弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2020年12月10日

ルース・ベイダー・ギンズバーグ


(霧山昴)
著者 ジェフ・ブラックウェル、ルース・ホブディ 、 出版 あすなろ書房

1993年にビル・クリントン大統領からアメリカ連邦最高裁判事(終身)に任命された女性判事(RBG)をインタビューしている本です。すごい判事がいたのですね。
RBGはインタビュー当時、87歳で現役の最高裁判事でした。
1956年にRBGがハーバード大学ロースクールに入学したとき、男子学生500人に対して女子学生はわずか9人。それでも前年5人から倍増。ところが、今ではロースクール生の半分は女性が占めている。日本では、まだそこまではいきませんよね。
ロースクールでの成績は優秀だったのに、ニューヨークの法律事務所でRBGを迎え入れようとしたところは一つもなかった。RBGはユダヤ人であり、女性であるうえに母親だったこと(4歳の娘をかかえていた)が問題だった。そこで、RBGは大学で働くようにした。
RBGの母は娘にレディーになることを求めた。それは、エネルギーを奪うだけで、役に立たない感情には流されない女性のこと。怒りや嫉妬や後悔といった感情は、自分を高めるのではなく、袋小路に追い込むだけ。「レディーになる」とは、怒りにまかせて言い返したりせず、何度か深呼吸してから、理解していない人々を教え導くように応える女性になること。
もし意地悪であったり、無神経な言葉を投げかけられたときには、聞こえないふりをして聞き流したらよい。無視してしまえばよく、決してそれでめげてはいけない。ノーと言われても、あきらめないこと。
そして、怒りにまかせて反応してはいけない。過去を振り返らず、変えようのないことで、あれこれ悩まないこと。他人の声にきちんと耳を傾けることが大切。うむむ、そのとおりなんですよね。とはいっても、実行するのは容易ではありませんが...。心がけてはいます。
RBGは次のように呼びかけています。
信念にもとづいて行動しなさい。ただし、たたかいは選び、のっぴきならない状況には追い込まれないように。リーダーシップをとるのを恐れず、自分が何をしたいかを考えて、それをおやりなさい。そのあとは、仲間を呼んで、心がうきうきするようなことを楽しみなさい。そして、ユーモアのセンスをお忘れなく。これまた、まったく異論ありません。
リベラル派の最高裁判事として大活躍したRBG、最強の87歳を知ることのできる80頁ほどの小冊子です。
(2020年10月刊。1000円+税)

2020年11月17日

世界で最も危険な男


(霧山昴)
著者 メアリー・トランプ 、 出版 小学館

アメリカの大統領選挙には冷や冷やしてしまいました。まさかトランプが再選されることはないだろうと期待しつつ、祈る思いで開票状況を見守っていました。敗北したとはいえ、7000万票をこえる得票、前回より600万票も伸ばしたトランプ支持層の厚さには恐ろしさすら感じました。
この本で、トランプの姪(兄の娘)はトランプはアメリカの大統領になんかになるべき人物ではなかったと断言しています。それはトランプの父との関係にさかのぼる精神分析にもよっています。著者は心的外傷(トラウマ)、精神病理学、発達心理学を大学院で抗議している博士でもあるのです。
トランプにとっては事実よりも話の面白さのほうが大事。つくり話のほうが受けると思うと、真実をあっさり犠牲にする。
2015年6月、トランプが大統領選挙に出馬すると言い出したとき、おそらく本人も本気ではなかっただろう。単に広告費をかけずに自社ブランドの名前を宣伝したかっただけのこと。ところが、支持率が上がり、ロシアのプーチン大統領から全面的協力するという暗然の保証を得たあたりから本気になっていった。
トランプには、5回もの破産記録がある。
トランプがこれまでに自力で何かを成し遂げたことはあっただろうか...。
トランプは親族で会食するたびに、必ず他人をけなし、笑いものにした。
トランプは父との関係で、無謀な誇張癖や不相応な自身を示したが、それは父から認めてもらうために必要なものだった。
トランプの人物像は虚像と誤伝とでっち上げで成り立っている。共和党と白人至上思想の福音派キリスト教徒たちがその虚像を延命させてきた。そして、ポンペオ国務長官などが黙認によって延命に加担している。
トランプは好ましくない状況になったときには、その場しのぎの嘘をつき、問題を先送りにして不明瞭にするのが常套手段だ。
トランプ家において分裂と不和の空気をつくっていたのはトランプの父であり、トランプは常にその空気のなかを泳いで育った。この分裂によってトランプだけが利益を得て、ほかの全員が苦しんだ。
トランプは、常に組織の一部となっていたので、自分の限界を思い知らされることもなく、自力で社会的に成功する必要もなく、守られてきた。まっとうに働く必要もなく、どれだけひどい失敗をしても、挽回してきた。
乳幼児期には、生理的欲求が満たされるだけでなく、求めに応じて自分に注意を向けてくれる人の存在が欠かせない。ところが、トランプが2歳半のとき、母親が病気で倒れてしまい、5人の姉弟たちは母なし子同然になってしまった。父親は、裕福な実業家ではあったが、高機能の社会病質者で、共感力をもたない、平気で嘘をつく、善悪の区別に無関心、他者の人権を意に介さない人間だった。
父親の無関心によって2歳半のトランプは大きな危険にさらされた。安心と愛情が与えられず、深い精神的外傷(トラウマ)を負った。この傷がトランプに一生消えない傷を負わせ、その結果、トランプはうぬぼれ、自己顕示、他者への攻撃性、誇張癖が身についた。
トランプ家の子どもたちにとって、嘘をつくのは当たり前であり、嘘は自衛手段だった。生きのびるためには嘘が必要だった。
トランプの父親は家庭において、冷酷な専制君主だった。そして税金を支払うのが大嫌いで、納税を回避できるのなら、どんな手段もつかった。
父親は、「男はタフでなければいけない」というルールを子どもたちに押しつけた。そのためなら何をしてもいい。嘘をついてかまわない。自分がまちがっていると認めたり、謝ったりするのは弱虫のすること。優しさは、すなわち弱さだ。
幼児期に悲惨な育てられ方をしたせいで、トランプは直観的、そして十分な経験にもとづいて、自分は決してかわいがられることはない、とりわけ慰めを必要とするときであっても決して慰めてもらえない。慰めを求めること自体が無意味なのだと悟った。
トランプは、今も3歳のときと変わらない。成長したり、学んだり、進化することは見込めず、感情をコントロールすることも、反応を抑制することも、情報を取り入れてそれをまとめることもできない。
トランプはただ弱いわけではなく、自我が脆弱なために、常にそれを補強しつづける必要がある。なぜなら、自分は主張しているとおりの人間ではないと心の奥で分かっているから。トランプは愛されたことがないのを自覚している。
トランプの特技は、自分をよく見せること、嘘をつくこと、巧妙にごまかすこと、それがトランプ流の成功に特有の強みと解釈されてきた。
トランプはテレビをみたり、侮蔑的なツイートをするほかは、仕事などほとんどしていない。
トランプは、自分が何も知らないこと、政治も市民の権利や義務も、基本的な人間の良識も知らないという事実を国民の目からそらしつづけるためだけに膨大な労力を費やしている。
今回の大統領選挙の開票過程と敗北をあくまで認めようとしないトランプの言動は、本書で描かれていることをあまりに証明するものでした。怖いほどです。アメリカ国民7000万人を騙した危険な男の本質を知るうえで、欠かせない本だと思います。幼児のころ、愛される実感をもたせることの大切さも痛感しました。
(2020年9月刊。2200円+税)

2020年11月12日

当世出会い事情


(霧山昴)
著者 アジズ・アンサリ 、 出版 亜紀書房

スマホ時代の恋愛社会学というサブタイトルのついた本です。
スマホ時代になって、不倫の立証はかなり容易になってきました。だって、不倫相手とのやりとりが残っている(写しとられる)ことが多いからです。しかも、その会話は性的に露骨ですし、写真のやりとりも多いからです。
セクスティングというコトバを本書で初めて知りましたが、このコトバを知る前にその理由は見聞していました。
セクスティングとは、デジタルメディアを通じて、露骨に性的な画像を共有すること。
なぜ人々はセクスティングをするのか?
パートナーと親密さを共有するため、性的な魅力をアピールするため、パートナーの求めに応じるため、遠距離をこえて愛情を保つため...。
ところが、親密な時を分かちあう贅沢とプライバシーを与えてくれるテクノロジーが、その一方で、悲しいことに、パートナーの信頼を大きく裏切る行為も可能にしてしまう。
世間には、性的に健全で、まともな人間はセクスティングなんかしないと考えている人も多いが、実際には、そうではないという証拠が山ほどある。
大人たちがセクスティングの危険をどう考えようと、若者たちのあいだでは、それがどんどん普通のことになりつつある。
スマホによって浮気も簡単に可能になった。アメリカで恐ろしいほど人気のある出会い系サイトは会員数1100万人だ。3年前に850万人だったのが急増している。ここのモットーは、「人生一度。不倫をしましょう」だ。
SNSが浮気を簡単にできるようにした半面、そのためにはいっそう発覚しやすくもなった。
ちなみにフランスでは、政治的リーダーが少なくとも愛人をもち、そしてしばしば第二の家庭まで築くものだと、国民の多くが理解している。フランソワ・ミッテランが大統領だったとき、愛人と娘がエリゼ宮にしばしばやってきていた。エリゼ宮には正妻と子どもたちがいることを承知のうえで...。そして、ミッテランの葬儀のとき、第一家族の横に第二家族が並んで座った。
うひゃあ、そこまですすんでいるのですか...、知りませんでした。
出会い系サイトにアップする写真についてのコメントもあります。
女性の場合には、カメラに向かって誘いかける感じのほうが成功率が高い。ところが、男性のほうは笑わずに視線をそらしているほうが、ずっと効果をあげる。女性にとってもっとも効果的な撮影アングルは、正面からの自撮りで、ちょっとはにかんだ表情を浮かべ高い角度から撮るのがいい。男性では、動物といっしょの写真がよく、もっとも効果が薄いのは、アウトドア、飲酒、旅行の写真。
世の中、スマホですっかり変わってしまいました。
(2016年9月刊。1900円+税)

