弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

朝鮮・韓国

2024年1月12日

続・韓国カルチャー


(霧山昴)
著者 伊東 順子 、 出版 集英社新書

 私は韓国映画は比較的よくみているほうだと思います。といっても、Netflixは全然みていません。みるのは、あくまで映画館で上映される映画です。テレビでドラマをみることはありませんし、みるつもりもありません。韓流ドラマもみていません。こちらは、好みの問題です。
 映画を通して韓国社会の実像・実際を知ることができるというのは本当だと私も思います。
 巨大な高層マンション団地の真ん中にある小学校には校門が4つあり、どの校門を利用するかで、その子の家族のステイタスが分かる。
 韓国では、近年、25階建て以上の高層マンション団地が続々と誕生していて、今や韓国人の6割がアパート暮らし。日本に多い5階建の小型マンションは「ビラ」と呼ばれる。
 韓国人にとって家は、住むところではなく、投機の対象。韓国の富裕層の多くが、不動産投機で形成されている。農村地帯でも人々は一軒家ではなく、マンションで暮らすことを望む。韓国は「不動産階級社会」と言われるほど、住まいによる階層の序列化が見える形で進んだ。
 富裕層が江南に住むようになったのは「子どもの教育」に原因がある。政府が15校もの名門高校を半ば強制的に江南に移転させ、「江南は教育環境のよいエリア」という定評ができあがった。しかも、名門中学も江南に移転し、よい進学塾まで密集するようになった。
実際に暮らしてみると、韓国の大型マンション暮らしは快適。効率化、最適化という点で、「タワマン共和国」は理想的。
 同じマンションに暮らす人々の生活スタイルも似ている。高級団地には高級車が並び、庶民向け団地には庶民の車が並んでいる。それはそれで居心地がいいだろう。
 韓国の宗教人口は、1位がプロテスタントで970万人、2位が仏教で760万人、3位はカトリック教で390万人。
 保守系の大統領はプロテスタントで、革新系の金大中、廬武鉉、そして文在寅はカトリックだった。
 統一協会の信者はわずか2万人で、なぜ日本でたくさんの信者を獲得したのか、韓国人は不思議がっている。ひなびた農村に日本人女性の統一協会信者が少なからず今もいる。
 大企業のオフィスが集まり、富裕層が暮らす江南は、ソウル市全体で25区からなるうち3つの区を指す。この3区で徴収される財産税だけでソウル市全体の4割をこえている。それほど富が集中している。
 韓国の高校3年生が大変なのは、そこに「受験のすべて」が集中するから。中学校の入学試験が廃止され、高校受験は実質的になくなった。韓国では大学受験が人生初の大勝負になってしまっている。
 韓国の高校では、基本的に部活動がない。
 ほかにもいろいろありますが、日本と似ているようで、こんなに違うのか・・・と思わせるのが韓国社会のようです。それにしても、韓国映画は面白いものが多いと私も思います。
(2023年7月刊。980円+税)

