弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2022年5月10日

「トランプ信者」潜入1年


(霧山昴)
著者 横田 増生 、 出版 小学館

4年間のトランプ現象。分断を煽(あお)り、混沌をつくり出した。これが2021年1月6日、ワシントンDCの連邦議会議事堂を「トランプ信者」たちが暴徒と化して占拠するという前代未聞の暴挙をもたらした。
トランプは、あらゆる場面で、自分の味方と敵に分け、味方を絶賛し、敵をこきおろした。
トランプに敵対する議論をはるメディアを「フェイクニュース」として罵倒し続けた。事実かどうかは関係なく、自分の盾突くメディアは、何であれ、フェイクニュースと呼んだ。支援者を集めた集会では、必ずメディア席を指さし、「あそこにフェイクニュースの奴らがいるぞ」とけしかけ、聴衆は一斉にメディア席にブーイングを浴びせた。
トランプは、トランプが語ることなら、何でも信じたいという鉄板支持層を開拓することに成功した。その中心は白人層。近い将来、人口比で少数派に転落するだろう、それを不安視する白人層だ。
トランプは、大統領の4年間、分断と混沌がつくり出した対立軸という細いロープの上を歩く曲芸師のように、絶妙なバランスをとりながら政権運営してきた、稀有(けう)な政治家だとも言える。連邦議会議事堂を暴力的に占拠した事件は、現職のアメリカ大統領が企てたクーデターだ。トランプは、アメリカ史上もっとも嫌われた大統領だ。
ロシアの侵略戦争が始まったころのゼレンスキー大統領の支持率は30%前後の低さだった。ところが、ロシアによる侵略戦争が始まると、8割以上の支持率にはねあがった。
トランプ大統領の支持率は平均41%、最低は34%。50%を超えたことがない。
ブッシュ(子)政権は90%、クリントン政権73%、オバマ政権69%。これに比べると、トランプがいかに人気がなかったか、明々白々。そして、トランプの不支持率のほうは、47%が最低で、60%に達したことが5回もある。
トランプの演説は、原稿を読まず、プロプターを見ることもない。数字や固有詞を間違えずに、よどみなく話す。その緩急をつけた話術は、聴衆の心をつかみ、飽きさせることがない。
トランプの演説は、大衆の感情を煽り立て、不安につけこみ、怒りに火をつける扇動者を連想させる。聴衆はトランプの手のひらの上で転がされ、歓喜し、叫び、怒りながら、大満足して帰っていく。
アメリカ社会では、一般に、社会主義というのは、マイナスの意味あいが含まれている。
社会主義体制では、人々の個々の能力や努力は評価されない。均等に富が分配されるので、競争原理が働かず、社会全体が停滞してしまう。アメリカ人の多くが、まだまだ「アメリカン・ドリーム」の幻想から脱け出せていないようです。残念です。
アメリカの二大政党のうちの共和党は白人中心の党だ。トランプと、その政治手法を考えるうえ、ウソと切り離して話をすすめるのは不可能だ。トランプとウソは、密接にからみあっている。トランプのウソは次元が違う。その回数と頻度、また自分の再選に有利だと考えたら、たとえウソだと指摘されても、何度でも同じウソを繰り返す。
アメリカでは、居住区分を三つに分ける。一つは、裕福な白人が多く住む郊外。その二は、黒人などが住む都市部の低所得者地域。その三は、白人を中心として、農業・酪農従事者などが住む、カントリー・サイド(田舎)。
トランプは、オバマに対しては激しい怒りと憎悪を示す。オバマケアをまっ先に廃止しようとした。しかし、オバマケアに代わる政策なんてないものだから、司会者から、代わる政策は何かと訊かれたとき、壇上で立ち往生した。
トランプが何より恐れたのは、新型コロナのせいで、自分の再選が危機に直面すること。つまり、アメリカ国民の生命と健康なんて、トランプにとっては、どうでもいいのです。自分に幻想を抱いて、とっとと死んでしまえというのです。
トランプは科学を軽視し、役職者を任命する基準は役職にふさわしい実績があるかどうかではなく、トランプへの忠誠心があるのかどうか...。
トランプ自身も郵便投票を2回も実行しているのに、郵便投票だからこそ多くのインチキ投票があるというのは根本的に間違っている。
トランプのツイッターには8800万人ものフォロワーがいた。
今の共和党は、トランプ党になったし、なっている。トランプが大統領を退いてから設立した。
著者はフリーランスの記者として、「トランプ信者」のように装ってトランプの選挙運動にボランティアとして加わって取材していたのでした。いやあ、日本でもそこまでやるのでしょうか...。フリーランス記者は、まったくあなどれませんね。
(2022年3月刊。税込2200円)

