弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年4月 1日

政党助成金、まだ続けますか?

社会


(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター

河井議員夫妻が有罪となり、どちらも議員を辞職しました。当然のことですが、問題は買収資金となった1億5千万円が自民党本部から出ていて、しかも、政党交付金という税金が使われていたのではないか、ということです。その点が解明されずに幕引きするのは許されません。
自民党の二階幹事長が「他山の石」と放言しましたが、まさしく「自民党の石」であって、他人事(ひとごと)ではありません。
河井夫妻も1億5000万円が自民党本部からもらったこと、そのうち1億2000万円が政党交付金だったことを認めています。
政党交付金は1994年の「政治改革」の産物です。政治腐敗を防止するため、政党を助成するという名目でしたが、「政治とカネ」のスキャンダルは今に至るも続いていて、まさしく「泥棒に追い銭」状態。
自民党の元議員たち(金子恵美、豊田真由子)は、選挙のとき実弾(現金)が飛びかっている状況を真のあたりにして驚いたと告白しています。自民党の金権腐敗選挙に私たちの税金が勝手放題に使われているというのですから、許せません。
政党交付金は、政党が消滅したとき、残金があれば国庫に返還すべきは当然です。ところが、この本によると、解散寸前に、あちこち勝手に「寄付」してしまって国庫に返還していないというのです。これまた許せません。プンプンプンです...。
橋下徹の「維新の党」は、解党する寸前に9912万円を寄付した。橋下徹は、国庫へ返還すると約束したのを平然と反故(ほご)にしてしまった。ひどい話です。「日本のこころ」(中山恭子)、「希望の党」(松沢成文)も同じでした。
政党交付金は税金を減資としていますから、説明(報告)義務があります。ところが、その内訳の一つ、「人件費」は、いつ、誰に、いくら支払ったという明細を記載しなくてもよいというのです。信じられません。
総額の8千億円をこえる政党交付の7割、6千億円近くは自民党に交付されます。消費税値上げを推進してきた自民党の活動資金の多くを私たち国民の税金が支えているというわけです。いわば自民党は国営政党なのですが、本当に私たち国民のためになる政治をしているとは、私には、とても思えません。コロナ禍の対策にしても、GoToトラベルとかイートとか、アベノマスクに始まって、一部の大企業などが不当にボロもうけして、肝心のPCR検査やワクチン確保は大幅に遅れ、医療・福祉は切り捨てる一方...、ひどい政治をやりたい放題です。
それもこれも、投票率の低さ、政治不信をあおるばかりの一部マスコミの論調に大きな原因があるとしか思えません。みんなで投票所に足を運んで、ダメなもの、嫌なものにはキッパリ「ノー」という意思表示をしないといけません。
改めて、怒りをフツフツとたぎらせてくれる本でした。あなたもぜひ読んでみてください。
(2021年2月刊。税込1320円)

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2021年4月 2日

囚われし者たちの国

司法・アメリカ


(霧山昴)
著者 バズ・ドライシンガー 、 出版 紀伊國屋書店

アメリカの白人女性学者(英語教授)が世界の刑務所を訪問し、また刑務所内で収容者教育を試行していきます。大変勇気ある試みです。実は、今の刑務所システムの基本はアメリカが世界に輸出したものだったんですね...。
アメリカは、世界でもっとも大勢の人々を投獄している国。230万人が鉄格子の中に暮らす。成人100人につき1人の割合。これはアメリカは世界人口のなかの比率として5%にすぎないのに、囚人の人口では実に世界の25%を占めている。現在、全世界で1030万人が鉄格子の向こうで暮らしている。しかも、なんらかの矯正プログラムの監督下にあるアメリカ人は700万人にのぼる。これは成人の31人にひとり。また、成人の囚人の25%が精神疾患をかかえている。
薬物犯罪による囚人が連邦刑務所の51%を占め、強盗犯は4%、殺人犯は1%にすぎない。
25年以上の服役者のうち、終身刑に服しているアメリカ人がカルフォルニア州だけで、3700人いる。アメリカで終身刑に服しているのは16万人。そのうち、未成年のときの犯罪で終身刑になった人が2000人以上いる。
少年受刑者の10人にひとりが刑務所内で性的暴行を受けている。
刑法にもとづき監視対象となっているアメリカ系アメリカ人(黒人)は、1850年当時の奴隷より人数が多い。黒人のほうが白人よりも6倍も刑務所に入れられやすい。黒人男性の6人にひとりに服役の経験があった(2001年)。
黒人の子どもの4人にひとりは、18歳になるまでに親の投獄を経験する。
アメリカの家庭裁判所で扱われる少年事件のうち、94%が黒人がラテン系アメリカ系。
黒人男性150万人が行方不明になっている(2015年)。これは、24~54歳の黒人男性の6人にひとりは、若くして死亡したか刑務所に入れられたということ。
著者は、刑務所内で教育してみると、素晴らしい聡明な市民、人的資源が牢獄に閉じ込められていることを実感する。
アメリカは、大量投獄システムを産み出し、1990年から2005年までのあいだ、10日に1ヶ所のペースで新しい刑務所が開設された。それは1970年代に始まった麻薬戦争のおかげだ。
アメリカ政府が犯罪者の矯正に支出するのは500億ドル超。過去20年のあいだに刑務所につぎ込まれた費用は、高等教育費の6倍。若者ひとりを投獄すると、年に8万8千ドルかかる。同じ人物を教育するのには、年に1万653ドルが必要なので、その8倍もかかる。アメリカは、刑務所のために540億ドルも支出している。これを人材育成とインフラ再建にふり向けようとしている。
アメリカでは囚人の数が増加の一途をたどっているが、それを犯罪発生率とのあいだに相関関係はまったくない。つまり、刑務所のもつ抑止効果など幻想にすぎない。刑務所行きを恐れて犯罪を思いとどまる者など、ほとんどいない。
アメリカで投獄される人の数が減るにつれて(増えるにつれてではない)、犯罪率も低下していった。これが現実。
刑務所は、家庭を破壊し、社会規範を教えるうえでの親の役割を弱め、経済力を削ぎ、社会に反感を抱かせ、政治を歪めてきた。
囚人の子どもは、自らも刑務所に入る確率が高いことが判明している。
服役している期間は、社会における、その人の信頼関係や人間関係を著しく損なう。投獄を通じて、このような市民を生み出しておいて、地域社会がより安全になるなど期待できるはずがない。
著者はルワンダに行きました。あの大量虐殺があった国です。今では、犯人は死刑になりません。人民裁判にはかけられていますが...。ルワンダの裁判は、「許し」を目ざす。許しとは、被害を受けた者が、もはや加害者を避けたり加害者に復讐したりといった負の感情につき動かされることなく、反社会的でない建設的な動機を反動力に行動できるようになる状態のこと。被害者意識は、受け身の姿勢につながり、日々の仕事がうまくできなくなったり、諦めが早くなったりという結果を招く。
アメリカでは、女性囚人の75%に子どもがいる。親が投獄されている子どもが270万人もいる。
アメリカの刑務所では、8万人が独房監禁の状態にある。他の拘禁施設を含めると10万人にもなる。
ブラジルなど中南米の刑務所は、ギャングに牛耳られている。
アメリカの拘留センターで6万人もの移民が働かされていた(2013年)。これは報酬が時給13セントと、きわめて低く、一種の奴隷労働だ。
アメリカの民間刑務所は、経費節減のため、訓練を十分にせず、サービスの水準を下げ、人件費を低く抑えている。
アメリカの刑務所の囚人の8割は、健康保険に入るのは無理なので、出所してからの生活の保障がない(投票権がないので政治から、あてにされていない)。アメリカで、投票権を奪われた585万人のうち、200万人あまりはアフリカ系アフリカ人(黒人)だ。
ノルウェーの刑務所は、小規模で定員50人未満というのが大半を占めている。そして、それが全土に散らばっているので、家族面会は、その気になれば簡単だ。
アメリカでは囚人の刑期の平均は3年。ノルウェーでは、8ヶ月。そのうえ、ノルウェーでは刑期の3分の1を過ぎると、一時帰宅を申請できるし、刑期の半分をつとめたら、刑務所外での生活が認められる。その結果、成果として、再犯率は20%でしかない。ノルウェーでは、出所されたあと、刑務所にいたことが大きな汚点になることはない。誰も気にしない。
著者はニューヨークで暮らす不可知論者のユダヤ人。身内には、ナチスドイツによって殺害された人がたくさんいるため、ウガンダなどへ行ったとき、なんとなく分かりあえるようです。
世界の刑務所の実情と問題点が430頁もの本に要領よく紹介されています。これからも身の安全には、くれぐれも気を配って、元気にご活躍ください。
(2021年1月刊。税込2310円)

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2021年4月 3日

フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった

フランス


(霧山昴)
著者 エルザ・ブランツ 、 出版 Du Books

久しくフランに行っていませんが、10年前までは、毎年夏になるとフランスに1~2週間は行っていました。最大40日間(40代初め)、そして還暦前祝いで2週間、南仏めぐりをしました。そのとき驚いたのは、パリではなく地方の都市にマンガ本専門の店があることです。マンガ本というのは、まさしく日本のマンガ本です。もちろんセリフはフランス語です。ワインのうんちくを傾けた有名なマンガ本(名前をド忘れしてしまいました)は、私にとってフランス語の勉強になりますので、すぐに購入しました。
最近、NHKラジオのフランス語教室(応用編)でドロテという女性が日本のマンガ、アニメを紹介していると放送していましたが、この本にもドロテが登場するのです。
この本の著者はフランス人女性のマンガ家です。なるほど絵はまったく日本のマンガそのもので、何の違和感もありません。著者の夫もマンガ家だそうです。とてもカッコ良く描かれています(もちろん、本人も...)。
好きなマンガ家は高橋留美子だとのことです。フランスで人気ナンバーワンといいますが、私は読んだ覚えがありません。
著者は、まったく日本のマンガに毒されてしまった、夢見る乙女だったようです。13歳のとき、すでに将来はマンガ家になると親に宣言したというのです。それを実現したのですから、すごいです。
フランスのコミック市場は、2018年に600億円。日本は4414億円。フランスの年間総売上部数4400万部のうち1700万部は日本マンガ。フランスで売られるコミックの4割近くは日本のマンガ。
いまフランスで人気があるのは、「ワンピース」や「進撃の巨人」など。少年向けのコミックが人気。そして著者のように、フランスで日本流のマンガを描く人も数多く出ている。
著者は池田理代子の「ベルサイユのバラ」にもはまったようです。そして、この「ベルバラ」は、なんと実写映画化されているんですね...。知りませんでした。
著者の娘12歳も息子9歳も、マンガやゲームに夢中のようです。
「こねこのチー」(こなみかなた)がフランスの子どもに大人気なんだそうです。これまた、知りませんでした。どんなストーリー展開なのでしょうか...。フランスって、日本に次いでアニメ・マンガ大好きな国なんですね。たしかに日本のマンガの質が高いことは認めます。
「家裁の人」や「ナニワ金融道」などは弁護士にとっても必読文献だと、私は本気で真面目に考え、若い人にすすめています。
フランスを知ることにもなる面白いマンガ本でもあります。
(2019年12月刊。税込1320円)

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2021年4月 4日

パパの電話を待ちながら

イタリア


(霧山昴)
著者 ジャンニ・ロダーリ 、 出版 講談社文庫

イタリアの宮沢賢治と言われているロダーリの物語世界です。こんな作家がイタリアにいただなんて、ちっとも知りませんでした。オビの言葉がイメージを伝えてくれます。
おてんばな小指サイズの女の子、バター人に宇宙ヒヨコ。虹をつくる機械、そして壊すために作られた建物。びっくりキャラクターや場所がいくつも登場。シュールな展開に吹き出し、平和の尊さに涙する。珠玉のショートショート。
そうなんです。SF作家の星新一のショートショートを思わず連想してしまいます。
父親はイタリア中を動きまわって薬を売るセールスマン。月曜の朝に自宅を出て、日曜日に戻ります。家には幼い娘がいます。そこで毎晩9時になると、自宅に電話をかけて、娘にひとつ話を聞かせるのです。そんな父親が娘に語った話が紹介されている本なのです。
クリスタルのジャコモの話を紹介します。あるとき透明な男の子が生まれた。男の子が嘘をつくと、頭に火の玉のようなものが現れた。正直に本当のことを言うと、火の玉は消えた。それから男の子は決して嘘をつかなかった。男の子が大人になってもそれは変わらなかった。冷酷な独裁者が国を治めるようになった。ジャコモはどうにもガマンできなかった。独裁者はジャコモを一番暗い牢獄に放り込むよう命じた。
ところが、ジャコモの入れられた独房の壁が透明に変わった。それどころか、刑務所全体が透けて見えるようになり、ジャコモが椅子に座っているのが人々から見えた。夜になると、刑務所からは光がこうこうと放たれた。独裁者は明かりをさえぎろうとしてカーテンを全部閉めた。それでも明るすぎて、眠れなかった。ジャコモは、鎖でつながれても、考えることをやめなかった。真実は何より強い。昼間の光よりも明るいのだ。
イタリアの学校の図書室には、ロダーリの本が必ずあるとのこと。子どもが初めて自力で一冊読破する本。
腕まくりして、一生懸命に働く。
戦争は、ひどく愚劣なこと。未来をたとえば宇宙を見つめよう。
間違いや、人と違うということをとがめない。
奇想天外なショート・ストーリーの連続です。
私も息子が保育園児のころ、「長靴をはいたネコ」をアレンジして適当な物語をデッチ上げて毎晩かたり聞かせていました。「それから、それから」とせがまれるので必死で、ない頭をしぼりました。そんな子育ての楽しさを思いださせてくれるショート・ショートです。
(2020年3月刊。税込880円)

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2021年4月 5日

舞台上の青春

人間


(霧山昴)
著者 相田 冬二 、 出版 辰巳出版

高校演劇の世界を紹介した面白い本です。
北海道の富良野高校から四国の徳島市立高校まで、6校の舞台が紹介されています。
福岡にも八女市の西日本短大付属高校に演劇部があります。本があり、このコーナーでも紹介しました。残念ながら私はみていませんが映画にまでなっています。
北海道の富良野には倉本聰の率いる「富良野塾」があり、公設民営の劇場「富良野演劇工場」もあります。市民劇団「へそ家族」があって、「ふらの演劇祭」まであるそうです。
この富良野高校には実は演劇部はなく、演劇同好会ができたばかり。それなのに全国大会に出場し、見事に最優秀賞に選ばれたというのです。実にすばらしいことです。
演劇大会は上演時間が60分以内と決まっている。主役は高校生。高校生が高校生役をする。おじいちゃんやおばあちゃん役ならプロに負ける。でも、高校生が高校生の役をやるのだから、負けない。高校演劇というたった2年間しか使えない時間の中で、高校生が高校生を演じる。すばらしいですね。
富良野高校の劇のタイトルは「へその町から」。女子高校生3人が、さびれたホームで汽車を待っている。この3人のディスカッションだが、後ろのほうで、別の3人が劇中劇を演じる。誇りをもてる環境にあるのに誇りをもちづらいシチュエーション。親と分かりあいたいのに、親と分かりあえない劇中劇。「高校生の現在」がダイレクトに伝わってくる...。
いやあ、こんな紹介をされたら、ぜひ本物の舞台をみてみたいものです。
高専ロボコンに、このところはまっていますが、高校生演劇もなんだか面白そうですね...。
上演時間1時間について、濃厚、いや特濃。練乳のような濃さがあると著者は評価しています。役者を演じる高校生の言葉がいいですよ...。
感情が、喜怒哀楽がちゃんとあるから、面白いところでは面白いって笑って、怒るところは怒る。頭の中でも感情をつくるので、ちゃんと集中してやらないとできない。ひとつひとつの行動に対して、ちゃんと考えて、セリフを言う。
演劇やってると、周りの目が恥ずかしいとか、そういうことを思わなくなっちゃう。いい意味で、自分もバカになれる。
指導する教師の話もまたすばらしいです。
胃が口から出るくらい緊張して、人前に立っても、良い芝居をすれば終演後に、ちゃんと拍手がもらえる。それが素晴らしいし、このことでずいぶん、高校生は救われているんじゃないかと思う。
演劇は、役に立つ。すぐに役に立つ。もう、ありえないくらい、高校生が別人になる。演劇を体験することで、目の前の若者が、めきめきとうまくなり、変化していく。
コロナ禍のなか、集まっての全国大会が中止となり、代わってオンラインの大会になった。ところが、無観客なのに舞台で演劇できないという会場も出ているそうです。でもでも、ぜひ演劇部は続けていってほしい、存続してほしいと思いました。
弁護士も、とりわけ裁判員裁判では役者を演じるように裁判員の市民に語りかけることが大切だと強調されていますので、決して他人事(ひとごと)ではありません。
(2020年11月刊。税込1760円)

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2021年4月 6日

囚人(黄晳暎自伝)

韓国


(霧山昴)
著者 黄 晳暎 、 出版 明石書店

現代韓国を代表する作家です。ノーベル文学賞候補と言われているとのこと。
私は韓国軍がベトナム戦争に参戦した状況を描いた『武器の影』(上・下)を1989年に読んで圧倒されたことを記憶しています。アメリカの要請を受けて韓国軍はアメリカ軍によるベトナム侵略戦争に加担したのでした。そのおかげで韓国経済は立ち直ったと言われていますが、ベトナムの罪なき人々を残虐に殺したことで韓国軍の悪名が高かったのも事実ですし、韓国人兵士もかなり戦死しています。心身に故障を抱いた元兵士が今も存在するようです。
このように著者は韓国内で名前の売れた作家なのですが、なんと北朝鮮に何回も行っていて、金日成とも会食をともにしたり親しかったとのことです。もちろん、フツーの韓国人がそんなことをしたら反共法違反で逮捕され、有罪なるのは間違いありません。
この本では韓国に帰国して南企部で肉体的な拷問こそ受けなかったものの、眠れないようにされたうえで、延々と尋問が続くという、一種の拷問は受けています。
そして有罪(実刑)となり、教導所と呼ばれる刑務所生活を余儀なくされました。その囚人としての生活が具体的に紹介されているところも興味深いものがあります。
著者は共産主義者ではなく、北朝鮮に何回も行ったからといって北朝鮮を美化することもない。北朝鮮のような社会体制を思想的に支持することはできないと明言しています。平和主義者として、統一を願って行動してきました。韓国が真に民主化されたら、その力で北朝鮮を変えられると信じています。
眠らせずに尋問する程度のことは、拷問のうちには入らない。
ソウル市長として実績をあげていた人権派弁護士の朴元淳も著者の弁護人(3人)の1人でした。セクハラ事件が明るみに出たあと自殺したのはショックでしたし、残念でした。
刑務所(矯導所)には当時、驚くべき肩書の人がたくさんいました。国会議員、高検の検事長、前国防長官、前・現の参謀総長、海兵隊司令官、銀行頭取など...。
食パンを水に着けて、カビを生やさせて、マッコリ(焼酎)をつくっていたというのも初耳でした。そして、隠れてタバコも房内で吸っていたそうですので、こちらも少しばかり驚きました。
著者は、国家保安法上の罪で逮捕され有罪となって下獄したわけですが、この国家保安法は本当にひどい法律です。戦前の日本の治安維持法をそっくりまねて導入した悪法です。広く知られている事実であっても、北朝鮮を利するなら「機密」にあたるという判決が出たのでした。
金日成からプレゼントとしてもらった白頭山産の朝鮮人参を3本も一度に食べたというエピソードが紹介されています。要するに、当局から没収されてしまうくらいなら、食べてしまえと思ったとのことでした。大変読みごたえのある自伝です。
(2020年10月刊。税込3960円)

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2021年4月 7日

お気の毒な弁護士

司法


(霧山昴)
著者 山浦 善樹 、 出版 弘文堂

いやあ大変勉強になりました。これから弁護士になろうと思っている若い人にぜひ読んでもらいたいものだと思います。
お金は、あると役には立つが、人生の目標はお金ではない。お金を目標として生きるのではなく、金銭は一つの道具にすぎない。だから弁護士にとっては、法律だけでなく、目の前にいる依頼者がもっている夢や希望、好きな人との約束が実現するよう応援し、また他人には理解されないかもしれない心の隙間を理解し、一緒になって新しい生き方を探るという姿勢をもち続けることが大切。それがマチ弁の仕事。
そうなんです。著者はマチ弁として、弁護士1人、事務員1人の法律事務所を営んできて、最高裁判所の判事になり、定年退官したあと、また元の事務所を再開してマチ弁に戻ったのでした。
事件の依頼を受けたら、現場には必ず行き、依頼者の自宅や店舗を訪問する。そして、依頼者から、事件以外の昔話やムダ話を聞く。依頼者は最良の証拠であり、現場や依頼者の記憶には、必ず痕跡が残っている。著者が事実を徹底して調べ尽くし、また、依頼者(相手方のときも)とじっくり何度も話し込んでいって解決した話は、まさしく感動的です。
都心の巨大法律事務所のパートナーになり、何人もの弁護士を雇った、多額の収入があったということを自慢するより、地域の人々から頼りにされた、依頼を得たと子や孫たちが誇りに思うような生き方を選ぶ。
著者の言葉に、マチ弁ならぬ田舎弁の私は強く共感します。
法律事務所の損益基準は1件決算とか1年決算ではない。「人生」そのものを期間損益の単位としている。
いやはや、まったく同感です。著者は20年前の事件の依頼者が再訪してくれる喜びを紹介していますが、私も同じです。
口コミの威力はすごい。生涯を一会計年度として考えるべき...。
恒産が必要か否か...。恒産がないと弁護士業はできないというのであれば、金持ちしか弁護士にはなれないし、やっていけないことになる。やっぱり、そうではありませんよね。
著者は、酒も飲まない、ゴルフもやめた。自宅は雨露をしのぐ程度のもの(木造2階建て、敷地28坪)。お昼はコンビニ弁当かサンドウィッチ、ネクタイは1000円程度の安物。住宅ローン、学費ローンもあった...。
それでも多くの依頼者に恵まれ、「マイ・クライアント」がいて、その仲間たちが「恒産」だ。
なにしろ最高裁判事になるとき、手持ち金があまりないので、裁判所に「支度金」を求めて、担当者が絶句した...というのです。恐れ入ります。
父親は日雇労働者(にこよん。日給240円)、母親は内職。そして、質屋通いの生活。ゴミ捨て場に行ってくず鉄を拾って換金してあんパンを手に入れて空腹をみたす生活。いやあ、これにはまいりましたね。私は、小売酒屋の息子として育ちましたので、こずかいこそもらえず、紙芝居を間近で見ることができない寂しさはありましたが、ゴミ捨て場でくず鉄拾いするほどの貧しさは体験していません。
そして、著者は中学を卒業したら、就職するつもりだったのです。信用金庫に入るつもりでそろばん2級をとっています。ところが、担任の教師が、高校には奨学金制度があるからと言って、親を説得して高校に進学できたのです。教師はありがたいものでよす。
高校では新聞班に入り、また、英字新聞を定期購読したとのこと。親が偉いですね。そして、対人関係がうまくやれないことを自覚し、それを克服すべく生徒会長に立候補。
私も高校では生徒会長をつとめました。休み時間にタスキがけで立候補の挨拶をして3学年の全クラスをまわったことを覚えています。そのころは、それが当然でした。
そして、ついに一橋大学の法学部に進学。大学ではベトナム反戦運動とアルバイトに明け暮れていたそうです。築地魚市場そして立川の米軍基地で社会の実相をじっくり体験。
私もベトナム反戦の集会とデモには何十回となく参加しました。あとは、セツルメント活動に没頭する日々です。いえ、もちろんアルバイトもしました。家庭教師、オカムラ家具の搬出入、そして、ぬいぐるみで格闘。
著者は宝生流の能もサークルで演じています。そんな余裕もあったのですね...。
そして、卒業論文を書いたとのこと。これには驚きました。私は卒論なんて書いていませんし、考えたこともありません。私はゼミにも所属していませんので、東大教授と新しく話したことは大学生のとき1度もありません。遠くから仰ぎ見るだけの壇上の人でした。
著者は三菱銀行に入社したものの、たちまち後悔して、すぐに退社。
このとき、奥様から、「いい加減にしなさい。ぐずぐず言うあんた、嫌いよ」と叱られ、「そんなとこ、もう辞めなさい。私が食わしてやるから」と言われたといいます。すごい奥様(高校の同級生)です。そして妻の「ひも」になって、猛勉強して、1年で合格したというのです。
その受験生活がすさまじい。6畳1間のアパート。妻は昼間は薬剤師の仕事に出かける。一日中、そのアパートで勉強。朝8時から夜中の2時まで。エアコンがないので、お尻はあせもで真っ赤っか。座るのも辛いほど。家を出るのは1週間に1日だけ近くの銭湯に行く。そして月に2回、本屋に「ジュリスト」を買いに行く。そして、真法会の答練を郵便で送る。それだけ...。いやはや、これは、すごい。すごすぎます。私も、『司法試験』(花伝社)に自分の受験生活を描きましたが、寮生活でしたので、もう少し、うるおいがありました(女っ気は、ほとんどありませんでしたが...)。著者は、そんな猛勉強の甲斐あって、上位1割に入っていたとのこと。私のほうは、辛うじて「2桁」でした。
論文試験のとき、細字と太字の2本の万年筆を使用できて、答案で差をつけたとのこと。ええっ、そ、そんなことが許されていたのですか...。知りませんでした(今では禁止)。
司法試験に合格したことを報告に、郷里のお世話になったお寺に行くと、そこの和尚から「それは、お気の毒に...」と言われたといいます。この本のタイトルですが、今なお私には、よく分からない禅問答です。
司法修習生のとき、教官に「勝つな負けるな、ほどほどに」と言われ、そのときは理解できなかったとあります。しかし、私も、今では、本気でそう考えています。一般民事事件では、勝ちすぎるのは、あまり良いことではないのが大半だと考えています。「ほどほど」にしないと相手方に恨みが残って、よくないのです。
著者は最高裁の判事として再婚禁止100日間の期間事件と夫婦同氏強制違憲訴訟に関与して、それこそマチ弁の感覚を生かしたとのこと。再婚事件は13対2、夫婦同氏事件では10対5と、15人の最高裁判事の意見が分かれた。
裁判官は法律にしたがって事件を審理しているようにみえるが、その根底にあるのは裁判官の人生観や価値観。
これもまた、まったく同感です。その人生観・価値観が薄っぺらになりすぎている裁判官があまりに多い、多すぎるのが現状で、その点が残念でなりません。
ただ、その点について、著者は、若い人たちに指導する側のマインド、指導力に問題があるのではないかと、耳の痛い指摘もしています。
450頁もの大部の本です。実は、読む前は、タイトルもピンと来ないし、どうなのかな...と思っていたのです。朝7時の電車に乗って、読みはじめると、たちまち惹きつけられ、午前中のフランス語教室のあと昼食をとりながら、また、コーヒーを飲みながら、ずっと読み続けて午後3時に読了しました。まったく面識はありませんが、同期(26期)で最高裁判事になった人なので読んでおこうかなという軽い気持ちでしたが、ずんずんと来る手応えがありました。
少し高価ですが、改めて若い人にぜひ読んでほしいと繰り返します。
(2021年3月刊。税込3850円)

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2021年4月 8日

にほんでいきる

社会


(霧山昴)
著者 毎日新聞取材班 、 出版 明石書店

外国から来た子どもたちは日本語が話せないまま、放置されているのではないか...。
在留外国人は過去最高の293万人(2019年12月)。
100の地方自治体に住民登録していた義務教育年齢の6~14歳の外国籍の子ども7万7000人のうち、就学不明(学校に通っているかどうか確認できない)子どもが2割、1万6000人。全国には2万2000人。その多くは、日本に「デカセギ」に来た外国人労働者の子どもだ。
久里浜少年院には、「国際科」がある。日本語のほか、ごみ出しなどのルールや日本の習慣・文化を教える。1993年に設置され、2020年までに300人が学んだ。
全国の1100超の自治体は、学校に通っていない子どもがどんな状況に置かれているか、まったく確認していない。
前川喜平・文科省の元事務次官は、外国籍の子どもの保護者にも就学義務があることを適用すべきだとしている。本当にそうですよね。便利な「人材」として受け入れたのは日本なのですから、その子どもに日本は責任をもつのが当然です。
法令に「外国籍を除外する」という文言はないので、当然のこと。まったくそのとおりです。人間を大切にしない政治はダメです。
子どもに通訳をつけてもダメ。通訳は、あくまで言語サービスであり、日本語教育ではない。うむむ、なーるほど、そうですよね...。
日本国内の学校や教室に通う日本語学習者は26万人。1990年度の4倍超。これに対して日本語教師が4万人のみ、しかも、その大半はボランティアと非常勤。
これはいけません。こんなところにお金を使わないなんて、政治が間違っています。人間を大切にするのが政治の役目です。
2019年に公表された日本語指導調査によると、日本語教育が必要な児童・生徒は5万人超(外国籍4万人超、日本籍1万人超)で、2016年の調査より7千人近く増えた。無支援状態の児童・生徒が1万1千人もいる。
15~19歳の不就学・不就労は、フィリピン16%、ペルー11%、ブラジル11%、ベトナム10%。学校に通っているのは、中国と韓国・朝鮮で8割超。ブラジル63%、フィリピン57%、ベトナム53%。
外国籍の生徒の高校中退率は10%近く、全体の7倍にもなる。
コンビニのレジに外国人が立ち、日本語で応対するのはもう日常の風景です。そんな彼ら彼女らが、どうやって日本語を身につけたのか、あまり考えたことがありませんでした。もっと小さい、小学生のときに日本に来たら、どうするのか、どうしたらよいのか、私たち大人はもっと周囲に目を配る必要があります。そして、そこにきちんとお金と人を手当てすべきだと改めて思ったことでした。
(2021年2月刊。税込1760円)

