後、申立人は処分保留釈放され、嫌疑不十分により不起訴処分となったが、3か月以上、インターネット上の実名報道記事を削除せず、処分保留釈放・不起訴処分の手続経過・結果を取材・報道しなかったことは、インターネットを通じて実名報道による名誉毀損状態を放置・拡大させるもので、申立人の名誉権侵害またはそのおそれが認められるから、インターネット配信による実名報道後の名誉回復措置に関する対応(逮捕後の経過・結果(処分保留釈放・不起訴処分等)に関する「後追い取材・報道」、インターネット配信記事の相当期間内での削除等)について、再発防止策を検討するよう要望する。

2018(平成30)年2月22日執行(2007-20号、2011-18号・2014-13号・2014-15号・2015-01号)

勧告書(11-18号・14-13号・14-15号・15-01号)

死刑確定者である申立人が,「外部交通者名簿」に親族と記載して届け出ている養親ら宛,大阪弁護士会人権擁護委員会及び監獄人権センター宛,友人・知人ら宛でそれぞれ信書の発信の許可を求めたが,福岡拘置所は各発信を不許可としたことは,申立人の外部交通を違法に制限するものであるから,今後刑事施設処遇法に定める事由を超えて,信書の発信が不許可とされることがないよう勧告する。

勧告書(07-20号)

申立人が,他の拘置所に収容されている実兄の再審請求支援のため,証拠物たる雑誌2冊を郵送しようと宅下げを出願したところ,不許可処分としたことは,申立人の外部交通を不当に侵害するものであるため,今後刑事施設処遇法に定める事由を超えて,宅下げの出願が不許可とされることがないよう勧告する。

2016(平成28)年12月8日執行(2014-05号)

福岡刑務所に対する勧告(出廷権侵害事件)

受刑者である申立人が、福岡刑務所を被告とする国家賠償請求訴訟を提起した後、福岡簡易裁判所における口頭弁論期日への出頭を不許可としたことは、受刑者にも保障されるべき裁判所に出廷する権利の侵害であるから、今後は、原則として、受刑者の出廷を許可する取扱いに改めるように勧告する。

2016(平成28)年11月22日執行(2013-08号,2014-11号)

要望書(放送局宛)
要望書(新聞社宛(1))
要望書(新聞社宛(2))
要望書(新聞社宛(3))

申立人の逮捕に関する実名報道は、本件が軽微事件であり、申立人が一私人であること、本件が不起訴または無罪となる可能性が十分にあったことから、プライバシー保護を重視し、少なくとも起訴に至るまでは実名報道を控えるべきであった。また、申立人の逮捕状況の映像撮影及び放送は、本件各事情から、申立人の肖像権侵害と言える。

よって、今後は、事件の内容・被疑者の社会的属性等を慎重に考慮し、できる限り実名報道及び逮捕時の映像の使用を差し控えるよう要望する。

2016(平成28)年10月4日執行(2006-59号,2007-13号,2009-10号)

レッドパージ(勧告書)
レパ勧告の理由

申立人らが、各勤務先から1949年から1950年までの間に受けた解雇または免職の措置は、いわゆる「レッド・パージ」として、申立人らが共産党員又はその同調者であることを理由になされたものと認められ、これは、特定の思想・信条を理由とする差別的取扱いであり、思想良心の自由、法の下の平等、結社の自由を侵害するもので、当時、我が国がGHQ占領政策の下にあったとはいえ、許されるものではなく、日本政府も、当時から自ら積極的にその遂行に関与・支持しており、平和条約発効(1952年)後、申立人らの被害回復措置を今日までこれを放置してきた。

よって、国に対し、可及的速やかに申立人らの名誉回復や補償を含めた適切な措置を講ずるよう勧告する。

2016(平成28)年6月30日執行(2013-01号)

福岡県立福岡学園に対する勧告(児童自立支援施設の体罰事件)

勧告の理由(別紙)

福岡県立福岡学園が、規則違反をした入所児童に対する個別指導として、指導部屋からの退出を制限して学校への登校を禁止したり、穴掘り行為を長時間させたり、肉体的・精神的苦痛を伴う筋力トレーニングをさせたことは、懲戒権の濫用にあたるから、入所児童の人権を侵犯する取扱いの再発を防止し、入所児童に対する指導方法を改善するよう勧告する。

2016(平成28)年3月24日執行(2012-14号)

A市長に対する警告(内部告発者の実名公表事件)

A市長が、A市議会が設置した社会福祉法人の不正会計について調査する100条委員会において、内部告発者の実名・前科を記載した報告書を黒塗りしないまま同会議資料として提出し、内部告発者の実名を一般公開されている同会議で参考人を通じて公表させたことは、内部告発者のプライバシー権を侵害するものであるから、実効的な再発防止策を講じるよう警告する。

2014(平成26)年12月19日執行(2013-06号)

福岡刑務所に対する勧告(いわゆる「軍隊式行進」事件)