2022年3月30日

ネイビーシールズ


(霧山昴)
著者 ウィリアム・H・マクレイヴン 、 出版 早川書房

アメリカ海軍大将をつとめ、ネイビーシールズというエリート特殊部隊のトップとして指揮をとっていた軍人の回顧録です。なにより2011年のビン・ラディン殺害作戦をオバマ大統領じきじきの指示を受けて総括していた話は自慢話であっても、寒気を覚えます。
オサマ・ビン・ラディン(本書ではウサーマ・ビン・ラーディンとなっています)の所在を突きとめたのはCIA。伝書使の追跡、監視、テクノロジーによる情報収集でパキスタンのアボッタバンドにある高い塀に囲まれた屋敷を突きとめた。この作戦は映画になっていて、私も見ていますので、だいたい想像つきます。
裾の長い寛衣を着た長身(193センチもあります)の男が敷地内を歩きまわっていることまで分かったのです。しかも、この男は塀の外にはぜったいに出ない。
通常、屋敷強襲には50人から70人が必要。屋敷を孤立させ、重要な阻止地点に小部隊を配置し、強襲部隊が塀を破り、重要目標を仕留める。医療チーム、科学捜査、戦果拡張(確認?)チーム、DNA鑑定チームなども必要。これも、どうやってターゲットにたどり着くかによる。
CIAは実物大模型をつくりあげ、そこで予行演習した。そして、CIAの特殊活動部門ではやりきれないことからネイビーシールズが作戦を担当することになった。
オバマ大統領の直轄でヘリによる強襲作戦が選択されたのです。弁護士出身の大統領が、国際法を完全無視することに何のためらいもなかったことに鳥肌が立つほどの寒気を覚えます。9.11の報復として、他国の人間を裁判によらず殺害(暗殺)してよいという指示を世界一の民主主義国家を標榜している大統領が指示して暗殺が実行されたのです。
著者は、実行部隊のシールズのメンバーに、こんな言葉で督励した。
「諸君、9.11後、きみたちはビン・ラディンを仕留める任務につくのを夢見ていたはずだ。さあ、これがその任務、そしてきみたちがやる。ビン・ラディンを仕留めにいこう」
そして暗殺成功を確認したあと、オバマ大統領はテレビで次のように演説した。
「こんばんは。今夜、私はアメリカ国民と世界に、アルカイダの指導者で何万人も罪のない男女や子どもを殺したテロリストであるウサーマ・ビン・ラディンを殺害する作戦をアメリカ合衆国が実行したことをお知らせします」
裁判にかけることもなく、パキスタン政府の了解を得ることもなく、勝手に他国の領土に武装部隊を送って問答無用式に殺人犯を殺害したというのを、「正義が果たされた」と手放しで評価してよいものでしょうか...。
著者はイラクのサダム・フセイン元大統領の身柄を隠れていた場所で確保したときの責任者でもありました。
イラクでは、ビーコン・ボーイというターゲットへ導いてくれる可能性のある貴重な情報源が活用されていた。2003年12月14日、フセイン逮捕が全世界のニュースに流された。
それにしても、イラクには核兵器も大量破壊兵器も何もなかったのです。それなのに戦争を始めた責任を誰もとっていません。日本政府は今も、そのことについて反省の弁すら述べていません。これでも「正義は果たされた」と言えるものでしょうか。
ネイビーショールズになるのが、いかに大変なことか、この本を読むとよく分かります。でも、世の中は武力という暴力だけで動いているわけではありません。もちろんお金の力も大きいのですが、もう一つ大切なのは、人々の心ではないかと考えています。
一人ひとりの心のもちようは見えないし、小さくて無視できるようなものだけど、それが何千、何万、何十万とあつまると形になり、巨大な流れをつくりあげると思うのです。どうでしょうか...。
(2021年10月刊。税込3410円)

2022年1月21日

灼熱


(霧山昴)
著者 葉真中 顕 、 出版 新潮社

日本敗戦後のブラジルで、日本が敗北したことを認めない日本人のグループが敗北したことを認めた日本人グループのリーダーを何人も殺害した事件が起きました。その状況をリアルに再現した小説です。
この本を読んだ3日後、1月8日の西日本新聞の夕刊トップがこの記事でした。「負け組」のリーダーを殺害した「勝ち組」の実行犯で唯一の生存者(95歳)に取材したのです。
「負け組」のリーダーだった脇山元陸軍大佐宅に押しかけ、自決勧告書と短刀を渡して切腹を迫り、拒否されるとピストルで殺害したのでした。この生存者は10年間、監獄島に服役していたとのこと。
1年近くのあいだに23人が死亡し、86人が負傷したと書かれています。「勝ち組」のなかには戦勝デマをネタにした詐欺事件もあったようです。この事件は現場でいうフェイクニュースによる分断がブラジルにおける日本人(日系人)社会が起きていたことを示すものと解説されています。アメリカの大統領選挙でトランプ候補が敗北したことを今なお信用しようとしないアメリカ人が少なくないことと同じですね。
ブラジルに移民として渡った日本人は、日本で食いつめていて、ブラジルに渡れば腹いっぱいごはんが食べられ、裕福になったら日本に帰国できると信じていたようです。もちろん、現実は甘いものではありませんでした。それでも必死で働いて、なんとか生活できるようになったのです。
そして、日米開戦。日本軍は勝ち続けていきます。それは、ミッドウェー海戦でも、日本軍が大勝利をおさめたというニュースとして流されました。
日本軍は「引き込み作戦」をしている。あえて、日本軍の陣地まで敵をひき込んで一網打尽にする作戦をしている。こんな解説がまことしやかに流されていたのです。
そして、ハッカ生産している日本人に対して、ハッカはブラジルからアメリカに輸出されるものだから、それは敵性産業だ。祖国日本に仇なす行為だ。国賊だ。こんなビラが貼られ、ついにはハッカの生産工場が焼きうちにあい、他へ転出していくのです。
さらには、アメリカが高性能の新型爆弾で日本を焼き尽くそうとしているが、日本軍は、その新型爆弾をさらに上回る強力な高周波爆弾を開発した。だから日本が負けるはずはない。
あくまでも日本軍が勝つと言いはる組織が結成され、ほかの情報が耳に入らない純真な青年たちが、日本の敗北を前提として行動している人たちを目の敵にしはじめます。
ここで、デマで金もうけを企む人たちもいて、日本人社会は哀れなほど右往左往させられるのです。まことに真実を知るというのがいかに難しいか、当時の状況を少し想像すれば理解できます。
現地での取材もして、たくさんの資料にもとづいていますので、小説とは言いながら、かなり史実に基づいているのではないかと感じながら読みすすめました。
フェイクニュースは善良な市民を殺人者に仕立てあげるのですね。本当に怖い話です。現代日本でも起きそうで、心配になります。
(2021年9月刊。税込2860円)

2021年12月28日

コード・ガールズ


(霧山昴)
著者 ライザ・マンディ 、 出版 みすず書房

日本がアメリカに宣戦布告して始めた太平洋戦争で、日本が勝てたはずがないことは、この本を読めば一目瞭然です。だって、アメリカは、1万人以上の女性を暗号解読作業に従事させていて、日本が絶対解読されるはずがないと慢心・過信していた暗号を見事に解読していたのですから...。
だから、真珠湾攻撃には役に立たなかったけれど、ミッドウェー海戦のときには、日本海軍の手の内を全部知っていましたし、山本五十六長官の行動スケジュールの詳細をつかんでいたので容易に撃墜できたのです。そして、日本軍の船舶輸送についても全部つかんでいました。アメリカが苦労したのは、暗号を解読していることを日本軍に知られないようにすることだったのです。
そして、駐ドイツ大使の大島浩が親ナチスでヒットラーとも親密な関係にあって、ドイツ軍の配置状況を詳細に東京へ報告していたのまで、その全部をアメリカは把握していたのです。これが連合軍のノルマンディー上陸作戦のとき大いに生かされました。親ナチスの大島浩は、客観的には連合軍のスパイのような役割を果たしていたのでした。まさしく歴史の皮肉です。
暗号解読にはインスピレーションのひらめきがなければいけない。しかし、同時にファイルを几帳面に整理整頓していなければ解読できない。
暗号解説には優れた記憶力をもつ大勢の人間が必要だ。
アメリカ陸軍の1万500人の暗号解読集団の70%が女性だった。海軍では80%。アメリカ人の暗号解読者2万人のうち1万1000人が女性だった。しかも、大学卒の優秀な若い女性たちです。全米からワシントンに集められ、秘密の施設で解読作業にあたりました。
暗号解読には、読み書きの能力と計算能力、注意力、想像力、労を惜しまない細やかな気配り、優れた記憶力、くじけずに推量を重ねる力が求められた。単調な骨の折れる作業に耐える力と、尽きることのないエネルギーと楽観的な心構えが必要だった。
暗号解読の成功は、診断力があるかどうかで決まる場合が多い。診断力とは、部分だけでなく、全体を見る能力、通信を偽装するために敵が考案したシステムの根本を見抜く能力のこと。
暗号解読者にかかる重圧、ストレスは大変なものがあり、神経衰弱になって、立ち直れない人も少なくなかった。
日本の暗号製造機でもあるパープル機は、連合国にもっともすぐれた情報をもたらしてくれた。日本人は自国の暗号システムの安全性に無邪気なほどに自信をもち、ひんぱんに通信文をやりとりしていたため、連合国に多くの貴重な情報を与えた。3年間に1万通以上の情報が連合国に与えられた。そして、真珠湾攻撃を予測できなかったのは、日本の外交官が、それを知らされていなかったから。
ナチス・ドイツのエニグマ(暗号機)は、ポーランドの暗号解析チームが解読した。そして、イギリスでは2000人の女性職人が解読機「ボンブ」を操作した。
アメリカは、日本軍の暗号を解読したことによって、日本陸軍部隊の兵力、装備、種類、位置、配備をつかんだ。敵の日本軍がどこに宿営していて、どこに向かっているか、アメリカは正確に知っていた。
そして、暗号が解読されたせいで貨物船が撃沈されたと日本が察しないようにアメリカは計略をめぐらした。日本が送信してきたもので、アメリカ軍が読めないものはひとつもなかった。これでは日本軍がアメリカに負けるのは当然のことですよね。物量以前に、情報戦での日本軍はアメリカに負けていたのです。それにしても日本の過信は今も続いていますよね。今でも日本民族は世界に冠たる優秀な民族だなんて吹聴する人がいるのですから、恥ずかしい限りです。そんな人は、この本をぜひ読むべきだと思いました。
(2021年7月刊。税込3960円)

