弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年10月 1日

果てしなき論争

著者:ロバート・マクナマラ、出版社:共同通信社
 720頁もあり、手にとるとズシリと重たい本だ(定価も3800円と高い)。マクナマラ元国防長官というと、団塊世代にとってはベトナム侵略戦争の立役者の1人である。その彼が1995年11月にハノイを訪問し、ボー・グエン・ザップ将軍と対談したというのだから、世の中は変わった。
 この本は、マクナマラ元長官たちがベトナム戦争について、ベトナム側の将軍たちと討議したことをふまえ、ベトナム戦争を総括しようとしたものだ。私としては珍しく2ヶ月ほどもかけて少しずつ味読した。
 大事なことは、過去というのは歴史家のためだけにあるわけではないということ。強さと持久力は、自分自身の歴史とつながりを持つことから生まれる。過去と未来は現在で均衡を保っており、人は自分自身の歴史に深く強く触れる範囲に応じて、将来を制御することができる。
 北ベトナムが正規軍の連隊を送って南の解放戦線を支援しはじめたのは、アメリカが北爆を開始して南に軍隊を送りこんだあとだった。1965年に北の3個連隊が中部山岳地帯に送りこまれ、11月にイアドラン渓谷でアメリカ軍と戦った。このとき、アメリカ兵は300人が戦死し、北ベトナム軍も少なくとも1300人の戦死者を出した。
 アメリカによる北爆によって、北ベトナムの戦意をくじいたどころか、民衆の怒りをかきたて、ますます政府のもとに結束を固めた。当時のベトナムには爆撃対象となるほどの工場はもともとなく、効果は薄かった。ホーチミンルートは複線のルートであり、いくらアメリカ軍が爆撃しても補給ルートを根絶やしにすることなど不可能だった。
 南の解放戦線の方が主戦派であり、北ベトナムは当初ずっとアメリカ軍との衝突を回避すべく南を抑えようとしていた。北ベトナムの統制力は決して想像されるほど強くはなかった。ところがアメリカ政府は、ずっと北ベトナムがすべての戦闘を指令していると考えていた。まったくベトナムを誤解していたのだ。
 アメリカが北ベトナムへ地上侵攻したときには、中国軍が直ちに反撃のためにベトナム内に入って反撃する密約が北ベトナムと中国のあいだで成立していた。そうでなくても現に20万人の中国軍工兵隊がベトナム内にいて、アメリカ軍の爆撃機を撃墜したりしていた。
 マクナマラ長官がベトナム戦争について教訓を引き出すためにベトナム側と対話するについてはロックフェラー財団の後援があったという。ベトナム後遺症は今回のイラク戦争にまで影響していると言われるアメリカならではのことだ。それにしても、かつての敵と真剣な対話をしてまで真実を明らかにし、教訓を引き出そうとするアメリカ側の努力には心うたれるものがある。ベトナム戦争はまだ終わっていない。

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