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2021年4月 9日

ベネズエラ

南米

(霧山昴)
著者 坂口 安紀 、 出版 中公選書

南米のベネズエラのチャベス大統領には期待していたのでしたが、この本を読んで、しっかり幻滅してしまいました。
チャベスは、国民を「敵と味方」に二分し、ベネズエラ社会を二極化させた。
たとえば、住宅をつくったら、チャベス支持派を優先入居させるというのです。それはいくらなんでもひどいでしょう。
今、チャベスが後継者として指名したマドゥロ大統領が政権を握っていますが、ベネズエラの経済は破綻し、民主主義は見る影もなくなり、国家制度や国のインフラの多くが崩壊しっています。経済成長率は2014年以降、ずっとマイナス。貧困率は9割をこえ、石油の産出量は5分の1にまで落ち込んでいる。
食料や医薬品が欠乏し、国民の64%が平均して11キロも体重が減ってしまった。総人口3000万人のうち500万人が海外へ脱出した。治安もひどく悪化し、世界でもっとも治安の悪い国になっている。
マドゥロ政権を支持する人も、チャベス派の政権の継続を願っているだけで、マドゥロ大統領個人を支持する人は多くない。
私がこの本を読もうと思ったのは、なぜ、そんなひどい状態になってしまったのに、マドゥロ政権が続いているのか、なぜ軍部によるクーデターが起きないのかを知りたかったからです。その答えの一つが軍部にありました。
マドゥロは軍人出身でないため、みずからの支持基盤や影響力をもたない。そこで、第一に、多くの軍人が政治ポストについている。32人いる大臣のうち11人、23の州知事のうち11人が軍人。また、国営石油会社をはじめ、経済的恩恵の大きいポストも軍人に割り当てられている。さらに、次々に将軍に昇進させ、2000人もの将軍をかかえている。このように軍の政治化がすすんでいる。
ベネズエラの国軍内部には「太陽カルテル」という麻薬取引に関わるグループが存在し、マドゥロ大統領以下の政府高官そして軍高官と親族たちが関わっている。
汚職や麻薬取引、そして拷問や人権弾圧などの人道的犯罪に手を染めてきたチャベス派幹部や軍の高官らは、政権が交代すると、法の裁きを受けることになるのは必至。なので、彼らは、必死でチャベス派、マドゥロ政権を死守しようとする。厳しい国内外の状況にもかかわらず軍の支持が揺るがないのは、ここにも理由がある。
なーるほど、そういうことだったんですね。でも、それにしても、こんな異常な政治体制がいつまでも続くはずはありませんよね...。
これからなお、多大の苦難と犠牲をともなうのでしょうが、それでもきっと近いうちにベネズエラが正常化されるだろうことを心より期待しています。
(2021年1月刊。税込1870円)

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2021年4月10日

花粉症と人類

人間


(霧山昴)
著者 小塩 海平 、 出版 岩波新書

10年ほど前から花粉症に悩まされています。まず、クシャミと鼻づまりです。夜、鼻が詰まっているため鼻で呼吸できず、口で息をしていると、ノドがやられます。クシャミと鼻水のため、ティッシュが欠かせません。ポケットティッシュなんて、1袋がすぐなくなってしまいます。そして、目です。痛痒(いたがゆ)いのです。目薬をさしたら、なんとかおさまってくれます。5年以上も前から、花粉症予防のためにはヨーグルト(BB536)がいいというので、毎朝のんでいますが、どれだけ効き目があるのか、自分でもよく分かりません。それでも続けています。信じるものは救われるの精神です。
ただ、コロナ禍で右往左往している今年は、それでも軽いのです。夜中に鼻づまりで苦しくなって目が覚めることがありません。これは助かります。朝までぐっすり眠れるのはいい感じです。とりあえず、ヨーグルトのおかげにして自分を慰めています。
スギ花粉は、大きさは直径30マイクロメートル(0.03ミリメートル)ほど。落下速度は、無風だったら1秒あたり2センチメートルほど。これは1メートル落下するのに1分近くかかることを意味している。ところが、その間に、少しでも風が吹けば、すぐに飛行物体と化してしまう。
昔の人たちは、今とちがって花粉について驚嘆と敬意をもって接していた。
花粉や胞子の外壁は、炭素数90の高分子であるスポロポレニンという化学的にとても強固な物質でできている。そのため、塩酸や水酸化ナトリウムなどの強酸や強アルカリで処理しても溶解しない。泥炭のなかに、古い時代の花粉や胞子を顕微鏡で見ることができるのは、そのため。
花粉症は1819年にイギリスで生まれた。そのころは「夏カタル」と呼ばれていた。
イングランドの牧草花粉症、アメリカのブタクサ花粉症、そして日本のスギ花粉症が、現代世界の花粉症。
ブタクサは、1個体から3万2000もの精子をつけているところが目撃されたことがある。
日本の花粉症患者の発見は、1961年にブタクサ花粉症、1964年にスギ花粉症だった。そして、1980年代後半に患者が爆発的に増加した。
日本では、英米とは異なり、エリート階級のみが花粉症になる現象は起きていない。
1987年、ニホンザルまで花粉症を患うことが確認された。
日本全国にスギ林は450万ヘクタール、つまり九州の面積ほど存在する。林業に従事する人は、1980年に15万人いて、2015年には、その3分の1以下に4万5千人しかいない。
スギ花粉症は、日本という国が、私たち庶民やその周囲の環境を置き去りにして経済成長を追い求めてきたことへの警告ではないか、著者は、そのように指摘してます。なーるほど、ですね...。
花粉症に悩む人々への慰めや励ましを与えることができたら...、と著者は強調しています。これまた同感ですが、やっぱり早くなんとかしてほしいです。
(2021年2月刊。税込880円)

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2021年4月11日

ちょっとケニアに行ってくる

アフリカ


(霧山昴)
著者 池田 正夫 、 出版 彩流社

団塊世代より少し上の著者がフランス経由でアフリカに渡って、ケニアでオーナー・シェフとして活躍する話です。日本人男性も捨てたものではありません。最近の日本人の若者も料理の世界でがんばってるよね、感心だなと思っていると、そんな日本人男子は昔からいたのですね...。
著者はケニア人女性と結婚して、ケニアで無国籍料理(フュージョン料理)で人気のフランス料理店「シェ・ラミ(友だちの家)」をはじめた。2009年にケニアの内乱のため営業不可能となって閉店して日本に帰国し、今もコックとして活躍しているとのことです。
静岡の中学校を卒業して上京し、芝大門の精養軒での修行を皮切りに国内でコック見習いを始めた。そして、海外に行きたくて、まずはフランスへ。
パリの屋根裏部屋(7階)に日本人の若者3人で住む。家賃は1ヶ月900フラン。フランス語学校の学費は1ヶ月40フラン。日本食レストランのアルバイトは1ヶ月600フラン。1フランは70円。1968年のパリ「五月危機」のころのこと。
パリの次は南フランスのエクサンプロヴァンス。ここは私も2回訪れたことがあります。1回目は40代前半で、学生寮に3週間泊まりました。外国人向けのフランス語集中講座を受講したのです。今思えば夢のような毎日でした。2回目は、還暦前祝い記念旅行で2泊3日しました。ともかく夏の南フランスは最高です。夜は8時まで昼間と同じく明るく、雨は降らない。そのうえ、食べもの、飲みものが美味しくて、たまりません。著者はフォアグラの美味しさに魅せられたようです。そして、フランスの生クリームの味...。
そして、ついにアフリカへ...。コンゴ、アルジェリア、サハラ砂漠。羊の丸焼きは4時間ほどかけて焼く。柔らかい。ただただ、焼いた羊を手づかみで食べる。肉をはぎ取って、「熱い、熱い」と言って、手で食べる。うむむ...、そんな食べ方、したことがありません。
ケニアに、日本人向けのスワヒリ語学院を開設した人がいるのですね。星野芳樹という1909年生まれの人です。戦前の活動家で、戦後は撰議院議員も1期つとめ、1974年アフリカ・ケニアに移住したのでした。
著者の営むレストラン「シェ・ラミ」では野生の肉も供したとのこと。シマウマのフィレ肉が一番柔らかかった。ダチョウの肉も柔らかいが、シマウマにはかなわない。
店の庭の隅にバーベキュー小屋をつくった。ゲームミート(野生の肉類)専用のバーベキュー。インランド(鹿の一種)、シマウマ、キリン、ヌー、ガゼル、そしてダチョウとワニ。欧米人の客が好んだ。フォンデュ鍋にゲームミートを入れて、6種類のソースをつけて食べるのは、フランス人に大好評だった。
ワニ肉料理は、ムニエルにする。ワニの肉質はチキンと同じで、匂いもなく、黙っていたらワニ肉とは分からない。ワニの焼き鳥風は、鶏肉の焼き鳥を食べている感じ...。
著者は、各国をまわって、郷に入れば郷に従えを実践したとのこと。そうですよね、大切なことですよね。そして、フランス語、英語、スワヒリ語を話せたのが人々と交流するうえで欠かせなかった。語学は大切だ、と強調しています。なので、私は、今もフランス語を毎日、勉強しているのです。
とても面白い本でした。読んで元気が湧いてきます。ますますの活躍を祈念します。
(2020年8月刊。税込1980円)

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2021年4月12日

スマホ脳

人間


(霧山昴)
著者 アンデシュ・ハンセン 、 出版 新潮新書

私は依然としてスマホを持たず、ガラケーのみ。それも、常時カバン在中で、1日1回も使えばいいほうです。なので、スマホの使いすぎなんて、自分のことではありません。
孫たちの脳が、スマ時代でおかしくなってしまわないか、それが心配なので、読んでみました。なるほど、それは心配だと思わせる記述のオンパレードです。かといって、孫たちからスマホを取りあげるわけにはいかないでしょう。では、いったいどうしたらよいのでしょうか...。
スティーブ・ジョブズを筆頭に、IT業界のトップは、我が子にスマホを与えていないとのこと。その危険性を熟知しているからですよね。著者はスウェーデン生まれの精神科医です。
人間の脳はデジタル社会に適応していない。
現在、大人は1日に4時間スマホに費やしている。
コロナ禍によって実際に集まる会議が減って、ズーム形式の会議がほとんどになりました。先週、昼から2時間、午後3時からと夕方の5時から各1時間、合計4時間も画面を見ていましたら、帰宅したころには首と肩が異常にコチコチと固まっていて、頭までボーっとしてきました。たまに発言しようと身を乗りだした格好を4時間もしていたのですから、そのひずみ(反動)がないわけはありません。
精神的不調で受診する大人がますます増えている。
決断を下すとき、最後に人間を支配するのは感情。
やはり、好きか嫌いかは、司法の世界でも大きいです。
ストレスのシステムは、私たちが正常に機能するためにも大切だ。うつを引き起こす原因としていちばん多いのは長期のストレスだ。
私たちは1日に2600回以上もスマホを触り、平均して10分に1度、スマホを手にとっている。
スマホが及ぼす最大の影響は、「時間を奪うこと」にある。睡眠を十分にとる時間がなくなることだ。ところが、この睡眠時に、昼間こわれたタンパク質が老廃物として脳から除去される。老廃物は1日に何グラムにもなり、1年間にすると、脳と同じ重さの、「ゴミ」が捨てられることになる。夜、眠っているうちに、短期記憶から長期記憶へ移動してしまう。
つまり、睡眠は記憶の保存に重要な役割を果たしている。ところが、スマホが若者の睡眠不足を招いている。
電子書籍を読んだ人たちは、電子書籍を読むと、メラトニン合成がひどくなる。
ヒトの祖先は、毎日、1万8000歩、あるいていた。今の私たちは、1日5000歩にも満たない。
教室でスマホは禁止。でないと、学習能力が低下する。
記憶力や集中力といった知能がスマホのせいで低下している。毎日、スクリーンの前で4時間も過ごしていると、子どもや若者は遊んだり、「本当の」社会的接触をもったりする暇がなくなる。
スマホを使いすぎると、気が散り、よく眠れなくなり、ストレスを感じる。毎日2時間はスマホをオフにしよう。
スマホの表示はモノクロにすること。色のない画面のほうが、ドーパミンの放出量は少ない。
集中力が必要な作業をするときには、スマホを手元に置かず、隣の部屋に置いておく。
スマホを寝室には置かない。寝る直前に仕事のメールは開かない。
スマホに関する、とても実践的なアドバイスもたくさんある新書です。気をつけましょう、暗い夜道と便利なスマホ。
(2021年3月刊。税込1078円)

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2021年4月13日

ぼくがアメリカ人をやめたワケ

社会


(霧山昴)
著者 ロジャー・パルバース 、 出版 集英社

著者は1967年9月に日本にやってきました。私が、その年の4月に福岡から上京して大学生としての生活を始めたころになります。私は6人部屋での寮生活をはじめて、人間の社会というのを少しずつ分かっていきました。
著者は1944年生まれですから、私より4歳だけ年長です。21歳のとき、アメリカを離れて自分探しの旅に出たのです。日本で宮沢賢治に出会い、人生における意味と目的を発見したのでした。
著者がこの本で言いたいことは、みんなが自分なりにグレイト(great)な人生を送ることができる。それは、「情け心、ミンナニデクノボートヨバレテモとホメラレナクテモ」という気持ちにあふれた人生をさす。そうなんですよね...。
著者はユダヤ人です。ユダヤ人の天職は三つ。医師、弁護士そして公認会計士。
なるほど、アメリカの有力法曹にはユダヤ人が多いようです。
ところが、著者は、三つのいずれにもなりませんでした。
著者は、謝る理由なんかないと確信していても気前よく謝罪しようとする性格だそうで、それが「根拠のない謝罪」をする国である日本での長年の暮らしで役に立ち、日本文化に同化するための助けとなったのだろうとしています。
うむむ、残念ながらあたっていますよね...、と書いて、いやいや日本の首相は違うぞと、思い直しました。前のアベ首相は妻を「私人」だと言いはり、今のスガ首相は長男について「完全に別人格」と開き直って、苦しい弁解も謝罪もせずに強行突破を図ったのでした(ています)。日本人を代表しているはずの首相がそうだとしたら、ちょっとばかり認識を変える必要がありますよね...。
アメリカでは偽善の上に二つのアメリカが成り立っている。表向きの上品ぶったアメリカと、裏の悪徳だらけのアメリカ。
そうですね、トランプ前大統領はその二つを見事に結合させていましたね。
著者は生前の井上ひさしと親交があり、小沢昭一とも面識がありました。
ソ連の偉大なスパイだったゾルゲを助けた尾崎秀実(ほつみ)について、祖国を愛するあまり、祖国がアジア太平洋地域で無数の人々を犠牲にするのを許せなかった英雄として、現代日本人は大いに讃えるべきだと強調しています。私も大賛成です。
あまりにも多くの罪なき日本人を死に至らしめた人間こそ「売国奴」と言うべきですから、死刑となった東条英機を見直す前に尾崎秀実こそ英雄として見直さなければなりません。売国奴なんて、とんでもありません。
ベアテ・シロタのことも紹介されています。日本国憲法に人権条項を盛り込むことに功績のあるユダヤ系アメリカ人です。この「シロタ」というのは、孤児を意味していて、ユダヤ系の名前としては珍しくないということを始めて知りました。
著者は、日本人と暮らしてみて、度を越した謙遜はうぬぼれの印だということもあることが分かったといいます。ヘイトスピーチに走る日本人は、まさしくうぬぼれに溺れたかっているのでしょうね。日頃、職場で認められていない自分を鼓舞するため、他人をおとしめてヘイトスピーチをして、自分を高くもちあげようというのです。まさしく、さもしい根性です。
日本とは、どんな国なのか、アメリカを対比させながら考えている貴重なヒント満載の本でした。
(2020年11月刊。1800円+税)

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2021年4月14日

「弁護士の平成(会報30号)」

司法


(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会

福岡県弁護士会の会報30号が発刊されました。A4サイズで470頁もある大作ですので、なかなか手にとって読んでみようという気にならないかもしれませんので、読みどころを少し紹介します。今回は、民事裁判の現状と克服の方向です。

民事裁判の現状...座談会
第3部の座談会で民事裁判の実情が紹介されています。裁判官が記録を読んでいないのではないか、また積極的に争点整理をしてくれないという不満の声があがっています。
「松本 裁判官が最初から決め打ちしているというケース、これはこういうもんなんだよという感じで、争点整理そのものに行き着かない。争点整理もいいのだけど、主張立証責任の所在で困るところがいっぱいあった。どちらがどのレベルで立証できるのかを深めてやれば、事件はもっと単純に解決できるのではないでしょうか。主張書面もさることながら、それに付随して出す陳述書がやたら攻撃的になっていって和解の機運を失う、裁判所もそれを見ていながら何もしないということがあります。
 神田 争点整理に行き着く前の段階で、そもそも裁判官が記録を読んでいないのではないかなと思うことがあります。そういう裁判官は争点整理を積極的にやってくれないという印象です。また、争点整理自体ではありませんが、弁論や弁論準備の期日に依頼者が同席するケースもあります。期日で、裁判官が記録を確認していなかったり、提出された書面を見ていないということが依頼者に分かってしまうと、その後に和解案が出されたとしても、依頼者が担当裁判官を信頼できず、和解案にも納得してもらえないことになります。和解案自体は妥当なのに、争点整理の前提自体がどうなのかなと思う事件がありました。
・・・・
 小倉 相手側代理人が、こちらの書面の枝葉末節に噛みついて、何が争点なのかぼやけてきて、裁判官もまとめきれなくなり、事件は漂流するケースがありました。積極的に争点整理しましょうと言う裁判官は、小倉支部ではそう多くない印象です。記録を読んでいないのではないかと強く疑われる裁判官も実際にいます。争点整理がされないまま、双方が   自由に主張を出し合って、判決を受け取った段階で初めて『えっ、ここが争点だったの』という判決もありました。私は初めて控訴状で『争点整理の仕方が間違っている』と控訴理由に書きました。高裁の裁判官から『違うのですか』と訊かれて『絶対違います』と返答しましたが、思い込みも含めて勝手に争点整理されると怖いです」(354頁)

裁判官が記録を読んでいないのではないかと当事者が不信感をもったら、まとまる話もまとまらなくなります。また、裁判官が積極的にリードしてくれなかったので、当事者間の感情的対立が高まって困ったという話も出ています。

「染谷 裁判所側の問題としては、個々の裁判官の資質かもしれませんが、明らかに記録を読み込んでいない様子で、何となく期日を重ねて当事者に主張させたあと、それぞれの主張を足して二で割ったような和解案をポンと出して、『あとは当事者でやってください』という対応があります。これは争点整理の仕方がまずかったというよりは、そもそも争点整理がされていないという問題である気もします。争点整理に取り組む認識のある代理人や裁判所に当たったときには、争点整理自体が問題だなと感じたことはありません。
 石本 相続関係の民事訴訟でしたが、相手方代理人の訴訟活動で困った点として、要件事実ではないいわゆる事情(親族間の長年にわたる恨みつらみ)を厖大に主張された結果、結論に影響しない対立点が増えてしまったことがありました。そして、裁判所の訴訟指導で困った点として、要件事実との関連性を確認することなく、『では、反論を』と放置されたことがありました。その結果、争点整理がどんどん漂流してしまうとともに、当事者間の感情的対立が高まって、和解の機運を逃してしまったことがありました」(353頁)

 7割の事件で、争点整理によって裁判官は心証をとっているのではないか、この後藤裕弁護士の問いかけに対しては肯定的な反応です。
 「後藤 『争点整理で7割決まる』というのが、全体の7割ぐらいの事件では裁判所の心証が争点整理の段階でほぼ決まっているという意味ではどうでしょうか。
  染谷 私も『争点整理で7割決まる』というのは、実感とそう離れていません。多くの裁判官もだいたい証人尋問前にはほとんど心証が固まっていて、よほどのことがないと尋問結果で心証が変わることはない、と色々なところで聴きます。もっと言えば、これは私の勝手な印象ですが、訴訟と答弁書の段階でかなり心証を取っているのではないかと感じます。
  裁判官としても最初に出てくる訴状と答弁書、それの裏付けとして出されている基本証書と呼ばれるもの、その内容を見れば大体この事件はどういう事件なのか概要をつかんで、この事件はこういう心理の仕方、これはどう頑張っても判決の事件だ、あるいはこれがどこかで和解はできるかもしれない、そこまでシビアにやらなくて良いかもしれないと、方向性を決めてやるのではないかという印象を持っています。もちろんその後の主張、立証によって心証が変わることもあるとは思うのですが、ファーストインプレッションという言葉があるように、第一印象、最初に持たれた事件の印象を後から大きく覆すのはかなり難しいと感じます。
   石本 私も同じ感覚です。人証で結論が決まるような事案だと、そもそも訴訟を回避して何とか交渉でまとめることも一定数あると思うので、証拠調べ前に7割方心証が固まるのは、おかしなことではないと思います。
   小倉 たまに争点整理しても結論が分からない、悩ましいという裁判官もいます」(361頁)

裁判利用者の18%しか満足していない
 民事裁判の現状については、次のように紹介されています(214頁)
   「本人尋問や証人尋問をしない裁判が薬3000件増え、検証と鑑定は10年間で約3分の1に激減している。
第2に、訴訟代理人から、『裁判所が証人調べをしない、強引な和解がある、判決の理由が乏しくなっている、高裁の1回結審が増えている』などの不満が出ている(東京弁護士会の1997(平成9)年の調査)。また、第1回期日について被告代理人の変更申請を認めず、原告とだけで裁判をするという例が増えている。
第3に、裁判利用者で今の訴訟制度に満足した人は、わずか18%しかいない』。
集中審理、陳述書の活用はいいとしても、陳述書に本来ありえないはずの事実上の証拠力が認められることがあるのが実情であり、これは弊害と言うほかない。
判決に事実認定の緻密さが欠けてきているという批判を裁判官経験者がしている。『紛争発生後に当事者等が作成する陳述書は、当事者側のストーリーが入りがちで、紛争発生前から存在する客観的証拠との照合が欠かせないが、紛争発生前から存在する証拠はしばしば断片的であるため、客観的であるにもかかわらず、無視されがちである』
また、急ぐあまり審理の適正・充実がおろそかにされていないか。高裁での1回結審の原則的運用には当事者双方から大きな不満の声があがっている。
『日本の裁判官は、事件を早く終わらせたいのか、事実発見、真相究明よりも、効率的且つ迅速な裁判遂行を優先させ、人証の採用に消極的で、人数を制限するだけでなく、主尋問、反対尋問の時間まで制限する。じっくり時間をかけて、重要証人の尋問を聞こうとする耳を持たず、その意欲もなければ、余裕も全くない』という指摘は悲しいかな、今なお日本の裁判官の現状ではないか」(214頁)

裁判官おまかせ主義の弁護士
 ところが、裁判所の側から弁護士の訴訟活動について手厳しい批判の声があることも紹介されています。「裁判所依存」、「裁判官おまかせ主義」の弁護士の存在です。
   「弁護士任官で裁判官になった田川和幸弁護士は法廷の裁判官席からみた弁護士の実情を次のように手厳しく批判した。
   『現実の法廷では、ほとんど証拠の収集をせず、本人尋問だけに頼る弁護士が少なくないので、閉口してしまう。ろくに訴訟準備もしない、適切な主張もしない、ちゃんとした尋問もしない』
   『弁護士が、いい加減に主張立証しただけで、その役割をすませたような顔をされているのをみると、腹立たしくなる。しかも、若い弁護士にこのような方が少なくない。未熟さ故というには、あまりに熱意が窺われず、無責任さばかり感じられて、依頼者が可哀想に思えてしまうこともある。同様な弁護士が増えていくと、裁判所に寄せる国民の期待を裏切ることになると、大上段に構えたくなるが、かかる弁護士が自由競争で淘汰されるのを待つしかないのであろうか。弁護士の倫理の高揚と弁護士会の研修に期待するところが大きい』
   『弁護士の訴訟における裁判所依存である。みずから適正な訴訟活動をしないで、真実を発見して判決したいと考えている裁判官の思いに乗っかって、報酬を稼ぐ弁護士。判事室では、この種の弁護士の話が満ち溢れている』
   『裁判所依存、さらにステレオ・タイプ化して言うと、「裁判官おまかせ主義」の弁護士の数が少なくないことに驚いた。そのような弁護士には、弁護士会が倫理性と研鑽を求める必要がある』
   これはなかなか耳の痛い批判であり、弁護士はこのようなことを言われないよう主体性をもて不断に研鑽に務める必要がある」(218頁)

現状を克服するには...
 現状をそのままにしておくわけにはいきません。心ある人はともかく声をあげ、気がついたところから実践していくしかありません。
   「ながく裁判官をつとめ、弁護士8年目の金馬健二弁護士は医療関係訴訟において弁護士のほうで積極的に働きかけ、裁判官を育てるつもりで審理を動かしていくことをすすめている。
    『裁判官が記録をきちっと読んで、身を乗り出して当事者の言い分に耳を傾け、洞察力をもって、事案を的確に把握し、できるだけ当事者に負担をかけないような合理的審理を図り、解明すべき点についての必要十分な資料の提出を当事者双方に平衡に配慮して促し、適時の和解勧告をして公正な解決を図り、鑑定が必要な場合でも鑑定人に丸投げせず、自らの判断の補助(本来の鑑定)とするように工夫を凝らし、また、直接的な証拠の中身に拘泥せず、自らの頭で洞察力を働かせて推理し、的確な推認による批判に耐えうる事実認定をする方向で、謙虚に審理を進めてくれれば、医療関係訴訟は迅速適正な解決に向かいます。しかし、そのような審理のできる裁判官は少ないことが分かってきました。そうであるなら、訴訟進行を裁判官に委ねることなく、当事者の方でイニシアチブをとって、裁判官を育てるつもりで、裁判官に積極的に働きかけ、私たちが求める方向に審理を動かしてゆくしかないとの思いを強くしています』」(218頁)

 ぜひ、会報30号の現物にチャレンジしてみてください。得られるものは、きっと大きいはずです。
 

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2021年4月15日

ロッキード

社会


(霧山昴)
著者 真山 仁 、 出版 文芸春秋

1976(昭和51)年7月27日、田中角栄は迎えに来た東京地検特捜部の松田昇検事とともに車に乗り込み東京地検に出頭した。午前7時27分のこと。弁護士3年生の私は、この日、たまたま東京地裁に裁判があって行ったところ、東京地検前は黒山の人だかりでした。角栄逮捕後まもなくのタイミングで通りかかったというわけです。田中角栄を連行した松田検事は横浜修習のときの修習指導担当検事でした。
580頁もある部厚い、この本は角栄逮捕に疑問を投げかけています。ロッキード事件において、田中角栄は、本当に有罪だったのだろうか...、という疑問です。
田中角栄がアメリカの事前了解をとらずに日中国交を回復したのがアメリカ政府の逆鱗に触れたからという説が有力ですが、本当にそうなのかということです。
キッシンジャー国務長官が田中角栄を「嘘つき」だとして嫌っていたのは事実のようですが、もともとアメリカ政府の高官は、みんな、日本と日本人を属国、言いなりになる連中だと軽蔑していたわけです(残念ながら、今もです...)ので、本当にそれが理由になるものかというのは、再考の余地がありそうです。
ロッキード事件の丸紅ルートを担当した元最高裁判事(園部逸夫)は、「フワフワと現れて、フワフワと消え去った事件」だったと語った。田中角栄にまつわる被疑(告)事実は、信じられないほど、曖昧だったという。いやあ、本当にそうなんでしょうか...。
アメリカのロッキード社は自社機の売り込みのために総額30億円の賄賂(わいろ)を日本政府高官にばらまいた。そのうちの5億円を田中角栄はロッキード社の代理人である丸紅(商社)から受けとった。賄賂の金額の単位は「ピーナツ」と書かれていて、日本法にない「嘱託尋問」がアメリカで行われて有罪認定の「証拠」になるなど、異例の展開だった。
日本側の捜査に、アメリカは、司法省、SEC、そしてFBIまで、とても協力的だった。これがアメリカ側の意図をいろいろ推認させることにもなったわけです。
キッシンジャーも、田中角栄をはじめから嫌っていたのではなく、当初は、使い勝手が良い人間だとみていた。
田中角栄は日中国交回復を実現したが、熱心な中国シンパだったわけではない。
しかし、日本が独断専行したこと、これがアメリカ、キッシンジャーには許せなかった。日本は、いかなるときでも、アメリカの方針に服従(盲従)すべき存在なのだ...。キッシンジャーは怒った。
この本において、5億円というのは、角栄にとっては「はした金」でしかなかったというのが、大きな意味をもって書かれています。ええっ、5億円が「はした金」なんですか...、声も出ませんよね。
「バカッ!オレがそんなもの(5億円の賄賂)をもらうとでも思うのか。なんで一国の総理大臣が、そんな外国(アメリカ)の一私企業のために、お金をもらわなければいかんのだ」
角栄は本気で怒っていたという。5億円というのは、経団連がもってきた「総理就任祝い」でしかない。
「総理大臣の仕事は、絶対に戦争をしない、国民を飢えさせてはいけない、これに尽きる。それ以外は、些末(さまつ)なこと」
これが角栄の口癖だった。いやあ、これは立派です。アベやらスガに呑み込ませ、言わせてやりたいセリフですよね...。
5億円を角栄は4回に分けて、現金で受けとったというが、それは奇妙だ、信じられないという提起があります。でも、まあ、弁護士である私は、ちょっとおかしいけれど、完全否定の根拠としては乏しいとしか言いようがありません。世の中は不可解なことだらけなのですから...。
この本は、民間機の導入により、軍用機の売り込みのほうが本命だったのではないかと指摘しています。さもありなんですよね。P-3C、F35、ともかく、とんでもない「金喰い虫」を日本はアメリカから次々に買わされているのです。そちらで巨額のお金が動いているのは事実でしょう。そんな軍事予算偏重なので、福祉・教育予算は削られる一方なんです。この軍事予算の黒い疑惑を日本のマスコミは、ほとんどメスを入れ、報道することがありません。残念です。
ロッキード事件の陰にかくれてしまった重大なことがあるという著者の指摘は、今なお莫大な軍事予算がアメリカがらみで増大中でもあり、大いに共感できます。
(2020年2月刊。税込2475円)