2021年12月17日

アウトロー・オーシャン(上)


(霧山昴)
著者 イアン・アービナ 、 出版 白水社

タイの遠洋漁業の漁船の乗組員は、まさしく奴隷。ひんぱんに暴行され、ときには殺害されてしまう。この本は、こんな記述から始まります。驚きました。洋上でのんびり釣りをしている光景とはほど遠い悲惨な状況があるのです。
違法操業船「サンダー」の乗組員40人の大半はインドネシア人。幹部船員はスペイン人が多く、船長はチリ人。スペインの犯罪組織は、魚の密漁にも手を染めている。
水産物の違法取引は年間取引額が1600億ドルと推定され、今やビジネスとしてグローバル化している。それにはテクノロジーの向上が背景にある。高性能のレーダー、漁網の大型化、漁船の高速化により、水産資源を驚くほど効率的に略奪できるようになった。
1970年代初頭にグリーンピースが結成され、海の環境保護活動を始めた。そして、そのなかからシーシェパードという過激で攻撃的な組織が生まれた。
公海を定期的に巡礼して違法行為を取り締まる組織は、グリーンピースとシーシェパード以外にはいない。彼らは、目的は手段を正当化すると考えている。
シーシェパードは、5隻の大型船と数艘の高速硬式ゴムボート、ドローン2機、24ヶ国から集まった最大120人の即時対応可能な乗組員をかかえている。その活動資金は著名人たちの寄付に頼っている。年間予算は400万ドル。
シーシェパードは、世界中の海洋生物を守るためなら、法律のあやなど気にせず、「直接行動」する。日本の捕鯨船などへの体当たり攻撃も繰り返している。
シーシェパードの船上生活は厳格に管理されている。午前7時にミーティング、そのあと、各自が割り当てられた雑用(トイレ掃除など)をこなす。水の節約のため、シャワーは1日3分以内。すべてのメールは、船のメインサーバーを介して行われる。海賊の襲撃を招きかねないからだ。酒とタバコは禁止。トレーニングルームがある。夜には読書会。
乗組員の半数は女性で、ほぼ全員が大卒以上の学歴をもつ20歳から35歳までの若者。洋上での労働時間は、人並み以上。
海洋資源は無尽蔵だという思い込みのもとに、水産物の乱獲がすすんでいる。
海では、法の力は及ばない。海事法では、その船舶が船籍登録している国の法律のみが適用される。海の上では、法律は船舶の乗組員ではなく、その積み荷の保護に重きを置いている。積み荷を重視し、乗組員を軽視する傾向は、会場で共通している。
保険金詐欺も横行している。悪徳運搬会社が船を沖合に出させ、そこで故障して航行不能になったので、自沈させたという「事故」を起こす。もちろん、実際には沈めない。そして得た保険金を運搬会社と整備しで折半する。そして沈めたはずの船は船名を変え、掲げる国旗も変えて、別の船に生まれ変わる。
海の世界では、ギリシアは超大国だ。ギリシアの著名な海運王一族のほぼ半数が、幅7キロの海峡を挟んでトルコと向かいあうヒオス島の出身だ。
フィリピンほど多くの船員を世界の海に送り出している国はない。フィリピンの人口が世界人口に占める割合は1.2%ほどなのに、商用船舶の乗組員でみると25%になる。2016年の時点で、40万人のフィリピン人が幹部船員や甲板員、漁船乗組員、クルーズ船の船員などとして働いている。
世界の海が今どうなっているのか、知らないことだけで、大変勉強になりました。
(2021年7月刊。税込2640円)

