弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

警察

2021年9月29日

琉球警察


(霧山昴)
著者 伊東 潤 、 出版 角川春樹事務所

沖縄の政治家として有名な瀬長亀次郎が主人公のような警察小説です。本のオビに、こう書かれています。
すべてを奪われた戦後の沖縄。それでも、米軍の横暴の前に立ちはだかった一人の男がいた。その名は瀬長亀次郎――。
最近、カメジローの映画が出来ていますが、残念ながら、まだみていません。もちろん、シネコンではみれません。スガ首相を描いた『パンケーキ』の映画と同じく、日本人みな必見の映画だと思うのですが...。
カメジローが那覇市長に当選したあと、アメリカ民政府は徹底して嫌がらせをした。たとえば、銀行預金を口座凍結したため、那覇市は通常の予算が組めなくなった。そして、水道水の供給まで止めた。怒った市民は、すすんで那覇市に税金を治めにやってきて、納税率は97%にまで上がり、公共工事も再開できた。
しかし、警察が次々と罪なき市民を逮捕し、市民が人民党と手を切ると約束すると、不起訴になった。いやはや、アメリカ軍政下とはいえ、あまりに露骨な弾圧ですね。
那覇市議会はアメリカべったりの保守派が多数を占めていて、カメジロー不信任案を24対6で可決した。カメジローは、それに対して議会を解散した。選挙後の市議会では反カメジロー派は過半数は占めたものの、3分の2以上ではなくなった。そこで、アメリカ民政府は過半数でも不信任を可決できるようにして、ついにカメジローは那覇市長の座を追われた。いつの世にも、正義と道理ではなく、アメリカの言いなりになる「保守派」がいるものなんですよね。残念ですが、今の自民党と同じです。3.11があっても原発は推進する、日本学術会議の任命拒否は撤回しない、モリ・カケ事件は再調査しない、質問にまともに答えることはしない。こんな自民党に日本の将来をまかせるわけにはいきません。なのに、なんとなく「野党は頼りない」と思い込まされて、ズルズルと自民党に投票してしまうか、投票所に足を運ばずに棄権してしまう日本人が、なんと多いことでしょう...。本当に残念です。
この本には、カメジローの有名な演説が紹介されています。
それを知るだけでも、この本を読む価値があります。
カメジローは、奇妙としか言えない容貌の持ち主だ。背丈は沖縄人の平均よりやや低いが、顔は骨張っている上に長い。額は広く、髪の毛は後退しはじめている。とくに異様に高い頬骨と長い顎(あご)は、個性的な顔の多い沖縄人のなかでも珍しい。
「この瀬長ひとりが叫べば、50メートル先までは聞こえます。しかし、ここに集まった全員が声をそろえて叫べば、沖縄全島にまで響きわたります。沖縄県民80万が叫んだら、どうでしょう。太平洋の荒波を越えて、ワシントンにまで届きます」
玉城ジェニー知事の前の翁長雄志知事も、カメジローの演説を聞いて心を震わせたことがあったようです。
この本のメイン・ストーリーは、カメジローの率いる人民党にスパイ(作業員)を送り込み、情報を入手し、また人民党を操作しようとする公安警察官の葛藤です。
佐々木譲の『警官の血』には赤軍派の大菩薩峠における大量逮捕にあたって、赤軍派内部に送り込んだスパイとどうやって連絡をとるかという工夫と苦労が詳しく紹介されていました。
アメリカのブラックパンサー党の内部にもFBIのスパイがごろごろいたという本も読んだことがあります。
戦後の奄美、復帰後の沖縄。そして、僕たちの知らない警察がここにあった。これも本のオビにある文章ですが、まったくそのとおりです。
430頁ある小説を早朝から一心不乱に読み、すっかり沖縄モードの気分に浸った一日を過ごしました。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2021年7月刊。税込2090円)

2020年8月30日

桃源


(霧山昴)
著者 黒川 博行 、 出版 集英社

久しぶりに警察小説を読みました。もちろん殺人事件が起きます。それを警察官というより刑事2人が、デコボコ・コンビのようにして追いかけます。舞台は大阪から沖縄にまで飛んでいきます。
話のはじめは逃亡です。頼母子講の座元が集まった講金を持ち逃げしたというのです。
私が弁護士になって数年目のことでした。頼母子講って、古臭い名前から江戸時代の話と思い込んでいたのです。ところが、今も沖縄をはじめ全国でやられているようですね。無尽(むじん)といったり、模合(もあい)といったりもします。
筑後地方では講の世話人が、どこまで責任をもつべきか裁判で何件も争われました。盛主(座元)が初めから破綻させるつもりで始めたら詐欺か横領になりますが、相互銀行法違反で警察に検挙され、実刑になった女性が何人もいました。
座元が講で集まったお金を持って逃亡したとき、横領罪が成立するのは当然ですが、この本でも被害者の代理人弁護士の作成した告訴状では詐欺罪もあげています。要するに金策に困っていて講を始めたのは、当初から講金をだましとるつもりだったとしているのです。この点の立証は簡単そうでいて、実は案外むずかしいと私は考えています。
2人の刑事のうち、1人は大食漢で、脚本家を目ざしていたほどの映画マニアでもあります。刑事としての犯罪訴捜査より沖縄観光を優先させようとしつつ、実は捜査のほうも口でいうほど手抜きはしない愛すべきキャラクターとして設定されています。そんなわけで、大阪や沖縄のおいしい料理が次から次に紹介されるのも読ませる工夫になっています。
そして、もう1人の刑事は独身で女子大生と交際中。肉体関係はあっても、泊まりはなしという決まりがある。ということで、夜の世界の話もチラホラ出てくるのにも惹かれるのです。
沖縄を舞台とする話のほうは、偽りのM資金に似た話です。沈船ビジネス。沈没船を発見したらなんと550億円もの大金が入るので、投資した人への見返りもすごい、なんていう夢のような話で素人だましをするのです。
もうかる話のネタは、尽きないものです。それと知って参入してくる連中は根っからの詐欺師と知能犯のヤクザ。もちろん、失敗したら生命をとられる危険があります。
てなわけで、556頁もある大部な本をコロナ禍の休日に電車と喫茶店で読了しました。
まあ、悪は栄える、というのではないのが最後の救いでした。
(2019年11月刊。2000円+税)

2019年5月11日

KID キッド

(霧山昴)
著者 相場 英雄 、 出版  幻冬舎

この本を警察小説と言ってよいか、やや疑問はあります。というのは、警察庁の高級幹部を相手としてたたかうのは元自衛隊員だからです。それでも警察内部の公安と刑事の派閥抗争、そして首相官邸のなかに喰い込んでいる警察官僚と三つどもえの内部抗争のすさまじさがよく描かれているので、警察小説のジャンルに入れてみました。
自衛隊には、日本にゲリラやテロリストが潜入したときに即時対応できるよう訓練された特殊部隊「特殊作戦群」がある。この部隊については、防衛大臣、官邸の幹部、そして自衛隊のなかでも統合幕官僚長や陸自の幹部が詳細を知るだけ。
高速道路や幹線道路には、警察庁のNシステムが稼働している。あらゆる車両のナンバーと運転手、助手席に乗る人間を鮮明な写真データで保有する仕組みだ。
ドラッグネットは、アメリカの国防総省傘下の諜報機関、国家安全保障局(NSA)が構築したプリズムというシステムをもとにつくられた。
アメリカは9.11のあと、愛国者法を制定し、国民ひとり一人のもつ膨大な量の個人情報の収集を始めた。大規模収集という手法で、通信会社の協力を得て、国民の通話やメール履歴をすべて監視している。
アメリカ政府は、ネットのプロバイダーだけでなく、通販大手やSNS大手のサーバーも監視の網を広げ、個人の発するありとあらゆる情報を吸い上げている。
日本はこの仕組みを導入し、その際、独自にシステムを整備・改造して構築したのが底引き網という名のドラッグネットだ。
狙いをつけたメディアに対しては、固定電話、主要な取材スタッフの携帯電話、社用メール、個人のSNSもほとんど公安が盗聴し、モニターしている。公的権力の監視網は徹底的だ。
個人を特定する顔認証システムも半年間で5回もバージョンアップしている。
もちろん、当然のことながら小説ですからフィクションです。それでもアベシンゾー首相のような視野狭い人物が首相になっていて、狡猾・陰険なスガ官房長官のような人がいて、フィクションと言いながらも現代日本の政治状況をほうふつとさせる場面展開があり、手に汗握るアクションの連続です。政治の舞台裏はかくにありなむと思わせ、私たち国民も手をこまねいていたり、冷笑するだけではすまないと思うばかりです。
アベ・スガ批判の本では決してありませんが、狂人のような集団に政権を握らせると怖いという実感をひしひしと感じさせてくれる本でもあります。そんなストーリーなのに、産経新聞に連載していたというのに少し驚きました。
(2019年3月刊。1600円+税)