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2021年4月16日

ステップファミリー

司法


(霧山昴)
著者 野沢 慎司、菊地 真理 、 出版 角川新書

子どもの親権をめぐる争いは、弁護士にとって、よくある事件の一つです。実際には、どちらの親が毎日、子どもの面倒をみているのかがポイントだと実感しています。
寂しい思いに駆られるのは、親が双方とも子どもを相手に押しつけようとするケースです。結局、子どもは施設に入ることになります。恐らく親は、どちらも面会しないのでしょう...。そんなケースにあたると、本当に残念です。
親の育児放棄から施設に入れられて育った人の依頼を受けたことがありますが、子ども時代の様子は語りたがりませんでした。やはり寂しかったようです。施設によるのだとは思うのですが、卒業したあとの子どもたち同士の交流はないということでした。なので、子ども同士の連帯感が育っていないようでした(これは決して一般論を言っているのではありません。あくまで私が話を聞いた人の話です)。
親の離婚を経験する子どもたちは、50年ほど前に比べて、格段に増えた。2018年の1年間に、21万人にのぼる。この子の親が再婚すると、「ステップファミリー」ができる。現代日本においても、もはやステップファミリーは珍しい家族ではなくなっている。現代は、いつ、誰がステップファミリーの一員になっても不思議ではない時代だ。
ステップファミリーを、両親とその子どもから成る単純な核家族と「同じ」ものとみる視線が日本社会全体に蔓延(まんえん)している。本当に、それでよいのだろうか...。
慣れ親しんだ生活のルールから切り離され、新たなルール制定者である見知らぬ「父親」との生活が始まったとき、子どもがそれまでの母や祖母と同等の親として「父親」を認めることに抵抗を感じ、反発したとしても不思議なことではないのではないか...。
これに対して、「父親」は、「娘」の反抗的な態度に直面して、自分の理想やプライドが大きく傷ついたかもしれない...。
子どもにとって、「親」だと思っている人に入れ替わって、別の大人がいきなり「親」として振る舞いはじめたとしたら、子どもにとって適応困難であり、理不尽な苦しみをもたらすことになる。そのうえ、ずっと一緒に暮らしてきて便りにしてきた血縁の親が、この理不尽さを理解してくれず、そこから助けてくれないとしたら、子どもは追い詰められ、絶望的な心境に陥ってしまう。なーるほど、ですね。よく分かるシチュエーションです。
日本は、この半世紀のうちに、結婚が離婚に至るリスクの高い社会へ変貌し、今もそのリスクは高止まりしている。
離婚する夫婦の6割に子どもがいる。再婚は、もはや珍しくはない。
明治以前は、長続きする結婚が少なかった。明治より前は、結婚や離婚は、きわめてプライベートな問題であり、政府も宗教も関わっていなかった。江戸時代の日本は、離婚も再婚も珍しくない社会だった。明治から、離婚・再婚が社会的に抑圧されるようになった。
この本にも『須恵村の女たち』が紹介されています。このコーナーでも先に紹介した本ですが、この本を読んで、私の目が開かれました。江戸時代までの日本女性は「モノ言わぬ妻」なんてものではなかったのです。『女大学』は、実態の「行き過ぎ」(男にとって)を少しブレーキをかけようとしただけの本でしかありません。江戸時代に『女大学』のような現実があったなんていうのは、まったく事実に反しています。
「親権」というコトバ時代が時代遅れ。これは、父が家族の財産を管理・支配していた時代の名残(なごり)にすぎない。なるほど、もっともです。
子どもが親を失わない権利をもつという、発想の転換が必要だ。そのとおりです...。
実父と継父は、互いに競合するものではなく、それぞれ別の存在だ。なので、子どもはどちらかだけを「親」として決める必要はない。なにより子どもが安心感・信頼感をもって生活していくにはどうしたらよいか、これを優先させるべきだという著者の指摘には、まったく同感です。
離婚後の共同親権の実現を急げと著者は強調しています。そのとおりなのでしょうね。考えさせられることの多い、いい本でした。
(2021年1月刊。税込990円)

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2021年4月17日

心の歌よ

人間


(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版 新日本出版社

世界中を取材して歩いているジャーナリストの著者は、日本ほど歌の種類が豊富な国は珍しいと断言しています。そして、全国民がなべて歌う文化を持つのは、日本のほかにはヨーロッパのバルト三国くらいだとも言います。
歌は人生と時代の産物。どの歌にも、生み出した人の人生や思考が反映されるし、歌が生まれた時代や社会などの背景を投影する。歌を追求すると、日本と日本人が見えてくる。
なるほど、この本に取り上げられている歌は日本人の「ふるさと」そのものだという気がしてきます。著者は、その点をジャーナリストらしく足で運んで調べあげ、言葉として表現してくれました。読んでいると、いつのまにか耳の奥に歌が流れてくるのです。その心地良さに浸りながら平日の昼に、昼食をはさんで長い昼休みをとって一気に読み上げました。
「赤とんぼ」を作詩した三木露風は、実際に5歳のときに母親と生き別れてしまったのでした。それで、毎日、母が今にも帰ってくるかと山道を駆けのぼって待ち続けたというのです。この歌は、その心境を言葉にしたものでした。
著者は、「童謡赤とんぼのふる里」まで出かけていき、三木露風に宛てた実母の巻紙(手紙)の実物をみています。5歳で母と生き別れになったあと、母に代わって露風の世話をした子守の娘(姐(ねえ)や)が実際にいたのですね。この姐やは、15歳になってお嫁に行き、実母からの便りもなくなったという実話を元にしているというのです。5歳の孫が身近にいる身なので、涙が止まりませんでした。ともかく、そのころは、何をさておいても母が一番なのですから...。
そして、この「赤とんぼ」の歌は立川にあったアメリカ軍基地の拡張に反対して起きた砂川闘争のとき、警察機動隊の前で学生50人が歌って武力衝突を防いだという伝説の歌だというのです。なるほど、この歌をしみじみ聞いていたら、猛々(たけだけ)しい心も沈静化してしまいますよね。
灯台守(とうだいもり)の夫婦をテーマとする映画「喜びも悲しみも幾歳月」の主題歌の話も心にしみるものがありました。福島県の塩屋崎灯台で夫婦して仕事・生活をしていた人の手記が映画化されたのです。初めは佐田啓二と高峰秀子、そしてリメーク版は加藤剛と大原麗子の主演です。
なにしろ、水道も井戸もなく、雨水を貯めての生活。お産は、夫が赤ん坊のへその緒を切った。ところが、それでも子どもは10人うまれ、娘3人は灯台と関係した人生を歩んだというのです。著者は娘さんたちにも会って取材しています。さすがです。
千昌夫が歌った「北国の春」。作詞は「いではく」。作曲は遠藤実。歌詩をうけとると5分で作曲した。「北国の春」の作詞家、作曲家、歌手の3人に共通するのは、少年時代が「冬の時代」だったこと。貧しい家庭に育ち、母の手で育てられ、「しばれる冬」を体験した。でも、北国の人特有の粘りと努力で、春を求めてはい上がった。
こんな歌の背景を知れば、歌うときの姿勢も変わってきますよね。聞くほうも、心のもちように違いがあります。
綺羅(きら)星のような歌の成り立ちを知れば、涙のあとに生きる勇気が湧いてくる。このオビのフレーズは、まさしくそのとおりです。
週刊「うたごえ新聞」に月1度のコラムを連載中の著者が一冊の本にまとめました。ちょっとコロナ禍で疲れたなという気分の人には特に一読をおすすめします。
(2021年2月刊。税込1760円)

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2021年4月18日

キネマの神様

社会


(霧山昴)
著者 原田 マハ 、 出版 文春文庫

いやあ、うまいですね、しびれます。著者のストーリー展開の見事さにはまいってしまいます。映画好きの私には、たまらない本でした。
この冬に山田洋次監督によって映画化されるというので、あわてて読みました。なんと、2011年に初版が出ていて、すでに32刷なのですね(2020年2月)。申し訳ないことに、この本の存在自体を知りませんでした。
解説を片桐はいりが書いています。大変失礼ながら、私はその名前を聞いたこともありません。「キネマ旬報」に映画(館)にまつわる話のあれこれを書いている人のようですね。
それはともかく、「三度の飯の次くらいに映画が好きな映画ファン」というほどではありませんが、私も月に一度は映画館で映画を見たいと思って、それを励行しようとがんばっています。なので、映画案内を見逃すことはしません。
この本に出てくる銀座和光ウラの「シネスイッチ銀座」というのは、私も上京したときによく行く、小さな映画館です。「ニュー・シネマ・パラダイス」を単館で公開した映画館だったというのですが、私はこの素晴らしい映画をどこでみたのか、残念なことに覚えていません。
著者の父親が映画をずっとみていて、その短評を自分のノートに書きつづっていた。それをブログにあげ、好評だったので、英語にしたところ、意外な反応があった。しかも、アメリカのプロ級の映画評論家からの反応があり、父親との丁々発止が世界の映画ファンから注視されるまでになった...。
ここでは紹介しませんが、そこに展開される映画評の奥深さは、ひょっとして、これって小説ではなくて、実話なんじゃないの...、そう思わせるほど真に迫っています。著者の作家としての力量のすごさは完全に脱帽です。
それにしても、映画って、いいですよね。私は読書しても本の世界に没入できるのですが、映画は本とは違って、視覚的に、また暗い映画館のなかで明るいスクリーンと一対一で対峙していて、体験として心の中に残っていく深さがあります。
いやあ、いい本でした。ぜひぜひ映画をみてみたいです。山田監督、よろしくお願いします。今から楽しみ、ワクワクしています。
(2020年2月刊。税込748円)

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2021年4月19日

空飛ぶヘビとアメンボロボット

生物


(霧山昴)
著者 デイヴィッド・フー 、 出版 化学同人

ノーベル賞ならぬ、イグノーベル賞を2回も受賞したという著者の話は、さすがに面白い。
ええっ、こんなことまで調べるのか...。たとえば、自分の子ども(赤ちゃん)のおしっこが何秒間つづくのか測ったら21秒だった。そんなの測りますかね...。
そして、では、ゾウの排尿はどれくらいか。まあ、図体がでかいから1時間くらいかな...。と思うと、あにはからんや、人間と同じで、21秒ほど。ほ乳類の動物が、ほとんどこの21秒ほどだというのです。
生理現象のときは無防備なので、敵に襲われると逃げきれない心配がある。そこで、21秒くらいが安全。そうすると、尿道は、それにあわせることになる。直径と長さの組み合わせなので...。イヌ、ヤギ、パンダ、サイ、ゾウの排尿時間は、いずれも10秒から30秒のあいだで、平均は21秒。動物たちの排尿時間は驚くほど近似している。
犬の膀胱は、計量カップほど。ゾウの膀胱は、その100倍以上で、20リットルのキッチン用ゴミ箱を一度のおしっこで満タンにする。尿道の長さと直径の比は、男性25:1、女性で17:1。この比は人間だけでなく、ネズミからゾウまで、あらゆる哺乳類に共通している。学者って、こんなことまで調べるのですね。その発想に圧倒されます。
蚊は、雨の中でも飛べる。なぜか...。空から降ってくる雨粒の重さは、蚊の約50倍。では、蚊はどうして雨粒にぶつかったり、土砂降りのなかでも飛んで(生きて)いられるのか...。
蚊の重さは、雨粒のわずか2%でしかない。あまりに軽いので、雨粒の動きに逆らわない。蚊は雨粒の落下を妨げることなく、ただ受け流す。蚊があまりにも軽いので、雨粒は衝突によって減速しないことから、蚊の体には大きな負荷がかからない。
トビヘビは、高さ50メートルの樹にのぼる。そこから滑空し、100メートル先の地面に、ほんの数秒で到達する。トビヘビの滑空率はムササビを10%も上回り、トビガエルの2倍近い。
トビヘビは空中を落下するとき、はじめは頭を下に傾けていたが、次には頭を上に、尾を下にして、体を水平に近づけた。そして自分の体をS字型に曲げ、空中を泳ぐように波打ちはじめた。地表に着地するときには、着地の衝撃を和らげるため、ヘビは再び体の向きを変え、尾を最初に、頭を最後に着地する。
ヘビの体が「ぬるぬるしている」という俗説は間違い。ヘビの体は濡れたように艶やかだが、触ってみると、さらりと乾燥している。
ヘビの椎骨は、数百個もあり、そのため、ヘビの体は長くしなやかなカーブを描き、体全体を地面につけて力を生み出せる。
アメンボはなぜ池の上をスイスイと動きまわれるのか・・・。アメンボが水の上に立てるのは、体のサイズが小さいおかげで、表面張力を利用できるから。アメンボは非常に小さく、そして軽いので、ふだんは無視できる力の影響を受ける。すなわち、表面張力。表面張力がアメンボの体重を支えるのは、トランポリンがヒトの体重を支えるのと同じ原理にもとづく。
アメンボが空気の層をとらえておけるのは、どんな動物よりも毛むくじゃらの脚をもっているから。つまりアメンボが濡れないには、脚の表面積が毛によって増大したおかげだ。毛と毛のあいだには水が入りこめない。アメンボは、水の上というよりも、空気の上に立っている。脚もとにある空気の層のおかげで、アメンボは、アイススケートをするように、水面をスイスイ滑って移動できる。
そして、著者は、このアメンボをつくってみたのです。それは、ステンレススチールの針金でできている。脚は、水をはじくようにコーティングされている。体長9センチで、重さは0.35グラム。いやあ、こんなことまでしてみるのですね、学者って...。
生物の世界は不思議にみちみちています。私が日曜日夜の『ダーウィンが来た』を毎回欠かさず(録画して)みているのは、その神秘の解明に少しでも近づきたいがためです。
(2020年21月刊。税込2640円)

