福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2020年8月号 月報

「女性の権利110番」ご報告

月報記事

両性の平等に関する委員会北九州部会
委員 松田 麻友美(68期)

1 はじめに

毎年6月23日~29日は、「男女共同参画週間」です。
全国の弁護士会では、この期間に合わせて、「女性の権利110番」と題して、無料電話相談を実施しています。当会でも、県内各所の男女共同参画センターの相談員と共同で、暴力や離婚、職場における差別などの諸問題の相談を受け付けました。

2 当会における実施状況

(1) 福岡県弁護士会でも、福岡県弁護士会館、筑後弁護士会館、久留米市男女平等推進センター(えーるピア)、筑後市男女共同参画推進室、大野城まどかぴあ男女平等推進センター(アスカーラ)、ハートピアぶぜん、大牟田市男女共同参画センター、田川市男女共同参画センター(ゆめっせ)、北九州市立男女共同参画センター(ムーブ)、福岡県男女共同参画センター(あすばる)、福岡市男女共同参画推進センター アミカス、飯塚法律相談センター及び直方市男女共同参画センター(えみくる)にて、それぞれ相談が実施されました。

(2) 福岡県全体としての相談件数は、合計79件でした。そのうち、夫婦関係(離婚)に関する相談が46件と、半数以上を占めていました。

3 北九州部会における実施状況

北九州部会においては、6月24日に、北九州市立男女共同参画センター(ムーブ)及びハートピアぶぜん(豊前市)にて電話相談を実施しました。ムーブでの相談は、電話がかかってくるとまず相談員の方が応答し、内容が法律相談といえる場合に、待機している2名のいずれかの弁護士につないでいただく、という方式でした。

件数としては、ムーブでは合計20件、ハートピアぶぜんでは2件の相談がありました。ムーブでの電話相談は、昨年11月に行なった「女性の権利110番」の相談件数が6件だったことと比較すると、大幅に増加しました。

私もムーブでの相談を2時間程度担当しましたが、既に弁護士2名が電話に対応してしまっており、相談員の方が、時間を改めて電話してもらうように依頼したり、別の機会の法律相談をご案内したりしていることが何度かありました。

相談内容としては、離婚・財産分与等、家事関係の相談が最も多かったようですが、土地や財産に関する相談も一定程度ありました。

4 雑感

上記のとおり、ムーブでの電話相談の件数は、昨年11月と比較してかなり増加しました。

新型コロナウイルス感染症拡大との関係では、在宅時間が増えると家庭での問題が深刻化する、などと聞きます。しかし、ムーブにおける相談内容が必ずしも家事に限られていないことに鑑みると、経済状況の悪化等を通じて、広く人権侵害が生じやすくなっており、法律相談の必要性が高まっているのでは、とも感じました。

また、対人接触を控えることが推奨される現在の状況に鑑みれば、直接対面をしない電話相談は、相談者側のニーズにも合致していたように思います。

今後、相談が多く寄せられることが想定される場合には、より多くの方の相談に対応できるようにするため、相談時間の目安(30分程度)を示すといった対応もあり得るのでは、と思いました(私自身、電話を切るタイミングが上手くつかめなかったという反省もあります。)。

「ウィズコロナ」においては、電話相談の重要性は高まり、「女性の権利110番」等に限らず、弁護士会や法テラス等の相談でも取り入れられる機会が広がりそうです。通話のみという限られた方法でも、相談者から必要な情報を引き出し、適切なアドバイスができるよう、日々スキルを身につけていきたいです。

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中小企業法律支援センターだより 中小企業診断士による講演会(「コロナウイルス支援制度概要と経営回復への道筋」)のご報告

月報記事

中小企業法律支援センター
委員 長谷 修太郎(65期)

令和2年7月10日、福岡県弁護士会館2階大ホールにて、福岡県中小企業診断士協会の仲光和之中小企業診断士(以下「仲光中小企業診断士」といいます。)をお招きし、「コロナウイルス支援制度概要と経営回復への道筋」と題してご講演(以下「本講演」といいます。)をいただきましたので、ご報告いたします。

1 本講演のきっかけ

当会は、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナウイルス」といいます。)の感染拡大の影響により経営に関する問題や不安を抱える事業者の支援のため、令和2年3月24日から7月30日までの間、電話無料相談を実施しています。この電話無料相談において、コロナウイルスの影響に対する各種支援制度(以下「コロナウイルス支援制度」といいます。)に関連した相談が数多く寄せられ、弁護士として同制度の全体像や概要を把握しておくことが有益と思われたため、同制度の実務に精通している仲光中小企業診断士に依頼し、本講演が実現いたしました。

