弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年10月 1日

朝陽門外の虹

著者:山崎朋子、出版社:岩波書店
 私は、大学1年生のとき、先輩に誘われて5月病の危険もあった心の空間を埋めるべく、耳慣れないセツルメントなる学生サークルに入った。以来、大学を卒業するまで、どっぷりセツラー生活に浸った。この本は久しぶりにセツルメント・ハウス(愛隣館)が登場し、本当になつかしかった。私の活動した地域はスラム街ではなく、下町の労働者住宅地であったが、そこにもセツルメント診療所があり、学生セツラーのためのセツルメント・ハウスがあった。
 この本は、東京の桜美林大学の創始者である清水安三(敬称は略させていただきます)が、戦前の中国・北京のスラム街のまっただなかに少女たちを集めて学校をつくった経緯を紹介している。もっとも成績優秀な女の子が、実は小さな娼婦であったこと、それを知りながら日本に送って勉強させたが、帰国して教員にしたところ中国人の父兄から排斥されたことなども語られている。
 この女学校には中国人だけでなく、朝鮮人も日本人も学んでいて、戦後まで無事に生き延びて活躍した女性からの聞きとりもあり、涙なくしては読めない。中国大陸に侵略した日本人がすべて残虐行為ばかりしていたわけではないということを知って、少し救われた思いだった。

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稼ぐ仕組み

著者:小川進、出版社:日経新聞社
 ロイヤルティーをとらないフランチャイズ・チェーンがあるのを初めて知りました。それどころか、年間売上げの0.6%がリベートをして加盟店に支払うというのです。もちろん、ここでも契約当初500万円を本部に預けます。しかし、脱退するときには、全額が返されるのです。別に、保証金150万円、月3万円の負担金のみで、売り方の指導が受けられるというフランチャイズもあります。いずれも、消費者に衝動買いをさせるような品ぞろえと売場のつくり方が指導されます。返品しない問屋というのもあるそうです。この本を読むと、商売の奥義は底深いものがあるとつくづく思いました。

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百万分の一の歯車

著者:松浦元男、出版社:中経出版
 米粒の上に小さなコンペイトウがのっているのかと見間違える写真があります。なんと100万分の1グラムの歯車が100個以上もひしめいているのです。使い途は、これから考えるというモノつくりの発想に驚嘆してしまいます。この本には多くの弁護士がお世話になっている中小企業のあり方について、教えられるところが多々あります。
 中小企業は、価格、規模、品ぞろえの3点で他社と競争してはいけない。技術があれば高い価値のものを生み出すことができ、価格競争にさらされることがない。株主に配当を出すような中小企業は、そのうちつぶれる。配当を出すより、社員が安心して働ける場をつくることが中小企業の経営者のつとめである。採算の合わない健全な部門をもっていない会社はいつか没落する。先着順に採用する。動機と機会を与えれば若者は伸びる。人材を育てるには規則をつくらないこと。規則が一番の諸悪の根元。零細企業の経営者であることが多い弁護士にとっても示唆に富む本です。

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万里の長城、攻防三千年史

著者:来村多加史、出版社:講談社現代新書
 私も万里の長城には2回のぼりました。八達嶺と嘉峪関です。
 どうしてこんな長城をつくったのか。本当に役に立ったのか。そんな疑問をずっと抱いていましたが、この本を読んで少し疑問が解消しました。長城には見張り台兼ノロシ台がありました。その構造が図示されています。
 もちろん、長城をつくただけで国を守れるわけではありませんでした。内部の支配体制が内紛などでガタガタになっていたら、外敵にかなうわけはないのです。新書版ですから、コンパクトな解説書として、すっと理解できるところがありました。

