弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
ロシア
2023年4月11日
ワグネル、プーチンの秘密軍隊
(霧山昴)
著者 マラート・ガビドゥリン 、 出版 東京堂出版
アメリカのイラクやアフガニスタン戦争のとき、アメリカの軍事会社が問題となりました。軍事会社の戦闘員が何人死んでも、アメリカ軍の戦死者としてはカウントされない、そして、アメリカ軍のトップ級にいた軍人が営利企業をダシに使って、ガッポガッポもうかっている状況が問題視されました。同じことを、ロシアのプーチン大統領も、シリアそして今のウクライナでやっているようです。その軍事会社がワグネルです。
この本はワグネルで指揮官をつとめていた元兵士がシリアでの活動状況をリアルに報告しています。巻末の解説によると、その様子は「小説」として読むべきだとされていますが、なかなか迫真の内容です。同じく、ワグネルという確固たる組織が実在しているのか、実は複数の傭兵グループと経済利権グループとを組み合わせた「ネットワーク」なのではないかとの指摘もあります。まったく闇の存在ですので、そうかもしれませんね・・・。
ロシアのウクライナ侵略戦争について、著者(元ワグネル指揮官)は、間違っているのは常に侵略した側だ、戦争を始めた側だけに報復を招いた責任があるとして、ロシアとプーチン大統領を厳しく弾劾しています。そのとおりですよね。
そして、ロシア兵がウクライナで戦死しても、身元の確認されていない遺体は「戦死者」としてカウントされず、すべて「行方不明者」とされる。うむむ、なるほど、そうなんでしょうね。ロシア兵の遺族が騒ぎ立てないようにするためですね。
ロシア内ではプーチン政府の公式見解と異なる報道は許されていない。ロシア国民は当局のプロパガンダによって、ウクライナの「非ナチ化」や「非武装化」を抵抗なく受け入れている。また、国際的孤立から生じる経済的打撃は、裕福な暮らしをしたことのない大多数のロシア国民にとって恐れるに足りるものとはなりえない。なーるほど、残念ながら、きっとそうなんでしょうね・・・。
ワグネルはロシア軍ではなく、民間の「軍事会社」であり、非公式な「会社」。そこには階級がなく、ロシア政府は存在自体を否定している。そして、ワグネルの活動は、常にプーチンのクレムリンだけに奉仕することを目的としている。
ワグネルの構成員の大半は元兵士で、絶えずロシア正規軍と緊密な連携をとりあっている。
ロシアでは、傭兵制度は公式に違法とされている。ワグネルに法的実体はなく、公には経営陣も社員もいない。その創設者の名前にちなんでワグネルと呼ばれている。
ワグネルの傭兵の30~40%が原始信仰(ロドノヴェリエ)の信奉者である。そして、ネオナチの極右思想を信じている人間もいる。
ワグネルの兵士は、基地での訓練期間中は月に950ユーロ、国外派遣のときは1500~1800ユーロ。社会保険ナシ、死亡したときの遺族金の対象にもならない。ただ、戦闘に参加したら、特別手当がもらえる。
死を恐れない元兵士たちが、戦場に出かける。それも高給とりになって・・・。殺し合いなんですよね、嫌ですね・・・。
この本の体験記(「小説」部分)では、友軍から爆撃された話、また、斥候に出た兵士2人が敵と見間違えられて射殺されたというケースが紹介しています。ベトナム戦争のときにも、アメリカ兵が頻繁に友軍から殺され、大問題になったことを思い出しました。戦闘と軍隊は、まさに不条理の存在なのですよね。
一刻も早く、ロシア軍はウクライナから撤退してほしいです。
(2023年2月刊。3200円+税)
2023年4月 6日
プーチンの過信、誤算と勝算
(霧山昴)
著者 松島 芳彦 、 出版 早稲田新書
ロシアのウクライナへの侵攻が昨年2月に始まり、1年以上たつのに、いつ戦争が終わるのか、どうやって終わるのか、誰にも予測できない状況が続いています。私はプーチンのロシアがウクライナに攻め込んだのは絶対に間違いだと考えています。でも、アメリカもヨーロッパもウクライナに軍事支援を強めるだけで、ロシアのプーチンとの外交攻勢が弱いと思われてなりません。うがった見方をすれば、アメリカの軍事産業の好景気を続けさせるため、戦争が早く終わるのを望んでいないのではないかとさえ思われます
今やプーチンは核兵器を使うと脅しています。これは自分の身の保全のためには世界を破滅させてもいいというのと同じです。絶対に許せません。
それにしても、日本は今度もアメリカ追随だけ、なさけない限りです。私は岸田首相がゼレンスキーにしゃもじを贈ったのは許せますが、「非軍事援助」と称して莫大な経済援助を約束してきたのには疑問を感じます。どうして、岸田首相はロシアに行ってプーチンに会って話そうとしないのでしょうか・・・。もちろん、ただ話しただけで何か成果がすぐに上がるなんて私も期待しません。でも、行くだけのこと、行って話そうとすることはそれなりに国際世論を動かす意味があると思うのです。
ゼレンスキーは今ではロシアと戦うウクライナの先頭に立ってがんばっていますが、ロシアの進行する前、大統領の支持率は下がっていたようです。
ゼレンスキーは、有力なオリガルヒ(財閥)と協力関係にあった。ゼレンスキーは、キーウ大学で法律学を先行し、喜劇集団の一員として芸能界で活躍していた。
プーチン大統領によると、昨年(2022年)2月24日にウクライナに侵攻したのは戦争ではなく、「特殊軍事作戦」だ。
ロシアではメディアが「戦争」として報道すると、「虚偽の情報を拡散した」罪に問われ、最長15年の懲役刑を科される恐れがある。
ロシア軍は19万人もの兵員がウクライナとの国境線を踏み超えてなだれ込んだ。ロシア軍が大挙して攻め込めば、すでに支持基盤が揺らいでいて、政治・軍事の素人であるゼレンスキーは首都キーウからすぐに逃げ出すとプーチンは踏んでいた。しかし、プーチンの目論見は外れ、ゼレンスキーは国内に踏みとどまり、ウクライナ国民にロシアに対する徹底抗戦を呼びかけた。そして、初戦でロシア軍は大打撃を受けた。
ロシア軍はウクライナ領内に侵攻して、120万人ものウクライナ国民をロシアに強制連行した。そのうち50万人近くが子どもだった。
ロシアは深刻な人口減少に悩んでいる。アメリカのバイデン大統領は、オバマ政権が発足した2009年からウクライナ情勢に深く関与していた。これもロシアのプーチンと確執を深めた。
アメリカとロシアは、水面下でウクライナの奪いあいを展開していた。このアメリカ側の司令塔は、今のバイデン大統領だった。
プーチンは、「ロシアは過去も未来も大国である」と断言する。プーチンは、ロシアの核兵器に言及するとき、決して「核保有国」とは言わない。常に「核大国」とする。ロシアが生来の大国であるが故に当然のように核兵器を有していると言わんばかりだ。
プーチンにとって、現在のウクライナは真の意味での国家ですらない。プーチンは、「近い外国」つまり旧ソ連圏に加えて、「スラブの同胞」には手を出すなと宣明した。
第二次チェチェン紛争当時のロシア国民は、プーチンの「男ぶり」を熱狂的に支持した。プーチンのいう「強いロシア」を体現するのが核兵器だ。核兵器で相手を威圧するためには、核使用が現実的な選択肢であることを繰り返し見せつける必要がある。アメリカはプーチンが核を使うかもしれないと警戒している。プーチンのほうはアメリカが核を使うとは考えていない。
アメリカもロシアも核保有国として核兵器禁止条約に反対している。そして、日本はアメリカの言いなりに、この条約の署名・批准を拒み、締約国会議にオブザーバー参加すらしなかった。
裏切り者は決して許さない。これがプーチンの支配する世界の掟だ。娘が戦争反対する絵を描いてニュースになると、その父親を逮捕し、娘は施設に放り込む。これがプーチンのロシア。
チェルノブイリ(チョルノービリ)原発もロシアに占拠されていますよね。ザボロジア原発もです。原発への攻撃は冷戦時代からの悪夢だったが、プーチンは悪夢を現実に変えた。核兵器の使用と原発への攻撃は、どちらも核による威嚇という点で変わりがありません。
プーチンは、ロシアの若き経営者との面談のなかで、自分をピョートル1世になぞらえたとのこと。350年も前の皇帝を夢見ているということ。
プーチンにとって、ウクライナは「奪う」のではなく、「取り戻す」だけの存在。いやぁ、怖いですよね、これって・・・。プーチンとは何者かを知ることができる新書です。
(2022年8月刊。990円+税)
2023年3月17日
ソ連核開発全史
(霧山昴)
著者 市川 浩 、 出版 ちくま新書
ロシアがウクライナに侵攻して1年以上たちました。プーチン大統領は核兵器を使うぞとたびたび脅していますが、その前にチェルノブイリとザポロージェ原発(原子力発電所)のほうは、すでに現実的な脅威となっています。
ウクライナは豊かな穀草地帯ではあるものの、燃料資源には乏しいところから原発の大量導入が期待され、1970年代後半から1980年代にかけて、多くの原発がウクライナに立地した。ウクライナ電力産業の原発依存率は高く、電力の55%が原発によっている。
チェルノブイリ原発は1986年4月26日、大惨事を引き起こしたが、すぐには閉鎖されなかった。ようやく閉鎖されたのは2000年のこと。ウクライナの電力事情が即時閉鎖を許さなかった。
ザポロージェ原発はチェルノブイリ原発と同じくロシア軍の支配下にあり、外部電源を喪失したり、ウクライナとの戦火の下で危うい状況が続いている。第三の巨大原発災害、カタストローファにならないか、著者は大いに危惧しています。
ソ連の核開発は、アメリカのそれとエコーした、時代の狂気なしでは理解できない現象だった。
チェルノブイリ原発事故に先行して、ソ連市民の原発への疑問・不信は高まり、ソ連政治体制の危機のひとつの要因となった。それにもかかわらず、ソ連の後継国家ロシアの原子力産業は21世紀になって、したたかに息を吹き返し、国際的にビジネス展開するに至った。
ソ連時代、市民の原発への疑問・不信は高まりを見せ、計39ヶ所で原発の建設・操業を阻止した。
ソ連時代の核実験場であるセミパラチンスクやカプスチンヤール周辺では、大量の放射性物質が飛散した結果、住民のなかに白血病、種々のガンの罹病率、先天性障害のある子どもの出生率に明らかに有意な増加が認められている。
ソ連時代、船用の原子炉からの放射性廃棄物は、未処理のまま長く海洋投棄されていた。地下深くに廃棄物を埋没しようとする試みもまったく一部でしかなかった。
ロシア領内にある採掘可能なウランの埋蔵量は世界の5%にあたる17万トン超。ロシアは低品位ながら毎年3500トンのウランを供給し、カナダ、オーストラリア、カザフスタンに次ぐ、世界第4位のウラン産出国。そして、ロシアは、世界のウラン濃縮能力の40%以上、3.5%濃縮ウランを2万4000トン製造する能力を有している。核燃料の加工は2ヶ所で行われ、年間2600トン可能。ロシアの原子力工業「ロスアトム」は、世界有数の国際原子力企業集団としてよみがえっている。
日本も原発大国です。日本で戦争なんてはじまったら、たちまち日本は終わりです。敵基地攻撃を反撃能力と言いかえてごまかしていますが、要は戦争しようというのです。でも、日本はウクライナと違って海に囲まれた日本は逃げることもできませんし。1週間も戦争したら、私たちは完全にアウトなんです。ともかく原発再稼働には反対です。戦争にならないよう、外交力を向上させるよう、私たち国民が声をあげるしかありません。
(2022年11月刊。税込964円)
2023年2月22日
クレムリン秘密文書は語る
(霧山昴)
著者 名越 健郎 、 出版 中公新書
ソ連がなくなったのが1991年ですから、もう32年にもなります。ソ連時代の秘密文書が公開されて、だんだん歴史の真実が明らかになってきました。
私が1995年3月に発行された本書を読んだのは、元日本兵のシベリア抑留に関連して、その真相を知りたいと思ったからです。
スターリンの極秘指令によりソ連が元日本兵をシベリアに送って強制労働させたのは、北海道の北半分をソ連が占領することをスターリンがアメリカのトルーマン大統領に提案したのをトルーマンが拒絶したので、その腹いせに元日本兵をシベリアに送ることにしたという仮説(有力説という表現もあります)があるのです。
6月26日、クレムリンで対日参戦問題をめぐる重要会議が開かれた。このとき、メレツコフ第一極東方面軍司令官が北海道占領を提案し、フルシチョフが支持した。モロトフ外相やジューコフ元帥は反対。ジューコフ元帥は北海道を占領するなら、戦車と大砲を完全充足した4個師団が必要だとスターリンに説明した。
スターリンは8月9日の満州進攻作戦の直前、北海道北半分の占領に備えて4個師団を北海道に投入する計画を策定したうえで、8月16日付の書簡で、トルーマン米大統領に北海道北半分の占領を認めるよう要求し、同時にサハリン南部に対して北海道上陸の出発準備をするよう通達した。しかし、8月25日にサハリン南部の解放(占領)が終了したあとも、北海道上陸作戦の出動命令は出されなかった。
このように、ソ連軍が北海道北半分の占領を目ざして準備し、進攻しようとしたのは事実のようです。もし、そうなったら、朝鮮半島で起きた紛争、とりわけ朝鮮戦争のような事態が北海道で起きたかもしれません。ぞぞっとしますよね...。
しかし、ソ連の国防委員会が8月22、23日に開かれ、元日本兵のシベリア抑留が決められた。8月16日の時点では、満州に19の収容所が設営され、そこに武装解除された元日本兵が集められて、そこから日本に送還する予定だった。それが1週間後の8月23日にシベリア抑留が決定された。
しかしながら、スターリンの極秘指令文書をみると、ソ連への全10地域47収容地を列挙し、投入する人数から移送・収用条件まで綿密に描かれていて、ソ連当局はかなり前から元日本兵の抑留と強制労働を決め、周到な準備をすすめていた。
私も「1週間で大転換があった」という説には乗りません。というのも、元ドイツ兵の捕虜を100万人以上も使役してソ連の都市の復興に役立たせていたわけなので、それをスターリンが知らない、忘れていた、なんてということは考えられないからです。
歴史の真実を知るのは容易なことではないことが、しっかり伝わってくる本でした。
(1995年3月刊。税込720円)
2023年2月16日
シベリア抑留秘史
(霧山昴)
著者 ロシア最高軍事検察庁 、 出版 終戦史料館出版部
元日本兵60万人がシベリアに抑留され、その1割が死亡するという悲惨なシベリア抑留は、スターリンが北海道の北半分を占領することを求めたのに対して、アメリカのトルーマン大統領が拒絶したので、その代わりとしてバタバタと決まって実行されたという説があることを最近、初めて知りました。でも、私は懐疑的です。
8月16日、日本軍(関東軍)総司令官山田乙三大将と停戦交渉にあたっていたソ連軍のワシレフスキー元帥に対して「日本軍の捕虜のソ連領への移送は行わない」などとする指示がモスクワから来ていた。モスクワというのはスターリンの指示です。
同日、スターリンはトルーマン大統領に対して北海道の北部(釧路と留萌を結ぶ線より北側)をソ連軍が占領することを認めるよう求めた。しかし、トルーマンは8月18日、千島列島についてはソ連領とすることは認めつつ、北海道北半分の占領は拒否した。
8月20日、モスクワはワシレフスキー元帥に対して北海道への上陸・占領作戦を準備するよう指示した。この指示には、同時に、「本部の特別司令によってのみ開始すること」という条件がついていて、その特別司令は結局、発されることはなかった。
8月23日、スターリンは、強い口調で不満を表明したが、結局、北海道上陸は断念した。
この本は、以上の経緯を明らかにして、「北海道占領の断念が転じて捕虜の(シベリア)強制抑留に連なった」としています。
しかし、私は、この説には賛同できません。なぜなら、すでにスターリンはドイツ軍捕虜300万人をソ連領内の都市の復興に「活用」していた実績があるからです。シベリアを含む極東の都市等の再生に日本兵捕虜を「活用」することは、スターリンが北海道北半分を占領してかかえこむことになる「苦労」よりはるかに上回るメリットがあることは明らかです。「シベリア抑留」と「北海道北半分の占領」とをスターリンが天秤に考えていたなんて、私からすると、あまりに非現実的です。
この本には瀬島龍三という戦後日本で大きな役割を果たした人物、ソ連のスパイになったのではないかと疑われている人物について、好意的に紹介しています。
また、近衛文麿首相の長男である近衛文隆の死亡に至る経緯も明らかにしています。
1992年9月に発行された本を古書として求めました。
(1992年9月刊。税込3000円)
2022年11月17日
追跡・間宮林蔵探検ルート
(霧山昴)
著者 相原 秀起 、 出版 北海道大学出版社
北海道の北、かつては日本領だったサハリンが大陸とは別の島だというのを探検して確認した間宮林蔵の足跡を北海道新聞の記者がたどったのでした。サハリンと大陸との間は今も間宮海峡と呼ばれています(今のロシアでも呼んでいるのでしょうか...?)。
間宮林蔵がサハリンを探検したのは1808(文化5)年から翌年にかけての2年間。そのとき間宮林蔵は30歳前後。そうなんですね、やはり若さが必要ですよね。
伊能忠敬は50歳台から日本全国を歩いて測量しましたが、寒さの厳しさが格段に違うサハリンには、やはり若さが不可欠ですよね。
伊能忠敬は、北海道の大部分を間宮林蔵の測量を基にしているそうです。
北海道新聞の記者である著者は、北海道大学(北大)探検部出身とのこと。すごいですね。
間宮林蔵が現地で実測して作成した地図は、現代の衛星データを利用してつくった地図と比べても遜色がないほどの正確さがある。
いやあ、実に、これって、すごいことですよね。基本は人間の足ですからね...。
間宮林蔵の描いた絵は、まるでドローンを飛ばして見たように、一定高度に視点を置いて、俯瞰(ふかん)するように描いた。間宮林蔵は、上空から見た風景を想像して絵を描いている。すごい、すごーい。
当時、サハリンの村では女性の力がすごく強かった。女性上位の村で、女性からの誘惑を間宮林蔵はなんとか拒絶して、村の男たちとのトラブルを避けた。僻地(へきち)で女性問題を起こすのは、探検家や冒険家にとっては、今も昔もタブーなのだ。なるほど、そうなんでしょうね...。
現在、サハリンでは犬ぞりはまったく姿を消して、スノーモービル全盛だ。日本のヤマハ製が人気だ。
サハリンには、アイヌの子孫だという「ワイサリ」と名乗る人々が住んでいる。
間宮林蔵はアイヌの集落でアイヌの女性と結ばれて、女の子が生まれ、北海道に子孫がいるそうですが、その名前は「間見谷」です。そして、東京と茨城県にも間宮家が続いているそうです。
この本は、北大構内の売店で購入しました。北大では、久しぶりにポプラ並木も見学しました。
(2022年4月刊。税込2750円)
2022年8月25日
亜鉛の少年たち
(霧山昴)
著者 スヴェートラーナ・アレクシエーヴィッチ 、 出版 岩波書店
ソ連時代、アフガニスタンの戦場へ送られ幸いにも帰還できた将兵の証言集。
著者は『戦争は女の顔をしていない』の作家でもあります。苛酷すぎる戦争体験を聞きとり、活字にする作業をすすめていったわけですが、そのあまりの生々しさは反戦記録文学とみることもできます。なので、それへの反発から、誰かが黒幕となって、聞き取り対象となった兵士や遺族の母親から、自分はそんなことは言っていない、アフガンで戦った兵士の名誉を侵害したとして、ロシアで裁判になったのでした。
著者が法廷で、あなたはあのとき私に本当にそう言ったのではありませんかと追及されると、彼らも全否定はできず、いや、そのつもりではなかったんだ、と話をそらそうとしたのです。裁判所は、結局、事実に反するとは認めなかったものの、一部は兵士の名誉を毀損しているとして、著者にいくらかの損害賠償を命じました。
銃弾が人間の身体に撃ち込まれるときの音は、一度聞いたら忘れられないし、聞き違えようがない。叩きつけるような、湿った音だ。
戦場にいる人間にとって、死の神秘なんかない。殺すってのは、ただ引き金を引くだけの行為だ。先に撃ったほうが生き残る。それが戦場の掟だ。
オレたちは命令のとおりに撃った。命令のとおりに撃つよう教え込まれていた。ためらいは
なかった。子どもだって撃てた。男も女も年寄りも子どもも、みんな敵だった。オレたちは、たかだか18歳か20歳だった。他人が死ぬのには慣れたけど、自分が死ぬのは怖かった。
アフガンでの友情なんて話だけは書かないでくれ。そんなものは存在しない。
なぜ、相手(敵)を憎めたのか。それは簡単なこと。同じ釜の飯を食べた、身近にいた仲間が殺される。さっきまで、恋人や母親の話をしてくれていた仲間が全身、黒焦げになって倒れている。それで即座に、狂ったように撃ちまくることになる。
罪の意識は感じていない。悪いのは自分たちを戦場に送り込んだ人間だ。
兵隊になって、オレはなにより味方に苦しめられた。古参兵たちのいじめだ。
「ブーツをなめろ」。全力でぶちのめされる。背骨が折れそうなくらいズタボロにされる。
ヘロインは文字とおり足元に転がっていた。でも、オレたちは大麻で満足していた。
戦場で生き残るもうひとつの秘策は、なにも考えないこと。将校は自分では女や子どもを撃ちはしない。撃つのは自分たち兵士だ。しかし、命令するのは将校。なのに、兵士がみんな悪いって言うのはおかしいだろ・・・。兵士は命令に従っているだけなのに。
死体はさまざまだ。同じ死体はひとつとしてない。
兵士が死ぬのは、戦地に到着して最初の数ヶ月と、帰国する前の数ヶ月がいちばん多かった。最初のうちは好奇心が旺盛だからで、帰国前は警戒心が薄れてぼんやりしているからだ。
著者を訴えた兵士や遺族は、「息子は殺されたというのに、それを金もうけのタネにしている」「裏切り者」「あなたは、私の息子を殺人犯に仕立てあげた」と強調した。
死んだ兵士は亜鉛の棺に入って自宅に届けられる。一緒に届けられるのは、歯ブラシと水泳パンツの入った小さな黒いカバンひとつだけ。
ソ連によるアフガン侵攻の戦争は1979年から1989年まで10年間も続いた。そして、ソ連は侵略者でしかなく、しかも勝利はしなかった。今のウクライナへのロシア(プーチン大統領)の侵略戦争と同じですよね。一刻も早く、ロシア軍が撤退して、ウクライナに平和が戻ることを願うばかりです。
(2022年6月刊。3520円)
2022年4月 8日
ロシアトヨタ戦記
(霧山昴)
著者 西谷 公明 、 出版 中央公論新社
ロシアがウクライナ侵略戦争を始めて1ヶ月あまりたって、こんなときにロシアに関する本を読んでどうするんだ...、と思いつつ読んだ本です。
まったく期待せず、さっと読み飛ばすつもりだったのですが、意外や意外、とても興味深い内容の本でした。なるほど、今のロシアって、そんな国だったのか、ウクライナへの侵略戦争を始めた理由、そして、ロシア国民の7割がプーチン大統領を支持しているという理由が、やっと理解できました。つまり、ロシアにトヨタが進出していったとき、どんな扱いを受けたのかを通じて、ロシアというのは、どんな国なのかがよく分かったということです。
ロシアという国に正義など存在しない。そのことはロシアでの苦い経験から、身をもって学んだ。裁判による企業側の勝訴率は20%以下と言われていた。下手な取引(ディール)に応じてしまえば、いずれもっと大がかりなたかりの標的にされ、将来に取り返しのつかない禍根を残してしまうことになりかねない。
当時のロシアは粗野で、不条理にみちていた。「当時」と、今では違うと言えるのでしょうか...。それが問題です。
ロシアで土地を取得し、そこに社屋を建設するとなれば、きれいごとだけですまない。これは分かっていた...。実際に社屋建設に向かって動きだしてみると、ロシア社会の実態が分かってきた。その社会の無法ぶりに泣かされた。資材や機材を輸入するとき、厄介な通関手続の代行をふくめて、巨大な輸入ビジネスのすそ野を形成していた。認証料や手数料などの名目で、あちこちへお金が落ちるしくみになっていた。どこでも「袖の下」が求められた。
ロシア人は請負師であって、自らは仕事せず、中央アジアからの出稼ぎ労働者に仕事をさせる。ロシアは、まぎれもなく階層社会だった。
ロシア経済は、原油への依存に大きく偏りすぎていた。貿易では輸出の65%以上、財政では歳入の50%以上を石油とガス、その関連製品が占めていた。
ロシアは経済危機におちいると、いっとき高級車が飛ぶようによく売れる。それは、ロシア人が自動車を換金性の高い資産と考えているから。
ロシアの人々は、家族と自分自身の日々の生活だけを重んじて、政治や社会、他人については無頓着で、無関心だった。他人を押しのけて生きるのはあたり前。
残念ながら、ロシアは、今もって成熟しておらず、欧米や日本の通念に照らして「ふつうの国」からほど遠い。
ロシアでは犯罪は容易につくりあげられ、正義はなきに等しい。
ロシアでは貧富の差が拡大し、社会のひずみが身近に感じられる。経済のそこここに利権がはびこり、行政の腐敗、汚職と賄賂が蔓延している。交通警察の陸送へのいやがらせもひどかった。
プーチン大統領は、国家に管理された資本主義の方向に向かった。それは中央集権的な政治を目ざすということ。ところが、ロシア国民にとって、プーチンは、祖国を分裂と崩壊の淵から救い出し、国家としての一体性を回復させて、ふたたび大国へと導くための道筋をつけた恩人だった。だから、支持率70%は当然だった。
ウクライナへの侵略戦争を始めた今日でも、なお70%もの支持率だといいます。マスコミがプーチンによって統制されて、ほとんど戦争の真実をロシアの人々に伝えていないからでもあるでしょうが...。
近代ロシアの歴史は、一貫して権威主義的な専制君主国家として、上からの垂直的な統治があり、下には上に従う多数の国民がいる。
トヨタは、ロシアでレクサスをふくめて多くの車の売り込みに成功したようですが、その内実がいかに、大変だったのか、この本を読むと、その大変さのイメージがつかめます。
ロシアのウクライナ侵攻の背景にある、ロシアという国の本質を垣間見ることができる本として、一読をおすすめします。
(2021年12月刊。税込2420円)
2022年3月20日
同志少女よ敵を撃て
(霧山昴)
著者 逢坂 冬馬 、 出版 早川書房
独ソ戦、ナチス・ドイツ軍とソ連・赤軍の死闘のなかで、スターリングラードなどでは激烈な市街戦も戦われ、そのとき狙撃兵が活躍しました。ソ連軍は、女性だけの狙撃兵部隊を組織し、彼女らは目を見張るほど活躍しました。この歴史的事実を踏まえたフィクション(小説)ですが、よく調べてあり、ストーリー展開も無理がなく、最後まで狙撃兵になった気分で読み通しました。
アガサ・クリスティー賞を受賞しましたが、惜しくも直木賞は逸してしまいました。
巻末に主要参考文献一覧が明記されているのは、小説と言いながらも歴史的事実に立脚していることを裏付けています。このリストにあがっているもので有名なのは最近の本では『戦争は女の顔をしていない』(岩波書店)です。これはマンガにもなりました。読みでがあります。
日本人の書いたものでは大木毅『独ソ戦』(岩波書店)が勉強になりました。
スターリングラードをめぐる攻防戦については映画もありますし、狙撃兵を主人公とする映画もありました。
ソ連の狙撃兵は、一般の歩兵師団の中に置かれる狙撃兵部隊と、第39独立小隊のように、ソ連軍最高司令部隊予備軍に所属し遊撃する狙撃兵集団に大別される。いずれにしても、狙撃兵は歩兵と相性が悪く、仲は良くない。これは職能の違いにもよる。
歩兵は前線で敵弾をかいくぐって敵に迫り、市街戦ともなれば数メートルの距離で敵を殺すのが仕事だ。そのために必要な精神性は、死の恐怖を忘れて高揚の中で自らも鼓舞し、熱狂的祝祭に命を捧げる剣闘士のものだ。
これに対して狙撃兵は、潜伏と偽装を徹底し、忍耐と集中によって己を研鑽し、物理の下に一撃必殺を信奉する、冷静さを重んじる職人であり、目立つことを嫌う狩人だ。
歩兵から見た狙撃兵とは、自分たちを全面に出して距離を置いて敵を撃つ陰気な殺し屋集団。これに対して、狙撃兵から見た歩兵とは、狙撃兵の損耗率が歩兵より高いという事実を無視して、自分たちを蔑視し、乱雑な戦闘技術で粗暴に振る舞う未開の野蛮人。
狙撃兵は、歩兵が求めるような戦友同士の同志的結合、固い絆といったものを好む精神性をあわせて重視せず、狙撃兵同士で集まり、寡黙に過ごす者が多い。
500メートル先の敵将校をスコープでとらえ、生きている人間と分かって銃撃して殺すというのが狙撃兵の任務。自分の指の引き金で目前の人を殺すことにためらうことがないというわけです。ふつうの神経の持ち主にできることではないでしょう。私は、もちろんできません。そこらをふくめて、いろいろ考えさせられる本でもありました。
(2021年12月刊。税込2090円)
2022年2月25日
チェチェン化するロシア
(霧山昴)
著者 真野 森作 、 出版 東洋書店新社
ポスト・プーチン論序説というサブタイトルのついた本です。
チェチェン共和国は、人口百数十万人、岩手県と同程度の面積。首長ラムザン・カディロフの独裁政治が長く続いている。
小さなチェチェンは、ロシアの命運を左右してきた歴史がある。プーチン、ロシア大統領が2000年に最高権力を握るときの鍵となったのがチェチェンだった。身近な場所でのテロに脅えていたロシア市民にとって、プーチンは「仲間のように気さく強い指導者」の登場だった。
チェチェンの首長カディロフはプーチンに個人的忠誠を誓い、見返りに首長の地位と地域統治のフリーハンド、連邦予算の投入を得ている。通算4度目のロシア大統領当選を果たしたプーチンにとって、大事なのは忠誠と安定であり、チェチェン内部がどうであろうと関係がない。
チェチェンでは、プーチンへの忠誠やロシアに対する愛国心が強調される反面、イスラム教とかカディロフへの個人崇拝が合わさった黒色の文化が形成されつつある。
チェチェン人は、コーカサス最古の民族の一つ。イスラム教を受容したのは17世紀以降で、比較的最近のこと。「スーフィー」と呼ばれるスンニー派のイスラム教新主義の進行が主流。歴史的にチェチェン社会は150ほどのテイブと呼ばれる民族、父系の血縁集団を基盤としている。
2002年10月のモスクワ劇場占拠事件(人質100人以上が死亡)、2004年2月のモスクワ地下鉄爆破テロ(40人以上死亡)、同年8月の旅客機2機の爆破テロ(90人死亡)、同年9月の北方オセアチア・ベスラン学校占拠事件(400人死亡)と、相次ぐテロ事件が起きた。また、現首長の父親のアフマト・カデイロフも2004年5月の爆弾テロで死亡している。
カデイロフ首長は、嘘や心にもないことを平気で語る。大言壮語や過激な脅し文句をよく口にする。存在感を誇示し、注目を集めることを好む。プーチンとの関係が生命線だと自覚しているため、忠誠心を露骨にアピールする。これって、関西で注目を集めている地域政党のリーダーたちによく似ていますよね...。
カデイロフは反対派を許容できない。狡猾(こうかつ)で、自分との競争相手は全部排除した。犯罪に対しては、犯人本人だけでなく、家族全員が罰せられる。
カデイロフは、自分の私的な親衛隊、カデイロフツィをもっている。武装した彼らは4万5千人もいて、治安当局とともに強権的な統治を支えている。
チェチェンには人権が存在していない。唯一の法律が首長カディロフの命令。
チェチェンは、全ロシアでもっとも失業者が多く、もっとも平均時給が低い地域だ。
チェチェン共和国の予算はロシア連邦中央の支援に依存している。共和国予算の8割がロシア連邦からの補助金で占められている。
チェチェンがらみでプーチン政権やカデイロフ体制を批判する政治家やジャーナリスト、活動家が暗殺されてきた。
チェチェンの民主化は、はるか彼方にあるようだというのが、本書を読んだ率直な感想です。
(2021年9月刊。税込2530円)