弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2020年8月10日

任侠シネマ


(霧山昴)
著者 今野 敏 、 出版 中央公論新社

ヤクザの世界をあまりに美化しすぎているとは思いつつ、高倉健の映画のイメージで、読みものとしては面白く読みすすめていきました。
世の中の諸悪の根源は竹中平蔵とか電通のような、人の不幸で金もうけをたくらむ連中が大手を振るっていて、マスコミが彼らを持ち上げ美化していることだと弁護士生活も46年になる私はつくづく思います。
この本でも、竹中平蔵のような人物が本当の黒幕として登場してきますが、彼らは決して自分の手を汚すことなく、濡れ手に粟のもうけだけをかっさらっていきます。そして、それをアベ首相が支え、マスコミが現代の成功者ともてはやすのです。ほとほと嫌になってしまいます。
この本は、映画館が倒産・閉館寸前になっているのを、なんとか立て直せないかというのが、メイン・テーマです。この本をこのコーナーで紹介したいと思ったのは二つあります。その一つは、映画館でみる映画の魅力。そして、二つ目は刑事司法の実際です。
「映画はな、いろいろなことを教えてくれるし、人生を豊かにしてくれるんだ」
「スクリーンに向かっているあいだは、現実を忘れさせてくれる」
「写真と写真のあいだに暗闇があり、目をつむっているのと同じだ。人間、目をつむっているときには夢を見ている。だから、映画は夢のメディアなんだ...」
昔のフィルムは、ニトロセルロースという材料で出来ていて、とても燃えやすかった。しかも、映写機のライトはものすごく熱を発したので、専門の技術がないと、フィルムが燃えてしまう。1950年代にアセチルセルロースのフィルムに変わった。でも、これは、すごく劣化するのが早かった。1990年代にポリエステル製に変わった。これは燃えにくく、安全。
今は、デジタルで上映する。データで配給されたものを入力してやり、ボタンをポンで上映可能だ。
誰も、自分が犯罪者にされたときのことを想像しない。だが、犯罪者とそうでない者を分ける垣根は普通に考えるよりも、ずいぶんと低い。言いかえると、人はいつ犯罪者になるか分からない。さらに、警察によって犯罪者されるのは、実際に犯罪者になるよりも、ずっと簡単だ。
身柄をとってしまえば、あとは人質司法と呼ばれる勾留、さらに勾留延長――くり返しだ。こんなことされたら、たいていの人は精神的に参って、嘘の自白をしてしまう。検察が何よりほしいのは、この自白なのだ。自白があれば、起訴にもちこめる。
裁判官は無罪か有罪かの判断など、しない。有罪を前提として、量刑のことしか考えないのだ。無罪かどうかなどを考えていては、いつまでたっても仕事は終わらない。
警察と暴力団の癒着の構造。今や、寿司の出前(配達)までも暴力団の事務所へは禁止されていることの問題点の指摘も登場し、詳しく解説されます。
軽く読めて、刑事司法の問題をもつかめる本になっています。
(2020年6月刊。1500円+税)

2020年7月23日

山岳捜査


(霧山昴)
著者 笹本 稜平 、 出版 小学館

先日、たまたまテレビを見ていたら、若いころ登山に熱中していたという老年の社長が、一緒に山に登った仲間が何人も山で死んでいったという話をしていました。
十分な準備をして、訓練もしっかりしていても、落石や雪崩にあって生命を落としたり、ほんのちょっとの慢心から転落したりして、大勢の若者たちが生命を失っています。
本人がその危険を承知で登山しているのですから、誰も責めるわけにはいきませんが、他からみていると、あたら生命をそんなに「粗末に」扱わなくてもいいのに...、と思ってしまいます。
私は冬なら、ぬくぬくとした布団で、ぐっすり眠っていたいです。
この本は、冬山で遭難している登山客の山岳遭難救助隊が主人公です。ご苦労さまとしか言いようがありません。
ヘリコプターを飛ばせたら簡単なんでしょうが、冬山の吹雪のなかではヘリコプターによる救出もできないのです。結局は地上をはって進むしかありません。でも、ホワイトアウト、周囲がまっ白になって何も見えなくなったら、どうしますか...。
この本には、たくさんの耳慣れない登山用語が出てきます。
セルフビレイ......自己確保。
プロテクション......墜落距離を短くし、墜落のショックをやわらげるために登攀者と確保者とのあいだにとる支点。
落ちることを恐れていては、大胆なムーブ(体重移動)を試みられない。壁を登るとき、体や気持ちが萎縮すれば、かえって危険を招きやすい。
ワカンをつけてもラッセルは腰くらいまであるが、下りは登りと比べてはるかに楽だ。
怖いのは、乱暴な動作で雪崩を引き起こすことだ。
テントが押し潰されたら耐寒性は低下する。そして、雪に埋没したら酸欠に陥る恐れがある。
テントには保温性と通性という二律背反する機能が要求される。あらゆる条件で、この二つの要素を満たす製品はない。
救難の現場では、心拍停止後、おおむね20分が蘇生可能な限界だと言われている。
山岳遭難救助隊は自らが遭難しないことを第一義として考え救助に向かっているという当然のことがよく理解できました。現場は遭難するのも当然という状況にあったりするわけですので、それはやむをえない発想だと実感しました。
殺人事件の謎解きのほうは、今ひとつピンと来ませんでしたが、山岳遭難救助隊の大変さのほうは、ひしひしと迫ってきて、よく分かりました。
(2020年1月刊。1700円+税)

2020年7月22日

経済学を味わう


(霧山昴)
著者 市村 英彦・岡崎 哲二ほか 、 出版 日本評論社

東大の教養学部(駒場)で経済学がどのように教えられているのかを本として紹介している本です。
東大生(1年生と2年生)に大人気で、教室に入りきれず、立見の学生まで出ているようです。私のときはサムエルソン『経済学』がテキストでしたが、さっぱり理解できませんでした。
この本でも計量経済学とか難しい数式が羅列しているところは読み飛ばしてしまいました。この本は、現代の経済学は何を、どのように扱っているのかを教えてくれます。
現代の経済学では、「市場に任せるだけでは十分ではない」と考えられている。
まことにそのとおりです。市場にまかせていればいいというのであれば、政府は不要です。
経済学では、すべての個人が自分の利益を追求して行動すると、結果的に社会全体が望ましい状態に落ち着く。これを厚生経済学の基本定理という。
市場は効率的である。ただし、市場は万能ではない。所得と資産は、一見すると似ているが、内面的な性質は大きく異なっている。資産はストックであり、所得はフロ―である。
各人の効用にもとづき、各人の幸福を最大限実現できる社会にしようと考えるのが経済学である。
実社会のなかの人々の行動の結果として得られたのは観察データ。
何らかの人為的介入のもとに作成されたのが実験データ。
開発経済学とは、経済的にも独立を果たすためにはどうしたらよいかという課題を解決するためのもの。この開発経済学は1990年代まで衰退していたが、この15年間で一気に復活した。2019年には、この分野でノーベル経済学賞を受賞した。
この流れの記述のなかで、バングラデシュの貧困地域で、公文(くもん)式学習法が子どもの算数能力を改善するのに抜群の効果を示したことが紹介されています。そして、アメリカでも、アジア系の人々のなかに公文式学習法は高く評価され、人気があるというのを別の本で読みました。
経済学といっても、いろんな対象を扱い、いろんな手法があることがざっと分かりました。なるほど、これなら大学1年生とか2年生に人気のある授業だと思います。
(2020年4月刊。1800円+税)

 大雨が降って大洪水となって大変でした。人吉ほどではありませんが、福岡県南部も被災者がたくさん出ました。2階にある私の法律事務所も雨漏りのため天井の一部が崩落するという被害が発生しました。
 いま、庭のあちこちにピンクのリコリスがすっくと立って咲いています。ヒガンバナ系統です。いつも夏到来を告げる花なのです。晴れ間のうちに、サツマイモの苗の手入れをしました。
 ヒマワリが少しずつ伸びています。炎暑の夏がやってきそうで、熱中症を本気で心配しています。

2020年7月19日

スマホの中身も「遺品」です


(霧山昴)
著者 吉田 雄介 、 出版  中公新書ラクレ

スマホは使えないし、使う気もない私ですが、世の中はスマホ「万能」かのような状況になっています。そして、スマホのなかに、何から何まで自己情報が詰まっているとしたら、それが本人が亡くなったあとどうなるのか、本書は鋭く問いかけています。
怪し気なサイトを利用していたことは知られたくないというのであれば、そんな情報は人知れず消えてなくなればいいだけです。ところが、積極財産に関するものであったとしたら、相続人にとっても大損失を蒙ることになります。なんとかして情報を再現しようとするのも当然です。ところが、それが意外にも簡単なことではないというのです。では、どうしたらよいのか...。
いま、遺品は目に見えているものだけではない。スマホやパソコンの中に保存されている写真やメール、各種のデータ、インターネット上にあるフェイスブックやツィッターといった自分のSNS頁などもれっきとした遺品だ。これらは、いわゆるデジタル遺品。
スマホのセキュリティは、かなり堅牢だ。データは暗号化されていて、特殊な鍵を用いて開かないと取り出せない。パスワードが分からなければ、第三者には開けない。FBIでも他人のスマホは開けなかったほどだ。
FX取引で遺族宛に高額の請求書が届くことは、めったにない。しかし、逆に仮想通貨交換業者に相続人が自己のものとしてできるのかということが問題になる。遺族が秘密鍵を知らないと、そのまま引き出せないことが起こりうる。ところが、税務当局は価値あるものとみなして相続税をかけてくるという悲劇が起こりかねない。
契約者本人が亡くなったら、その時点で残高を保有する権利は消滅してしまうという約款のものは多い。つまり、相続人に権利を渡すことは想定されていないのだ...。
著者は、やってはいけないことを指摘しています。①使用中のスマホをすぐ解約してしまうこと。②全体像を見る前に個別の処理をすすめていくこと、これらは、まずいこと。
スマホの中身が「遺品」だとして、その扱いに悩むことになるようです。
(2020年1月刊。880円+税)

2020年7月16日

トラックドライバーにも言わせて


(霧山昴)
著者 橋本 愛喜 、 出版 新潮新書

トラック業務は、給料が安いのに過酷な仕事の代名詞となっている。
ドライバーの高齢化はすでに始まっている。50代以上で41%、60代以上だけでも16%。
トラックドライバーの職業病は、腰痛、睡眠障害、便秘そして歯の悪い人が非常に多い。ドライバーの喫煙率はかなり高い。
トラックドライバーの眠気対策は...。スルメをかむ。窓を開ける。飲み物、炭酸飲料、身体に刺激を与える。頬・腹・腿を叩く。居眠り防止センサーを取りつける。歌う。無料通話アプリで会話する。寝る。女性のあえぎ声を聞く。いやあ、いろいろあるんですね。
車内を常に少し寒くしておく。とくに足を温めるとすぐ眠くなるので、温風は足元にあてない。食事は少量にとどめる。
外国人のトラックドライバーは今後も増えないだろう。言葉の問題もあるし、試験は難しいし、日本的ルールも多いので...。女性には過酷な仕事。
トラックドライバーには延着が許されないのと同じく早着もやってはいけないこと。なので、「休憩」と称する時間調整を少し離れたところの路上でせざるをえない。
大型トラックは、どんなにアクセルを踏んでも時速90キロ以上は出せない。
日本の貨物輸送の9割以上はトラックが担っている。
宅配便取扱量は43億701万個(2018年度)。そのうち、トラック運送は99%にあたる42億6061万個。つまり、日本の経済はトラックによる物流が支えている。
そんなトラック運転手の過酷な実情を知ることができました。体験者が語っているので説得力があります。この本の要旨を私が依頼者であるトラック運転手に紹介したら、まったくそのとおりだと言ってくれました。
(2020年3月刊。760円+税)