2024年1月11日

金正恩の核兵器


(霧山昴)
著者 井上 智太郎 、 出版 ちくま新書

 北朝鮮が宇宙空間に衛星を打ち上げると、日本政府は日本の上空を通過する(した)といって、Jアラートを発令します。「ミサイルが落下するかもしれませんから、地下壕や地下室に避難しましょう。机の下に潜り込みましょう」などと危機をあおり立てます。でも、私の身近に地下室なんてありませんし、テーブルの下に潜り込んで助かるミサイルなんて一体あるのでしょうか(ありえません)。
 はっきり言えることは、北朝鮮の軍事的脅威をあおり立てることによって、日本の大軍拡予算に賛同するよう国民を誘導(誤導です)していること、それにNHKを初めとする日本マスコミが乗せられ、電波ジャックさせられていることです。なにしろ、少し前まで年間3兆円台だったのが、4兆円となり、来年度は何と8兆円近い、今では大軍拡予算に驚かなくなっている日本人ばかりになってしまいました。危険な徴候です。
 金正日体制のときは18年間で16発のミサイルが発射された。ところが金正恩体制下では、ミサイル発射が11年間に150発、2022年の弾道ミサイル発射は59発にのぼった。また、核実験のほうは6回も行った。
 アメリカは、1958年から1991年までの34年間にわたって韓国に戦術核兵器を配備していた。ピークの1967年には、核兵器システムが8種類そして核弾頭950個が沖縄にあった。
 北朝鮮は、1950年代にソ連の支援で核開発に着手した。
 北朝鮮での核兵器開発には100~150の組織、人員にして9000人から1万5000人が従事しているようだ。ミサイル開発にしても同じように50の研究機関、3000人の科学者・技術者を含む1万5000人が従事しているとみられている。合計3万人規模だ。
 金正恩は、これらの科学者や技術者を厚遇し、優先的に住宅を供給している。
 朝鮮人民軍の総兵力は128万人。人口(2544万人)の5%にあたる。北朝鮮の兵役は、男性8~9年、女性6~7年だったが、今は、男性7年、女性は5年に短縮されている。人的資源を経済活動に振り分けるためだ。
 中国の地方都市で働く北朝鮮人労働者の月給は2000元(4万円)ほど。国への上納金などを含めると、1割も残るかどうかという実情にある。
 北朝鮮では政府公認のハッカー集団が活躍している。そのうえで、仮想通貨を窃取している。
 ロケット(ミサイル)の液体燃料は発射直前に燃料を注入する必要があり、発射まで時間がかかるし、その分、敵に見つかりやすくなる。
 朝鮮人民軍は食料や弾薬など、あらゆる物質を6ヶ月分備蓄するように定めている。
北朝鮮の核開発を、実は私たち日本人が主体的に支えているのではないかと、本書でも指摘されています。それは民間も政府も、です。闇の部分があるのです。
いろいろ実際と、裏に隠されているところを見抜く必要があると思いました。
(2023年4月刊。940円+税)

2024年1月 7日

「三人の女」(下)


(霧山昴)
著者 チョ・ソニ 、 出版 アジュマブックス

 「三人の女」とは、許貞淑、朱世竹、高明子。
 許貞淑の父親は許憲という弁護士。日本敗戦朝鮮開放後は、朴憲永や呂運亨たちと主に民主主義民族戦線を結成した。許貞淑は朴憲永との関係も深く、中国共産党との関係が深い廷安派に属していたが、金日成の信頼を得て、北朝鮮のエリートとして生き延び、1991年に天寿を全うした。その経歴を知ると、奇跡的な長命です。
 朱世竹は、ソ連へ2番目の夫・金丹治とともに移住したが、金丹治はスターリンの粛正の嵐にとらわれ、日帝スパイとして処刑された。朱世竹は1番目の夫、朴憲永との間の娘、ビビアンナ・パクをもうけるが、娘ビビアンナは父を知らず、母とは疎遠のままソ連で民族舞踊団員として活躍する。そして、朱世竹はソ連の流刑地に長く暮らす。
 高明子は朝鮮共産党の活動をしているうちに逮捕され、拷問を受けて転向書にサインして釈放された。
 「三人の女」たちの複雑な歩みがからまりあいながら、戦前・戦後の朝鮮、韓国と北朝鮮、そして朝鮮戦争、さらには戦後を生きていく状況が活写されています。
 北朝鮮で、金日成は主体思想を唱えます。著者は、主体思想について、マルクス主義やマルクス・レーニン主義とは異なる朝鮮の土着思想だとしています。儒教、カルヴィニズム・フォイエルバッハ流の人間主義、スターリン主義が奇妙に融合したアマルガム(合金)。
 朝鮮戦争は、金日成が発議し、推進した。この戦争は短期間で終わるし、アメリカは介入しないと言って、金日成はスターリンと毛沢東を説得したが、この予想ははずれた。
 スターリンは田舎の若者を抜擢(ばってき)して国家権力を与え、その若者(まだ30代後半だった)が有頂天になって戦争を起こし、結局、破局、国の破滅を招いた。金日成がせめて40歳になっていたら、戦争は起きなかっただろうと著者はみています。
 複雑怪奇な韓国・朝鮮の政治を「3人の女性」を通して描いている、いかにもスケールの大きい小説でした。韓国で4万部も売れたベストセラーというのは、よく分かります。
(2023年8月刊。2640円)

2023年12月19日

三人の女(上)


(霧山昴)
著者 チョ・ソニ 、 出版 アジュマブックス

 夏の陽差しを受け、小川に足を浸しながら笑顔で会話している三人の若い女性胃の写真に始まる小説です。
 小川にアーチ型の石製の橋がかかっています。三人の女性はみな、膝下まである白い服を、チマ・チョゴリを着ています。三人とも素足で川の水に入っていて、二人は岸辺の岩に腰かけていて、一人だけ立っています。長い髪の女性ばかりの時代に、みな短髪。三人の若い女性たちは、いったい何を話しているのでしょうか・・・。
 日本の植民地だった朝鮮で雑誌『新女性』を編集長として発行していた許貞淑、そして朱世竹、高明子。この三人は、いずれも共産主義運動に人生をかけ、欧米にも足をのばして朝鮮で激動の時代を生きた。
 許貞淑は京城の人権弁護士として高名な許憲(ホ・ホン)の娘。朱世竹は、没落した両班(ヤンバン)家に生まれ育った。留学先の上海で有名な革命家である朴憲永と結婚した。朴憲永は韓国で活躍したあと北朝鮮に行き、朝鮮戦争のあと金日成によって粛清された。高明子(ミョンジャ)は、大地主の娘。
 日本の植民地時代、朝鮮人は徹底して抑圧されていました。そのなかでの共産主義者たちの活動を描いた本ですので、1980年代までの韓国ではこんな本が出版されるなど、考えられもしませんでした。軍事政権は出版と表現の自由を抑圧していたからです。2017年にようやく本書を出版することができました。
 朝鮮半島で活動していた共産主義を信奉する人たちは、激しい派閥争いをしていて、お互いに暴力班(チーム)までつくって流血の争いも辞さなかった。
 1925年4月17日、京城にある清料理店で朝鮮共産党の結成式が敢行された。ついに朝鮮にも共産党が誕生したのだ。
 日本人は、協力することを知らず、派閥争いをするのが朝鮮人の民族性だとあざ笑った。しかし、それは日本人だって同じこと。日本人も協力することを知らず、派閥争いをしているということ。
 朝鮮共産党事件の公判は、1927年9月13日だった。このとき、被告人らの弁護を買って出たうちの三人は許憲、金炳魯そして秀任がふくまれている。日本からも古谷貞雄弁護士が派遣されてきた。同じく自由法曹団の弁護士が法廷に立って議論した。
 刑務所における独房というものは、便所で食べて寝てるようなもの。
 コミンテルンは1933年に朝鮮共産党の創立、そして再建運動から手を引いた。このころスターリンによる粛清が最高潮であり、「反革命分子」の公開銃殺が連日敢行されていた。1938年10月、中国で朝鮮義勇隊が結成された。
はてさて、三人の女性たちは苦難の活動をどうやって続けていくことになるのか、下巻が楽しみです。
(2023年8月刊。2640円+税)

2023年7月14日

カメラを止めて書きます


(霧山昴)
著者 ヤン ヨンヒ 、 出版 クオン

 いささか胸の痛みを感じながら読みすすめていきました。
 私が弁護士になった40年以上も前は、朝鮮総連の活動家のみなさんは本当に元気でした。民団の人との接点はあまりありませんでしたが、ともかく総連の人たちは声がでかくて、押しが強いのです。
 この本では、朝鮮総連の幹部だった父親が3人の息子を北朝鮮に「帰国」させたあとの行動が紹介されています。
 「帰国事業」は、1959年12月から朝鮮総連(そして、日朝の赤十字社と日朝両国政府)が総力をあげて推進したもの。9万3千人ほどの在日コリアンが「北朝鮮は差別のない地上の楽園」だと思って移住していった。著者の父親は、この「帰国事業」の旗振り役だった。
 病気で倒れる前、著者はビデオカメラをまわしながら父親に質問した。すると、予期しない答えが返ってきた。
「その時は、在日朝鮮人運動がとても盛り上がっていたときだから、すべてがうまくいくという方向で問題を見たんだから、甘かったんや...。行かさなかったら、もっと良かったかなというようにも考えてるさ」
 著者の3人の兄は、1970年代初め、長男18歳(朝鮮大学校)、二男16歳(高校生)、三男14歳(中学生)のとき、北朝鮮に渡っていった。やがて北朝鮮では大量の餓死者が出る大変な状況に陥った。送られてきた兄たちの写真はガリガリにやせ細った少年の姿だった。そこで、著者の母親は、北朝鮮に住む息子たちへの仕送りを45年間、続けた。仕送りの段ボール箱には、たくさんの食料品、そして衣類を詰め込んで送り続けた。
 孫たちが生まれたら、その学校生活に必要なものをすべて送った。私も、この年齢(とし)になると、母親の執念にみちた仕送りの意味がよくよく分かる気がします。「帰国事業」に賛成し送り出したことをいくら悔やんでも取り返しつかないのです。それだったら、せめて生きている息子たちを助けたい。そんな思いだったのではないでしょうか。
 三男の兄が三度目の結婚をするときの話が胸を打ちます。
「あの家は少額でも日本からコンスタントに生活費と愛情あふれるダンボール箱が届く」という噂が広まっていて、3人の子どもをかかえている兄に嫁ぎたいという女性たちが列を成した。
 著者の両親は済州島出身。夫(父親)が死んだあと、母親は済州四・三事件を目撃した当事者として娘に語りはじめたのです。私もこの「四・三事件」については金石範の『火山島』などを読んでいましたので、母親がその当事者の一人だったということには驚きました。
 著者の3本の映画『ディア・ピョンヤン』(2005年)、『愛しきソナ』(2009年)、『スープとイデオロギー』(2021年)をどれもみていないのが本当に残念です。映画館でみるタイミングがありませんでした。DVDでみてみたいものです。あまり高価だと手が出せませんが...。
(2023年4月刊。2200円)

