弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年11月 1日

21世紀の特殊部隊・特殊作戦篇

著者:江畑謙介、出版社:並木書房
 日本をふくむ各国の軍隊が特殊部隊をもち、テロなどに備えているのは周知の事実だ。
 1995年6月、ボスニアの上空で警戒飛行していたアメリカのF16にSA6地対空ミサイルが命中し、撃墜された。パイロットのオグレディ大尉の救出作戦が始まった。同じ筋書きのアメリカ映画を以前に見たが、そんな事実があったことを初めて知った。海兵隊を投入して、無事に救出できたが、装備その他が十分でなかったうえに、アメリカ空軍の面子がまるつぶれになったという問題もひきおこした。現実には、救出作戦を誰がいったい担うのか、絶えず縄ばり争いが起こる。
 この事件のあと、救難用通信装置の性能が格段に向上したという。しかし、SOS信号も敵のおとりかもしれないので、救出部隊は恐る恐る近づくしかない。そこで無人偵察機も活躍するようになった。というのも、1人の人間を救出するために、10人の救出部隊と2機のヘリコプターの損失を出すことがあるが、それではいかにも割りがあわないからだ。特殊作戦を成功させるのも綿密な打合せと訓練を要することなのだ。

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捨てよ!先端技術

著者:森谷正規、出版社:祥伝社
 日本は先端技術を開発し続けることによってのみ、世界の企業のなかで生き残れると思っていました。しかし、著者は、それは間違いだと力説しています。
 現に、日本は、超LSIメモリのDRAMで韓国のサムスンに抜かれ、液晶ディスプレイでも敗けてしまいました。先端技術の分野では、今や後発国にタジタジの有り様です。
 では、どこに日本の将来はあるのか?
 著者は日本の自動車産業が世界を制覇していることに注目します。むしろ、成熟産業で日本の優位は揺らいでいないのです。乗用車の開発・設計は、3万点の部品とその構成を最適なものにまとめ上げる仕事である。それは膨大な作業であり、2年から3年の長い年月を必要とする。その作業をできるかぎり効率的に進めて、優れた性能、良い乗り心地の成果を十分に上げるためには、設計者たちは長年かけて得た熟練を必要とする。つまり、長く深い蓄積が乗用車の開発・設計には不可欠である。このような深い蓄積こそが、日本企業がこれから力を発揮していくカギである。
 人材をつくるためには規則をつくらないこと。そんな提案もなされています。
 なるほど、そうなのかと感心しながら読みました。

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2004年11月15日

運のつき

著者:養老孟司
なんとも不思議な雰囲気が漂います(笑)。わかったようでよくわからん???

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風の組曲

著者:阿刀田高
 いつものように電車に揺られ、ふと、気がつくと、見知らぬ景色が広がっていた。でも、どこか懐かしいような見たことがあるような・・とまるで奇妙な世界に迷い込んでしまった錯覚をおこして降りる駅を乗り過ごすことになります(笑)

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中村うさぎの四字熟誤

著者:中村うさぎ+松田洋子
 もう、文句なしに笑っちゃいます。四字熟語 →誤がものすごく収まっていて、本当はこっちの漢字の方が正しかったりして・・いやいや、日本語って面白いですわ。女王様のセンスと松田さんの4コマ漫画がまた、絶妙で、大爆笑です。

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どうもいたしません

著者:檀ふみ、出版社:幻冬舎
 愛ニモマケズ 加齢ニモマケズ
 笑エルヒトニ 私ハナリタイ
 オビにある文句です。業界紙に連載されていたエッセー(コラム)が本になったものです。原稿用紙3枚にこれだけ起承転結があって笑わせるという技(わざ)に、モノカキの端クレとしては感嘆してしまいます。
 どこまで本当のことか知りませんが、いかにも身辺雑記のように思えて、親近感がわきます。それでも、本人は筆無精だというのです。軽い読みものですが、読み終わったあと、なんだか心がホワーッと軽くなります。

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2004年11月10日

第五の権力、アメリカのシンクタンク

著者:横江公美、出版社:文春新書
 アメリカでのシンクタンクの存在感や影響力は、立法、行政、司法そしてメディアに続く「第五の権力」とうたわれるまでに成長しています。
 シンクタンクの運営はビジネスである。トップ20の保守系シンクタンクの総資産は10億ドル。クリントン前大統領が1996年に再選されたとき、トップ20の保守系シンクタンクが集めて使ったお金は1億5800万ドル(173億8000万円)で、共和党より多かった。
 アメリカにはスーパーリッチが大勢いて、彼らが巨額の寄付をする(課税所得の50%までは免税扱いという優遇措置がある)うえ、企業の「社会貢献」と個人でも年間所得の1.2%を寄付する習慣があることがシンクタンクを支えている。
 代表的なネオコン系シンクタンクは3つとも、ユダヤ系アメリカ人がトップ。国際問題や軍事関係でタカ派の思想をもつアメリカの伝統的エリートと宗教右派が仲良くからみあって、現在の「ネオコン」と総称される集団が形成されている。
 日本のシンクタンクについては、それが政治を動かしているという印象はまったくありませんが、アメリカでは違うようです。

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日本一の昆虫屋

著者:志賀夘助、出版社:文春文庫
 わが庭にも昆虫たちがたくさん訪れてくれます。夏の蝉、秋のアキアカネ、春のチョウそして、マルハナバチやミツバチなどです。そんな昆虫たちを眺めながら、はじめての絵本を出版することができました(残念ながら、絵を描いたのではありません)。昆虫は大人になっても、本当に心を魅きつける格別の力があります。
 この本の著者は101歳になってなお、現役の昆虫屋さんです。その苦しかった幼年から青年時代を通して、昆虫を愛し続け、ついに日本一の昆虫屋さんになりました。たいしたものです。昆虫愛好家は一生続ける人が多いとのことです。でも、それっていいことですよね。いつまでも幼い心を忘れないのですから・・・。
 春はモンシロチョウと思っていたら、今ではツマキチョウの方が多いそうです。ちっとも知りませんでした。

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アナトリア発掘記

著者:大村幸弘、出版社:NHKブックス
 面白くて、読みながらワクワクしてきました。人生って、辛くてもじっと我慢して続けていると、きっと何かいいことにめぐりあえる。そんな気になりました。
 アナトリアって、どこの国だろう。たいして期待もせずに読みはじめました。ヒッタイト帝国って覚えていますか?そう、鉄と軽戦車の国です。アナトリアとは、今のトルコのことです。そこに日本人の学生が考古学を研究に出かけました。そして、大変な苦労のあげく、ついにカマン・カレホユック遺跡の発掘調査を実現するのです。冬はマイナス20度、夏は40度という大変な地域での発掘作業です。治安の心配もあります。
 表面に露出している遺物から地下のことが分かる。うーん、そうかなー・・・。不思議です。でも、謎解きがされると、なるほどと思います。
 ある世代の人々が建物をつくるとき、地面をならして掘り返すので、下に埋まっていたものが表面に上がってくる。そのまた次の世代の人々が建物をつくるときも、地面を掘り返すので下のものが表面に上がってくる。この営みがえんえんとくり返されるため、丘の最上部まで、本来もっとも下に埋まっているはずの遺物があがってくるのだ。
 12メートルの深さまで掘り下げて、ヒッタイトがどんな人々であったかを推測しています。考古学に少しでも関心のある人におすすめの本です。

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韓国の軍隊

著者:尹載善、出版社:中公新書
 大韓民国憲法39条には、すべての国民は国防の義務を負うとあるそうです。日本国憲法にそんな義務がないのは幸せです。その韓国の兵役義務の実情を教科書的に紹介した本だ。そう思って読んでいました。2年間の兵役で人生にとって大切なことを学んだという体験談が何度も紹介されていて、嫌になっていきました。しかし、読みすすめるうちに、この本の著者は、必ずしもそれを強調したいわけではないことが分かりました。
 韓国で徴兵制がはじめて実施されたのは日本の植民地時代であった1944年のこと。終戦で廃止され、朝鮮戦争のとき(1951年5月)に復活したのです。
 韓国人の男性がみな兵役を歓迎しているのではありません。兵役逃れも横行しています。有名な俳優が何人も徴兵逃れで評判を落としました。子どもにアメリカ国籍をとらせて兵役を逃れさせようとしている親も少なくありません。遠征出産という言葉があるのです。
 韓国の人口は4800万人。うち70万人が軍人。徴兵制のもとで2年間の兵役を終えた韓国人男性は、10人の部下をもつ分隊長という兵長で除隊することが多い。彼らは軍隊で多少なりとも権力の甘美さを味わう。軍隊で身についた「長」に対する憧れは、社会組織全体に反映され普遍化されていく。兵営生活は、人が権力を志向する上昇型人間に変身する契機となっている。軍事文化が支配してきた社会では権力志向型人間が量産される。そのため、人間の尊厳性が喪失する社会構造が形成されていく。もっぱら出世することだけが最高の価値となってしまうのだ。
 軍隊がのさばる社会は、人間が大切にされない異常な社会です。

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公安警察の手口

著者:鈴木邦男、出版社:ちくま新書
 公然の右翼活動家だった人物が日本警察の実体を鋭く告発した本です。「新右翼」の代表としての活動をやめてなお、公安警察に何十回となくガサ入れされた体験をもつ人ならではの切々たる体験記でもあります。日本の警察批判は、たいてい左翼側からのことが多いなかで、珍しい本です。
 同伴尾行というのを初めて知りました。見えないように尾行するのではなく、すぐ隣りを歩き、公然と尾行するのです。喫茶店に行けば隣りの席に坐ります。電話をかけるときには、すぐそばで聞き耳をたてています。こんなことをされたら、フツーの人間ならカーッとなって突き飛ばすでしょう。それこそ公安の思うつぼです。待ってましたとばかり、公務執行妨害で逮捕します。そのあと恩を売ってスパイになるよう持ちかけるのです。
 公安はむかし活動していて、今はすっかり足を洗った人にもずっとつきまといます。きっとまた犯罪を起こすはずだというのです。まさに、『レ・ミゼラブル』の世界です。
 警視庁公安部に2000人の公安刑事がいて、警察庁に1000人。全国の警備部の公安課・公安係をあわせると全国に1万人からの公安がいる。ええーっ、と驚いてしまいます。公安の一番のターゲットは共産党です。合法政党なのに・・・。もちろん新左翼の各党派やオウムも対象ですし、最近はアルカイダなどもターゲットにしています。なにしろヒマだということになると、行政改革の対象になって削減されかねません。絶えず、そこには怖い団体だと恐怖をあおり、自分の存在意義を売り込む必要があります。
 日常的には、「対象者」ともちつもたれつ、の関係にあります。いえ、ときには公安の方がわざと事件を起こすこともしばしばのようです。ともかく、「過激派」が存在しないとリストラの対象になりかねないのですから・・・。
 優秀な公安刑事は、明るくて人当たりがいい。一見、遊び人に見え、「仕事」を相手に意識させない。そんな指摘があります。スパイを養成し接触するという暗い仕事を毎日のりこえていくわけでしょうから、相当タフな神経が求められることでしょう。でも、本当に、それってやり甲斐がある仕事なのでしょうか?
 私の親しかった弁護士(故人)の父親は公安刑事でした。なぜか家庭が暗い雰囲気だった、大人になってやっと理由が分かったとこぼしていました。人をスパイに引きずりこんだり、密告させたり、犯罪をしたりさせたりって、本当にいやな仕事ですよね。日本を守っているのは公安だという自負心にみちて活動しているそうですが、本当でしょうか。自分の保身ばっかりのような気がします・・・。

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峠の落し文

著者:樋口和博、自費出版
 94歳というので何年生まれかと思うと、私の亡父と同じ明治42年生まれだった。著者は38年間の裁判官生活のあと、東京で弁護士になった。この本は主として裁判官時代の思い出を描いている。弁護士になって、今(といっても昭和61年)の裁判官のあまりのひどさに唖然としつつ、淋しさを感じた体験が紹介されている。和解の席上、当事者の言い分をまったく聞かないまま、裁判官が突如として和解打ち切りを宣言したという。いるいる。今でも、こんな裁判官は珍しくない。私は、そう思った。
 裁判官として、どこまで人(ひと)を信じていいのか迷ったり、法廷での最後の一言で淡々と否認し、それが本当に無罪になったりと、人間心理の奥深いところまで考えさせる思い出が次々に語られていく。人が人を裁くとは、これほど難しいものなのか・・・。読みながらそういう思いにかられた。
 本林徹前日弁連会長や石川元也弁護士など、私の敬愛する先輩たちが再刊して自費出版した本だが、最近の司法修習生にぜひ広く読んでほしいと思った。

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山田洋次×藤沢周平

著者:吉村英夫、出版社:大月書店
 映画『隠し剣、鬼の爪』を封切り日にみた。満席とは言えないけれど、中年というより老年の男女で席はかなり埋まった。スクリーン一杯にしっとり落ち着いた映像が広がり、たちまち江戸時代末期の海坂藩に居合わせた気分になる。
 『たそがれ清兵衛』の真田広之もよかったが、今度の永瀬正敏もなかなかのものだ。東北の山々の遠景がロングショットで登場する。雪をいただく月山の雄姿だ。『阿弥陀堂だより』で信州の自然が丹念に紹介されたのを思い出す。この風景を見ただけでも、忘れかけていた幼いときの原体験に戻ることができて、なんとなくトクをした気分になる。
 山田洋次監督は映画『ラストサムライ』をみていないという。『ラストサムライ』では、新式の大砲や銃によってカツモト軍が倒される。今回の『鬼の爪』では、東北の田舎の藩でも新式銃を取り入れ、西洋式の軍隊に訓練している光景がコミカルに紹介されている。昔の人は両手を大きく振って足をあげて歩くことができなかった。すり足で歩いていたのだ。昔の人が着崩れしなかったのは、上半身を動かさず、下半身だけで動いていたからだ。うーん、なるほど・・・。
 斬り合いのシーンは真に迫っている。演じた役者は本番前に何度もケガをしたという。 藤沢周平は、いまブームだ。どれも似たようなパターンだが、それでも『男はつらいよ』シリーズと同じで、強く魅きつけるものがある。こんないい映画はぜひ多勢の人にみてほしいと思う。映画を興行的にヒットさせれば支持の表明になる。映画は文化だ。ぜひ、映画館へ足を運んでほしい。

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セネカ、現代人への手紙

著者:中野孝次、出版社:岩波書店
 2000年前の古代ローマに生きていた哲学者の言葉が、現代日本にも立派に通用することがよく分かります。
 金だの物だのは、真に自分のものではない。いくら惜しんでしがみついたところで、運命がその気になれば、いつでも取り戻してしまう。我々は、いわば一時それを預かっているだけだ。それに反し、時間は、これだけは完全に我々のもの、何人にも奪われない自分の所有物だ。よき人生を生きようと志すなら、まず時間をこそ惜しまねばならない。かき集め、大事に守って、おのれ一個の魂のためにのみ使用せよ。
 もっとも恥ずべきは、怠慢による喪失だ。人生の最大の部分は、悪事をしているあいだに、大部分は何もしないでいるあいだに、そして全人生は、どうでもいいことをしているあいだに、過ぎてしまっている。生きるときは、今このときしかないのだ。
 荷物を背負ったまま泳いでいて、助かった者は一人もいない。自分のこと、自分のすることについて、きちんとした計画を立てて行っている人は、ごくわずかしかいない。それ以外の人は、自分で歩いていくのではなく、運ばれていっているにすぎない。
 だから我々は、何をしたいかしっかり確かめ、それを堅持しなければならない。
 死が我々を追いかけ、生が逃げていく。我々は日々死んでいる。人生の一部分は、我々が成長しているときでさえ、一日一日と奪い去られている。過ぎ去ったときは、すべてなくなったのだ。いま我々が送っているこの日だって、我々はそれを死と分かちあっているのだ。我々が生存を止める最後の瞬間が死を完成させるのではなく、それはただ終わりの封印をするだけ。そのとき我々は死に到達したのであって、それまで長いあいだ我々は死に向かって歩み続けてきた。
 老人とは、すでに生涯のほとんどを死の側に引き渡している者ということになる。
 我々は今日、個人の領域ばかりでなく公共の領分においても狂気の愚行を行っている。我々は殺害を禁じている、とくに個人による人殺しは。ところが、戦争や民族殺戮というとき、個々人に禁止されていることが国家の命令によって行われる。ひそかに行われたことは死をもって償わされ、軍服の男たちがしたことは賞賛される。
 もっとも柔和な種族の人間たちが、相互の流血騒ぎには大喜びし、戦争をし、その継続を子孫に託して恬(てん)として恥じることがない。
 我々は連帯しよう。我々は共存するために生まれてきたのだ。
 最後のあたりは、あたかもイラク戦争をすすめてきたアメリカとイギリス、そしてそれを支えている日本に対するもののようです。古今東西、人間の本質はそれほど変わらないことを確信させてくれます。たまに古典にふれるのもいいものですね。

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国税査察官

著者:立石勝規、出版社:講談社
 政治家の裏ガネのからくりを国税局のノンキャリア査察官が追いかけるという小説です。金丸脱税事件をモデルにしています。
 政治家の裏ガネに税務当局がどれだけ迫っているのか、実は私は不信感を募らせています。ときどき、アリバイ的に摘発しているだけではないのか、ということです。巨額の裏ガネに利用されるのは、絵画のようです。絵画は、値段があってないようなものだからです。たった絵一枚が何十億円もするなんて、とても信じられません。絵画は、美術館で鑑賞すべきもので、個人が私蔵するべきものではないと思うのです。
 話が脱線しましたが、政治家と大企業の脱税の摘発にもっと税務当局は力を入れてほしいと思います。巨悪は眠らせない。いいセリフだと私は思います。

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新西遊記

著者:小島一夫、出版社:批評社
 この夏シルクロードに出かけたので、シルクロードの先の観光案内のつもりで読んだら、とんでもない間違いだった。シリアスなインド、パキスタンに関する本なのだ。
 インドの仏教徒は700万人。しかし、これは、ヒンズー教のカースト差別に抗議して改宗した人がほとんど。だから、ネオ・ブッディストと呼ばれている。ところが、ヒンズー教徒の側からすると、お釈迦さまもヒンズーの有力な神様であるビシュヌの9番目の化身にすぎないので、お釈迦さまもヒンズー教の一神なのだ。ということは、新仏教徒もヒンズーの一派ということだから、不可触賤民が新仏教徒になっても、ヒンズー教の枠のなかにあって最下位には変わりないということ。うーん、そういうものなのかー・・・。
 プーラン・デビというインドの女性国会議員の伝記を読んだ。彼女は、まさに不可触賤民の出身。盗賊団の首領にもなった。ところが、彼女は自宅を襲撃され、至近距離から銃弾を頭に撃ちこまれて即死する。犯人は報復しただけだと叫んだ・・・。
 イスラム教徒が、インドに2億人、パキスタンとバングラデシュに合計3億人、インドネシアに2億人、マレーシアとフィリピンに2千万人ずつ、アジアに10億人もいる。中東のイスラム人口より多い。えーっ、そうなの・・・?
 宗教戦争。宗教が異なるだけで殺しあうというのは、まったく理解できない・・・。

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2004年11月 5日

昆虫おもしろブック

著者:矢島稔、出版社:知恵の森文庫
 「男おいどん」の松本零士(『銀河鉄道スリーナイン』の方が有名かな・・・)のマンガつきですから、昆虫のことが面白く手軽に理解できる文庫本です。
 キャベツを栽培したことがありました。春キャベツです。毎日毎朝、アオムシとのたたかいでした。割りバシでとってもとっても、アオムシは次から次に出てきます。無農薬でキャベツを栽培するのは不可能だというのが実感で分かりました。でも、そのアオムシですが、一匹のメスチョウが100個の卵をうんで、チョウになれるのは、なんと2匹だというのです。なかなか厳しいですね。
 バッタ、とりわけトノサマバッタは子どものころ、捕まえるとヤッター、と思いました。でも、この同じトノサマバッタが、ある日突然、変身してしまうというのです。そうです。アフリカ大陸を食べ尽くすバッタの大群と化すのです。
 昆虫の世界も奥が深いことがよく分かります。

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卵のふわふわ

著者:宇江佐真理、出版社:講談社
 見事な心理描写です。江戸情緒をたっぷり楽しむことができます。
 夫と心が通いあわず離婚しかないと思う若妻は、食い道楽で心の優しいしゅうとの温かい言葉に励まされながらも、ついに別居に踏み切ります。でも、好き嫌いの激しい若妻ですが、淡雪豆腐や卵のふわふわの美味しさに心が次第にとけていき・・・。
 しっとりとした情感に包まれて、読み手の心をもどかしさとともに、そうだよね、その気持ち分かるよね・・・。そんな気にさせます。頭のなかをさっぱりしたものに切り換えたい気分のときにおすすめの本です。

