福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2017年11月号 月報

児童相談所の常勤弁護士となって

月報記事

会員 一宮 里枝子(67期)

1 始めに

私が、福岡県の児童相談所の常勤の弁護士となって半年が経ちました。

朝8時半からの勤務、土曜日曜は原則休みというこれまでとは全く違った公務員生活が身体に馴染んできたころです。

児童相談所と聞くと世間ではどのようなイメージを持たれているでしょうか。子どもを勝手に連れて行くとんでもない行政機関?子どもを守るために走り回っている熱い思いを持った専門家集団?ネットで検索してみると、児童相談所に対する様々な見方があることを思い知ります。虐待件数の増加が取り沙汰されたり、虐待事件が刑事事件となり新聞やテレビで大きく取り上げられることも少なくない昨今、児童相談所の中で弁護士が何をしているのか、ここで少しご紹介させていただきたいと思います。

2 児童相談所での業務
(1) 日常の業務

児童相談所が関わる子どもの問題は、虐待だけでなく、障がい、非行、育成に関することなど、多岐に及びますが、その中で常勤の弁護士の業務は「法的対応」となんとも大きく構えたものになっています。

具体的には、児童福祉法28条審判申立、親権喪失・停止審判申立、未成年後見申立、ぐ犯や触法犯の家裁送致にかかる準備としての書面作成、証拠収集というまさに「弁護士」が常勤で助かる!という業務がまず挙げられます。

そうはいっても、家庭裁判所への申立等は頻繁にあるわけではないので、申立等が想定されそうなケースつまり対応困難なケースに関して、職員からの相談を受けたり、職員と協議したり、保護者との面談に同席したり、市町村・学校・病院等関係機関との会議に出席することが日々の主な業務となっています。福岡県内にある6か所の児童相談所のケースにおいて、このような業務をこなしていくと毎日があっという間に過ぎていく、そのような日常を送っています(もちろん、合間で書面の起案もしています)。

(2) 面談・会議では

子どもの一時保護後、児童相談所に子どもを返せと怒鳴り込んでくる保護者との面談に立ち会うことがあります。虐待の疑いがあることを伝えてもわかっていただける保護者がいることは稀で、勝手に連れて行ったと怒鳴り散らされることがほとんどです。また、ネグレクトの疑いがある保護者、一時保護中の子どもの保護者、施設入所中の子どもの保護者等、様々な保護者と面談をします。言ってもいないことを弁護士に言われたと申し立てる保護者がいたり、どこに地雷があるかわからずふとした一言で怒りが沸点に達する保護者がいたり、児童相談所への恨みつらみを聞かされることばかりです。「普通、大人になってこんなに人に怒られることないよなー」と思いながらも、粘り強く面談を続ける日々です。

病院や学校、市町村との会議では「児相は何も動いてくれない」という不満が充満した状態で、私が参加することになります(まさに、9回ツーアウト満塁のピンチでマウンドに上がるピッチャーです。)。関係機関の方は、児童相談所が強大な権限を持っているかのように勘違いをされていたりしますので、児童相談所としては何が出来て、そのためにどういう要件が必要かをお話しします。そして、児相に投げたら終わりではなく、関係機関の皆様にも連携して動いてもらわなければならないと理解していただくこと、このようなことを訴えるのが私の役目となっています。

このように、どこに行っても「嫌われ者」の児童相談所の職員として、あらゆる場所で色々言われ、その時はさすがに腹が立ったり後悔することがないわけでもないですが、なぜか、とてもやりがいを感じています。それは、職員一丸となって同じ思いでケースに対応していることが大きいのではないかと思っています。

(3) 中に入って感じること

児童相談所の中に入って大変驚いたのは、私が行っているような弁護士が必要とされる対応を、これまでは職員が行っていたという事実でした。平成28年度の福岡県(福岡市、北九州市は除く)の6児童相談所での相談対応件数は、2300件と発表されており、年々増加傾向にあります。職員は、泣き声通告、虐待通告があれば安全確認に駆けつけ、朝から夜まで休む間もなく走り回っています。そのような日々のケース対応に追われながら、慣れない手続にも対応していたのだと思います。そういう意味で、(私が役に立っているかどうかはさておき)常勤弁護士の設置は大きな意味があったのではないかと実感しています。

私は、常勤となる前は、子どもの権利委員会の有志の弁護士で結成された協力弁護団の一員として児童相談所に関わっていましたが、定期的に児童相談所を巡回して職員の法律相談を受けることがメインで実際ケースに直接関わることはありませんでした。

弁護士から初期からケースに関わることで、その後の手続が適切かつ迅速に遂行できればと願いながら日々の業務を務めていきたいと思いっています。

3 これからも

この半年間、弁護士一人では多様な問題に対応することに不安もあり、私一人では解決できないこともありました。そのような時は、子どもの権利委員会の先生方、他児童相談所の先生方にサポートいただきながら、乗り切ってまいりました。この場をお借りして、サポートいただいた先生方にはお礼申し上げます。

これからも、様々なケースへの対応が求められると思います。毎回悩むことばかりですが、悩みながらも最善の対応ができるよう職員と一丸となって、子どもの福祉のため尽力したいと思います。

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LAWASIA東京大会2017に行ってきました!

月報記事

会員 柏熊 志薫(60期)

わたくし、支援を受けられる若手弁護士の枠に辛うじて滑り込むことができ、去る9月19日~21日、LAWASIA 東京大会2017に出席する機会をいただきました。

LAWASIA(The Law Association for Asia and the Pacific)とは、1966年に設立された、アジア・太平洋地域(ESCAP)の弁護士・裁判官・検事・法学者・法律専門職等が参加している団体です。今年は14年振りに東京で開催されたということで、開会式には皇太子ご夫妻もご列席され、歴史ある国際会議であることを肌身で実感しました。

会場には、日本だけではなく、中国、韓国、台湾、香港、マレーシア、シンガポール、インド、スリランカ、オーストラリア等からたくさんの法律家が来て、熱気で溢れていました。ビジネス、公益、刑事、人権、家事等の様々なセッションが用意されており、どれも興味深かったのですが、残念ながら体は一つしかなく・・・。普段の業務に密接に関連する、養育費や高齢者対応や、子どもの権利等のセッションに参加してきました。

各セッションは、その分野の専門家である各国のスピーカーが自国の法制度や直面する課題について報告し、コーディネータも交えて参加者との質疑応答や議論を行っていく形式になっていました。その一つ一つを語ると長くなってしまうので、印象に残ったお話をいくつかご紹介します。

<養育費の受け取りを保障するための制度>

日本では、養育費は当事者間で協議(合意)ができない場合は家庭裁判所が決定します。

ところが、オーストラリアでは行政機関が金額を決定し、その決定金額に不服がある場合に裁判所での手続が取られます。また、行政機関への申請はオンラインでできるようになり、迅速に金額が決まるようなシステムが出来ています。

そして、実際に子どもを監護養育している者に養育費の申請権があり、例えば、祖父母が孫を育てている場合には、祖父母が、父親と母親双方に対して養育費を支払うよう申請することができます。

さらには養育費と税金や年金は連動しており、養育費が不十分な場合には公的補助が受けられる一方、基準額以上の養育費を受け取っている場合には年金が減額されるなど、子どもの養育が、その両親任せにされるのではなく国や自治体の制度として組み入れていました。

<各国の後見人制度について>

日本をはじめとする東南アジア諸国では、本人の判断能力の程度に応じて、補助する役割を持つ人に代理権や補助権を与え、また、財産管理の責任を負わせる制度があります(日本では後見・保佐・補助に該当します。)。そして、後見人による不正行為(資金の着服や横領)が横行しているのは各国共通する問題でもありました。

セッションの中では、さらに仮想事例<認知症ドライバーが事故を起こした場合の法的責任は誰が負うか>について議論されました。

日本や台湾等は一般の不法行為制度に基づいて、本人に責任能力がない場合は家族の監督責任の問題が生じます(必ず責任を負う訳ではありませんが、問題にはなり得ます)。オーストラリアでは、家族に責任を負わせるのではなく、国家が保障するべきであるという価値判断の下、保険や公的制度で賠償を行っていくということでした。

「誰もが高齢者になり、また、高齢者を抱える家族にもなる可能性があるのに、なぜ個人や家族に責任を負わせるという議論が存在するのかショックだ」というオーストラリアのスピーカーのコメントがありました。

日本も超高齢化社会に突入し、高齢者ドライバーによる事故が後を絶ちません。ただ、公的制度で補償するということは国民の税金で負担することを意味しますから、日本でコンセンサスを得るにはまだ時間がかかりそうです。

<子どもと家族をめぐる移民の問題>

ドイツの弁護士より、自国での移民の受け入れ政策について紹介があり、シリアの難民の子どもがドイツに行った後、離れ離れになった親との再会をドイツで保障するか否かは、「出入国管理」と「子の最善の利益」の利益衡量になるという話がありました。

今、ドイツは難民問題への対応が国家的な課題になっていて、ニュースでも取り上げられているように、政権の帰趨に影響する重要な施策の一つです。

このセッションで、私がとても印象深く感じたのは、最後にインドの弁護士が意見を述べた場面でした。

「利益衡量によって、《保護される子ども》と《保護されない子ども》が出てきてしまう。人道的視点が後回しになってしまわないか?」

「ロヒンギャの問題に直面している。迫害を受けている子どもたちを前に、国の政策を理由にして限界があると言っていいのか?」

<さいごに>

人種、地域、宗教、歴史的背景、経済水準等を異にする各国の法律家同士の議論は、聞いているだけでも鳥肌が立ち、迫力がありました。

さて、このド迫力の国際会議での議論をどうやって聞いたのかって?

そりゃあ、英語を勉強し直しました。My English is rusty. から始めて。でも、全部のセッションで同時通訳がついていましたけど(笑)。

最後に、この大会参加のための支援(費用補助)をしてくださった日弁連と弁護士会、そして、事務所と家を丸3日間空けるにもかかわらず、快く送り出してくれた事務所メンバーと家族に感謝致します。ありがとうございました!

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必要なのは語学力ではなく、声を掛けるほんの少しの勇気である! −初めての国際会議に参加して−

月報記事

国際委員会委員 奈倉 梨莉子(68期)

(1) はじめに

去る平成29年9月18日から21日、ホテルニューオータニ東京にて、LAWASIA東京大会2017大会が開催されました。

LAWASIAとは、アジア・太平洋地域の弁護士・裁判官・検事・法学者・法律専門職等が参加する団体であり、年に一度、持ち回りで各国の法律家が一堂に会する年次大会を開催しています。ローエイシアの年次大会が日本で開催されるのは、1945年の第4回大会、2003年の第18回大会に続いて3回目とのことで、私自身、LAWASIAの登録会員ではありませんが、この度日弁連及び当会の若手支援制度を利用して、本大会への参加が叶いました。本稿では、初めて「国際会議」なるものに参加した者の目線で、その魅力を少しでもお伝えできればと思います。

(2) 公式セッション

本大会では、34の公式セッション(1セッション90分)が用意されており、各セッションでは、各国の司法制度やビジネス法、国際人権問題など各国に共通する問題をテーマに、各国のスピーカー(通常4,5名)による報告、またそれに対する他のスピーカーや受講者との間の意見交換が行われました。各セッションでは、基本的に英語が使用されますが、全てのセッションに日英同時通訳がつくため、リスニングがあまり得意でないという方も心配はありません。私は、4日間を通じ、計7つのセッションを受講致しましたが、中でも最も印象的だったのは、「移民をめぐる諸問題~とくに『家族』と『子ども』に焦点を当てて」と題するセッションを受講したときのことでした。同セッションでは、ドイツ人法曹によりスリランカにおける海外への出稼ぎ女性家事労働者の問題についての報告が行われたのですが、これに対し会場にいたスリランカ政府関係者の受講者から、ドイツ人法曹が報告のベースとした報告書の公表後スリランカにおける出稼ぎ女性家事労働者の問題は大幅に改善されており、残された子らへの支援も十分に施されているという趣旨の10分以上に亘る猛烈な反論がなされたのです。どちらの言い分が正しいのかということではなく、ある国の抱える問題点を他国から観察した場合と自国の内側から見た場合にどのように違って見えるのかを知り、またリアルタイムの情報を得ることができる点も国際会議の醍醐味の一つではないかと思います。