本講演は、コロナウイルスの感染拡大を防止するため、現地会場ではアルコール消毒やマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保等の感染防止策を徹底するとともに、Zoomを利用したオンラインでの参加も可能としました。これは外部講師を招いた当委員会主催のイベントとしては当会として初の試みでしたが、コロナウイルスの感染防止が図られただけでなく、通常よりも多くの会員の皆様のご参加を頂くことができ(合計103名。うちZoomでの参加77名)、イベントのアクセス向上や活性化という点でも有効であったように思います。

中小企業診断士による講演会 現地会場の模様(1)

現地会場の模様(1)

2 コロナウイルス支援制度の概要

本講演の前半では、コロナウイルス支援制度の全体像として、(1)融資、(2)給付金、(3)補助金に大別し、各制度の概要をご説明いただきました。

(1) 融資

コロナウイルス支援制度としての融資は、更に、(ⅰ)日本政策金融公庫や商工中金等の政府系金融機関による融資と、(ⅱ)信用保証制度を用いた民間金融機関による融資に分類されます。各融資の条件等の詳細については省略いたしますが、それぞれ特に以下の点につき留意すべきとのことでした。

(ⅰ) 政府系金融機関による融資

  • 融資の申込みから実行まで2、3か月を要するイメージ
  • 業歴は3ヶ月以上であれば(一定の追加要件を充足する必要はあるが)融資対象になり得る
  • 既存債務の借換えも可能
  • 利子補給制度の対象になるが、その申請方法や具体的な手続きは未定(一旦は利子を支払う必要があり、追って補給される)

(ⅱ) 信用保証制度を用いた民間金融機関による融資

  • 市町村からセーフティネット保証の認定を受けたとしても、保証協会や民間金融機関の審査に必ず通るわけではない
  • 民間金融機関によっては、融資審査に加え、セーフティネット保証の認定申請及び保証審査の依頼をワンストップで行ってくれるところもある
  • 保証料及び利子の減免制度あり
(2) 給付金

コロナウイルス支援制度における給付金としては、主に、(ⅰ)持続化給付金と、(ⅱ)家賃支援給付金が挙げられます。各給付金の支給条件等の詳細については省略いたしますが、それぞれ特に以下の点につき留意すべきとのことでした。

(ⅰ) 持続化給付金

  • 給付額の上限は、法人200万円、個人事業者100万円
  • インターネット経由の電子申請が基本だが、申請サポート会場あり(事前予約、必要書類の事前準備が必要)
  • 不正受給には罰則あり(給付金全額+αの返還、法人名等の公表、刑事告発)

(ⅱ) 家賃支援給付金

  • 2020年5月~12月の売上高が減少した法人・個人事業者が支給対象
  • 給付額の上限は、法人600万円、個人事業者300万円
  • 2020年7月14日から受付開始
(3) 補助金

コロナウイルス支援制度における補助金としては、主に、(ⅰ)ものづくり・商業・サービス補助金(ものづくり補助金)、小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)及びIT導入補助金における「コロナ特別枠」、(ⅱ)ものづくり補助金及び持続化補助金における「事業再開枠」が挙げられます。

「コロナ特別枠」は、Aサプライチェーンの毀損への対応、B非対面型ビジネスモデルへの転換、Cテレワーク環境の整備というコロナウイルスへの対応にかかる費用の一部を支援する補助金です。「事業再開枠」は、消毒、飛沫防止、換気、その他衛生管理等のコロナウイルスの感染防止のための取組みにかかる費用の一部を支援する補助金です。いずれもコロナウイルスへの対応として新たに制度が設けられたものであり、ぜひ活用されたいとのことでした。

3 経営回復への道筋

本講演の後半では、「融資返済と業績回復への道筋」として、(1)業績回復に向けたアクションプランの考え方と、(2)経営の「やり方」と「あり方」の両面を整えることについてご講演いただきました。

(1)については、コロナウイルスの影響による生活様式・行動パターン・価値観の変化を踏まえ、「誰に」(=ターゲット)、「何を」(=商品・サービスの内容)、「どのように」(=価格・場所・方法、差別化要素)との観点からの事業の見直しが重要になるとのことでした。

また、会社のお金の流れを把握(ビジュアル化)し、返済額・将来への投資・万一への備えのための必要額から逆算した数値目標を定めることにより、根拠のある経営判断や従業員への意識付け・動機付けが可能になるとのことでした。