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掟破りの成功法則

著者:夏目幸明、出版社:PHP研究所
 いま、ビジネスの世界で大いに注目されている人たちの語る言葉には、なるほどと思われるものがたくさんあります。この本に登場してくる人たちは、いずれも、無一文、ドン底状態から何度も失敗を重ねながら、はいあがってきました。ずっとぬるま湯に浸ってきた私なんかには測り知れない涙と汗の苦闘があったのだろうと思いま
す。
 それにしても、筋ジストロフィー病のため首から下が麻痺し、タバコを吸うのにも他人の手を借りなければいけないというのに、介護業界で活躍している人物(春山満氏)がいるというのには驚嘆してしまいました。生への執着がバネになっているというのですが、すさまじいものです。
 福祉は明るく、儲かるというキャッチフレーズがいいと思いました。ほっと、救われます。エロ本(雑誌)に連載されていたという記事を集めて本にしたものですが、読むと元気のつく本です。

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戦争における人殺しの心理学

著者:デーヴ・グロスマン、出版社:ちくま学芸文庫
 刮目すべき研究書です。うーん、そうなのかー・・・、やっぱり人間は人間を殺せないものなんだー・・・。なんども首を大きく縦に振ってしまいました。
 第二次大戦中、敵と遭遇したときアメリカ軍の兵士100人のうち、自分の武器をとって発砲してたたかったのは15人から20人でしかない。残りは敵に発砲することなく、戦友の救出、伝令をつとめる、武器弾薬を運ぶといった、発砲するよりむしろ危険の大きい仕事をすすんで行った。それほど人間には同類たる人間を殺すことに強烈な抵抗感が存在する。
 発砲訓練のときの標的とちがって、生きて呼吸をしている敵に相対すると、兵士の圧倒的多数が威嚇段階に後退し、敵の頭上めがけて発砲してしまう。
 アレクサンダー大王は征服につぐ征服をくり返したが、敵の剣によって失った兵士はわずか700人だった。戦争の犠牲者は、戦闘(これ自体は、ほとんど無血の押し合いだった)が終わったあと背中を向けて逃げだしたときに殺された。つまり、白兵戦なるものは存在しない。接近戦で起きることは、一方が逃げだした他方を背後から襲う昔ながらの虐殺である。兵士は、さんざん銃剣訓練を受けていながら、戦闘になると敵の身体に突き刺す以外の方法で銃剣を使おうする。こん棒代わりに銃をふりおろそうとする。
 アメリカの南北戦争のとき、ゲティスバーグの戦いのあと戦場から2万7千挺のマスケット銃が回収された。このうち2万4千挺の銃には弾丸が装填されておらず、1万2千挺の銃には複数の弾丸が装填されていた。ということは、戦闘の最中に発砲できなかった、あるいは発砲したくなかった兵士がそれだけいたということ。これらの兵士は、発砲しないまま殺されたり、負傷したり、敗走した。
 第二次大戦中、撃墜された敵機の30〜40%は、全戦闘機パイロットの1%未満が撃墜したもの。ほとんどの戦闘機パイロットは1機も落としていないどころか、そもそも撃とうとさえしていなかった。第二次大戦中、アメリカ軍が精神的な理由から4F(軍務不適者)と分類して除外した男性は80万人いた。そのうえさらに50万人の兵士が精神的虚脱のために除隊した。
 戦闘を経験した直後のイスラエル兵に何が一番恐ろしかったか質問したとき、もっとも多かったのは「ほかの人間を死なせること」であり、これは「自分が死ぬこと」より多かった。
 前線の斥候に出る兵士は危険きわまりない任務だが、精神的ストレスを免れている。それは、斥候兵には面と向かって敵を攻撃する義務がないからだ。同じように、将校に精神的戦闘犠牲者が少ないのは、自分の手で殺す必要がないことによる。
 アフリカ系アメリカ人(黒人のこと)には、高血圧患者の割合がきわだって高いが、これは常に周囲の敵意に直面し、社会に受け入れられていないと感じ、それによってストレスを受けているから。人間は、好かれたい、愛されたい、自信をもって生きてゆきたいと切望している。意図的で明白な他者の敵意と攻撃は、ほかのなによりも人間の自己イメージを傷つけ、自信を損ない、世界は意味のある理解できる場所だという安心感をぐらつかせ、しまいには精神的、身体的な健康さえ損なってしまう。
 殺された兵士は、苦しみも痛みもそれきりだが、殺した方はそうはいかない。自分が手にかけた相手の記憶を抱えて生き、死んでいかなければならない。戦争の実態は、まさしく殺人であり、戦闘での殺人は、まさにその本質によって苦痛と罪悪感という深い傷をもたらす。
 ベトナム戦争において、アメリカ軍の狙撃兵は半年間で1245人を殺した。敵1人を殺すのに要した銃弾は平均1.39発。ベトナム戦争では敵兵1人殺すのに平均5万発の弾薬を消費しているのに・・・。しかし、その有効性にもかかわらず、狙撃兵による一対一の殺人には、奇妙な嫌悪感と抵抗感が存在する。戦争が終わると、アメリカ軍は狙撃兵からあわてて遠ざかる。戦闘中に不可能な任務を遂行するよう命じられた同じ男たちが、戦争が終わって気がつくと、不可触賤民扱いされている現実がある。
 銃殺刑を失効するときフードをかぶせたり目隠しするのは、死刑執行人の精神の健康を守るため。犠牲者の顔を見なくてすむことが一種の心理的な距離をもたらし、同種である人間を殺したという事実の否認、合理化、受容という事後のプロセスを容易にする。目は心の窓なのである。
 ベトナム戦争のとき、アメリカ軍は兵士の発砲率を高める訓練を実施した。これによって、兵士の発砲率は90〜95%にものぼった。これは脱感作、条件づけ、否認防衛機制の3方法の組み合わせだった。敵は自分とは異質な人間、いや人間でさえないと叩きこむ。そのうえで反射的かつ瞬間的に撃つ能力を訓練によって身につけさせられる。さらに、殺人行為の慎重なリハーサルとリアルな再現のおかげで、単にいつもの標的をとらえただけだと思いこむことができる。このためには、20歳前後の若者をつかまえなければいけない。成人して、人生経験を積んだ大人に戦争つまり人殺しを好きだと思いこませることは絶対にできない。
 ベトナム戦争を描いたアメリカ映画『フルメタルジャケット』で、新兵が殺人マシーンにつくりあげられていく様子が描かれているのを、まざまざと思い出しました。    
 戦争は人を変える。戻ってくるときには別人になっている。だから、戻るときには浄めの装置が必要だ。何日間も輸送船のなかで兵士同士で語りあい、故国に帰り着いたとき市民の感謝のしるしであるパレードの催しで迎え入れられる。このことによって社会に復帰できる。しかし、ベトナム戦争帰還兵にはそれがなかった。ベトナム帰還兵のPTSDの発病率は15%、40万人の患者がいる。彼らは一般人の4倍も離婚率や別居率が高く、ホームレス人口の大きな割合を占め、自殺率も高まっている。
 アメリカの殺人が急増し、刑務所人口が200万人といわれている原因も、ベトナムで発砲率を4倍以上に高めたと同じことが一般社会で広く使われていることによる。つまり、テレビと映画の暴力シーンだ。感受性の強い若者が暴力崇拝をたたきこまれる。テレビゲームも死の描写をますますリアルにしている。しかも、片親家庭が増大し、安定した父親像のかわりにテレビや映画の暴力的な役割モデルが存在する。家庭が崩壊してしまっている。暴力行為のひとつひとつがさらに大きな暴力を生み、ある一戦をこえると魔物をビンに戻すことは二度とできなくなる。
 著者は、アメリカ陸軍中佐で、ウェストポイント陸軍士官学校教授を歴任。レンジャー部隊や落下傘部隊の経験もあります。すごい本です。人間の本質を鋭く暴いた本として大いなる刺激を受けました。

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裏金・警察の犯罪

著:しんぶん赤旗取材班、出版社:新日本出版社
 警察が組織的に裏金をつくっていたことは何人もの勇気ある警察官による内部告発によって明らかになったと思います。北海道では方面本部長と署次長が実名で、福岡でも元と現の警部が匿名で告発しました。
 しかし、それを取りあげて連載したのは北海道新聞としんぶん赤旗くらいです。いくつかの新聞は集中連載しましたが、いかにも腰が引けていました。警察の仕返しが怖かったのでしょう。
 しかし、警察官がやったことでも公金横領行為に間違いないのです。明らかな犯罪です。
 ところが、検察庁も同じような調活費というのがあり、スネに傷があるので摘発できません。こんなことでいいのか。私も声を大にして叫びたい気分になりました。

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ハチがいる

著:千葉県立中央博物館、出版社:晶文社出版
 わが家の庭にもハチはよく来てくれます。お尻が丸くて大きなマルハナバチは、いつ見ても可愛いと思います。ミツバチの寿命はせいぜい2ヶ月、女王バチが8年も生きるのに比べると、なんだか哀れです。
 ミツバチは一度刺したら死にますが、それはミツバチだけのこと。ほかのハチは何度も刺すことができます。刺すのは巣を守ろうとするからで、巣から離れているハチは刺しません。ハチに刺されたら、アンモニアを塗るとよいと言われていましたが、今はアンモニアの害の方がよほど大きいとされています。
 植物はイモムシなどの害虫に食べられると、特別な匂いを出して寄生バチなど、害虫の天敵を呼び寄せています。巣のないハチも多く(80%)いるということも初めて知りました。ハチのことを知りたい人におすすめします。

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韓国ドラマ、愛の方程式

著者:小倉紀蔵、出版社:ポプラ社
 「冬のソナタ」がなぜ、こんなにも日本の女性(とくに中年以上の女性)にもてはやされるのか、独自の鋭い視点で分析しています。「冬のソナタ」は、韓国のドラマのなかでも極端に韓国性を希薄化した作品だ。監督自身も、韓国のドラマの類型からははずれた作品だと自認している。
 韓国の男性は全員マザコンだ。母親を尊重しない男性は若い女性から嫌われ、結婚の対象としてもらえない。えーっ、これって日本と違いますよね・・・。
 現実の韓国は、ドロドロした欲望のうずまく弱肉強食の世界であり、道徳的な社会では全然ない。しかし、韓国社会は道徳志向的な社会なのである。韓国では招き猫は、もっとも招かれざるおみやげだ。韓国人は猫が嫌いなうえに、伝統的に人形も嫌いだから。猫は自分勝手で人の言うとおりにならず、自分の世界を守るから、韓国人は猫が嫌いなのだ。
 なるほど、なるほどと何度も思わず手をうちながら読んでしまいました。

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東横インの経営術

著者:西田憲正、出版社:日本評論社
 あの日評がビジネス書を出すのか。不思議な気がしました。ただし、内容はごく真面目なビジネスに役立つ本です。
 実は、私は東横インに一度も泊まったことがありません。東横インにはアダルト・ビデオがないからというのでは決してありません。狭すぎる部屋は圧迫感があって息苦しいからです。でも、東横インは安い割には広いベッドで、何より清潔感にあふれているそうです。その秘訣は、ホテルの支配人がなんと全員40代以上の女性に限られていて、男性社員がいないという点にあります。私は常々、日本社会は女性が支えている。日本の女性(とくにおばさんたち)はたくましいと日頃の体験を通して痛感していますが、この本でもその点が実証されています。
 まったくホテル経験のない素人の女性をはじめから支配人として採用し、研修期間を終えたらオープンするホテルで支配人を実地にやってもらうというのです。あまりにも大胆です。マックみたいな分厚いマニュアル本なんか全然ないのです。すごい発想です。
 東横インの正社員は660人、パートを含めると2500人。このうち男性は20人もいないそうです。男性お断りの会社なのです。そして驚くべきことに、ホテル稼働率が8割はあり、それが75%を割ると、月1回の支配人会議において自分の名札が赤札となります。罰金はありませんが、みっともない状態を脱するために奮起せざるをえません。
 勤続10年のベテラン支配人は年収570万円。このほかに、「お小遣い」が成績によってはもらえます。朝、チェックアウトのとき「行ってらっしゃい」と声をかける。名簿をいつも見て名前を覚えるようにして、チェックインのとき、名前で呼びかける。こんな支配人の創意・工夫によって、稼働率が上がるといいます。東横インのリピーター率は6割近いというのにも驚きました。朝食がタダとか、なるほどねー、・・・・と思いながら読みとおしました。

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名将・秋山好古

著者:生出寿、出版社:光人社NF文庫
 日露戦争のとき、日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を日本海軍が破ったときに活躍した秋山真之の兄が秋山好古です。同じ日露戦争のとき、陸上の奉天会戦などで騎兵をひきいてロシアのコサック部隊をうち破ったということで名をあげました。
 実は、私の母の異母姉の夫が中村次喜蔵といい、のちに陸軍中将となって敗戦時に満州でピストル自殺しましたが、この人が秋山好古大将の副官をつとめていたことがあるというので、読みました。
 秋山好古は若いころ、4年間もフランスにいてフランス語がペラペラでした。久留米の明善高出身の中村中将も英語が得意でした。秋山好古は司馬遼太郎の『坂の上の雲』にも登場します。日露戦争の大会戦はロシアのクロポトキンの失敗によって辛勝したというのが実態のようですが、このあと日本は勝った、勝ったと浮かれてしまい、あとで手痛いシッペ返しをくらうことになります。