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2021年4月20日

地下アイドルの法律相談

司法


(霧山昴)
著者 深井 剛志 、 出版 日本加除出版

私はテレビを見ませんし、コンサートに行くこともありませんので、アイドルなる存在とはまったく無縁です。なので、地下アイドルって、何のこと...、という感じです。
AKBが登場したあと、アイドルの活動はテレビからライブに移行し、握手会や物販など、ファンと直接交流する場での活動が中心になっている。
現代におけるアイドルの役割は、多くのファンに活力を与えてくれる、心のオアシスのようなもの。
著者がこれまで相談・依頼を受けたケースを通じて、アイドルと所属事務所との契約は、事務所側に有利な内容になっていることが多く、十分に生活を送れる条件で働くことのできるアイドルはとても少ない。
この本は、契約における不均衡を少しでも是正し、アイドルにとって働きやすい環境をつくるため、法的に契約内容の問題点を指摘している。
契約書では、給料の決め方が具体的に詳しく書かれていないことからトラブルになることが多い。また、アイドルの禁止事項と、それに違反したときに賠償金の額が問題になることもある。さらには、契約終了後、アイドルの移籍や芸能活動を禁止する条項があったりする。なので、契約書にサインする前に、よくよくチェックする必要がある。
そうなんですよね。アイドルとして一人前になろうとするのなら、契約書のチェックをあなたまかせにしてはいけません。
アイドルが未成年のときには、親(親権者)の同意をもらっておく必要がある。アイドルは事務所との業務委託契約を結ぶ。これは、会社員が勤務先の会社と結ぶ労働契約とは別。つまり、アイドルは、いわゆる労働者ではない。しかし、働き方の実態からアイドルが労働契約を結んでいると解されるときには、最低限の給料をもらう権利がある。
たとえば、アイドルが仕事が断ることができない、報酬の決定権限が事務所にあり、著作物の権利も事務所にあって、アイドルは副業禁止というときには、アイドルは労働者にあたり、最低賃金法による給料が保障されるとした判例がある。
アダルトビデオへの出演を強要されたモデルが拒絶したところ、事務所がモデルに損害賠償請求した裁判で、その拒絶は正当であって、違法ではないので、違約金を支払う義務はないとした判決がある。
アイドル志願の若い人にはぜひ読んでほしい本です。福岡で著者のサイン入りの本を購入しました。マンガで状況描写されていますので、とても分かりやすい本になっています。
(2020年7月刊。税込1760円)

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2021年4月21日

「弁護士の平成」(会報第30号)

司法


(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会

 「合格者3000人」を日弁連が受け入れた経緯、そして、福岡県弁護士会は法曹人口問題について、どのような考え、取り組んできたのか、作間功弁護士の論稿は力作です。増員反対論者からすると、間違っている、とんでもないという非難を浴びるのでしょうが、福岡県弁は、足を地に着けて議論してきたこと、福岡出身の日弁連副会長も福岡の議論を受けて奮闘してきたこともよく分かる内容になっています。

福岡は法曹人口増に積極的
 「法曹人口について、日弁連が理事会、関連委員会等で議論を進める中、当会も常議員会をはじめとして様々な形で議論を行ったが、その基本的スタンスは、法曹人口増について各地の弁護士会では反対論・慎重論が相当数あったのに対し、一貫して『相当数の増員やむなし』というものであった。もちろん、当会の弁護士の中にも弁護士人口増に反対する者は一定数いたが、少数にとどまった。
 『三者協議』において法務省から『基本構想』として示された合格者数を回数制限付きの現状の500人から700人にする案(甲案、乙案、丙案)に関しても、当会は、人数については異論がなかった。700人以上でも構わないという意見も有力に主張された。
 当会が合格者増に賛成した理由は次のとおりである。①現在の検事不足は極めて深刻であるところ、合格者の増加によって任官者の増加が期待できる、②弁護士、裁判官についても国民の基本的人権の擁護と社会正義を実現するという使命を果たすうえで必要な人口が確保されているとは言えない、③弁護士が国民に対して未だ十分に身近な存在となりえていない、④裁判官不足による訴訟遅延、など」(168頁)

「法曹人口は不足」が共通認識
 「当会が法曹人口増に積極的にあったのは、当会の意見をリードする有力な会員の多くが、当時、当会の行っていた活動によって法曹人口は不足しているという共通認識をもつようになり、そうした意見が中堅・若手会員の間にも広がっていたからである。
 具体的には、第1に、当会が設置した法律相談センターの存在である。第2に、1990(平成2)年、大分県弁護士会とともに全国に先駆けて創設した当番弁護士制度である。逮捕・勾留された被疑者に接見に行く弁護士を毎日割り振らなければならないのだから、一定数の弁護士のいることが不可欠であった。当時の県下の弁護士数は443人。現在の3分の1である。さらに当初は、被疑者から要請があれば赴く制度であったが、やがて要請があって初めて赴くのではなく、新聞記事に載った刑事事件については全て弁護士が接見に行く必要があるのではないかという観点から、会が派遣要請を担当弁護士に行うものとする制度として構築し、一層多くの担当弁護士の確保が必要となっていった。
 弁護士過疎地解消の必要性を多くの会員が感じるようになり、そのためには弁護士数の増員が何よりも必要であるとの見解が当会内で共通認識となっていったのである。
 他の弁護士会の相当数が、弁護士増をもたらす法曹人口増は弁護士に経済的な痛手をもたらすということを最大の理由として反対するなか、当会の意見は視点を弁護士ではなく国民におく点で、その正当性は明らかであったと言うべきであった」(68~69頁)

日弁連における福岡県の存在感
 「こうした当会の認識は、当会出身の日弁連会長や同理事を通して日弁連にも影響を及ぼし、日弁連執行部内での意見をリード・後押ししていった。
 1994(平成6)年7月の日弁連理事会では、当会の国武会長兼日弁連理事は、当面漸次1000人まで増加させるべきであるという意見書を提出した。
 同年12月の日弁連臨時総会。総会に出席していた国武会長ほか当会の会員は、会員から提案された『800人』関連決議案につき、日弁連執行部提案の『改革案大綱』を骨抜きにするものとして、敢然と反対した。
 1995(平成7)年7月の日弁連理事会では日弁連執行部は、前年の関連決議の取扱いに苦慮していた。日弁連理事会の大勢は増員反対であった。こうした中、当会の福田玄祥会長兼日弁連理事と永尾廣久副会長兼日弁連理事は、法曹三者につき相当数増員させるよう努力すべきである、現行2年間の統一修習を前提に、当面5年間は毎年800人程度、2000(平成12)年度から1000人程度の修習を可能とするよう修習地の拡大、施設の充実等の準備に着手すべきである、等の意見を述べた。
 同年11月の日弁連臨時総会で土屋執行部は前年12月の臨時総会の『800人関連決議』の方針を変更し、1000人決議を提案した。同年8月頃、日弁連に政府の方から800人に固執した場合の行く末(弁護士自治・強制加入制度の見直し、弁護士法72条問題、等の議論の本格化)についての情報が入り、日弁連執行部が方針転換をした結果と言われている。当会の意見と同一の数字となったのである。臨時総会では、前年度の800人関連決議を是とする立場からの意見も強く出される中、当会の田邉宜克会員は、『法曹人口の増加は、司法改革を実現していくうえで最も必要な条件の一つであり、増員反対論は司法改革の流れに反する。成算のない玉砕論であってはならない』との意見を述べた。採決の結果、1000人とする執行部案が可決された」(69~70頁)

弁護士増がもたらしたもの
 「弁護士増は多くの弁護士に所得減少をもたらした。弁護士の経済的苦境を伝えるニュースに接した高校生やその家族は、・・・、弁護士になったとしても高い収入が得られる保証はない、となれば、多くの者は法学部に進学して、弁護士になろうという気持ちにはならないであろう。法曹志望者が減少した原因のひとつに、司法試験合格者増があると考えることは、間違いないよう思える。しかし、この点はさまざまな要因が重なっており、単純ではないというのも事実である」(76頁)
 「データを見る限り、弁護士が代理人に就任した事件数やその割合は、確実に増加したといえる。その限りで、『法の支配』が従前より広がったとは言いうる。
 また、2012(平成24)年に弁護士ゼロワン地区がいったんは、解消された。この点でも、『法の支配』は広がったと言いうる。弁護士ゼロワン地区がほぼ解消されたことは、国民にとってメリットであった」
 「事件数について言えば、劇的に増えているというわけではない。どのように考えたらいいのか」「・・・『人的基盤』が従前より格段に整備されたにもかかわらず、また審議会意見書で示された民事事件・行政事件改革にもかかわらず、事件数が増えていない点は、突き詰めれば『法の支配』が行き渡っていないということであり、大きな課題が残っていると言わねばならない」(78頁)

3000人増は妥当でなかったが・・・
 「3000人目標が妥当であったのか、法曹人口増のスピードはいかに、という問いに対しては、この目標が撤回されている以上、妥当ではなかった、ということになろう。しかし、これは結果論である。誰も当時適正な数字などわからなかったし、わかるはずもなかった。日弁連・弁護士会が自戒するとすれば、司法制度改革審議会の発足の前の1900年代に、穏便な法曹人口増について、国会議員、政府、労働団体、マスコミ、等々、すなわち国民の理解を得られなかったこと、および、その大きな要因は、大局的見地を欠き、弁護士エゴとして激しい批判に曝された1994(平成6)年12月の臨時総会における関連決議の採択にあり、日弁連に対する国民の不信を払拭し、弁護士自治等に対し、執拗に見直しを主張する外部からの協力な圧力に抗するために、日弁連が3000人を選択せざるを得ない状況を自ら作ってしまったことである。
 当会が1994(平成6)年の時点で合格者数を1000人まで増加させるべきであるという意見をまとめあげたのは、先見の明があったというべきである。今からみるとそれでもおとなしい数字であるが、当時の全国の弁護士会の動きからみると、当時の全国の弁護士会の動きからみると、圧倒的に少数であったなかでのその認識と決断は高く評価されるべきであり、その後の推移からすると、正しい判断であったと言える。惜しむらくは1994(平成6)年12月の日弁連
臨時総会関連決議を阻止できなかったことである」(79~80頁)

佐藤幸治氏と3000人
 前田豊弁護士が3000人の仕掛け人が佐藤幸治であったことを明らかにしている。
 「佐藤幸治氏が行政改革会議委員と司法制度改革審議会会長を兼ねたことはあまり知られていない。佐藤幸治氏は、行政改革会議の企画・制度問題小委員会主査であり、行政改革会議の最終報告の『行政改革の理念と目標』及び『内閣機能の強化』の起草者である。佐藤幸治氏は、行政改革会議の最終報告と司法制度改革審議会の意見書の両方を起草している。
 行政改革会議の最終報告と司法制度改革審議会の意見書に共通するキーワードは、『この国のかたち』、『公共性の空間』、『統治主体・統治客体』、『人権又は基本的人権』、『日本国憲法』、『法の支配』、『規制緩和』、『国際社会』などである。これは行政改革会議の最終報告と、司法制度改革審議会の意見書が共通のコンセプトによって書かれたことを示している。この点からも、行政改革会議の最終報告にもとづいて、司法制度改革審議会の意見書が書かれたことは明らかである」(85頁)
 「佐藤幸治氏が、司法制度改革審議会の初めから法曹人口は最低限3000人の合格者を送り出せるぐらいの体制を早急に作る必要があるとして審議会に臨んだことは広く知られていることではない。
 佐藤幸治氏は、3000人と合意形成することは、あらかじめ審議会の樋渡利次事務局長と相談し、橋本元総理はじめ行政改革以来のごく少数の関係者には集中審議で3000人を目指したいと伝えていた。そして、真議会でとにかく3000人を目指そう、そうならないと、あとの改革がおぼつかないから、ある意味では辞表をふところに入れて集中審議にのぞんだという。
 佐藤幸治氏は、青山善充東大副学長や中坊公平氏とともに司法試験合格者3000人の合意を形成させていったと考えられる。審議会の委員には合格者3000人を主張する委員は一人もいなかった。佐藤幸治氏は、合格者3000人の合意を形成するため、どのような方策をとったのだろうか。
 1999(平成11)年11月、司法試験制度改革協議会で合格者3000人を主張していた青山善充東大副学長を審議会に招いて、レクチャーを受けた。
 中坊公平氏は、同年4月、小渕内閣の内閣特別顧問に就任した。中坊公平氏は、同年8月、司法制度改革審議会における集中審議第一日目で合格者3000人を主張した」(86頁)
 弁護士会(日弁連)は、この3000人の流れに乗らざるをえなかったわけですが、それは作間弁護士が指摘しているとおり、マスコミ等の大合唱があったこと、弁護士自治・強制加入制度への強烈な揺さぶりがかけられていたことによるものです。弁護士会が主体的な判断のもとで3000人を選択した(できた)わけではなかったと思い返すことが無意味なこととは思えません。

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2021年4月22日

ルポ入管

社会


(霧山昴)
著者 平野 雄吾 、 出版 ちくま新書

埼玉県川口市は、かつて鋳物(いもの)産業で栄え、吉永小百合主演の映画『キューポラのある街』(1962年)の舞台となった。現在は、東京のベッドタウンとして、人口60万人の街。ここに3万9000人の外国人が住む。これは東京都新宿区、江戸川区に続く全国3位の多さだ。そして、2000人ほどのクルド人が住んでいる。
在留資格のない「仮放免」の外国人は、通常、1ヶ月に1回、入管当局に出頭する。そのとき仮放免の許可が延長されたら、そのまま社会生活を送ることができるが、不許可になったら入管施設に収容される。多くの場合、判断の理由は示されない。
入管施設の全収容者数の半分超にあたる680人が半年をこえる長期収容者だ。3年とか4年という収容者もいて、8年も収容されているイラン人がいる。
出口の見えない収容のため精神を病む外国人も多く、2018年4月、インド人男性が自殺した。自傷行為や自殺未遂も相次いでいる。入管当局によると、2017年には、合計44件の自殺未遂が発生した。
東日本センターは茨城県牛久市にある。収容定員は700人。入管庁は、強制退去を命じられた外国人を、東京や大阪の地方入国管理局のほか、東日本センターや大村センターなど、計17ヶ所に一時的に収容する。
入管施設では、通常、集団の居室に入れられ、1日5~6時間の自由時間を除いて、居室内での生活を強いられる。外部との連絡はテレホンカードを利用した電話とアクリル板で分断された部屋での1回30分間の面会のみ。刑務所と違って、作業をさせられることはない。
仮放免許可が取り消され、再収容された外国人は、2017年に537人、その前、2012年に121人。4.4倍に増えている。
収容期間が長期化し、半年以上も収容されている外国人の割合が30%(335人)から50%(713人)に急増した。
入管当局によると、2008年に160人だった強制送還者は、2020年3月には、チャーター機をつかって、たとえばスリランカに44人も強制送還した。入管当局は航空会社と協議(?)したうえで、チャーター機による強制送還をすすめている。数千万円の予算をかける。
入管施設には常勤の医師はいない(2019年12月の時点)、非常勤医師が対応するだけ。
2018年6月、大阪の入管で、最大6人用の居室に収容者17人が入ったまま、職員が24時間以上も施錠を続けた。
大村センターでは、2019年6月ハンストが原因で40代のナイジェリア人男性が一人亡くなった。入管施設内で、タバコを忍び込ませたり、タバコ1本5000円で売買されている。
非正規滞在者の大部分を占める不法残留者は29万800人ほど(1993年)にピークを迎えたあとは減少傾向。2004年には、21万9000人となった。
入管当局は、2009年以降、在特許可の厳格化に方針転換する。2004年に1万3239人だった在特許可人数は、2018年にはわずか137人になった。
コロナ禍の前、2019年の訪日外国人は3188万人だった。在留外国人は283万人。過去最高を記録した。入管当局は、「広範な裁量権」にこだわってきた。強大な権限を手放したくないのだ。
日本の難民認定は1%未満。これは、実際には受け入れたくないというホンネを反映したもの。難民申請者は、2010年の1202人が2015年に7586人となり、2017年には2万人近くへ16倍となった。日本の難民認定率はG7諸国に比べて格段に低い。日本の認定者は42人、人口10万人あたりわずか0.03人。ドイツ68人、カナダ46人、フランス45人、イギリス18人、アメリカとイタリアは11人。
裁判で、裁判所は国の主張を一貫して追認している。全国で926件の提訴があるなかで(1977~2018年)、地裁で勝訴したのが69件、高裁の勝訴は31件。
日本で入管職員は名札をつけていない。番号札をつけている。日本では、名前をなくすことで、組織の一部になって、責任を負う立場だと自覚しなくなる。大変勉強になる本でした。
(2020年10月刊。税込1034円)