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身近な雑草のゆかいな生き方

著者:稲垣栄洋、出版社:草思社
 ガーデニングをこよなく愛する身としては、雑草の生き方をとても愉快に表現することはできません。むしろ、正直いって炎天下に雑草取りをさせられてクラクラしそうになる憎い敵でしかありません。でも、この本を読むと、そんな雑草ではありますが、必死に生きのびる工夫をしていることが分かり、敵ながらアッパレとほめてやりたくもなります。
 ひところセイタカアワダチソウが花粉症の主犯として騒がれていましたが、今では冤罪だったことが明らかにされています。しかも、セイタカアワダチソウは、自家中毒症のためひところの勢いを失ってしまいました。
 わが家の庭にも踊子草(オドリコソウ)が咲きます。植えた覚えはありませんから、これも雑草です。伊豆の踊子を連想させる可憐なピンクの小さな花を咲かせます。だから、雑草だからといって抜く気にはなれません。
 オオバコは踏まれ続けなければ生存できない宿命にあります。踏まれには強いけれど、ほかの植物との生存競争には弱いからです。わが庭の当面の強敵はハマスゲです。地下に塊茎をもっていますから、地表に出ているところを刈りとってもすぐに生えてきます。なべて生き物は、たくましいのです。

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モテたい脳、モテない脳

著者:澤口俊之・阿川佐和子、出版社:KKベストセラーズ
 阿川佐和子の超真面目な対談集です。6歳までの子どもにテレビを見せると脳に悪い。テレビはパラパラ変わる刺激があるけれど、子どもは単に見ているだけで脳は働いていない。集中力が落ち、注意力が散漫になる。テレビゲームも脳(前頭連合野)を使わないので、子どもの成長にとってよくない。子どもにとってよいのは、外で、子ども同士で遊ぶこと。
 人類の歴史は連綿と続いてきたように見えるが、実は、ごく一部の人たちの遺伝子しか伝わらない。今の人類も、20万年ほど前にアフリカに住んでいた数千人の人たちの遺伝子を受けついだもの。人間とは何かを考えさせてくれる刺激的な面白い本です。

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『心』と戦争

著者:高橋哲哉、出版社:晶文社
 福岡の小学校の通信表(通知表)に神社の絵があるなんて、知りませんでした。えーっ、と驚いてしまいました。「心のノート」をつくった主要なメンバーは、戦後の経済的繁栄は教育勅語のおかげだといっています。しかし、教育勅語で心の教育を受けたはずの人々が、あの侵略戦争の原動力になったのではないでしょうか?
 それにしても、いまの日本の報道は、なぜ、あんなにも画一的なのでしょうか。どの新聞も政府の統制を受けていないはずなのに、見事に共通パターンで大見出しも記事もつくられています。選挙が始まりましたが、小選挙区制の問題点にふれることもなく、ひたすら二大政党制による政権交代の可能性を追求し、弱者の視点からの報道を置き去りにしています。日本人に再び戦争への道を走らせる道具だてがつくられつつあることを実感させられる本です。

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欺術

著者:ケビン・ミトニック、出版社:ソフトバンク
 ケビン・ミトニックは「史上最強のハッカー」として有名だ。富士通もアメリカで被害にあっている。逮捕されて禁錮5年の実刑判決を受けた。2000年1月に連邦刑務所から出て、本年1月に保護観察期間も終了した。今では企業側に立ってセキュリティのコンサルタント会社を営んでいる。この本は、その立場で実戦的なハッカー対処法を明らかにしている。
 この本で紹介されている犯行の手口を読むと、たとえば、かかってきた電話の番号表示も簡単にごまかせることが分かる。アメリカの刑務所では、国選弁護人事務所とは直通電話回線がある(日本にはそのようなシステムはない)が、それを利用して受刑者が外部と自由に電話で話せるテクニックまで紹介されている。まさかと思う手口だ。コンピューターは便利なようで恐ろしいツールだと再認識させられた。