2019年3月21日

キンモクセイ


(霧山昴)
著者 今野 敏 、 出版  朝日新聞出版

日米関係の闇に挑む、著者初の警察インテリジェンス小説。
これがオビのキャッチコピーです。ネタバラシをするつもりはありませんが、この本で重要なポイントになっているのは、アメリカ軍基地を出入りしたら、日本の入管手続なしで済ませますので、誰がいつ日本に来て、いつ日本から出ていったのか、まったく分からない闇の世界があるということです。アメリカの大統領が成田や羽田空港ではなく、横田基地に入ったときも、もちろん同じです。日本は大統領もその随行者もまったくチェックできません。いわば治外法権です。まともな独立国ではありえないことでしょう。本当に日本は独立国なのか、疑ってしまいます。もちろん、安倍政権はアメリカべったりなので、このことを問題にする気はさらさらありません。
米軍関係者は米軍基地を経由すると、日本を自由に出入りできる、米軍関係者は出入国管理を通らないで、日本に出入国できる。
公安警察から尾行されないためにはケータイを利用しないこと。ケータイは、電源を切っていても微弱電波を察知されて位置情報が分かると言われているが、それは正確ではない。電源が入っていたときに送った微弱電波の記録が基地局に残るので、電源を切っても、その残った情報から位置を割り出されることがあるということ。
逃亡するときのケータイは、家電量販店で、プリペイドSIMカードと、型落ちの安価なSIMフリーのスマートフォンを購入してつかう。
盗聴しようと思えば、ケータイからも固定電話からも同じく可能だ。しかし、端末から電波を飛ばしているケータイのほうが傍受される危険は桁違いに高い。
スイカを使って地下鉄やJRに乗るのも要注意だ。電子マネーから居場所をつかまれる恐れがある。クレジットカードほど分かりやすくはないが、痕跡をたどれなくはない。交通系電子マネーから瞬時に居場所を割り出すのは難しい。
逃亡するときには現金に限る。
アメリカのCIAに相当するインテリジェンスの実働部隊は、警察庁警備企画課が統括する日本全国の公安警察だ。その中心は、警視庁の公安部である。
CIAやSIS(イギリス)に相当するのは内閣情報調査室で、シギント(電子的諜報活動)は、ほぼ防衛省が担っている。ヒューミント(人的諜報活動、スパイ活動ですね・・・)は、公安警察が担当している。
この本は、私立大学出身でキャリア官僚になった同期生が定期的に集まっているという設定でスタートします。外務省に警察庁に防衛省に経産省、そして厚労省です。お互いに、マル秘の話をふくめて情報交換しあうのです。私も東大法学部出身のキャリア官僚から直接そんな話を聞いたことがあります。相互に面識を深めていくのが身の処し方を語らない一番の対策なのです。
キンモクセイとは、我が家の庭にもある植物のことではなく、禁止の禁、沈黙の黙そして制圧。つまり禁黙制なのでした。ここから先は紹介できません。よく情報を握るものが権力を握るというのは真理なのでしょうね・・・。
(2018年12月刊。1600円+税)

