弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年5月21日

沈没していくアメリカ号を彼岸から見て

アメリカ


(霧山昴)
著者 エマニュエル・パストリッチ 、 出版 論創社

 日米で学び、米韓の大学で教え、アメリカ大統領選挙に立候補したアメリカ人の学者が、アメリカを語り、日本人に訴えています。とても共感できる内容でした。こんなアメリカ人学者がいるのを私は初めて知りました。
 ロバート・キャンベルは私も知っていますが、文学以外の政治について語らないのを著者は不満なようです。それにしても、著者の語学力はすごいです。日本語も韓国語も、そして中国語も話します。どうやらフランス語も話せるようです。それでも、ロバート・キャンベルのように天才的な語学力があるわけではなく、努力したのだといいます。
アメリカの大学は、イエール大学で学び、教え、またハーバード大学で学んでいます。東大では大学院で勉強しています。韓国でもいくつかの大学で教えています。
 日本の平和憲法の意義を高く評価していて、アメリカの憲法を日本国憲法のように変えるべきだと提言しています。そして、日本人とアメリカ人の人的交際が少なすぎる、市民同士のつながりをもっと強める必要があると強調しています。その点、日本(東京)の笹本潤弁護士を高く評価しています。国際法律家協会で世界的に活躍している弁護士です。
 アメリカは日本に企業の支配を押し付け、日本を危険な海外戦争に引きずり込もうとしている。日本とアメリカは、平和を大切にする経済関係に戻るべき。機械やコンピュータではなく、人間性に、コンクリートやプラスチックや鉄鋼ではなく、自然に置かれるべき。人間の心の奥底を探る知的探求にもとづく、新たな強固な関係を目ざすべき。
 今の日米合同委員会は非公開だけど、平和委員会という名称に変え、委員会の透明性を高めて、東アジアの平和体制の構築を目ざすべき。いずれも実にもっともな指摘で、とても共感します。
 日本のテレビニュースの質は著しく低下している。著者は厳しく指摘しています。私はテレビを見ませんが、たまに見ると、くだらないワイドショーやお笑い番組ばかりです。著者は1988年のリクルート・スキャンダルの報道以来、質が劣化しているといいます。NHKをはじめ、いかにも「政府広報」番組ばかりになってしまいました。
 日本人学生は自分の中に閉じこもりがちで、東大生は友だちになるのが一番難しいと言われているが、本当だった。そして、東大でバドミントン部に入ったけれど、厳しい上下関係にはなじめなかったとしています。
今、ハーバード大学はトランプ大統領から目の敵にされ、国の補助金が停止され、ハーバード大学は国を訴えて係争中です。ところが、著者は、このハーバード大学について、厳しい評価をしています。効率性と生産性を追求するあまり、かつてはあった知的自由の多くが破壊されてしまった。この変化は、大学に対する銀行の力が強まった結果であり、ハーバード大学理事会の超富裕層の力が強まった結果である。知的自由の喪失はひどいものだ。 
アメリカでアジアにかかわる政策を立案して推進している人々は、アジアに関する専門知識をもたず、アジアをほとんど理解していない人々でしかない。
 アメリカは、アジアで武器を売る市場を確保することを最優先課題としている。
キッシンジャーは、自分のコンサルティング会社に連邦政府の資金を投入させることを主眼としているビジネスマン。
 韓国社会は深刻な問題をかかえている。高い自殺率、汚染された空気、学校での容赦のない競争、若者たちが感じる疎外感、輸入食品・輸入燃料への過度の依存。そしておびただしい数の貧困な高齢者の存在。
 韓国政治では理想主義的な若い政治家たちも腐敗している。
 韓国では政党の重要性ははるかに低く、個人的な関係、個人の美徳のほうが政治的行動の中心となっている。
 アメリカでは、警察があまりにも残忍になっている。これに対して、日本の警察は国民に対して残忍な弾圧をしていないと評価しています。アメリカでは、警察を呼ぶこと自体が危険、市民にとっても危険だという著者の指摘には驚きました。
 日本人は、多国籍企業や銀行に支配されてはいけない。アメリカが支配権をもっている腐敗した政治・軍事システムから日本は独立すべきだ。まったく同感という思いで230頁の本を読み終えました。
(2025年2月刊。2200円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー