弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年11月10日

韓国の軍隊

著者:尹載善、出版社:中公新書
 大韓民国憲法39条には、すべての国民は国防の義務を負うとあるそうです。日本国憲法にそんな義務がないのは幸せです。その韓国の兵役義務の実情を教科書的に紹介した本だ。そう思って読んでいました。2年間の兵役で人生にとって大切なことを学んだという体験談が何度も紹介されていて、嫌になっていきました。しかし、読みすすめるうちに、この本の著者は、必ずしもそれを強調したいわけではないことが分かりました。
 韓国で徴兵制がはじめて実施されたのは日本の植民地時代であった1944年のこと。終戦で廃止され、朝鮮戦争のとき(1951年5月)に復活したのです。
 韓国人の男性がみな兵役を歓迎しているのではありません。兵役逃れも横行しています。有名な俳優が何人も徴兵逃れで評判を落としました。子どもにアメリカ国籍をとらせて兵役を逃れさせようとしている親も少なくありません。遠征出産という言葉があるのです。
 韓国の人口は4800万人。うち70万人が軍人。徴兵制のもとで2年間の兵役を終えた韓国人男性は、10人の部下をもつ分隊長という兵長で除隊することが多い。彼らは軍隊で多少なりとも権力の甘美さを味わう。軍隊で身についた「長」に対する憧れは、社会組織全体に反映され普遍化されていく。兵営生活は、人が権力を志向する上昇型人間に変身する契機となっている。軍事文化が支配してきた社会では権力志向型人間が量産される。そのため、人間の尊厳性が喪失する社会構造が形成されていく。もっぱら出世することだけが最高の価値となってしまうのだ。
 軍隊がのさばる社会は、人間が大切にされない異常な社会です。

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