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ニッポン人には、日本が足りない

著者:藤ジニー、出版社:日本文芸社
 私はテレビを見ませんし、わが家にはテレビがありません。30年来のことですし、困ることはないのですが、ただ広告の話についていけないので当惑させられることがあります。この本の著者も「公共広告機構のテレビCMでおなじみ」とオビに紹介されていますが、私は見たことがありません。
 それはともかく、アメリカから日本の中学・高校の英語教師の助手としてやって来たアメリカ人女性が、スキー指導員の男性と知りあって結婚し、山形県の山奥の温泉旅館の女将として日本に定着したというのです。すごく勇気のある女性だとつくづく感心しました。彼女は今では和服も自分で着れます。また、それがとてもよく似合っています。そんな彼女から今のニッポン人には日本が足りないと指摘されると、なるほどと、ついうなずいてしまいます。山形県尾花沢市の銀山温泉です。団体客ではなく、個人のお客として行ってみたい温泉です。誰か行かれた方がありますか?ぜひとも泊まった感想を教えてください。

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果てしなき論争

著者:ロバート・マクナマラ、出版社:共同通信社
 720頁もあり、手にとるとズシリと重たい本だ(定価も3800円と高い)。マクナマラ元国防長官というと、団塊世代にとってはベトナム侵略戦争の立役者の1人である。その彼が1995年11月にハノイを訪問し、ボー・グエン・ザップ将軍と対談したというのだから、世の中は変わった。
 この本は、マクナマラ元長官たちがベトナム戦争について、ベトナム側の将軍たちと討議したことをふまえ、ベトナム戦争を総括しようとしたものだ。私としては珍しく2ヶ月ほどもかけて少しずつ味読した。
 大事なことは、過去というのは歴史家のためだけにあるわけではないということ。強さと持久力は、自分自身の歴史とつながりを持つことから生まれる。過去と未来は現在で均衡を保っており、人は自分自身の歴史に深く強く触れる範囲に応じて、将来を制御することができる。
 北ベトナムが正規軍の連隊を送って南の解放戦線を支援しはじめたのは、アメリカが北爆を開始して南に軍隊を送りこんだあとだった。1965年に北の3個連隊が中部山岳地帯に送りこまれ、11月にイアドラン渓谷でアメリカ軍と戦った。このとき、アメリカ兵は300人が戦死し、北ベトナム軍も少なくとも1300人の戦死者を出した。
 アメリカによる北爆によって、北ベトナムの戦意をくじいたどころか、民衆の怒りをかきたて、ますます政府のもとに結束を固めた。当時のベトナムには爆撃対象となるほどの工場はもともとなく、効果は薄かった。ホーチミンルートは複線のルートであり、いくらアメリカ軍が爆撃しても補給ルートを根絶やしにすることなど不可能だった。
 南の解放戦線の方が主戦派であり、北ベトナムは当初ずっとアメリカ軍との衝突を回避すべく南を抑えようとしていた。北ベトナムの統制力は決して想像されるほど強くはなかった。ところがアメリカ政府は、ずっと北ベトナムがすべての戦闘を指令していると考えていた。まったくベトナムを誤解していたのだ。
 アメリカが北ベトナムへ地上侵攻したときには、中国軍が直ちに反撃のためにベトナム内に入って反撃する密約が北ベトナムと中国のあいだで成立していた。そうでなくても現に20万人の中国軍工兵隊がベトナム内にいて、アメリカ軍の爆撃機を撃墜したりしていた。
 マクナマラ長官がベトナム戦争について教訓を引き出すためにベトナム側と対話するについてはロックフェラー財団の後援があったという。ベトナム後遺症は今回のイラク戦争にまで影響していると言われるアメリカならではのことだ。それにしても、かつての敵と真剣な対話をしてまで真実を明らかにし、教訓を引き出そうとするアメリカ側の努力には心うたれるものがある。ベトナム戦争はまだ終わっていない。

