弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会・司法

2021年3月12日

私が原発を止めた理由


(霧山昴)
著者 樋口 英明 、 出版 旬報社

原発の運転が許されない理由が明快に説明されている本です。
その理由(根拠)は、とてもシンプルで、すっきりしています。原発事故のもたらす被害はきわめて甚大。なので、原発には高度の安全性が求められる。つまり地震大国日本にある原発には高度の耐震性が求められる。ところが、日本の原発の耐震性はきわめて低い。だから、原発の運転は許されない。このように三段論法そのもので、説明されています。そして図解もされています。
著者は福井地裁の裁判長として原発の運転を差止を命じた判決を書いたわけですが、退官後に判決文を論評するのは異例のことだと本人も認めています。それでも、原発の危険性があまりにも明らかなので、これだけはぜひ知ってほしいという切実な思いから、広く市民に訴えてきましたが、今回はそれを本にまとめたというわけです。私も福岡県弁護士会館での著者の講演を聞きましたが、この本と同じく口頭の話も明快でした。
福島原発事故によって、15万人をこえる人々が避難を余儀なくされ、震災関連死は2千人をこえている。しかし、実は、4千万人の人々が東日本に住めなくなり、日本壊滅寸前の状態になった。2号機は不幸中の幸いで欠陥機だったので大爆発しなかったし、4号機も仕切りがなぜかずれて水が入ってきたのでメルトダウンに至らなかった。偶然が重なって壊滅的事態にならなかっただけだった。
日本は、いつでもどこでも1000ガル以上の地震に襲われる可能性がある。M6クラスのありふれた地震によって、原発は危うくなる。
ところが、関西電力は、700ガルをこえる地震は大阪飯原発のところにはまず来ないので安心していいと言う。本当か...。この関西電力の主張は、地震予知ができると言っていることにほかならない。しかし、地震予知ができないことは科学的常識。つまり、理性と良識のレベルで関西電力の主張が成り立たないことは明らか。
原発訴訟を「複雑困難訴訟」とか「専門技術訴訟」と言う人がいるが、著者は法廷で、「この訴訟が専門技術訴訟と思ったことは一度もない」と宣言したとのこと。
多くの法律家は科学ではなく、科学者を信奉している。しかし、著者は、あくまで科学を信奉していると断言します。そのうえで良心的な弁護士でも、権威主義への誘惑は断ちがたいようだと批判しています。私も胸に手をあてて反省してみる必要があります。
学術論争や先例主義にとらわれると、当たり前の質問をする力がなくなり、正しい判断ができなくなる。
リアリティをもって考える必要があり、それは被災者の身になって考えるということ。
地震については、思わぬ震源から、思わぬ強い揺れがあるかもしれない。このような未知の自然現象については、確率論は使えない。
この指摘には、思わずハッとさせられました。なるほど、そうなんですよね...。
10年たらずのあいだに、全国20ヶ所ある原発のうち4ヶ所について、基準地震動をこえる地震が襲っている。ということは、基準地震動にまったく実績も信頼性もないことを意味している。
国と東電は、廃炉までに40年かかるとしているが、実はまったく根拠がない。こうやって、楽観的な見通しを述べることで、国民が原発事故の深刻さに目を向けないようにしている。
160頁ほどの本ですから、手軽に読めます。ぜひ、あなたも手にとって、ご一読ください。
地震列島ニッポンに原子力発電所なんてつくってはいけなかったのです。一刻も早く全部の原発を廃炉にしてしまいましょう。ドイツにできないことが、日本にできないはずはありません。
(2021年3月刊。1300円+税)

