弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2024年4月13日

人生のマイルストーン


(霧山昴)
著者 中嶋 照夫 、 出版 幻冬舎

 女性5人、男性4人の9人、その平均年齢はなんと68.7歳。
 70歳目前の「ジジ・ババたち」によるキャンピング・カーでのアメリカ縦横断旅行(43日間)の体験記です。夫婦2人で、とか、日頃から気のあった仲間で出かけたというのではありません。こんな大胆な旅行を思いついた人が新聞で同好の士を募ったのです。
 そのときのキャッチコピーは、「気力、体力、知力を使い果たす前に、生涯の大旅行をしよう」というもの。そして募集したときの条件は3つ。①協調性があること、②ペアで参加できること、③好奇心旺盛であること。ここには健康であることは条件になっていませんが、当然のことだからでしょうね。胃腸が丈夫なことというのもありません。
募集人員は最大7人としていたところ、20人ほどから申し込みがあったそうです。1ヶ月半もアメリカ旅行するというのですから、金銭的にも余裕のある人じゃないとダメですよね。
呼びかけた側にとっての一番重い課題は仲間意識の醸成。出発前のミーティングで10回ほど顔を合わせただけというのですから、不安は大きかったと思います。それでも、みなさん、なんとかうまく折り合ったようです。
大型キャンピングカーの運転は大変でした。というのも、アメリカの太平原はひたすら単調なのです。高速で1時間走ってもまったく風景が変わりません。
私も昔、アメリカのアイオワ州のトウモロコシ畑を車で走ったことがあります(もちろん私が運転したのではありません)。延々、はるかに見渡すかぎりのトウモロコシ畑が何時間走っても続くのです。いいかげんうんざりしました。
そこで、運転者は眠気防止の薬を服用しました。そんな薬があるのですね、知りませんでした。コーヒー1杯分のカフェインの錠剤。100錠入っていて8ドル。午前1錠、午後1錠を服用した。1錠あたり4時間の覚醒作用があるとのことで、実際には1~2時間の薬効だったとのこと。それでも効果はあったようです。
キャンピングカーによって移動しても泊まるところは、専用パーク。治安上も、これが1番とのことです。
そして、キャンピングカーにトラブルが発生したとき...。
アメリカ人は予想以上に親切だったことが紹介されています。困った人を見つけたら、集まってきて、みんなで力をあわせて助けてくれる。それは無償であり、対価を求められることはなく、まったくの善意。アメリカ人にも善人は多いのですね...。
アメリカ人に肥満が多いこと、そしてタトゥーを身体のあちこちに入れている人が多いことも紹介されています。
キャンピングカーは調理できるので、スーパーで食材を買い込んで、「豪華な」食事も楽しんだようです。カップラーメンですますというものではありませんでした。いいですね。やっぱり旅行の楽しみの一つは、美味しいものを楽しく語らいながら食べることにありますからね。
ともあれ、2022年5月4日に日本を出発し、6月15日に9人全員が無事に帰国できました。良かった、よかったです。そして、写真も旅行体験記もある本書が作成されたのです。
たいした老人(ジジ・ババ)パワーです。どうやら私とほとんど同じ世代のようですね。まだまだ団塊世代も元気なんですよ。これからも皆さん、お元気にご活躍してくださいね。
(2024年2月刊。1600円+税)

2024年4月 6日

モサド・ファイル2


(霧山昴)
著者 マイケル・バー・ゾウハー 、 出版 早川書房

 イスラエルのガザ侵攻がいつまでたっても終わりません。私は直ちに停戦し、イスラエルは軍隊を速やかに撤退することを求めます。ガザ地区のハマスを支持しているわけではありません。ともかく戦争をやめてほしいのです。
 暴力には暴力を、力には力を、こんな単純な発想では、いつまでも復讐の連鎖反応は止まりません。
 イスラエルは、その国の存立を守るため強力に武装し、また、スパイ活動を強化しています。本書では、そのほんの一端が女性スパイに焦点をあてて紹介されています。
ユダヤ人大虐殺に関与したナチスの将校アイヒマンをアルゼンチンが逮捕・連行するとき、モサドは、そのなかに女性も1人だけ工作員に加えていた。
 アイヒマンを逮捕し監禁していたところ、連行する飛行機の都合で、10日間ほど、夫婦として何ら変わりのない日常生活を送っていることを演出しなければならなかった。
 アイヒマンは投薬され、パイロットの制服を着せられてイスラエルの機内にこっそり運び込まれました。そしてイスラエルへ連れ去られ、世紀の裁判が始まったのです。その状況を再現した映画はみました。
 この本を読むと、モサドの工作員には女性もたくさんいて、重要な役割を果たしてきたことがよく分かります。まあ、国家としては必要な期間なのでしょうが、すべては平和を守るため、戦争にならないようにするためであってほしいと心から願います。
(2023年11月刊。3300円)

2024年3月21日

家を失う人々


(霧山昴)
著者 マシュー・デスモンド 、 出版 海と月社

 アメリカの貧困層を食い物にする大量の大家軍団が存在することを初めて知りました。恐るべき現実です。このような先の見えない貧困層の存在がトランプの岩盤支持者につながっているのではないのかと思いました。
 最上の住宅を借りられるだけの経済力をもつ金持ちからは、最大の利益をあげられない。代わりに小銭にも事欠く住人にスラムのぎゅう詰めの住宅を貸し、そこから利益を吸い上げることにしたのだ。
 生活環境が悪化するなか、家賃は上がり続けた。やがて、多くの人々が家賃を支払えなくなると、家主は「動産差押え特権」を行使した。
 不平等な社会では、平等な扱いもまた差別を助長しかねない。たとえば、黒人男性たちは過剰に投獄され、黒人女性たちは過剰に強制退去させられる現実のなかで、犯罪歴や強制退去歴がある希望者の入居を平等に拒否すればアフリカ系アメリカ人は断然不利な状況に追いこまれる。
 つまり、強制退去という制度そのものが、安全なエリアに暮らす家庭と、治安が悪く危険なエリアに暮らす家庭を生み出す一因になっている。
最近まで、アメリカには収入の3割以上を住宅費に充てるべきではないというコンセンサスがあった。そして、近年まで、借家人世帯の大半は、この目標を達成していた。だが、時代は変わった。
いま、アメリカでは、毎年、数万や数十万ではなく、数百万もの人たちが、自宅から強制退去させられている。
低所得者層が頻繫に転居している。最貧層の転居の4分の1は強制による。
強制退去させられると、住居だけでなく、さまざまなものを喪失する。家、学校、愛着のある地域だけでなく、家具、衣類、本といった私物までも失う。
強制退去は仕事を失う原因にもなる。そして、公営住宅に入居する機会も失う。強制退去させられた家族は、同じ市内でも、より好ましくない地域に追いやられる。
そのうえ、強制退去は、住人の精神状態にも大きな害を及ぼす。自宅から追い出すという行為は、いわば暴力であり、拍手をうつ状態に陥らせ、最悪の場合は自殺に追い込む。
「収入に見あう家賃の物件がない」という危機は、今や大規模かつ深刻な問題だ。
アメリカの全借家人の5世帯に1世帯が収入の半分を住居費に費やしている。家主の9割に弁護士がついているのに、借家人の9割は弁護士をつけられない。もしも借家人に弁護士がつくようになれば、事態は一変するだろう。
家主が好きな金額で家賃を請求できる権利を法で認め、家主を守っているのは政府だ。
富裕層向けの集合住宅の建設に助成金を出し、家賃相場を上昇させ、貧しい人々のただでさえ少ない選択肢をさらに狭めているのは政府だ。
借家人が家賃を支払えないとき、一時的・継続的に住む場所を提供しはするものの、家主の要請に応じて武装した保安官代理を派遣して借家人を強制的に退去させているのも政府だし、借金の取立代行業者や家主のために強制退去を記録に残して公表しているのも政府だ。
その結果、裁判所、保安官代理、ホームレスシェルターは、都市の貧困者の住宅費の増加や低所得者層向住宅市場の民営化の副産物への対処に、日々、忙殺されている。
大半の家主にとって、物件のメンテナンスに費用をかけるよりも、借家人を強制退去させたほうが安くあがる。
ミルウォーキー郡では、強制退去が審議される法廷に出頭する人の4分の3は黒人で、うち4分の3は女性だ。
家主は強制退去の執行を依頼する前に、裁判所から委託されている業者と契約を結ばなければならない。たとえば、ある会社の5人ひと組のチームを雇うには、5万円の手付金がまず求められ、保安官が10日以内に借家人を退去させられる。それは8万7千円ほど、かかる。
家は、そこに暮らしている人の個性の源泉だ。それを奪われることは、いかに大変なことなのか...。
著者は、トレーラーの中に住み込み、周囲の住人にインタビューをし続けて、本書を完成させたのでした。それにしても恐るべき深刻な貧困の実相です。
(2023年12月刊。2600円+税)

2024年3月 7日

古代アメリカ文明


(霧山昴)
著者 青山 和夫 、 出版 講談社現代新書

 「世界四大文明」(メソポタミア、エジプト、インダス、黄河)というのが、実のところ、学説でもなんでもなく、ヨーロッパやアメリカにはない、特異な文明観だというのを初めて知り、ショックを受けました。有名な考古学者である江上波夫が口調がいいというので教科書に書いたのが日本で広まり、定着しただけなんだそうです。ええっ、一杯くわされたのか...、そう思いました(プンプンプン)。
この本は、それに代わって「世界四大一次文明」を提唱しています。メソポタミア文明と中国(黄河)文明のほか、メソアメリカ文明(マヤ文明とアスデカ王国)とアンデス文明(インカ国家)です。
マヤ文明は、政治的に統一されていないネットワーク型文明。統一王朝が形成されることはなかった。そして、マヤでは鉄はまったく使用されず、16世紀まで石器を主要利器として使い続けた。マヤ文明は、機械に頼らない「手作りの文明」だった。家畜は七面鳥とイヌだけで、牧畜はなかった。大型家畜がいなかったので、荷車なども発達しなかった。牛や鳥もなしで、人力だけで大型建築物を建設した。
そして、マヤ人はゼロの文字を独自に発明した。
マヤ文字は、漢字のように意味を表わす表語文字と、仮名文字のように音節を表わす音節文字から成る。なので、マヤ文字は漢字仮名まじりの日本語とよく似ている。
マヤ文字は話し言葉を体系的に表す文字だったが、支配層だけが使う宮廷言葉だった(可能性が高い)。
マヤ人は、叩き石を用いて、イチジク科の木の樹皮から紙を製造した。
マヤの数字は20進法で、貝の形がゼロを表わした。
マヤ文明は多神教だった。
アステカ王国は、インカ帝国とほぼ同じ15~16世紀に、メキシコから中米北部にかけてのメソアメリカに栄えた。
アステカ王国は、今のメキシコあたりに、それぞれに王を戴(いただ)く三つの都市国家が連合し、主に貢納を課すことで支配領域を広げていった。
 三つの都市国家はお互いに戦争しあうものであって、そもそも一枚岩ではなかった。
 アステカ王国では宗教儀礼としての人身御供(生贄)が長らく実践された。
インカ王国のナスカとは何者なのか...。
 ナスカの地上絵は、ナスカ台地に1500点、北部に600点が確認されている。地上絵は、ナスカ台地に広がる黒い石を線状に取り除いて、その下の白い地面を露出する手法で制作されている。
 地上絵には三つのタイプがある。直線の地上絵、幾何学的な地上絵、そして印象的な地上絵。線タイプ(全長90メートル)と、面タイプ(同9メートル)の二つがある。
 当時の人々は、地上絵を歩きながら見る行為を繰り返しながら、人間と動物をめぐる分類を共有していたのだろう。地上絵を見ながら歩く行為は、社会的に重要な価値観や秩序を共有し、記憶するための必要不可欠な活動であった。
 このように著者は考えています。なるほど、上空から眺めるわけにはいかなかったでしょうからね...。
 インカ王は絶対的な支配者・権力者ではなかった。彼らは山の神々を怖れ敬い、その超大な力との関係を維持しながら統治した。
 古代アメリカ文明は、今の私たちが体験にもとづいて想像するような統一王国ではなかったようです。そのことを知っただけでも、本書を読んだ意味がありました。
(2023年12月刊。1200円+税)

2024年3月 5日

スーザン・ソンタグ


(霧山昴)
著者 波戸岡 景太 、 出版 集英社新書

 2004年に71歳で亡くなったスーザン・ソンタグは、現代アメリカを代表する知識人の一人。
 写真や映画といった映像文化に造詣(ぞうけい)が深く、ジェンダーやセクシュアリティの問題にも敏感。結核やガンといった病気についても熱心に議論した。そして、ベトナム戦争以来、9.11に至るまで、ずっと社会問題に反応し、政治的な発言を続けた。
 私にとっては、ベトナム戦争反対の声を上げていたアメリカの知識人の一人という印象です。
 評論家、映画監督、活動家という肩書きをもっていた。
知性には具体的なかたちがない。知性というのは、本質的に、見たり触ったりすることができない。
 物書きたるもの、意見製造機になってはならない。私はモノカキを自称していますが、「意見製造機」にはなっていませんし、なるのは無理だと考えています。この世の中は私にとって、あまりに理解困難なことが多すぎます。
 たとえば私は、なぜ鉄下鉄の中で携帯電話で話が出来るのか、まったく理解できません。
 ヴァルネラブルというコトバが何回も本書に登場します。脆弱性、被傷性、可傷性、攻撃誘発性など、さまざまに訳されている、難しいコトバです。
 「人間は健康にしろ病気にしろ、どっちにしても脆(もろ)いものですね。いつ、どんなことで、どんな死にようをしないとも限らないから」(漱石の『こころ』)
 カメラは銃を理想化したもの。誰かを撮影することは、理想化された殺人、悲しく、怯えた時代にぴったりの、ソフトな殺人を犯すこと。これはソンタダの「写真論」の一節。
 カメラには「暴力性」があるというのです。うむむ、よく分かりませんよね...。
 愚か者たちの村、その名はアメリカ...。これはよく分かる気がします。
 だってバイデンは80代で、記憶喪失が心配されているのに、代わりの候補者がいない。トランプに至っては、私には大金持ちで、一般人を見下している、狂気の人としか言いようがありませんが、にもかかわらず、大勢の一般人が信者として存在するというマカ不思議さ。
 ソンタグは何人かの男性を愛し、何人かの女性を愛した。
 結婚して、子(息子)をもうけたソンタグはレズビアンでもあったようです。
 人間には、いろんな側面があるものなんですよね...。

(2023年10月刊。1210円)

2024年2月24日

南北戦争を戦った日本人


(霧山昴)
著者 管 美弥・北村 新三 、 出版 筑摩書房

 アメリカの南北戦争は1861年4月から1865年5月までの4年間、続きました。日本の明治維新は1868年ですから、その直前になります。そのため、官軍と幕府軍の戦闘のとき、南北戦争が終結して不要となった大量の武器がアメリカの武器商人によって日本に持ち込まれたのです。
 アメリカの南北戦争では、両軍の動員総数は326万人、戦死者は62万人超です。その内訳は北軍が36万人、南軍が26万人弱となっています。
 この南北戦争に2人の日本人が参加していたという記録があるというのです。著者は、幕末なのでアメリカへの渡航が禁止されていたはずなのに、なぜアメリカ軍の兵士として日本人が参加できたのか、その可能性を探ったのでした。
 日本人2人の日本名は不明で、1人はサイモン・ダン(21歳)、もう1人はジョン・ウィリアムズ(22歳)。どちらも戦死せず、1865年に除隊しています。目の色も髪の毛も黒く、肌の色は浅黒いとありますから、日本人に間違いないようです。身長は152センチと155センチなので、こちらも当時の平均日本人の身長。
 南北戦争のとき、兵士の人数を確保するため、移民も容易に兵士になれるようにし、帰化権を与えることにした。その結果、北軍兵士の4分の1から5分の1を移民が占めた。
 海軍においては、黒人兵士は全体に占める割合は20%で、陸軍の比率より2倍も多かった。
 著者は、この南北戦争に参加した2人の日本人は漂流者あるいは密航者だった可能性があるとしています。たしかに、日本の漁民が海の時化(しけ)にあって遭難し、はるばるアメリカにまで漂流していった人は何人もいます。音吉、ジョン・万次郎、ジョセブヒコが有名です。
 次に、密航者です。吉田松陰も密航を企てた一人です。新島襄も1864年に箱館港から米船ベルリン号で出国し、中国・上海にしばらく滞在してボストンに着いています。
 著者は、目的のある密航者よりも、漂流者のほうに南北戦争に従軍した可能性は高いとしています。なるほど、ですね。
 江戸幕府は、その最終期に、6つの使節団をアメリカとヨーロッパに派遣した。いやあ、6つもの施設団を送っていたのですか...、知りませんでした。
 また、幕末に海外に留学していたのは合計148人に達するそうです。これまた意外に多いですよね。しかも、幕府が留学生として派遣したのは「士分」(侍)の9人だけでなく、現場での技術・運用を担当する「職方」(6人)を含んでいた。「職方」とは何でしょうか...。町人と解してよいのでしょうか。
 南北戦争に日本人兵士は従軍していただなんて、想像もしませんでした。
(2023年9月刊。1700円+税)

2024年2月18日

フロッグマン戦記


(霧山昴)
著者 アンドリュー・ダビンズ 、 出版 河出書房新社

 第2次世界大戦での米軍水中破壊工作部隊の活躍を紹介した本です。
 アメリカ海軍の特殊部隊として有名なネイビーシールズはベトナム戦争のときに発足した。その前身が、本書で紹介されている水中解体チーム(フロッグマン)。
 第2次世界大戦中のアメリカでは、民家の窓に赤い縁取りの白い旗が取り付けられた。この旗の中央に星がついていて、青い星だと、家族が出征中という意味で、星が金色なら出征した家族が死亡したということ。戦争が2年目に入ると、次々に青から金色に変わっていった。
 フランスに上陸するノルマンディー上陸作戦のときは、解体部隊は30分のうちに、潮が引いているうちに、ナチス・ドイツ軍が設置した海岸防御を突破し、障害物を除去しなければならなかった。オマハビーチに向かった解体部隊は、ナチス・ドイツ軍の障害物を全部で16ヶ所、撤去する任務を負った。重い鉄鋼、木、セメントの障害物のベルトに16列の突破口を開ける。イギリスの帆布職人が負った帆布パックを使って、それに20個の爆薬を詰めた。
 オマハビーチの解体部隊は16列のうち13列の突破口を開けることができた。しかし、解体部隊員の31人が死亡し、60人が負傷した。死傷率は52%に及んだ。
 日本軍を相手とするサイパン占領のときには、200人の水泳隊員の活躍で、1日に2万人の部隊が完璧に上陸できた。
 水中では、隊員は横泳ぎと平泳ぎですすむ。脚と腕は決して水面より上に出してはいけない。多くの水しぶきをあげるクロール泳法は、緊急時のみ許される。特殊な背泳ぎも学んで実行する。
水中で息を止めるコンテストがあった。意識を失わずに4分をこえた者はほとんどいない。あるスイマーは5分5秒を記録したが、2分45秒も息をとめられたら、すごいことだ。
 たしかに、水中工作物の除去が必要なことはあったでしょうね。そしていささか特殊な訓練と技能が求められますよね。いろいろ教えられました。
(2023年7月刊。3960円)

2024年2月 1日

ラパスの青い空


(霧山昴)
著者 下村 泰子 、 出版 福音館日曜日文庫

 1995年11月発行の古い本です。このころ30歳代の若い日本人女性がボリビアに1年間滞在したときの生活と苦労話が紹介されています。ずっと前から我が家の本棚にあったのですが、読んでいないので、思い切って読んでみました。とても面白い本でした。
 著者は京都YWCAに勤めて不登校の若い人たちと交わるなかで、このままなんとなく流れに乗ってやっていては、いつか足元にぽっかり穴があいてしまう。ここはいっぺん、まるごと自分をリフレッシュせなあかんと思い立ったのでした。そこで、まずは仕事を辞めたのです。なんのあてもないまま...。そして、募集記事を見てボリビアに行くことを決めました。先住民の人口比が多い国だというのもボリビアを選んだ理由の一つでした。
 ボリビアの首都ラパスは標高4千メートル超ですので、たちまち高山病にかかりました。どこかふわふわと漂っている感じがして、足どりも頼りない。そして、飛行機に乗る前に預けた荷物は出てきませんでした。やむことなくガンガン襲ってくる激しい痛みのため、時差ボケもあって、眠れません。辛いですよね、これって...。
 明るすぎる日差しには、現地の女性がかぶっているフェルトの山高帽は、この日差しをさえぎるのにぴったりということが分かりました。
 腹痛と吐き気がひどいとき、甘くておいしい葛湯(くずゆ)のようなものと、砂糖のたっぷり入ったコカ茶を飲むと、少しずつ楽になっていったのでした。
 最初に生活した家は裕福な家庭で、お手伝いの女性がいます。たとえば朝食は家族みな別々で、お手伝いのイルダが、それぞれの部屋に運びます。
 ボリビアでは、昼12時から午後3時まではレストランを除いてほとんどの会社、商店などが休み。みな自宅に戻って昼食をとる。ボリビアでは1日の食事のうち昼食が質・量ともにメイン。
 日本人の著者は「チノ」と呼ばれます。「チノ」は本来は中国人を指しますが、東アジアの人を広くさすコトバとしても使われているのです。
 お手伝いのイルダは家族と一緒に食事することは全然ない。家族のように仲良くしようという発想がない。はっきり違った二つの階層が、ひとつ屋根の下に存在して生活している。
 ボリビアでは、お客のもてなしは、ます一杯のコーラから始まる。
女性たちは、コカの葉を口に入れてもぐもぐさせている。コカの葉は女性たちの大好物。コカには寒さや空腹感、疲労感をマヒさせる作用がある。
 公立学校の教師の給料はひどく安く、ほとんどの人が副業をもっている。たとえばヤミ両替商をしている。
 ボリビアは1年中、祭りの絶えない国。そのなかで、一番盛り上がるのはカルナバル(カーニバル)。
 著者はボリビアに1年間いるあいだに体重が5キロも増えたとのこと。慣れない土地で健康に過ごすには、のんきさも大切だと著者は強調しています。まったく異論ありませんが、私にはとても出来そうもありません。
 著者はボリビアでいろんな人と知りあい、一緒に生活し行動するなかで、まさに「そのとき」を生きている実感があったとのこと。そのことがよくよく伝わってくる文章であり、何枚かの写真でした。
5年後にボリビアを再防したときのことも少し紹介されています。今を大切にして生きることの意義を感じさせてくれる本でもありました。著者は現在65歳のはずです。どこで何をしておられるのでしょうか...。
(1995年11月刊。1400円)

2024年1月16日

創造論者VS無神論者


(霧山昴)
著者 岡本 亮輔 、 出版 講談社選書メチエ

 アメリカという国は、本当に不思議な国です。月世界を歩く飛行士がいるかと思うと、アメリカ人の40%は人間は1万年前に神によって創造されたと今でも真面目に信じているというのです。つまり、人間の先祖はサルではなくて(これは本当です)、初めから人間だったというのです。
 つまり、生物(生命)誕生から何億年、何万年もかかって進化していって人間が生まれたという進化論を信じていないわけです。
 これだけ多種多様な生命体が存在するのに、それをみな、万物の創造主は神、それも唯一神だとするのは、あまりに無理があると私は思うのですが...。
 アメリカには無神論者はわずか4%しかいない。
 「ある人が心の底から神を信じているのか、それとも神を信じるのは良いことだと信じているのか、両者の区別はそれほど明確ではない」
 この指摘には、まったく同感です。無神論者の私だって、「苦しいときの神頼み」はしていますし、ゲンをかついだり、お寺の仏像の前では深々と頭を下げて、お願いごとを心の中で唱えます。そのとき、何のこだわりもありません。
 スパモン教なるものが存在するというのには驚かされました。「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教会」です。
 1952年にアメリカはテネシー州のデイトンという田舎町で起きたモンキー裁判の紹介には目を洗わされました。進化論を学校で教えた若い教師(スコープス)がバトラー法違反で裁判にかけられ、全米の耳目を集めた事件です。
 そもそも、この裁判は、衰退してしまった町(デイトン)の町おこしとして全米から注目してもらおうとして事件になったものだというのです。これには心底から驚かされました。全米の話題になって観光客や投資を呼びこもうと町の有力者たちが考えたというのです。いやはや、まったく呆れてしまいました。
 そして、裁判は案の定、全米の注目を集め、マスコミが乗り込んできて裁判は全米に実況中継されます。当初は進化論否定派が有利でしたが、進化論者の弁護士は聖書絶対派に質問して、局面が大転換します。
 つまり、聖書絶対論者はあまりに歴史的事実と違いすぎるので、身がもちません。
 聖書絶対論者によると、天地創造は紀元前4004年10月23日になる。多少の前後はあっても、だいたい、それくらい。ところが、それでは科学的に何万年も前のことだと証明されているのと、あまりに違う。
 また、「地球は6日で創造された」というのも、いくらなんでも...。
 アメリカの歴代の大統領は、就任式のとき、聖書に手を置いて宣誓する。また、折にふれて神の名を口にする。つまり、アメリカはキリスト教国家だということ。でも、イスラム教徒や仏教徒もいるんでしょ...、どうなってんのかしらん。
 それでも、今後は、無神論者より信者のほうが増加するとみられているのです。イスラム教徒はキリスト教徒と同じく世界人口の3割を占める(2050年)。そして、ヒンドゥー教徒は14億人になるだろう...。いやはや、日本は世界のなかで、きわめて特異な国なんですね...。改めて知って、驚きました。
(2023年9月刊。1800円+税)

2023年12月28日

奴隷制の歴史


(霧山昴)
著者 ブレンダ・E・スティーヴンソン 、 出版 ちくま学芸文庫

 奴隷制は、私人や国家による奴隷たちへの残酷な搾取行為であると同時に、きわめて収益性の高いシステムである。
 奴隷制は過去のものではなく、今なお存在している。世界中で、2000~3000万人もの人々が債務奴隷、性奴隷あるいは強制労働者として、今も奴隷状態にあると考えられている。
 奴隷制の歴史は長く(古く)、世界中で広く活用されてきた。奴隷制はアメリカ合衆国史にとって本質的な経験である。
 古代ローマには数百万人の奴隷がいて、人口の15~35%を占めていた。奴隷は家財または財産であった。奴隷は財産を持つことも、結婚することも、自分たちの家族を持つこともできなかった。
 シルクロードでは、奴隷は一般的かつ重要な交換品目だった。
 奴隷は、アメリカにおいて、土地とは異なり、譲渡可能な財産であったため、経済単位としてとくに重要だった。
 アメリカ大陸で奴隷となったアフリカ人は、1250万人。ところが、アフリカ大陸では2800万人もの人々が奴隷として取引された。この差は何か・・・。運ばれる途中での死亡(病気や自殺など)した何百万人もの人々がいた。
 スペインはアメリカ大陸にアフリカ人を奴隷として送った最初の国。アメリカ大陸で最も高値で取引されたのは10代半ばから30歳までのアフリカ人男性だった。
 アメリカのヴァージニア州では、1750年に奴隷人口は全住民の半数近い46%を占めていた。
 アメリカの州政府は奴隷貿易から税収を得ていたし、新聞社も逃亡奴隷に関する報酬金の広告により収入を得ていた。
 奴隷を所有する人々は、奴隷の文化表現を抵抗の陰謀の隠れ蓑ではないかと、警戒した。奴隷たちは、独自の文化を生み出していた。
 奴隷主(主人)は、奴隷が貴重な財産なので、家族を崩壊させる「権利」をしばしば行使した。
ジョージ・ワシントン夫妻は200人以上の奴隷を所有していた。彼ら愛国者も、黒人は白人と根本に異なっていて、黒人は劣っていると疑うことなく確信していた。白人の大多数は、黒人は知力的にも肉体的にも道徳的にも白人より劣っていると信じ込んでいた。裁判官は「黒人は市民ではない」と公然と宣言した。
 18世紀末、アメリカはアフリカからの奴隷輸入を禁止した。しかし、現実には、その後も輸入は続いていた。1789年に発効したアメリカ憲法は、奴隷制の問題には直接言及していない。しかし、奴隷の黒人は完全な人間とはみなされていなかった。アメリカの北部でも、「自由」な黒人にとって、人種的平等を約束する天国ではなかった。
 南部に住む多くの白人女性は「私たちは、娼婦に囲まれて暮らしている」という不満を抱いていた。黒人女性は邪悪で人を操る誘惑者であり、その飽くなき性欲を私利私欲のために利用する女性、雇われた売春婦と断じていた。
 南部の白人男性は、奴隷労働の一部として性的行為を黒人女性に要求していた。主人である白人男性の要求を拒絶すると、激怒した主人たちは手ひどい復讐をした。
 なぜ、今日でも世界に2000万人以上もの奴隷が存在するのか?
自由とは何か・・・。自由とは不平等の暗黙裡の需要を打破することである。そして、抵抗は、奴隷制の遺産の一つでもある。この抵抗はまさに維持し、支えていく価値がある。
合衆国がイギリスから独立するとき、イギリス軍は自分たちと共に戦えば自由を約束するとしたことから、多くの黒人奴隷たちが、イギリス軍とともに愛国者たちと戦ったという歴史的事実がある。これには驚かされました。ワシントンが初めて奴隷に自由を与えたのではないのですね...。
 現代において奴隷は大幅に増加しているのが現実です。いったい、なぜ、そんなことになってしまったのでしょうか・・・。大変勉強になった文庫です。
(2023年8月刊。1400円+税)

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