弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
オオカミ
2022年2月 5日
オオカミ
(霧山昴)
著者 トッド・K・フラー 、 出版 化学同人
オオカミは600万年前に現れた。200万年前に、オオカミ型とコヨーテ型に分岐した。80万年前に大型化して、さらに2つのグループに分かれ、現生種のオオカミが誕生した。
現生オオカミは北米で進化しはじめ、旧世界に移動して十分に発達したあと、さらに10万年前に北米に再進出した。オオカミは熱帯雨林には生息していないが、地球上のさまざまな環境で暮らしている。それはオオカミの適応能力がきわめて高いから。
オオカミは現在、13亜種に分かれている。北米に5亜種、ユーラシアに8亜種いる。
オスはメスより20%ほど体が大きい。おとなの平均体重はオスが43~48キログラム、メスが36~42キログラム。
オオカミは肉食動物のなかでも、とくに移動に適応した種だ。雪のなかを歩くとき、前足がつけた足跡に後ろ足を重ねて歩くことができる。イヌは横に並んでしまう。オオカミの長くて細い足は、雪のなかでも動きやすい利点がある。踏み出しが速く、長距離を迅速に、疲れずに移動できる。
オオカミは普通に1時間6~10キロメートルを移動するが、これは人間の歩くスピードの倍。最高時速は、55~65キロメートル。これも人の倍ほど。1日に50キロメートル以上もオオカミが移動した記録がある。このため、砂漠で貴重な水の飲み場を探し出すことができる。
オオカミの食生活は、満腹でなければ腹ペコ。次にいつ食べられるか分からないので、いま食べられるだけ食べる。なので、オオカミの体重は、一定期間のうちにかなり増減する。
オオカミは大食漢だ。生き残るための最良の戦略は、できるだけ早く食べること。
最上位のオスとメスがまず食べはじめる。
オオカミはイヌと同じで、動くものにきわめて敏感。オオカミは食べ物の多くを嗅覚で頼って探し出す。オオカミは手に入るなら果実も食べる。
狩りの第一段階は、まず獲物を見つけること。獲物のあとをつけているときには、20分以上も走り続けることができる。たとえばエルク(アカシカ)のグループ(集団)のなかにターゲットをしぼったときには、不自然な行動を見逃さず、弱い個体を追跡することが多い。
オオカミは、音声、におい、ボディランゲージ、接触など、あらゆる感覚をつかってコミュニケーションをとろうとする。
オオカミの声は、親しみを表す声と、敵意を表す声の2種類ある。
オオカミの遠吠えは、仲間と再会するため、群れの絆を強めるため。自分の縄張りを宣言するためのものもある。オオカミの嗅覚は、人間よりはるかに鋭敏。
オオカミは家族単位で生活し、親だけでなく、ときには年長の兄弟姉妹も加わって、産まれた子の世話をする。一度ペアになれば、1年中一緒にいる。オオカミは、集団の結束が固いというのが特徴。順位は、ほぼ年齢によって決まる。年長のオオカミは、子どもたちにはきわめて寛大だ。
子どもや年長のオオカミのなかには、一生その群れにとどまるものもいるので、両親が死ぬと、縄張りは、基本的に彼らに引き継がれる。オオカミは数世代にわたって同じ場所に留まることが多く、その縄張りは、1年どころか10年単位でみても大きくは変わらない。
いやあ、オオカミのさまざまな生態が見事な写真で紹介されている、見ごたえ十分の大版のオオカミの迫力満点、圧倒される写真集でもあります。ぜひ、図書館でじっくり眺めてみてください。
(2021年10月刊。税込3080円)
2019年4月 1日
狼の群れは、なぜ真剣に遊ぶのか
(霧山昴)
著者 エリ・H・ラディンガー 、 出版 築地書館
圧倒的な面白さです。オオカミたちの顔は輝き、畏敬の念を思わず抱いてしまいます。タイトルどおり、本当に真剣に遊んでいる様子もうかがえます。オオカミの研究がすすんでいることを、この本を読んで実感しました。
著者はオオカミとの接触が20年以上、オオカミとの出会いは1万回以上も体験した元弁護士です。弁護士として、犯罪事件、賃貸トラブル、離婚といった問題に次第にストレスがたまり、熱意をもって公正な勝利に導く代わりに、裁判が苦痛でしかなくなった。優れた弁護士が必要とする距離と非情さに欠けていた。ふむふむ、弁護士稼業も辛いのですよね・・・。
自然のなかで生きるオオカミの寿命は9年から11年ほど。囲い地オオカミだと15年ほど。
オオカミを身近に観察できる人は、静かで控え目な人だ。
人間と同じように、オオカミでも、本当に重大な問題は、最高位の女(メス)が決める。オオカミの家族にとって重要なことは、すべて最終的には彼女の必要性に適応させる。
アルファオオカミだけが交尾を許されているというのは誤った理解だ。これが訂正されるまで20年を要した。オオカミの4分の1は、ほかのパートナーと交尾し、その結果として、一家族内の多数の雌(メス)オオカミが赤ちゃんを産み、その一部は、家族みんなで育てる。
リーダー夫婦はたいてい生涯を通してともに暮らし、リーダーが死ねば、次に経験の豊富な雄がそれに代わる。リーダーの地位をめぐって家族内で真剣な争いが起きることは野生オオカミでは、ほとんどない。
リーダーのお気に入りは、子どもたちとじゃれあい、格闘すること。負けたふりをするのが一番の楽しみだ。これもオオカミの知性のあらわれ。
オオカミの狩りの80%は失敗に終わる。オオカミは純粋な肉食ではなく、死肉、魚、野菜や果物も食べる。最良のハンターは2歳から3歳。
獲物を倒すのは雄のほうに利があるが、雌は動きが敏捷で、狩り立てを得意とする。
オオカミの子どもたちは、遊びながら公正さや協力を学び、していいことと悪いことを区別するようになる。遊びの重要な特徴はセルフコントロールにある。
大人のオオカミも、追いかけっこ、引っ張りあい、かくれんぼといった遊びをする。
遊びは学習とトレーニングの時間であり、相手をよりよく評価するための経験を全員が積む。そのなかで、自分がしてほしくないことは、ほかのものにしないことを学ぶ。
オオカミの家族関係を知ると、人間はオオカミからも学ぶべきことがたくさんあると思いました。
(2019年2月刊。2500円+税)