2020年7月14日

秘密資金の戦後政党史


(霧山昴)
著者 名越 健郎 、 出版 新潮選書

冷戦期に活動した自民、社会、公明、民社、共産5党のうち、公明党を除く4党はアメリカとソ連から政治資金をひそかに導入していたことが、冷戦後解禁された米ソの公文書で判明した。疑惑が浮上すると、各党とも受け入れを全面否定し、日本共産党を除いてまともに調査しようともしなかった。
この本は、このことを詳細に紹介しています。その意味では、既に明らかになっていたこと詳しく裏付けているものです。ただし、岸信介については、アメリカの公文書が今でも全面解禁されてはいないようです。よほどの事情があるようですね...。
そして、共産党の野坂参三・元議長についても、アメリカのスパイ(情報提供者)だったことも、疑いにとどまっているとのことです。歴史においては、依然として闇のままというのは多いのですね...。
1963年、原水禁運動の対立のなかでソ連は日本共産党への資金援助を打ち切り、日本社会党に乗り換えた。
共産党の公式見解は党としてソ連に資金を要請したことはないし、党の財政にソ連資金が流入したこともないというものです。
岸信介については、CIAの暗号名すら今もって判明していない。それだけCIAとは深い関係にあったことを疑わせる。
野坂参三はキヨナガというCIAの「サムライ作戦」の対象になっていた。これまた、私は知りませんでした...。
CIAは、後藤田正晴とは深い関係を築いていた。
自民党へ投入されたCIA資金は54億円。今の価値にすると、10億円以上。
岸信介は、駐留米軍の撤退を求めたことからそれまで重用されていたものの、簡単に見捨てられた。これは、吉田茂と同じパターンだ。
吉田茂は、日本の急速な再軍備に反対したことから、アメリカが吉田を嫌い、退陣に追い込まれた。
CIAと自民党のあいだで行なわれたもっとも重要なやりとりは、情報とお金の交換だった。
アメリカはCIAを通じて、自民党に対して毎年200万ドルから1000万ドルの資金供給が定着し、慣例となっていた。自民党への資金の流れはCIAと駐日大使という二大ルートがあった。
大平正芳は、池田内閣の官房長官のとき、アメリカのCIAから「選挙に必要なら軍資金を供給する」という申出を受けたことがある。しかし、外国のお金は受けとれないと断わった、と述懐した。
CIAは首相官邸経由でも資金援助を行い、ハワイが受け渡しの場所だった。
アメリカの自民党への援助額は36億円とか54億円という、とんでもない巨額だった。これに比べると、ソ連から日本共産党へ提供されたのは9千万円であり、桁違いに小さい。
日本共産党へは1960年ころ、年に5万ドルとか10万ドルとされていた。
共産党は、これは野坂参三と袴田里見が個人的に受けとったものだと説明している。
そして、日本共産党の野坂と春日正一の会話までアメリカのCICに通報されている。つまりアメリカのスパイが共産党本部のトップ周辺にいたというわけです。
野坂参三がGHQのリベラル派のケーディズともよく会い話をしていたというのも初耳でした。世の中、知らないことは多いものですね...。
(2019年12月刊。1500円+税)

