弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2022年11月29日

テレビ番組制作会社のリアリティ


(霧山昴)
著者 林 香里 ・ 四方 由美 ・ 北出 真紀恵 、 出版 大月書店

 私はリアルタイムでテレビを見ることはありませんし、ドラマを見ることもありません。ただし、「ダーウィンが来た」とかドキュメントものを録画で見ることはあります。若者のテレビ離れが叫ばれて久しいわけですが、この本はテレビ番組をつくるほうの現状と問題点をレポートしています。
 テレビ局にとって、視聴率はイコール収入。なぜなら、広告収入の多くを占めるスポットセールスは、視聴率によって料金が決まる仕組みだから。
 持株会社グループとしては、番組を1本完全パッケージで外注するのではなく、必要なスタッフを労働力として「購入」することで、経費削減を図る。そのとき、自社系列の制作子会社に製作委託を集中させ、そこから番組にスタッフを派遣させ、また外部に孫請けさせる方法も増えている。
 製作会社のプロデューサーは、責任者ではあるが、あくまで下請けでしかなく、最終的な決定権は放送局の側にあるため、「調整役」だ。
 中堅世代の空洞化。スピーディーな意思決定が必要になるため、末端の若手制作者たちは全体像を見渡す時間的余裕がないまま歯車となって働くことを強いられている。そこで、入職して数年で辞めていく者が後を絶たない。
 制作会社と放送局の関係は、最近は「植民地」状態になっている。対等になるどころか、完全に子会社になっている。
 放送局では、入館証を首から下げる紐(ひも)の色で放送局員と制作会社の人の区別がつく。「番組」チームとして一体になって働いているが、実は、見えないけれど、厳然として「壁」が存在している。
 ディレクターになることで「Dに上がる」として「昇格」という感覚が共有されている。ところが、その判断基準は不透明だ。
 自主制作率は、大阪で3割、名古屋で2割、その他の地方は1割というのが目安だ。
 放送局内部の製作現場の厳しさがひしひしと伝わってくる本でした。
(2022年8月刊。税込2860円)

2022年11月22日

自民党の統一教会汚染


(霧山昴)
著者 鈴木 エイト 、 出版 小学館

 読めば読むほど腹の立ってくる本です。もう、ホント、つくづく嫌になります。これが日本の政権党の実体かと思うと、恥ずかしいやら、悲しいやら、いえ、はっきり言って、吐き気をもよおします。衆院議長の細田博之は依然としてダンマリを決めこんでいますよね。萩生田光一・政調会長も同じです。逃げきりを許してはいけません。ひどすぎます。
 統一協会(この本は「教会」としていますが、協会が正しいのです)の教義は、日本人について、「人間的に考えれば、許すことのできない民族」と決めつけ、原爆投下も引きあいに出して悔い改めを迫っているのです。
 文鮮明(元教主。故人)は、儀式のなかで日本の天皇を自分の前でひざまづかせました。その妻であり、絶対君主のように君臨している韓鶴子現総裁は、安倍元首相について、自分たちに侍(はべ)るべき存在とみて、「教えてあげ、教育しなければならない」としていました。
 安倍元首相や桜井よしこなどは「美しい国・ニッポン」などと声高に叫んできた(いる)わけですが、日本は韓国に隷従すべき存在であるから、贖罪(しょくざい)するのは当然のこと、莫大な献金をしても、まだ足りないという統一協会の教義とはまったく相反するはずですが、お金と票、そして「反共」の点で醜い手を結んだのです。
 この本は、自民党議員が、いかに統一協会と手を結んでいるのかについて、突撃取材も繰り返しつつ明らかにしています。大変貴重な労作です。発表以来の3週間で4刷というのも当然ですし、もっともっと読まれるべき本です。
 たとえば、自民党の北村経夫参議院議員は統一協会の組織票8万票を上乗せして当選したこと、その裏では、アベやスガが画策したことが明らかにされています。
 統一協会が日本の政治家へ働きかけ、抱き込みを図っている目標は、真(まこと)の父母様(文鮮明と韓鶴子)の主権によって日本という国を自由に動かすこと。人類の使命は、真の父母様の民となること、というのです。実に恐ろしい教義です。
 菅元首相は、首相官邸に統一協会の幹部たちを招待していました。これまた、とんでもないことです。
 そして、安倍内閣のとき、統一協会と関係の深い議員たちが次々に内閣や自民党の要職に抜擢(ばってき)されたのです。これまた驚くべき事実です。これは、今の岸田政権でも同じことです。その典型が萩生田政調会長でしょう。
 統一協会は日本は過去に間違ったことをした、とんでもない民族なので、自分をかえりみることなく(すべてを捨ててでも)、全てを惜しみなく(韓国の人々に)与えなければならないと教えています。もちろん、受けとるのは韓国の民衆ではなく、文鮮明・韓鶴子とそのファミリーです。その利権をめぐって、文鮮明の死後に、母親と息子たちとのあいだで醜い争いがあり、アメリカでは裁判にまでなったのでした。なにしろ、日本から韓国に送金された金額は毎年300億円以上(何十年と続いています)なのです。
 体当たり取材も重ねて自民党と統一協会との深い関係、その闇を明らかにしている大変貴重な労作です。300頁ほどの本ですが、怒りをおさえながら、1時間あまりで読みあげました。
(2022年10月刊。税込1760円)

 博多駅で映画「ザリガニの鳴くところ」をみてきました。原作はアメリカで2019年、2020年に一番売れた小説です。全世界で1500万部突破したというのですから、すごいものです。
 私は昨年読んで、まさしく圧倒されました。なので、もちろんこのコーナーでも紹介しましたし、本好きの人に勧め、感謝されました。
 ともかく自然描写がすごいのです。森の中、沼地で生活する、しかも家族がどんどんいなくなり、少女が一人で生きていくのです。
 ところが、世の中には蔑視するだけではなく、親切な人もいて、やがて学校に行かなくても読み書きが出来るようになり、ついには恋人までもつくれました。しかし、それが裏切られてしまい、ついに殺人の疑いで起訴される...。
 いやあ、原作ほどの感銘はありませんでしたが、すばらしい映像です。必見です。そして原作を読むことを絶対おすすめします。

2022年11月18日

小さな労働組合、勝つためのコツ


(霧山昴)
著者 鈴木 一 、 出版 寿郎社

 今の日本社会ほど労働組合の存在が忘れられている時代はないように思えます。
 著者は、あとがきに次のように書いていますが、まったく同感です。
 先進資本主義国のなかで、日本ほど実質賃金の下がった国はない。その原因は、労働運動が弱くなったことにある。労働組合の多くが、企業で不祥事が起きても、それを告発したり防止しようとはせず、ただ傍観するだけの「名ばかり組合」になっている。政府や資本を牽制・対峙するような労働運動が日本にほとんどなくなった。
 そして、このような状況を打破するため、著者はその32年間の血と汗、苦労のエッセンスをこの本に実例とともに分かりやすくまとめました。いわば労働相談の手引書です。
 著者は、これまで150をこえる職場で労働組合を結成したというのです。すごいですね。そして、その8割で組合つぶしの不当労働行為が発生して、たたかったのでした。
 労働組合の結成を成功させるコツは、組合員に労働者の権利と不当労働行為制度を理解させること。当事者が腹をくくり、専従オルグがしっかりサポートすれば、職場での多数派を直ちに形成するところまでいかなくても、組合結成は必ず成功する。
 組合員がパニックに陥らないように、あらかじめ対策を立てておく。会社側が表の顔と裏のそれを使い分けているようなときには、裏で何を企むのか、想像力を働かす必要がある。
 団体交渉では、ハッタリにひるまないようにするのが肝心。団体交渉は、格闘技であり、相手をどう抑え込むかにかかっている。
 何の計画性もなく、ただ「その場で思いついた」という争議行為はとても危険だ。
 32年間ものあいだ、労働組合づくりと団交等に生き甲斐をかけた日々を振り返って後進に自分の経験から学べるものを伝えるべく、整理しています。とても実践的かつ分かりやすい本です。どうぞ手にとって読んでください。
(2022年10月刊。税込1980円)

2022年11月13日

若葉荘の暮らし


(霧山昴)
著者 畑野 智美 、 出版 小学館

 40歳以上の独身女性というのが入居条件となっているシェアハウスに入居するようになり、そこでの生活にいつのまにか安らぎを覚えるようになる主人公の日常生活が描かれています。とくに何か大事件が起きるわけではありません。
 主人公は一度も結婚したことがなく、ずっと独身。それでも、彼氏はいたのです。ところが、なんとなく踏み切れないまま別れてしまったのでした。仕事は、洋食屋のウェイトレス。小さな店なので、正社員ということではなく、アルバイト。
 ところが、コロナ禍で客が激減し、店の存続が心配になる。オーナー夫婦はいい人だし、従業員同士の人間関係も悪くはない。シェフ見習いは、新しいメニューを開発しようとしていて、試作品を店員みんなに持ち帰らせて、意見を求める。主人公もシェアハウスに試作品のコロッケなどを持ち帰って、その住人に意見を求めてみる。
 飲食店はコロナ禍の下、客が減って大変だ。主人公は、かといって簡単に転職するなんて考えられない。まったく移る先の宛(あて)がない。
 主人公が5年前までつきあっていた彼氏は、別の女性とも交際していて、結局、そちらを選んだ。浮気とか二股とかとは、少し違う。なので主人公は怒ってはいない。彼氏が対等に生きていける女性を人生のパートナーとして選んだ。そのことをとがめだてするつもりはない。今は、洋食店に客としてやって来る男性と交際してもいいかなとは思うものの、なかなか踏み切れない。
 彼氏とは別れる直前までセックスもしていたけれど、それは特別なことではなくて、日常的な行為だった。セックスは、若いときほど貴重でないというが、そんなに大事にすることなのかなという感じ。経験した人数は、そんなに多くはないし、どちらかというと少ないとは思うけど、ひとりとしか寝ないということでもない。もっと色んな人と寝ておけば良かったと考えることもある。
 もう子どもを産むこともないだろう。そうすると、セックスになんの意味があるのか、悩んでしまう。これから彼氏ができたとして、なんのためにセックスするのか...。それが愛の証(あかし)と言えるような、重要なことには思えない...。
 これが40代の独身女性の心境なのでしょうか...。
 このシェアハウスは、もとは学生向けのアパートだった。それを改装して、台所と風呂場とトイレを共有スペースにして、40歳以上の独身女性限定のシェアハウスにした。
 学校でちゃんと勉強してきた人と、そうでない人で、ベースが違うと感じたことがあった。中学生や高校生のときに、まったく興味がもてないと文句を言いながらも暗記した日本史や世界史、なんの話をしているのか分からないと思いながらも考え続けた生物や化学や物理、見るだけで頭が痛いと感じながらも解き続けた数学。役に立ったとはっきり思えるような出来事があったわけではないけれど、たしかに覚える力や観察する力、そして考える力が養われていたのだ...。
 女性にも、男性にも、それぞれ抱える問題がある。本来は、政治がどうにかしていくべきことなのだろう。でも、それを期待できるような国でないことも、分かっている。声を上げることは必要だ。でも、変わることを待つばかりでなく、自分たちで助けあう方法も考えなくてはいけない。
 いろいろ、しみじみと考えさせられるストーリー展開でした。
(2022年9月刊。税込1980円)

