弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2019年12月11日

南北戦争の時代


(霧山昴)
著者 貴堂 嘉之 、 出版  岩波新書

アメリカのリンカーン大統領とカール・マルクスは同時代に生きていました。マルクスがリンカーンに大統領就任を祝う手紙を送っていたことは知っていましたが、マルクス自身がアメリカへの移住を真剣に考えていたというのは本書を読んで初めて知りました。
マルクスは、1845年に「北米移住のため」、具体的にはテキサスへの移住を真剣に考え、そのためプロイセレ国籍を離脱し、無国籍者になった。マルクスは、結局はイギリス・ロンドンに移住したわけですが、ヨーロッパ系移民を積極的に受け入れるというアメリカの法律にひかれたようです。そして、リンカーン大統領が再選を果たしたあと、それを祝うメッセージを送ったのでした。
リンカーンは、南北戦争の前は、人種間の分離が人種問題を防ぐ唯一の手段であり、そのためには黒人をアフリカに移住させるしかないという持論を展開していた。これまた知りませんでした。アフリカのリベリアへアメリカの黒人が移住する運動がありました。
アフリカへの黒人植民論は、北部や西部で圧倒的な支持を得ていた。
1860年の大統領選挙でリンカーンは勝利したものの、有権者の一般投票の40%しか得ていない。南部の10州ではまったく選挙人を得ていない。
南軍が当初のうち北軍に勝っていたのは、南軍は優れた軍人が多数いて、兵士の士気が高かったこと、南軍は射程距離の長い、近代的なライフルと塹壕をもっていた。苦しくなった北軍は、徴兵制を導入し、また黒人奴隷が軍務に就けるようにした。
北軍による海上封鎖は徐々に効果をあげていき、南部経済は大混乱となった。
北部社会では、戦前から反黒人感情が強かった。移民労働者は、黒人を排斥することで、「白人性」を身につけて社会的な上昇を果たしていった。労働者階級の「奴隷ではない」という意識の上につくられた自由労働イデオロギーに白人優越意識が埋め込まれており、人種差別意識を内包していた。
奴隷は、憲法の解釈上、人格ではなく、私有財産だと認められていたので、その解放は、憲法で保障された財産権の侵害となる恐れがあった。
リンカーン大統領の奴隷解放宣言のもつ歴史的意義は大きかった。黒人が軍に所属し、国のために戦う権利が認められたことから、20万人もの黒人兵士が北軍の軍役についた。
南北戦争の戦死者は両軍あわせて62万人。当時の人口は3100万人なので、大変な人数だ。病気で死亡した兵士は、戦場で命を落とした者の倍以上だった。
白人男性(13~43歳)のうち北部で6%、南部で18%(全体で8%)が死亡した。
今のアメリカは軍事化された社会だが、兵士の男らしさや犠牲を英雄的なものとみなす価値観は、南北戦の時期のあとアメリカ社会に定着した。
南軍が敗北したあと、捕虜収容所の所長が唯一、捕虜虐待によって死刑になっただけで、南部連合の指導者は誰ひとり死刑にはなっていない。
今もなお、南軍旗がアメリカでよみがえっているというのは不思議な話です。白人至上主義のシンボルになっています。嫌な話というほかありません。アメリカの歴史研究者による濃密な新書でした。
(2019年7月刊。840円+税)

2019年12月 3日

「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている


(霧山昴)
著者 ジェイムス・スーズマン 、 出版  NHK出版

私は映画をみていませんが、1980年代に世界中にブッシュマンブームが起きました。映画『ミラクル・ワールド・ブッシュマン』(改題「コイサンマン」)です。その主役を演じた男性は日本にも来て、ニカウという名前で日本のテレビにも登場したようです。
なぜ、ブッシュマンがそれほど注目されたのかというと、何もあくせく働かなくても、そんなに持ち物がなくても、人は幸福に生きていられる、このことを例証している人々だからです。
彼らは、白人たちがモノをたくさん持っているのに、なんであんなにいつだって機嫌が悪いのか、笑わないのか不思議だと批判します。
ところで、ブッシュマンは差別用語ではないのかと心配する人もいることでしょう。なるほど、この言葉はオランダ語の「ボッシェスマン」に由来し、マレーシアでオランダ東インド会社が飼っていたオランウータンの呼び名として使われていました。しかし、今では「ブッシュマン」は彼らが暮らす環境に特別なつながりをもつ「最初の人」としての地位を再確認する意味が含まれていて、国際的には肯定的にとらえられている言葉なのです。なーるほど、ですね。というわけで、本書のタイトルに使われています。
そして、この本には、ブッシュマン・グループの一つ、ナミビアのジュホアンが主役として登場します。ジュホアンとは、「ジュ」は人、「ホアン」には「真実」の意味があるので、「真の人」「本物の人」ということになる。ジュホアンの人口は8千~1万人。その3分の2がナミビアに住んでいる。ブッシュマンの1割でもある。
著者は1992年以来、ブッシュマンの人々と共に生活したりしてきたイギリス人の社会人類学者です。
ジュホアンは150ほどの名前を使い回していて、著者にはツンタという名前がつけられている。同じ名前をもつと、血のつながった親族よりも重要視される。
そして、「冗談を言いあう関係」か、「敬意を払う関係」のどちらかに分類される。
うひゃあ、面白い分類ですね、これって・・・。
ジュホアンは狩猟採集民であり、肉をすべて食べ尽くすまで、次の狩りはしない。食べきれずに腐らせてしまうほど多くの動物を殺すと、社会的また精神的な制裁を受ける恐れがあると彼らは考えている。
ジュホアンは労働者としては、まったく信頼できない。思うがままにやってきては、ある日、いなくなってしまう。いくら物質的に動機づけして働く気を起こさせようとしてもムダだった。
今でも、周囲には資本主義経済があり、そこにある程度はかかわりながらも、今なおジュホアンは、「容易に満たされるわずかなニーズ」で暮らし、「原初の豊かさ」を現代の形に変えて生きている。
ジュホアンにとって、白人の農場主の裕福さに驚くものの、自分たちよりも多くの食べ物がいつもあるのに、陽気に振る舞うことがめったにないのが、不思議で仕方がない。
狩猟採集民ジュホアンのあいだでは、自己利益が常にその影の部分や嫉妬によって規制され、嫉妬によって確実に公平な分け前を全員が受けとれるようになっている。嫉妬はジュホアンの社会経済における「見えざる手」(アダム・スミス)になっている。
狩猟採集民ジュホアンは、品物を贈ったり受けとったりすることを大切にしていて、品物そのものよりも、その行為に喜びを感じている。贈与は、今でもジュホアンの大きな喜びとなっている。
ジュホアンなどの狩猟採集民の社会では、協調ネットワークが愛情によって保障され、嫉妬の平等主義によって維持されている。
狩猟採集民は、低リスクのやり方で、暮らしを立てている。多くの異なる食糧源に頼ることでリスクを分散していて、定期的な干ばつや洪水などに対応して絶えず変化する環境を活用できる。
ジュホアンは結婚で大騒ぎしない。離婚も同じ。一夫一婦婚がジュホアンの規範だが、ときに一夫多妻のこともある。家庭での主導権をどちらかが握ることもないため、多くのジュホアンは死ぬまで一夫一婦婚を喜んで維持する。離婚しても、社会の失敗者と感じて精神的に不安定になることは、めったにない。男性も女性も食べ物の供給に重要な役割を担っている。
狩猟採集社会をみて言えることは、マルクスも新自由主義の経済学者も、人間の本質をまちがってとらえているということ。人間は労働によって定着されるのではなく、別の充足感のある生き方を十二分に送ることができる能力があるのだ。
過去や未来への無関心、そして愛情と嫉妬によって社会関係は形づくられている。
週にわずか15時間しか働かなくてよい社会と言われても、日本人の私にはまったくピンと来ないのですが・・・。世の中には、いろんな人々がいることを改めて実感させられます。380頁の大作で、少々読みにくいのが難点ですが、驚きの知見にあふれた本です。
(2019年10月刊。2600円+税)

