弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

ドイツ・イギリス

2022年10月29日

裏切り(上・下)


(霧山昴)
著者 シャルロッテ・リンク 、 出版 創元推理文庫

 著者はドイツ在住のドイツ人なのに、イギリスを舞台とするミステリー小説です。文庫本で2冊の分量ですが、次々に起きる残虐な殺人事件の動機が不明なのです。被害者の1人は、イギリスのスコットランド・ヤード(警視庁)の独身女性刑事の父親の元警察官(警部)。いったいなぜ元警部が残虐な殺され方をしたのか...。その動機の解明は下巻の最後にまで先送りされます。
 途中で浮かびあがった犯人は典型的なDV男。我が子に無関心な両親から捨てられたという思いでいた女性が、DV男の見かけだけの優しさから、ついには隷従状態と化してしまいます。どんなに叩かれ、馬鹿にされても、この人なしでは自分は生きていけないという思いからDV男の言うなりについていくのです。それはまるで統一協会の信者のようです。他人の忠告もききめがなく、目が覚めることがありません。
 警察のなかの人間関係も寒々とした印象です。殺人犯人を検挙して成績をあげなければいけないので、とてもストレスがたまる職です。アルコールに頼ってついに中毒患者にまでなってしまう警部が登場します。
 ドイツでは2015年に160万部と、もっとも売れたミステリー小説だそうで、その評判どおりなのか、そこに関心があって読んだのでした。時間がつくれる方には一読をおすすめします。それだけの価値はあります。
 残虐な殺人の動機がこの本の最後で、やっと解明されます。なーるほど、...、そう思って初めからストーリー展開をたどると、あまり無理のない動機におさまっています。ネタバラシはしません。最後に、この本の末尾の文章を紹介します。
 「人は極限状態を体験したあとでは、決して元の生活を完全に取り戻すことはできない。いちど受けた損傷は、もう治らない。これからは、ひとつの重荷を背負って生きていかねばならない。その重荷は二度と降ろすことができないかもしれない。でも、どれほど辛かろうと、これは今なお私たちの人生なんだから...」
 最後まで、ハラハラしながら読ませますので、ドイツで大ベストセラーになったのも当然だと思いました。
(2022年6月刊。税込1320円)

2020年2月11日

「マルクス&エンゲルス」(1巻)


(霧山昴)
著者 野口 美代子、丸川 楠美 、 出版  高文研

いまアメリカでは、大学生をふくむ若者たちが社会主義に惹かれているそうです。そう言えば、民主党の有力な大統領候補であるサンダース議員は民主的社会主義者と自称していますし、若きオカシオ・コルテス議員も同じ潮流でしたよね・・・。
これはマンガ本です。私は映画「マルクス・エンゲルス」もみていますが、まったく映画の雰囲気と同じだと思いました。
第1巻は、マルクス・エンゲルスの幼年時代のエピソードに始まります。
マルクスもエンゲルスも、それなりに豊かな家に生まれ育ち、そして成績も優秀でした。
エンゲルスはベルリンでヘーゲル哲学を学んだ。そこで、神が人間をつくったのではない。人間が神をつくったのだという文章に出くわした。
エンゲルスは工場経営者の息子でもあり、その工場で働く労働者の状況も調べて本にまとめた。
いやあ、映画といい、このマンガといい、よくぞ当時のヨーロッパの雰囲気を伝えてくれます。
私は大学生になってから、必死でマルクス、エンゲルスの本を読みました。そのなかの一つがエンゲルスの『イギリスにおける労働者階級の状態』であり、マルクスの『経哲草稿』を読んだのです。
この本のあとがきにも、映画『マルクス・エンゲルス』をみて感動して発奮したと書かれています。マルクス・エンゲルスの古典に導かれる手引書としてたくさんの若者に読まれてほしいと思いました。
(2020年1月刊。650円+税)

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