弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年1月26日

不当逮捕。築地警察交通取締りの罠

司法(警察)



著者  林 克明 、 出版  同時代社

 築地市場に仕入に来た寿司店の夫婦が交通取り締まりの女性警官に目を付けられ、言い合いになったところ、やってもいない暴行(公務執行妨害)で逮捕され、不起訴にはなったものの、それまで19日間も拘束されてしまった。
 納得できない夫婦は都と国を被告として損害賠償請求訴訟を提起し、事件発生から9年あまりたって240万円の賠償を認める判決を得た。その苦難の日々がドキュメントとして生々しく再現されていく貴重な本です。
事件が発生したのは2007年10月11日の朝8時ころ。逮捕されたときの被疑事実は、巡査(女性)の胸を7~8回突くなどの暴行をし、巡査の右手にドアを強くぶつけるなどして、全治10日間を要する右手関節打撲の傷害を負わせたというもの。しかし、付近にいた目撃者は口をそろえて暴行なんてなかったという。
 「被害」者である女性巡査のいう暴行の態様は、なんと6通りもある。少しずつ変化していっている。
 逮捕された男性の妻によると、女性巡査は、この妻から無視されたことに立腹したらしい。「この一帯を取り締まる権限をもつ自分たちが無視され」て気分を害したようだ。
 ええっ、これってまるでヤクザのセリフみたいなものではありませんか...。
 夫婦は巡査を被告とする損害賠償請求訴訟を代理人弁護士をつけないで提訴し、追行したが、あえなく敗訴(請求棄却)。
 そこで都と国を相手に国家賠償請求訴訟を提起する。このとき国民救援会の紹介で小部正治・今泉義竜の両弁護士に委任した。裁判が始まっても、警察も検察庁も一件記録の所在が不明だとして、提出を拒んだ。しかたなく文書提出命令の申立を6回もした。
 国賠訴訟で勝てた原因として、目撃者を4人も確保できたことは大きい。そして、目撃者を証人として調べないなど、不公平な審議をしていた裁判官を忌避していたことは効果があった。そして、さらに傍聴席を毎回満杯にできたことも大きかった。最後に、原告本人の強い意思、こんな理不尽なことをそのままにしてはいけないという信念の持ち主だったこと。それにしても警察官が事件をデッチ上げるなんて許せませんよね。
 担当した女性検事(五島真希)は現在、東京地裁判事になっているとのことです。そんなことで本当にいいんでしょうかね...。いい本です。とりわけ検察志望の司法修習生にぜひ読んでほしいと思いました。
(2017年12月刊。1800円+税)

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