2018年1月26日

不当逮捕。築地警察交通取締りの罠



著者  林 克明 、 出版  同時代社

 築地市場に仕入に来た寿司店の夫婦が交通取り締まりの女性警官に目を付けられ、言い合いになったところ、やってもいない暴行(公務執行妨害)で逮捕され、不起訴にはなったものの、それまで19日間も拘束されてしまった。
 納得できない夫婦は都と国を被告として損害賠償請求訴訟を提起し、事件発生から9年あまりたって240万円の賠償を認める判決を得た。その苦難の日々がドキュメントとして生々しく再現されていく貴重な本です。
事件が発生したのは2007年10月11日の朝8時ころ。逮捕されたときの被疑事実は、巡査(女性)の胸を7~8回突くなどの暴行をし、巡査の右手にドアを強くぶつけるなどして、全治10日間を要する右手関節打撲の傷害を負わせたというもの。しかし、付近にいた目撃者は口をそろえて暴行なんてなかったという。
 「被害」者である女性巡査のいう暴行の態様は、なんと6通りもある。少しずつ変化していっている。
 逮捕された男性の妻によると、女性巡査は、この妻から無視されたことに立腹したらしい。「この一帯を取り締まる権限をもつ自分たちが無視され」て気分を害したようだ。
 ええっ、これってまるでヤクザのセリフみたいなものではありませんか...。
 夫婦は巡査を被告とする損害賠償請求訴訟を代理人弁護士をつけないで提訴し、追行したが、あえなく敗訴(請求棄却)。
 そこで都と国を相手に国家賠償請求訴訟を提起する。このとき国民救援会の紹介で小部正治・今泉義竜の両弁護士に委任した。裁判が始まっても、警察も検察庁も一件記録の所在が不明だとして、提出を拒んだ。しかたなく文書提出命令の申立を6回もした。
 国賠訴訟で勝てた原因として、目撃者を4人も確保できたことは大きい。そして、目撃者を証人として調べないなど、不公平な審議をしていた裁判官を忌避していたことは効果があった。そして、さらに傍聴席を毎回満杯にできたことも大きかった。最後に、原告本人の強い意思、こんな理不尽なことをそのままにしてはいけないという信念の持ち主だったこと。それにしても警察官が事件をデッチ上げるなんて許せませんよね。
 担当した女性検事(五島真希)は現在、東京地裁判事になっているとのことです。そんなことで本当にいいんでしょうかね...。いい本です。とりわけ検察志望の司法修習生にぜひ読んでほしいと思いました。
(2017年12月刊。1800円+税)

2017年12月10日

スリーパー、浸透工作員

(霧山昴)
著者  竹内 明 、 出版  講談社

 久しぶりに警察小説を読みました。警視庁公安部外事二課(ソトニ)というサブタイトルがついています。
 日本社会に北朝鮮の浸透工作員がいて、その摘発に日本の公安警察が躍起となるのですが、公安警察にもいろいろあって、相互に激しく反目しあっていて、単純な協力関係にはありません。浸透工作員のルートもいくつかあるという筋立てです。現実の取材にもとづいているのでしょうね、細部(ディテール)の描写はなかなかのものです。
浸透工作員は金正日総合大学出身。この大学は主体(チュチェ)思想で徹底的に武装し、党と首領に忠実な民族幹部の骨幹を養成する超エリート大学。その3年生、20歳のとき、朝鮮人民軍偵察総局に採用された。
朝鮮労働党幹部の子弟には、金正日総合大学への抜け道がある。入学試験の採点を担当する教授を家庭教師として雇う。受験生は、その教授に指示された秘密の印を答案用紙に書く。すると、教授が採点のときに加点して合格させる。教授へは高額の報酬が支払われる。
朝鮮人民軍偵察総局は共和国最大の謀報機関にして、最強の戦闘能力をもつ特殊部隊である。
かつて日本に実在し、行方不明になった日本人。それがアメリカに渡り、アメリカ育ちの日本人としての経歴を、戸籍や旅券をつかって北朝鮮が成りすます。それに「生まれ変わる」。国家が潜入工作員のために育てた背乗(はいの)り用の身分を活用する。
浸透工作を指揮する工作組長がいて、月1回、月間総括をする。対象の基礎調査、接線の状況、浸透生活中の交友関係、友人との会話状況まで仔細にわたって報告する。月に10万円が支給される活動資金についても、その使途をレシート添付して提出しなければならない。
昔は、短波のラジオ放送で指令が送られてきていたが、今ではステガノグラフィーが使われる。ネット上の画像に隠されたテキストや音声ファイルを複写して、指令を受信する。これだと日本の公安は傍受できないし、深夜にラジオにかじりついておく必要もない。
日本への不法侵入国を浸透、共和国に向けて出国することを復帰という。浸透より復帰のほうが難しいと言われている。迎えの船を待っているところを、日本の公安に見つかり拘束されてしまった工作員は多い。それで、浸透や復帰に使われる沿岸部には、スーパーの女性店員のような補助工作員が多数配置されていて、工作員の安全確保を徹底的にサポートする。
チヨダとは、警察庁警備局警備企画課指導係のこと。全国の公安警察の協力者獲得工作と、そこから得られた情報を管理している秘密部署。その情報は精査され、確度は高い。
腕時計を入手すると、中のクオーツムーブメント一式をそっくりそのまま入れ替え、新しいクオーツには、FBIの研究機関が開発した1円玉ほどの大きさのGPSが仕込まれている。
GPSをつけられたら、対象者の私生活のプライバシーなんて、まるで丸裸になってしまいます。
私の知らない、想像もできない世界が日本のどこかに、いえ至るところにあるのでしょうね。この本を読んで、つい、そう思ってしまいました。それとも、これも例の陰謀史観でしょうか。
(2017年10月刊。1600円+税)

2017年5月 7日

果鋭

(霧山昴)
著者 黒川 博行 、 出版  幻冬舎

これも警察小説と言えるのでしょうね。といっても、活躍するのは現職の警察官ではなく、問題を起こして辞めた(辞めさせられた)元刑事なのです。
パチンコ屋を舞台として、暴力団や暴力団まがいの連中と伍角の危ない勝負をして、大金をせびりとっていきます。まるっきり、邪悪の世界です。
そもそも、パチンコと警察の関係は、「パチンコ業界が警察に天下り等で利益を提供し、その代わりに換金黙認や釘調整黙認などの利益を得る」というギブ・アンド・テイクの図式で成り立っている。この図式が2002年の日韓共催サッカーワールドカップで様相が一変した。このときパチンコ業界と警察が対立した。
70年代から80年代にかけて、ゲーム喫茶やゲームセンターを家宅捜索した保安係や風紀係の刑事たちが最初にすることは、店のさい銭箱やゲーム機の収納ボックスを開けて、仲に入っているお礼を自分のポケットに隠すことだった。
1982年に発覚した「大阪府警ゲーム機汚職事件」では、当時の巡査長や前任の大阪府警本部長が首吊り自殺をした。
パチンコ業界は、ヤクザからも警察からも喰われてきた。これは、私も、パチンコ経営者本人から聞いたことがあります。
今では、パチンコ店はホール全体がコンピューターと化している。したがって、素人がパチンコに勝つ方法はない。パチプロでも勝てない。パチンコ台がコンピューター化されるにつれて、釘調整の必要性が薄れ、今では釘師(くぎし)の存在は薄い。
今のパチンコ台は、一台で40万円もする。デフレの時代にもかかわらず、遊技機の単価は、20万円から、30万円、40万円の値上がりし続けている。
店は日によって還元率を変える。80%だと客は全滅。90%だと勝つ客もいる。日曜・祭日や年金支給日は80%、平日は90%にする。
客は生かさず殺さずだ。遠隔操作で、機械と客を騙くらかす。
私も、40年以上も前の司法試験の受験生時代には、図書館に向かうはずが私鉄駅前のパチンコ店に朝10時の開店と同時に入店して、パチンコしていた時代もあります。そのころは、玉を一発一発、手で穴に入れて打つ方式でした。今では、車を運転している途中にトイレを借りるために入店するくらいです。あの騒音が耐えられません。
警察組織において、監察は特異だ。彼らは上層部の指示で警察官の悪を暴き、世間に対しては隠蔽する。それは決して正義のためではなく、上層部の権力闘争やライバルを追い落とすためのシステムとして機能する。すべての警察官は、監察を畏怖し、嫌悪する。鑑察のメンバー自身は、強烈なエリート意識をもっている。監察はたしかにエリートであり、その閉鎖性は公安に似たところがある。他の警察官の恥部をにぎっているだけに昇進は早い。
警察にたかられて弱っているという人の相談を受けたこともあります。被害者だったり、加害者だったりして警察官と顔なじみになると、事件が終わってからも顔を見せるので、なにかと接待し、手土産を持たせるというのです。もちろん、何も問題のない企業であれば、そんなことをする必要もないのでしょう。でも、現実には日本を代表する超大手企業から、町の零細工場まで、たいてい叩けばホコリの出てくるものなのです。警察にたかられたら、もう逃げるところはないと、その人は苦笑していました。
小説なので、誇張とデフォルメがすごいのだろうなと思いながらも、こんな元刑事には近寄りたくないものだと思ったことでした。
(2017年3月刊。1800円+税)

