福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2006年3月号 月報

全国一斉先物取引被害・外国為替証拠金取引被害110番報告

月報記事

会員 柳 教 日

一 全国一斉先物取引被害・外国為替証拠金取引被害一一〇番について、ご報告させていただきます。

福岡部会及び筑後部会では、平成一八年一月二六日と二七日の両日に、北九州部会では、同月三〇日に、全国一斉先物取引被害・外国為替証拠金取引被害一一〇番の電話相談が実施されました。

二 全部会の相談件数は、合計五六件に上りますが、取引別の内訳は、先物取引被害相談が四四件、外国為替証拠金取引被害相談が二一件、その他が一六件となります。今回の相談件数は、例年よりも多かったとのことです。

なお、北九州部会では、ライブドア株主からの相談が、八件ありました。インターネットの一部HPで、相談に乗ってもらえるような記載があったためらしいとのことです。

三 相談者の年齢層は、確認された限りでは、三〇代が四件、四〇代が五件、五〇代が一一件、六〇代が一〇件、七〇代以上が七件となります。

当然のことながら、先物取引被害・外国為替証拠金取引被害に遭うには、ある程度の蓄えがあることが前提になりますから、相談者の年齢層が五〇代以上に偏ることになりますが、しかし、その蓄えたお金は、老後の生活の糧としての意味があることを考えると、被害は深刻といえます。

四 被害額についてみると、九九万円以下が四件、一〇〇万円以上四九九万円以下が一三件、五〇〇万円以上九九九万円以下が一〇件、一〇〇〇万円以上一九九九万円以下が七件、二〇〇〇万円以上二九九九万円以下が二件、三〇〇〇万円以上四九九九万円以下が五件、五〇〇〇万円以上九九九九万円以下が二件となり、高額の被害が目立ちました

取引別・年齢層別の被害額の特徴についてみると、外国為替証拠金取引では、九九九万円以下が主流を占めるのに対し、先物取引においては、被害額が数千万円単位に上るものが散見されました。

もっとも、外国為替証拠金取引被害では、会社が倒産しているため、損害の回復については微々たる金額で甘んずるしかない事例が多くありました。

先物取引被害では、前述のように被害額が数千万円単位に上るのが散見されましたが、加えて、このような高額の被害者が高齢者に偏っているという特徴があります。

五 以下、若干の感想を述べたいと思います。

まず、外国為替証拠金取引被害相談では、前述のように会社が倒産している事例の場合、相談者が期待するアドバイスができず、相談者のため息を聞きながら、不甲斐ない気持ちになりました。相談者の側から素朴に考えると、会社が倒産したとしても、彼らが出したお金は燃やさない限りどこかにあるはずですから、そのお金を返してほしいと思うのは当然だと思います。彼らを救う手立てが考え出されて然るべきなのでしょうが、しかし、如何せん知識、経験不足ゆえ、私には、良い考えが浮かびません。

次に、電話相談されたほとんどの方が、取引の仕組みを理解していないようにみえ、そもそも、なぜ、高度な専門的知識と経験が必要な先物取引や外国為替証拠金取引が一般人を相手に堂々と行われているのか、という疑問を深くしました。欧米諸国では、先物取引を行うのは、八割が専門業者なのに対し、日本では、一般人が八割を占めているとのことです。法制上の欠陥があるように思われるのですが。

最後に、短時間で相談者の話を聞き取り、事案を把握することの難しさを実感しました。ベテランの先生方が横について、適切なアドバイスをしてくださったのですが、それがなかった場合を想像すると、ぞっとした気分になりました。

先輩の諸先生方、ありがとうございました。

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公設事務所IT日記

月報記事

島根県弁護士会会員 田上 尚志

お久しぶりです。元?HP委員会の田上です。去年の一月から島根県浜田市の浜田ひまわり基金法律事務所に派遣され、はや一年間が過ぎました。島根県は、東部の出雲地方(県土の三分の一、県民人口のおおよそ六〇パーセント)と西部の石見地方(県土の三分の二、県民人口のおおよそ四〇パーセント)に分かれています。浜田市は、石見地方の中心都市です。もっとも、出雲地方は、松江城や小泉八雲など、観光地として有名で、県庁所在地でもある松江市や、出雲大社などがあり、結構観光客などで賑わっています。これに対して、石見地方は……。あっ、津和野は島根県です。断じて山口県ではありません。まあ、とにかく、島根では出雲に比べて石見が地味な印象があることは否めません。これが弁護士の分布ということになると、登録三二名中二六名が出雲地方、これに対して石見はわずか五名です。決して計算を間違えたわけではなく、もう一人は隠岐に事務所を開いています。

