弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年2月 1日

ヒラリーとビルの物語

著者:ゲイル・シーヒー、出版社:飛鳥新社
 ヒラリーの母親・ドロシーは、15歳の母親から生まれ、両親はドロシー8歳のときに離婚した。ドロシーは14歳で住み込み女中として働くようになる。ドロシーは娘(ヒラリー)に離婚がどれほど過酷なものか何度も語ったに違いない。ヒラリーほど、自らの野望に首尾一貫して真摯な女学生はいないと友人たちは言う。ヒラリーが本当に興味をもっていたのは政治学とAをとること。ところが、ヒラリーは高校時代に選挙で負け、心が大きく傷ついた。大学3年生のとき、学生自治会長に立候補し、3週間かけて寄宿舎まわりをして、当選を果たした。
 ヒラリーは、変革を起こすことに興味をもっていたが、それは体制の外からではなく、内側からの変革だった。ヒラリーはまぎれもないタカ派で、秘密の反共組織のメンバーでもあった。
 クリントンの母親・ヴァージニア・ケリーは快楽主義者であり、自分を飾ることに一生懸命の女だった。また化粧するのに時間がかかるから、寝るときにも化粧を落とさなかった。チェロキー・インディアンの血も受けつぎ、5回、結婚した。
 クリントンの家庭は、誰が見ても道徳的・倫理的に混乱していた。本人も「わが家には常に家庭内暴力があり、家庭が家庭として機能していなかった。だから、孤独だった」と正直に語っている。クリントンは決して離婚を選ばない。アルコール中毒者のいる家庭では、どんな犠牲を払っても平穏を保つことが最優先されるから。
 ヒラリーは一家の大黒柱であり、政治の実情も握っている。ヒラリーもクリントンも一人娘チェルシーを愛している。しかし、2人の最優先事項は政治家としてのクリントンのキャリアだった。
 ヒラリーの中毒はビル。クリントンは選挙運動と安物の愛、そしてフリーセックスによって生きている。女たらしの夫の秘密を長い年月にわたって守り続けたヒラリーは、心の中に神経まで麻痺させる分厚い防護壁を築き上げた。
 クリントンのなかには2つ以上の人格が存在する。一方の彼は敬虔な父親であり、良き夫である。もう一方の彼は、妻と娘の双方を平気で裏切っている。子どものころにしばしば虐待された人物は、生き残るために自分の人格の一部を分離することを覚える。クリントンは幼児期をすごしたホットスプリングスで母親がいて、寛容な環境があったころの人格にはいるとき、とてもくつろいて安心できる。しかし、それは虐待をもって終わる。つまり、クリントン自身による女性への虐待によって、このアイデンティティがそこで終わる。そして、バレて嘘をつくとき、彼はすでに別の人格になりおおせている。だからこそ、あたかも第三者がやったことであるかのような口ぶりができる。
 なるほど、クリントンとヒラリーの関係は、そういうことだったのか・・・。よく分かった気がしました。

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ガーナ

著者:高根務、出版社:アジア経済研究所
 1960年ころ、アフリカではガーナのンクルマ大統領をはじめとして次々に植民地支配を脱して独立していき、希望の星でした。
 ところが、その後、ガーナでもクーデターが相次ぎ、混乱のなかでガーナという国の名前を聞くことはほとんどなくなりました。それでも、ウガンダのようなひどい大虐殺が起きる状況にはならなかったようです。そのガーナについて紹介した本です。
 アサンテ王国とファンテ王国が対立していて、イギリスやオランダの力を借りていくなかで、ともに倒されてしまう状況も紹介されています。
 ガーナの歴史と現状を簡単に知ることのできる本です。

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お旗本の家計事情と暮らしの知恵

著者:小川恭一、出版社:つくばね舎
 江戸時代には、上司やお世話になる役職者への付届は賄賂ではなく、玄関で礼を言ったり、受取証を書いたりするようなものでした。
 御徒目付組頭(おかちめつけくみがしら)の小野伝左衛門という人は25歳で御徒目付となって、在職45年だったそうです。事情に明るく便利な人で、自分から催促などしなくても、大名や旗本から盆暮れの挨拶品が山のように自宅へ届いていたそうです。それだけの役得があるので、旗本への昇格を断わりとおしたといいます。
 旗本の経済事情を具体的に分かりやすく知ることのできる本です。

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縄文の素顔

著者:勅使河原彰、出版社:白鳥社
 縄文時代の技術レベルがすごく高いものであったことは写真からも明らかです。
 私は青森県の三内丸山遺跡にも見学に行ったことがありますが、直径1メートルもの巨大なクリの木でできた柱が6本もありました。現代のレベルからみても、すごい巨大建築物です。佐賀県の吉野ヶ里遺跡に昨夏ひさしぶりに行ってきましたが、双璧です。
 縄文人は、15歳までの生存率40%、0歳児の平均余命は男女とも15歳、15歳まで生きても平均寿命は31歳と短命でした。「縄文のビーナス」と呼ばれる土偶の見事さ、土製滑車形耳飾りの精巧な透かし彫り、櫛やヘアピンなど、現代でも立派に通用する斬新なデザインです。決して縄文人を野蛮人などと思ってはいけません。

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妊娠力

著者:放生勲、出版社:主婦と生活社
 不妊治療を受けようと考えている人に参考になる本です。赤ちゃんは天からの贈りものです。私の知人にも結婚して8年間、子どもができなかったところ、翌年、ふたごが生まれたという人がいます。
 妊娠力が高まるセックスライフも紹介されています。セックスの回数は多い方が妊娠しやすいそうです。精子が薄くなるのを心配する必要はないのです。体外受精のための精液は、わざわざ1時間おいて2回目に採取した精子を利用することもあるそうです。それは、後の方が精子の運動率がよいからです。
 前向きの思考の人のほうが妊娠しやすい。リラックスすることが妊娠につながる。インターネットの前に座る時間と不妊度は正比例の関係にある。たしかに、インターネット上の情報は表層的なものが多く、本当に私たちに必要な情報はなかなか見つかりません。
 体外受精1回あたり40万円ほどの医療費がかかるそうです。そんな大金をかける前にライフスタイルを見直そうという提言です。

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明るいガン治療

著者:植松稔、出版社:三省堂
 「がんなら、切る」は、もうやめようというコピーがオビに書かれています。では、どうするの? 放射線治療です。多次元ピンポイント照射で治った実例が写真つきで示されています。
 ガンとは、ひとくくりになどとてもできない、多様な疾患群の総称。分裂速度の遅いガンでは、転移があるのに何年も元気にしている患者も珍しくない。一人ひとりのガンは、ガン細胞の分裂の速さ、浸潤や転移の度合い、患者の年齢や全身状態、選んだ治療法の適切さや身体的負担の強弱などの要素がからみあって、ガンの経過と結果が決まる。だから、ガン治療の選択も従来の画一的な常識にとらわれない柔軟な発想が求められている。それなりに確率された治療法のある早期ガンと違って、転移ガンに対する治療は、原則としてすべて手探りで、標準治療などない。
 だから、転移による切迫した症状がないなら、あわてて治療に走るのは賢明ではない。治療しなければ長期間元気でいられたはずの患者が、治療の副作用で短期間のうちに状態を悪くしてしまう。やらなくてもよかった治療で副作用に悩まされることもある。つらい治療を受けた人が必ずしも良い結果を得ているとは限らない。つらい治療は患者の体力を確実に消耗させる。できれば、治療しないで主治医とともに経過観察してみるのもよい。
 がん治療のことは良く分かりませんが、なかなか考えさせられる提言だと思いました。

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おい、ブッシュ、世界を返せ

著者:マイケル・ムーア、出版社:アーティストハウス
 『アホでマヌケなアメリカ白人』(柏書房)に続く第2弾です。鋭い舌鋒でブッシュ大統領を追求していく様が小気味よく、胸がスーッとしてきます。マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』も考えさせる、いい映画でした。
 ブッシュ一族は、ビン・ラディン一族とビジネス上の深い関係があり、あの9.11の数日後にビン・ラディン族一族24人をアメリカから緊急出国させたなんて、とても信じがたい話です。
 イラクに大量破壊兵器なるものがなかったことはアメリカ占領後、半年間かけて念入りに捜索したCIAの責任者が明言したところです。では、アメリカのイラク侵攻はいったい何を根拠としたものだったのでしょうか?間違いはただされなければなりません。日本政府もイラクへ自衛隊を派遣する前に、はっきりした声明を出す責任があると思います。
 キューバにあるアメリカのグアンタナモ基地には、アフガン戦争で捕らえられた捕虜680人が今も収容されています。弁護士もつかず、裁判にかけられることもなく、無期限の収容なのです。本当にアメリカは無法な国だと思います。
 ところで、アメリカには「死んだ小作人の保険金」とか「死んだ門番の保険金」と呼ばれるものがあることを知りました。企業が従業員にこっそり生命保険をかけていて、従業員が死んだら会社が高額の保険金を受けとるという、日本でも問題になっているものです。会社が従業員の死によって不当にもうけるのは許せないことだと思います。従業員の遺族に渡すべきお金だと私は思います。日本の裁判所も、最近は少しずつ理解を示してはいますが、まだまだ会社の利益を優先させる考えが根強いようです。