2016年7月29日

ハイエナ

(霧山昴)
著者  吉川 英梨 、 出版  幻冬舎文庫

振り込み詐欺の内幕を生々しく描いた警察小説です。とても勉強になりました。
暴力団をバックにした巧妙な分業体制がとられています。電話で泣きと脅しをする「架け子」グループが主犯だとは思いますが、ターゲットを効率よく落とすための精度の高い名簿屋が欠かせません。
この本によると、名簿屋になっているのは介護サービスを表看板にしたグループ。介護サービスを実施しながら顧客やその家族の内情を徹底的調査して名簿にまとめる。
横浜の名簿は他に比べて2割増しで売れる。詐欺の成功率が高いからだ。世田谷とか三鷹の名簿も高く売れたが、東京西部を食い尽くしたいま、いったん東京から離れる必要があった。
訪問介護の仕事で、ヒマをもてあましている老人たちの世話をする。彼らの口は異様なほど軽い。自宅のセキュリティもゆるゆる。自宅に派遣されてくる訪問介護員は、全員、いい人だと思い込んでいる。家族に相手にされず、ただひたすら時間をもてあましている、さみしい老人たち。愚痴もかねてなんでもかんでも話してしまう。とくに母親は、いとしい、いとしい息子の話をしっかりと・・・。
10人分の名簿をつくってネットの裏サイトで売りに出したら、詐欺グループの番頭クラスが5人も接触してきた。この名簿は高く評価されて、評判になった。成功率が9割だから、なるほど・・・。
番頭は名簿屋から、500万円で100人分の名簿を受けとった。高齢者の住所・氏名・電話番号だけでなく、その家族構成や職に至るまで完備した豪華盛りの情報は、一件あたりの値段が法外に高い。しかし、その分、ヒット率も高い。
被害者(マト)は、架け子のトークに最初こそ怪しんでも、息子の職場や所属、孫の名前や幼稚園の名前まで聞かされるうえ、架け子たちが醸し出す臨場感と切迫感にコロッと騙される。
番頭のケータイは、全部で7台ある。黒が各店舗の架け子リーダーとの専用電話で3台、青が受け子リーダーで2台、白は道具屋。相互連絡の専用ケータイをつかうのは、詐欺組織が芋づる式に検挙されないための防御策である。
受け子は、直接ターゲットと接触する重要な仕事であるにもかかわらず、パクられたって刑務所送りになることはない。刑事には知らぬ存ぜぬを貫き通したらいい。ただ、ネットで見つけた高額バイトに応募しただけだと言う。でも、受け子リーダーの存在を口に出したら、アウト。詐欺組織の一味と見なされ刑務所行き。言わなければ、留置場に1週間ほど放り込まれて終わり・・・。
スリーマンセルとは三人組を指す。横領ネタは息子が会社のお金を横領したというシナリオ。
鉄道警察を名乗り、コトの家族が痴漢行為をしたとして示談金をせしめる詐欺は鉄警という。つかっている名簿は、名簿屋から大金を出して購入した貴重な「道具」だから一度や二度の失敗で捨てることはない。別のシナリオで可能かどうか番頭たちが検討する。
この本は悪徳詐欺商法の内幕を紹介するものとして一読に値する警察小説です。
(2016年6月刊。800円+税)

