弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

インド

2024年4月20日

『RRR』で知るインド近現代史


(霧山昴)
著者 笠井 亮平 、 出版 文春新書

 インド映画はすごいです。その爆発的なエネルギーには、まったく圧倒されます。暗い映画館の座席に座っていても、ついつい身体が動き出し、飛び出してしまいそうになります。
 『RRR』というのはアカデミー賞を受賞したインド映画です。インドはかつてイギリスの支配する植民地でした。そして、イギリス支配を脱して独立しようとする試みが何度も試みられたのです。
 『RRR』の主人公であるラーマとビームはいずれも実在の人物。二人とも1900年前後に生まれて、武装蜂起を展開します。
 ラーマは、1924年5月7日に銃殺された。ビームは1940年に藩王国の警官に殺された。このラーマとビームが踊る「超高速ダンス」は、思わず息を呑む踊りです。なんと、その撮影場所はウクライナであり、大統領の迎賓館だというのです。驚きます。ロシアの侵攻する数カ月前に撮影されたそうです。
 場所はともかく、この踊りだけでもユーチューブで鑑賞できるそうですので、ぜひみて下さい。必ずや圧倒されることを保証します。
 そして、この本は、映画で紹介される「8人の闘士」についての解説があります。そこにはガンディーもネルーもいません。ボース以外は日本人にはまったく知られていない人たちです。この8人の存在を知れたことだけでも、本書を読む意味がありました。
 日本におけるインド映画ブームに火を付けたのは『ムトゥ 踊るマハラジャ』でした。映画の途中に、突如として大勢の男女によるダンスシーンが入るのですが、それがまさしく圧倒される素晴らしさなのです。
 インドのボースには2人いて、新宿・中村屋のカレーで有名な「中村屋のボース」は、ラーマ・ビハーリ・ボースであり、もう1人は、スパース・チャンドラ・ボース。こちらは、インド国民軍を組織して、日本軍と一緒に、あの悲劇的なインパール作戦をともにしました。
 インターネットの世界では世界を支えているインドの知識人の層の厚さにも圧倒されますよね。ガンディー、ネルーだけでない、インドの熱気にあてられてしまう新書でした。
(2024年2月刊。1100円)

2024年1月27日

ガラム・マサラ!


(霧山昴)
著者 ラーフル・ライナ 、 出版 文芸春秋

 インドの若き作家によるデビュー作のミステリー小説です。
 登場人物がやるのは、まずは替え玉受験です。貧困地域に生まれ、暴力親父とともに屋台のチャイ屋で働いていた少年が替え玉受験して、なんと全国共通試験で全国トップの得点をあげ、大金持ちのドラ息子がインド最高の天才少年として、持ち上げられるところから話は始まります。もちろん、ドラ息子は天才ではなく、それどころか怠け者です。
 日本でも韓国でも受験競争は「戦争」と言われるほど苛烈ですが、インドも同じようです。そこで登場してくるのは「教育コンサルタント」。これは、進路指導とか受験指導というのではなく、裏口入学を斡旋するという違法行為に手を染める業者なのです。
日本でも少し前に替え玉受験が発覚しましたが、発覚しなかったケースもあったのでしょう。そのとき、本人はそれを自覚していると思います。どんな気持ちで卒業していったのでしょうか、私は少し気になります。
 替え玉受験のおかげで「天才少年」として注目されたドラ息子は、テレビのクイズ番組に出演するようになり、ますます注目を集めます。代わって受験をした少年は、その世話役としてずっと身近にいて付き添いとして活動します。そして、誘拐事件が発生...。あとはドタバタの活劇映画さながらで展開していきます。
 私は、インド映画を、決して多くはありませんが、それなりにみています。最近では、「バーフバリ」や「RRR」です。インド映画特有の歌と踊りが途中で何度も登場してきますから、いつだって面白い活劇として堪能しています。
 この本は、貧困や教育の格差を背景としつつ、悪いことって本当に悪いことなのか...と問いかけている小説なんだと解説に書かれていました。
 日本のIT産業にインド人のIT技術者が大量に入ってきていますが、その背景を知るのにも役立ちそうなミステリー小説です。
(2023年10月刊。2200円+税)

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