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レーニンをミイラにした男

著者:イリヤ・ズバルスキー、出版社:文春文庫
 衝撃的な写真がいくつもある本です。まずは病床のレーニンという写真がすさまじいのです。よく知られた精悍なレーニンではありません。レーニンはアテローム性動脈硬化症と2年にわたって壮絶な闘いをしたそうですが、病んで疲れ果てたレーニンの、いかにも精気のない顔には、ただただ哀れみを感じるばかりです。
 レーニンも、妻のクルプスカヤも遺体の保存は望んでいませんでした。ところが、レーニンが死んだその晩には遺体の永久保存が決定されています。そして、専門家が呼び集められました。苦心惨憺のすえ、永久保存に成功するのですが、これは放置しておいていいというものではなく、絶えず手を入れなければならないのです。専門家は特別待遇で優遇されました。著者は親子2代にわたってレーニンの遺体保存に関わってきました。
 スターリンも、ディミトロフも、金日成も、そしてホーチミンも、ロシアの専門家たちによって遺体が保存されました。やはり偶像崇拝ですよね。レーニンの遺体も、本人が生前に希望したとおり、埋葬すべきものではないでしょうか。ロシアでは反対が強いそうですが・・・。
 そして、次に驚く写真がロシア・マフィアのお墓です。ロシア最大のマフィア組織「ウラルマッシュ」のメンバーの墓が立ち並ぶ墓地があるのです。黒く大きな(高さが3メートルあるのもあります)墓石には、等身大で故人の生前の姿が彫られています。平均年齢35歳というマフィア・メンバーの墓は腐敗するロシアのまさに象徴です。ひどいものだと思いますが、ヤクザに取りしきられている日本も、他人事(ひとごと)みたいに笑う資格はないかもしれません。

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明治日本の女たち

著者:アリス・ベーコン、出版社:みすず書房
 明治日本で英語を推していたアメリカ人女性による日本女性論です。
 今でも日本人は、結婚生活を必ずしも一生のものとは考えていない。夫と妻の双方から結婚を解消することができる。庶民は離婚に対して強い抵抗感もないので、結婚と離婚を幾度も繰り返す男性は珍しくない。女性だって、一度や二度離縁されても、再婚や再々婚することはしょっちゅうある。上流階級でも離婚は珍しくない。
 驚くべきことは離婚の数の多さではなく、お互いのことを誠実に深く思いやる幸せな夫婦がたくさんいることである。実際の生活では、妻は夫の収入をあずかり、家計を管理していることが多い。
 ここに書かれているように、明治日本こそ離婚率は最高だったのです。いま離婚率が増えたと騒いでいますが、明治日本の足もとにも及びません。明治日本の女性は忍従するのみだったというのは間違った思いこみです。

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呪医の末裔

著者:松田素二、出版社:講談社
 ケニアにある一族4代の生きざまを日本人の学者が丹念に追って紹介した本です。アフリカの社会の内側をのぞき見した思いがしました。
 アフリカ大陸は今、深刻な危機にあります。たとえばHIVです。2850万人がHIVウイルスに感染し、これまでに1100万人のエイズ孤児が生まれ、今後20年間のエイズによる死者は5500万人と予測されています。ボツワナでは全人口の40%がPWH(HIVとともに生きる人)だというのです。ケニアでも220万人が感染しており、これは全国民の9人に1人の割合です。
 ケニアのアフリカ人は定住民というより、漂泊の民でした。結婚するにしても、マーケットや水場の近くで若い男が女性を見つけて、すぐ一緒に生活をはじめることが珍しくない。女性の両親からすると、あるとき市場に出かけた娘が突然に行方不明になるわけですが、大騒ぎはしません。村の日常生活において、それは「結婚」の可能性がもっとも高いからです。そのうえで、婚資の交渉が双方の一族のあいだで始まります。たとえば牛10頭の一括払いで話がまとまります。
 白人のもとでサーバントとして働くことがあります。そのときの考えは、白人の世界とアフリカ人の世界はまったく別物で、無効の世界はワシたちの世界ではない。だから、そこで何が起こっても、ワシたちの世界には関係のないこと。そう思っているからこそ、長く勤めることもできる。同じ世界に生きていると思えば腹もたつ。しかし、都市化がすすむなかで、社会が停滞し、後退していった。ぎりぎりの生活をしている者同士での寛容の心をもてなくなってしまった。
 身内が死んでお葬式をしたり遺体を引きとるについても、金銭のトラブルから、いがみあうようなことまで起きているのです。こんなことは昔はとても考えられなかったことです。ケニアの大草原でライオンを見てみたいと思いますが、都会のジャングルはもっと怖いところだとしみじみ思いました。

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砂漠の戦場にもバラは咲く

著者:姜仁仙、出版社:毎日新聞社
 ソウル大学を卒業し、ハーバード大学で学んで韓国人の女性記者がイラク戦争に従軍したときのルポです。
 アメリカはイラク戦争のとき、600人の記者を同行させました。うち、13人が死亡しています。すごく高い比率です。25万人のアメリカ軍兵士が5400人も死んだ勘定になります。もちろん、そんなに兵士は死んでいません。どうして、記者はそんなに死んだのか?よく分かりませんが、記者には自ら危ないところへ出かけていこうと習性があることは間違いありません。
 アメリカ軍は「エンベット」方式で記者を従軍させました。記者は交代せずに長期に従軍する。指定された部隊から離れたら資格を失う。作戦を事前に報道しない。3つの条件がつけられました。記者は防毒マスクを身について、銃も手にします。イラクの人々から見たら、侵略軍の一員でしかありません。
 バグダッドという名前は「平和の都市」だそうです。アメリカ軍はそこに攻めこみました。砂漠の戦場に女性記者が入ってトイレはいったいどうしたのか、疑問をもつでしょう。夜まで半日待ったこともあるというのです。ですから、砂漠で水を自由に飲めなかったそうです。
 戦闘を間近で見たいなんていう、仕方のない好奇心は捨てて欲しい。死んだり、負傷する軍人たちを、そのすぐ横で見るなんていうのは、もう、人間として後戻りできない道に踏みこんでいくようなもの。
 こんな言葉があります。本当にそうだろうと思います。人間を殺し、殺されていく人間を平然と眺めることができるとしたら、その人は、もはや人間ではないというしかありません。化物(ばけもの)でしかないのです。アメリカ軍への本質的批判を欠落させている、この韓国の女性記者は、その一線を越えてしまったような気がしました。

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鉄の花

著者:小関智弘、出版社:小学館
 東京の下町、大田区のあたりの工場で旋盤工として長く働いてきた著者ならではの短編小説集です。
 鉄が匂う、鉄が泣く、鉄が歓ぶ。下町で働く人々の肌の触れあいが見事なタッチで描かれています。山本周五郎の世界を江戸から今にタイムスリップさせた気がしました。
 しばし、時刻が過ぎるのを忘れさせ、旋盤の音が隣の家から聞こえてくる、そんな錯覚に襲われる本です。

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二・二六事件

著者:須崎慎一、出版社:吉川弘文館
 二・二六事件(一九三六年)というと、皇道派対統制派の対立・抗争を思い描きます。山川出版社の『詳説・日本史』の影響です。この本は、それが間違った俗説であることを立証しています。農村の窮乏や社会大衆党の躍進に危機感を強めた青年将校が、軍備の飛躍的な増強を実現するため、それを阻む財閥、その具体的あらわれとしての高橋是清財政と元老・重臣を打倒し、戒厳令を施行して青年将校や軍部にとって都合のいい内閣を実現するというのが決起の目的だったというのです。
 ところが、刑死した北一輝は、政友会の実力者であった森格から5万円をもらい、三井財閥から年間2万円という大金をもらっていました。財閥に養われて自家用車をもち、お抱え運転手もいたというほどの優雅な生活を送っていたのです。だから、実際には財閥打倒どころではなかったのです。
 二・二六事件当時の青年将校の意識を知るうえで目を開かされる本です。

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ぼくの見た2003年イラク戦争

著者:高橋邦典、出版社:ポプラ社
 イラク戦争の現実の一端を伝える写真集です。アメリカ軍に従軍した日本人カメラマンがとった写真ですので、攻め込まれた側であるイラクの人々の悲惨な状況を伝えるうえで大きな限界があります。それでも、戦争によって普通のイラク市民の平穏な生活が奪われている事態をうかがい知ることはできます。
 いよいよ日本の自衛隊がイラクに進出しました。なんでもアメリカの言いなりの日本ですが、アメリカ占領軍の片棒をかつぐことによる日本のイメージダウンは深刻です。いえ、それよりなにより、日本の自衛隊が初めて本当に人を殺す経験を積むことの恐ろしさに私は身が震えてしまいます。これまでの日本の自衛隊は人を殺したことが一度もない「軍隊」でした。だから、いざとなったときに役に立つか疑問だ。アメリカ軍からは低い評価しかされてきました。それをイラクで克服しようというのです。
 日本人がイラクの人々を殺し、先の外交官お2人のように日本人がイラクの人々によって殺される。こんな事態は、一刻も早く解消してほしいものです。

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弁護士いらず

著者:三浦和義、出版社:太田出版
 ロス疑惑で世間をひところ大いに騒がせ、しかし、予想と「期待」を裏切って無罪判決を見事に勝ち取った三浦和義氏が書いた本人訴訟をすすめる本です。内容はすごく真面目で、好感がもてます。
 三浦氏は「ロス疑惑」の報道について、本人訴訟と代理人をたてた訴訟をあわせて500件以上もマスコミ相手の裁判をやったそうです。そして、そのうち470件あまりの本人訴訟で、8割の勝訴率というから、偉いものです。東京拘置所に13年あまり勾留されていたあいだに100冊もの専門書を買って勉強して訴状を書き、準備書面でマスコミ報道が名誉毀損にあたることを主張して立証していきました。マスコミがありとあらゆるデマ報道をしていたのを見過ごせないと三浦氏は立ちあがったのです。三浦氏が報道被害者だったことは、この本を読むとよく分かります。8割の勝訴率をふまえて、三浦氏は裁判所はおおむね公平で信頼できるとしています。三浦氏は、勝訴判決や和解金によって合計して1億数千万円(2億円弱)を得たそうです
が、コピー代1500万円、印紙・切手代500万円ほか、支払った弁護士費用とあわせて保険金返還訴訟で負けた判決で強制執行を受けて、今は無一文だということです。
 拘置所のなかでは月に3冊しか本を読めないという規則を、三浦氏が粘り強く抗議して月6冊に変えさせたというのには驚きました。たったそれだけを変えさせるまでに4ヶ月もかかっています。
 拘置所在監中の被告人が民事訴訟の法廷に出頭できるものか疑問に思っていましたが、本人尋問の多くは裁判所の法廷で実施されたようです。拘置所で尋問するという裁判所の決定に対して、三浦氏は異議申立をし、さらに忌避申立までしています。これまた、たいしたものです。
 裁判における主張は、理路整然と、終始一貫していることが大切だ、姑息な手段や立証は避けるべきで、堂々とした主張・姿を保つことが大切だという三浦氏の教えには弁護士としても大いに共感しました。弁護士が読んでも参考になる本です。

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林檎の礼拝堂

著者:田窪恭治、出版社:集英社
 ノルマンディー(フランス)にある荒れ果てた小さな礼拝堂を、私と同年輩の日本人画家が再生させていく過程が活写されています。40歳のとき、男の子3人をふくめて家族とともにフランスの片田舎に移り住み、10年かかって礼拝堂、そして壁画を完成させたというのですから、感嘆するばかりです。そして、その礼拝堂が実に見事なのです。採光のため屋根をガラス瓦にしたり、ライトアップの工夫など、神々しいばかりの礼拝堂に生まれ変わっていく有り様が写真で刻明に紹介されています。写真を眺めるだけでも心を洗ってくれる気がします。ぜひ一度、フランス現地に行ってみたいと思わせる本でした。シードル(カルバドス)の美味しい地方です。

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帝国

著者:アントニオ・ネグリ、出版社:以文社
 本文のみで510頁もある大著です。恒例の人間ドッグ(1泊)に持ち込んだ4冊のうちの1冊です。さすがに読みごたえがあるというか、歯ごたえがありすぎて、大半がよく分からなかったというのが正直なところです。でも、いくつか、なるほどと思えるところがありました。これは決して負け惜しみではありません。
 この本で著者2人が主張したいことは、アメリカ(合衆国)もまた中心とはなりえない。帝国主義は終わった。今後、いかなる国家も、近代のヨーロッパ諸国がかつてそうであったようなあり方で世界の指導者となることはない。グローバリゼーションへの抵抗とローカル性の防衛という「左翼的」戦略は間違っていて、有害である。むしろ、帝国のなかへグローバルに分け入り、それらの流れのもつ複雑性のすべてに向きあう必要がある。
 タキトウスが「彼らは殺戮を行い、それを平和と呼ぶ」と言ったそうです。アメリカのイラク戦争を見て、けだし明言だと思いました。大いに考えさせられる、ズシリと重たい本です。

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しぶといモノ作り

著者:山根一眞、出版社:小学館
 「週刊ポスト」に連載中の「メタルカラーの時代」を本にしたものです。日本のモノ作りの現場を掘りおこしています。著者も団塊の世代ですが、モノ作りの現場で意外に団塊世代ががんばっているのを知って、同世代としてうれしくなってしまいました。
 この本を読んで一番ショックだったのは、技能五輪国際大会で日本の成績がいまひとつで、韓国に完全に負けているということです。これでは、日本の将来は明るくありません。韓国は金メダルを20個もとっているのに、日本はたった4個でしかありません。デンソー工業技術短大の学生が金メダルをとった話が紹介されていますが、もっともっと優秀な技術者を確保することが必要だと思いました。
 それにしても、ニュートリノの話は理解を超えてしまいます。なにしろ、人間の身体の1平方センチあたり、太陽から来たニュートリノが1秒あたり660億個入ってきて、全部突き抜けていく。身体のなかで何かに衝突するのは一生の間に1粒しかない。なんだか気の遠くなるような話です。でも、いったい、その衝突した1粒はどうなってしまうんでしょうね?
 世の中には、コツコツ真面目に努力している人がこんなにも多いことを知ると、なんだか安心してしまいます。田中耕一さんのようにノーベル賞をもらうまでには至らないにしても、すごい人はたくさんいるんですね・・・。

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雪国の自然と暮らし

著者:市川健夫、出版社:小峰書店
 長野県と新潟県にまたがる日本有数の豪雪地帯、秋山郷の暮らしを紹介した本です。昔は、冬になると積雪3メートルに埋もれ、陸の孤島でした。今では、冬でも除雪がすすんでいますが、それでも急病人が出るとヘリコプターが出動します。
 『半日村』という絵本を子どもに読んでやったことがあります。秋山郷は、高い山で囲まれているために、日が当たる時間は平野の半分ほどしかありません。まさに半日村です。
 日頃、私たちは「○○をかてとして」と言うことがあります。あの「かて」とは糧飯(かてめし)のことです。米やアワのほか、ダイコンやカブをまぜて炊いたご飯のことです。昔の日本の主食でした。お米だけのご飯は、お祭りの日だけに食べる特別食で、御飯(ごはん)と丁寧な言葉で呼ばれ、ふだんの「めし」は糧飯のことです。
 雪の多い新潟や富山でチューリップ栽培が盛んな理由も説明されています。積雪が地表を寒さから守ってくれるので、球根を浅く植えることができるのです。春に雪が消えると、浅く植えられた球根は太陽の熱をより多く受けるので、大きく成長できる。こういうわけです。そうは言っても、暖かい九州で生まれ育った私にとっては、「半日村」とか、寒い冬に閉じこめられるなんて、とても耐えられそうにありません。

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武士の家計簿

著者:磯田道史、出版社:新潮新書
 加賀百万国の算盤(そろばん)係をつとめた猪山家の家計簿が36年間分も残っていたのです。天保13年(1842年)から明治12年(1879年)までの記録です。さすが日記大好きの日本人です。
 「地位非一貫性」という言葉があるそうです。武士は威張っているけれど、しばしば自分の召使いよりもお金を持っていない。商人は大金持ちだけど卑しい職業とされ、武士の面前では平伏させられ、しばしば武士に憧れの目を向け、献金して武士身分を得ようとする。このように権力・威信・経済力などが一手に握られていない状態を言います。地位非一貫性があれば、革命は起きにくく、社会を安定させることにつながります。
 江戸時代の女性は考えられている以上に自立した財産権を持っていた。離婚が多く、それも農民より武士の方が多かった。宇和島藩士の結婚56組のうち、20組がわずか3年で離死別していた。だから、妻の財産も独立的になりがちだった。妻は実家との結びつきをずっと強く保っていた。
 子どもに英才教育をほどこし、立身出世を願うというのは、江戸時代でもかなり強力だったことがこの本からもはっきり読みとれます。日本人って、昔から変わらないな。そんな気を抱かせる本でした。

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モスクワ劇場占拠事件

著者:タチアーノ・ポポーヴァ、出版社:小学館
 モスクワ市内の中心部にある満席のミュージカル劇場がチェチェン武装勢力に襲われたのは2002年10月23日夜9時過ぎのこと。53人の武装勢力が912人の観客や俳優を人質として劇場(国営ボールベアリング工場文化宮殿、ドゥブロフカ劇場センター)を占拠し、2日たった26日早朝4時半に特殊ガスが注入され特殊部隊が強行突入した。その結果、武装勢力は50人が殺害され、3人が逮捕された。人質は130人が死亡。うち125人は銃撃戦ではなく、特殊ガスで死亡した。舌の落ち込み、急性中毒、心脈不全、呼吸不全、高血圧クリーゼ、アナフィラキシーショックによるもの。特殊ガスの成分は公表されておらず、現場には解毒剤は手配されていなかった。
 ロシア政府は死亡した人質1人に10万ルーブル(37万円)、生き残った元人質に5万ルーブルの見舞金を支払ったのみ。そこで、被害者や遺族は政府を相手に120件もの訴訟を提起しているという。
 この本は劇場占拠から強行突入までを報道と手記で刻明に再現している。ただし、政府当局のインサイド情報がないため、少し物足りない。殺された武装勢力50人のうち、女性が18人もいた。ほとんどが肉親をロシア軍から殺された20代の若い女性。これらの女性は「全員が大変頑強な鉄のような神経を持っていた。休むことなく、常に自分の持ち場であるホールにいた。彼女たちからは凄まじいばかりの憎悪が滲み出ていた」という。
 日本でも、いつこのように大規模なテロ事件が起きないとも限らない。しかし、その対策として警備を強化するだけでは本当の意味の防止策にはなりえないように思う。やはり「凄まじいまでの憎悪」を生み出すようなことのないようにするのが先決だ。