2019年11月12日

あなたを支配し、社会を破壊するAI・ビッグデータの罠


(霧山昴)
著者  キャシー・オニール、 出版  インターシフト

特権階級の人は対面で評価され、庶民は機械的に評価される。
数学破壊兵器の三大要素は、不透明であること、規模拡大が可能であること、有害であること。
大学ランキングが登場してから、大学の授業料は急騰している。ところが、この大学ランキングは操作できるもの。犠牲になるのは、アメリカ人の大多数を占める低所得層と中流階級の人々。彼らは受験コースやコンサルタントに大金を支払うことができない。内部事情に通じる人間のみが知りえる貴重な情報を得られない。
結果的に、特権階級が優遇される教育システムができあがる。貧困層の学生は厳しい現実を突きつけられ、教育の場から締め出され、貧困に向かう道へと追いやられる。社会を分断する溝は深まるばかりだ。
上昇志向を餌として、貧困層の人々をおびき寄せる大学がある。
大量のデータを高速に処理できるマシンは、徐々に私たちのデータを自力で選別するようになり、私たちの趣味、望み、不安そして欲望を検索するようになる。
広告プログラムは、数週間、数ヶ月もすると、自分が標的とすべき人々のパターンを学習しはじめ、対象者の次の行動を予測するようになる。広告プログラムは、彼らのことを知っているのだ。
有害なフィードバックが生まれるのは、次のようなメカニズムだ。警察が巡回すればするほど、新たなデータが発生し、その場所を重点的に巡回することが正当化される。すると、「犠牲者なき犯罪」で有罪となった大勢の人で刑務所はあふれる。そのほとんどは貧しい地区の住人であり、黒人とヒスパニックが大半を占める。貧しい人々ばかりが職務質問され、逮捕され、刑務所に送られる。
警察は、単に犯罪を撲滅しようとするのではなく、地域住民との信頼関係を築くために努力すべきだ。それこそが「割れ心理論」の本来の指針の一つなのだから、警察官は地域を歩いてまわり人々に話しかけ、その地域に特有の秩序基準が維持されるように力を貸せばいい。ところが、逮捕と安全とを同一視するようなモデルに押し切られると、そのような本来の目的は見失われがちとなる。
コールセンターでもっとも仕事が速く、もっとも効率の良いチームは、もっとも社交的なチームであることが分かった。そのチームのメンバーは、社内ルールを軽んじ、ほかのチームよりも多くおしゃべりをしていた。そこで、全チームにおしゃべりを激励したところ、コールセンターの生産性ははね上がった。
アメリカの10州では、雇用のとき、クレジットスコアをつかうのを禁止させていた。というのは、カードやスマホに頼り切りになっていると、とんだしっぺ返しをくらうことになるからだ。
手塚治虫のアニメにもあるように、ロボットやAIに頼りきっていると、とんでもないことになりうるのは間違いない。これには私もまったく同感です。人間の失敗を前提として世の中が動き、紛争解決のために弁護士が存在するわけです。このような泥臭いドロドロとした感情の対立についてAIが対応できるはずもありません。
(2018年7月刊。1850円+税)

2019年11月 8日

ルポ・トランプ王国 2


(霧山昴)
著者 金成 隆一 、 出版  岩波新書

世界中に紛争のネタをばらまき、あおりたてているのがアメリカのトランプ大統領ですが、その支持者からの支持は依然として衰えていないようで、心配でたまりません。
私がトランプ大統領のやったことで唯一評価しているのは、北朝鮮の金正恩委員長との2回の直談判です。この会談が続く限り、北朝鮮は無茶しない(できない)と思うからです。
この本は、アメリカのトランプ支持者たちの本音を取材してまわった貴重なレポートです。
トランプ支持者は、トランプが職を保障すると公約したことに拍手喝采です。
ジョブ(仕事)。この町にジョブを戻してほしい。これがトランプ支持者の最大の切なる願いです。
トランプは、選挙戦において、「家を売らないで下さい。私たちが家の評価を上げます」と叫んで、公約とした。もちろん、そんなこと、ジョブの確保が簡単にできるはずもない。しかし、人々は、束の間の夢に心地よく浸ったのだ。トランプが約束の1割でもやってくれたら十分だと彼らは考える。
もう一つは、トランプがこれまでとは毛色のちがった政治家であり、ビジネスマンだということを評価している人たち。
政治家なんて、みなデタラメなことを言う人間ばかりだ。トランプもその一人だろう。しかし、トランプは楽しい。トランプは面白い。いかにも個性的だ。
この本を読むと、ヒラリー・クリントンを嫌いだというアメリカ人が少なくないことを実感させられます。
トランプは、大統領になって2年経過しているが、毎日のように誰かを攻撃し、精神の不安定さを露呈している。
アメリカで誰がトランプ大統領を支持しているのか、これを知り、その理由まで掘り下げている本書は、貴重なルポルタージュです。
(2019年9月刊。940円+税)

2019年10月 2日

奇妙な死刑囚


(霧山昴)
著者 アンソニー・レイ・ヒントン 、 出版  海と月社

アメリカの司法の野蛮さには、恐れおののきます。でも、理性と良心にしたがって行動する人もほんの少しだけいて、救われます。
著者は2015年4月3日、アラバマ州の死刑囚監房から釈放された。実に30年近く死刑囚として刑務所のなかで過ごしてきた。
事件が起きたのは1985年のこと。強盗殺人事件で死刑にされたが、著者には明白なアリバイがあり、使ったとされる拳銃も犯行時に使われたものではなかった。ところが、白人の裁判長も検察官も頭から著者を犯人と決めつけ、まったく動揺しなかった。そして、弁護人はまったくやる気がない。
著者は貧しい家庭に育った黒人青年だったが、いわゆる前科はなかった。
30年の刑務所生活のなかで、著者は54人もの死刑囚を処刑室へ見送った。
著者自身は、ずっと幼な友だちが面会に来てくれ、周囲の死刑囚と積極的に関わり、刑務所内の図書室で読書会を主宰したこともあった。刑務官たちも自分の悩みを著者に相談し、助言を求めていた。
弁護士面会のとき、著者はよく声をあげて笑った。気持ちのいい快活さがあり、並々ならぬパワーをもっていた。長いあいだ、裁判で失望と抵抗を味わってきたというのに、信じられないと弁護人は感じた。
著者の犯した唯一の罪は、アラバマ州で黒人として生まれたこと。
法廷に並んでいたのは、白人の顔ばかり。警察と検事と判事にとって、そして弁護人にとっても、著者は生まれながらにして有罪だった。
国選弁護人は、著者にこう言った。
「ボランティアをするために、ロースクールに行ったわけじゃない」
著者の家にあった拳銃が犯行に使用されたものとは違うことを証明するための専門家の鑑定費用は1万5000ドル必要と言われた。そんなお金は著者の家にはなかった。
有罪(死刑)になった直後、著者は、刑務所を脱獄して、マクレガー検事を殺してやるとばかり考えていた。
死刑囚監房には、本物の笑い声などない。夢のなかで悲鳴をあげる者、悪態をつく者がいる。はじめの数ヶ月、いや数年間、連続して15分以上も眠れたことはなかった。眠れないと人間の頭はおかしくなる。すると、なんの光も、希望も、夢も、救いもなくなる。影、悪魔、死、報復しか見えなくなり、自分が殺される前に誰かを殺すことを考えるようになる。いたるところに、死と幽霊の姿があった。
死刑執行の前の2ヶ月間、予行演習がある。処刑チーム、死の部隊は総勢12人。整列して、死刑囚監房の通路を厳粛に行進する。
死刑執行日が近くなると、毎日、好きな時に面会人と会うことを認められる。面会人と抱きあい、手を握ることも認められる。これらは、ふだんの面会では許されていない。
刑務所では、時間の流れ方が違う。刑務所での時間は、奇妙なまでに流動的に不安定だが、死刑囚監房の時間の流れは、もっと歪んでいる。
著者は独房の小型テレビで、サンドラが出演した映画『評決のとき』を観ていたし、ジョン・グリシャムの原作小説も読んでいた。
そんな著者が、死刑囚監房から出たあと、どう考えたか・・・。
私はアラバマを愛している。だが、アラバマ州は愛していない。無罪放免になったあと、有罪判決に関わった人間は、誰ひとり、検事も州司法長官も、謝罪していない。今後、謝罪するとも思えない。それでも、私は彼らを赦す。赦すことができなければ、もう喜びを感じられなくなる。そんなことになれば、残りの人生まで、彼らに奪われることになる。これからの人生は、私のものだ。アラバマ州は30年もの歳月を奪った。それでもう十分だ。
私は死刑制度を終わらせたい。自分の身に起こったことが、誰かの身に二度と起こらないようにしたい。
死刑囚監房で学んだこと。それは、どう生きるか、それが肝心なのだ。愛することを選ぶのか、憎むことを選ぶのか。助けるのか、傷つけるのか・・・。
著者と同じ死刑囚監房にいた白人青年は、黒人差別主義者の両親の下で育ち、罪なき黒人青年を虐殺したのでした。ところが、著者と交流するなかで自分の間違いを自覚したのです。それでも、白人青年は処刑されてしまいました。
ずっしり重たい本でしたが、それでも明るさが感じられるのが救いです。アメリカの司法制度、そして死刑制度の存否について大いに認識を深めることのできる本でした。
(2019年8月刊。1800円+税)

2019年10月 1日

無人の兵団


(霧山昴)
著者 ポール・シャーレ 、 出版  早川書房

ドローンが空を勝手に飛びはじめたら恐ろしいばかりです。飛んでいる途中で故障して落下。空中から狙われて物を落とされる。空中から四六時中、監視される。ああ、いやだ、いやだ。考えてみただけでも身震いしてしまいます。
戦場に無人戦車が出現し、あたりかまわず無差別に射撃する。この無人戦車は遠隔操作するのではなく、自律型兵器として、誰かれかまわず砲撃し、「敵」をせん滅してしまう。非戦闘員だろうが、おかまいなし・・・。
著者はアメリカ軍のレンジャー部隊出身。イラクにもアフガニスタンにも出征した経験があります。イラクの山中で発見した一人の羊飼いの青年が「敵」のスパイなのかどうか判断に迷ったという経験も紹介されています。青年は何かを話しているようです。無線で位置情報を発信しているのか・・・。実は、単に一人で歌っていただけなのでした。危く無実の青年を殺すところだったのです。
イラクではタリバン勢力から襲われて反撃していると、実は「敵」と思い込んだのは味方であり、味方が同士射ちしていた。人家の民衆しているところだったので、二手に分かれたどちらも、相互に「敵」と思い込んで撃ちあったのだ。
自律型兵器は、このようなこみ入った複雑な状況に対応できない。できるはずがない。にもかかわらず、射撃だけは止めないだろう。いったい、そのとき誰が責任をとるのか・・・。
武装ドローンが進化している。ベネズエラのマドゥラ大統領の暗殺未遂事件も武装ドローンだった。武装ロボットも、陸上と海上で拡散している。
イスラエルは武装無人艇プロテクターを開発し、海岸線をパトロールさせている。
ロシアは、ウラン9という無人の自動戦車を開発し、大量に配置している。人間が乗っていないので、装甲は弱くてすむし、なにより安価だ。
兵器がAIをつかって進化している実情をレポートしている怖い本です。目をそむけたくなりますが、軍需産業はこのような人殺し機械を開発してもうけているのですね。嫌ですね。
安倍政権の果てしない軍拡路線は、このような無人殺人兵器に行きつくのでしょう。怖いことです。消費税10%は5兆円をこす軍事予算を支えるのです。とんでもないです。それより、年金ふやせ、授業料をタダにしろと叫びたいです。
(2019年7月刊。3700円+税)

2019年9月22日

食の実験場、アメリカ


(霧山昴)
著者 鈴木 透 、 出版  中公新書

私はアメリカ流のファースト・フードはなるべく食べないようにしています。マックもケンタも30年以上、口にしたことがありません。いかにも口当たりの良すぎる人工食料というイメージが私の脳にすっかり定着しています。肥満を心配している身には毒でしかありません。
アメリカ大陸に入植した白人たちは、食生活においては先住インディアンや黒人奴隷に依存していたし、依存せざるをえなかった。
黒人たちは、アフリカで米をつくっていた経験があり、黒人とともに西インド諸島には米作がもたらされた。
トウモロコシは先住インディアンの主食だった。
アメリカの黒人社会では、フライドチキンはご馳走として、教会に行ったあと日曜日に食べるものだった。
オクラはアフリカ原産で、黒人たちがアフリカから持ち込んだ食材だった。
安全な飲料水が確保できていないなかで、アルコール飲料が大量に消費された。アルコールへの免疫がなかった先住インディアンたちのなかに、アルコール依存症が増えた。
ラム酒の生産はイギリスに利するだけなので、アメリカの白人たちはラム酒からの脱却を心がけて、バーボンとビールを愛好した。
コカ・コーラは当初は、薬用として好まれた。コカインも少量ながら使われていた。
マクドナルドは、全店舗への支配力を、日々、トレーニングしながら強化している。
フランチャイズ化は、食事が規格化され、同一の外観を守るという原則の上に成り立っている。
コカ・コーラも私はのみません。なんだか、その成分は怪しいですよね・・・。
食生活の点では、日本はアメリカのようになるのではなく、アメリカを反面教師として対局にあるようにすべき、つまり農薬や遺伝子組み換えなどによらない食生活を重視すべきだと思いました。
(2019年4月刊。880円+税)

2019年8月27日

国家機密と良心


(霧山昴)
著者 ダニエル・エルズバーグ 、 出版  岩波ブックレット

ダニエル・エルズバーグというと、ペンタゴン・ペーパーズです。それはアメリカのベトナム侵略戦争の実態をアメリカ政府がひそかに調査してつくりあげた秘密報告書です。ペンタゴンとはアメリカの国防総省のことです。
1967年6月というと、私が東京で大学1年生としてまだまだ元気一杯、18歳のころです。
アメリカのマクナマラ国防長官は、ベトナム戦争には問題があるのではないかと疑って40人の調査チームをつくって調査研究させた。1年半後にできあがった報告書は47巻7000頁に及ぶ大部なものだった。
ベトナム戦争では、ベトナム人200万人が亡くなり、世界最強のはずのアメリカ軍も5万7千人という戦死者を出しました。韓国軍もベトナムへ出兵し、5千人近い戦死者を出しています。その見返りに韓国はアメリカから経済援助を受けました。日本は憲法9条のおかげで出兵を免れ、ベトナム特需でうるおいました。
ペンタゴン・ペーパーズは、要するに、アメリカのベトナムにおける戦争に大義はなく、敗戦必至ということを明らかにしたものです。ですから、ジョンソン大統領のひきいるアメリカ政府は公表できませんでした。それを、逮捕・失職そして投獄を覚悟してエルズバーグはマスコミに資料を渡して公表したのです。映画にもなりましたが、アメリカのマスコミも骨がある人たちがいたのです。
エルズバーグは、もともと誰もが知る反共主義者でした。マクナマラ国防長官の顧問に就任し、ソ連・中国を対象とする核戦争についての公式ガイダンスを立案していました。核戦争になれば、ソ連と中国だけで3億2500万人が死亡し、全世界で6億人が死亡するという計画。そして、この予想には、ソ連軍が反撃したときの死傷者数は入っていない。すなわち、核戦争は、地球に人類が住めなくなるという結果につながるのです。
日本には、岩国の沖合にアメリカの艦船が停泊していたが、それに核兵器が搭載されていた。そして、沖縄の嘉手納には核兵器が貯蔵されていて、有事の際には、日本本土の基地へ核を移送する計画をもっていた。
核戦争をひき起こしてはならない。日本の憲法9条は大きな意義をもっていると考える著者は核兵器のもたらす害悪を国民がみな等しく認識し、その根源を踏まえて運動をすすめようと呼びかけています。まったく同感です。
(2019年4月刊。740円+税)

2019年7月29日

奇跡の会社

(霧山昴)
著者 クリステン・ハディード 、 出版  ダイヤモンド社

アメリカはフロリダ州のある清掃サービス会社の若き女性社長が苦闘の日々を語っています。
会社を起こした女性社長はフロリダ大学の学生。仕事は寮や個人住宅の清掃サービス。社員は、すべて大学生。しかも、一定以上の成績を保持していることが条件。低賃金なのに、離職率は一般だと75%なのに、この会社はとても低い。
どうして、そんなことが可能になったのか・・・。成功談というより、失敗談を語ることによって、会社を運営することの意義と手法が明らかにされていきます。
なぜ社員は大学生に限るのか、しかも、一定以上の成績上位者だけを求めるのか・・・。
ど素人といってよいレベルの大学生が、清掃業界という、あまりうま味のない業界で、知恵もカネも後ろ盾もなく、行きあたりばったりで起業、そこからもがいてはい上がり、キラリと輝く会社をつくっていったのでした。
起業したてのこと。アパート数百室の清掃を請け負い、大学生60人が清掃にとりかかった。ところが、始まって数時間、そのうち45人が集まって、こんな仕事はしたくないので、会社をやめると言い出した・・・。当然、女性社長はパニックになります。いったい、どうしたら請負った契約目的を達成できるのか・・・。
この大学生たちはミレ二アル世代。下積みに興味はなく、すぐにトップに駆け上がれると考えている。顔を見て話そうとせず、小説のように長いメールを送る。批判されるとすねるから、上司は慎重に言葉を選ばなければならない。自分がインパクトを与えていると感じられない仕事はさっさと辞めるくせに、どういうインパクトを与えたいのか、具体的に説明できない。
清掃会社の粗利率は15%でしかない。しかし、人を信じて大きな責任を託し、失敗する余地を残しておき、自分のミスは自分で取り戻す機会を与えれば、彼らはそこから学ぶ。
子どもが可愛いあまりに過干渉になるヘリコプターペアレンツの努力は逆効果になる。親があれこれ世話を焼いた結果、間違えることを恐れて自分で決断できない若者が育ってしまう。親が子どものためと思って何でもしてやることは、図らずも子どもに自信をつける機会を奪い、リーダーシップを身につける機会を奪っている。
新人研修では、掃除のしかたよりも、問題解決のアプローチを教えることを重視するようにした。すると、学生たちは自分で判断を下せるようになった。リーダーは、部下が問題を解決しようと苦悩する姿を見守る一方で、介入して代わりに解決するタイミングを見きわめる必要がある。そのバランスをとるため、自分が失敗をどこまで許容できるのか、知っておく必要がある。
成績のいい大学生から成る清掃サービス会社という発想がすばらしいです。
(2019年2月刊。1600円+税)

2019年7月 2日

マルコムX(下)

(霧山昴)
著者 マニング・マラブル 、 出版  白水社

ついにマルコムXが暗殺される瞬間が近づいてきます。
予兆はいくつもありました。マルコムXの信奉者たちがネイション・オブ・イスラムの信者たちから集団で襲撃され、あるいは殺害されます。そして、ついにマルコムXの自宅が焼き打ちされるのです。ところが、自宅焼き打ちについて、世間の注目をひくための自作自演だというデマを飛ばす人がいて、世間でもそれを信じる人が少なくなかったのです。それは、マルコムXが、いつも大ボラを吹いているという偏見にもとづく誤解でもありました。
警察はマルコムXの暗殺計画がすすんでいることを察知しながら、それを防ぐための手立てを何も講じませんでした。といっても、マルコムXの暗殺犯たちにFBIや警察が手を貸したということではないようです。
マルコムXは暗殺を恐れていなかったとのことです。それは考えが甘かったというより、殉教師になるのも一つの道ではないかという達観から来ていました。決してあきらめの境地にあったのではありません。
1965年初めには、マルコムXの側近たちは、そのほとんどが、このままでは、そのうちマルコムXは殺されると思っていた。だから、どうしたらマルコムXを救うことができるかと考えていた。
マルコムXは、当時、あらゆるものに追い詰められていたが、もともと心の内をなかなか明かさない人間だったので、このときも思っていることを話していない。
今から考えると、マルコムXは、死を避けたり逃れたりはしまいと決めていた。死を望んでいたわけではないが、それを自分の宿命から外すことのできないものとして、受け入れる覚悟があったようだ。
演説会場に入るとき、参加者が銃器をもっていないか調べることをマルコムXは禁じた。そして、自分の警備員(ガードマン)には一人を除いて武器をもたせなかった。銃撃戦になったとき、暗殺犯は、おそらく丸腰のガードマンを撃たないだろう。誰かが死ななければならないのなら、それは自分でいい。マルコムXはそんな結論に達していたのではないか・・・。
FBIもニューヨーク市警も、マルコムXの運命への介入について、同じくらい消極的でマルコムXの生命が脅かされても、捜査せずに身を引き、犯罪が起きるのを待っていた。結局、暗殺犯たちは演説会場に銃をもって立ち入り、ちょっとした騒動を起こして、演壇にいるマルコムXを銃撃し、殺害してしまったのです。それは、ネイション・オブ・イスラムの組織した暗殺集団でした。
暗殺班の構成員は、みなイライジャ・ムハマドの熱心な信奉者であり、マルコムXを殺すためには自分の命を犠牲にする用意があった。暗殺を企てる者が死をいとわないのなら、誰でも殺すことができる。これって、自爆犯と同じだということですよね。
こうやってマルコムXの暗殺の瞬間が解明されていますが、この本は同時に、マルコムXがメッカ巡礼し、アフリカ諸国をめぐったことによる思想的転換を具体的にあとづけています。そこが大変興味深いところでした。とはいっても、当時のアフリカは独立の英雄が独裁者に転化しつつあったり、各国とも政情は単純ではありませんでした。
本書の結論で書かれていることを紹介します。
黒人の人間性に対する深い尊敬と確信が、革命的な理想家マルコムXの信念の中心にあった。そして、マルコムXの思い描く理想の社会に異なる民族意識や人種意識をもつ人々も含まれていくにつれ、マルコムXの穏やかなヒューマニズムと反人種主義の姿勢は、新種のラディカルで世界規模の民族政治の基盤となっていたかもしれない。
マルコムXは希望、そして人間の尊厳の象徴になるべきである。
この最後のくだりを、なるほどと読んで思えるほど、マルコムXの思想的遍歴が忠実に再現できていて、改めて素晴らしい本だと思いました。
(2019年2月刊。4800円+税)

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