2023年6月30日

ラザルス


(霧山昴)
著者 ジェフ・ホワイト 、 出版 草思社

 多くの国民が食うや食わずで餓死の危険すらあるというのに、北朝鮮は次々にミサイルを打ち上げ、人工衛星まで宇宙空間に飛ばしています。いったい、この貧困そのものの国のどこに、そんなお金があるというのか...。
 北朝鮮の飛ばすミサイルは短距離弾道弾で1発4~7億円。アメリカに届く長距離弾道弾だと、1発30~40億円もかかる。この莫大な費用を北朝鮮は億ドル札やハッカー部隊で稼いでいるのではないか、それが本書のテーマです。
北朝鮮には軍を母体とする超エリートのハッカー集団があるようです。でも、政府機関や軍に属するハッカー組織が存在するのは何も北朝鮮には限らない。世界の多くの国でハッカー集団が組織され、他国政府の情報収集やスパイ活動ないしサイバー攻撃を行っている。
 北朝鮮の異様さが目立つのは、宿敵である韓国政府と軍に対してのサイバー攻撃だけでなく、世界中の暗号資産の収奪をもっぱら標的にしている点。
 ただ、不正に得たデジタル(暗号)資産は、それだけでは利用できず、ドルやポンドなどの現金に換えなければならない。それをどうやって克服するのか...。
 北朝鮮の犯行とされるハッキングで流失した暗号資産の総額は13億ドルにのぼる。
 この本の冒頭は、西インドの人口50万人の都市にキャッシュカードの束を持つ男たちが集まってきて、一斉に何十台ものATMから現金をカードで引き出していったシーンです。2時間あまりのうちに1100万ドルもの現金が引き出されたのでした。
 その犯人のあやつっていたのはラザルスグループ。
 北朝鮮のハッカー集団(ラザルス)は、2015年からは銀行をターゲットに定めている。ハッカー集団(ラザルス)は銀行のインターネットシステムのなかに潜入し、暗証番号の確認なしに現金を入手できるようにした。ハッカーたちは捕まるかもしれないとビクビクしながらネット操作を繰り返している。そして、銀行内のシステムにデジタル記録を削除し、爪痕が残らないようにしている。わずか数文字の変更によって、コンピューターの「ノー」が「イエス」に変わり、10億ドルの預金がしまわれている銀行の金庫室のデジタル扉が開放される。これが、コンピューター社会の怖いところです。
 プリンターを故障と思わせ、緊急メッセージは白紙しか出ないように変えられていた。
北朝鮮は、12歳までの頭の良い子どもたちを「サイバー戦士」に仕立てあげている。「国際数学オリンピック」に参加するほどの天才児たちがいるのです。そして、北朝鮮のハッカーたちの肉親も巻き添えをくってしまうのです。
 今や、銀行までもがハッカー集団に狙われて、ひっかきまわされることが頻繁に起きています。知らなかった、怖い話がオンパレードでした。
(2023年6月刊。2200円+税)