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遺伝子が解く愛と性のなぜ

著者:竹内久美子、出版社:文芸春秋
 著者は47歳、京都大学理学部に入学して動物行動学を専攻しました。「週刊文春」に連載したものをまとめた本です。目からウロコが落ちるとは、このことを言うのでしょう。人間についての驚くべき秘密が次々にバクロされていくのを知るのは快感でもあります。
 女はダンナとの間に2人くらい子をつくったあと、急に浮気に目覚める。アリバイ工作のためにダンナとも交わるが、浮気相手にはより受胎の確率の高い日を無意識のうちに提供する。人間の男が女よりも方向感覚が優れているのは、狩りのためではなく、女を求めてあちこちうろついていたから。
 パチンコなどギャンブルはうつに対して絶大な効果がある。多くの人がギャンブルにはまるのは、うつが軽減されるからではないか・・・。
 うーん、なるほど、なるほど。そうなのか・・・。

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再発後を生きる

著者:イデアファー、出版社:三省堂
 乳がんにかかり、再発した女性たちが実名を出して、その体験を語っています。「死ぬ瞬間まで精一杯生きていたい」とオビにありますが、それは癌の再発患者に限らない願いでもあります。
 このままではだめだ。もっと病気のことを勉強し、真正面から向き合わないといけないと考え、自分の意識を変えた。自分がどうしたいのか、どう生きたいのか、心に聞いてみて、思ったことは何でも行動に移した。がん治療を人生のすべてにしてはいけない。日常生活のなかに治療という用語がひとつ増えただけなのだから。
 私の依頼者のなかにも癌患者の人が何人かいます。転移したために、いくつもの癌をかかえて元気に生きておられる人に会うたびに人間の生命力のすごさには感嘆させられます。やはり、日頃の生活の質をいかに高めるかはみんなの共通する課題のように思います。 この本は再発後の治療法についても具体的に書かれていて、実際にも役に立つと思いました。

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最低で最高の本屋

著者:松浦弥太郎、出版社:DAIーX出版
 高校を中退し、フリーターになってお金を稼いでアメリカにわたり、路上で本屋を始めた青年。さまざまな人と出会うなかでユニークな本屋も続けながら文筆業としても食べていけるようになった。ずい分と年下の若者だが、文章に味わいがある。
 やっぱり文章には清潔感が必要だ。書いて人に伝えるとき、できるだけ清潔感のある言葉を選んで書いていきたい。文章の上手下手は関係ない。文章のなかにどれだけ真実があるかとか、清潔感があるかということの方が大切だ。うまく書くコツは、結局、人に話すように書くことだと思う。
 原稿の締切りの2日くらい前から心の準備を始める。急に思い立っても絶対に書けない。自分で感情を意識的に書くことに向かわせて、さあ書こうと思って机の前に坐ったとき、それがピークになっているのが理想的。考えながら日常生活を送る。書こうと思っていることを頭のなかで発酵させていく。
 ずっと考えていると、あるとき言葉や風景が頭のなかに浮かび上がってくる。諦めなければ必ず言葉が出てくる。考えている間に、自分の記憶の引き出しを開けて、そのなかから「書くこと」を見つけてくるみたいに。書くためのテンションを保つためには、やっぱり規則正しい生活しかない。ちゃんと睡眠をとって、美味しいものを食べて、適度に遊んで。体調が維持できて、はじめて精神的な部分もコントロールできる。
 本人にも言わないし、誰にも言わないが、自分のなかでは、この原稿はこの人に向けて、という思いが必ずある。自分のなかで書く必要性というか、意味づけができる。連載だったら、毎月誰かにラブレターを書いているようなもの。
 文章を書くには精神を高度に集中させる必要があるというのはまったく同感。やっぱりモノカキの道は険しい。

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鮨を極める

著者:早瀬圭一、出版社:講談社
 表紙の写真からして極上のスシだと分かります。めくって写真を眺めるだけで、もうゾクゾクしてきます。ふるいつきたくなるほど美味しそうなスシのオンパレードです。
 手を使う仕事なので、日焼けしてシミが出来ないように細心の注意を払い、夏でも冬でも一年中。手袋をはめている。こっちはご飯の温度を気にして握る。握ってすぐがいちばん美味しい。つけ台にスシを並べたまま酒を呑んだり、隣と話しこんでしまう客にはイライラしてしまう。
 私も神田にある「鶴八」に一度だけ行ったことがあります。『神田鶴八鮨ばなし』を読んで、ぜひ食べたいと思い、恐る恐る電話したのです。幸い席が空いているということで出かけました。前の親方・師岡幸夫の引退(1997年12月)より前のことです。
 東京・上野毛の「きよ田」の主人は大牟田で生まれ、荒尾で育った(荒木水都弘)。
 同郷の人が東京で寿司職人として名を成しているのを知ると、なんとなくうれしくなります。博多の「河庄」で修業した話も出てきますが、残念なことに、この本は東京近辺のほかは京都・金沢どまりで、九州の店は紹介されていません。
 少し前のことですが、妹尾河童氏に講演を依頼したことがあり、昼食をともにしました。そのとき、博多にはうまい寿司屋があって、いつもそこで食べるのを楽しみにしているというのです。どこですかと訊いたら、なんと赤坂の「山庄」でした。弁護士会ご用達の寿司屋を有名人が愛用しているとは知りませんでした・・・。

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海馬

著者:池谷裕二、出版社:朝日出版社
 糸井重里との対談を通じて、脳の活性化は本人の心がけ次第だという画期的な内容が明らかにされていく、元気の出る本です。これも知人のNAOMIさんのおすすめで読みました。
 脳の神経細胞は生まれたときが一番多くて、あとは減っていくだけ。しかし、海馬では細胞が次々に生み出されていき、神経が入れ替わっている。海馬は情報の選別を担当するところで、海馬の神経細胞は成人になってからも増えていく。海馬は記憶をつくっていく。海馬の神経細胞の数が多いほど、たくさんの情報を同時に処理できる。
 脳はいつでも元気いっぱい。ぜんぜん疲れない。30歳を過ぎてから頭は良くなる。疲れたなあと感じるとき、実際に疲れているのは目。
 経験をすればするほど、飛躍的に脳の回路は緊密になる。睡眠は整理整頓できた情報を記憶しようという取捨選択の重要なプロセス。外界をシャットアウトして余分な情報が入ってこないようにして、脳の中だけで正しく整合性を保つようにするために睡眠が必要になる。睡眠がないと人間はぜんぜんだめになってしまう。
 脳は達成感を快楽として蓄える。達成感を生むためには、小さい目標を設定して、ひとつずつ解決していくといい。いいことを言うとそのとおりになる。悪いことを言ってもそのとおりになる。いい意味でも、悪い意味でも、言葉は呪いみたいなもの。未来に対して素敵なイメージを思い描いた方がいい。がぜん元気が湧いてきました。

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生涯最高の失敗

著者:田中耕一、出版社:朝日新聞社
 田中耕一さんがノーベル化学賞をもらったとき、ほとんどの日本人が驚き、また、喜びました(と思います)。なにしろ、まだ43歳で、フツーの会社員、それも肩書は単なる主任でしかないというのです。ノーベル賞なんて、有名大学の名誉教授がもらうものと思いこんでいた私のような日本人にはショックでした。しかも、賞の対象は、1985年の実験結果を1988年6月に論文で発表したものだというのです。まだ田中さんが弱冠28歳のときの実験にもとづくものなのです。これにも驚かされます。文系の世界では考えられないことです。
 その田中さんは、その後も現場で実験を続けることをひたすら願い、講演依頼は9割以上お断りしているとのことです。この本は、そのうちの貴重な講演を再現し、「分かりやすく」ノーベル受賞の対象を説明しています。といっても、実のところ、なんとなく分かった気はしましたが、十分に理解できたわけではありません。それでも、山根一眞氏との対談によって、少しは分かった気にはなります。
 田中耕一さんは、お見合い歴20回ということですが、奥さんは、富山県の同じ高校出身で理数科、耕一さんは普通科出身というのも面白い事実です。
 創造性を発揮するには、勇気、挑戦、不屈の意志、組み合わせ、新たな視点、遊び心、偶然、努力、瞬間的ひらめきの9つが必要だそうです。でも、これだったら、私にもありそうです。そんな元気を与えてくれる本でした。

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