「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2021年9月8日

「カスハラ」どう対処すれば?

▼Q 小さな雑貨店を経営しています。先日、「釣り銭の渡し方が悪い」とお客から怒鳴られ、その後も謝罪文を書くようしつこく迫られています。どう対応したらいいのでしょうか。

▼A 最近、客からの非常識で理不尽な要求に店が困り果てるケースが問題となっています。「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれるものです。2020年に行われたある全国調査では、働く人の6割近くがカスハラ被害の経験があるそうです。

特に目立つのが、執拗(しつよう)な謝罪要求です。謝罪しても客が納得せず、さらなる謝罪を求められて泥沼化するパターンが定番です。

状況を法律的に分析してみましょう。店と客は、商品を売り、代金を払う関係にあります。店には欠陥のない商品を売る義務があり、これをしないと債務不履行になります。

一方、釣り銭の渡し方はサービスの問題であって、法的義務ではありません。客にはよりよいサービスを期待する自由がありますが、店にもサービスのレベルをどこにおくか決める自由があります。客が気に入らなかったからといって、謝罪が必要ということにはなりません。

謝罪する場合でも、常識的な範囲で謝れば十分と考えるべきでしょう。客の感情を基準に相手が満足するまで謝罪する義務はありませんし、問題の改善にもつながりません。

今回のケースでも、謝罪文まで書く必要はないでしょう。それでも相手が納得しない場合は、理解してもらえなかったと割り切り、対応を終わらせるのがよいでしょう。

西日本新聞 9月8日分掲載(角倉潔)

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