2021年12月 1日

カマラ・ハリス


(霧山昴)
著者 カマラ・ハリス 、 出版 光文社

アメリカの副大統領の自伝です。女性初、黒人初、アジア系初という女性です。
アメリカは軍事力に頼ってばかりのマッチョな国という側面も強いのですが、こうやって女性の副大統領が誕生するという面もあわせ持っている不思議な国です。残念ながら、日本では女性首相の誕生はまだまだ先のようです。
カマラ・ハリスは移民の娘として生まれ、カリフォルニア州のオークランドで育った。父親はジャマイカ出身の経済学者、母はインド出身のがん研究者。両親は、カリフォルニア大学バークレー校の大学院生のとき、公民権運動を通じて出会った。やがて離婚し、カマラ・ハリスは母親に育てられた。
カマラ・ハリスは、ロースクールを出て地方検事補になり、サンフランシスコ地方検事に選ばれ、その後、カリフォルニア州司法長官に選出された。さらに上院議員となり、今や副大統領。カマラ・ハリスがカリフォルニア州で上院議員になるのは、黒人女性としては初めて、アメリカでも史上2人目だった。
カマラ・ハリスは、名門の黒人大学として有名なハワード大学に入学した。1年生のときには、学生自治会の1学年代表に立候補し、当選した。
ハワード大学を卒業してオークランドに戻り、UCヘイスティングス・ロースクールに入学。そこでは2年生のとき、黒人法学生協会の会長に選ばれた。
カマラ・ハリスは司法試験には一度、不合格になってショックを受けました。努力家で、完璧主義者なので、ショックは大きかったようです。それでも、二度目に合格し、地方検事局での仕事を続けました。
カマラ・ハリスがロースクールを出て検察官になったのは、刑事司法改革の最前線に立ちたい、弱い人たちを守りたいという思いから。
アメリカには、検察官の権力を不正の手段として悪用してきた、深くて暗い歴史がある。
性暴力の被害者は、すさまじい痛みと苦しみを抱えている。この心的外傷に耐えて、法廷で証言するには、並大抵でない勇気と心の強さが必要だ。
サンフランシスコ検事局は、惨憺たるありさまだった。放置され、捜査がなされず、起訴されていない未処理案件が山ほどあった。職員の士気は地に墜(お)ちていた。
カマラ・ハリスがサンフランシスコ検事局に2年間つとめていたあいだに性的に搾取されている多くの人を救った。家出した多数の少年少女を救い、市内にある35軒の売春宿を検挙した。これはすごいですね。
アメリカという国全体がそうであるように、サンフランシスコは、多様でありながら、人種差別が根強く残っている。「人種のるつぼ」というより、「寄せ集め」といったほうがよい。
カマラ・ハリスは刑事司法改革に取り組んだ。地方検事として2期、州司法長官として2期近くをそのために捧げ、上院議員となって1ヶ月半で刑事司法改革法案を提出した。
アメリカは刑務所の収監人数が世界で一番多い国。2018年、州と連邦刑務所の収監者数は合計で210万人以上。この数より人口が少ない州が15もある。大勢の人たちが麻薬戦争によって、その中に引きずり込まれた。
アメリカの保釈金の中央値は1万ドル。ところが所得が4万5千ドルの世帯の預金残高の中央値は2530ドル。つまり、勾留される10人のうち9人は保釈金を支払う余裕がない。
刑務所の収監者の95%は裁判を待つ人々。出廷までのあいだ刑務所に収容するのに、1日3800万ドルのコストがかかっている。黒人男性の保釈金は、同じ犯罪で捕まった白人男性より35%高い。ラテンアメリカ系の男性だと20%高い。これらは偶然の結果ではない。2001~2010年のあいだに700万人以上が大麻所持だけで逮捕された。そのうち、黒人とラテンアメリカ系の人数が不釣りあいに多い。2018年の初め3ヶ月間にニューヨーク市警が大麻所持で逮捕した人の93%は有色人種だった。黒人男性の麻薬使用者の割合は白人男性と同じだが、逮捕されるのは黒人が白人の2倍。しかも、黒人男性の支払う保釈金は白人より30%高い。黒人男性は白人男性より6倍も収監される可能性が高い。有罪判決を受けたとき、黒人男性の刑期は白人男性より20%も長い。
リーマン・ショックによって、840万人が仕事を失った。2ヶ月以上も住宅ローンの支払いが遅れているマイホーム所有者は500万人。うち250万件の差押が進んだ。そこで、カマラ・ハリスは銀行と果敢にたたかい、銀行から200億ドルもの補償金を勝ちとった。当初の呈示額は20~40億ドルだった。それでも、大勢の人が家を喪った...。いやあ、本人の自慢話とはいえ、よくぞがんばったものです。
アメリカは、全国をカバーする公的医療制度がない。収入の多い少ないで、受けられる医療のレベルが異なるというのがアメリカの医療の実際。なので、もっとも裕福な層の女性と最貧困層の女性とでは、平均寿命に10年もの差がある。アメリカ人が負担している薬代は、とんでもなく高額。なので、医薬品の処方を受けている人の4人に1人は、薬代を捻出するのに苦労している。アメリカの製薬業界は、現在の制度を維持するためのロビー活動に10年間に250億ドルも投下している。
大変な差別と不平等が今もまかり通っているアメリカですが、この本に書かれている方向で、カマラ・ハリスががんばってくれることを心から願います。読んで元気の出る本でした。
(2021年6月刊。税込2200円)

2021年11月16日

アウトロー・オーシャン(下)


(霧山昴)
著者 イアン・アービナ 、 出版 白水社

「ニューヨーク・タイムズ」紙の記者が世界の海を駆けめぐって、海の「無法地帯」を暴いています。それはそれは、すさまじい犯罪のオンパレードです。
下巻でとくに印象深かったのは、豪華クルーズ船にかかわる犯罪です。
クルーズ客船稼業は、もうかるビジネスだ。なにしろ100万人をこえる乗組員が働く450隻以上もの大型客船が世界の海を駆けめぐり、年間で500万人超の客を乗せ、1170億ドルも稼ぎ出している。この産業も違法行為と無縁ではない。
クルーズ客船で起きている犯罪は、まず廃油や廃水の不法投棄。何千人もの乗客を収容する巨大クルーズ客船は小さな町の下水処理場ならキャパオーバーになりそうなほどの生活排水を海に流している。クルーズ客船は汚染物質をたっぷり含んだバンカー重油を燃料としている。この処理にはそれなりの費用がかかるので、生活排水と混ぜてたれ流している。
なにしろ、海は広大で、フツーの人には見えませんからね...・。
そして、乗客や乗組員への性的暴力。また、売春が横行している。クルーズ客船で働く100万人もの人々は、自分たちの職場は、天国と地獄とが共存する世界だと知っている。
次は、漁船における、すさまじい奴隷労働。タイの漁船で船員として働いているのは、不法就労者か、人身売買の結果としての奴隷労働。
タイの巻き網漁船の中の寝室にハンモックがある。床にはネズミがうじゃうじゃいるからだ。
タイの港の近くにあるカラオケバー兼売春宿の写真があります。人買いたちは、こんな店を経営し、国外からの出稼ぎ労働者に眼をつけて漁船で働かせる。売春させられる女たちも、漁船で働かされる男たちも、どちらも借金でしばりつけられる。
大半は人身売買で国外から連れてこられた女たちは、やはり人買いに連れて店にやってきた男たちに性サービスを提供して罠(わな)にかけ、最終的に漁船送りにする道具として使われている。
「海の奴隷」(強制労働)は、海に長期間とどまる漁船ほど、より顕著に見られる。
今のやり方で漁業を続けていれば、水産資源は遠からず枯渇してしまうだろう。海洋科学者たちは口をそろえて訴えている。
減量産業。年間2500万トンもの天然魚を魚油やサプリメントそして家畜用肥料の魚粉に加工している巨大産業。このサプリメントは健康にいいとされているが、実際には、それほどの効果が認められていない。しかし、依然として大人気だ。
海は広大だ。広大なため、違法操業船は、やすやすと政府が設定した漁獲割当量をごまかしたり、操業禁止区海域に侵入したり、海洋保護区の魚介類を略奪できる。
アメリカに輸入される天然魚介類のうち、違法操業でとられたものが20%をこえている。
日本のクジラとり大型漁船とシーシェパードのたたかいも紹介されていて、公海での違法操業は日本人とも密接な関わりのある問題だと痛感させられました。
(2021年7月刊。税込2640円)

2021年11月11日

ハーベン


(霧山昴)
著者 ハーベン・ギルマ 、 出版 明石書店

ハーバード大学ロースクールで初めての盲ろう女子学生だった著者は、今は障がい者問題を扱う弁護士として活躍しています。アフリカはエチオピア内のエリトリア出身です。表紙の著者の横顔からは、とても盲ろう女性とは思えません。大きく目を見開いて正面を見ているからです。
盲ろうとは、見えないし、耳が聴こえないということです。日本には東大の福島智教授がいます。このコーナーでも福島教授をめぐる本を紹介しています。
著者は途中からではなく、生まれつきの盲ろう者ですが、12歳のころまでは、部屋のソファーに誰が座っている輪部がぼんやりとは見えていました。今では、形ははっきりせず、色はまだらのようにしか見えません。聴覚のほうも、高周波の音はよく聞こえていたし、12歳のころまでは両親が隣に座ってはっきりゆっくり話すと声が聞こえていた。
今は、携帯型点字対応コンピューターに接続されたキーボードを使っている。
オバマ大統領とホワイトハウスで面会して、この携帯型点字対応コンピューターを介して会話したことが、写真つきで紹介されています。オバマ大統領は10本の指をつかってパソコンをたたいて著者と対話したようで、その状況の写真があります。
ただ、残念なことに、この特別コンピューターを盲ろう者がどうやって意思疎通できるのか、私には技術的なところが理解できませんでした。誰か教えてください。
盲ろうの著者にとって、通常の補聴器は役に立たない。難聴のタイプは通常のものとは違うから...。ただし、著者自身は、盲ろうの世界しか知らないので、居心地がよくて、なじみのある、この世界を気に入っている。ただ、著者は、その世界から出ていかないといけない。その努力をしないと、世の中とまじわることはできない。
盲導犬マキシーンとの出会い、そして訓練課程を経てマキシーンと一緒に行動するようになるまでは、いろいろありました。マキシーンが室内でオシッコしてしまったりするのです。それをなんとかクリアーするわけですが、盲ろう者なので、本当に大変だったことだろうと思います。そんな世話になったマキシーンもやがて死んで、今は二代目の盲導犬に著者はお世話になっているのでした。
盲導犬と歩くのは、すばらしい気持ちだ。マキシーンは流れにそって歩き、障害物もらくらくと避けてくれる。白杖をつかって障害物と避けるためには、まず白杖でそれを触ってみなければいけない。ハーネスを長いあいだ持っていても、白杖をもって歩くよりも腕は疲れなかった。
公益のために働く弁護士をしている著者の報酬は、一般のハーバード・ロースクール卒業の弁護士に比べると、ずっと低いものの、公益弁護士の収入は、視覚障害のあるアメリカ人の平均収入は上回っている。なにしろ70%の視覚障がい者は無職だから。公益弁護士でも、学生ローンの返済はできるように、ハーバード大学定収入保護制度を利用した。
アメリカには、障害をもつ人は5700万人以上いる。世界全体では13億人。企業が障がい者の存在を前提として、サービスや製品デザインを奇抜なものにすれば巨大な市場が開拓できる。そこで、著者は2016年に起業した。障がい者の権利のコンサルタントや文書作成、パブリックスピーキングなどのサービスを提供する会社だ。なーるほど、すごいですよね...。
著者は巻末に発信してはいけない否定的メッセージを列挙していて、参考になります。たとえば、障害のない人たちは、自分に障害のないことに感謝すべきであると発信すること。これでは、障害をもつ人たちが、いつまでたっても「のけもの」のままという結果を生んでしまう。
盲ろうというハンディキャップがあるにもかかわらず、すごく前向きな生き方に圧倒されました。
(2021年5月刊。税込2640円)