こんな事情の島根県浜田市ですが、一年間暮らしてみて、弁護士過疎地では都市部以上にITの活用が必要というか不可欠なのではないかと思う今日この頃です。  その理由として、第一に、石見地方は過払い無法地帯です。今まで弁護士がおらず、相談に行くところがなかったからか、過払金返還請求権の桁が違います。統計を取っているわけではないので多分に感覚的なものですが、少なくとも半数以上が純粋に過払い元金だけで訴額一四〇万円を超えていると思います。サラ金業者が開示した取引履歴にS五八…とか、S五九…という文字がしばしば躍ります。過払い金計算ソフトがなければとてもやってられません。

第二に、移動が多く、しかも時間がかかるので、待ち時間を有効に活用するには小型軽量のノートパソコンが必需品です。県庁所在地が松江なので、裁判で松江に行く機会も多いのですが、松江と浜田を結ぶ特急は一日に七本しかありません。博多までJRの特急が二〇分おきに発車し、三〇分おきに天神まで西鉄の特急が発車していた大牟田時代が夢のようです。二枚切符や四枚切符など、あるわけがありません。私は浜田市ではなく、妻の実家がある隣町の益田市に住んでいるのですが、最初の松江出張のとき、「松江までの四枚切符を下さい」と駅員さんに言ったら、「そんなものはありません」と言われてしまいました。「福岡にはあったのですが」と食い下がったら、「うちはJR西日本ですから、JR九州のことは知りません」と返答されました。もっともなことです。こんな状況なので、期日が終わっても列車(電化されていないのです)の時間まで一時間半くらいあるということもしばしばです。そんなときは、裁判所の弁護士待合室で起案に励む時もあります。また、なにしろ島根県には弁護士が少ないので、私のような登録後間もない者でも、日弁連の委員に選任されます。東京に行く際、出発時間の関係で寝台特急のサンライズ出雲を利用し、移動時間中に寝台車の個室の中で起案することもあります。最近、私のノートパソコンに重要な周辺機器が加わりました。USB接続の一二〇GBハードディスクです。判例秘書のデータが丸ごと入ります。USBから電源も供給するので、ACアダプタも不要です。これに判例秘書のデータを入れて持ち運べば最強のモバイル環境でしょう。

げっ、延長コードを持って来るのを忘れた!。

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最高裁は何故期限の利益喪失特約でみなし弁済の成立を否定したのか

月報記事

会員 本田 祐司

一、最高裁第二小法廷平成一八年一月一三日判決、同第一小法廷平成一八年一月一九日判決及び同第三小法廷平成一八年一月二四日判決は、「元本又は利息の支払を遅滞したときには、当然に期限の利益を失い、直ちに元利金を一時に支払う」という期限の利益喪失特約は、「債務者に対し、支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の利益を喪失し、残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え、制限超過部分の支払いを事実上強制する特約であるから、この特約の下で、債務者が、利息として、制限超過部分を支払った場合には、右のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り、債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない」と判示し、この特約に基づく支払いにみなし弁済(貸金業法四三条)の成立を否定した。

債務者に右のような誤解が生じなかった場合には、右最高裁判決によっても、なお、みなし弁済は成立することになるが、制限超過部分を支払わなくとも期限の利益を喪失しないことを正確に理解している債務者が、あえて制限超過部分を支払うことは通常はないから、今回の最高裁判決は、みなし弁済規定が適用される場面が事実上はないことを認めたに等しい判決である。

二、これまで、これと同一の争点が下級審の裁判所で争われたことは何度もあったが、高等裁判所を含め、これまでの下級審裁判所の判決は、ことごとく、右特約に基づく支払いに任意性を認め、みなし弁済の成立を認めるものであった(最高裁平成一六年二月二〇日判決の補足意見で滝井裁判官が、初めて、今回の最高裁判決と同一の判断を示したが、それまでは、この争点で債務者が勝訴するなどとは誰も考えていなかった)。

その意味で、今回の最高裁判決は解釈が固まっており、ほとんど異論のなかった多数の裁判所の判断を一八〇度変更したものであり、異例中の異例の判断である。

最高裁が、今回、このような思い切った判決を書いた理由は、次に述べるとおり、貸金業法のみなし弁済規定が、あまりにもできの悪い法律であるために解釈で救うことには限界があったためであると思われる。