2022年11月 9日

統一教会とは何か


(霧山昴)
著者 有田 芳生 、 出版 大月書店

 2022年7月8日、奈良市の大和西大寺駅前で安倍晋三元首相が銃撃を受け暗殺された。その映像は生々しく、警察の警備があまりにスカスカだったことにも驚かされました。容疑者は特定の宗教に恨みがあったからと供述していると報道されましたが、参院選の投票日(7月10日)のあとになって、ようやく、統一協会がらみだと報道されはじめました。
 この本では「統一教会」となっていて、一般の報道もそうなっていますが、正式名称は統一協会ですから、「教会」ではないのです。あたかもキリスト教の教会の一種かのような誤解を与えようとしているのに乗せられてはいけません。なので、私は「協会」とします。
 日本の警察も、オウム真理教の次は統一協会だとして情報収取を始めていたそうです。それがいつのまにか、「天の声」によって雲散霧消してしまったのでした。要するに、「政治の力」がかかったのです。文科省が下村博文大臣のとき、名称変更を急に認めたのと同じです。安倍―下村ラインは、それまで拒否され続けていたのに名称変更を受理しました。
 統一協会の信者に若い女性が多いのは、「堕落論」に惹(ひ)かれるほど、日本社会に歪みが多いということの反映だ。
 統一協会に入る若者には、何でも受け入れてしまう性格で、それが本当かどうかを他の方法で確認せず、論理よりも感覚的という共通点がある。
 統一協会への入信テクニックは強烈で、個人のニーズに合わせて多様だ。
 統一協会の信者をやめるときのポイントは、本人が自分の頭で考える姿勢になること。
 ノルマは1日に3万円。人を騙しているという罪悪感は一切ない。すべてはお父様のため、地上天国実現のため。早朝から深夜まで、押しつけ的なモノ売りに走らされます。
 統一協会を離れたりしたら、家族や先祖が霊界でどんなひどい目にあうか分からない。だから、どんなに辛くても、逃げ出すわけにはいかない。こんなひどい心境に置かれています。
 お父様(文鮮明)は、不本意ながら、ぜいたくな生活をしていらっしゃる。信者(食口。くっく)は、北朝鮮の人々より高い生活水準をもつと、霊界からのしっぺ返しをくうことになる。
 いやはや、文一族のぜいたくざんまいは「不本意」だと思わされているのですね、アベコベです。
 合同結婚式のあと、4割くらいのカップルが実際には破綻していると言われている。家庭を大切にと言いながら、自分たちは実践してもいないのです。
 統一協会は国会議員の選挙を応援するに際して、議員(候補者)本人に確認書にサインさせています。
 ①統一協会の教養を学ぶためセミナーに出席する。②国際勝共連合系であることを認める。③統一協会を応援するというもの。
 そして、統一協会は議員秘書養成所で教育した若者たちを自民党の議員秘書として送り込んでいるのです。統一協会秘書軍団が議員を動かし、自民党を動かしています。
 韓国人が人間であるのに対して、日本人は、パンくずを拾う犬の立場、乞食に等しい存在だ。文鮮明の前に、日本の天皇はひざまずく存在だ。日本は韓国に仕える国であり、いずれ世界の言語は韓国語に統一される。
 こんな極端な韓国中心主義、いわば「反日」の典型の教団と安倍派を筆頭に自民党の国会議員たちが文鮮明と韓鶴子夫婦を最大限もち上げてきた(いる)のです。信じがたい、また日本人として許せないことではないでしょうか...。
 統一協会のいわば僕(しもべ)として活動してきた萩生田議員(自民党の政調会長)、細田衆議院議長が議員辞職することもなく、ひたすら、ほとぼりのさめるのを待っているなんて、日本の政治の醜悪の極致です。いま広く読まれるべき本です。
(2022年10月刊。税込1650円)

2022年11月 8日

ウトロ、強制立ち退きとの闘い


(霧山昴)
著者 斉藤 正樹 、 出版 東信堂

 京都府宇治市にあった在日朝鮮人集落ウトロ地区に建てられたウトロ平和祈念館を10月24日に見学しました。秋晴れの日の午後のことです。
 ウトロ地区は、今では地区改造がすすみ、市営住宅が2棟建築中(1棟は完成して入居ずみ)で、昔の「不良住宅」の面影はわずかに残っているだけです。
 その一角に、ヘイト思想にこり固まった若者が放火した建物の残骸がまだ残っています。
 なぜ、ここが在日朝鮮人集落になったのかというと、戦前、日本軍が近くに飛行場をつくろうとして、朝鮮人労働者を朝鮮半島からひっぱってきたからです。戦後も、彼らはそのまま住みつきました。
 戦前、1300人もの朝鮮人労働者が集められました。慶尚南道の農民が多かったとのこと。
 飯場は連棟式長屋で、単身者だけでなく、家族もちも多かったそうです。
 戦後は、国有地ではなく、民間企業の所有地でしたが、低湿地のため、大雨が降るたびに水びたしになり、水道もない、まさしくスラム街。そこに在日朝鮮人が固まって生活していました。住民の3分の1は戦前の飛行場建設に関わって働いていた人たち、残り3分の2は、他地域からの転入者。
 ウトロは土地全体が、ここに住む在日朝鮮人の共有財産のような感覚だった。
 1970年2月、ウトロの住民代表は、土地の売却を要望する文書を土地所有者に送った。これが、あとで時効取得の成立を妨げることになった。
 そして、1988年に、土地所有者はウトロの住民を被告として、建物収去土地明渡訴訟を提起した。これに対して、住民側は、土地(地上権)の取得時効を主張した。
 裁判所の和解案は、住民側が土地を14億円で買いとること。とても、そんなお金はない。そして、敗訴判決が1998年1月に出た。先の要望書がウトロの住民に所有の意思がなかったことの証明にされたのです。
判決にもとづき強制執行がされるのを防ぐため、住民は結束して立ち上がった。道路を占拠して座り込んでいる住民の写真があります。実に壮観です。
 それだけではありません。住民は学者の応援を得て、国連に訴え出たのです。国際人権規約にもとづいて、日本政府は、もっとも効果的な救済措置を即時にとるべきであって、これは人権条約上の国の義務だという申立をし、これに対して、国連は政府に同趣旨の勧告をしたのでした。いやあ、こんなときに国連と国際人権規約が使えるのですね。
 そして、これが日本政府だけでなく、韓国の政府と世論を大きく揺り動かしたのでした。その結果、2つの財団ができて、ウトロ地区の土地は財団の所有となり、住民は市営住宅に入ることができたのです。そして、立派なセンターとつくりあげました。すごーい。
 知恵と工夫が、住民の団結を後押しし、世論を大きく動かしたことはよく分かりました。何事も、あきらめたらいけないんですよね...。
 この付近で育ったという福山和人弁護士(京都弁護士会)が案内してくれました。ありがとうございました。
(2022年4月刊。税込1320円)

2022年11月 2日

玉城デニーの青春


(霧山昴)
著者 藤井 誠二 、 出版 光文社

 「オール沖縄」候補が那覇市長選挙において大差で自公のアメリカ軍基地増設容認候補に敗北したのはショックでした。何より市長選の投票率が50%に達しないというのが残念です。
 なんだか、どっちもどっちだな。そんなら、わざわざ投票所に足を運ぶこともないんやな...。
 有権者の半分も投票所に行かないなんて、日本はそれだけで異常な国だと思います。よその国は、投票に行きたくても行けなかったり、監視つきでしか投票できなかったりしているのに、日本国民は、あまりに怠慢です。まさしく惰眠をむさぼっています。そのツケはすでに来ていて支払わされているのに、そのことに気がつかずに、毎日、オレ(ワタシ)は忙しいんだし(忙しいのよ)、なんてウソぶいているのです。本当に残念です。
 でも、私は絶望してはいません。やれば、たたかえば出来ることを、この本の主人公が示してくれているからです。玉城デニーが沖縄県知事選挙で当選したことは万鈞の重みがあります。このとき、自由と民主主義を求め愛好する人々の良心が勝ったのです。
 その沖縄県知事の青春を振り返った本です。ああ、そういう人だったのか、それで沖縄の厳しい選挙選を勝ち抜くことができたのか、よく分かりました。
 何よりも人柄がいい。強さと明るさには頭が上がらない。
 沖縄は日本の中で差別され、沖縄の中でハーフは差別され、そのねじれの間を生き抜いてきて、差別がトラウマになって脱しきれない人がたくさんいるなかで、デニーはそうではない。デニーという名前はいじめられる。
デニーの父親は沖縄に来ていたアメリカ海兵隊員。でも今、どこで何をしている人なのかは明らかにされていない。玉城デニーも、父親の素性には触れない。
 「十人十色で10本の指のかたちも長さも違うのだから、気にする必要なんかない。容姿は皮一枚なんだよ。皮を脱いだら、みんな赤い血が流れていて、同じなんだよ」
 これは玉城デニーに母親が言ったコトバ。すごいですね、まったくそのとおりですよね。
 玉城デニーは、高校生のときにロックバンドを結成し、素人グループながら、米軍基地内でも演奏していたそうです。デニーは、ボーカル。ロックバンドの名前は、「ウィザード」。魔法使いですかね...。
 デニーは強い。母ひとり、子ひとりで、ハーフとして差別もされて、それが強さになっている。東京で生活して、苦労して、沖縄に戻ってきた。そして、誘われて音楽をやるようになった。
 ハーフであり、見かけで差別されたこともあったのに、よくぞいい性格のままで大人になれたものだ。そういう扱いを受けたからこそ、反発として性格の良さが磨かれたのかもしれない。
 そうかもしれない、きっとそうだろう。私もそう思います。弁護士になって、いろんな人と出会い、苦労したことが必ずしも人格を円満にするとは限らないという人を嫌になるほど見てきました。トゲトゲしさばかり、他人(ひと)を見下してばかりの「苦労人」がいます。そして、まともなことを言って、少しでも政権にタテつくと、「アカ」というレッテルを貼りつけて切り捨てるのです。その心の狭さに私は何度も呆れてしまいました。
玉城デニーには、2人の母がいる。産みの親(玉城ヨシ)は「おふくろ」で、育ての母(知花カツ)は「おっかあ」と呼んだ。この二人は、とても仲が良かったので、産みの親が育ての母にデニーをまかせたのだった。子どもって、愛情たっぷりに育てたら、産みの親かどうかは関係ないんですよね...。
沖縄の現実の一つを知ることのできる貴重な本だと思いました。
(2022年8月刊。税込1760円)