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陶磁器の修理うけおいます

著者:甲斐美都里、出版社:中央公論新社
 お皿やお茶碗やお人形さんなど、陶磁器が壊れてしまった。さあ、どうする・・・。そんなときの頼もしいお助けマン(いや、ウーマン)がいます。
 修理と修復という言葉に違いがあるというのを初めて知りました。修復は、用途は別にして、壊れた陶磁器の外観を元の状態に戻すこと。修理は、壊れた陶磁器を、外観は別にして、元通り使える状態に戻すこと。つまり、両者はまったく似て非なるものなのです。
 そして欧米では修復が常識です。ですから、元通りに使うことは念頭にありません。ですから、何度でも修復可能な程度にとどめるのが理想形なのです。
 もちろん、日本はそうではありません。修理したものは、一見してそれと分かっても欠損品としての二級品扱いされないどころか、むしろ「格が上がった」「景色がついた」として評価が上がることさえあるのです。この点は、欧米人の常識には絶対にあいません。
 中国映画の『初恋の来た道』(私の絶対のおすすめ映画です。まだ見ていない人はDVDを買って、ぜひ見てください。決して損はしません。見終わったとき、心がホンワカ温まっていること間違いありません)では、お皿の欠けたのを直してくれる行商人が出てきますが、少し前まで、日本でも同じような行商人がいました。
 日本の修理には漆(うるし)と金箔をつかいます。日本で使う金箔はなんと厚さが1万分の1ミリです。手にとってすりこむと肌の中に消えてしまうほどの薄さだそうです。だから、ハケのようなもので扱います。
 なるほど、なるほど、と思いながら読みました。

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2004年11月 1日

容姿の時代

著者:酒井順子
 見かけは大事だ。最初の判断基準は外見しかないんですから。でも、外側だけ固めても中身が空だと、意味ないから。はき違えているすべての人に申し上げます。

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女のとなり

著者:乃南アサ
 妬・始・妖・好・・・つまり、女のとなりとは、おんなへんの漢字を集めて、いろいろと書かれているのですが、なるほどなるほど・・女って怖い、強い、すごい。

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見たことも聞いたこともない

著者:原田宗典
 待ってました、待ってました・・・とてもよかったです。「これってエッセイなの?でも・・んんん?」という原田宗典愛読者にとっては「ハイセンスハイクオリティーエッセイ仕立て短編小説」だと思いました。

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若者たちに何が起こっているのか

著者:中西新太郎、出版社:花伝社
 日本の若者を理解するうえでの必読文献だと思います。私は、何度もなるほど、なるほどとうなずきながら読みました。
 ここ20数年間の社会・文化変動の結果、世代間ギャップが歴史上かつてないほど深くなっている。ギャップの深さが類例をみないほど深いという点は日本社会に特徴的だ。韓国社会が日本社会に近いが、それ以外は、どこの国をみてもこれだけギャップの大きいところはない。35歳から40歳が世代間の大きな区切りとなっている。たとえば「エヴァンゲリオン」の中身が理解できるかどうかで大体区別できる。
 社会的に高い地位を占めるという望みを、70年代後半から80年代以降、日本の若者はもたなくなった。企業社会秩序、会社主義の秩序が動かしがたいものと意識され、かつその秩序のなかでの地位上昇を想像しえなくなったから。
 大学へ行く、専門学校へ行く、高校を出て就職するというのが、すべて3分の1で固定的になっている。1975年前後から変わらない。
 自分もふくめて、人間がなぜこの社会に存在していいのか、あるいは存在する権利があるのか、そもそもそういう自分という存在が自分といえるのはどうしてなのかということが感覚として分からない。これが出発点にあるので、人権が大切だと言っても、お題目、たてまえしか聞こえない。人権は人によって違いがあるという感覚が若い世代だけでなく、日本社会に広がっている。人権とは、人間に等しく与えられた、人間が等しく持っている権利だと思っている人の方が少数になってきている。
 青少年に公共社会の構成員であることを徹底的に断念させ、忌避させる点でも、日本社会はきわだった特質をそなえている。青少年の生活と意識とは、普通の状態では、公的、社会的な意味で無視されていても平気でいられるように方向づけられている。
 日本の若者を理解するのには相当の努力が必要のようです。

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客人(ソンニム)

著者:黄?暎、出版社:岩波書店
 「現代韓国最高の作家」が朝鮮戦争の真実を語った小説です。まさに朝鮮民族の悲劇があますところなく描かれています。
 最近の韓国映画『ブラザーフッド』にも、北朝鮮軍による人民虐殺と捕虜殺害のシーンがありました。あれは歴史的な事実だと思います。しかし、同時に韓国軍の方も、北朝鮮の人々と人民軍捕虜を虐殺しています。
 この本は、これらの事実をきちんとふまえつつ、北朝鮮で人民軍シンパ層を虐殺したのが、キリスト教信者であったことを明らかにしています。「汝の敵を愛せ」ではなく、「敵は殺せ」を実践したのは、熱心なキリスト教徒たちだったのです。
 キリスト教とマルクス主義は、考えてみれば、一つの根から生えた二つの枝であった。
 済州島四・三事件のときに島民虐殺で名をはせた西北(ソブク )青年団はキリスト教徒を主体としていた。
 うーん、キリスト教って、いったいどんな宗教なのか、改めてそのことも考えさせられる小説でした。同じ民族同士、顔見知り同士が、イデオロギーの違いで殺しあった朝鮮戦争の痛手を韓国はまだ克服しきれていないように思えます。

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民法編纂と明治維新

著者:坂本慶一、出版社:悠々社
 現職の裁判官が、明治はじめの日本民法がつくられていく過程を解明している本です。大変分かりやすい本でした。
 日本民法の基礎をなしているのはドイツ法ではなく、フランス法だというのは、私も大学で学んだ気がします。ボワソナードが活躍したことは有名です。それは、江戸時代末期にフランスと徳川幕府が親密な関係にあったうえ、フランスほど日本と似かよった国情と国民性をもつ国はないと考えられていたことによるというのです。初めて知りました。
 ただ、この本が、江戸時代、金銭貸借をめぐる訴訟はあまりなかったかのように書いている(38頁2行)のは間違いだと私は思います。『世事見聞録』をはじめ、江戸の庶民は、相手が武士であろうとなんであろうと、どんどん裁判を起こしていたと
いうのが真実だと思います。
 江藤新平について論じた部分は、なるほど、そうだったのか、うん、そうだろうと思わせるところ大でした。江藤新平は司法卿になり参議になって、民法その他の法律制定に大きく貢献しています。ただ、そのやり方はかなり強引だったようで、数多くの敵をつくってしまったようです。
 江藤新平は国権を重視する考え方で一貫しており、決してラディカルな民主主義者ではなかった。江藤新平は、あくまで尊皇、国権主義者であり、自由民権につながる思想は有して居なかった、と著者は指摘しています。なるほどと思いました。それにしても、江藤を憎んで、「臨時法廷」にのぞんでまで死刑を督励していた大久保利通には呆れてしまいます。まさに、国家権力の不正行使の権化とも言うべき存在です)

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ヤンキー、弁護士になる

著者:金崎浩之、出版社:講談社
 暴力団組長の妻だった大平光代弁護士の本『だから、あなたも生き抜いて』(大平光代、講談社)を読んですごく心をうたれたことを思い出しました。いま大平光代弁護士は大阪市の助役をしています。
 こちらは、元暴走族のリーダーをしていた青年が偏差値38、高校退学そして定時制高校を経て大学に入り、ついに司法試験の合格するという話です。子どものころの荒れようは読む人の心を寒からしめます。ともかくケンカづくめの毎日です。番長をめざして一対一でケンカしたり、集団乱闘事件を起こしたり、学校からも親からも愛想を尽かされます。
 高校を退学させられて働きはじめ、労働の単調さに愕然とし、再び学校に戻る気になります。入った定時制高校で教師にめぐりあい、勉強の意欲を燃やし、ついに大学入学に成功するのです。基礎がなくて勉強するのは本当に大変だったと思います。一点突破の勉強法でそこを乗り切り、大学ではESSで活動します。そして司法試験に挑戦。すごい根性の人間(ひと)です。
 それにしても、非行に荒れるわが子を放りっぱなしにする父親って私にはとても信じられません。でも、多いんですよね・・・。会社(父親は銀行員)では猛烈社員だったようですが、子どもと対話をしようと思わなかったことが不思議でなりません。家庭に楽しみがなくて、仕事(会社)って、そんなに面白いものなんでしょうか・・・。誰か、その心境を教えてください。

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ガラスのお腹

著者:海月まき子、出版社:新風舎
 22週5日で赤ちゃんが生まれました。体重はわずか520グラムです。身体の皮膚もまだ完全にできていません。目も完成しておらず、まぶたの切れ目がありません。皮膚ができていないため、母親も触れることができません。
 体重は生後12日目に420グラムにまで下がりました。哺乳瓶の乳首も普通のものは大きすぎて吸えません。子犬用の哺乳乳首をつかってみます。体重が1キロをこえたのは、5ヶ月たってから。1歳の誕生日を迎えて、ようやく2キロになりました。
 人間の生命力ってすごい。改めて感心させられました。そして母親の愛情は偉大です。

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2004年11月15日

裁判員制度と国民の司法参加

著者:鯰越溢弘、出版社:現代人文社
 裁判員制度は既に法律が制定され、5年後に施行されることになっているのに、弁護士のなかには、まだ非難するばかりの人が少なくない。被疑者・被告人の人権保障の充実こそが裁判員制度の目標であるべきだという人も多い。
 しかし、私は、裁判員制度は国民の司法参加の一形態であって、陪審員制度の実現にまでは今回いたらなかったが、必ず陪審員制度を実現するためにも、裁判員制度を成功させて制度としての定着を図る必要があると考えている。そして、その不十分な点を改善するなかで、陪審員制度へ一歩一歩近づけていかなければならない。
 ところで、裁判員制度については、裁判官による裁判を受けられなくなるので憲法違反という声があった。この本を読んでその疑問が解消した。
 日本国憲法32条や37条の「裁判所」の英原文はcourtではなく、tribunelである。courtは、裁判官で構成された通常の裁判所を意味し、tribunelは司法ないし準司法的な機能を果たす機関を意味し、広い意味では通常の裁判所も含む。tribunelの普遍的な特徴は、主催者は法曹資格を有していても、その大半または全員が素人によって構成されていることである。したがって、憲法32、37条の裁判所は、裁判官のみで構成される通常裁判所ではなく、素人を構成員として含む陪審員裁判所を意味している。そもそも歴史的に言うと、陪審員制度は市民の自由を守るための裁判制度として創出されたわけではなく、むしろイギリス国王が行政執行のために必要とする情報を収集するための便宜として使われていたものである。しかし、その後、絶対王政に抵抗した政治犯を無罪とする評決を通じて、陪審裁判が自由の砦として認識されるに至ったものである。うーん、そうだったのか・・・。
 陪審制度は、普通選挙と並んで、司法制度における国民主権の象徴的表現である。民主主義的な憲法体制においては、市民が直接に裁判に関与する陪審制度が望ましい。陪審制は、何よりも政治制度なのである。私も、著者と同じく、裁判員制度が陪審制実現への一里塚になることを心から願っている。

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封印される不平等

著者:橘木俊詔、出版社:東洋経済新報社
 日本の平等神話が崩壊していることを指摘した本です。
 数億円もする高級マンションがすぐ完成になる一方、駅や公園にはホームレスがあふれています。ところが、もっと競争原理を導入して、なんでも自由に競争させればいいという主張が政府や財界から声高にとなえられています。
 しかし、競争はせいぜい社会全体の2割ほどの人にしか開かれておらず、残る8割は、はじめから競争にアクセスするチャンスが奪われている。8割の人の意欲を無視してしまうということの非効率を忘れてはいけない。
 自由競争を主張している人々は、実は自分が恵まれた環境のなかで上にのしあがってきたのに、それを認めたがらない。それを認めるだけの強さをもっていない。その辛さに耐える強さを失っている。
 政府は、最高税率を70%から37%へと劇的に下げた。再分配政策を通じて課税後の不平等に貢献している。
 アメリカは自由競争社会だというのは真実に反する思いこみだ。本当はコネ社会であり、学歴社会だ。どの大学を出たかで、ビジネス・チャンスがまったく違う。
 かつての日本は努力すればナントカなる社会だった。しかし、最近では努力しても仕方のない社会になりつつある。子どもに勉強しようという意欲をもたせないような世代間の連鎖が冷酷に社会に存在している。
 親は教育・職業ともに上層階級にあり、所得も高かったことを忘れ、あたかも自分の成功は努力で競争にうち勝ったことによってもたらされたと思いこんでいる。親子間で不平等が連鎖していることに気がつかないか、見たくない、あるいはさわりたくないという気持ちがある。本人の成功は実は家庭環境が優れていたからこそ、達成された側面があるのに、あえてそのことに目をつぶり、世の中には機会の不平等は存在しないと考えているひとがけっこう多い。
 私にも心あたりのある指摘です。本当に恵まれた環境にあったと思います。だから、私は、環境の平等をもっと大切にすべきだと思うのです。不平等は不公正につながり、犯罪多発につながっていきます。アメリカのように怖い社会になったらおしまいです。決してアメリカをモデルにしてはいけません。

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うそつき病がはびこるアメリカ

著者:デービッド・カラハン、出版社:NHK出版
 ニューヨーク信用組合は創立80年、組合員の多くは消防士や警察官。9.11のあと、ATMが監視されず、いくらでも現金が出せる期間が1ヶ月ほども続いた。4000人もの組合員が自分の預金以上のものを引き出した。組合が手紙を出して返還を求めたが応じない組合員は多く、結局、1500万ドルが戻らなかった。そこで、ついに警察が捜査して大量の逮捕者が出た。
 一流の法律事務所に入るには、大学時代の成績が優秀で、LSATで高得点を得て、膨大な学生ローン(平均8万ドル)をかかえこむ覚悟が必要だ。新人弁護士の給与は年俸12万5千ドル。契約金は4万ドル。しかし、大変な特権と同時に過酷な体験をさせられ、信じられないほどのストレスにさらされる。週80時間は働かされる。そして、いつの日かパートナーになれる可能性は今やゼロに等しい。
 90年代、アメリカの弁護士の辞典に「スカッデノミクス」という新語が登場した。ファッスク代や長距離電話代などの基本的な事務費を、五つ星ホテル並みの法外なレートでクライアントに請求する慣行のこと。
 年間2200時間とか2400時間労働があたりまえというノルマを達成できる弁護士はほとんどいない。せいぜい1700時間から1800時間だ。しかし、それでは上司に叱られる。そこで、弁護士の仕事で今もっともはやっている分野のひとつが、他の弁護士の請求書を調べて水増し請求をくいとめようというもの。
 アメリカでは、大学を出ていない人の初任給は14%も減少した。労働者全体の4分の1にあたる3000万人の労働者が年収1万9000ドル以下。
 アメリカは、いまゲーテッド・コミュニティが5万をこえ、700世帯が住む。70年代初めには全米に2000しかなかった。そこは、周囲を門とフェンスで囲って住民と訪問者以外は入れないようにしたところ。カリフォルニア州では、新築住宅の40%がゲーテッド・コミュニティ内に建てられている。
 IRS(内国歳入庁)が脱税に甘くなって高額納税者は間違いなく得をした。1988年以来、低額納税者に対する調査率は3割も増えているのに、高額納税者に対しては90%も減少した。彼らは税金専門の弁護士や会計士を雇って抵抗するので、低額納税者の方が扱いやすいからだ。
 現代アメリカの真実の姿を知ることができる本だと思いました。

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全員反対!だから売れる

著者:吉村克己、出版社:新潮社
 世の中の発明というのは、どうせ、そんなことできっこないよ、できるはずがないという固定観念を打破してはじめてうまれるものだ。
 なるほどと私も思います。この本は、そのことをいくつかのヒット商品を通じて明らかにしています。私の知らない発明がいくつも紹介されていますが、なかでも自動包あん機は、ヘー、なるほどと唸ってしまいました。大福や饅頭そしてクロワッサンなどを自動的につくる機械を日本人が発明し、全世界で利用されているのです。ストレスフリー・システムというそうです。世界に競合する企業はないというのですから、たいしたものです。これも流動学(レオロジー)で、食材の状態を数値化していった成果だといいます。本当になんでも数字であらわすことができるんですね。びっくりします。
 トヨタ・カローラもとりあげられています。初め、えっ、なんでカローラが、と思いました。しかし、カローラは1969年からなんと33年連続で国内乗用車登録第1位。生産台数2700万台。世界140ヶ国で年間100万台がつくられている。まさに、お化けのような車です。どうして、こんな車が可能になり、また、その可能性が続いているのか。やはり、コンセプトの違いだと思いました。
 大逆転って、あるんだなあと、つくづく思いました。

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悩める自衛官

著者:三宅勝久、出版社:花伝社
 自衛官の自殺が年々増えているそうです。1995年度、44人。98年度、75人。99年度、62人。00年度、59人。02年度78人。03年度は90人(予想)。
 ただし、日本全国の自殺者が3万人をこえていて、人口10万人あたりの自殺率30人ほどというのに対比させると、25万8000人の自衛隊のうち自殺者が80人ほどというのは、全国平均程度かやや上まわるくらいです。
 自殺の原因は、うつ病など精神疾患を原因とするものが8割で、最近は借金によるものが急増しています。防衛庁は『借財隊員への接し方』というマニュアルをつくって内部に配布しています。自殺するのはヒラの隊員よりも、むしろ幹部や中堅クラスの隊員に多いという話も出てきます。
 佐世保の海上自衛隊に所属する護衛艦「さわぎり」内での上司によるいじめが原因で息子は自殺させられたということで国を訴えている裁判が目下、進行中です(佐世保支部)。
 自衛隊内部ではいじめがかなり横行している気配です。いくら上司の命令に絶対服従の兵士を養成するためといっても、上官による勝手ないじめが許されていいはずはありません。

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故事成句でたどる楽しい中国史

著者:井波律子、出版社:岩波ジュニア新書
 中国の故事成句には、私の知らないものがこんなにある(忘れたのもたくさんあります)と知って、愕然としました。
  殷鑒(いんかん)遠からず・・・自分の戒めとすべき手本はすぐ近くにある。
  狡兎死して走狗烹(に)らる・・・敵がいなくなると、功績のあった臣下は邪魔になり殺される。
  鹿を指して馬と為(な)す・・・まちがったことを他人に押しつける。
  梁上の君子・・・梁(はり)の上に潜んでいた泥棒。
  脾肉(ひにく)の嘆・・・実力を発揮する機会のないことを嘆く。
  風声鶴唳・・・臆病風に吹かれた者がわずかな物音にも仰天すること。
  騎虎の勢い・・・事を計画して中途でやめようと思ってもやめられない。乗りかかった船だ。
 国家の不幸は詩家の幸い・・・詩人の皮肉な運命
 中国は、なにしろ6000年の歴史をもつ国です。人口も12億人以上。巨大な国です。故事成句で学ぶべきところが多いのも当然でしょう・・・。

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経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか

著者:C.ダグラス・ラミス、出版社:平凡社ライブラリー
 日本政府は前文と憲法9条の政策を今まで一度も実現しようとしたことがない。一貫してアメリカ軍が日本にいて、日本の軍事防衛はアメリカの軍事力に頼っている。「核の傘」のなかに入っている。だから、日本はまだ前文と第9条の平和主義を試したことがない。
 日本政府は本当の意味での平和外交をやったことがない。中立であったこともない。
 アメリカは次々に戦争を起こしてきたけれど、その敵は、いつも日本の敵にもなった。日本は一貫してアメリカの同盟国としてつとめてきた。
 国家は誰を殺しているのか?
 自分の国民しか殺さない軍隊をもっている国はたくさんある。20世紀は戦争の世紀だったが、もっとも多く人が殺された戦争は、国家間の戦争ではない。国家が殺した2億人のほとんどが戦闘員ではなかった。
 憲法とは、政府に対する国民の命令なのである。
 前文は、「日本国民は」という主語に始まり、憲法の本文は、政府がやっていいことと、やってはいけないことが細かく書かれている。主権在民憲法とはそういうもの。国民は政府に交戦権をもたせないようにした。
 奴隷の定義は余暇のない人間である。
 となると、今の日本社会はどうなのか。勤務時間外にほとんど暇がない状態が日常的だとしたら、我々は奴隷と同じことではないのか。
 経済成長至上主義は、もう止めるべきだ。ずい分前からそう言われてきました。しかし、まだまだ成長率を競っている社会です。著者は、一刻も早く頭を切りかえる必要があると強調しています。私も同感です。

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