弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年4月30日
冤罪、なぜ人は間違えるのか
司法
(霧山昴)
著者 西 愛礼 、 出版 インターナショナル新書
元裁判官の若手弁護士による冤罪論です。
冤罪(えんざい)って、難しいコトバですよね。手書き派の私(このコーナーの原稿も、すべて手書きです。清書・入力は秘書の仕事であり、私は、それに赤ペンで添削して完成させます)ですが、何度書いても自信がありません。か弱い兎を拘束したさまから、無実の罪を受けることを意味しているとのこと。
冤罪被告は、この世における最大の理不尽。これは本当にそう思います。だって、自分は何もしていないのに、「お前は人を殺した。だから死刑だ」なんて言われて死刑が確定するなんて、最悪の事態です。
「反省しろよ、少しは」
「こんな見え透いた嘘ついて、なおまだ弁解するか。なんだ、その悪びれもしない顔は。悪いと思ってんのか」
「ふざけるな」
「検察なめんなよ」
「あなたの人生を預かっているのは私なんだ」
今は、取調状況が録音・録画されることがあります。それで明らかになった検察官の台詞(せりふ)です。恐ろしいですよね。これが一日中、しかも23日間も続いたとき、これに負けない自信のある人は、果たしてどれだけいるでしょうか...。もちろん、私も自信はありません。
プレサンス事件では、疑われた山岸社長は保釈されるまで、なんとなんと248日間も身体拘束されていました。これはきついです。8ヶ月間も狭い部屋に閉じ込められるなんて、ぞぞっとします。こんなことを言った検察官は、職権乱用罪で裁判にかけられましたが、それも当然です。
被疑者段階の取調状況が録音・録画されるのは、全事件の3%にとどまっている。実際、私は、まだ経験したことがありません。
人間は間違いから逃れられないし、人の心には「盲点」がある。
人間は常に予測を立てながら生活している。
血液型と性格とは何の関係もないことが科学的に証明されているのに、多くの日本人は関係性があると信じている。
日本の犯罪事件は戦後明らかに減少しているのに、「最近はどんどん治安が悪化している」と思い込む日本人は多い。これは凶悪犯罪や異常な犯罪をマスメディアが大々的に報道するから、人々は、そのような印象をもってしまう。
人間は、結論からエビデンスを評価してしまうこともある生き物。一つの疑惑があると、雪崩(なだれ)が起きたように他の争点に影響を与えてしまい、全体的に壊滅的な影響を与えることになる。
自分が関与したものは、自己正当化の心理から誤りを認められずに、以前の行動方針に固執してしまう傾向がある。
正義感は不正をもたらすことがある。そして、組織もまた誤る。
人が同じ間違いを繰り返すのは、過去の失敗から学ばないから。
日本の刑事手続において、保釈されることが最近は前より断然多くなりました。でも、否認したら3分の1しか保釈されません。ええっ、3分の1も保釈されるようになったのか...、むしろ私はそう思いました。否認したら保釈されないというのが、これまでの私の「常識」だったのです。
人間は正常な判断ができない状況では、客観的にみたら自分自身にとって不利な行動もしてしまう生き物だ。
これは、まことにそのとおりです。だからこそ、相談相手としての弁護士が必要なのです。
冤罪なんて昔のことでしょ。そう思ったら、それは間違いなのです。ちなみに、最近、検察官のイメージが悪化したため、検察官志望は減っているとのこと。それも当然ですよね、先日の検事総長談話を見ていると、私はそう思いました。
(2024年12月刊。960円+税)