2022年11月 1日

迫りくる核戦争の危機と私たち


(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 あけび書房

 2月に始まったロシアによるウクライナ侵略戦争は、いつ終わるか不明のまま、越年しそうで心配です。このロシアの戦争を前にして、日本も核兵器で武装すべきだとか、アメリカと「核」を共有すべきだとか声高に叫ぶ人々がいます。
 日本が核を持ったら、日本の平和が守れるなんて、ちょっと真面目に考えたら、ありえないことがよく分かるのではないでしょうか。なにしろ、日本は、日本海に面して、たくさんの原子力発電所をもっていますから、そこに通常兵器のミサイルを打ち込まれたら日本はおしまいなのです。
 3.11の福島第一原発は地震による津波被害という自然現象でした。それでも大変な苦労をしているというのに、ミサイルで攻撃された原子力発電所は膨大な放射能を出し続け、もう誰にもそれを止めることができません。
 世界には原子力発電所が434基もあるとのこと。つまり、地球規模で考えて、人類は核戦争を始めてしまったら、この地球上どこにも住むところがないことになるのです。まさしく、「核の冬」は人類を絶滅させます。
 この本の著者は、一貫して核兵器を直ちになくせと主張し、行動してきました。まったくそのとおりです。
 今ひとつの危険は事故によって核戦争が始まりかねないということです。現に、これまで、何回となく核戦争が起きそうになりました。それはあの悪名高い「キューバ危機」だけでなく、本当の事故です。人為的ミスがどうかは別として、核攻撃を告げるアナウンスが間違ってされたことは現に何度もあります。人間がやっていることですから、どうしても間違いは起こりえます。それを防ぐことはできません。これまで、たまたま重大な事故にならなかっただけなのです。
 ロシアの保有核弾頭は4630基で、そのうち1625基が実戦配備されている。
 ロシアは1キロトンの小型核兵器を2000発保有している。それを前提として、ロシアのプーチン大統領は核兵器をつかうぞと威嚇しているのです。本当に怖いです。
 「平和を望むなら、戦争に備えよ」
 「平和を望むなら、核兵器に依存せよ」
 世界には1万2千発の核弾頭があり、その運搬手段は高速化し、精緻化している。
 ところが、日本政府は相変わらずアメリカの「核の傘」に依存し続けていて、核兵器禁止条約に反対している。アメリカの核抑止力を損なうことになるからというのが理由。おかしな理屈です。
 核兵器は、戦闘のための手段ではない。相手方の力を弱めるための、相手方の敵意をそぐための「国際政治の道具」なのだ。これが核抑止論者の考え方。
 しかし、すでに核抑止論は破綻している。ウクライナはプーチンの核使用の威嚇にもかかわらず、戦闘を続けている。
 核による脅しは、現実には核軍拡競争を激しくしただけ。このように、核兵器によって平和と安全を確保しようとする核抑止論は、理論的に破綻しているというだけではなく、現実的にもその効用が証明されているものでもない。
 地球上に核兵器がもっとも多かったのは1986(昭和61)年で、7万発あった。それが、今では1万3千発に減っている。
 原資爆弾はまさしく「悪魔の兵器」なので、なくすしかない。まったくそのとおりです。
 今、多くの日本国民が物価高に苦しみ、年金の切り下げ、賃金の低下と不安定雇用で先行き不安をかかえているのに、軍事予算の増大に半分以上が賛成しています。先日のJアラート効果は抜群でした。日本政府が苦しい状況に置かれると、そのタイミングで都合よく北朝鮮がミサイルを打ち上げる。このタイミングの良さから、北京で日本政府が内閣官房機密費を原資として「賄賂」を提供しているという噂が消えません。いやあ、先日のJアラート効果は絶大でした...。政府の世論誘導に国民がすっかり乗せられています。
 いま、大いに読まれてほしい一冊です。著者の論文集、講演録を一冊の本にしていますので、重複が多いのが少し残念でした。著者より贈呈を受けました。ありがとうございます。ますますの健筆を祈念します。
(2022年11月刊。税込2420円)

