福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2020年3月号 月報

公害環境委員会 荒尾の干潟は世界の宝

月報記事

公害環境委員会委員 後藤 富和(55期)

2019年10月30日、公害環境委員会は熊本県の荒尾干潟の現地調査を行った。

荒尾干潟は、単一の干潟として国内有数の広さを持つ砂質干潟であり、甲殻類、貝類、ゴカイ類などの底生生物や、それらをエサにする水鳥、浅瀬を利用する魚類など多様な生物が生息している。特に、シギ・チドリなど渡鳥のオアシスとなっている。そのため、国際的に重要な湿地として、2012年にラムサール条約に登録された。有明海では初めての登録となり、その後、佐賀県の東よか干潟と肥前鹿島干潟の登録が続いた。福岡県内では未だラムサール登録はない。

ラムサール登録に際しては、湿地を保護することで鳥類が増え漁業や農業に影響が出るといった懸念から地元の漁業者や農業者の理解を得ることが鍵となる。荒尾干潟の登録にあたっては、地元漁協の組合長が荒尾干潟の保全・賢明利用推進協議会の会長に推進するなど準備段階から地元利害関係者の理解が得られており、スムーズに登録が実現した。

2019年8月には、環境省が設置し荒尾市が運営する荒尾干潟水鳥・湿地センターがオープン。年間2万人の来場者を予定しているところ、オープン2か月余りで約7000人が来場している。

荒尾干潟では、環境保護NGOによる子ども干潟観察会や、地元漁協主催のマジャク(アナジャコ)釣り体験、地元高校生による干潟体験など、干潟の価値や保全の必要性などを学習する場が地元市民を中心に行なわれており、この活動はラムサール条約が定める「懸命な利用(Wise use)」として高く評価されている。

今後は、干潟の活用、保全、情報発信を担う人材の育成が課題となるが、荒尾干潟では、地元漁協が積極的に関与していることから、この課題は克服できていると言える。有明海の漁師が長年の経験から得た豊富な知識を市民に伝えることで、市民に対して生きた知識を伝えることができ、漁師にとっても、市民と触れ合うことが喜びとなっている。

荒尾干潟の砂質干潟は、人が歩いても沈み込むことがない。この特徴を活かして、漁師たちはトラクター(テーラー)を使って干潟上を移動して漁をしている。現在、センターでは、テーラーで干潟上の海床路を移動する体験が来場者に人気である。

荒尾市においては万田坑の世界遺産登録と合わせて観光資源として活用しようとの動きも出ており経済的な側面からもラムサール条約登録の効果が現れつつある。

今後は、ラムサール条約に登録された有明海の3つの干潟が連携を取り、行政の枠を超えて生物多様性基本計画の策定も検討するなど画期的な取り組みも期待されている。

福岡県内にも豊かな湿地が多数存在している。福岡県弁護士会は、和白干潟と今津干潟を含む博多湾のラムサール条約登録を求める意見書、曽根干潟のラムサール条約登録も求める意見書を採択している。現在、平尾台・広谷湿原のラムサール条約登録の機運も盛り上がっており、2021年に中国の武漢で開催されるラムサール条約締約国会議において福岡県内の湿地の登録が期待されている。

公害環境委員会 荒尾の干潟は世界の宝
  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー