弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

ヨーロッパ(リトアニア)

2019年11月17日

消される運命


(霧山昴)
著者 マーシャ・ロリニカイテ 、 出版  新日本出版社

リトアニアにおけるユダヤ人虐殺の話です。読んで、とても悲しくなります。まったく救いがありません。
リトアニアは第二次世界大戦の前は、一応、独立国だった。1939年、ソ連軍がリトアニアに進駐して、リトアニア人をシベリアに送ったりして恐怖支配した。
ところが、1941年6月22日、ソ連軍は撤退し、ナチス・ドイツ軍がリトアニアに侵攻してきた。そして、すぐにリトアニア人の協力を得て、ユダヤ人を組織的に殺害しはじめた。
「男狩り」として、「収容所に送って、労働従事に従事させる」と言いながら、ナチス・ドイツ軍はすぐにユダヤ人の男性全員を森に連行して銃殺した。
ヒトラーの占領軍は、3年間に10万人のユダヤ人を銃殺し、森の中に埋めて隠した。そして、敗色が濃くなると、ナチス・ドイツ軍の残酷な証拠を残さないよう、1943年12月から埋めた死体を掘り起こして焼却した。
作者は、ゲットーに収容されつつも、戦後まで生きのびて、過去のことを記録して語り伝えた。わずか140頁の本ですが、読みすすめるのがとても辛くて、とても読み飛ばすことはできませんでした。
リトアニア人がナチス・ドイツ軍のユダヤ人殺害に手を貸していた事実が淡々と描かれていて、大変気が重くなります。
ドイツの占領前に23万人のユダヤ人がリトアニアにいたのですが、1941年末までに17万5000人が殺害され、戦後の今はリトアニアにユダヤ人はほとんどいないようです。悲しい話ですが、目をそむけるわけにはいきません。
(2019年8月刊。1800円+税)

2019年6月22日

ナチスから図書館を守った人たち


(霧山昴)
著者 ディヴィッド・F・フィッシュマン 、 出版  原書房

リトアニアのユダヤ人・ゲットーでユダヤ人の図書を守った人たちの話です。
メンバーは「紙部隊」と呼ばれ、本や書類を胴体に巻きつけて検問所にいるドイツ軍警備兵の前を通過して、ゲットーにひそかに持ち込んだ。万一見つかったら、銃殺隊によって処刑される状況下でのこと。
ヴィルナはドイツ軍から解放されたあと、生き残った紙部隊は、隠し場所から文化的財産を回収した。ところが、次にヴィルナを支配したソ連当局はユダヤ文化に敵意を抱いていた。そこで、再び宝物を救い出し、本や書類を国外にこっそり運び出すことになった。
ユダヤ人の生活では、本が至高の価値をもっている。
ゲットー図書館は、もっとも残虐な行為のあった1941年10月、図書館への登録者は1492人から1739人に増え、7806冊の本を貸し出した。1日平均325冊のほんが借り出された。すなわち、つらいパラドックスがあった。大量検挙があると、図書の貸し出し数が急増したのだ。読書は、現実に対処し、平静さを取り戻す手段だった。
なるほど、しばし頭の中だけは別世界に生きることができますからね・・・。
読書は麻薬であり、一種の中毒で、考えることを回避するための手段でもあった。子どもたちは、図書館の熱心な利用者であり、他の年代よりも一人あたりの読書量は多かった。
閲覧室にやってくるのは、本を借りる人よりもエリート層が多かった。多くは学者と教育者で、図書館は、その仕事場になった。閲覧室は、静寂、休息、威厳を必要とする人々にとって、避難所だった。
ヴィルナのゲットーで読書が盛んな理由は・・・。
読書は生存のために闘うときの道具だ。緊張した神経をやわらげ、心理的な安全弁として働き、精神的肉体的に崩壊することを防ぐ。小説を読み、架空の英雄たちを自分に重ねあわせることで、人は精神的に高揚し、生き生きしてくる。
紙部隊のメンバーたちは、もうじき死ぬにちがいないと信じていたので、残りの人生を本当に大切なものに捧げることを選んだ。
本は少年時代に犯罪と絶望の人生から救ってくれたものだったから、今度は恩返しとして、本を救う番だ。
1943年7月半ば、ドイツ軍はゲットーのパルチザン連合組織FPDの存在を知った。とらえられたポーランド人共産主義者が拷問によって口を割ったのだ。ドイツ軍はFPDの司令官を知り、ユダヤ人評議会に対して引き渡しを求めた。さもないと2万人のゲットー住民全員を処刑すると脅した。1人の命か2万人の命かと選択を迫られ、FDPのヴィテンベルク司令官はドイツ軍に投降し、とらわれの身のうちに自殺した(らしい)。幻想だったわけです。
ゲットーの住人たちは、すぐに殺されるとは考えてなかったので、蜂起することを拒否した。強制労働収容所に移送されても生きのびられると期待していた。
ユダヤ民族の文化を守り、次世代への継承していこうと必死の覚悟で奮闘した人々の姿を知り、頭の下がる思いでした。やっぱり紙の本も大切なのですよね・・・。
(2019年2月刊。2500円+税)

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