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佐伯チズの頼るな化粧品

出版社:講談社
 お化粧なんかに縁のない男の私がどうしてこんな本を読んだのか。もちろん、すべての女性に、いつまでも若々しく美しくあってほしいからだ。厚化粧で嫌な感じを与えるのも困るけれど、髪の毛はボサボサ、身なりを全然かまわないなんていうのは、もっと困る。
 朝のメイクは、これから始まる一日の戦闘服。この言葉を目にして、正直いってのけぞるほど驚いた。そうか、女性は、朝、家を出るとき戦場へ戦いに出かけるのか・・・、と。男性も家の外に7人の敵がいると言われているけれど、女性は、もっと多いのかもしれない。
 この本には化粧品のつかい方についてきわめて実践的な注意がたくさんある。技術的なことはさっぱり分からないので、紹介を省略する。気のついたところを2つのみ書き出してみよう。
 30代からのメイクには意外性は不要。求められるのは知性と清潔感、これに尽きる。・・・これはまったく同感だ。週に一度は、お肌の断食。家に帰るとすぐにメイクを落とし、休日は一切メイクをしない。・・・なんだか、よく分かる心境だ。
 著者は1日2人に限定した完全予約制の美容サロンを開設している。すごーく高いんだろうな、と思う。それにしても、高校を卒業して以来、水着を一度も着たことがなく、海水浴にもスキーにも行ったことがないというのだから徹底している。やはり、何事によらず、プロは違う。

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知恵伊豆に聞け

著者:中村彰彦、出版社:実業之日本社
 三代将軍・徳川家光の懐刀として小姓から老中まで昇りつめた松平伊豆守信綱の一生を描いた感動小説。
 この本は歴史書ではなく小説なので、私もそのつもりで読んだ。つまり、歴史書なら長所と短所、そして当時の社会状況とのかかわりあいのなかでのプラス・マイナスの双方をあげつらうことになる。しかし、この本は小説なのだから、主人公に感情移入するためにもマイナス要素はできるだけカットしてある。「知恵伊豆」とは、どういう経緯でそう呼ばれるようになったのか、幼年時代のエピソードが丹念に紹介されている。島原の乱(これには宮本武蔵も参戦し、負傷している)について、攻める側がいかに苦労したか、どんな工夫をして落城させたのか、その点がとくに興味を魅いた。
 知恵と工夫を一言でいうと、それは臨機応変ということなのだが、日頃からよく物事のウラとオモテとを考えておかないと、とてもすぐには出てこないような非凡な発想な持ち主だったということ。

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暇つぶしの時代

著者:橘川幸夫、出版社:平凡社
 40歳をすぎてから、無性に自分の時間が欲しくなった。世のため、人のために生きることが苦になったわけではない。でも、自分のためにつかう時間だってあっていいはずだ。なにしろ一回限りの人生なんだから・・・。日曜日の朝、家の外に広がる青空を仰ぎみて、さあ、今日一日は自分の時間だ、自由につかえるぞと心のうちで叫ぶ。家中を雑巾がけして汗をかき、シャワーで身体を冷やす。フランス語の勉強にたっぷり一時間はかける。仏和大辞典を隅から隅まで少しずつ読んでいく。赤エンピツでアンダーラインをひき、頁がどんどん赤くなっていくのを見ると心が躍る。まだ何かしら、これまでと違った人生が切り拓ける気がしてくるのだ。
 この本は、日本がもうモノづくり大国であるのは止めよう。それよりコトづくりでいこうと呼びかけている。なんだか分かったような分からない考えであり、ノドにつかえるものがあって共感しにくい。しかし、いくつか大いに共感する指摘もある。子どもと大人の違いは何か。それは時間に対するとらえ方の違いだ。自分の時間を生きる者が子ども。社会の時間を生きる者が大人だ。子どもは、自由に時間を使うことによって、現実の枠組みに支配されない可能性を発想することができた。私は、これからも自分の時間を生きる者、つまり「子ども」であり続けたいと願っている。