2023年3月10日

性売買のブラックホール


(霧山昴)
著者 シンパク・ジニョン 、 出版 ころから

 コロナ禍のなか、韓国では性風俗店(遊興酒店)を訪れる客が3ヶ月で600万人以上いた。
 韓国の性売買は、日本とからみあった歴史的な脈絡のもとで形成された。日本と韓国は、いま、政治・経済両面で競争・対立関係にありながら、性売買と女性の人権問題では相互伝存的で共生関係にある。
 韓国の男性たちは、日本製のAV(アダルトビデオ)やアダルトコミックを見て育ち、日本のアダルトものに出てくる「アーン、キモチイイ」という表現は、韓国の小学校の教室でも流行語になっている。
 韓国の現状は、「売春をすすめる社会」だ。1980年代、1990年代には中年男性の突然死が多かった。それは、ビールをウィスキーで割った「バクダン酒」、そして買春が仕事と社会人生活と男性連帯のスタンスダードな価値観だったから。そこで踏んばれない者は死ぬか追い出されて、連帯から脱落した。この生き残り戦略から生まれたウップンは、男性連帯に向かうのではなく、性売買女性に向かった。
 1961年に制定された「淪落行為等防止法」は、主として売る側の女性に対して、道徳的な烙印を押す性差別的な用語が使われた。
 2004年の「性売買防止法」では、「販売」する女性の自立性が強調され、性売買を成り立たせている社会的構造を見えなくしている。
 遊興酒店は、「ルームサロン」、「テンパー」、「フルサロン」などと呼ばれ、韓国のいたるところにある。
 性売買産業の事業規模は、2002年に24兆ウォンだったのが、2007年には14兆ウォンへ縮小したとみられた。しかし、本当は、2015年に37兆ウォンあるとみられた。国内総生産(GDP)の4.1%水準(2002年)もある。
 2015年、韓国の性売買市場は12兆ウォンで、世界第6位。2019年の調査では、韓国男性の10人に4人が性を買った。2018年、ウェブサイトに登録された性売買業者は2393ヶ所もあり、これは全国の高校の数よりも多い。
 日本人のキーセン観光が盛んだったのは、1965年から1978年まで。日本人観光客は海外からの客の62%ほど、そのうち男性が9割を占めた。1988年のソウルオリンピックのときには、韓国のキーセン観光が大々的に宣伝された。
 韓国は、接待費に年間10兆ウォンを支出している(2018年)。この大半が遊興酒店とゴルフ場。
 性売買をともなう男性中心的な食事と接待の慣行は、女性にとって、もうひとつのガラスの天井として作用する。
 女性が性売買に「同意」するというのはフィクションにすぎない。客は安全な人間なのか、性病や各種の感染症はないか、サディスティックな傾向はないか、危険な薬物や道具を使おうとしないか...。女性の側は絶えず心配している。
性売買の女性は寝そべっているだけで、買春者が射精すれば終わりだろうと考えるのは、あまりにも性売買の実態を知らない、実情を無視している。
性売買女性の6割がPTSDに、4割強が複雑性PTSDと診断された。低年齢で性売買に入り、性売買の期間が長いほど、その深刻さは増していく。
日本でも、1年間に5千人の少女がJKビジネスを経験したとみられている。
性売買を抜け出し、自分自身に責任をもつということが、社会的リソースの不足している彼女たちにとって、どれほど大変なことか...。日本と韓国で共通するのは性売買への入り口にいる女性の社会的経済的地位の低さ。
性売買以外の暮らしが可能になったあとになって初めて、自分の性売買経験は人権侵害であった、性搾取であったと気がつく女性がほとんど...。
韓国に性売買性産の実情、そして、それが日本のそれと密接に結びついていることを改めて知らされ、本当に勉強になりました。広く読まれるべき本として、強く一読をおすすめします。
(2022年5月刊。税込2420円)

