「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2021年4月21日

コロナ感染で入院拒否、罰は必要?

▼Q 法律の改正で、入院を求められた新型コロナウイルス感染者が勧告を拒むと罰を受けると聞きました。罰まで必要ですか。

▼A 2月に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法などが施行され、正当な理由なく入院を拒むと、50万円以下の過料が科されることになりました。病気になった際に入院するかしないかは本来、その人の自由です。仕事や生活を優先して入院せずに済ますのか、多少不自由でも慎重を期して入院するのか、個人が自分で決める権利(自己決定権)があります。

改正特措法などは新型コロナ感染拡大が特別の事態であり、やむを得ず個人の自己決定権を制約するものです。制約は感染拡大防止という目的に役立つもので、かつ必要最小限であるべきです。特に過料という罰則まで必要かどうかは慎重に考える必要があります。

また、法律を適用した結果、差別が生まれることも当然、許されません。これまで、新型コロナの感染者や医療従事者への偏見が問題になってきました。強制入院をも安易に認める風潮が加速すると、感染者に対する差別や偏見がさらにひどくなる懸念があります。

加えて心配なのは差別や偏見を恐れ、受診をためらう人が増えることです。感染拡大を防ぐための法改正が、逆に感染拡大を招きかねません。わが国には感染症への恐れに引きずられ、人権侵害や差別を生んだハンセン病やエイズの苦い教訓もあります。法改正で私たちの人権が侵害されないかどうか、慎重に見守る必要があります。

西日本新聞 4月21日分掲載(石井智裕)

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