弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年5月14日
ブラック企業戦記
司法
(霧山昴)
著者 ブラック企業被害対策弁護団 、 出版 角川新書
昔ながらのタコ部屋のようなところに寝泊まりしながら働かされていたという人の訴えを私も聞いたことがあります。なんですぐに逃げなかったのかと尋ねると、ともかく怖かった、自分が逃げたら新兄弟にどんな仕返しされるか分からないし...、という話でした。経営者は本物のヤクザだったようです。
この本では、一見するとまともな会社なのですが、会社のなかはひどくて、まるで治外法権の無法地帯。社長は、オレが王様なんだから、従業員はみんなオレの言うとおり奴隷になって働け、そんな会社と社長がフツーに登場します。
この本のオビには、こう書かれています。日本中に存在する、驚きの無法地帯。会議で社長がハグを強要。上司が若手社員を丸刈りに。0泊4日の寝させない新人研修。
いやはや、驚くばかりのトンデモ会社(ブラック企業)がこんなにもあるんですね...。
しかも、弁護士が本人(労働者)と一緒に闘い、それなりの成果をあげて解決したあと、その会社は、今も存続しているというケースがいくつも紹介されています。ということは、今も新しい被害者が生まれているだろうということです。
ともかく、無理なガマンなんかせずに、この最強の弁護団をふくめて、周囲にSOSを発信して、動き出すことが大切だと、つくづく思います。ノイローゼが昂(こう)じてうつ病になり、自殺を図るなんて、最悪の事態は、なんとしても避けましょう。
ハローワーク、そしてインターネットの求人広告に書かれている労働条件はウソだらけ...。ホント、多いんですよね、この手の話は...。
ブラック企業の経営者には3つのタイプがある。その一は、違法だと自覚したうえで、もうけのためには手段を選ばないという者。その二は、社長は万能だと勘違いしている者。中小企業のワンマン社長に多い。その三は、違法なのかどうか考えない、気にしないノーテンキな者。
労働者がブラック企業と闘うとき、もちろん主張を裏付ける証拠があったら、断然、有利になる。そのとき有効なのは録音。自分の身を守るためなのだから、相手の同意なんか必要ない。しっかり録音しておき、それを文字起こし(録音反訳)する。
事実に反する反省文を書かされることがある。もちろん、書かないほうがよい。でも、書いてしまっても、決して挽回できないわけじゃない。書かされた内容が違うというのをより詳しくして反撃したら、裁判所も「反省文」を無効にしてくれることがある。要は簡単にあきらめてはいけない、ということ。
「我々の業界では、どこも労働基準法は適用されていない。我が社のような中小企業に労働基準法が適用されたら、我が社はつぶれてしまう」。社長が堂々と、こんなことを言って「反論(弁解)」する。でも、そんなものは適用しないのです。
不当解雇の話もありますが、なかなか辞めさせてくれないというケースもあります。そこで退職届出を代行する「便利屋」が登場します。しかし、退職条件をめぐって会社と交渉するまで行ったら、それは明らかに弁護士法に違反するものです。
「うちの会社では、残業は承認制。だから、承認していないので、残業代なんか支払いません」。これは法の無知を告白しているに過ぎません。残業代を請求するときには、会社の黙示の承認があれば十分なのです。「承認」の有無は関係ありません。
このブラック企業被害対策弁護団には福岡の弁護士も入っていて、木戸美保子、前田牧、光永享央、星野圭弁護士も執筆しています。たのもしいです。すばらしいことです。
本当は、こんな新書なんて必要ない社会でありたいものですが、そんなことは言ってられないのが現実です。今、若い人に広く読まれてほしい新書です。私も心から応援しています。
(2024年12月刊。1060円+税)