2020年8月 7日

過労事故死――隠された労災


(霧山昴)
著者 川岸 卓哉・渡辺 淳子 、 出版 旬報社

久しぶりにすばらしい本に出会いました。200頁ほどの本ですが、その圧倒的な迫力に心が震えます。その一は、司法の良心を覚醒させた母親の心底からの叫びです。その二は、母親の訴えを正面から受けとめ、それを文章にあらわし、実に格調高い和解勧告文をつくりあげた裁判官です。その三は、悲惨な労災・事故死の事案であるにもかかわらず、抜けるような青空の下で光輝くヒマワリの花を表紙とした本にまとめあげたことです。
著者の一人である川岸卓哉弁護士は、私もかつて在籍していた川崎合同法律事務所の所属です。こんな素晴らしい成果をあげた後輩を心から讃えたいと思います。
事故は2014年4月24日午前9時ころ、24歳の青年が徹夜勤務から原付バイクで帰宅途中、川崎市内の路上で電柱に衝突して亡くなったというものです。青年は、大手デパートなどの店向けに植物をディスプレイする仕事に従事していました。
残業時間の長さには思わず目を疑ってしまいます。事故前1ヶ月は127時間、2ヶ月は82時間、3ヶ月は43時間、4か月は33時間、5か月は87時間そして、6ヵ月は152時間。ウソでしょ、そう叫びたくなります。発症前1ヶ月に100時間を超える残業労働は過労死認定の関連性が認められているのです。
しかも、単に長時間労働というだけでなく、深夜・不規則労働をしていたのです。というのも、店舗内の観葉植物などの設置・撤去ですから、どうしても営業時間外の深夜・早朝の作業になってしまうのです。仮眠すら、仮眠室ではなく、ソファーや段ボールの上でしかとれなかったのでした。
そして、通勤時間は原付バイクで片道1時間、往復2時間をかけていました。これでは、いくら24歳といっても体力の限界ですよね。脳挫傷で即死という悲惨な事故でした。これは、残念無念ですね...。
そして、母親は裁判に踏み切り、意見陳述しました。驚くべきことに、裁判官が、その意見陳述を聞いて、こう述べたというのです。信じられません。
「失われた命の重みを受けとめ、真摯に審理をします」
弁護士生活も46年になりますが、いまだかつて、こんなあまりにもまともな言葉を裁判官の口から聞いたことがありません。いつだってポーカーフェイス、無表情で、「余計なこと」は一言だって言わないぞ、そんな裁判官がほとんどです。
そして、この橋本英史裁判官(35期)は、和解勧告のときにこう言ったのです。
「同じ年齢(とし)の息子がいます。我がことと考えて、書きました」
いやあ、法廷でこんな言葉を聞いたことなんか一度もありません。こんなセリフを吐かせる母親の迫力には私の心まで震え、おののきます。
そして、和解勧告文の格調高さは圧巻です。ええっ、裁判官ってここまで書いていいの...と、思わず内心どよめきました。
この裁判には、実名を出して立ちあがった母親を国民救援会の川崎南部支部が力強く支え、また川岸弁護士を私と同世代で過労死問題のエキスパートである松丸正弁護士が力強く応援しています。メディアの応援も力強かったようです。地元の神奈川新聞、そして朝日新聞としんぶん赤旗です。
裁判傍聴者についても「もの言わぬ弁護団」として高く評価されています。いやあ、すごい本です。川岸弁護士のすばらしさは、この点を強調しているところにもあります。
裁判が公正にすすめられているか監視すること、傍聴者が事件を知り、当事者(時ではありません)と弁護士を励まし、裁判官に公正な判断を迫るという役割があるのです。
和解勧告文を、公開の法廷で橋本英史裁判長が30分以上もかけて読み上げたというのを読んで、思わず腰を抜かしてしまいました。そんなこと、聞いたこともありません。いえ、裁判長が法廷で和解勧告することは、よくあることなんです。ところが、この本に格調高い和解勧告文の一部が紹介されていますが、こんな長文のものなんて、少なくとも私は聞いたことがありませんし、知りません。
「当裁判所は、本件事故にかかる本件訴訟の解決のありようについて、真摯に、深甚に熟慮すべきであると考えるところである。裁判所とは......、和解による解決として、真の紛争の解決と当事者双方にとってより良い解決をすることをも希求する職責を国民から負託されていると考える。本件における裁判所の判断が公表されることは、今後の同種の交通事故死をふくむ『過労事故死』を防止するための社会的契機となり、また、同種の訴訟における先例となり、これらの価値を効果は、決して低くはないものとみられ、むしろ高いものとみることができる」
和解決定文は15頁もあり、30分かけて橋本英史裁判長が読みあげたのでした。裁判官が、官僚ではなく、一個の人間として、人の心の琴線にふれる文章をつむいだのです。
事件に取り組む姿勢、そして解決した事件を世の中に広く知ってもらうための工夫、いずれもまだ35歳という若き川岸弁護士の力量の素晴らしさに圧倒されました。一人でも多くの弁護士に読まれるべき本として心から強く推薦します。
ちなみに判例時報2369号に9頁あまりの長大な評釈と、13頁にわたる和解勧告決定の全文が載っています。私は知りませんでしたので、あわてて書庫から判例時報をひっぱり出してきました。これもぜひご一読ください。
(2020年5月刊。1500円+税)

