弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年5月 6日
エッシャー完全解読
人間
(霧山昴)
著者 近藤 滋 、 出版 みすず書房
なぜ不可能が可能に見えるのか、こんなサブタイトルがついています。なるほど、エッシャーの絵って不思議ですよね。一見すると、何の変哲もない精密画なのですが、よくよく見ると、不思議だらけです。どんどん階段を上にのぼっているかと思うと、いつのまにか下に進んでいます。そして、川の水が滝のように流れ落ちているのですが、その落ちた水が、どんどん上にあがっていて、再び滝になって落ちていきます。まったくありえません。
人間の眼は、いかに錯覚にとらわれているか、それを何より証明するものです。
エッシャーのだまし絵は見飽きることがありません。著者は、それがなぜなのか、科学的に究めています。すごいです。
著者がエッシャーのだまし絵に出会ったのは中学生のとき。少年マガジンの表紙(1970年2月8日号)に「物見の塔」があったそうです。この「塔」の絵も不思議なものです。建物のなかにあった梯子(はしご)を人間がのぼっていますが、いつのまにか建物の外に出ているのです。ありえません。
そして、1階と3(2?)階の向きがまるで違うのに、違和感がありません。
エッシャーの絵は自然で写真的に見えるのに、全体としては不可能建築になっている。
エッシャーはアメリカの雑誌「タイム」に取りあげられ、一躍、人気作家になった。1954年のこと。
エッシャー自身は学校では数学が苦手で、いつも落第点をとっていた。今と違ってコンピューターを活用できるわけではないので、エッシャーは手作業でトリック絵を描きあげていった。
エッシャーの風景画は、その対象をきわめて正確に写しとっている。
エッシャーは、どう考えても存在しえない構造の建築物を、限りなく自然に描くことで、実在しうるものと錯覚させることを狙ったのだろう。
エッシャーのトリックは次の三つから成る。
①原則として、線遠近法の決まりごとは厳格に順守する。
②見る人が錯覚を起こすように建物の構造を変える。
③違和感の原因になる構造を、建物以外のアイテムでごまかす。
エッシャーは、自分では「デッサンが下手だ」と言ったが、それは、存在しないものを空想で描くことは出来ないという意味。
エッシャーの絵を一人で黙って見つめているだけで、画面中にたくさんトリックがあることに気付かせない。でも、どこか変だなと思って、よくよく見ていると、トリックがあることが分かってくる。
エッシャーの絵をもう一度よくよく見ることにしましょう。楽しい本でした。
(2025年1月刊。2700円+税)