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21世紀の刑事施設

著:刑事立法研究会、出版社:日本評論社
 名古屋刑務所における収容者への虐待はひどいものでした。もっとも、冤罪事件ではないかという指摘もあり、被告人となった刑務官が無罪を主張している以上、軽々しく虐待があったと決めつけることはできません。
 この本は、日本の刑事施設の現状を十分認識したうえで改革・改善のための問題提起をしています。およそ現実をふまえない理想論だと批判されたこともあると書かれていますが、私はどれも重要かつ現実的な改革提言だと思います。
 犯罪者が激増していると言われています。たしかに、公判請求は5年間で9万人から12万人に増えています(2000年)。不起訴人員も31%増えています。刑事施設の収容定員は6万5千人ほどで、収容率は100%を越えています。とくに代用監獄(警察の留置場)の被収容者は65%も増加しています。これには判決の重罰化も影響しています。覚せい剤(28%)、窃盗(24%)の判決が重くなっているのです。
 ところで、警察官を増やして捜査能力を増強すれば犯罪が減って安全な社会になるというのは幻想であると指摘されていますが、私もまったく同感です。社会のなかに犯罪を生む温床をつくり、それを放置しておきながら警察官を増やしても抜本的な対策になるはずがありません。私は日々の刑事弁護のなかで、このことを強く実感します。
 日本の刑務所では、高齢者、外国人、女性が増加しています。それぞれ深刻な問題を引き起こしています。それでも、人口10万人あたりの被収容者数は、日本は40人で、イギリス125人の3分の1、アメリカ650人の6%でしかありません。
もっとも、これは英米の方に被収容者が多すぎるのです。
 現行監獄法は今から100年も前の1907年に制定されたまま、ほとんど改正されていません。まったく現代社会にあわないといって過言ではありません。1ヶ月1回しか面会や手紙の発信が許されないなんて、今どき、とても信じられません。電話をかけることがなぜ許されないのか、Eメールはどうなのか、検討すべきでしょう。また、家族面会ももっと自由にしないと、受刑者が本当に社会復帰するのは難しいと思います。
 私たちは、受刑者もいずれは社会に復帰するんだという点をしっかり認識すべきです。その意味で、本書で提案されているコミュニティ・プリズンの構想を日本でもしっかり検討すべきです。それは、刑務所の民営化という安易な方法で置きかえられるべきではありません。

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ブッシュ家とケネディ家

著者:越智道雄、出版社:朝日新聞社
 ブッシュ大統領はろくに英語もしゃべれない、演説のときスピーチ原稿どおりならまともだけど、即興の話では初歩的な英文法も間違う。こんな話がもっぱらです。でも、この本を読むと少し印象が変わります。それも彼なりの演出だというのです。
 ケネディ家はアイルランド系カソリックでありながら、「疑似東部エスタブリッシュメント」の地位を獲得した。ブッシュ家は正真正銘の東部エスタブリッシュメントの出ながら、いち早く地方資本の雄、南西部資本に片足をかけ時代を先取りした。先日、カリフォルニア州知事に当選したアーノルド・シュワルツェネッガーの夫人はケネディ(JFK)の三女の娘です。そしてハリウッドで数少ない共和党支持のスターとしてブッシュ大統領お気に入りなのです。
 大統領就任式のとき、JFKは両親を端に追いやって隠し、ブッシュ父は母親の額にキスしたそうです。それだけ、JFKはアイルランド系カソリックならではの気のつかい方、ブッシュはWASPならではなお悠長さがあったというのです。日本人の私たちは、とても信じられない話です。それでも、それぞれ2世代、3世代となると「乱交」にふけったり、スキャンダル続きで困っているそうです。日本では、政治家の2世、3世が幅をきかせています。
 あの、とんでもない放言居士(都庁に出勤するのは週に2日から3日だそうです。あとは遊んで過ごしているのです)の2世が今度、大臣となりました。こんなことで日本は本当に大丈夫なのでしょうか。私は心配です。