2020年9月20日

米国人博士、大阪で主婦になる


(霧山昴)
著者 トレイシー・スレイター 、 出版 亜紀書房

著者には大変失礼ながら、タイトルからは全然期待せずに読みはじめたのですが、意外や意外、とても面白く、ついついひきずりこまれて一気読みしました。
著者はアメリカ北東部のボストンで、きわめて裕福なユダヤ系アメリカ人の両親のもとに生まれ、豪邸で使用人に囲まれて育った白人女性です。英米文学で博士号をとり、左翼傾向のある36歳の独身女性が初めてアジアにやって来て、神戸で企業研修の講師として活動を始めたのでした。
その前、アメリカでは刑務所で受刑者相手に獄中カレッジのプログラムにしたがって文学とジェンダーを教えたり、ホームレスの大人を対象とした文章教室、スラム街のティーンエイジャーの大学進学準備を手伝い、公立大学で移民一世の学生を教えています。
ところが、裕福な両親が離婚したあと、ひたすら自活を目ざして生きてきた著者は次のことをしないことを誓ったのです。
① 宗教にはまる(ユダヤ教に深入りしないということでしょうか...)
② ボストンの住まいを手放す(日本に来てからも、ずっとボストンに家をもっていたようです)
③ 男に依存する(彼氏はいたようですが...)
④ 両親のような伝統的な核家族を形成する(子どもを産まないということでしょうか...)
⑤ 毎日、晩ごはんをつくる(主婦にはならない、食事は外食でいい...)
日本の企業研修の講師料は、3ヶ月だけで刑務所での丸1年分の5倍以上だったので、まっ、いいかと思って日本にやってきたのでした...。
そして、講師生活を始めてまもなく、受講生の一人、日本人男性と恋におちてしまったのです。ええっ、その彼って、そんなに英語が出来たの...。でも、それほど英語が話せたようではありません。それなのに、著者のハートを射落としてしまったのです。目力(めぢから)なのでしょうね。
「男のいない女は、自転車のない魚のようなもの」
これは、ウーマンリブの有名なスローガンだそうです。知りませんでした。聞いたこともありません。魚に自転車が不要なように、女にも男は不要だという意味だそうです。このたとえは、私にはさっぱり分かりません。
二人はついに結婚するわけですが、そこに至るまでには、いろいろな葛藤もあったようです。それはそうでしょう。口数は少なくても意志の強い日本人と、口数が多くて意思も強いユダヤ系アメリカ人のカップルなのですから...。
この本には、ときどき英単語について正しい解説がはさまれています。たとえば、日本人にとってゴージャスとは、豪華や高級というニュアンスで使われていますが、実は、そんな意味はなく、単に「きわめて美しい」ということだそうです。これも知りませんでした。
日本は、欧米と大きく異なり、人と違うことが驚くほどのひずみとなって、「さざなみ」を立てる、きわめて体制順応的な国だとステレオタイプ的に言われている。そして、著者は、これは完全に真実だと確信したのでした。たしかに、ちょっとでも他と違うと、すぐに叩かれるのが日本社会です。
著者は結婚する前、先の誓いの5番目にあるとおり、料理するつもりはないと、きっぱり断言しました。ボストンでは、ただの一度も料理したことはない。なーるほど...。ところが、結婚したあと、夫の父親(母親は死亡)と一緒に自宅で食事をするため、著者も料理しはじめるのでした。まさに、主婦になっていったのです。
そして、この本の最後のフィナーレを飾るのは妊活(にんかつ)です。涙ぐましい努力をして失敗を重ねたあげく、ついに赤ちゃん誕生...。46歳です。おめでとうございました。
著者は、東京でも、アメリカでやっていたような朗読会(フォー・ストーリーズ・トーキョウ)を主宰しているようです。すごいですね。ですから、著者の肩書は主婦ではなく、作家です。
(2016年10月刊。1900円+税)

2020年9月11日

「不戦」 2018春季号


(霧山昴)
著者 不戦兵士・市民の会 、 出版 同

ベテランズ・フォー・ピース(平和を求める元軍人の会)は1985年にアメリカで設立された国際的な平和団体。会員8000人で、オノ・ヨーコやオリバー・ストーン映画監督なども参加している。日本にも支部があり、武井由起子弁護士(東京)が事務局をつとめている。日本の不戦兵士の会は1988年に設立された(今は、「不戦兵士・市民の会」)。
この二つの団体が2017年11月25日に早稲田大学キャンパスで開催した講演会の内容を冊子にしたものです。イラク戦争に従軍したアメリカ兵としての体験、そして戦前・戦中の日本軍の過酷きわまりない話が報告されています。
元アメリカ海兵隊員は、愛国心にあおられて海兵隊に入り、2003年にはイラクの最前線にいた。テロリストと戦ってこいと言われて、その任務で戦地に来たのに、実際に自分がやっていることこそがテロ行為ではないかと疑うに至った。イラクの人々にとって、テロリストとはアメリカ兵である自分自身だった。
アメリカでは6000億ドルがペンタゴン(国防総省)が吸いとっている。そして、それは軍産複合体という、ボーイング社やロッキード・マーチン社に流れている。ところが、300億ドルもあれば、世界中から飢餓を絶滅させることができる。戦争という手段をとらず、むしろ国と国との違いを何とか平和的に架け橋をしていけば、きっと本当の平和が築けるはずだ。
元アメリカ海兵隊員は、このように言ったうえで、日本は、アメリカの植民地になっている、日本の憲法9条は、世界に誇るすばらしい憲法だ、と断言したのです。
元自衛隊員は、海上自衛隊の3等海佐としてアメリカのジブチ基地に派遣された。現地に行ってみると、あれ、自衛隊はおかしいなと考え込んだ。現地の人々は今日も家族と一緒にパンが食べられる、これがハッピーなんだという。日本では、みんなハッピーではない。ジブチにこそ、人間本来の豊かさ、幸せがあることに気がつき、55歳定年の9年前に46歳で自衛隊を退職し、それからは農業を営んでいるとのこと。
PTSDは治療して治るものではない。一生、かかえていくもの。PTSDでアメリカでは元兵隊が1日平均20人も自殺している。戦争で亡くなるより、自らの命を絶つ兵士のほうがずっと多い。ところが、このPTSDとのつきあいを覚えたら、PTG(心的外傷後成長)になる。Gは成長の意味。
PTSDの治療法の一つとして、「コンバット・ペーパー」なるものがある。着ていた軍服をチョキチョキと細かく刻む。そして出来た布屑を水につけて回しながらパルプにし、和紙のように紙をすく。この作業を通じて、精神的な立ち直りを目ざすのです。
軍隊にとって、武器は4つの特徴をもっている。一つは、人殺し以外には役立たない。二つは、使えばなくなる。三つは、武器・砲弾・銃弾は大変高価なものであること。四つは、国家が買いあげしてくれるので、絶対に売りっぱぐれがない。だから、軍需産業は喜び、権力者は戦争の危機を国民にあおりたてるのです。
海兵隊では新兵は3ヶ月半ものあいだブートキャンプ(新兵の訓練)が始まる。ここで徹底した洗脳教育を受ける。上官の命令で、いつでも人を殺せるようになる。上官の命令には絶対的に服従し、言われたことには何の疑いも抱かない。上官の命令によって、いつでも人を殺せるような状態になる。
元アメリカ海兵隊員はイラクからアメリカに帰国してたあと、車の運転ができないようになった。高いビルに狙撃兵が忍びこんでいないか、仕掛けがないか・・・、と心配して見るクセがついている。
旧日本軍には、ほとんどPTSDはいなかった。それほど、旧日本軍兵士は、つくり変えられていた。
自衛隊も、他の国の軍隊も、国民を守るのではなく、国家(権力)を守る組織だ。沖縄戦で、このことは実証されている。
戦争体験は私にはありません。なので、こういう戦場で悲惨な体験をした人々の話を聞き、その可能性を探るのは、自分の貧困な想像力を補うものとして、とても大きな意味があると思います。武井由起子先生、ありがとうございます。力をこめて応援します。
(2018年4月刊。500円)

2020年9月 2日

白人ナショナリズム


(霧山昴)
著者 渡辺 靖 、 出版 中公新書

この本を読んで笑ったのは、白人ナショナリズムの人たちが牛乳を一気飲みして、白人の優位性を示しているという話です。ユーチューブで、白人ナショナリストが牛乳を飲みながら、「牛乳が飲めないのならアメリカを去れ」と叫びます。牛乳が白人ナショナリストのシンボルになった。というのは、黒人やアジア系は牛乳を飲むとお腹をこわすが、白人は牛乳にふくまれる乳糖を消化するラクターゼという酵素をもっているから、大丈夫だというもの。
どうして、こんなことが白人優位の根拠になるというのか、理解に苦しみます(たしかに私は牛乳をたくさん飲むと、通じが良くなります)。ことほどさように、白人優位というのが客観的根拠に乏しいということを意味しています。
アメリカには不法移民が1050万人いる(2017年)。これは外国で生まれたアメリカ移住者4560万人の23%に相当する。最高時(2007年)の1220万人よりは減っているが、そのまえの1990年の350万人の3倍だ。メキシコ出身者が半分近い(47%)。
KKK(クー・クラッフス・クラン)は、最盛時の1920年半ばに300万~500万人の会員がいた。KKKは黒人排斥の前に、カトリック・ユダヤ人そして黒人をターゲットとしていた。
いやあ、これは意外でしたね...。
アメリカのトランプ大統領も白人ナショナリズムに同調した発言を繰り返す。
「移民はアメリカにいられることに、ひたすら感謝し、おとなしく服従すべきだ」、「そんなに嫌なら、アメリカから出て行け」というのは、自らを社会の所有者のようにとらえ、新参者を排除しようとする土着主義(ネイティビズム)の典型だ。
白人ナショナリストには高学歴の人が少なくない。リベラル派から白人ナショナリストに転向した人も珍しくはない。反グローバリズムという点ではリベラル左派とナショナリストは合致する。ただし、ほとんどのリバタリアンには、白人ナショナリストのような集合主義とは明確な一線を画している。
白人ナショナリストは、遺伝学に強くこだわると同時に、反ユダヤ主義も根強い。アメリカを第一次世界大戦に駆り立てたのはユダヤ人だ。リンカーン暗殺もユダヤ人の仕業だ。そんな具合だ。
トランプ大統領の世界的評価はとても低いと私は考えていますが、アメリカ国内ではプアー・ホワイト(貧乏な白人たち)の支持は意外にも著しい低下傾向にはないようです。
インチキを重ねて超大金持ちになったトランプが生活に苦しんでいるプアー・ホワイトの味方であるはずもないと思うのですが、まだまだその醜悪な実像がアメリカ国内で広く知られていないようなのが、とても残念です。
(2020年5月刊。800円+税)

2020年8月26日

ベストセラーで読み解く現代アメリカ


(霧山昴)
著者 渡辺 由佳里 、 出版 亜紀書房

アメリカでベストセラーになっている本を紹介し、解説している本です。とても勉強になりました。なるほど、アメリカではこんな本が今売れているのか、その理由はこういうことなのか...、よくよく理解できました。
著者は日本でアメリカ人と知りあってアメリカに渡った日本人です。私と同じ活字中毒症だそうですが、私と違うのは、もちろん私は日本語の本ばかりですが、著者は英語の本が中心ということです。
アメリカのベストセラーを紹介しても、広告料でお金が入ってくるシステムはとっていないそうですから、このコーナーの私とまったく同じです。といっても、実は、私だって糸井重里や松岡正剛のように好きな本を読んで、その本の書評を書いていたら、お金がガッポガッポ入ってくることを夢見て久しいのですが...。残念なことに、どこからもそんな座敷にお呼びがかかりません。いったい、この書評って、毎日、何人くらい読んでいるのでしょうかね...。
 著者は、2009年から、「これを読まずして年は越せないで賞」というものを始めたとのこと。最近よんだアメリカのベストセラー本、『ザリガニの鳴くところ』も紹介されているかと思ったのですが、残念ながら本書で紹介されている65冊のなかには入っていませんでした。
 アメリカのトランプ大統領は知性がまったく感じられませんが、群集心理を察知する点では天賦の才をもっている。小学校レベルの単純なコトバだけを使ってオバマをはじめとする「敵」をけなしてきた。トランプは「繁栄に取り残された白人労働者の不満と怒り」そして「政治家への不信感」をかぎつけ、それに乗った。
日本の安倍首相と、その取り巻きの官僚たちも知性のなさでは際立っています。といっても、官僚のほうは、灘高・東大そして経産省という超エリート官僚たちではあるのですが、その「バカ」さ加減にはつける薬もありません。そして、マスコミは、いつだって「安倍首相を追い詰め切れない野党の不甲斐なさ」を強調して、安倍政権を裏から下支えするばかりです。「首相官邸記者クラブ」って、出世の野心ばかりの「無能」記者の吹きだまりなのかと苦々しく思うしかありません。
トランプ支持者の集まりに行くと、みな楽しそうだというのに驚きます。努力はしないが、馬鹿にはされたくない。そんな歪んだプライドを、無教養と貧困とともに親から受け継ぐ。彼らにとってトランプは、自分たちに分かる言葉でアメリカの問題を説明してくれた人物なので、目を輝かせ、ウキウキした口調でトランプを語る。この本で紹介された『ヒルビリー・エレジー』(光文社)は、今のアメリカで、どんな人がトランプ大統領を支持しているのかを具体的に明らかにしてくれる本です。このコーナーでも既に紹介しています。
アメリカの政治をコーク兄弟のダークマネーが動かしているという本が紹介されています。コーク兄弟って、日本ではほとんど知られていませんが、石油成金でコーク財団をつくって、ヘリテージ財団などの保守系シンクタンクを支援し、ティーパーティーなどを動かしてきた。日本でも、日本会議を動かし、支えている超金持ち集団がきっといるんでしょうね。
トランプ大統領の言動は、自己愛性パーソナリティ障害、精神病質が混ざりあったときの悪性の自己愛だと診断されています。
深刻なソシオパス(社会病質者)の多くは、社会から脱落するが、チャーミングで思いやりのあるフリができるソシオパスも存在する。そんな人は人間の操縦にたけているので、成功していることが多い。まさしくトランプにぴったりの診断です。
では、わが安倍首相はどうなんでしょうか...。コロナ禍でほとんどの国民が大変な「国難」にあっているのに、国民の前にはほとんど姿を見せず、自宅にこもって愛犬とたわむれているのが実態。それなのに右翼雑誌は「不眠不休でがんばる我が安倍首相」というタイコ持ちの記事を堂々と書きつのっています。
マティス元国防長官は、トランプ大統領は小学5年生レベルで振る舞うし、その程度の理解力しかないと言う。トランプは病的な嘘つきで、証拠は前にあっても平然と嘘をつく。
われらが安倍首相夫妻とあまり変わらないレベルだということですね、これって...。
トランプ大統領にとって、日本と安倍首相は、話題にする必要もないほど軽い存在でしかない。
そりゃあ、そうでしょうよ。だって、アベはゲタの雪なんですから。いつだって、どんなときだって、アメリカにさからうことなく、自分と取り巻きの利益しか考えていないのですから...。
ブッシュ元大統領は、オバマ大統領を一度も公の場で批判したことがない。ところが、トランプについては同じ共和党なのに、公の場で批判した。
私はヒラリー・クリントンの本もミシェル・オバマの本も読みましたが、この本で紹介されているとおり、ミシェル・オバマの本のほうが、200万部も売れるほど面白いと思いました。
ミシェルは、奴隷を先祖にもつ黒人であり、シカゴのウェストサイド地区で育ち、ついにはプリンストン大学そしてハーバードロースクールで学んだあと、シカゴのローファームでオバマに出会ったのでした。
アメリカで黒人の親は、わが子に、「おもちゃでも銃を持ってはいけない。フード付きのジャケットは着てはならない。警官にどんなに侮辱されても、言い返してはいけない」と教えなければいけない。これを守らないと、射殺されてしまう危険がある。
アメリカは、黒人をモノとして保有し、使い取引することで富と力を得た図だ。その歴史は、今なお、白人と黒人とのあいだに深い溝をつくっている。
アメリカをす知るために欠かせない本がたくさん紹介されていて、勉強になりました。
(2020年3月刊。1800円+税)

2020年8月20日

アメリカを蝕むオピオイド危機


(霧山昴)
著者 ベス・メイシー 、 出版 光文社

日本でも、ひところほどではないように実感するのですが、覚せい剤使用事件をときどき弁護します。先日は久しぶりに大麻事件を扱いましたし、覚せい剤に似た新種の薬物事件も扱ったことがあります。
ところで、アメリカの薬物汚染は日本よりはるかに深刻な状況にあるようです。
最近、復活を遂げたタイガー・ウッズもオピオイド中毒をなんとか脱出した奇跡的な存在だということも、本書を読んで知りました。
アメリカ全土に広がったオピオイド禍は、今や過剰摂取により年に5万人もの生命を奪い、400万人もの依存症患者をつくり出している。
薬物の過剰摂取は、過去15年間に30万人のアメリカ人の命を奪い、次の5年間にさらに30万人以上が死亡すると予測されている。今や薬物の過剰摂取による死者は、銃や交通事故の犠牲者を上回っていて、50歳未満のアメリカ人の死因のトップになっている。そして、その増加のペースは、HIVの最盛期を上回る。
今日のアメリカでは、中流や上流階級に麻薬が蔓延しており、これこそが切迫した絶望的な問題となっている。
アメリカ人が全般的に早死になっているのではなく、アメリカ人の白人だけが明らかに若くして死んでいる。
アメリカでは医薬品の広告費は、1995年に400億円ほどだったのが、3年後の1998年には1430億円へと急増した。
2000年、製薬業界は、医師への直接業だけで4444億円をつかった。ゴルフ接待、無料ランチなどなど...。パデューという製薬会社はオーナーのサクラー一族に支配されていた。このパデューは、オキシコンチンの販売で3080億円の利益を得ていた。2006年の1年だけで654億円も稼いだ。その結果、サクラー一族は、1兆5400億円もの資産を有し、メロン家やロックフェラー家のような名門一族を上回った。そして、サクラー一族は、博物館や大学に次々に多額の寄付をしていった。
オピオイド関連の犯罪を撲滅するため、アメリカ全体で8360億円もの大金をつぎ込んでいる(2013年)。
ケータイの普及によって、屋外での取引市場はなくなり、ガソリンスタンドやショッピングモールなどの駐車場など、人目のつかないところでの麻薬の売買・受け渡しが可能になっている。私もパチンコ店の店先の路上での取引を「目撃」したことがあります。
アメリカには薬物裁判所なるものがあるそうです。薬物常習性や再発を防止するための治療システムの一部です。被疑者が1年から1年半の再生プログラムに参加し、完了したら、起訴を取り下げるのです。再犯の可能性は半分から3分の1に下がっているとのこと。日本でも必要なシステムと思います。でも、そのためには人的体制が不可欠ですので、司法予算の拡充が前提として必要になります。
アメリカの黒人男性の3人に1人が刑務所に収監されている。出所しても黒人は二級市民の烙印を押され、まともな職につけないため、再犯の可能性は高い。薬物事犯の4分の3は黒人とヒスパニック系が占めている。受刑者の半分を占める薬物事犯者の再犯率は75%にも達している。
製薬会社(パデュー・ファーマ社やジョンソン・エンド・ジョンソン社)は、あまりにも巨大なもうけをあげている(売上額は年に9兆円近い)ため、巨額のはずの賠償額629億円さえ、かすんで見える始末だ。
もうけるためには何をしてもいいかのように行動している製薬会社は、ユダヤ人を大量殺害したナチスと同じ発想で行動しているとしか思われないのですが、それがユダヤ系のサクラー一族だというのですから、世の中は魔訶不思議です。
(2020年2月刊。2200円+税)

2020年8月19日

アメリカ白人が少数派になる日


(霧山昴)
著者 矢部 武 、 出版 かもがわ出版

今から25年後の2045年、アメリカは白人が半分以下の49.7%、有色人種が半分をこえて50.3%になる。このとき、ヒスパニックは24.6%、黒人13.1%、アジア系7.9%そして多人種3.8%。というのも、白人は高齢化がすすみ、2025年以降は自然減少によって減り続ける。これに対してヒスパニックとアジア系は86%の増加率を示し、黒人系は34%。
白人優位を守るため、1882年に中国人排斤法、1913年に外国人土地法、1952年に移民国籍法(アジア人への移民制限)が制定された。
アメリカの白人には、アメリカは白人がつくった国だというホンネがある。そして、白人の特権を失うことへの不安と恐怖がある。白人の特権とは...。
① 車を運転しているとき警察官に呼びとめられたり、納税申告で税務署から呼び出されても、白人だからということはないと確信できる。黒人は黒人だから呼びとめられることがあるが、白人はそれがない。
② 公共の施設の利用を拒否されることがない。黒人だと、実際には空きがあっても「満 室だ」と言って断られる。
③ 小切手やクレジットカードを使ったり、現金払いするとき、何の不都合もない。黒人だと、カードが念入りにチェックされる。
④ 店でショッピングしているとき、警備員に万引きしないか付け回されたりすることはない。
⑤ お金さえあれば、好きなところに家を買ったり、アパートを借りることができる。黒人や アジア系は、白人密集地域に住もうとすると拒否される。
⑥ メディアでポジティブかつ好意的に報じられることが多い。黒人はネガティブに報じられることが多い。
⑦ 白人は国の創始者としてその功績が紹介される。学校の教科書も白人の視点で書 かれている。
⑧ アファーマティブ・アクションがあるため、個人の能力ではなく、人種のおかげで採用されたという陰口を言われることがない。
以上のように、アメリカでは白人に有利な社会システムができているため、白人は有色人種ほど努力しなくても、ある程度の成功をおさめることができる。
なーるほど、これはたしかに「白人の特権」と言えるものですよね。
トランプが前回の大統領選挙で勝ったのは、有色人種の人口増加によって白人が少数派になる現実を認識した白人層の不安があり、トランプがそれをうまく利用したので、トランプを支持することにつながった。
なるほど、なるほど、そうだったんですか。それでトランプが今でも白人優位をあからさまに唱えて、自分への支持をつなぎとめようとしているのですね。
あんなひどい嘘をまきちらしても、トランプの支持率が33%を下がらないのは、それだけ熱烈なトランプ支持者が多いことを意味している。そして、人種差別は巧妙化している。また、メディア業界は、白人男性がほとんど牛耳っている。
トランプのアメリカを現状分析した本です。一読に値します。
(2020年5月刊。1800円+税)

2020年8月 4日

シークレット・ウォーズ(下)


(霧山昴)
著者 スティーヴ・コール 、 出版 白水社

2001年の9.11同時多発テロ事件のあと、アメリカは「テロとの戦い」を宣言して、アフガニスタンへの攻撃を開始した。タリバンとアル・カイーダはたちまち敗走し、カルザイが大統領になった。しかし、20年たった今も、アフガニスタンは安定とはほど遠い状況にある。
オサマ・ビン・ラディンもその後継者たちも、アメリカは殺害には成功したものの、アル・カイーダは世界中に拡散し、タリバンも復活して南部などで大きな存在感を示している。
なぜ、そうなのか、本書はアメリカの軍事戦略、CIAの暗躍などに焦点をあてて解明していきます。ただし、日本とアフガニスタンとの関わりはまったく欠落しています。ペシャワール会の中村哲医師の取り組みなど、一言も触れられていません。すべては軍事と謀略の観点から物事をみようとしています。そこに「ワシントン・ポスト」支局長というアメリカのジャーナリストの限界があると思いました。それでも、アフガニスタンに派遣されたアメリカ兵の手記と、その悲惨な実情は恐るべきものです。
カンダハルに兵士を送り込むのは、1920年代のシカゴに兵士を送り込むようなものだ。当時のシカゴ市政はアル・カポネに支配されていた。
アメリカ軍の小隊の存亡は、もっとも経験豊富な軍曹にかかっていた。第320野戦砲兵連隊第一大隊の第1小隊は当初19人の兵士がいたが、3度にわたる哨戒活動に従事したあとには6人しか残っていなかった。別の中隊は、戦死、四肢切断、脳震盪(のうしんとう)、その他の負傷により人員の80%を補充しなければならなかった。
2010年の夏、第二旅団戦闘団に対して、ブービー・トラップ型や圧力反応型の爆弾攻撃の頻度は、平均2日に1回で、65人の兵士が命を落とし、477人の兵士が負傷した。
アメリカ軍だけでなく、フランス、オーストラリア、イギリス軍の兵士が、ともに任務に取り組んでいるはずのアフガン国軍の兵士や警察官によって殺害される事件が相次いで発生した。
はじめから侵入目的で、入隊したアフガン国軍兵士(殺害事件をおこした兵士)は、5人のうち1人だけで、残りは入隊したあとでタリバンに加わっている。すなわち、外部から潜入したのではなく、途中で立場を変えたのだ。
「グリーン・オン・ブルー」という言葉がある。グリーンはアフガン国軍を、ブルーはアメリカ軍やISAFを意味する。アメリカ軍やヨーロッパの兵士は友軍であるはずのアフガン国軍兵士に殺害される事案のことで、2010年ころ急増した。
アフガン国軍の兵士は、アメリカ軍やISAF軍兵士に対して怒っていた、傍若無人な態度、襲撃を受けたときの容赦ない反撃、あまりに多くの民間人殺害、アフガン人女性を尊重していないこと...。アメリカ兵は多くの一般人を殺す。そして謝罪する。しかし、また同じことをする。我慢できるわけがない...。
2011年5月1日、アメリカはパキスタン領内で、パキスタンの了解を得ることなくオサマ・ビン・ラディンの自宅を急襲し、ビン・ラディン本人と息子などを殺害し、遺体を持ち去った。しかし、その後もアル・カイーダもタリバンもしぶとく生きのびて今日に至っている。
アメリカ軍のオサマ・ビン・ラディン殺害は明らかに国際法にも反する違法な殺人事件です。それを陣頭指揮したオバマ大統領の法的責任は明らかだと思います。
無人機による後継者の暗殺にしても、世間受けするだけで、何らの解決にもなっていないこともまた明らかではないでしょうか...。
オバマ大統領は、アフガン国軍を養成して、治安維持をまかせてアメリカ軍は撤退するという方針だったようです。でも、アフガン国軍の養成は形ばかりで、うまくいっていません。
やはり、根本的な発想の転換が必要なのだと思います。つまり、中村哲医師のような、武器に頼らず、現地の人との対話で少しずつ社会生活を地道に再建していく努力です。軍事力一辺倒では、かえって現地に混迷をもたらすだけだということを本書を読んで改めて痛感しました。
下巻だけでも480頁もある長編力作です。ぜひ図書館で借りて、お読みください。
(2019年12月刊。3800円+税)

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