三、貸金業法は、貸金業者に、契約書面と受取証書に高利の約定が有効であることを前提とした記載を求め(貸金業法一七条、一八条)、高利の約定が有効であることを前提とした業務を営むことを求めている。そして、この義務を遵守した貸金業者にみなし弁済の恩典を与えている。一方、貸金業法は、貸金業者に、利息制限法に従った業務を営むよう求めてはいない。したがって、現行の貸金業法の下では、高利の貸金業者が高利の約定が有効であることを前提とした業務を営むことはむしろ当然のことであり、期限の利益喪失の特約についてもしかりであった。

これまでの下級審の裁判所は、高利の約定が有効であることを前提とした業務を忠実に営んでいる貸金業者にみなし弁済の恩典を与え続けてきたのである。

しかしながら、高利の約定が有効であることを前提とした貸金業者の業務は、期限の利益喪失特約の適用場面で論理的に破綻をきたすことになる。「高利の約定それ自体は、みなし弁済の成立によって有効とみなされる」が、「高利を前提とする期限の利益喪失特約は、たとえみなし弁済が成立しても有効とはならない」ので、期限の利益喪失特約を文言通りに適用する業務は、貸金業法上も違法だからである。このことは、「債務者が約定の利息支払期日に制限額は上回るが、約定額には不足する利息しか支払えなかったケース」を想定してみれば明らかなことであって、貸金業者の高利の約定の有効を前提とする業務と期限の利益喪失特約とは、どうしても両立し得ない関係に立つのである。

四、制限超過利息の約定は制限超過部分につき無効であるが、これを任意に支払えば有効とみなされるというみなし弁済規定では、制限超過部分の不払いによる期限の利益の喪失を説明できないのである。

今回の最高裁判決は、弁護団が最高裁に対して、右の理論的説明をしつこく求め続けたことと、最高裁がこの点の矛盾にようやく気付いてくれたことの成果ではないかと思われる。

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英国留学帰国報告(後編)

月報記事

会員 松井 仁

留学報告の最後になる今回は、留学全体を振り返っての感想や裏話を、質問と答え形式で書きたいと思います。将来留学したいと考えている方の参考にでもなれば幸いです。

一 そもそも、なぜ留学したのか?

ロンドン大学にも、日本人弁護士は数人留学してきていましたが、皆、東京の渉外事務所からの派遣でした。そういう人たちからも、よく「なぜ自腹を切ってまで留学するんですか?」と聞かれました。また、弁護士以外の人からは「いっぱい勉強して司法試験にも受かって弁護士の資格があるのに、またわざわざ大学に行くのはなぜですか」と言われました。あえて答えると、「趣味」としか言いようがありません。大学のころから、留学することは私の夢だったのです。また、弁護士になってからも、私は趣味で英語の勉強を続けていましたが、やればやるほど、一度本場で、基本から英語を勉強しなおしたい、そして正しい法律英語を覚えたい、という思いが募っていたのです。

二 なぜアメリカでなく英国だったのか?

実をいうと、第一の理由は、ついでにヨーロッパ中を旅行して回りたい、という不純な動機でした。私は、弁護士になって毎年どこかへ海外旅行に行っていましたが、ヨーロッパには一度も行っていませんでした。それは、英国留学のときのためにとっておいたのでした。第二の理由は、英国の歴史と街並み、田舎の風景に憧れていたからです。先に留学されていた九大の大出教授や当会の池永先生の影響もあるかもしれません。イギリス英語も、アメリカ英語に比べればどこか知的な雰囲気がして格好いいと思いませんか? しかし、それでも、「アメリカに行って弁護士資格をとるべきだ」というアドバイスを周りから受けたときは心が揺れました。アメリカではLLMに一年行ったあと、弁護士資格がとれますが、英国では少なくとも四年はかかります。しかし、そのころお会いした新潟大の鯰越教授から「人権ならアメリカよりヨーロッパだ」と聞き、ビジネスロイヤーになろうかという邪まな考えを捨て、趣味を貫く決意を固めました。

三 木上法律事務所でかかえていた仕事はどうしたのか?

それを言われると本当に心が痛みます。事務所を出て留学するという勝手な行動を寛容に許していただいた木上先生や、事務所での私の担当事件を引き継いでいただいた増永先生、徳永隆志先生、張替先生、大倉先生、そして留学中の事務的なことを担っていただいた事務局の皆様には、感謝してもしきれません。また、個人事件については、留学の約一年前から当番弁護士、国選、法律相談センターの当番を免除していただいたおかげで随分減ってはいましたが、なお残っていた事件は大倉先生に引き継いでもらいました。さらに、弁護団関係では、HIV訴訟で原田先生に、中国残留孤児連れ子訴訟で大塚先生と大倉先生に、国際委員会では、上田秀友先生に外国人リーガルサービスセンターの仕事を、それぞれ引き継いでいただきました。

この他にも、ご迷惑をおかけしてしまった人はたくさんおられ、これらの方々の協力なくして、留学はできなかっただろうと思います。

四 大学に入学を認められるのは難しかったか?