2022年10月27日

統一協会の何が問題か


(霧山昴)
著者 郷路 征記 、 出版 花伝社

 統一協会(教会ではありません)と35年にわたって対峙・対決してきた著者が安倍元首相を殺害した山上容疑者の母親の置かれている状況を深く深く突っ込んで解説しています。これを読むだけでも、この800円の小冊子(ブックレット)を読んだ甲斐は十分にあります。
 統一協会が対象とする人は次の3条件を備えている人。その1、預貯金が100万円以下の人は誘わない。お金のない人を誘うのはムダなこと。目標は100億円の預貯金のある金持ちをゲットすること。その2、素直な人に限る。何事も疑ってかかる人はコスパが悪い。その3、宗教心があること。あの世を全然信じないような人はダメ。占いを信じる人ならOK。
 印鑑販売に始まり、氏名判断をする。このときのトークは、運勢があなたの人生に影響している。先祖の悪霊が家系を通じて、あなたの不幸につながっている、というもの。霊界や因縁の話を聞かされて、迷信と思わず、実在すると感じる人が一定割合でいる。そんな人を統一協会は狙う。そして、ビデオセンターに誘導する。このときは、統一協会の教養は徹底的に隠しておく。ビデオセンターを受講すると、少なくとも1割、著者によると25%以上が統一協会員になる。
 霊人体が存在し、霊界で永遠に生きるという講義内容を素直に受け入れられない人は、「卒業させる」、つまり追い出してしまう。
 統一協会の神は、悲しみの神だ。サタンが人間を奪っていってしまったことに対して手を出せず、何もすることができず、6000年間、涙にくれていた神。今から6000年前というと、日本では思いあたりませんが、古代エジプト王国があったのでしょうか...。
 山上容疑者の母親(この冊子ではA子さん)の夫は自殺しています。
 配偶者を自殺で失ったときの自責の思いは、他人が想像もできないほど格別に深い。
 ここに統一協会はつけこみ、原罪をもっているあなた(A子)は愛のある人格者でなかった、愛をもって夫を支えきれなかった、あなたの罪の故に、夫は自殺した。そのため、夫は地獄の深いところ、下から2番目のところで苦しんでいる。このようにA子は強い罪の意識を深めただろう。そして、そのとき、「救われる道はある」とささやき、「偽りの希望」を与える。そこにA子は飛びついたのだろう。
 ビデオセンターは、罪人である自分と家族が救われる方法を知るための場になった。
 罪の意識を持たされた人は、それが深ければ深いほど、切ない思いで救いを求め、メシアを渇望する。そこにメシアを与える。
 このとき、それでも罪の意識をもたせられない人は「卒業」させ、追い出してしまう。
 不安や恐怖を発生させる力をもつ因縁を実感させられ、記憶として定着させられてしまうと、不安や恐怖は意識の表層部分に常にあらわれていなくても、意識の下層に埋め込まれた状態になっているので、何かの拍子に不安や恐怖が沸きあがってきて、意思決定が歪められてしまう。これが、「因縁」の力。
 原理講義は理解させるのはなく、そのまま丸呑みすることを求める。
 A子を献金させ続けるための新しい理屈は「恨霊」。自殺した夫は恨霊になって地上をさまよっている。A子は恨霊になった夫をおさめるため、また小児ガンとなった長男の体のなかの恨霊を追い出すため献金を続け、さらに韓国・清平に何度も通った。
 そして、堕落性本性(よこしまな心)を自分の心から追い出し、きれいな心になるためには、物売りをすること、統一協会を増やすことが必要だと告げられ、実践していく。
 財産がなくなったら、借金してまで献金させる。また、親戚・知人に嘘をついて借金し、献金させる。すると、人間関係が全部切断されてしまい、統一協会に頼るしかなくなる。
 嘘をついての勧誘や物売り、嫌がらせの電話など、すべては神のため、メシアのため、善なので、やらなければならない。
 カインはアベルの言うことに絶対服従。自分の頭で考えることは禁じられ、やれと言われたら、やるという人間になる。
 「今はわかってもらえなくても、霊界に行けば、きっとわかってもらえる、感謝してもらえる」
 「私の使命は、そうすることによって息子たちを守ること。それは、私以外にできないこと」
 A子にとって、統一協会の存続、栄誉が第一の問題になっている。途中でやめたら、自分は地獄に行く。
 著者は、A子は、統一原理に頭を支配されている以外は、私と何の変わりもない人なんだと強調しています。そのとおりなのでしょうね。でも、これほど人間の頭をコントロールできるって、本当に恐ろしいことですよね。
 統一協会に入った人を救うには、論理・常識ではなく、愛がもっとも重要だとしています。
 文鮮明(故人)と韓鶴子の王になった即位式の写真が紹介されていますが、まさに「王」ですね。韓国の本部も「宮殿」でした。日本人の信者から騙しとった大金がつぎこまれた建物です。むかつきました。全文で100頁ですが、前半の50頁だけでも十分に統一協会問題の本質が分かると思いました。今、大いに読まれるべき冊子として、強く一読をおすすめします。
(2022年11月刊。税込880円)

