福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2015年2月号 月報

紛争解決センターだより ~医療ADRを「おススメ」する、3つの理由~

月報記事

あっせん・仲裁人 弁護士
南 谷 敦 子(51期)

昨年夏、福岡県外に住む当事者(患者遺族)が医療ADRを申立てました。申立てを受けたのも、県外の病院です。九州の他県の弁護士会には医療ADRがないため、患者遺族は当会の医療ADRを利用したとのこと。

3名の会員弁護士が関与し、4回にわたるあっせんの末、事件は和解が成立し、病院側は一定の謝罪をするとともに、和解金の支払いにも応じることとなりました。

医療側に立つ私としては、当初、一定の抵抗も感じはしましたが、和解が成立すると何とも表現しがたい、シンプルに言えば「嬉しい気持ち」になるものです。

さて、当会の医療ADRを「おススメ」する3つの理由を挙げます。

理由(1) 患者側・医療側の専門性を利用できる。

医療ADRは、3名の弁護士があっせん・仲裁を行います。うち1名は、元裁判官の弁護士が委嘱されることが多く、残る2名は、患者側代理人として活動する弁護士と、医療側代理人として活動する弁護士。その3名が一体となって協力し、解決のために知恵を絞ります。

当事者は、この3名のそれぞれの専門性を利用することができます。

理由(2) コストが圧倒的に安い。

申立手数料は金1万円。3人の弁護士が1回あたり数時間かけてADRに臨むこと、天神弁護士センターの比較的ゆとりある空間を利用できること、等を考えると、申立人のコストは圧倒的に安い。手数料減免手続もあります。

理由(3) 弁護士に依頼しなくても、本人がひとりで利用できる。

弁護士に着手金や報酬を支払って依頼しなくても、本人がひとりで手続きを利用できます。カルテや診断書、損害を裏付ける資料の準備は最低限必要ですが、それが揃えば自分でできる。

会員の先生方も、患者側あるいは病院側から医療過誤関連の相談を受けたとき、受任をためらうことがあるかもしれません。そんなときこそ、医療ADRをご紹介下さい。

ところで、医療ADRである以上、相手方の出頭は任意であり、強制力がない点は致し方ありません。司法手続でない以上、どんなADRにも内在するものです。

そんなADRながら、世に起きる人と人との紛争は、いずれ解決する時が来るものです。

紛争が解決する、たった一つの「条件」

それは、当事者双方が、「ここで解決したい(してもいい)という思いがあること」に尽きます。

3名のあっせん委員弁護士は、双方にこの「思い」があることを感じ取るや否や、一体となり連帯感を持って、解決へ向けて力を注ぎます。

この思いが、あっせん委員弁護士の連帯感も伴って、遂にひとつの意思の合致をみるとき、そこに何ともいえない気持ちのいい調和(ハーモニー)が生まれると私は感じています。

複数の人間が同時に「ラーーー♪」という音声を発生するとき、当初、音はバラバラで不協和音を生みますが、不思議と、ある瞬間から一つの同じ音程になりますね。

普段は医療側の立場で交渉・訴訟を遂行する私も、今回のADRでは第三者の立場からこの調和(ハーモニー)が生まれたことに、安堵と小さいながらも暖かい喜びを感じました。

今回、特にご尽力いただいた小林洋二先生も、暖かく成立まで粘っていただいた宮良允通先生も、きっとそうですよね?お導き、ありがとうございました。

*仲裁手続きについて、補足*

あっせん以外にも、仲裁手続きがあります。これは、あらかじめ、当事者が仲裁合意(紛争解決を仲裁人に委ね、かつ、その判断[仲裁判断]に服する旨の合意)をする必要があります。この場合、確定判決と同一の効果が得られます。

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◆憲法リレーエッセイ◆ 2014年のノーベル平和賞から日本国憲法9条、集団的自衛権を考える

憲法リレーエッセイ

九弁連憲法委員会連絡協議会委員長
椛 島 敏 雅(31期)

<2014年ノーベル平和賞受賞>

2014年のノーベル平和賞は女性や子供の教育を受ける権利を訴えて活動するパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)とインドの人権活動家のカイラシュ・サティヤルティさん(60)が受賞し話題になりました。マララさんはテロによる銃撃で瀕死の重傷を負いながら活動を続ける勇気ある最年少のノーベル賞受賞者である。また、インドとパキスタンというカシミール地方の領有権をめぐって核兵器を開発保有してまで対立する両国の、普遍的な人権活動家がノーベル平和賞を受賞したことは互いの国の人権が伸長しすべての人にあまねく教育が施されていけば武力によらず平和が達成できるという強いメッセージでもある。二人の今後の活動に注目していきたい。