英国の大学には入試はありません。自分の出身の大学の成績表と、恩師や先輩弁護士による推薦状を願書に添付して申し込めば、よほどのことがない限り、学術面では合格します(弁護士資格を有することも大きなプラス要因です)。ただし、曲者なのは、一定の英語のレベルが要求されることで、法学部は特に要求される英語テストのスコア(TOEFLE や IELTS)が高いのです。しかし、多くの大学が英語のできない留学生のための基礎コースを準備しています。ですから、二年の留学期間があれば、ほとんど英語ができなくても、最初の一年目は基礎コースに行き、二年目にLLMに進学するということは十分可能です。私もそうだったのです。

五 費用はどのくらいかかったか?

私たちは夫婦二人で留学し、どちらも二年間大学に通いました(妻は、児童文学の修士コース)。結果的に、二人合わせて、一年間あたり貯金が約一〇〇〇万円も減りました。具体的には、一年間の学費が約四〇〇万円(書籍なども含み一人当たり約二〇〇万円)、家賃が二四〇万円(一ヶ月二〇万円)、食費が約一二〇万円(一ヶ月約一〇万円)、光熱・通信費が約六〇万円(一ヶ月五万円)、交通費が約二〇万円(一ヶ月約一万七千円)、日本で払っている弁護士会費が約六〇万円(一ヶ月約五万円)、国民年金等が約四〇万円、残りの六〇万円(一ヶ月五万円)ほどが娯楽費ということになります(旅行のときは、これをオーバーすることも多いですが)。

私たちの方針は、できるだけ留学を楽しむということでしたので、家は環境のいい郊外の街の一軒屋の二階部分(一ベットルームだが六〇平米ほどある)を借り、外食も時々しましたが、特に贅沢な暮らしをしていたわけではありません。とにかくロンドンの物価は高いのです(世界一と言われており、実感としては福岡の二倍くらいです)。

もし、ロンドンを避けて地方都市の大学に留学し、単身で大学の寮に住み、外食は原則として学食だけという生活をすれば、一人当たり、一年間で三〇〇〜四〇〇万円くらいで済ませられるかも知れません。

六 旅行はたくさん行けたのか?

旅行はこの留学の大きな目的のひとつでしたが、学期中は、予習や宿題に追われて、旅行に行く暇はなかなかありませんでした。しかし、長めの春休み、夏休み、冬休みには、できるだけ旅行に行くようにしました。英国内では、ウィンザーやグリニッジなどロンドンの郊外や、日本人に人気のコッツウォルズや湖水地方、大学町オックスフォードやケンブリッジ、英国の庭園と呼ばれるケント州など。ヨーロッパでは、フランス、スイス、オランダ、スゥエーデン、イタリア、スペイン、ベルギーを夫婦で旅行し、昨年六月に双方の両親が来たときにはヨーロッパをユーレイルパスで三週間の鉄道旅行をし、上記に加えてドイツ、オーストリア、ハンガリーまで足を伸ばしました。この家族旅行では、私たちが案内役を務め、今回の留学で心配をかけている親への罪滅ぼしをすることができました。

七 留学して得られたものは?

前回、大学の授業によって視野が広がったこと、世界各国からの友人を得られたことは書きました。それに加え、今回の留学は、私にとっていろいろなものを「見つめなおす」ことのできた貴重な機会であったと思います。

まず、自分自身を見つめなおすことができました。私は、それまで日本で弁護士として一〇年余り生きてきましたが、世間は、「弁護士」という肩書きを持つ者に一目おき、私もその恩恵を被っていました。しかし、留学中は、私は一人の学生に戻り、しかも英国では民族的少数者でした。そこでは肩書きは関係なく、一人の裸の外国人として他人と交わっていかねばならず、今まで認識していなかった自分の欠点にも気づかされました。次に、日本を見つめなおすことができました。日本にいるときは、英国は紳士の国、大人の国というイメージが先行し、すばらしい国であるかのように思っていましたが、実際住んでみると、そうとは限らず、日本の優れた点をいろいろ発見しました。最後に、法律家の仕事を見つめなおすことができました。日本で日々のルーティンワークをしていると忘れてしまいがちな、法というもの奥深さや面白さが再確認できました。

もう少し早く留学しておけば、もっと英語の覚えもよかっただろうとは思いますが、三六歳での留学でも、使った時間とお金に見合う十分な意義があったと思います。皆さんも、ぜひ留学されることをお勧めします。

長い間読んでいただき、どうもありがとうございました。

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