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2021年4月23日

学問の自由が危ない

社会


(霧山昴)
著者 佐藤 学、上野 千鶴子、内田 樹 、 出版 晶文社

菅(スガ)内閣はコロナ禍対策は、いつまでたっても無為・無策、もうどうしようもない無能政権としか言いようがありません。中途半端な経済対策優先で、PCR検査もワクチン確保も不十分なまま。経済的補償もせず、国民に自粛を強制し、首相官邸では酒盛りするだなんて、まるで狂っています。そして、アベのマスクに引き続いて「別人格」の息子を使った接待攻勢で国の政策を歪めても、「民間人」なので、国会への証人喚問なし(ええっ、籠池氏も民間人でしたが...?)。
そして、日本学術会議の任命拒否問題は、そのまま逃げ切ろうとしています。年間10億円も(!)出しているので、政府に任免権があるのは当然...。アベノマスクは400億円ものムダづかいしたのに...、内閣官房機密費は年間12億円が領収書不要で使い放題なのに...。おかしなことが、まるでそのまままかりとおるという変な日本社会です。
日本学術会議会員として推薦された6人の学者の任命を菅首相は拒否した(2020年10月1日)。これは「クーデタ」だ。現代のクーデタでは、軍隊は出動しないし、戒厳令がしかれるわけでもない。奇襲ではあるが、変化は緩やかに進行する。しかし、本質は同じ。秘密のうちに計画して奇襲の対象を1ヶ所に定め、人々は傍観者にされ、事件の真相が分かったときには国家と社会が覆されている。クーデタの成功の可否は、奇襲の対象をどこに設定するかにある。菅首相が対象としたのは日本学術会議だった。
この任命拒否に対しては、800をこえる学会200をこえる団体が抗議声明を公表した。科学者がこれほど大規模に連帯したのは、歴史上初めてのこと。
日本学術会議は、2008年以降、答申を一つも出していない。なぜか...。政府が諮問(しもん)しないから。日本学術会議は、政府からの諮問がなくても自発的に321もの提言・勧告を発出している。つまり、年間10億円の予算以上の働きはしているのです。そして、会員のほとんどは、手弁当で、学問の将来のために献身している。
日本国民の少なからぬ人々が学術会議の任命拒否問題の深刻さを感じていない。
この状況をどうしたら克服できるか...。ただ、警鐘を鳴らすだけではダメ。理由と根拠をあげて納得してもらう。そのとき、譲らない。妥協しないことが肝要。言葉をかみくだいて、広く一般の人に「納得して」もらえるのか...、にかかっている。
この大切な問題を風化させてはいけません。タイムリーな本です。
(2021年1月刊。税込1870円)

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2021年4月24日

弁護士になりたいあなたへⅢ

司法


(霧山昴)
著者 青法協弁学合同部会 、 出版 花伝社

青年弁護士たちが、これから弁護士を目ざしてみようかなと少しでも考えている人に向けて、自分のやっていること、どうして弁護士になったのか、熱く語っている本です。
登場する弁護士は60期から71期までの10人。弁護団に入って活動している弁護士は、その事件の意義と自分の立ち位置を紹介しています。たとえば、原発問題、消費者問題。
仕事のコツはリズムづくりと飲みにケーション。
弁護士になる人は、自分で自分を管理できる能力が必要。自分で時間をコントロールできない人は、この業界にいると、体調を崩してしまうかもしれない。
弁護士にとって時間のつかい方は、とても大切です。いつもいつも気を張りつめておくわけにはいきません。どこかで、ふっと気を抜く必要があります。
「お金はあとからついてくる」という考えは、今は通じないと厳しく批判されています。もらえるところからはもらって、社会に還元するところはする。このように意識してコントロールすべきだというのです。この点、私にも異論はありません。
弁護士の仕事を天職だと思い、毎日、楽しんでやれていると言い切る喜久山大貴弁護士(69期)には、強く共感します。そうです。仕事は楽しみながら、少し余裕をもって毎日したいものです。
お笑い芸人になれたらいいなと思っている橋本祐樹弁護士(64期)は、ライブイベントで替え歌を披露しています。すごいです。
もう一人、藤塚雄大弁護士(横浜・68期)も、弁護士芸人としても活動しているとのこと。これまた、すごいですね。うらやましいです。ステージやユーチューブで披露しています。ネタを考え、電車のなかでもぶつぶつ練習しているそうです。
いやはや、人権派弁護士って、こんなに幅が広いんですね。今では企業法務分野にばかり目が向いている学生が多いような気がしますが、やはり世の中は広いのです。困っている大勢の人々に手を差しのべる弁護士がもっともっと増えてほしいと思わせる、元気のでる本です。
(2020年8月刊。税込1650円)

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2021年4月25日

森の記憶

社会


(霧山昴)
著者 柴垣 文子 、 出版 新日本出版社

定年すぎた夫婦。子どもたちは結婚して家を出て、孫たちが遊びに来る。しかし、その両親はどうやら不仲らしい。思春期にかかった孫娘は表情に暗さがあり、屈託なかった小学生の男の子(孫)も口数が少なくなった。親は子どもの夫婦関係に口を出してはいけない。そう思っていても、ついつい口を出してしまう。
教員夫婦だったが、妻のほうは病気がちで早く退職して専業主婦になって、モノカキを始めた。文章を書いて、その状況描写に読者をひきずり込むためには、草花の名前や鳥の名前を知ったうえで、その違いにうんちくを傾ける必要があります。この本にも、たくさんの花、植物そして鳥の名前が登場します。
タラ、コミアブラ、コゴミ、ユキノシタ、ソヨゴそして野甘草。いずれも、タラを除いて、私には分かりません。タラの芽だけは見れば分かります。
ハッチョウトンボ、コゲラ、イカル、カワセミ、ヒヨドリ、ルリビタキ、オオタカ、コガモ、小サギ、カイツブリ、ノスリ、ヒドリガチ。イカルの声は優しい、なんて書かれても具体的なイメージはつかめませんが、ほんわかとした気分にはなります...。
そして、夫がお腹の調子がよくないと言っていたのが、病院に行くと、大腸ガンの末期だと判明する。すると、病院での光景、そして会話が展開していく。
小説というのは、こうやって情景を描写しながら書いていくものなんだね、そう思いながら、モノカキ志向の私は、頁をくっていきました。
自然との関わりあい、そして、社会といかに関わっていくか、病気になっても積極的に生きていこうとする夫のけなげな姿に心が打たれます。
同年輩、そして少し年下の知人にも病気とたたかいつつ亡くなった人が、もう何人もいます。70歳すぎたら、いつ、何が起きても不思議ではありません。いまも突然ギックリ腰のようになってしまいました。昨年は、椎間板ヘルニアで急に歩行困難になりました。
無理なく、でも、自分の思うように生きていきたい。そして孫たちとも一緒に遊んでいたい。そんな思いで毎日を大切にして生きています。しみじみと、そんな気にさせる本でした。
(2020年12月刊。税込2530円)

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2021年4月26日

マンガ万歳

人間


(霧山昴)
著者 矢口 高雄 、 出版 秋田魁新報社

「釣りキチ三平」で有名なマンガ家が自分の生い立ちからマンガ家として成功するまでの人生を語っています。手塚治虫と同じく、私の大好きなマンガ家です。この本の初めにカラー図版で紹介された原画にも圧倒されます。ともかく繊細ですし、大自然のなかの人物(生物)が生き生き輝いています。
生まれたのは奥羽山脈の貧しい農家の長男。小作人のせがれですから、本当は高校にもいけないほどの家庭に育ちました。
カジカの夜突きというのを母親と一緒に行ったというのにも驚きました。お母さんがカジカの夜突きが大好きだったというのです。このお母さんは長生きして96歳で亡くなりましたが、教育熱心で、勉強するなら農作業は手伝わなくていいと言ってくれたのだそうです。偉い母親です。
そして、中学校では優等生だった著者は、高校に行かずに就職するつもりでいたところ、中学校の担任教師が自宅を訪問して、両親に「高校に行かせてほしい」と頼み込んだというのです。父親が「学問が何の足しになるのか。うちにそんなお金はない」と拒絶し、夜まで話し合いが続いたところで、母親がこう言ったのです。
「父さん、おらたちが死に物狂いで働けば、何とかなるべ」
いっや、すごい、すごいです。母親も担任教師も、どちらもです。
高校に入ったら、夏は自転車で25キロの道を通学。さすがに冬は下宿。下宿代はクズの葉を売ったお金で支払う。集落から高校に行ったのは第1号で、村の大人から「高校に行って天皇陛下になるつもりか」とひやかされたとのこと。
そして、高校を卒業して地元の銀行に入ります。この12年間の銀行員生活もあとで「9で割れ」というマンガになっています。
支店長が著者にこう言った。
「きみのマンガがうまいのは認める。でも、そんなものにうつつを抜かすようでは、ろくなもんにならない」
面と向かって言われ、著者は心底から怒った。
「そんなもの?それならプロになってマンガで勝負してみようじゃないか」
銀行を依願退職したとき、著者は31歳。
妻は、「やってみなさいよ。ただし、子どもたちや私を路頭に迷わすことは絶対しないでね」と、あっさり同意した。これにも驚きますね。ただ、著者はずっとマンガを描いていました。その姿を見ていたからでしょうね。
「釣りキチ三平」の連載が「少年マガジン」で始まったのは1973年(昭和48年)のこと。私は司法修習生でした。もうマンガは卒業した気分ですから、たまにしか読んでいません。
毎日15時間以上、机にかじりついてマンガを描いていたとのこと。10年間、連載は続いた。これまた、すごいですね。
中学1年生の国語の教科書にエッセー「カジカの夜突き」が載り、カラーのイラストもついているとのこと。マンガはすっかり教育的なものとして定着しているわけですよね...。
10年間も続いた「釣りキチ三平」は累計で5千万部も売れたというから、すごいものです。
漫画家生活50年。72歳になって病気もし、筋力をなくして2012年に創作活動は廃業。
「横手市増田まんが美術館」には著者の原画4万2千枚があるそうです。これはぜひぜひ見学に行きたいものです。そのためには、コロナ禍が収束してくれなければいけません。
81歳で2020年11月に亡くなった著者をしのぶ絶好の本です。
(2020年12月刊。税込1430円)

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2021年4月27日

対米従属の構造

社会


(霧山昴)
著者 古関 彰一 、 出版 みすず書房

読みすすめるほどに怒りが湧き立ってくる本です。もちろん、著者に対して、ではありません。日本の為政者と、それを無関心と棄権によって許している多くの国民に対して、です。
有名なアメリカの歴史家ジョン・ダウアーは、日本をアメリカの「属国」とみていた。ワシントンの基本的な戦略および外交政策に反対しないという意味で日本政府は従属的性格を有する。
戦後のアメリカは、植民地主義帝国ではなく、間接支配を特徴とした。親米政権とそれを担うエリート層を大切にする。
日本の領土は、日本政府を通じて、その全土がアメリカの「使用」の対象になっている。
ところが、日本人の多くは、「日本は従属国家だ」と正面切って言われると、抵抗を感じてしまう。そうなんですよね。そして、日頃ブツクサ言うくせに、投票所に足を運ぼうとはしません。
日米安保条約を日本国民の圧倒的多数が支持している。しかし、仮に日米安保がなくなったら、日本はどうなるのだろうと誰も考えない。そもそも、「仮に...」という発想がない。
非常時において、司令官は日本人ではなく、アメリカ人がなる。アメリカ人の司令官が日本軍を指揮するという本質は変わっていない。
朝鮮半島有事の際には、朝鮮戦線での米軍の指揮は米空軍が、日本防衛の指揮は在日アメリカ軍が指揮することになっている。
PKOについて、日本政府は「平和維持活動」と訳している。しかし、本当は「平和維持作戦」とすべきものだ。
平成の30年間は、日本にとって「平成は有事の時代」であった。これは、有事法が雨後の筍(たけのこ)のように誕生した1990年代以降の日本の状況である。
「平成」とは、新自由主義改革のなかで、「公社」の民営化、選挙制度改革、地方自治体の合併、司法制度改革(裁判員裁判、法科大学院)などの大改革がすすんだ時代だ。
そして、1989年に世界トップの座にあった日本の国際競争力は、新自由主義改革と有事法制下の軍事力の強化によって、30年後には30位へと転落した(2019年)。
ここでいう「国際競争力」とは、失業率、社会的結束度合い、腐敗、GDP、教育支出などの指標から算出した結果だ。したがって、平成とは、あらゆる面で「失われた30年」でもあった。
陸上自衛隊には、5方面隊があり、「分割」されていた。ところが、2018年3月に5方面隊すべてを統合する「陸上総隊」が新設され、防衛大臣の直轄となった。そして、この陸上総隊のなかに「日米共同部」が設けられた。それはアメリカ軍のキャンプ座間のなかにある。日米共同部とは対米従属を絵に描いたような組織だ。究極の「従属」形態の一つだ。
ドイツ・イタリアは施設整備費、従業員労務費、光熱水費のすべてをアメリカ軍に負担させている。韓国は光熱水費のみをアメリカ軍に負担させている。ところが、日本は、そのすべてを自らが負担し、アメリカ軍には負担させていない。
そこで、アメリカ軍の駐留経費を負担している額は、ドイツ16億ドル、韓国8億ドル、イタリア4億ドルに対して、日本は44億ドルと突出して高い。日本におけるアメリカ軍の駐留経費の75%は日本が負担している。
教育・福祉予算については、いえ司法予算についても、ひたすら削減を強いている日本政府は、アメリカ軍に対しては、どこまでもゲタの雪で、文句ひとつ言おうともしません。情けないかぎりです。
日本は、他国の追随を許さない、自発的にして傑出した対米従属国家というほかない。ホント、嫌になりますよね...。
日本人の核への無知、無頓着、無関心という指摘がありますが、日本の現実についても同じように言えますよね、残念ながら...。みなさん、ぜひ投票所に足を運んで、きちんと意思表示しましょう。私からの切なるお願いです。
(2020年12月刊。税込3960円)

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2021年4月28日

「弁護士の平成」(会報30号)