受刑者を集団で移動させる際、隊列・姿勢・腕を振る角度・発声・歩調等、いわゆる「軍隊式行進」に酷似した行進方法を強制することは、在監目的を達成するための必要最小限度の範囲を超え、受刑者の行動決定の自由を侵害するから、同様の事態発生を防止するよう勧告する。

2014(平成26)年12月19日執行(2012-07号)

福岡刑務所に対する勧告(昼夜間単独室・居室検査事件)

少なくとも1年9か月間、受刑者に対する処遇として、昼夜間単独室での居室内作業を指定していることは、刑事施設処遇法76条に規定された「隔離」と実質的に同じといえ、「隔離」手続の脱法行為であるから、かかる措置を行わないよう勧告する。

また、単独室の受刑者に対し、逃走のおそれがあるとして、毎日または2日に1回の頻度で居室検査を行うことは、その必要性の程度を越えているから、必要以上の頻度での居室検査を行わないよう勧告する。

2014(平成26)年9月5日執行(2011-02号)

福岡刑務所に対する要望(抗不安薬等の投薬中止事件)

受刑者が(他の刑務所などで)従前処方されていた抗不安薬等を、福岡刑務所へ移送後、依存性を理由に突然全面的に投薬中止したことは、適切な医療措置とは言えないから、性急に投薬を中止するのではなく、投薬量の逓減の必要性について慎重に検討するよう要望する。

2014(平成26)年3月13日執行(2012-10,15号)

福岡市長に対する勧告(福岡市禁酒令事件)

市職員に対し、自宅外での飲酒を原則行わないように求めた通知は、個人の自由権を侵害するものであるから、今後、このような通知を発しないよう勧告する。

2011(平成23)年2月24日執行(2008-53号)

福岡拘置所に対する勧告・要望(弁護士宛て信書発信不許可事件)

弁護士宛ての信書に報道社宛ての告発状を同封することを不許可としたことは、刑事被告人の外部交通権を不当に侵害するものであるから、弁護士宛の信書発信(自己の処遇に関する第三者宛ての文書の同封を含む)を妨げないよう勧告する。

職員が被収容者の私物を預かった後、返還を怠り、紛失したことについて、職員は被収容者の私物を預かった場合には責任を持って管理すべきであり、被収容者の私物の管理を慎重に行うよう要望する。

2010(平成22)年12月2日執行(2007-71号)

福岡刑務所に対する勧告(精神安定剤等の投薬中止事件)

入所前に精神安定剤等が処方されていた場合、入所後、安易に薬物の処方を打ち切らないように留意し、既往歴のある受刑者が精神科医の診察を希望した場合には、速やかに精神科医の診察を受けさせて、経過観察を十分に行い、薬物の処方を検討すべきことを勧告する。

2010(平成22)年11月22日執行(2008-59号)

(1)福岡県警察本部に対する警告

ホームレス生活者に対し、所持品を持参するよう指示したこと、DNA型鑑定のための資料収集を行ったこと、居住テント内に立ち入り、段ボール内部を確認したことは、適正な手続を受ける権利を侵害し違法であるから、このような人権侵害行為が二度と行われないよう、本件について十分な調査と実効的な再発防止を講ずるように警告する。

(2)国家公安委員会・警察庁に対する勧告

ホームレス生活者への違法捜査(無令状の承諾による家宅捜索)の再発防止を図り、参考人からのDNA資料採取状況を調査・公表し、実効的な再発防止策をとること、DNA型情報の収集・利用・管理について、収集要件・利用範囲・保存期間・削除請求権・監督機関等を厳格に定めた法案を作成し、国会に提出すること、当該法律が施行されるまで、DNA使用の収集・利用を控えることを勧告する。

2010(平成22)年9月10日執行(2005-09号ほか)

(1)福岡刑務所に対する警告

腰痛を訴える受刑者らに導尿カテーテルを挿入・留置したことは、社会一般の医療水準に照らし不適切であり、個人の尊厳・適切な医療を受ける権利を侵害するから、医師への厳正な措置をとるとともに、導尿カテーテルの使用実態をはじめとするカテーテル医療処遇の調査及び同種人権侵害行為の再発防止の徹底を警告する。

(2)法務大臣に対する勧告

全国の刑事施設における導尿カテーテルの使用実態をはじめとする医療処遇の調査及び同種人権侵害行為の再発防止の徹底、診療体制の強化・必要な制度や予算の構築などを勧告する。

また、被収容者に対する診療記録の開示を制限する訓令は、被収容者の自己情報アクセス権・自己決定権を侵害するので、医療記録を開示するよう訓令の改正を勧告する。

2010(平成22)年4月8日執行(2004-48号)

福岡県立大学教授に対する勧告(アカデミックハラスメント事件)

大学教授が、大学研究者に対し、その業務に再三介入・抗議し、高圧的態度をとり続け、従前の研究活動から下りるよう要求したことは、人格権・個人の尊厳を傷つけ、学問・表現の自由を侵害するから、大学教員の研究活動の自由・名誉・人格権を十分尊重した対応に努めるよう勧告する。