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人は悲しみで死ぬ動物である

著者:ゲーリー・ブルーノ・シュミット、出版社:アスペクト
 世にも残酷な実験をした皇帝がいる。ホーエンシュタウフェン朝のフリードリヒ2世(1194〜1250年)だ。皇帝は孤児となった新生児を選んで、乳母係に命令した。母乳を与え、入浴させて世話をすること。ただし、決して子どもをあやしたり、話をしてはいけない。皇帝は、子どもたちが話しはじめるとき、ヘブライ語かギリシャ語、あるいはラテン語、それとも親の言語で話すのか、それを知りたかった。
 しかし、それは子どもたちの死によって達成できなかった。子どもは、乳母が手をふって楽しげに顔をほころばし、自分をあやす言葉なしには生きることができないのだ。母乳があれば生きるというものではない。愛情は生きる養分となっている。関係の喪失は致命的なのだ。
 この本は、妻に先だたれた夫がなぜ早死にするのかというメカニズムを解明している。そのうえで、生きる力は、自分自身から創造的にあらわれるとして、次のように助言している。
 ・出口なしの状態を回避するためには、過去に同じような状況を解決したことを思い出す。
 ・助けのない状態を回避するためには、現在における解決を探す。
 ・希望のない状態を回避するためには、未来における解決を信じて先を見る。
 ・情緒的孤立状態を打破するためには、自分自身を鏡に映してみる。
 つまり、想像力や人間関係が「治療手段」になりうるということなのだ。私も、それを信じて、明るく前向きに生きていくつもりだ。

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国銅

著者:帚木逢生、出版社:新潮社
 ときは天平15年(743年)。鳴くよウグイス、平安京(749年)より50年前。長門周防の工夫が、奈良の大仏建立に駆りだされていくさまが実にこまかく「再現」されている。その迫真の描写力にはホトホト頭が下がる。上下2分冊で合計600頁をこす長編だが、「感涙の大河小説」というオビの文句に嘘はない。山から鉱石を掘り出し、棹銅(銅板)をつくり、平城京へ運ぶ。そして、奈良の大仏像の建立に従事する一人の男の生活があますところなく描かれている。奈良時代の庶民(匠)の生活はこうだったのかと思い至ることができる。じっくり読んで、これぞ小説の醍醐味だ、とつい膝をうってしまった。

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生物時計の謎をさぐる

著者:ジョン・D・パーマー、出版社:大月書店
 あなたは朝型人間ですか。それとも夜型人間?
 男性は早起き鳥1人に対して3人の夜型フクロウ人間がいる。女性ではその割合は1対2。いずれにせよ、体温リズムがピークに達するのは、仕事をするうえでもっとも効率があがる時間帯に一致している。体内時計のおもな働きは周期的に変化する環境のなかで、次にやってくる変化に体を準備しておくということにある。
 いったい身体のどこに生物時計はひそんでいるのでしょうか。生物の不思議は、まだまだ完全には解明されていません。それにしても、日本から出かけるときには、アメリカよりヨーロッパに行くのが断然楽ですよね。だから、私はヨーロッパに行くのが好きです。それも一度ビジネスクラスに乗ってみましたが、いくら値段が高くても、あのリクライニングシートの快適さはなんとも言えないですね。もうエコノミー症候群になるのを心配するのはコリゴリ。そんな気がしています。贅沢な話ですみません。

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ビアフラ戦争

著者:室井義雄、出版社:山川出版社
 悲惨なビアフラ内戦で多くの餓死者を出したことは記憶に残っていた。ビアフラがナイジェリアの一部であったことを今回初めて認識した。ナイジェリアの大統領はオバサンジョという名前だ。よその国の大統領を笑うのは大変失礼だと思うが、日本人としてはオバサンじょとしか聞こえないものだから、つい笑ってしまう(ごめんなさい)。
 ビアフラ内戦がなぜ記憶に残っていたか、この本を読んで謎がひとつ解けた。それは、私が憧れの東京で大学生になった1967年5月にビアフラ共和国が「独立」したことに端を発して内戦が始まったからだ。大学生になったら、いろんなことができると大きな希望を抱いて上京したが、たちまちその幻想は砕かれてしまった。砂をかむような学生生活にならなかったのは寮生活とサークル(セツルメント)活動のおかげだった。
 ビアフラ内戦によって戦死者20万人、民間人の死者2万人、餓死者150万人、全部で犠牲者200万人といわれている。国際的な救援活動によってビアフラ軍がよくもちこたえ、結果として内戦を長期化させ、犠牲者を増大させた。そしてナイジェリアの油田はシェルBP石油などの国際石油資本に巨額の利益をもたらしているが、地元にはほとんど還元されていない現実がある。救援活動もマイナスをもたらすことを知ったが、それにしても部族間の血を血で洗う報復戦闘のくり返しには、やり切れない思いに駆られる。この本は、そんな悲しいアフリカの内戦の実情を紹介している。