2020年5月22日

国策・不捜査―森友事件の全貌


(霧山昴)
著者 籠池 寿典、赤澤 竜也 、 出版 文芸春秋

森友事件で籠池夫妻のみが強制捜査の対象となり、刑事裁判になっているのは、どう考えても納得できません。巨悪を逃れしてはいけないのです。
森友事件の本質は、9億円の土地が1億円に大幅値引きされたこと、この8億円の値引きは地下3メートルより深い地点に「新たなゴミ」が発見されたからという理由から。しかし、実は、そんな「新たなゴミ」なんてなかったし、8億円もの値引きにつながるものではなかったのです。
では、何があったのか。それこそ、ズバリ安倍首相案件だったからです。昭恵夫人が前面に出てきますが、その裏には首相本人がいたのです。そのことを当事者として関与した近畿財閥局の担当官A氏(赤木氏)は、苦悩したあげく、ついに自死されました。
いったい、誰がそこまで追い込んだのか...。ところが、財務省の上司たちは、その後、実は、順調に昇進していき、現在に至っています。信じられません。昭恵夫人の秘書役だった谷氏もイタリアの駐日大使館へご栄転の身です。
私は、つくづくこんなキャリア官僚のみちに足を踏み入れなくて良かったと思いました(いえ、大蔵省なんて望んでも入れない成績でしたけど...)。
稲田朋美氏は弁護士として古くから籠池氏と関わりがあるのに、国会では、「ここ10年ほど会っていない。かすかに覚えてほどで、はっきりした記憶はない」、「籠池氏の事件を受任したこともなければ裁判をしたことも法律相談を受けたこともない」などと答えていた。
ところが、籠池氏は、この本のなかで稲田朋美・龍示夫妻(いずれも弁護士)に森友学園の顧問弁護士になってもらい、担保権抹消の裁判を依頼したりして、深く関わっていたことを明らかにしています。
ということは、稲田朋美弁護士(議員)は、とんでもないウソをついていたことになります。そんな人物が自民党を代表してテレビ討論会に堂々と登場してくるのです...。
「安倍晋三記念小学校」という名称は、実は、安倍首相の自民党が野党のときのことで、首相になったあと、昭恵夫人が、現役の首相になったので、この名前を辞退したいと申し入れたとのこと。
なーるほど、と思いました。それほど、籠池夫妻は安倍晋三という議員に思い入れがあったわけです。
ところが、安倍首相は、そんな籠池氏を国会という公の場でバッサリ切り捨てたのでした。
「非常にしつこい人物」
「名誉校長になることを頼まれて、妻は、そこで断ったそうです」
「この籠池さん、これは真っ赤なウソ、ウソハ百...」
すべては、安倍首相が「私や妻が関係していたということになれば、間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということをはっきり申し上げておきたい」と、2018年2月17日の国会で答弁したことに端を発している。
これだけ「関係していた」ことが明らかになっているのだから、今なお安倍晋三が首相どころか、国会議員であることが不思議でなりません。世の中、ウソが通れば、マコトがひっこむというのを地で行っています。
しかも、このような人が「道徳教育」に熱心なのだから、世の中はますます狂ってきますよね...。プンプンプン。
堂々480頁もある本です。籠池氏の怒りがびんびんと伝わってきます。保守主義者、天皇主義者そして生長の家信者というところは何ら変わっていないとのこと。それでも安倍首相を支持する側から、反対する側にまわったことは明確です。いわば、日本人として良識を取り戻したということなのでしょう...。
(2020年2月刊。1700円+税)

2020年4月28日

平成重大事件の深層


(霧山昴)
著者 熊﨑 勝彦 (鎌田 靖) 、 出版 中公新書ラクレ

東京地検特捜部長として高名な著者をNHK記者だったジャーナリストがインタビューした本です。8日間、のべ25時間に及ぶロングインタビューが読みやすくまとめられています。
「これは墓場までもっていく」といった場面がいくつかあり、いささか物足りなさも感じました。要するに自民党政治家の汚職事件です。
ゼネコンなどが大型公共工事で談合していることは天下周知の事実なわけですが、途中に「仲介人」が入っていたら刑事事件として立件できない、著者はこのように弁解しています。一見もっとものようにみえますが、本当に「仲介者」を攻め落とせないのか、そこに例の忖度(そんたく)が入っていないのか、もどかしい思いがしました。
登場するのは、リクルート事件、共和汚職、金丸巨額脱税事件、大手ゼネコン汚職事件、証券・銀行の総会屋への利益供与事件、大蔵省汚職事件です。
スジの良い情報をとれば、捜査は半分成功。
厳正な捜査を貫くことが捜査の基本だが、そのなかで国民目線でものを見ていくことも重要。国民の視点をつねに留意する。捜査というのは、途中で後戻りする勇気も合わせもたないとダメ。
事件捜査は、離陸がうまくいっても、肝心なことはうまく着陸できるか...。
金丸信副総裁への5億円ヤミ献金事件では、金丸信を実情聴取もせず、上申書のみで、罰金20万円で終わらせた。これに国民は怒った。怒った市民が検察庁の看板をペンキで汚すと、同じ罰金20万円だった。
著者は、この金丸副総裁の件を罰金20万円でよかったと今も考えていると弁明しています。とんでもない感覚です。金丸信は、現金10億円を隠していたのです。いったい何という政治家でしょうか...。これが自民党の本質ですよね。
ゼネコン汚職事件について、談合が過去形であるかのように語られているのも納得できません。
高度成長期に建設業界が長いあいだ公共事業で潤っていたことが明らかになった。その旨味(うまみ)を、談合をとおして特定業者に分配する構造が浸透していた。
さらに、談合は受注側だけじゃなくて、発注者側も加担している。つまり官製談合もはびこっていた。このような隠れた社会システムのなかで、建設族とか運輸族とかの族議員や地方自治体の長らが幅を利かせていた。
これって、今もそのまま生きているように私には思えるのですが...。
レストランの奥の部屋にゼネコン4社の談合担当者が集まり、全部で現金1億円をトランクに入れ、それをまるごと仲介者に手渡した。そして仲介者が仙台市長に渡した。
今も、同じことがされているのじゃないのでしょうか...。
物足りなさもたくさんありましたが、特捜検事の苦労話としては面白く読みました。
(2020年1月刊。980円+税)

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