福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2004年1月号 月報

犯罪被害者支援研修

月報記事

恒川 元志

弁護士登録して1か月ほど経った11月12日、われわれ新入会員弁護士は弁護士会館3階ホールにおいて犯罪被害者支援研修を受講しました。一昔前には犯罪被害者は刑事訴訟において忘れられた当事者とまでいわれておりましたが、現在においては被害者保護に関する法令の整備も少しずつ進んでいるところです。ということで近年注目の分野の1つであると思いますので、気を引き締めて研修に参加させていただきました。

今回の研修で配布された資料の中に、西日本新聞の見開き1枚の大きなカラーコピーがありました。おぉ、よく見ると何枚かのコピーを糊付けしてつなぎ合わせてあるではないですか。私はその内容のわかりやすさもさることながら、まずは関係者の方々の研修資料作成の努力に感動してしまいました(事務所には内緒ですが、時間を間違えて30分早く会場に到着してしまいましたので、じっくり目を通させていただきました)。

研修が始まると、まずは福岡県警本部犯罪被害者対策係主任で臨床心理士の加藤友香さんから、県警の犯罪被害者相談電話受付をする「ミズリリーフライン」の説明と、そこによく相談があるドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者を中心とした説明がありました。加藤さんには検察修習中にもお話を聞く機会があり、近年の流れから市民の味方の県警としても力を入れられておられるのだと思いました

次に、郷田真樹先生から、犯罪被害者支援の一般的な注意点と、被害者の代理人となった場合の刑事・民事事件での役割、加害者の弁護人・代理人の役割について丁寧な説明がありました。また、具体的な用例を挙げて、被害者の意思を尊重せずに援助者個人の価値観を押しつけるだとか、被害者の側に落ち度があると責めるだとかの悪い対応例も紹介いただきました。

最後に、特定非営利活動法人福岡犯罪被害者支援センター理事長の内川昭司先生から同法人の概要等について説明がありました。同センターは弁護士だけでなく、医師、臨床心理士、社会福祉士、大学研究者等の専門職の方々と、専門的研修を受けた市民ボランティアの方々で成り立っているとのことでした。また、実際の事件で遺族の方が書かれた文章を紹介いただきましたが、そこには遺族の心境や事件後の環境変化、家族が立ち直るまでの過程等、リアルに描かれており、犯罪被害者支援の重要性とその困難さを改めて認識する事ができたように思います。

その後、質疑応答の時間がもうけられ、われわれ新入会員の質問に対し、途中から参加された萬年先生らが豊富な経験を踏まえられた的確な回答をされていました。 これまでの私にとって犯罪被害者保護といっても机上の空論でしかなかったのですが(本稿執筆段階でも未だ扱ったことはないですが・・・)、今回の研修を通して、犯罪被害者が受ける具体的な被害を考えることができたと思います。研修の途中まで、犯罪被害者支援委員会とミズリリーフラインとの関係は?犯罪被害者支援センターとの関係は?などと、実際自分がどのようにこの分野に携わっていくのか疑問だらけでしたが、研修が終わり、懇親会を経てなんとか研修を受けたといえる程度までには理解できました。

法曹関係者以外の方から、どうして悪者の見方をするのかという質問をよく受けますが、それに対する誤解を解くとともに、被告人だけでなく被害者の支援もしているのだということをもっとアピールしていくことも大切なのではないかと思いました。これからは今回の研修で学んだことを生かして、犯罪被害者の支援に貢献したいと思います。

最後になりましたが、お忙しい中われわれ新入会員のために講義していただきまして、ありがとうございました。

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少年非行と更生支援

月報記事

八尋 八郎

弁護士業務委員会の「弁護士に未来はあるか」シリーズ(第3弾)として、昨年12月4日に話をさせて頂いた要旨は次のとおりです。

私は少年事件が多い年には20件くらいあり、10余年前には全国の年間付添人選任件数の1%を越えたことがあります。少年に付添人選任届を書いてもらうときには誠実に精一杯の活動を誓うので、少年の意に反して「少年院に送ってほしい」という付添人意見を述べることはありません。面会と文通を重ねるなかで少年の自分史のなかに本件非行を位置づけ、非行の原因と対策を少年と一緒に考えてゆきます。

また、少年には鑑別所では行動観察という態度評価が行なわれるのでキチンとしておくように伝え、保護者には社会資源(家庭・学校・職場などの少年の更生を支えるもの)の再構成と開拓にフル回転するよう求めます。これらがうまく噛み合えば少年は社会内処遇を受けることになるのですが、その場合にも少年には再非行の抽象的危険は残ります。それで「野獣を野に放つものだ」という批判を甘受しています。とはいえアッサリと少年院に送るよりはギリギリで社会内処遇にした方が再非行の危険性は低く、予\後が良いように思います。

付添活動が奏功せずに少年院に送られたときには、一日潰して面会に行き「少年院の処遇プログラムどおりにしっかり勉強して元気に戻ってほしい」と伝えます。やがて仮退院した少年が事務所に来ます。背筋をピンと伸ばして私の目を見て「ありがとうございました。これから頑張ります」と言うと少し嬉しくなるのですが、今どき運動部の子だってこんな挨拶はしないのです。暗くて反抗的なままでよいから少年院で運転免許くらい取らせて欲しかったと思うのです。免許があれば就職先が広がり生きてゆく役に立つのです。

虐待と少年非行には高い相関があります。虐待に限らず、貧困・離婚などの負因と少年非行とのあいだにも高い相関があります。だからといって親を処罰したところで何も始まりません。逆に出生率が低下するなか産んでくれてありがとうと言うべきです。国がさまざまな負因を抱えた弱い親を支援できれば子どもの役に立つのですが、財政赤字で窮迫したわが国は、福祉のオール切捨てへと逆走中です。

国の年間税収が42兆円であれば、42兆円で予算編成するのが当然です。それなのに、同額の赤字国債を発行して毎年のように収入の2倍を濫費し、いまや国債未償還残高は660兆円の破産状態です。少年に面会して「何やってんだ」と叱責する前に、総理大臣にそう言いたいところです。子どもの世話にはならないと決意して国民が積み立てた年金をデタラメに喰い潰し、若年者に負担してもらうとは何たる言い草でしょうか。今なら年金の使い残しが140兆円あるそうです。いま自己破産を決断すれば、この140兆円を配当できます。配当率が年金積立総額の何パーセントになるか分かりませんが、せめてもの誠意ってやつです。事務費も出ない低利回りの時世に積立額以上の給付を予定する年金制度が存続できる筈はないのです。それなのに、年金制度改悪を弄するのは、これをあと3年で喰いつぶす目的というしかありません。そのついでにイラク派兵というのでは、まるで子どもの学校給食費で福岡ボートに行くようなものです。こんな有様では「やってられない」という子どもに返す言葉はないのです。子どもの不幸のシンボルである非行を少年と家族だけに背負わせて一丁上がりにするのなら、国はいりません。サッチャーは「社会などない。男と女がいて家族があるだけだ」と言って福祉オール切捨の小さな政府宣言をし、ついでに愛国心を強調したのですが、そんな国よりも私は妻を愛します。

私たちにできる更生の援助とは少年本人の意思・意欲を尊重し、曲がった枝は曲がったままに生かしてゆくことであって、枝を折ったり刈り込んだりして形ばかりを整えることではない筈です。或いは、少年に必要なのは警察の取締や少年院ではなく若者宿(地域の若者たちが夜集まって手仕事をしたり話し合ったりして寝泊りする居場所)かなと思いついたりもするのですが、若者宿を開設しても誰も来ないだろうと考えると、やはり子の心、親知らずということでしょうか。

子どもの未来は人類の未来です。子どもに未来がなければ、弁護士の未来だってありません。少年法を「改正」しても「やっぱり」非行は減らなかったし、これに続く教育基本法や憲法の「改正」スケジュールをみると、早めに自己破産させないと、後日、元に戻す法律が多すぎて大変だと思うのです。

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