2023年3月 2日

人類学者がのぞいた北朝鮮


(霧山昴)
著者 鄭 炳浩 、 出版 青木社

 とても興味深い、刺激的な本でした。韓国の人類学者が北朝鮮に何度も出向いて、現地の人々との対話をふくめて、北朝鮮の人々をじっくり観察した成果がまとめられていて、よく理解できました。そして、北朝鮮の「金王朝」が簡単には崩壊しない理由もよく分かりました。
 北朝鮮の社会では、個人は体制と首領から自由になることができない。現在のような生半可な外からの圧力は、危機意識を土台とする信念体系に適度な現実味を与え、裏付けるだけ。下手な物理的攻撃は、部分的に社会体系を破壊して狂乱を呼び起こすことはあっても、外部侵略に対する抵抗を基盤にした象徴的な信念体系の正当性を強化させるだけになるだろう。
北朝鮮が本気で破滅を覚悟すれば、長射程砲と短距離ミサイルだけで韓国の情報通信網は破壊できるだろうし、各地の原子力発電所も狙われたら、原発事故以上の大惨事を招いてしまうことは容易に想像できるだろう。
 韓国社会は細かく有機的に繋がっているので、部分的に破壊されただけでも深刻な打撃を受けるが、北朝鮮のような比較的独立した単位で動く社会は、外部からの攻撃だけでは崩壊しづらい。
 大飢饉の時代に全国的に出現した「ヤミ市場」は、以前からあった「農民市場」が危機によって飛躍的に広まったもの。ヤミ市場と市場は女性の空間。そこの80%以上が女性から成る。
週1回ある「生活総和(総括)」は、みなが絶えず自己検閲し、お互いの日常を相互監視する効率的な統制方式。生活総和は、北朝鮮の人々の心と行動パターンに強い影響を及ぼしている。カトリック教の「懺悔」にも似た一種の「告白の文化」と言える。
 北朝鮮では、中国文化大革命もなく、カンボジアのクメール・ルージュの無理な社会実験もなかった。金日成と金正日は、文化伝統と歴史的伝統を強調した。過去の儒教的な特性を改めて強化している。
 北朝鮮の権力世襲は、儒教国家の「道徳的模範」を示し、王位継承に似た徳目を強調することによって成し遂げられた。北朝鮮の建国初期には、金日成というカリスマ指導者を父とみなす個人崇拝から始まった。しかし、長男である金正日に権力が世襲される過程で朝鮮の儒教的家族概念が融合し、嫡子相続の論理が強調されることになった。金正日の三男である金正恩に権力を承継する段階では、「白頭血統」という「革命の宗家」を強調することで、家内(一族)への忠誠を主張した。朝鮮王朝時代の両班(ヤンバン)の家の門中(家門)概念を国家体制のなかで制度化したもの。首領は、革命の最高「脳首」とも表現される。国家と人民に「政治的生命」を与える存在だから。首領なしの革命はありえず、国家も人民もない。
現地の実情をふまえた、大変深い分析がなされていて、とても勉強になりました。
(2022年10月刊。3200円+税)

2022年12月28日

あの夏のソウル

(霧山昴)
著者 イ ヒョン 、 出版 影書房

 1950年6月25日、朝鮮戦争が始まった。
 私も大学生のころは、なんとなくアメリカが先に北朝鮮に仕掛けた、あるいは故意に隙(スキ)を見せて北朝鮮軍を引き寄せて始まった戦争ではないかと疑っていました。でも、今では金日成が毛沢東の反対を押し切り、スターリンから同意を取り付け、その援助を受けて「赤化統一」の名のもとに南侵して始めた戦争だというのが歴史的事実として動かない事実となっています。だから、当初、北朝鮮軍はたちまち南下して、釜山あたりだけを残して韓国の大半を占拠した(できた)のです。
 朝鮮戦争で残念なのは、双方とも民間人を相当に虐殺しているということです。刑務所に収容されている人を虐殺したり、避難中の人々を殺害したり、どちらの陣営もしているということです。この本(小説)にも、その事実が反映されています。悲しい現実です。武器を持った内戦というのは、なかなか歯止めがきかないものなのでしょうね...。
 北の人民共和国は、地主と親日派の人々を厳しく断罪した。
 南のほうも、アカは裁判なしで処刑し、道にさらして当然...。
 北朝鮮軍が侵攻してくるとまもなく、首都ソウルは陥落寸前となった。李承晩大統領は、ラジオでは首都ソウルを死守すると言いながらも、いち早くソウルを抜け出した。いつの世も、いつの支配者も、国民を置きざりにして、我が身の安全が最優先なのですよね...。
 ソウルには、「われらの偉大なる指導者、金日成将軍万歳。朝鮮民族の親愛なる友、スターリン大元帥万歳」というスローガンが大書された。
 ところが、まもなくアメリカ軍に制空権を奪われ、ソウルもいたるところにアメリカ軍の爆撃機が爆弾を落としてまわっている。
 そしてアメリカ軍が仁川に上陸したあと、戦局は急転回し、北朝鮮軍は、ほうほうの体で後退していった。
 去年の夏に避難しないでソウルに残っていた人たちは、国家反逆罪の嫌疑がかけられた。「日常生活を送ってください」という韓国政府のことばを信じてソウルにとどまったというのに、それ自体で疑われる理由になった。
 生きるために人民軍に協力したのであれ、信念をもって参加したのであれ、人民共和国の世で明るい太陽を見て息をしていたという理由だけで、アカという疑いをかけられた。アカだと目をつけられたら、それだけで、その場で命を失った。裁判を経て処刑される人たちは、それでも死を準備する時間くらいは持てるのだから、まだましと思えるほどだった。
 朝鮮半島に生きる人々にとって、戦争は歴史ではなく、日常である。この言葉は重たいです。朝鮮戦争のなかで翻弄される学生たちの悲惨な状況がよく描かれていて、他人事(ひとごと)とは思えませんでした。
(2019年3月刊。税込2420円)