2021年11月 9日

奇跡の地図を作った男


(霧山昴)
著者 下山 晃 、 出版 大修館書店

今から200年以上も前のカナダを歩いて地図をつくりあげたディヴィッド・トンプソンの生涯をたどった本です。日本にも江戸時代に伊能忠敬が日本全国を歩いて日本の精密な地図をつくりあげましたが、トンプソンは、スケールが違います。
伊能忠敬は10年かけて日本全国を歩いたのが3万3700キロメートル。トンプソンは生涯に10万キロほどを、マイナス40度のカナダの酷寒の山岳・森林地帯のなか、カヌーと馬と犬ゾリ、そして徒歩で歩きまわった。しかも、そこにいた先住民に敬意を払い、その言葉を習得し、生活と文化を理解し、白人と先住民の混血の女性を妻として、ときに一緒に調査旅行に出かけた。
トンプソンは1770年4月、イギリスはロンドンの貧民街で生まれた。ベートーベンと同じ年の生まれ、日本では江戸時代の中期、田沼意次のころ。
トンプソンは貧乏ながら、イギリスの慈善学校に学び、とりわけ数学に優秀であったため、カナダのハドソン湾会社に入社することができた。
当時は、毛皮やフェルト帽が大流行していた。毛皮を扱う商売はボロもうけができた。ビーヴァーが乱獲されていた。黒人奴隷も金もうけのタネとして取引されていた時代だ。
トンプソンは14歳でカナダに渡り、見習い奉公人(サーバント)として、安い賃金で働かされた。
この当時のカナダは、人種差別の激しい国でもあった。
トンプソンは、カナダの先住民であるクリー族やビーガン族などの言葉と文化を積極的に学び、またフランス語も学習した。
蚊やダニが多く、悩まされる土地なので、蚊にかまれる部位を少しでも減らすため、髪の毛は先住民のように肩まで伸ばし、ツバ広の帽子をかぶった。
トンプソンは、17歳のときキャンプ地に送られ、そこで上司からいろんな知識やノウハウを叩きこまれた。毛皮獣の棲息分布の調査の仕方、毛皮取引に必要な知識、カヌーの漕ぎ方、つくり方、保存食としての鳥や獣の肉の塩漬け方法、薪割り、土起こし、毛皮の圧縮、帳簿付け、報告書の作成方法、運搬・交易ルートのたどり方。
また、現地先住民の言葉、気質、特質についても教示された。
先住民の社会は、バッファローの狩猟を基盤とした「民主的な」社会で、女性の役割も尊重されていた。
ところが、トンプソンは滑落事故により右脚を複雑骨折し、その生涯、右脚を引きずりつつ歩行することになった。また望遠鏡を熱心に見ているうちに太陽光をまともに受けて右目を失明してしまった。厳しい天候・気候のなか、川からカヌーを引き上げて別の川や湖まで抱えて運んだり、峻険な崖を登ったり、健常者でも体力の限界をふりしぼるような作業を連日ともなうのが測量の仕事。これをトンプソンは、やり遂げた。
ハドソン湾会社も競争相手の北西会社も、先住民との毛皮取引にあたって、アルコール漬け戦略を用いていた。先住民を酔いつぶして、莫大な利益をむさぼった。
ヨーロッパにもビーヴァー皮を送り届けると、1枚で40万円から80万円もした。毛皮はステイタスを誇示する「柔らかな宝石」であり、「森の黄金」だった。
トンプソンは、カナダ森林地帯の探索・測量を続けるとき、アルコール(うん酒)を悪用しないと強く決心していた。それは、先住民のその豊かな文化に対する深い敬慕の念にもとづくものだった。
トンプソンは現地での測量を引退したあと、家族とともに悠々自適の生活を送るはずでしたが、勤めていた会社が破産してしまい、晩年は貧窮の生活を余儀なくされてしまった。
また、その成果の測量図も、他人の成果として世に紹介され、「測量日誌」をまとめても生前に刊行されることなく死蔵されてしまった。しかし、死後、その日誌は発掘され、測量図がトンプソンによるものということが確認されたあと、ついにトンプソンの偉業は正しく評価されるようになった。
トンプソンは、争乱もつきまとうカナダの山岳地帯を、零下40度という極寒の冬場に周回するなど、長年にわたって、ほかにはまったく前例・同類のない異色の「夢追い人」だった。
伊能忠敬の伝記にも圧倒されましたが、このカナダの測量探検家の偉業には思わず息を呑み声も出ないほどでした。
(2021年8月刊。税込2640円)