司法


(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会

 今回は法律相談センターの設立とその後の展開、そして現状について、会報30号の読みどころ(勘所)を紹介します。

街中(まちなか)の天神センター
 いまでは天神の繁華街に弁護士会の法律相談センターがあっても何ら不思議なことではなく、当然と受けとめられています。ところが実は、1985(昭和60)年に天神センターを開設したのは弁護士会として大変勇気のいる決断でした。もちろん、たちまち市民に広く利用され、すっかり定着しています。市民に喜ばれると同時に、弁護士にとっても(とりわけ若手にとって)、事件を受任できる貴重な場となりました。
 残念なことに、最近は弁護士会による相談件数は減少傾向にあります。
 「センター全体の相談件数は、2007(平成19)年度に2万件を超えたのをピークに(総件数2万787件、うち一般相談9522件、多重債務相談1万1265件)、徐々に減少し、2014(平成26)年度には1万件を割り込んだ(総件数9677件、うち一般相談7737件、多重債務相談1940件)。2016(平成28)年度から2019(令和元)年度は、8000台後半を推移してい」(133頁)ます。
 この「相談件数減少の要因としては、第一に、多重債務相談(過払含む)の減少が大きい。第二に、2000(平成12)年10月の弁護士広告の解禁に伴い、各法律事務所が徐々に広告を充実させてきたことや、2006(平成18)年からの新司法試験開始にともない、弁護士数が大幅に増加してきたことにより、相談者が、センターではなく、直接、各法律事務所に相談するようになったことが考えられる。第三に、法テラスが、2006年10月から業務を開始し、相談者が、法テラスで相談をするようになったことも要因と考えられ」(同)るとしています。

チケット制・無料相談
 弁護士会は、天神センターのほか、弁護士会館でも法律相談を受けていますが、あわせて自治体の窓口で相談を受ける派遣相談も実施しています。特筆すべきなのは、チケット制の法律相談です。
 「自治体との連携方法には、大別すると、派遣相談とチケット制法律相談の2種類ある。・・・自治体の市民相談窓口と法律相談センターを結びつけるチケット制を導入している。
 チケット制とは、自治体が当会との間で有償の法律相談委託契約を締結し、その住民が、自治体の相談窓口で上記委託契約に基づき発行されるチケット(弁護士会無料相談紹介状)を受け取り、最寄りの法律相談センターに提出することで、無料で相談が受けられるようにするもの。近時は、自治体のみならず、その関連団体との間でもチケット制が導入されている。
 1955(平成7)年、最初に上記制度の委託契約を締結した鞍手郡宮田町(現・宮若市)にちなんで『宮田町方式』と呼称されることもある。
 2020(令和2)年3月末現在、全県で24の自治体と関連団体との間で、チケット制が導入されている」(129~130頁)
 また、「分野を限定して、無料相談を導入している。チケット制による無料相談も含めると、福岡部会の法律相談センターにおける相談の約72%が無料相談となっている。・・・当会は、相談料を全面無料とはせず、原則法律相談が有償であるとの前提に立ち、必要に応じて個別に議論した上で、無料化する政策をとっている。
 時宜に応じて社会的に必要とされる無料相談を実施することにより、相談件数の増加につながっており、むしろ司法アクセスの充実のためには有意義であると評価している。今後も全面無料化は実施せず、一般相談は有料のまま法律相談センターを運営していく方針である」(126頁)としています。

独立採算・一般会計への繰入れ
 当会の法律相談センターは、とりわけ天神センターが弁護士会活動の前進に大きく寄与してきたことに大きな特徴があります。
 「特別会計の主な収入は、法律相談センターでの相談を受任の契機としたときの事務負担金、有料相談収入、自治体等からの委託相談収入、日弁連のひまわり基金等からの補助金収入である。
 各部会のセンター特別会計は、福岡県弁護士会費を収入源とする一般会計からの繰入れがなされていない。逆に、各センター特別会計は、県弁の一般会計に繰入れを行っている。2019年度の実績は、3812万円(天神)、1161万円(北九州)、342万円(久留米)、203万円(飯塚)である。天神からの繰入れの内訳は、人件費が2800万円、広報活動費が480万円等となっている。また、北九州は北九州部会の会館建設特別会計に120万円を、久留米は筑後部会の一般会計に400万円を繰り入れている。
 法律相談センターは、そのセンターの賃借料や会員の相談報酬の運営費用を、センターの法律相談事業にもとづく収入でまかなっており、会員の弁護士会会費をその財源とはしておらず、自立採算で運営されている。
 なお、このような一般会計からの繰り入れがない体制を取っている単位会は全国的には多くはない」(126頁)

久留米での法相センターの開設
 久留米の裁判所の隣に大きなマンション(パークノヴァ)が建ち、そこに弁護士会(久留米部会。当時)は法律相談センターを開設することになりました。「筑後部会の歩み」(439頁~)は、次のように記述しています。
 「市民向けの有料法律相談を実施することに対しては、部会員から、弁護士が市役所の無料相談とは別に有料の法律相談をするのは、個々の弁護士と利害が相反し、弁護士の経営権を侵害するのではないか、との反対意見が出された。また、弁護士会の有料相談に市民にニーズがあるか疑問があるとの意見も出された。ランニングコストの支出を不安視する意見も出された。
 そこで、部会において、有料法律相談開設に関する丁寧な議論を重ね、また、収支に関する手堅いシュミレーションを行うことにより、パークノヴァを取得して、久留米に法律相談センターを開設することへの合意形成をすすめていった。部会ならではの丁寧な議論を経て、1992(平成4)年6月29日の部会集会にて購入・開設が承認された」(442頁)
 「オープンして3ヶ月間の実績をみると、相談者は1月3人を上回り、1日47人。必要経費を差し引いても収益があがり、上々のスタートとなった。
 その後も相談件数は年500件台から2008(平成20)年には2200件と大きく増え、事務手数料収入は順調に伸びていった。このように相談件数も順調に増え、事務手数料は大きく伸びて部会財政を支えると同時に、部会員の経営安定に大きく寄与した」(444頁)
 ここで、「丁寧な議論」というのは、いったい何だったのか、第一稿がシュミレーションとあわせて詳しいので紹介します。
 「天神センターが1985(昭和60)年11月にスタートしていて、このころは天神センターはすっかり軌道に乗っていたから、1992年度の森竹彦会長以下の県弁執行部は法律相談センターの全県展開を志向していた。そのとき、福岡地裁久留米支部に隣接して大きなマンション(パークノヴァ)が建つことになった。そこに弁護士会が一室を購入して久留米にも天神センターのような市民向けの有料法律相談の場を確保しようという話がもちあがった。
 これに対しては、長老会員の一部に強烈な拒否反応があった。弁護士が市役所の無料相談とは別に有料の法律相談をするのは、個々の弁護士と利害が相反し、弁護士の経営権を侵害するもの、弁護士の領域を荒らすものだという理念的な反発があった。また、弁護士会の有料相談にそれほど市民のニーズがあるとは思えないから、失敗するのは必至だ。失敗したとき、その損害は誰がいったい弁償するのか、久留米部会には賠償する資力はない。部会長として責任とれるのかと厳しく追及する長老会員がいた。1日1人か2人しか相談者がない状態が長期に続き、ランニングコストも出なかったり、年間300万円もの赤字が出たら、マンションの維持は無理という意見も出された。
 そこで、法律相談センターの開設を推進する側は、県弁執行部の強力な応援を得て天神センターの成功している実績をふまえて、理念的に個々の弁護士の経営に資するものであること、これらをあわせると、まちがいなく採算があうことのシュミレーションを重ねていった。
 パークノヴァについては、8.3坪(1440万円)と14.42坪(2310万円)の2部屋の選択が可能だった。そして、控室がある14.2坪を選択することになった。すると、諸費用を考えて2500万円を必要とする。当時の久留米部会には、そのような資産はまったくない。では、どうするか。県弁執行部は天神センターの運営実績に絶対の自信をもっていたことから、当会が天神センター会計から拠出した2500万円を久留米部会に『貸し付ける』ことにしたらよいということになった。そこで永尾部会長名で『確認書』という1992(平成4)年8月11日付の借用証が作成・差し入れられた。
 シュミレーションは手堅くやる必要がある。1日3件、月に66件、そのうちの1割の6.6件を弁護士が受任するとして、天神センターの実績から弁護士会が個々の受任弁護士から受けとる事務手数料を1件2万8000円とすると、収入合計は51万4800円となる。これに対して担当弁護士に支払う日当などで48万4000円の支出があるから、差引の収益は3万8000円となる。福岡部会員が相談を担当するときの旅費は福岡部会で負担するなどの工夫も考えられ、月13万円の『収益』予想で落ち着いた。なんといっても天神センターに実績があることは重みがある。次第に、長老会員の反発・心配の声は小さくなっていった。
 パークノヴァを取得して、久留米に法律相談センターを開設することについては、1992年5月より正式に議論を開始し、6月29日の部会集会で購入・開設が承認された」
 この第一稿がボツとされたのは、2500万円を借り受けたときの「確認書」が、果たして借用証なのか、また2500万円は完済されたのかという議論が以前から続いていて、疑問が解消されたとは言えないことから、「寝た子を起こさない」という「配慮」からでした。
 しかし、パークノヴァ購入資金として2500万円を久留米部会が当会から「借金」したこと、そして「完済」したかは別として、毎年「返済」していったことは部会の予算・決算にも明記されている、間違いない事実です。まったく秘密の話ではありません。臭いものにフタをするようにして、あったことをなかったかのようにしてしまう発想はいただけません(この点については、会誌の450頁に小さく注記されてはいます)。

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2021年4月29日

デカメロン2020

イタリア


(霧山昴)
著者 イタリアの若者たち 、 出版 方丈社

2020年3月、イタリアに全土封鎖が発令された。イタリアでは、毎日、1000人もの人々がコロナ禍のため死んでいった。大勢の若者が自宅に足留めをくらった。
この本は、イタリアの若者たちが、そのとき何をしていたのか、何を考えていたのかを教えてくれます。
壁に囲まれていた生活もしばらくすると、部屋の片付けや勉強、絵を描き、歌をうたったり本を読んだりを、ひととおりやり尽くしてしまう。ありあまる時間におぼれそうになる。そこでみんなが一斉に始めたのは料理だった。手軽なレトルトや冷凍食品には頼らず、生地からつくるパスタやピッツァ、お菓子。外出禁止になってから、小麦粉は前年度比で2倍の売り上げ。こもりきりの単調な生活で、三度の食事は重要なイベントになった。
バリカンで自分の髪をカットしてくれる高校生の姉に、小学生の弟は、「失敗しても気にしないで。髪は、また生えてくるから」と礼を言う。
みんながバルコニーに出て歌った。それは単にイタリア人が陽気だからではない。独りにさせない。隣人を気づかい、安否を確認しあう。泣かないために笑うから、なのだ。
「生きていたら、経済のどん底からも必ず立ち直れる。物事の重要さの順位を肝に銘じ、弱い人を守り、他人(ひと)への責任を果たしましょう」
これがイタリアの大統領と首相の言葉です。日本のスガ首相は何を言ったでしょうか。自粛、自立、自助。これだけ。政府は何もしない。PCR検査も、ワクチンの確保も、まるで他人事(ひとごと)。そんなスガ首相をかばう日本人がいるのが私には信じられません。誰がやったって同じ。彼なりにがんばっている...。とんでもありません。軍事予算は増やす一方、GOTOトラベルのための1兆円のお金は確保したまま、オリンピック中止を宣言しない。ここまで来ると、スガ首相による人災と言うべきです。
死ぬべき人は死ね。そんな冷たい日本の政治に怒らない日本人は、ホントにお人好しすぎます。もっと怒りを。いま私が叫びたい言葉です。
イタリア万才の本ではありません。もちろん、日本万才なんていうこともありません。みんなが、やるべきことをやらないと、いのちも国も守れません。軍事予算を増やし、最新鋭の武器を確保しても、守るべき人間がいなくてどうしますか...。
(2020年12月刊。税込2750円)

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2021年4月30日

二二八事件の真相と移行期正義

台湾


(霧山昴)
著者 陳 儀深 ・ 薛 化元 、 出版 風媒社

韓国に済州島四・三事件があるように、台湾には二・二八事件があります。台湾現代史にのこる深い傷です。
事件が起きたのは1947(昭和22)年2月のこと。2月27日の晩、台北市で闇タバコの取り締まりと傷害事件が起きた。民衆の積年の恨みが刺激された。2日目の2月28日、多くの民衆が抗議と請願のため集まったところ、軍警による機銃掃射にあり、暴動が広まっていた。民衆は「処理委員会」をつくって政治的交渉をはじめ、他方、各地の民間勢力が銃器で武装して武力によって政治改革要求を実現しようとした。これに対して、陳儀政府は表面上には妥協して譲歩していたが、裏では国民政府に援軍を要請していた。3月8日、9日と援軍が到着し、国民政府はおぞましい鎮圧と虐殺をはじめ、5月16日の戒厳令の解除まで続いた。
これによる台湾人の被害は、1万8000人から2万8000人にものぼるとみられている。しかも、エリート層がやられたことの打撃は大きい。
国民党政府の公式見解は、「悪党集団による扇動」、台湾籍日本兵とチンピラの暴動への参加、日本の奴隷化教育を受けた残党、さらに台湾の独立、台湾人による台湾統治という偏狭な考えによって引きおこされた暴動というもの。
二二八事件の最中に台湾にいた中国共産党の秘密工作員は100人もおらず、事件を扇動し、主導する力をもっていなかった。そして、事件発生前、台湾には1万5千人から2万人の兵力がいたので、民衆の協議活動は鎮圧できたはずだった。
台湾省最高軍政首長は陳儀。すぐに蒋介石に報告し、その指示をあおいでいた。
事件直後の調査報告書には、台湾省政府に対する世論の不満、当時の不適切な処置、紳士階層による助長が、事件拡大原因の真実。陰謀を企てる者や共産党の画策というのは、あとから加えられたレトリックにすぎない、とするものであった。
真の原因は、政治腐敗と産業破壊の問題、そして、軍隊と警察・憲兵の特務が権威と武力を濫用したことから事件が拡大した。
省政府職員と警察がみだりに殺人し、民衆を殴打して殺人した。軍隊と警察は法をねじまげ、権威をふりかざして過度の惨殺を行ったが、その対象はヤクザであり、共産党員だったと名目を変えた。
台湾の県市長17人のうち、2人が半山(台湾省の人で中国大陸に渡っていたが、戦後、台湾に戻ってきた人)、そのほか15人は外省人(台湾省でない省の出身者)。そのうち8人は福建省出身(省の長官の陳儀は福建省出身)、また、日本留学の経験者が8人いた。少なからずの県長が汚職にまみれていた。本省人(台湾籍の人々)は外省人を「阿山」と蔑称していた。
武力鎮圧とともに、台湾の主要新聞社は閉鎖処分を受け、その重要人物が逮捕・殺害された。「報道の自由」はまったく保障されなくなった。台湾のエリートは報道の自由とあわせてメディアの主導権を失った。
台湾キリスト長老教会は二二八事件の犠牲者とその遺族に対して謝罪した(1990年2月18日)。二二八事件当時、教会が援助の手を差しのべず、思いやりの心が確実に足りなかったこと、怖さに勝てなかったことについて、公式に謝罪した。
二二八事件の責任は蒋介石、陳儀などの4人にあるとされたが、蒋介石の責任は免除しようという動きもあった。台湾でも二二八事件を公式に見直そうという動きがあり、本書ができあがったのでした。
(2021年2月刊。税込3300円)

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