また、そのノーベル平和賞選考過程で、「憲法9条を保持している日本国民」がノーベル平和賞候補にノミネートされたことも話題を呼んだ。残念ながら受賞には至らなかったが、アフリカ内戦の悲惨さや祖母から聞いた戦争の体験談に戦争の罪深さを深刻に感じていた主婦が憲法9条を読み、それを日本国民が70年間守ってきたことに感動して発案した取り組みが、日本国憲法9条をノーベル平和賞の候補にして、その存在を世界に知らしめたのである。仮定の話しであるが、もし、受賞決定になっていたら、国民を代表して安倍首相が受賞式に列席するという栄誉に浴していたかもしれない。しかし、安倍首相は、憲法9条を敵視し廃止したいと願っている改憲論者であるから、本意でない栄誉を受けることを強く固辞していたであろう。受賞式には日本国憲法を公布し、憲法で日本国民統合の象徴として、憲法を守っていくと発言されている天皇陛下が参列されることになっていたであろうか。

<安倍晋三内閣総理大臣>

安倍晋三氏は、戦後の歴代総理大臣の中で、唯一公式に憲法9条の改憲を主張する総理大臣である。2014年7月には、戦後、自民党政権が一貫して憲法9条のもとでは集団的自衛権の行使は認められないとして来た憲法解釈を、内閣法律顧問の法制局長官の首をすげかえて変更し、集団的自衛権行使容認の閣議決定をした責任者である。第2次安倍政権になり憲法96条の改正手続条項を緩和する変更をしようとして、国民の大反発を受けて断念し、「解釈」改憲を企図している。その政治姿勢は立憲主義違反であるとの意見をまったく意に介しない総理大臣である。

<ノーベル平和賞候補にふさわしい活動を>

新しい年2015年は、総選挙で「安定多数」を占めた安倍政権が閣議決定している集団的自衛権行使容認の具体的な法整備を強行してくる年になる。昨年の弁護士会のシンポで基調講演された小林節慶応義塾大学名誉教授は、集団的自衛権は「日本が他国(同盟国)の戦争に加担することである。」とその本質を分かりやすく説明された。集団的自衛権をその様に理解されるとまずいと思ったか、安倍政権は新要件であるとして「わが国と密接な他国に対する武力攻撃が発生し、わが国の存立が脅かされ、国民の人権が根底から覆される明白な危険がある場合に限り、わが国も参戦できる。」と説明するようになった。しかし、どのように言い繕いをしようとも、日本が他国の戦争に参戦していくことに変わりはない。これは国権の発動たる戦争を永久に放棄し、交戦権の否認、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しないと定める現行憲法9条に違反することは明らかであり、憲法に基づく政治、立憲主義を踏みにじるものである。

このような状況の中で、私たち弁護士会が行う立憲主義を守れとの声明やパレード等の行動提起は貴重である。私は、

憲法は法律の根本にあるものです。その憲法解釈を一内閣で変えることは認められていません。

他国のために武器を持って外国へ行く理屈は憲法からは出て来ません。

国会では少数派でも、草の根では多数派です。弁護士会も立ちあがっています。

みなさんも一緒に声を上げてください。

等々と訴えて行きたいと思っています。
日本国民が70年間近く護り通してノーベル平和賞候補にもなった憲法9条が踏みにじられる行為を黙って傍観しておくことは出来ない。

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片山昭人判事講演会

月報記事

会 員 岡 田 美 紀(66期)

1 はじめに

昨年平成26年12月5日、福岡高裁の片山昭人判事による講演会が行われました。

片山判事は、昭和62年に判事補任官、平成2年からは弁護士としてご活躍された後、平成19年に弁護士任官で判事に任官されました。

実は、片山判事には一昨年もご講演いただいたのですが、その際のお話が大変好評を博し、再度ご講演いただきたいとの要望が多く寄せられたことから、今回の講演会を開催する運びとなりました。昨年1月号の月報にも片山判事が執筆された記事が掲載されておりましたので、ご存じの先生方も多いのではないでしょうか。

講演会当日は、師走の大変忙しい時期、しかも金曜日の夜だったにもかかわらず、弁護士会館3階ホールの席が足りなくなるほどの大盛況でした。中には県外から足を運ばれた先生もいらっしゃったようで、片山判事のご講演に対する期待の大きさが窺われました。

2 講演

片山判事には、「"後発"は明確に優れていなければならない~若手弁護士への期待」をテーマにご講演いただきました。

(1) 人間力

まず冒頭で、一流の法律実務家に必要な実力とは、知力・胆力・体力を総合した「人間力」であるとのお話しがありました。若手は自らを鍛え、この「人間力」を高めていかなければならないのですが、成長する上で大切なのは、大変な状況に置かれたときに、弁解や不満ではなく「HOW(どうすればいいか?)」を考えることだといいます。「厳しい制約の中でこそ成長の余地がある」という片山判事の言葉に、苦しいことから逃げ出してしまいがちな私は大変反省させられました。

(2) 訴訟追行能力

続いて、我々弁護士にとっても気になる、訴訟追行のポイントについてのお話しがありました。

訴訟追行とは、裁判所を説得することであり、説得の方法、説得材料である証拠収集の方法、収集した材料を基にしたプレゼンテーションの方法等について、ご自身の経験談も交えながら具体的に解説していただきました。

