「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2021年12月22日

ワクチン接種しないと解雇?

▼Q 飲食店の接客スタッフです。過去に注射で重いアレルギー反応を起こしたことがあり、新型コロナウイルスのワクチン接種を控えています。ところが勤務先から、接種しないなら解雇すると言われました。

▼A 感染防止のためにワクチン接種を推奨する店側の姿勢自体は理解できます。しかし、接種しない従業員を解雇できるかは別問題です。解雇は従業員にとって死活問題です。このため、解雇するには、それに値する正当な理由が必要とされています。

ワクチンを接種しなくても業務ができないわけではありません。消毒、マスクの着用、小まめな検温などの感染防止策もあります。また相談者の場合、接種しない具体的理由として、実際に重いアレルギー反応を起こした経験があります。このような状況での解雇に正当な理由は認められないでしょう。

予防接種法は国民に「予防接種を受ける努力義務」を課していますが、強制ではありません。厚生労働省も、接種を拒否しただけでの解雇は許されない、としています。

なお、解雇はしないものの、人と接することのない業務への配置転換が行われることがあります。しかし、その場合でも、目的や必要性が問題となります。見せしめ的な配置転換が許されないのはもちろんのこと、降格や給料の減少を伴う配置転換も認められにくいでしょう。

一般論としてワクチンが有用だとしても、接種しない・できない事情のある人もいます。企業には、この点を踏まえた対応が望まれます。

西日本新聞 12月22日分掲載(馬場安紀子)

目次