弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年4月29日

西日本鉄道殺人事件

社会

(霧山昴)
著者 西村 京太郎 、 出版 新潮文庫

 福岡から大牟田へと走る西鉄の特急電車の車内で91歳の元社長が殺された。
 ええっ、私もよく利用している特急電車のなかで殺人事件が起きて、その謎解きをしていくなんていうのが小説になるの...。
 まったく期待しないで読みはじめたのですが、意外や意外、けっこう読ませるのです。
 かつて三連覇に熱狂した西鉄ライオンズが出てきますし、ともかく鹿児島・知覧の特攻記念館と話が結びついていくのです。まあ、そうなると、ちょっと気になりますよね...。
 それにしても鹿児島へ行こうというのに、大牟田までの特急電車に乗り、大牟田駅で降りたら、かなり離れている新大牟田駅まで行って新幹線に乗るなんて、よほどのことがなければ、ありえないコース展開です。
 では、何をしに91歳の男性が知覧へ行こうとしたのか、そして、なぜ殺されなければならなかったのか...。これは、敗戦間近の知覧基地から飛び立った特攻機が関わっています。
 特攻機に乗っていたのは、学徒出陣した元学生、そして少年兵です。まったくの片道飛行ですし、もはやオンボロ飛行機しかなく、また、パイロットも訓練不足のまま、ともかく突っ込め...。日本軍は本当に生命を粗末にしていましたよね。そんな考えで戦争しても勝てるわけがありません。それじゃあ、何のため自分の生命を捨ててまで戦うか、わけが分からなくなってしまうじゃないですか...。
 特攻機は整備不良で飛べなかったり、エンジンに小石を投げ込んで不良機にしたり、整備優良機なのに、わざと不時着してみたり、いろいろあったようです。
 また、特攻兵が戦死することなく生き残って、戦後は西鉄ライオンズで活躍した人もいるようです。年代がそうなるのですね...。
 ということで、十津川警部シリーズは案外に読ませるものだから、シリーズものとして成功していることを実感しました。
(2020年1月刊。880円+税)

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