(2)については、会社の経営において、その方法論(=「やり方」)だけではなく、ミッション(仕事をする理由・使命)、バリュー(行動指針・価値観)、ビジョン(将来の方向性・目標)といった経営の「芯」(=「あり方」)を定めて整えることが重要であるとのことでした。

4 まとめ

最後に、コロナウイルス対応の現状について、以下の通り分析いただきました。

  • 現在は、支援策を行き届かせる第1ステージから次のステージに移行している時期
  • 多くの経営者は月商×3か月との目安で資金調達していたため、2度目の借入れが予想される
  • 運転資金の確保に成功した又は成功しそうな経営者と、どうにもならない経営者とで二極化している
  • 経営の方法としては、万一の備えのための必要額(キャッシュ)を意識した計画的な経営に移行していくのではないか
  • コロナウイルス対応は、特定領域の専門家だけでは限界があり、士業の連携が重要である
中小企業診断士による講演会 現地会場の模様(2)

現地会場の模様(2)

本講演を拝聴し、コロナウイルスの感染拡大という未曾有の状況下では、法的な知識だけでなく、各種支援制度の活用や事業計画の検討・策定、経営のあり方などにつき、多少なりとも経営者に寄り添うための知識や言葉を持っていることが、弁護士の価値を高めることにつながると感じました。我々弁護士も、本講演でありましたように、その「あり方」と「やり方」を追求し、整えていくことで、今後更なる事業者支援の拡充・充実を図っていくことが出来ればと思います。

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紛争解決センターだより コロナ対応(災害)ADRのご案内

月報記事

紛争解決センター運営委員会
委員 松村 達紀(65期)

1 コロナ対応(災害)ADRを立ち上げました

本原稿執筆時点(7月14日)においては、東京での新型コロナウイルス感染者が連日200名を超える旨の報道がなされており、いわゆる第2波が懸念されるところです。

そのような中、当センターは、令和2年6月8日、新型コロナウイルス感染拡大に関連する法的紛争解決のために「コロナ対応(災害)ADR」を立ち上げました。

災害ADRは、東日本大震災や熊本地震の際にも立ち上げられ、紛争当事者の方々の法律問題の解決に大きく貢献している制度です。

なお、コロナ対応(災害)ADRについては、既に申立てを受け付けた事案もございます。

2 コロナ対応(災害)ADRの内容
(1) 対象事件

新型コロナウイルス感染拡大に関連する民事紛争であれば、何でも申し立ていただいて構いません。

事業者の方であれば、

  • 休業に伴い従業員の給与の取扱いに関してトラブルになっている
  • 売上の減少や休業期間の長期化に伴いテナント家賃の減免を求めたい
  • イベントが中止になったため主催者に損失補償を求めたい

消費者・労働者等の方であれば、

  • 会社の休業や業績不振に伴い雇止めをされたり給与をカットされた
  • 旅行や結婚式の取りやめに伴い多額のキャンセル料の支払いを求められている

といった紛争があり得ると想定しております。

特にこれらの紛争に関しては、裁判所における訴訟をするにはコストが合わない、時間がかかるといった面が見られると思いますので、積極的に弁護士会のADRの活用をご検討ください。

(2) 申立て方法

一般のADRでは、法律相談を受けた民事事件について、申立書や証拠の書類等を添えて申立てをしてもらっていますが、コロナ対応(災害)ADRでは、法律相談を受けていない事件も受け付けます。

また、申立てが簡単にできるよう、広報チラシの裏面にある申込書に必要事項を記入して頂いて、天神弁護士センターに郵送またはファックスしていただくか、申込書の郵送やファックスが出来ない方は、電話やメールによって申込みをしていただければ、後日担当弁護士が申立てをサポートするという制度もあります。

(3) 費用

申立て費用は、無料です。

紛争が解決した場合には、原則として、チラシ記載の基準に従い、成立手数料を当事者で折半にて負担いただきますが、事案によっては、成立手数料を減免することもあります。

3 最後に

現在、政府主導の政策により、事業者に対する積極的な融資、資金援助等が図られていますが、想定以上に新型コロナウイルスの影響は長期化しそうであり、今後、ますます法律問題が顕在化してくるのではないかと懸念されます。

また、現状、裁判所の期日も入りにくい状況が続いていますので、紛争の迅速な解決という観点からは、弁護士会のADRが果たすことのできる役割も大きいと考えております。

先生方におかれましては、法律相談に来られた当事者の方に、ぜひ、紛争解決のための選択肢の一つとして、コロナ対応(災害)ADRをご案内いただければと思います。

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