福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2023年2月号 月報

初参戦!九州レインボープライド

月報記事

LGBT委員会 寺井 研一郎(63期)

九州におけるLGBTQ+の祭典ともいうべきレインボープライドに参戦し、私がいかに当事者の置かれた状況を真に理解していなかったか、痛感しました。

1 はじめに

去る11月6日(日)、中洲にほど近い冷泉公園にて、九州におけるLGBTQ+の祭典ともいうべき「九州レインボープライド」が開催されました。毎年開催されているのですが、ここ2年はコロナのためオンラインでの開催にとどまり、リアルでの開催は3年ぶりです。そのためか、それともLGBTQ+に対する近年の社会の雰囲気の変化のためか、大変な熱を帯びた素晴らしいイベントとなりました。

2 九州レインボープライド概要
⑴ ブース出展

イベントは、団体や企業等40を超えるブース出展、歌手やダンサー、ドラァグクイーンによるステージイベント、そして、中洲や市役所周辺を周回するパレードから成っています。ステージイベントやパレードが楽しいことはもちろん、各出展ブースも充実したものばかりで、「わが社はLGBTに理解があります!応援しています!」という外面だけを装ったようなものは見受けられず、どれも内容を伴った本気の取り組みでした。私個人が最も印象に残っているのは、福岡コミュニティーセンターHACOという団体です。同団体はHIV/AIDSや性感染症の予防啓発活動を行っている団体であり、出展内容は、コンドームの普及啓発を意図した展示と、素敵なゲイセクシャルの方々との記念撮影会でした。終始にぎわっており、皆さんが笑顔で過ごされている様子がとても印象的でした。

初参戦!九州レインボープライド
⑵ 福岡県弁護士会ブース

我が福岡県弁護士会は、そのHACOさんの対面の位置での出展です。今年は、定番ののぼり旗に加え、レインボーカラーの看板などを用意しました。さすがにインパクトではHACOさんに負けていたかもしれませんが、LGBTQ+フレンドリーな団体であることは十分アピールできていたのではないでしょうか。出展内容は無料法律相談です。全部で10件弱の相談があり、継続相談につながったものもあったようです。私も数件担当させていただきましたが、LGBTQ+の当事者の生きづらさを象徴するような相談ばかりで、当事者がありのままの自分で過ごすことの難しさを痛感させられました。なお、一番悩まされた相談は、LGBTQ+とは関係ありませんが、小学生からの、どうやったら友達ができるか、という相談でした。私自身、小学生の頃には友達作りに苦労した覚えがあり、客観的な正解はもちろん、自分なりの回答さえ持ち合わせていません。どうしたものか、この1年で一番悩んだかもしれません。悩んだ末に当たり障りのない回答でお茶を濁しましたが、小学生の目を誤魔化せたかどうか、とても不安です。

初参戦!九州レインボープライド
⑶ パレード

メインイベントはパレードです。各々が自由な格好をして、音楽に合わせながら中洲の街を回ります。このパレードは、LGBTQ+に対する理解を求めるためのパレードです。いわずもがな人権問題です。私は、人権に関わるパレードである以上、当然、シュプレヒコールや横断幕などで主張を前面に押し出すのだろうと、そう思っていました。ですが、実際は、ただただ楽しむだけでした。街の景色を眺めながら、音楽に身を委ねて踊り歩き、道行く人に手を振り、時折テンションが上がって歓声を上げる。道行く人も、手を振り返したり、楽しそうに身体を揺らすなどしており、好意的に受け止め、一緒に楽しんでくれていたようです。

全体として、クラブイベントのような、ただの楽しい行進です。そこには、LGBTQ+に対する理解を求める主張どころか、なんらのメッセージも含まれていませんでした。私は、何故こんなことしてんだろう??と思いながら、まあ難しいこと考えんのやめて楽しもう、と、ただ楽しみました。

初参戦!九州レインボープライド
3 後日談 気づき

ブース出展、ステージイベント、パレード、いずれも、ただただ楽しかった、というのが当日の感想です。 後日、委員会の場で、いかに自分がLGBTQ+当事者への理解が足りていなかったのか、気づかされました。初めてレインボープライドに参加した当事者の方が、「本当に楽しかった。」と話していたというのです。楽しかったのは、私も楽しかったのです。ですが、当事者の方の「楽しかった。」は、おそらく、普段、自己表現や自己実現を望みながらも、悩み苦しみ、自分を隠して生活している中で、自分をさらけ出しても否定されない場を知ったこと、そして、その場に参加して、自分をさらけ出しながら、心の底から楽しめたこと、という文脈を含んでいたのです。考えてみれば、メッセージ性を持たないと思っていたパレードも、冷泉公園という閉じられた空間から、中洲という街に出ていくという点で、これ以上ない勇気ある行動です。LGBTQ+はここにいるよ!堂々と街を歩いてるよ!というメッセージそのものの行動だったのです。自分はLGBTQ+の方々に対して理解はある方だ、と思っていました。ですが、今回の参戦は、そうではなかったこと、自分が本当には当事者の置かれた状況を理解できていなかったことに気づかせてくれ、貴重な経験となりました。

4 終わりに

近年、LGBTQ+についての社会的な理解は広がっており、パートナーシップ制度を定める自治体は増加の一途を辿り、札幌地裁、東京地裁は同性婚ができない法律状態について違憲状態を明言しました。とはいえ、まだ、LGBTQ+当事者の中には、九州レインボープライドのような"特別な場"でなければ「本当に楽しかった。」と言えない方がいらっしゃいます。"特別な場"へ参加できない人も多くいらっしゃるでしょう。誰でも、"特別な場"でなくても、素直に「楽しい。」と言える社会を目指して、これからも活動を続けていきたいと思います。