2016年5月 3日

白日の鴉

(霧山昴)
著者  福澤 徹三 、 出版  光文社

 電車のなかで痴漢の疑いで捕まったとき、どうするか・・・。一番いいのはそこから逃げ出すことでしょうね。ただし、あとで捕まらないというのが条件です。あとで捕まってしまえば、なんで、あのとき逃げたのかと厳しく追及されるでしょうから・・・。
 弁護士の立場で言えば、逮捕されたら一刻も早く弁護士を呼ぶように警察に求めることです。とはいっても、あたりはずれがあるのは弁護士である私の体験からしても否めません。
 当番弁護士としてやって来た弁護士が、被疑者の言い分をちゃんと聞くことなしに、一般的な弁護士の解説を長々と説明するという弁護士もいるようです。目の前の被疑者の置かれている状況、彼が何を訴えたいのかを聞き出すこと抜きに、抽象的な刑事訴訟手続を解説されるだけでは、弁護人として役に立ちません。
 この本でも、ともかく早く認めて罰金を支払って出たほうがいいと説明する弁護士が登場します。これも、現実をふまえた善意からのアドバイスであることは間違いありません。でも、それでは、一個の人格ある人間として納得できないではありませんか・・・。
苦難な過程を選択してしまった被告人は、ついに「ぬれぎぬ」を着せた男女とその背景にいる黒幕をあばき出すのに成功します。もちろん、いつも、こんなにうまくいくとは限りません。でも、そんなこと、あってほしいなと思わせる、いくばくかの希望をもたせた異色の警察小説なのです。
(2015年11月刊。1800円+税)

2016年4月 3日

ガラパゴス(上・下)

(霧山昴)
著者  相場 英雄 、 出版  小学館

 これは警察小説です。地道に犯人を追い求めてはいずりまわる警察官がいます。その対極に、利権をあさり、有利な転職先を確保しようとする警察官もいます。そして、キャリア警察官は、政権党の有力議員と談合して事件の幕引きを図ります。
 上下2冊の対策です。「警察小説史上、もっとも残酷で哀しい殺人動機」だとオビに書かれていますが、まことにそのとおりです。
 今日の非正規社員ばかりの、人間使い捨ての企業社会の実態が殺人動機そのものになっています。
 「派遣からやっと正社員になれたんだ。あんたらに分るかよ。その日暮らしの不安と、人として認めてもらえないキツさがよ」
 「今までは『派遣さん』と呼ばれていました。それが正社員になると、名前で呼んでもらえます。これが何よりうれしいのです」
 「派遣をクビになったら、ホームレスに落ちて、そこら辺の公園で野垂れ死にする人間がうじゃうじゃいるじゃないか」
 「そういう状況で、人間らしい心なんて、ここ何年かで、すっかり捨てた。そうやって生きなきゃならなかったんだ」
 「運が悪けりゃ、人間として扱ってもらえない世の中にしたのは、誰なんだよ」
 殺された派遣労働者の被害者は、殺され死んでいく過程で、「貧乏の鎖は、オレで最後にしろ」と叫んだ・・・。
 上下2冊の大作ですが、一気に読みにふさわしい内容です。警察内部の葛藤と現代社会の構造的不正がうまくかみあっていて、読ませます。
 それにしても、人間を金儲けのための手段としてのモノとしか扱わない人材派遣業なんて最悪の存在ですよね。それで金もうけしている竹中ナントカという「学者」の品性下劣さは決して許せません。

(2016年1月刊。1400円+税)

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