(3) 外国人法曹との交流

LAWASIAでは、公式セッションのほか、私のように初めて国際会議に参加した若手のためのビギナーズイントロダクションや外国人法曹のためのアクティビティ(皇居ランや大相撲秋場所の観戦等)も用意されていました。また各セッションの合間には、コーヒーブレイクの時間が30分間設けられており、このコーヒーブレイクの時間こそ、国際会議ならではの体験ができるのではないかと思います。面識のない初対面の相手からの「コーヒーにミルクは使いますか」という一言から会話が始まり、「どこの出身か」、「名刺を交換しましょう」、「専門は何か」、「どのセッションが興味深かったか」とどんどん会話は広がっていきます。当然、この間の会話には通訳はつかないため、コーヒー片手に何とか自力で会話をしなければなりません。初日には、中々コーヒーブレイクの時間に馴染めなかった私も、最終日には、臆せず自分から話しかけられるほどになりました。

また3日目の夜には、ガラディナーというパーティが開かれ、約1600名の出席者が盛装して参加しました。9~10名で1テーブルを作り、ディナーを共にします。ディナーの途中には、日本人書道家による書道パフォーマンスが行われ、大いに盛り上がりました。

(4) おわりに

今回、LAWASIAに参加して、語学力もさることながら、近くにいる見ず知らずの誰かに一言自分から話しかける勇気を持つこと(馴れが重要)、そして何よりも伝えたい「何か」(参加の目的や自身の専門性など)を持つことが大切であると感じました。いつか、本大会で出会った誰かともう一度国際会議で再会できればと夢見ています。

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大連律師協会との交流会IN大連

月報記事

会員 中村 亮介(63期)

9月21日木曜日から23日土曜日まで、中華人民共和国遼寧省大連市を訪れ、大連市律師協会との交流会を行いました。当会からは、作間会長をはじめとする県弁護士会執行部を中心に総勢20名が大連を訪問しました。

9月21日。13時10分、福岡国際空港に集合し、中国国際航空の飛行機で福岡を発ち、約2時間後に大連空港に到着しました。

当会訪問団が大連空港に到着すると、大連律師協会の副会長と劉挪先生がお迎えに来てくださっていました。

今回滞在するホテルは九州国際大酒店。このホテルの「九州」という表記とはまさに日本の九州をさしているとのことです。少し脱線しますが、もともと大連は1899年にロシアが開発を始めた都市で、当時はロシア語で「ダリニ」という名前だったそうです。その後日露戦争での日本勝利をきっかけに、1905年、日本に統治権が移り、日本が都市の名前を「ダリニ」から「大連」に変更しました。それから終戦まで、大連は日本によって開発が行われた都市で、今でも当時の建物が市街地に残っていますし、また市民も非常に親日的です。

さて話を訪問記に戻します。私たち訪問団は夕方17時30頃ホテルに到着し、その後、「天天漁港」という海鮮料理で有名な店で大連の美味しい料理に舌鼓を打ちながら明日の交流会に向けて団結を強めました。

22日金曜日。午前9時30分、ホテルを出発し「大連商城集団」を訪問しました。「大連商城集団」はかつて九州にもあった「マイカル」を買収した会社で、中国で「麦凯乐」(中国語で「マイカール」と発音します。)を運営しています。その経営理念は「无限发展无微不至」。日本語に翻訳すると「無限に発展し、至れり尽くせりのサービスを。」とでもいいましょうか。中国企業らしい経営理念ですね。。

続いて私たちは、日系の国際物流会社「捷尼克国際物流(大連)有限公司」を訪問し、その会社の総経理さんから、現在の事業状況についてお話を聞くことができました。

昼食後には、弁護士総数120名を超える「法大法律事務所」を訪問しました。その後、大連棒棰島酒店に移動して交流セミナーが開催されました。福岡側からは中原幸治先生が外国人の対日投資について、原隆先生が日本での外国判決・仲裁判断の執行について発表し、大連側からも独占禁止法に関する発表がありました。その後は晩餐会が催されました。大連の弁護士からたくさんの白酒を注がれ、歌や踊りも披露され、最後は福岡側と大連側とで「北国の春」の中国語版を歌って終わりました。その後カラオケに行きました。

23日は午前中に大連を発ち、昼過ぎには福岡に帰ってきました。

今回の訪問は前回の日程と比べて1日短い2泊3日コースで、大連の街をぶらりと観光する時間もなかったのが少し残念でしたが、私自身、無事に作間会長のご挨拶や原隆先生のセミナーの中国語通訳という役目を果たすことができてよかったです。

来年は大連の弁護士さんたちが福岡にやってくる番です。

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