弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年4月11日

ワグネル、プーチンの秘密軍隊

ロシア


(霧山昴)
著者 マラート・ガビドゥリン 、 出版 東京堂出版

 アメリカのイラクやアフガニスタン戦争のとき、アメリカの軍事会社が問題となりました。軍事会社の戦闘員が何人死んでも、アメリカ軍の戦死者としてはカウントされない、そして、アメリカ軍のトップ級にいた軍人が営利企業をダシに使って、ガッポガッポもうかっている状況が問題視されました。同じことを、ロシアのプーチン大統領も、シリアそして今のウクライナでやっているようです。その軍事会社がワグネルです。
 この本はワグネルで指揮官をつとめていた元兵士がシリアでの活動状況をリアルに報告しています。巻末の解説によると、その様子は「小説」として読むべきだとされていますが、なかなか迫真の内容です。同じく、ワグネルという確固たる組織が実在しているのか、実は複数の傭兵グループと経済利権グループとを組み合わせた「ネットワーク」なのではないかとの指摘もあります。まったく闇の存在ですので、そうかもしれませんね・・・。
 ロシアのウクライナ侵略戦争について、著者(元ワグネル指揮官)は、間違っているのは常に侵略した側だ、戦争を始めた側だけに報復を招いた責任があるとして、ロシアとプーチン大統領を厳しく弾劾しています。そのとおりですよね。
 そして、ロシア兵がウクライナで戦死しても、身元の確認されていない遺体は「戦死者」としてカウントされず、すべて「行方不明者」とされる。うむむ、なるほど、そうなんでしょうね。ロシア兵の遺族が騒ぎ立てないようにするためですね。
 ロシア内ではプーチン政府の公式見解と異なる報道は許されていない。ロシア国民は当局のプロパガンダによって、ウクライナの「非ナチ化」や「非武装化」を抵抗なく受け入れている。また、国際的孤立から生じる経済的打撃は、裕福な暮らしをしたことのない大多数のロシア国民にとって恐れるに足りるものとはなりえない。なーるほど、残念ながら、きっとそうなんでしょうね・・・。
 ワグネルはロシア軍ではなく、民間の「軍事会社」であり、非公式な「会社」。そこには階級がなく、ロシア政府は存在自体を否定している。そして、ワグネルの活動は、常にプーチンのクレムリンだけに奉仕することを目的としている。
 ワグネルの構成員の大半は元兵士で、絶えずロシア正規軍と緊密な連携をとりあっている。
 ロシアでは、傭兵制度は公式に違法とされている。ワグネルに法的実体はなく、公には経営陣も社員もいない。その創設者の名前にちなんでワグネルと呼ばれている。
 ワグネルの傭兵の30~40%が原始信仰(ロドノヴェリエ)の信奉者である。そして、ネオナチの極右思想を信じている人間もいる。
 ワグネルの兵士は、基地での訓練期間中は月に950ユーロ、国外派遣のときは1500~1800ユーロ。社会保険ナシ、死亡したときの遺族金の対象にもならない。ただ、戦闘に参加したら、特別手当がもらえる。
 死を恐れない元兵士たちが、戦場に出かける。それも高給とりになって・・・。殺し合いなんですよね、嫌ですね・・・。
 この本の体験記(「小説」部分)では、友軍から爆撃された話、また、斥候に出た兵士2人が敵と見間違えられて射殺されたというケースが紹介しています。ベトナム戦争のときにも、アメリカ兵が頻繁に友軍から殺され、大問題になったことを思い出しました。戦闘と軍隊は、まさに不条理の存在なのですよね。
一刻も早く、ロシア軍はウクライナから撤退してほしいです。
(2023年2月刊。3200円+税)

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