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放課後に高校生も学ぶウクライナ情勢

月報記事

死刑制度の廃止を求める決議推進室 室員 芦塚 増美(44期)

2022年9月30日、一橋大学教授竹村仁美先生を当会にお迎えし、「国際法から考えるウクライナ情勢~戦争犯罪に死刑がない理由」と題した講演会を弁護士会館でのリアルとオンライン併用により開催しました。開催前には竹村先生と何度も打ち合わせをして福岡県弁護士会が死刑廃止の決議をしていることを説明し、ウクライナ情勢と死刑廃止の関連を講演するように理解してもらいました。

今回の講演会は、大学生や法科大学院生だけでなく国際法を学ぶ機会がほとんどない高校生もターゲットにした企画でしたので、会場に来て欲しいとの思いも込めて案内文書を作成しました。また、多くの人に講演会の開催を知ってもらうために、過去には配布していなかった高校や大学にも配布しました。その結果、大学生、法科大学院生のほか、放課後、会場に足を運んでくださった高校生もおられました。案内文書の配布先の選定に多くの時間が必要でしたが、配布に効果があったと実感しました。

竹村先生は、用意されたスライドを使いながら、国際法とは?というような基礎から話しを始められましたが、その内容は多岐にわたりますので、ここではそのほんの一端だけを紹介するに止めざるを得ません。詳細は当会のホームページの会員ページに研修用録画を配布資料とともに掲載していますので、是非、視聴・閲覧して下さい。

1 国際法は国際社会の関心事を規律していくとともに、国家間の関係を安定させるための法律であり、国際法の存在意義として昔から国際社会の関心事として存在してきたのが、戦争の制限と海の分配である。

ただ、「主権国家併存」の国際社会では、国際法を実効性を伴って守らせるための執行機関が存在しないということが課題とされる。


2 戦争の制限については、1928年には不戦条約が成立していたにもかかわらず、「戦争」という言葉で括られない武力行使が行われたりして、結局のところ第二次大戦につながってしまったために、国連憲章、国連体制は、戦争より広い概念である武力行使を禁止することによって戦争を制限しようとした。

さらに、国連の安全保障理事会(安保理)を正しい戦争の判断権者とした。なお、安保理では5ヵ国の常任理事国が拒否権を有していることによって、国連が大国に軍事的制裁を科すことはできないという仕組になっており、そのために第三次世界大戦を避けることにつながっているという側面もある。ただ、ある大国の拒否権の行使により安保理の機能がマヒした場合に備えて安保理の要請で緊急特別総会が招集されること、今回のロシアによるウクライナ侵略について「平和のための結集決議」という国連総会決議がなされたのがその例である。

放課後に高校生も学ぶウクライナ情勢

3 続いて、国際法上、個人の刑事責任を追及していくという考え方が登場し、1998年に国際刑事裁判所を設立するための条約がローマでの外交会議で採択されて2002年に発効して、2003年から国際刑事裁判所が稼働している。現在この条約に入っている国は現在123ヵ国で、わが国も2007年に入っている。

ウクライナは未加入であるが、裁かれても可能と宣言をしたので、ウクライナの事態について同裁判所が取り上げることになった。

これについては、ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪が、捜査・訴追対象であり、一番問題になる侵略犯罪については締約国でないために扱えない。また、この関係では「補完性の原則」がはたらく。同裁判所では、現職の国家元首も裁かれ得るが、身柄の確保など現実には困難な問題がある。

刑罰については、77条に規定があり、最高刑は、終身の拘禁刑もあるが、最長30年を超えない年数の拘禁刑であり、死刑はない。


4 ウクライナでは、2014年に国内で武力衝突があった。EUと連合協定を行う寸前まで行ったところで、大統領が同条約を批准することを棚上げにしようとしたため怒った親EU派の市民がデモを行って、治安維持部隊と市民の衝突があり約100名規模の死者が出た。ウクライナは、この件について国際刑事裁判所の裁く権限を認める宣言を2014年4月17日に行った。その直前の4月1日に、ロシアは、クリミアとセヴァストポリを、独立させた上で編入した。

そうこうしているうちに、マレーシア航空機がウクライナ上空を飛行中に撃墜されて、非常に多数の死者が出た。これについても捜査対象としてもらうために、ウクライナは、2度目の宣言を2015年9月8日に行って、2014年2月20日以降無期限に、ウクライナで行われた犯罪に対して、国際刑事裁判所の裁く権限を認める宣言をした。今回、この宣言に基づいて国際刑事裁判所は、ウクライナでの捜査・訴追を始める姿勢を示している。このように、ロシアの今回の特別軍事作戦以前から、国際刑事裁判所の検察局は予備調査を開始していた。

そして、今年2月24日にロシアの特別軍事作戦が開始され、同裁判所の検察官は、捜査開始を決定している。以上が講演の概要です。


竹村先生は、高校生等にも理解しやすいような図を用いて講演をされました。また、弁護士にとっても日常の業務から離れた国際法の分野が具体的に理解できました。国際情勢に関連させた死刑廃止の講演でしたので市民の方々も理解できたと思います。

竹村先生は、かつて福岡県内で大学講師を務められており、そのときの学生が当会の会員弁護士になって会場にも来ておられ、お二人の再会に私たちも感動をもらいました。これからもまた、高校生や大学生にも広く呼びかける市民参加の講演会開催に向けた気持ちを新たにした一日でした。

放課後に高校生も学ぶウクライナ情勢
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