2021年11月 4日

ヒロシマを暴いた男


(霧山昴)
著者 レスリー・M・M・ブルーム 、 出版 集英社

アメリカの雑誌「ニューヨーカー」は、1946年8月31日号の誌面全頁を広島に落とされた原爆被害の実相を伝える記事に充てた。書いたのはジョン・ハーシー記者。
この「ニューヨーカー」の特集によって、原爆に対する世界の考え方が一変した。それまで、アメリカ政府は、原子爆弾投下と直後に広島で起きたことの深刻さを隠し、長期にわたる致命的な放射線の影響を隠蔽していた。
アメリカの原爆製造のマンハッタン計画の指導者であるグローヴス中将はこう言ってのけた。
「とても痛快な死に方」
「死んだ日本人の人数はとても少ないだろう」
「被爆して死んだ日本人はほとんどおらず、広島は基本的に放射能に侵されてはいない」
「ニューヨーカー」の記事のあとに言ったのは、「原子爆弾の放射能の影響による死というのは、純然たるプロパガンダ(宣伝活動)だ」
「われわれの戦争を終わらせた方法が気に入らないのなら、誰が戦争を始めたのかを思い出せと言いたい」
日本軍による真珠湾攻撃のあと、アメリカ国内には、日本に対する憎悪と猜疑心(さいぎしん)が深く根づいていた。日本人は、人間以下の「黄色い危険物」とみられていた。野蛮で恐ろしいモノということ。
グローヴス中将は、原子爆弾を「情け深い兵器」だというイメージをアメリカ国民に植えつけようと必死だった。
日本占領軍のマッカーサー元帥は、原爆に対して「嫉妬」を感じていた。4年にわたる日本との戦争は自分が指揮してきたのに、自分の知らないところで開発され、自分に無断で原爆が落とされたことに良い気持ちではなかった。
これがハーシー記者が広島入りできた背景の一つになっている。
広島に入ったハーシーは、原爆による惨状に大いなる衝撃を受けた。これを、どうやってアメリカ国民に知らせるか...。
ハーシーは、視線の高さを、神から人間へと下ろした。読者に登場人物そのものになってもらって、いくらかでも原爆の痛みを感じさせること、これがハーシーの願いだった。
ハーシーは、たくさんの人を現地で取材し、ついに6人の主人公にしぼることにした。
ハーシーの記事の目的は、読者を登場人物の心の中に入らせ、その人物になりきらせ、ともに苦しませること。恐ろしくも興味を引かれるスリラーのように読まれることを目ざした。
だから、わざと静かな口調にすることを選んだ。文章から余計なものをはぎ落し、なるべく事実を客観的に述べるだけにする。たとえば、6人は誰も爆音を聞いていなかったので、「無音の閃光(せんこう)」というタイトルにした。
「ニューヨーカー」の編集部内では刊行されるまで、最高機密扱いとされ、ダミー号までつくられた。ただし、グローヴス中将の承認は取りつけた。これが不思議ですよね...、よくぞ承認されたものです。
この「ニューヨーカー」誌は爆発的な反響を呼び、またたくまに、全世界に広がりました。
ところが、ソ連は、この「ニューヨーカー」を大ウソだと決めつけ、また日本ではすぐに出版が認められなかったのです。原爆の恐ろしさが世間に広く知れわたることに強い抵抗がありました。
歴史的なスクープなのですが、実は、「丸見えの状態で隠されていたスクープ記事」だと評されています。これは、先日の「桜を見る会」の「しんぶん赤旗」のスクープ記事と同じですね...。
ともかく、「ニューヨーカー」誌は、1年前に広島の人々に起きたことが、次にどこで起きてもおかしくないという警告として大きな意義がありました。
この「ニューヨーカー」は11ヶ国語に訳され、イギリスのペンギン・ブックスは何週間かで25万部の初版を売り切り、100万部の増刷を用意した。原爆の恐ろしさは何度強調しても強調しすぎるということはありません。「核抑止力論」なんて、本当にインチキな考えです。
とても勉強になり、改めて原爆の恐ろしさを考えさせられました。
(2021年9月刊。税込1980円)

前の10件 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー