弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
脳
2022年12月19日
心はこうして創られる
(霧山昴)
著者 ニック・チェイター 、 出版 講談社選書メチエ
速読とは、単なる飛ばし読みである。一行とか一段落とかの文章を脳が丸ごと取り込むことはありえない。人が見ることのできるのは、大まかに言って、一度に一単語だ。
視線は1秒間に平均して3回か4回、ジャンプしている。視覚入力とは、途切れのない流れではなく、周囲の後継や本のページを操った「スナップ写真」の連なりなのだ。眼球は決して滑らかには動かない。
私は、今年は単行本の読書が12月初めに400冊を超えました(この読書記は1日1冊ですから年に365冊です)。年末までに430冊までは到達できないでしょう。ともかく、コロナ禍のせいで、電車に乗る機会が減りました。裁判もインターネット画面上になって、味気なくなりました。
心そのものが不可能物体である。心が確固たる存在に感じられるのは、表面的な見せかけでしかない。浮かんでは消えていく意識の流れの内容以外、心には何もない。自分の農に騙されているのが、私たちだ。
人間には、物体としての整然とした形をもたないバラバラなものをひとまとめにする能力がある。
人間が素晴らしく賢いのは、単純な計算を猛烈にこなすからではない。それはシリコンの行う計算法だ。脳がする計算は、ニューロンという処理単位が数多く結合した協働の結果なのだ。1個1個のニューロンは遅いけれど、脳のなかの各ネットワークや各主要領域が、多数のニューロンの協調的な活動のパターンを産み出す。
従来型コンピューターと脳とを同類のものであるかのように比較するのは、大きな誤解。
ニューロンという、のろまな計算ユニットは、問題を無数の小さな欠片へと分割し、高密度に相互接続されたネットワークの全体で暫定的な解答の数々を同時並行的に共有する。脳が用いているのは、多数のニューロンから成る広大なネットワークの協働的な計算だ。
作業を休みなく続ける人に比べて、休憩後に再開した人は急に成績が向上する。休憩すると、心機一転、すっきりとした頭でのぞむ。このほうが成功の見込みがある。
ハンズフリー電話で会話しながら、両手で運転したとしても、同じくらい危険だ。会話の流れと、運転の流れは、思った以上に深刻に邪魔しあう。実は、同乗者との会話にも、多くの危険がある。
無意識とは、ヒトの緩慢で意識的な経験を創り出し、支えているところの神経活動のきわめて複雑なパターンなのだ。
チェスの名人たちは、長い経験を通じて、駒の配置の意味をすらすらと見てとらえられる。それをできるのは目の前の盤面を、過去数千時間に及ぶ試合経験から得た駒配置の記憶の痕跡とを結びつけるから。
知覚と記憶とは、複雑にからみあっている。
想像の飛躍という驚くべき能力は、大きな飛躍も小さな飛躍も、やみくもな反復から自由にしてくれる。
誰もが過去を手引きとし、過去に形づくられた一つの伝統なのだ。
私たちは、改善、調整、再解釈そして大規模な改革をする能力がある。
現在を意図的に変えることができる限り、そこには未来を変える希望がある。人間の脳は、すばらしく敏感に顔に反応する。
脳は、倦(う)むことなき迫真の即興家であり、一瞬また一瞬と心を創り出している。新たな即興は、過去の即興の断片から組み立てられる。
人間と、脳と、心について考え直すヒントが満載の本でした。
(2022年10月刊。税込2145円)
2021年11月23日
海馬を求めて潜水を
(霧山昴)
著者 ヒルデ・オストビー、イノヴァ・オストビー 、 出版 みすず書房
子どもたちに幸せな人生を支えるのは、親が語って聞かせる、子どもの小さいころの楽しい話だ。親の話を聞くことにより、子どもは、自分が楽しく生きてきたという、ポジティブな感情をもつことができる。夕ご飯を食べるとき、一緒に過ごした思い出をほんのわずかな時間でも語りあうことによって、子どもたちの心の傷を癒し、自信を与える。これは、すてきな記憶のプレゼントだ。うーん、そうなんですね...。
記憶の定着には眠りが必要。人は、眠っているあいだに、その日の出来事を見直し、大脳皮質に定着させている。
PTSDを負った人の海馬は、通常の人よりサイズが小さい。
私たちの記憶は、都合よく改ざんされる。自分が体験したと思った出来事も、すべてが事実とは限らない。虚偽記憶はさまざまな方法で形成される。他の人の記憶を「盗む」ことさえある。証人は、あてにならない。多くの場合、本当に間違って覚えている。
人々は睡眠不足に苦しむと、通常よりも記憶に影響を受けやすくなる。
刑事被疑者がにせの自白をするのは3つのパターンがある。その一つは、やってもいない罪を自由意思で認めるもの。目立ちたいから、というのもある。その二は、強制による拷問や時間の心理的圧迫を受けたあと、今の抑圧から逃れるための「自白」。三つ目は、自分の自白を信じていて、自ら虚偽自白を生み出してしまうケース。
記憶術トレーニングは、一般的な記憶力の向上に効果があるとは言えない。
人口の12%という、信じられないほど多くの人々がうつ病に苦しんでいる。彼らは、記憶力の低下に苦しんでいる。
健忘症にかかった人の多くは、程度の差はあれ、古い記憶は維持しているものの、新しい経験を記憶するのに苦労している。
私たちは、年齢(とし)をとれば、とるほど、過去を振り返る。
記憶とは、将来起こりうる危険を予測し、それに向けて備えるための大切な機能だ。私たちの記憶は柔軟で変形しやすく信頼性が低い。その理由は、記憶は、美術館の展示品ではなく、実際に使われるべきものだから。記憶は、将来のビジョンや計画、夢、空想にとって不可欠のもの。将来を想像することは、記憶の自然な機能。記憶をはっきりと認識するプロセスと、未来を想像するプロセスは同じだ。生き残るためには過去が必要なのだ。
ゾウの集団を率いるリーダーは経験豊富なメスのゾウ。彼女は過去の記憶をたどって、いつ、どこに水と食べられる植物があること、そして、そこにたどるルートを知って覚えているからこそ、群れを率いて生きのびることができる。
未来思考は、文字を書くという創造性を生み出した。
人間とは何かを考えさせられる本です。著者はノルウェー人姉妹です。
(2021年6月刊。税込3740円)
2021年9月21日
バレット博士の脳科学教室
(霧山昴)
著者 リサ・フェルドマン・バレット 、 出版 紀伊國屋書店
脳のもっとも重要な仕事は、エネルギーの需要が生じる前に予測しておくことで、身体をコントロールすることにある。つまり、脳のもっとも重要な仕事は、考えることではなく、恐ろしく複雑化した、もとは小さな生物の身体を運用することにある。
脳が3つの層からなるという考えは、1990年代に、専門家によって完全に否定された。
理性的思考という特別な能力をもつことで、人間は動物的な本性を克服し、今や地球を支配するに至った。こんな三位一体脳説は完全に間違っている。そうではなく、脳は、たったひとつの巨大で柔軟な構造へと結合された1280億のニューロンからなるネットワークなのだ。
1280億のニューロンは、発火することで、日夜、継続的に連絡をとりあっている
ニューロンが発火すると、電気シグナルが幹を伝って根の部分に達する。シグナルを受けとった根の部分は、シナプスと呼ばれるニューロンとニューロンの隙間に科学物質を分泌する。分泌された化学物質は隙間を渡り、相手ニューロンの灌木の枝のような先端に取りつく。すると、受け手のニューロンが発火し、それによってニューロンからニューロンへと情報が伝達される。
脳のネットワークは、常にオンの状態にある。すべてのニューロンが、その支配を通じて常に会話している。脳のネットワークは、固定されておらず、常に変化している。めまぐるしく変化している部位もある。脳の配線は、ニューロン間の局所的な結合を補完する化学物質に浸されている。
人間の新生児は、いわば建設中の脳をもって生まれてくる。25年くらいかけて主な配線を完了するまで、人間の脳が成人段階の完全な構造や機能をもつことはない。
いかなる人間の性質についても、遺伝子か環境かのどちらか一方に原因を求めることはできない。どちらも非常に深くからみあっているため、生まれや育ちのような言葉で区別しても無益だ。
育児の要諦(ようてい)のひとつは、介入すべきとき、すべきでないときの見きわめにある。乳児の脳は、食料と水さえ与えておけば正常に発達するというものではない。アイコンタクトや言葉そして肌の触れあいを通じて、社会的ニーズを満たしてやる必要がある。
長期にわたる慢性ストレスは脳に損傷を与えうる。侮辱や脅しを受けている人は病気にかかりやすくなる。言葉は脳に物質的な損傷を与えうる。ストレスは実際に人を太らせる。
神経系の最良の味方は、他者であり、最悪の敵も他者だ。
人間の大脳皮質の配線は圧縮を、圧縮は感覚結合を、感覚結合は抽象を可能にする。抽象は、高度に複雑化した人間の脳が、物理的な形態にもとづくのではなく、機能にもとづいた柔軟な予測を発することを可能にする。これが創造性だ。
人は、コミュニケーション、協力、模倣を通じて予測を共有することが可能なのだ。
脳のはたらきについて、さらに一歩、認識を深めることができました。
(2021年6月刊。税込1980円)
2021年3月 1日
「脳を司る『脳』」
(霧山昴)
著者 毛内 拡 、 出版 講談社ブルーバックス新書
脳の研究は3つの柱から成る。一つは脳障害の記述にもとづいた医学的なアプローチ。二つは、電気的な測定。これは生体が電気を発生していることにもとづく。三つは、顕微鏡技術の進歩による。
脳にも間質がある。つまり「すきま」がある。これを細胞外スペースと呼ぶ。この細胞外スペースは伸び縮みしている。
脳脊髄液は1日に450~500ミリリットル産生され、1日に3~4回、入れ替わっている。この脳脊髄液が常に流れて入れ替わることによって、脳の環境を一定に保っている。
脳脊髄液が髄膜のリンパ管を通って排出されている。このリンパ管を通して全身から脳への免疫細胞の輸送もされている。
睡眠中に、脳脊髄液と間質液が交換されることによって、アミロイドβのような代謝老廃物であるタンパク質が洗い流される可能性がある。
睡眠障害によってアルツハイマー病になるのか、アルツハイマー病になったから睡眠障害になるかという因果関係は、今のところ明らかになっていない。ただし、良質な睡眠が健康維持に重要なことは明らか。
生物は金属よりも電気を蓄える能力が高い。もっとも誘電率が高い金属よりも生物のほうが1000倍も大きい。
低周波で電気を蓄える能力が高まる。細胞外スペースが脳の電気的な特性を決めている。低周波は、生体に与える影響が大きいので、注意が必要。脳の20%ほどは、細胞外スペースと呼ばれる「すきま」である。
頭の良い人ほど、ニューロンの密度は低く、シンプル。IQテストの成績が良い人ほど神経突起の密度が低く、枝分かれが少ない。これは脳内にムダな接続が少なく、回路が効率的になっているということ。
著者は道に迷ってみることを読者にすすめています。脳の警戒が高まり、身を守るために注意力や集中力が高まるから。これは脳を若く保つ秘訣でもある...。
脳の話は、いつだって面白いです。興味は尽きません。
(2020年12月刊。1000円+税)
2020年8月11日
40人の神経科学者に脳のいちばん面白いところを聞いてみた
(霧山昴)
著者 デイヴィッド・J・リンデン 、 出版 河出書房新社
この本を読んで、私たちの脳についてさらに新しい知見を得ることができました。
たとえば、味覚です。いま、労災事故でアゴを負傷したため味覚を喪ってしまったという労災事故案件を扱っていますが、味覚を喪失するというのは、人生の最大の楽しみの一つである食事の喜びがないということです。なんという悲劇でしょうか...。
そして、この本によると味覚は消化にも関連しているというのです。
健康的で適切な消化を行うためには、食物と栄養素の摂取が予期され、身体が十分に準備を整えていなければならない。たとえば、胃の攪拌運動、腸の律動的な収縮、口内の唾液の分泌、血中への早めのインシュリン放出などの内分泌、栄養素を腸を通して血中に運ぶたんぱく質を増加させる分子反応など......。
脳とコンピューターを比較すると、脳の動作速度は最大で毎秒1000回の基本動作ができる程度なので、コンピューターの1000万分の1でしかない。精度の面でも、コンピューターのほうが脳より100万倍も優れている。
しかし、脳は大規模な並列処理ができるし、している。ひとつのニューロンが1000個のニューロンから入力を受け、また1000個のニューロンに出力する。こんなことはコンピューターには出来ない。さらに、脳のニューロンは、アナログの信号も使う。
他者を助けるというのは、哺乳類の基本行動だ。アカゲザルを10年間にわたって研究した結果、正常な社会的発達には、とくに同世代の仲間との社会的な触れあいが決定的に重要であることが判明した。
哺乳類であるというのは、単に身体的な問題ではなく、社会化により脳回路が形成されていなければならない。
恋愛と愛着は、私たちにとって非常に基本的なもので、生存にも非常に重要である。私たちは互いを必要とする。この世界で守ってもらうため、そして楽しみのために私たちは互いを必要とする。
人間とは何か、脳はどんな働きをしているのか、私の最大関心事です。
面白くて、一気読みしましたし、できました。
(2019年12月刊。2100円+税)
2015年3月30日
社会脳からみた認知症
著者 伊古田 俊夫 、 出版 講談社ブルーバックス
認知症とは、正常に成人になった人が、病気や事故などのために知的能力が低下し、社会生活に支障を来すようになった状態を指す。
64歳以下で発症した認知症を若年性認知症と呼ぶ。その多くは、40~50代で発症する。若年性認知症の患者は全認知症の1%を占める。40~50代で物忘れに深刻に悩む人は、高齢期に認知症になる確率が高い。
若年性認知症は、症状の進行が早いという特徴がある。異常タンパクの生成が早いためだと考えられる。若年性認知症は周囲の人の気持ちを理解できない。他人への関心が薄くなる。性格の変化が目立つのも特徴。
日本の認知症患者は460万人をこえ、その予備軍が400万人いる。
認知症の人には、「配慮を受けている」という自覚が乏しく、同僚に感謝の気持ちを伝えられない。
認知症の人に最初にあらわれるのは、新しいことを記憶できないこと。そして、物忘れしているという自覚が薄れてくる。
日課や予定、約束や期限といった緊張感が失われると、人間の記憶力は低下していく。
認知症の第二の重要な症状は、自分の置かれた状況が分からなくなること。さらに症状がすすむと、自分が病気であることを理解できなくなる。
人の心の働きのなかで、もっとも重要なのは、他者の心や気持ちを理解するというもので、これは人間特有の働きである。
認知症の人は、詐欺的商法の相手と長時間にわたって一緒に過ごし、すっかり信用しきってしまう。警戒心がまったくない。
認知症に陥った人たちからは、苦悩が確実に減少していく。悩まなくなるのだ。
うつ病が増加している。うつ病にかかった人は、羅患歴のない人に比べて、認知症になる危険性が2~3倍も高い。
私の同級生も認知症になった人がいます。とても生真面目な性格でした。それと関係があるのでは、と思っています・・・。
(2014年11月刊。900円+税)
2015年1月26日
自己が心にやってくる
著者 アントニオ.R.ダマシオ 、 出版 早川書房
意識の明らかな成果としては、生命の効率的な管理と安全の確保があげられる。
脳なんかまったくない生物ですら、単細胞生物にいたるまで、一見すると知的で目的性のありそうな行動を示す。
ニューロンは再生産しない。つまり、細胞分裂しないし、再生もしない。
植物はニューロンを持たず、ニューロンがない以上、決して心を持てない。水頭無脳症の子どもは何年も生き続け、思春期を迎えることさえある。決して、植物状態などではない。それどころか、目を覚まして行動している。世話係とも無視できないほどの意思疎通ができるし、世界ともやりとりできる。彼らは明らかに心をもっている。頭や目は自由に動き、顔には情動表現があり、おもちゃやある種の音にはほほえむ。くすぐられると笑って、通常の喜びさえ表現できる。痛い刺激には顔をしかめて手を引っ込める。
渇望する物体や状況に向けて、移動もできる。たとえば陽のあたっている床へはいって、日向ぼっこをして、明らかに暖かさから便益を引き出し、満足しているように見える。
さらに、特定の人物に対する選好を示す。知らない人にはおびえ、いつもの母親や世話係の近くにいると、もっとも幸せそうだ。好き嫌いは明確で、とくに音楽の場合には、それが著しい。子どもたちは、一部の音楽をことさら気に入る。耳の方が目よりもいいらしい。水頭無脳症の少女たちは、思春期には、生理にさえなる。
身体から脳への通信と同じように、脳には神経と化学の両方の経路で身体に語りかける。神経経路は神経を使い、そのメッセージは筋肉の収縮と行動の実行を引きおこす。化学経路は、コーチゾル、テストステロン、エストロゲンなどのホルモンを使う。ホルモンの放出が体内状態を変え、内臓の働きを変える。
脳内で生じた思考は、体内で生じる情動状態を引き起こせるし、身体は脳の風景を変え、したがって思考の基盤を変えられる。
脳の状態は、ある精神状態に対応するが、特定の身体状態を引きおこす。そして、身体状態が脳にマッピングされて、継続中の精神状態に組み込まれる。情動と感情とは区別される。情動と感情は、緊密に結ばれた周期の一部ではあるが、プロセスとして区別できる。重要なのは、情動の本質と感情の本質とか違っていることを認識すること。
情動の世界は、もっぱら体内で実行される行動の世界であり、たとえば顔の表情や姿勢から、内臓や内部状態の変化などが含まれる。これに対し、情動の感情は、情動が動いているときに、心や身体の中で起こることについての複合的な知覚だ。
感情は、行動そのものではなく、行動のイメージだ。感情の世界は、脳マップ内で実行される知覚の世界だ。情動は、アイデアやある考え方を伴う行動である。
情動は、脳内で処理されたイメージが各種の情動の引き金となる部位を活性化させると機能する。
目を覚ましているというのは、意識をもつ前提条件だ。
人は、レム睡眠中には活発に夢を見るし、一晩に何度も見ている。だけど、もっとも記憶に残るのは、睡眠から目を覚ましかけてだんだん水面下から、徐々にまたは急激に水面、つまり意識状態に戻ってくるときの夢らしい。
麻酔薬は、ニューロンを過分極させて、アセチルコリンをブロックすることで作用する。アセチルコリンは、通常のニューロン間通信では、重要な分子だ。
アルツハイマーは、人間にしか見られない病気である。典型的なアルツハイマー病をもつほとんどの患者は、病気の初期も、中期も、意識は阻害されない。初期には、新しい事実情報の学習がだんだん阻害されるようになり、過去に学んだ事実情報を思い出すのも、だんだん困難になっていく。初期には、この病気の影響は小さく、社会的な穏やかさは維持され、平常な生活に近いものがある程度は維持される。しかし、やがて自伝的記憶の基盤が浸食され、そのうちあっさりと消えてしまう。
意識と脳について、深く知ることのできる本です。
(2013年11月刊。2900円+税)
2014年6月16日
脳の中の時間旅行
著者 クラウディア・ハモンド 、 出版 インターシフト
脳と時間の関係の関係について考察した、楽しい本です。
楽しいときは、本当に時間が飛んでいく。生命の危険を感じているときは、時間の流れが遅くなるように感じる。
休暇は速くすぎていくのに、あとでは長く続いたように感じる。これをホリデー・パラドックスという。
キューバにある、アメリカのグアンタナモ収容所では、食事、睡眠、尋問の時間を決めず、予測できないようにしている。これによって囚人が時間を数えようとする気持ちをくじき、不安を感じさせるためだ。
決まり切った日課は安心感を与えてくれる。その重要性は、高く、それに反するだけで時間の概念が乱れ、極端な場合には恐怖をひきおこす。
人間の自殺率は春が高い。春の訪れによって、陰うつな気分から救われるという期待が裏切られ、深い絶望に見舞われるからではないか。
野球やサッカーの試合を見ていて、ひいきするチームが勝っているか負けているかで、時間の流れが違って感じられる。負けているときの残り時間は短く感じられる。逆に勝っているときには、時間のたつのがひどく遅く、相手チームには得点のチャンスが恵まれているような気分がする。このように、感情によって時間はゆがむ。
うつ病の症状が出ているときには、過去と現在だけが存在し、未来、とりわけ希望のある未来を想像できなくなる。うつ病の人にとって、時間は半分のスピードで流れている。
退屈というのは、時間の流れのそのものに注意を向けたときに起こる。
人間にとっての一瞬とは、2秒から3秒を意味する。3秒という時間は、メモしたり長期記憶にゆだねたりせずに、何かを記憶しておける時間である。
切断された死体の映像を見たり、悲惨なイメージに直面すると、身体と頭で闘争・逃走本能がはたらき、内なる時計の進み方が速くなり、パルスが増大するため、時間の流れが遅くなるように思える。
年齢(とし)をとるにつれて時間の流れが速くなるという感覚がある。いったい、なぜなのか・・・。多様で、興味深い経験にみちた時間は早くすぎるように、感じられる。しかし、思い返すと、長く感じられる。子どもの毎日は、新しい経験に満ちている。子どもの生活には、全体として大人の休日と同じように面白いことに溢れていて、新しい記憶がたくさんあるため、あとで振り返ると、1ヵ月、1年がひきのばされたように感じる。
だから、できるだけ行動のバラエティを増やす。目新しくて、今が楽しいと思える生活をつくれば、あとで振り返ったときに、長かったと感じられる。
時間が早く過ぎていくのは、多忙で充実した生活を送っている証拠だ。楽しいときほど、時間が短く思える。時間が早く過ぎるのを止めるには、予定を積極的に入れ、テレビは覚えていられる時間だけみるようにすることだ。
何かに没頭すればするほど、時間は速く過ぎていく。
なーるほど、人間の脳と時間との関わりが少し分かりました。
(2014年3月刊。2100円+税)
梅雨入りしてから、なぜか雨らしい雨が降りません。よそでは大雨のようですが・・・。田植えの準備はすすんでいますので、雨を待つ心境です。
日曜日は恒例のフランス語検定試験を受けました。一級ですので、合格するはずもありませんが、ボケ防止のためにもチャレンジしています。もう10年以上にもなりますが、単語の忘れはひどいものです。新鮮な気持ちで毎日NHKのラジオ講座を書きとりし、なるべく暗誦するようにしています。
試験は惨々でした。長文読解も前半はさっぱり、後半はなんとか。書きとりと聞きとりは、まあまあでした。仏作文は適当にごまかしたのですが・・・。甘あまの自己採点で55点(150点満点)です。11月は準一級です。がんばります。
2014年2月10日
金持ち脳と貧乏脳
著者 茂木 健一郎 、 出版 総合法令出版
この本を読んで、金もうけのヒントでも得ようかと思う人にとっては、その期待は裏切られます。脳科学者が金もうけのヒントを与えてくれるはずがありません。そうではなくて、人生を豊かなものにしたい、意義のある人生をまっとうしたいと思う人にとっては、役立つヒントが満載の本なのです。
金持ち脳を持っている人は、夢中になれる好きなことを仕事にしているので、たとえ辛い場面に遭遇しても、我慢という感覚はない。これに対して、貧乏脳は何よりも自己欲求を満たすことで満足してしまう脳。
お金持ちになった人は、数多くの修羅場やリスクを経験しつつ、ピンチをチャンスに変えてきた人たち。リスクテイクに優れている。
人間関係におけるネットワーク、信頼、そして自分のスキル、知識、経験、そういうものが総合的に脳の安全基地となって、確実性が生まれる。
自信がないお金持ちほど、お金を使う傾向にある。お金を払うと、「お客様は神様です」とあがめてくれるから。
借金する立場は、お金を借りた人に支配されることになる。そうなんです。だから、私は、借金したくないし、他人に借りをつくりたくありません。いつだって、自由、フリーでいたいのです。
経験以外に人間が持ち運べるものはいない。だからこそ、若いうちのお金は経験という経済活動に使うべきなのです。
お金と幸せは必ずしも一致しない。人間の幸せや人生観というのは複雑系なので、お金では測れないもの。人間の本質的な幸せというのは、お金によって得られるものではないことを理解するためには、ある程度経験しないといけない。
お金は、人間関係を目に見えるようにしたもの。人間関係が充実している人には、お金も集まってくる。お金を貯めるのと同じくらいに、人間関係や自己投資にお金を使うことが大切だ。
仕事の満足は、決してお金で買えるものではない。仕事の面白さ、やりがいは、自分で決めるもの。
私は弁護士になれて本当に良かったと思っています。受験時代は苦しい日々でしたが、人助けをして、喜んでもらって、お礼を言われて、お金までもらえるのです。こんなに充実感の味わえる職業は滅多にありません。もちろん、すべてがうまくいくとは限りません。でも、一生けん命にやっていれば、いつかはなんとかなるものです。
(2014年1月刊。1300円+税)
東京は大雪で大変だったようですが、私のところはこの冬はまだ雪が降っていません。それでも寒い日が続いています。
庭から小鳥の澄み切った流れるようなさえずりが聞こえてきました。声のするほうを見ても姿は見えません。名前も知りませんが、春先になると聞こえてくる小鳥の声です。とうとう春告げ鳥がやって来たのでした。
庭の紅梅や白梅が咲いています。黄水仙も咲きはじめました。チューリップの芽があちこちに顔を出しています。
もうすぐ春になります。うれしいことです。
2012年10月29日
脳には妙なクセがある
著者 池谷 裕二 、 出版 扶桑社
生後2日から5日という新生児の脳を調べると、すでに母国語と外国語を聞いたときで、左脳の反応が違っている。これは、胎児のとき、母親の腹のなかで、ずっと母国語を聞いていたからと考えるのが自然だ。
笑顔は楽しいものを見出す能力を高めてくれる。
人口の4%は音痴だ。音痴の人は、空間処理能力が低い。もともと音階は空間として表現されるもの。一般に男性のほうが女性よりも空間把握にすぐれている。ある実験で音痴であると判定された人の半数以上は女性だった。
20歳以前まで高かった幸福感は、20代で一気に落ち込み、40代から50代前半ころまでが最低迷期となる。そして、これを過ぎると回復を始め、調査された範囲では、最高齢である85歳に向けて上昇していく。つまり、歳をとると、より幸せを感じるようになる。
働き盛りのビジネス人は、とかく時間に追われて心を失いがち。しかし、しかるべき時期を耐え抜けば、幸せなときが待っているということなのだろう。
食欲のコントロールはもちろん、覚醒状態や記憶力に至るまで胃腸の支配を受けている。内臓をふくめた全身がバランスよく機能して、初めて脳の健康を保つことができる。
直感もひらめきも、「ふと思いつく」という状況は似ている。しかし、思いついたあとの様子がまるで違う。「ひらめき」は、思いついたあと、その答えの理由を言語化できる。ところが、直感は、本人にも理由の分からない確信をいう。そして、重要なことは、直感は意外と正しい。
単なる「ヤマ勘」や「でたらめ」とは決定的に異なる。ひらめきは「知的な推論」、直感は「動物的な勘」。ひらめきは陳述的、直感は非陳述的なもの。ヒトは、自分自身に対して他人なのである。
自動判定装置が正しい反射をしてくれるか否かは、本人が過去にどれほどよい経験をしてきているかに依存している。よく生きることは、よい経験をすることである。人の成長は、反射力を鍛えるという一点に集約される。反射を的確なものにするためには、よい経験をすることしかない。
いつも脳についての刺激的な指摘があり、大変参考になります。
(2012年9月刊。1600円+税)