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すべては傍受されている

著者:ジェイムズ・バームフォード、出版社:角川書店
 NSA(米国国家安全保障局)の正体を暴いた本。
 NSAの総予算は175億ドル。職員はCIAとFBIの職員の合計より多い3万8千人。ところが、さらに2万5千人が数十ヶ所の傍受基地で雇われている。三沢空軍基地にはアメリカ陸軍第750軍事情報中隊がいて、インテルサット衛星8をつかってデジタル衛星通信の傍受と分析している。辞書というコードネームのコンピューターが傍受アンテナを通過する何百万の通信の中から、キーワード、名称慣用句、電話・FAX番号を含む監視リストに該当するものがないか一瞬のうちに検索する。要するに、このメールを含めて、インターネットを含むすべての会話と回線のすべてがNSAによって傍受されているということ。
 ところで、映画『13デイズ』でキューバ危機の内幕が描かれているが、この本によると、アメリカ軍の統合参謀本部は陸海空からの本格的侵攻(全面戦争)を強く主張していた、そのため、キューバにあるグアンタナモ米海軍基地をカストロが攻撃したような芝居をうつ計画まで立案していたという。ところがケネディ大統領がこの案を却下して、CIAによるキューバ亡命軍の侵攻になった。この計画が失敗したら、本物の侵攻作戦に代わるだろうとペンタゴンは思っていたが、そうはならなかった。そこで、ケネディ大統領を憎んだ。ケネディ暗殺にアメリカ軍の上層部がかんでいたという背景状況が説明されている。アメリカには底知れない恐ろしさがある。キューバでは失敗したが、インチキ・トリックはベトナムでは「成功」した。トンキン湾でベトナム軍による2回目の攻撃はなかったのにアメリカ軍が攻撃されたと大々的に宣伝し、その「反撃」のために北爆が始まった。今回のイラク攻撃のときの「大量破壊兵器」と同じインチキ・トリックだ。軍人というのは口実がないときには口実をデッチ上げてまでも戦争を始めようとする恐ろしい人種だ。つくづく恐ろしい。知らぬが仏ではあるが、寒気を覚える。それでも、オサマ・ビン・ラディンをアメリカが捕えきれないのはなぜなんだろう?

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刑務所の中のごはん

著者:永井道程、出版社:青林工芸社
 刑務所ではどんな食事をしているのか。いわゆる臭い飯って、どんなものか。知りたいと思っている人は多いと思う。この本は、それに図解入りでこたえてくれる。体験談だから間違いないと思うが、かなり美味しいようだ。
 ご飯は麦が4割。お米は玄米で買って中で精米するので意外に美味しい。ボリュームのあるカレーもあり、ウナ丼もある。ある日の献立を紹介すると、朝は梅干し、まぐろ缶にご飯と味噌汁、昼はサワラの塩焼・肉ジャガ・桃缶、夕方はけんちん汁・大根あさり煮・めかぶ・ブルガリアヨーグルト。10日ごとに食事のメニュー表が 貼り出されるが、年に1回開かれる献立編成会には受刑者の代表も参加する。夏にアイスクリーム、節句に柏餅、クリスマスにはケーキ、正月には2段重に入ったおせち料理という特別食が出る。正月3ヶ日は、ラジオを聴きながらのんびりとせんべいやチョコレート、羊羹をつまむこともできる。といっても刑務所の中では、食べて働いて寝るという非常に単調な生活が毎日毎日くり返される。自由が奪われているなかで、食べる楽しみだけはあるということだろう。