日本の訴訟制度上、証拠収集には様々な制約がありますが、片山判事はそれをカバーするために様々な工夫をされており、経験の少ない若手弁護士にとっては大変勉強になりました。裁判所の説得にあたっては、核心を突いたシンプルな主張を行うことが大切なのですが、シンプルな主張をするためには、時間をかけて十分に証拠を収集・整理し、事案を分析しなければならないのだということを改めて実感いたしました。

(3) 弁護士任官

冒頭でもご紹介したように、片山判事は弁護士任官者でいらっしゃいます。片山判事は、弁護士任官制度の意義として、裁判官が体験しないことを体験している弁護士が任官することで、裁判所に複眼的な思考をもたらすことなどを挙げられていました。今回の片山判事のご講演も、裁判官・弁護士双方の立場を踏まえた多様な視点からの内容で、弁護士任官者ならではのものだったように感じます。

今後、弁護士任官者が増え、裁判の質がさらに向上していくことを願っております。

3 おわりに

片山判事は、抽象的な事柄であっても、端的なキーワードを使ってわかりやすく説明されており、すっと頭に入る上、記憶にも深く残りました。ご講演の内容はもちろんですが、巧みな話術は、まさに「説得する力」にほかならないと感じました。
片山判事をはじめ、優秀な諸先輩方から学ぶことができるのも、"後発"である私たち若手の特権です。多くを学び、人間力を高めて、優れた法曹実務家を目指していきたいと思います。

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「転ばぬ先の杖」(第12回)  顧客情報外部流出への備え

月報記事

ホームページ委員会 委員
是 枝 秀 幸(60期)

1 顧客情報外部流出

昨年起きた大きな出来事の一つとして、大手通信教育業者が保有していた顧客情報を外部へ多数流出させたことは、皆さんも記憶に新しいと思います。

顧客情報は、事業規模にかかわらず、多くの事業者において、営業活動のための情報として、日々、取得・使用されています。

もし顧客情報が外部へ流出してしまえば、流出を食い止めたり情報を回収したりすることは困難で、事業者は、相当期間にわたり、顧客情報を保有していたことによる競業他社に対する優位性を喪失するとともに、顧客からの信用も著しく失墜することとなるでしょう。

とはいえ、顧客情報は、事業者において、日々、取得・使用しているもので、外部へ流出することを完全に防止することはできません。

本稿では、顧客情報外部流出の発生の機会や影響をできるかぎり限定するための備えについて、何をすべきか、簡単に紹介したいと思います。

2 機密書類に「秘」印を押しておけばよい?

顧客情報外部流出への備えとしては、不正競争防止法上の営業秘密として管理することや個人情報保護法上の安全管理措置を講じること等が考えられ、経済産業省もガイドラインを公表しています。
経済産業省の営業秘密管理指針によれば、概ね、次のとおりです。
(営業秘密管理指針より、一部変更のうえ、抜粋)

【秘密管理性の判断要素として着目すべき点】
  • アクセスできる者が限定され、権限のない者によるアクセスを防ぐような手段が取られている(アクセス権者の限定・無権限者によるアクセスの防止)
  • アクセスした者が、管理の対象となっている情報をそれと認識し、またアクセス権限のある者がそれを秘密として管理することに関する意識を持ち、責務を果たすような状況になっている(秘密であることの表示・秘密保持義務等の設定)
  • それらが機能するように組織として何らかの仕組みを持っている(組織的管理)
【Aに関する具体的な管理方法】
  • アクセス権者の限定
  • 施錠されている保管室への保管
  • 事務所内への外部者の入室の禁止
  • 電子データの複製等の制限
  • コンピュータへの外部者のアクセス防止措置
  • システムの外部ネットワークからの遮断
【Bに関する具体的な管理方法】
  • 社員が秘密管理の責務を認知するための教育の実施
  • 就業規則や誓約書・秘密保持契約による秘密保持義務の設定等
【Cに関する具体的な管理方法】
  • 情報の扱いに関する上位者の判断を求めるシステムの存在
  • 外部からのアクセスに関する応答に関する周到な手順の設定

以上のとおり、秘密管理性等は、具体的な管理方法等を踏まえ、総合的に判断されるものです。

機密書類に「秘」印を押しておけばよい、という簡単なものではありませんので、注意が必要です。

3 弁護士にご相談を

顧客情報外部流出への備えを実施するためには、情報技術的な事項に関してIT事業者に相談するとともに、秘密保持義務の設定等の法技術的な事項に関して弁護士に相談することが望ましいでしょう。

秘密管理性等は、具体的な管理方法だけでなく、事業規模、業種、情報の性質、侵害態様等を踏まえ、総合的に判断されることになります。
顧客情報外部流出への備えは現実的に可能な範囲で一応実施しているという場合には、弁護士に法的観点から検証してもらうとよいかもしれません。

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