2022年9月28日

韓国軍はベトナムで何をしたか


(霧山昴)
著者 村山 康文 、 出版 小学館新書

 アメリカのベトナム侵略戦争は私の大学生のころのことです。アメリカ兵の5万5千人もの戦死者の多くは私と同世代でした。もちろん、ベトナムの若者たちも多く殺されました。ベトナムの若い女医さんの従軍日記『トゥイーの日記』は涙なくしては読めません。
 そして、アメリカ政府の要請にこたえて韓国軍もベトナムに出兵したのです。アメリカ軍以上に韓国軍は凶暴だとベトナム人から恐れられ、嫌われていたようです。
 なぜアメリカの要請に韓国政府がこたえたのか。それは、その見返りにアメリカから多大な経済援助を受けたことにあります。そのおかげで韓国経済は急速に立ち直り、目ざましい経済発展につながったのでした。これは、日本が朝鮮戦争で大きく復興したのと同じことです。
 今、ロシアの無法なウクライナへの侵略戦争が続いていますが、ウクライナへの強力な軍事援助のおかげでアメリカの軍需産業は大変な好景気にあるようです。戦争は多くの市民にとって、最大の人権侵害ですが、一部の戦争商人にとっては、絶好の金もうけになるというわけです。いやですね、そんなこと...。
 韓国軍は、「きれいに殺して、きれいに燃やし、きれに破壊する」というスローガンのもと、「ベトコン」の捜索・掃討作戦を展開していった。
 ベトナムには「ライダイハン」と呼ばれる、ベトナム人と韓国人とのあいだに生まれた人々がいる。韓国兵というより韓国人労働者とベトナム人女性とのあいだで多くは生まれたようだ。
 2011年10月に韓国の亀尾市体育館で開催された「ベトナム参戦47周年記念」式典には、ベトナム戦争に従事した元兵士ら1万4千人が参加した。そこでは、我々は京釜高速道路やソウル地下鉄はもちろん、韓国人の生活水準の向上に貢献したことが強調された。なるほど、それは事実なのでしょう...。
 韓国軍がベトナムで何をしたのかについて、アメリカ軍と違って従軍記者がいなかったので、証拠となる写真などの記録がほとんどないのが特徴。ベトナムで韓国軍の残虐な民間人殺害を現場まで出向いて調査した「ハンギョレ」新聞の記者に対して、ベトナムに参戦した元軍人らが「虚偽、捏造(ねつぞう)」として名誉毀損罪で告訴した。これに対して、記者たちについて「民主社会のための弁護士会」(民弁)所属の弁護士たちが弁護したとのこと。
 日本でも、「南京事件」について「大虐殺なんて、なかった」という右翼たちの攻撃があった(ある)ことを思い出します。「30万人」が虐殺されたかどうかはともかく、大量の民間人を日本軍が虐殺したことは日本の皇族も認めている歴史的な事実なのです...。どこの国にも自国の負の歴史を認めたがらない人々が少なからずいるというわけです。
 でも、歴史の真実に目をそむけてはいけないと思います。子どもたちに語り継げないような悪いことを繰り返してはいけないからです。
(2022年8月刊。税込990円)

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