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地球のすばらしい樹木たち

著者:トマス・パケナム、出版社:早川書房
 地球上には、まだたくさんの巨樹、奇樹、神木が残されている。それを訪れ歩き、写真を撮る。樹齢46000年とか、樹高80メートルとか、いかに人間がちっぽけな存在であるか、写真は雄弁に語っている。
 日本のクスノキも神木として紹介されている。いろんな形の樹があるが、なかでも私の目を魅きつけてやまなかったのは、マダカスカルにあるバオバブ・アベニューの日没の写真。夕焼けの鈍い黄金色に20本ほどのバオバブが照り輝いている。まさに息をのむ美しさだ。

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リンボウ先生の書斎のある暮らし

著者:林望、出版社:知恵の森文庫
 林望先生は自宅地下に22坪の書斎をもっているそうです。1万5千冊入るので大丈夫のつもりだったようですが、既に満杯とのこと。私も小さな書斎をもっていますが、本格的な書庫まではもっていませんので、うらやましい限りです。知的生活を送る人は、やはり本は極力保存すべきだという考えに同感します。ニュースをテレビだけで観ている人には批判が育たない。テレビの記者なりデスクなりが一定の考え方のなかで取捨選択して一定の枠をはめた(かなり窮屈に誘導された)考えしか出てこないのがテレビというもの。そこには手垢のついたニュースしかない。少しずつでも毎日継続していくと絶対力になる。何事も10年やれば、ものになる。私も30年間、毎日ラジオ講座を続けて聴いてフランス語が分かるようになりました(この夏、ついに仏検の準一級に合格!)リンボウ先生は常にワイシャツの胸ポケットに80円のペンとスパイラルメモ帳を入れている。メモ帳は動く書斎。地道な仕込みがあって、ものを書ける。
 私も、ポケットにいつもメモ帳を入れ、極細の水性ボールペンと赤エンピツを手離しません。自動車を運転中でも、メモ用紙とサインペンを助手席に置き、信号停止中に書きつけるようにしています。 忙しいからこそ趣味が必要となる。仕事で疲れた神経を鎮める力として、全然違う神経を使うカウンターパワーが必要になる。趣味がないということは、その人の人間性が乏しいということにほかならない。リンボウ先生は私と同じで二次会には一切つきあわないということです。世の中には、そんな変人が多いことを知って、改めて安心しました。

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松本清張の時代小説

著者:中島誠、出版社:現代書館
 松本清張は40年の作家生活のなかで1000点の著作を世に出したそうです。私も、松本清張はかなり読んだつもりでいたのですが、それを知って、おっとっとと腰がよろめいてしまいました。学生時代に読んだ『昭和史発掘』シリーズなど、今でも読後の興奮を忘れることができません。世の中って、こんなことになっているのか。怒りをこめた驚きが私の身体の芯を貫いたのです。
 この本を読むと、実は、読んだつもりの松本清張をいかに読んでいないか、思い知らされます。もちろん、『西郷札』など、いくらかは読んでいるのですが、まだまだ読んでいない方が圧倒的に多いのです。
 北九州市にある松本清張記念館に一度だけ行ったことがあります。清張の作品が映画化されたものが、ビデオで紹介されていたり、清張の書斎が再現されていて、とてもいい記念館でした。独学で英語もできたという清張に少しでもあやかりたいと願い、私もフランス語を続けています。いずれフランス語でも小説を書いてみたいと思っているのです。

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江戸夢あかり

出版社:学研M文庫
 久しぶりに山本周五郎を読みました。司法修習生のとき(いつのまにか30年も前のことになってしまいました)、同じ横浜修習の庄司さんが山本周五郎にいれこんでいるので読んでみたのが初めです。『さぶ』とか『赤ひげ診療譚』など、江戸情緒たっぷりの人情話に私もぐいぐい魅きこまれ、すっかり耽読したものです。
 この本は「市井・人情小説傑作選」と銘うち、宮部みゆきもはいっています。いずれの話もしばし、しっとりとした江戸情緒に浸ることができます。日本人の人情って、昔から変わっていないんだな。ほろっとさせられたり、冷やっとしたりします。物売りの声やカランコロンという下駄の音とともに江戸の香りが漂ってきそうな短編を、秋の夜長にじっくり堪能してはいかがでしょうか?

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