2020年7月 3日

女帝・小池百合子


(霧山昴)
著者 石井 妙子 、 出版 文芸春秋

中身がカラッポ。何をしようということはなく、ただ目立ちたがり屋なだけ...。もちろん、弱者救済とか環境保護というのも、まったく年頭にない。あるのは、どんな服装をして、どんなセリフを吐いたら世間受けするかということのみ。そんな女性を「救世主」かのようにもてはやし、持ち上げてきた日本の大手メディアの責任は重大だと、この本を読んで、つくづくそう思いました。
支離滅裂だけど、誰も気にしない。自信たっぷりに、美声でとうとうと話すから...。
小池百合子には仲間がいない。長くつきあっている人がいない。自分が目立つことだけを考えて他人(ひと)を利用してきた結果だ。人望がない。
築地市場を守り、豊洲移転を立ち止まって、考える。小池百合子は「ジャンヌ・ダルクになる」と言って、「築地女将(おかみ)さん会」の支持を得て都知事選挙に出て、圧勝した。ところが、小池百合子は「ジャンヌ・ダルクは、火あぶりになるからイヤ」と言った。そして、築地を見捨てて、豊洲の開設をすすめた。
小池百合子は自民党に帰順するにあたって築地を手土産(てみやげ)にしたのではないか、二階幹事長の推進するIR(カジノ)の候補地に築地を差し出したのはないか...。
希望の党の党首として、小池百合子はこう言った。
「安保法制に賛成しなかった人はアプライ(志願)してこないと思う」
「(民進党の)全員を受け入れる気はない。憲法観や安全保障で考えの一致しない方には、ご遠慮いただく」
「全員を受け入れるということは、さらさらありません」
「『排除されない』ということはございませんので、排除いたします」
選挙期間の最終日、小池百合子は夜8時に演説を終えると、その足でパリ行きの飛行機に乗った。開票結果を見守ることもしなかった。
希望の党は235人を擁立したが、当選したのは50人のみ。
小池百合子が公約としてかかげた「7つのゼロ」は、いずれも実現していない。「ペット殺処分ゼロ」も、老齢・障害・病気もちの150匹近い犬猫を殺処分したにもかかわらず、「ゼロ」だとカウントしている。
コロナ対策で東京都は明らかに遅れた。それは、小池百合子がオリンピック開催にずっとしがみついていたから。オリンピックの延期が決まり、安倍首相が小池支援を確約するや、今度は一転した「危機のリーダー」を演じるべく、連日、テレビで記者会見する。
小池百合子に親友があるとは見えてこない。同志といえる人もいない。何より、その心が見えない。だから感情がからみあわない。人間関係が希薄で、しかも長続きしない。他人に心を許さない。常に騙されるまいと思っている。用心深く、自分が生き抜くことを考え、得になる人とだけ付きあう。だから、利用価値のなくなった人、下り坂にある人との線はばっさり切り、ときには相手を悪者に仕立てる。
小池百合子は男社会と対峙するのではなく、寄り添い、男社会のなかで「名誉男性」として扱われることを好んでいた。
小池百合子は、女の皮はかぶっているけれども、中身は男性。平気ではったりができる。虚業に疑問を抱かない。見識や知識がなくても、それを上回る器用さと度胸がある。
小池百合子は政治家としてやりたいことはなく、ただ政治家がやりたいだけ。だから、常に権力者と組む。小池百合子は、ただ注目を浴びていたいだけ。
小池百合子の眼は笑っていない。孤独の深さが伝わってくる。いつも表情を作っている。
小池百合子は細川、小沢、小泉そして安倍と渡り歩いてきた。
小池百合子がエジプトのカイロ大学をちゃんと卒業したのかどうかという点では、卒業証書ではなく、卒業証明書または成績表を公表・公開すればいいのです。エジプトの政・軍部の支配下にある大学当局の卒業証明書では明らかに足りません。
この本を読んで、小池百合子は人間としては実に哀れな人だという印象を受けましたが、マスコミのつくりあげた虚像によって都知事として再選されるかもしれないとのこと。まことに、小池百合子も日本のマスコミも罪深い存在です。
いま一読に値する本です。
(2020年6月刊。1500円+税)

