弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年2月 1日

砂漠の戦場にもバラは咲く

著者:姜仁仙、出版社:毎日新聞社
 ソウル大学を卒業し、ハーバード大学で学んで韓国人の女性記者がイラク戦争に従軍したときのルポです。
 アメリカはイラク戦争のとき、600人の記者を同行させました。うち、13人が死亡しています。すごく高い比率です。25万人のアメリカ軍兵士が5400人も死んだ勘定になります。もちろん、そんなに兵士は死んでいません。どうして、記者はそんなに死んだのか?よく分かりませんが、記者には自ら危ないところへ出かけていこうと習性があることは間違いありません。
 アメリカ軍は「エンベット」方式で記者を従軍させました。記者は交代せずに長期に従軍する。指定された部隊から離れたら資格を失う。作戦を事前に報道しない。3つの条件がつけられました。記者は防毒マスクを身について、銃も手にします。イラクの人々から見たら、侵略軍の一員でしかありません。
 バグダッドという名前は「平和の都市」だそうです。アメリカ軍はそこに攻めこみました。砂漠の戦場に女性記者が入ってトイレはいったいどうしたのか、疑問をもつでしょう。夜まで半日待ったこともあるというのです。ですから、砂漠で水を自由に飲めなかったそうです。
 戦闘を間近で見たいなんていう、仕方のない好奇心は捨てて欲しい。死んだり、負傷する軍人たちを、そのすぐ横で見るなんていうのは、もう、人間として後戻りできない道に踏みこんでいくようなもの。
 こんな言葉があります。本当にそうだろうと思います。人間を殺し、殺されていく人間を平然と眺めることができるとしたら、その人は、もはや人間ではないというしかありません。化物(ばけもの)でしかないのです。アメリカ軍への本質的批判を欠落させている、この韓国の女性記者は、その一線を越えてしまったような気がしました。

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