弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物(人間)

2018年2月 5日

すごい進化



著者  鈴木 紀之 、 出版  中公新書

 一見すると不合理の謎を解くというサブタイトルがついています。
つわり。妊娠初期に妊娠が特定の匂いに対して過敏に反応してしまう。このつわりには、それなりの効用、すなわち進化的な合理性がある。実は、胎児を守るために機能している。つわりのときに反応しやすい匂いの中には、胎児によくない影響を支える物質が含まれている可能性があり、とくに外的な刺激が胎児の成長に影響を与えやすい時期にだけ、こうした反応が出やすい。つわりが起きれば妊婦はそうした匂いをもたらす物質を遠ざけようとし、結果として流産などのリスクを抑える効果がある。
 なーるほど...、人間の体はうまく出来ているのですね。
カフェインは、コーヒーの木やお茶の原料となるツバキの仲間やチョコレートの原料になるカカオ、そしてオレンジやガラナといった植物にも含まれる化学物質。これは、本来は葉を食べる昆虫から身を守るために植物が生産しているもの。
 オスの目的は自分の子を残すこと。たとえ別種に似ていようが、同種のメスである可能性が少しでもあるなら、ためらわずにアタックすべし。同種のメスへ求愛したところで、交尾までたどり着ける可能性は少ないのだから、他種のメスかもしれないというリスクがあったとしても、同種と交尾できたときのリターンがとてつもなく大きいので、オスのみさかいのなさはなくならない。なんせ、生涯に1回でも交尾できれば御の字なのだから。これが、別種を識別する能力がいつまでたっても進化しない背景だ。
 なるほど、生物の世界には、もちろん人間様も同じですが、一見すると不合理な行動のように見えていても、実はそれだけの理由があることがほとんどなのですね。だったら、失恋しても、そんなに嘆き悲しむ必要はないのですが...。
 一味ちがった角度から生物の実際を眺めることができるようになる本です。
(2017年5月刊。860円+税)

2018年1月 8日

動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか

著者 フランス・ドゥ・ヴァール 出版  紀伊國屋書店

ハイイロホシガラスは、秋に、何百平方キロメートルもの範囲の何百という場所に、マツの実を2万個以上も蓄えておき、冬と春の間に、その大半を見つける。
ゾウが物をつかむ鼻は、霊長類の手とは違って嗅覚器官でもある。ゾウは、道具を使える。
かつては動物に名前をつけるのは人間が過ぎると考えられていたため、西洋の教授は学生に日本の学派には近づかないように警告していた。サルはみなそっくりなので、伊谷が100万頭以上のサルを見分けると言ったとき、ホラ吹きにちがいないと思われてしまった。今日では、多数のサルを見分けるのは可能だし、現に見分けている。そうなんですよね。外国人からみると、日本人って、みな同じ顔をしていて見分けがつかないとよく言われますよね、、、。
チンパンジーのメスが年齢(とし)をとって果実の生(な)る木に登れなくなったとき、木の下で辛抱強く待っていると、娘が果実をかかえて下りてきて、二頭いっしょに満足そうにむしゃむしゃ食べはじめました。親子で協力しているのですね。
チンパンジーが蜂蜜を採集するときには、5つの道具からなるセットを用意する。巣の入口を壊して広げる頑丈な棒、穴をあける棒、穴を拡大させるもの、蜂蜜をなめとる棒、スプーン代わりにする樹皮片。
チンパンジーは、他のすべての類人猿と同じで、考えてから行動する。オウムのアレックスは、話せるし、計算することだってできた。
オオカミは、犬ほど人間の顔を見ないし、自己依存の度合いが強い。犬は自分では解決できない問題に取り組んでいると、飼い主を振り払って、励ましや手助けを得ようとする。オオカミは決して、そういうことはしない。 自分で試み続ける。
犬は人間としきりに目を合せる。飼い主も犬の目をのぞき込むと、オキシトシンが急速に増える。
著者の観察と研究によってチンパンジーが政治をしていることが判明した。二頭のライバル間だけで対決に決着がつくことはほとんどなく、他のチンパンジーたちがどちらを応援するのかが関係する。事前に「世論」に影響を与えておいたほうが有利になる。
旗色が悪くなったチンパンジーは、手を広げて仲間のほうに差し出し、助けを求める。支援を得て形勢を逆転させようとしているのだ。そして、敵の仲間に対しては、懐柔しようと懸命になり、腕を回して顔や肩にキスをした。助けを乞うのではなくて、中立の立場をとってもらうのが狙いだった。
著者が私と同年生まれだというのを巻末の著者紹介で知っておどろきました。人間が一番だなんて、とてもとても威張ってなんかおれませんよね。
(2017年9月刊。2200円+税)

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