2020年6月28日

みんなの家


(霧山昴)
著者 光嶋 裕介 、 出版 ちくま文庫

建築家1年生の著者が内田樹邸である「凱風館」を設計し、完成させるに至った過程を語った文庫本です。
著者はアメリカ生まれで、早稲田大学の理工学部を卒業したあと、ドイツの建築設計事務所で働き、そのあと日本に帰国しました。
施主である内田樹は、言わずと知れた大学教授、哲学者そして合気道の武道家でもあります。この本を読んで麻雀愛好家でもあることを初めて知りました。
駅近くの85坪の土地に、自宅兼合気道の道場(80畳)をつくる。道場は、能楽師として活動している配偶者のため、能の敷き舞台兼用にしてほしい。また、宴会や麻雀もできるセミパブリックな場所がほしい。1人でこもる個室としての書斎は不要。
いやあ、いろいろ大変な注文がついていますね...。
これを著者は1か月間かけて考えて、3つの案をつくったのでした。3つの模型をつくって東京から神戸へ運んだのです。結論として、3案のいいところを折衷して進めていくことになりました。
建築プランが決まったら、次は材木選び。京都の美山町の杉の木を使うのです。小林直人さんが丹精こめて育てた杉の木です。
そして、次には施工する工務店選び。岐阜県加子母(かしも)村を本拠とする、木造建築の技術に定評のある中島工務店を選びました。
中島工務店は山林も管理していて、その隣には「木曽ヒノキ備林」がある。伊勢神宮の式年遷宮のときに伐り出される樹齢400年の檜を育てている森だ。
内田邸をつくったのは、岩木棟梁(とうりょう)のもと、常時4人の大工がいた。
瓦は淡路島で焼かれたもの。山田修二さんの焼いた瓦。
カーテンは、テキスタイル・デザイナーの安東陽子さん。
道場の床下にはオルガヘキサを敷きつめた。備長炭の4倍の吸収力があり、水分、悪臭そして電磁波まで吸収するという。
さらに、エネファーム。家庭用燃料電池コージェネレーションシステム。都市ガスなどから燃料の水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電する。その発電の際に生まれる熱で給湯もまかなう、配電ロスの少ない合理的システム。
「凱風館」は9ヶ月かけて無事に竣工。2011年11月12日のオープンハウスには、なんと400人以上が参加したのでした。
いやはや、こうやってプロの職人に建てられた家に住んでみたいものです。まあ、それは無理としても、見学くらいはしてみたいです...。
(2020年3月刊。960円+税)