2022年10月18日

私がつかんだコモンと民主主義


(霧山昴)
著者 岸本 聡子 、 出版 晶文社

 本年(2022年)6月に、杉並区長に当選した著者の半生を振り返った、刺激的な本です。現職区長をわずか187票差で破って当選した女性ですが、この本によると、女性のほうが政治家には向いているとのこと。なぜなら、他人への想像力が政治家の仕事の本質だから...。政治家に一番大切な資質は、自分とは違う立場の人たちをどこまで想像できるか、自分の知らない不都合を当事者から学び続ける謙虚さだ。
 なるほど、ですね。まったく異議ありません。
 著者は区長になる前は、市民運動の専従事務局のようにして活動してきました。より正確にいうと、オランダ・アムステルダムに事務所があるトランスナショナル研究所(TNI)でスタッフとして働いてきました。このTNIは、NGOというより、市民・社会運動を支援する左派系の活動家兼研究者のシンクタンクのようなもの。この団体の主要言語は英語とスペイン語。
 著者はオランダに住みながら、そして息子たちはオランダ語ペラペラなのに、自分はオランダ語は話せないし、話す努力はもう放棄したとのこと。
 人生は言語ばかり勉強するほど長くはない。これまた、なーるほどです。でも、私はフランス語だけは、今もあきらめることなく勉強を続けています。
 著者は、たとえば水道の民営化に反対する運動に取り組みました。水道を民営化すると、自治体財政は公営のときよりも結果的に悪化してしまう。それは、水質が低下する。必要な投資がなされない。水道料金が値上げされて市民生活を直撃する。企業に支払う委託料が不透明に値上がりする。自治体が水道運営・財務情報を企業に求めてもきちんとした情報が得られない。専門職をふくめた労働者が首切られる。こんな問題があるからです。
 ふむふむ、こういった実情・実態は広く知られる必要がありますよね。それの手助けをするのが、著者たちTNIなのです。
 このほか、スウェーデンの高校生だったグレタと同じように、著者は地球環境保全の取り組みにも関わっています。
 そのため、著者とパートナーは自動車を持たないどころか、運転免許も保有していないとのこと。それではベルギーで生活するのに不便なこと、このうえない。
 ベルギーで育った著者の息子はベルギーの大学に入った。その体験談は刮目(かつもく)です。まず、ベルギーには大学入試がない。といっても、入ったからといって、誰でも大学を卒業できえるわけではない。半分は2年生になれない。つまり進級試験に半分は合格できない。そして、学費はなく、年間登録料として11万円ほど納付するだけ(収入の少ない家庭は半額以下に減免される)。
 どうして、そんなことが可能なのか...。それは、教育に膨大な公費、つまり税金が投入されているから。公費で82%をまかなっている。これは日本の31%に比べると2倍以上。日本も公費負担を一気に引き上げる必要があります。軍事予算を2倍、10兆円にする前に、教育予算こそ倍増すべきです。
 222頁の本ですが、著者のはつらつとした、意気軒高な文章に圧倒されてしまいました。
(2022年9月刊。税込1760円)

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