2020年6月26日

先生も大変なんです


(霧山昴)
著者 江澤 隆輔 、 出版 岩波書店

全国一斉休校。あれって、本当に必要だったんですか。いったい、どんな状況になれば、そうするのか、その基準は設定されていたのでしょうか。専門家の意見も十分きかないまま、首相官邸のなかの「情報」でアベ首相が独断したのではありませんか...。そして、「3蜜」を避けると言いながら、学校を再開したら40人学級に戻るって、何なんですか。せめて20人以下学級にしたらどうなんですか。共産党は教員を10万人増やしたら実現できるし、1兆円かければ、可能だと発表してましたよね。イージスアショアだって1兆円近かったし、F35なんて、1兆円ではすみませんよ。辺野古も同じです。そっちを止めて、日本の子どもたちの将来のために使ったほうが、どれだけ日本全体にとって良いことか、あまりにも明らかではありませんか...。
この本は、小・中学校での教員経験のある著者が、学校での教員の労働の実際を語り明かしています。読めば読むほど、アベ政権はお金(みんな私たちの納めた貴重な税金です)の使い方が間違っていることを知らされ、怒りが全身にみなぎってきます。
日本の教員は、いま、歴史的にも世界的にも、かつてないほど忙しい状況に置かれている。教員の置かれている苦しい状況は、教員志望を減らしていて、それが現場で教育の質の低下を招いている。
教員志望の低下がひどいのは、なにより「維新の会」が牛耳る大阪に顕著です。「維新の会」は、マスコミ受けすることばかり大げさに言いたてて、教員と子どもをなおざりにしています。学校に成績をつけて競争させるなんて、気狂いじみています。まったくの間違いです。子どもたちが楽しく伸び伸び勉強できるようにしましょうよ...。
一般的な教員は、朝7時半までに学校に出てくる。
昼休みは休憩時間どころか子どもたちと談笑しながら様子を観察する、貴重な時間。
トイレを巡回し、日誌チェックを怠ることはできない。
学校は、一般企業では考えられない「常識」によって支えられている。
そもそも教員には「残業代」という概念がない。教員にとって、「労働時間」なるものは、あってないようなものにすぎない。ごく最近までタイムカードのある公立学校はほどんどなかった。
教員が多忙やストレスから精神疾患にかかって病気休職に至る人が年に5千人をこえている。
2011年から小学校で英語教育が始まった。私は英語の早期授業には反対します。英語より国語力をしっかり身につけるほうが先決です。
学校の大変な実態を教えてくれる本です。コロナ禍にある休校のあとです。焦ることなく、子どもたちがゆとりをもって伸び伸び勉強できるようにすることが求められています。
(2020年3月刊。1800円+税)

2020年6月13日

「薔薇はシュラバで生まれる」


(霧山昴)
著者 笹生 那実 、 出版 イースト・プレス

1970年代の少女漫画の制作現場の実況レポート・マンガです。よく描けています。
スマホなんてもちろんありませんから、固定(黒)電話と口コミでアシスタントを確保します。アシスタントになるのは、マンガ家を志望する中学生や高校生たちです。みんな若いので、マンガ家だって20歳そこそこ、なので3日間徹夜なんて平気です。若い女性たちがカンヅメになって1週間、お風呂にも入らない生活を送るというのですから、その壮絶さはたとえようもありません。途中の差し入れはケーキでなく、おにぎりが歓迎されました。それくらい時間に追われた生活だったのです。
スマホもあり、作業環境も整備されている現在は、毎日シャワーを浴びて、寝る前の1時間は洗顔とスキンケア、睡眠も7時間とれるのが当然だということ。それにアシスタントは在宅でも十分可能。
まあ、それがあたりまえなのですが、1970年代の少女マンガ高揚期は、そんな余裕なんかなく、みな必死だったというわけです。
ただし、それだけに、1970年代のアシスタントは尊敬する作家のすぐそばにいて、その悩みや愚痴も聞きながら製作過程を身近でのぞけるという醍醐味もあったわけです。
著者は20代から30代のころ、いくつかの作品をいくつもの雑誌にのせていたのですが、やがて引退したのでした。
そもそもは、小学6年生で美内すずえのマンガに出会って大ファンになって、中学生になってからは毎月欠かさず、ファンレターを出し続けた。中学3年生のときに自作のマンガを投稿して、佳作と銀賞を受賞した。そして、中学3年生の終わる春休みにあこがれの美内すずえに出会った。高校3年生で、マンガ家としてデビューした。
ところが、アシスタント生活に追われ、自分の作品をなかなか手がけることができずに時がたっていた...。なんだか、それもよく分かる気がします。
私は少女マンガは、ほとんど読んでいません。同郷・同世代の萩尾望都はかなり読みましたが...。
このマンガを読むと、「シュラバで生まれる」という意味が、画像としてよくよく伝わってきます。ちょっと体験したくない「修羅場」です。
漫画家の笹生那実として、32年ぶりの仕事だったとのことですが、そこに描かれている若々しい、はつらつとした女性陣に圧倒され、うらやましさでいっぱいでした。面白いマンガです。ぜひ、あなたも読んでみてください。
(2020年4月刊。1091円+税)

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