弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2022年5月16日

ビーバー


(霧山昴)
著者 ベン・ゴールドファーブ 、 出版 草思社

ビーバーについての480頁もある部厚い本です。
ビーバーは、その毛皮が狙われ、また、ダムをつくるので農家から目の敵とされ、一時は壊滅的状況に追い込まれた。しかし、その後、保護策が功を奏して、今や北アメリカには1500万匹のビーバーが生息していて、絶滅の危機は脱している。ヨーロッパでも同じで、わずか1000匹にまで減っていたのが、今や100万匹に急増している。
とはいっても、実のところ、かつての北アメリカ大陸には、ビーバーは6千万匹から40億匹はいたと推定されているので、とてもそこまでは復活していない。
ビーバーがダムをつくるのは、捕食者からの安全確保、風雨からの避難、食料の貯蔵のため。ビーバーは、水中では15分も息を止めていられる。水かきのある後ろ足のおかげで、水中の動きはパワーアップする。まぶたは透明なため、水面下を見ることもできる。
ビーバーは、摂取したセルロースの3分の1を消化する。これは、ビーバーが自分のウンチを食べること、非常に長い腸と多様な腸管内菌叢(きんそう)によって助けられている。
ビーバーの上下各2本の門歯は、死ぬまで伸び続ける。そのため、門歯でものを削っても、大丈夫。自生発刃作用(じせいはつじんさよう)がある。
ビーバーは、家族を大切にする動物で、一夫一婦制をとっていて、4~10匹で一家をなしている。子は2歳になり、下の子(弟妹)が生まれると、自分の縄張りを求めて巣立ちする。
ビーバーのつくるダムは、地表水と地下水をあわせて1基あたり2万2千~4万3千立方メートルの水を貯める。存在するものには、合理的な理由が必ずあるという昔からの格言どおり、ビーバーにも自然サイクルのなかで大きな役割を果たしてきたし、果たしていることを実感させてくれる本でした。
(2022年2月刊。税込3630円)

2022年5月 9日

野ネズミとドングリ


(霧山昴)
著者 島田 卓哉 、 出版 東京大学出版会

ネズミは、鋭い一対の切歯(前歯)をもち、このネズミの切歯は一生伸び続けるため、年をとっても歯がすり減って堅いものがたべられなくなるということがない。
ネズミ算という言葉のようにネズミは多産の象徴として扱われることが多いが、実はそれほど多産ではなく、2~8匹(平均4~5匹)というネズミが多い。日本の野ネズミでは、アカネズミは2~8匹、ハタネズミは1~6匹。最多のアフリカのサハラタチチマウスは平均10~12匹の子どもを1回に出産する。少子のほうではウオクイネズミは1回に1匹のみ。
野生のアカネズミの寿命は半年から1年ほど。
アカネズミは、冬眠しないが、低温やエサ不足のとき、支出エネルギーを節約するため、日内休眠という低代謝状態に入る。
アカネズミにドングリを与えると、2日間から様子がおかしくなり、やせてきて、ふらふらしだし、そのうち数匹は死亡した。ブナの実を食べていたアカネズミはフツーだった。
好物のはずのドングリを食べたアカネズミが異常な状態になるのはなぜなのか...。
ドングリにはタンニンが含まれている。タンニンとは、植物によって生産される、タンパク質と高い結合能力を有する分子量500以上の水溶性ポリフェノール。赤ワインに含まれるポリフェノールや、お茶に含まれるカテキンもタンニンの一種。
タンニンの最大の特徴は、タンパク質との高い結合能力にある。
タンニンは、穏やかに作用する消化阻害物質だとみなされてきた。しかし、それだけなく、消化管の損傷や臓器不全といった、急性毒性をもつ物質だ。これが、タンニンは、量的防御物質でありながら、質的防御物質でもあるといわれる所以だ。
ドングリを日常的に食べているアカネズミにとっても、コナラやミズナラのドングリは、潜在的には有害なのだ。そして、この有害なのは、ドングリに含まれるタンニンによって生じていることが明らかになった。
アカネズミが、ドングリなどのタンニンを含むエサを少しずつ食べて、体がタンニンに馴(な)れた状態になると、ドングリに含まれるタンニンを克服することができるようになるのではないか...?
つまり、アカネズミは、馴化(じゅんか)することで、ドングリのタンニンを克服できるのだ。
ドングリは、植物学的には種子ではなく、果実である。多くのドングリはタンニンを豊富に含み、潜在的には危険。
北米産のドングリと比べると、日本産のドングリは、全般的にフェノール類が多い。要するに、ドングリを食べなれていくうちに、毒性が弱まっていくということのようです。それを観察と実験、そして数式で証明していくという地道な作業を繰り返していくのです。大変ですよね。でも、そもそも森林に入るのが好きな人にとっては、苦にならないのでしょうね。
(2022年1月刊。税込3740円)

2022年5月 2日

シカの顔、わかります


(霧山昴)
著者 南 正人 、 出版 東京大学出版会

このタイトルの意味、分かりますか?
宮城県の牡鹿(おしか)半島の先にある小さな島、金華山(きんかさん)には、660頭のシカが生息している。ここで、黄金山神社の周辺で生活する150頭のシカ全部に名前をつけて、1989年から33年間、観察を続けて現在に至っている。今では、33年間の家系図もできている。シカの寿命は長くて15年なので、これまで1000頭のシカ全部に名前をつけて追跡したというわけ。いやあ、これってすごいことですよね、シカを個別に識別するなんて...。
シカを個体識別するには...。白髪染め液を2メートルほど離れたところから噴射して、シカの毛の一部を黒く染める。ところが、これだと、シカが座っていたら毛染めが見えないので識別できない。では、どうするか...。
シカの顔をじっくり観察していると、次第に顔の違いが分かるようになってくる。ええっ、うっ、うっそでしょ...。
これは、ニホンザルの顔を識別して名前をつけて行動観察するのと同じ手法。
うむむ、それにしてもサルとシカの違いはないのでしょうか...。
シカの顔の違いといっても、極端に違いがあるわけではありません。体型は遺伝によって似てくるようです。シカの顔を見て、あっ、これはあのシカの母か娘だと言いあてることもできるのだそうです。いやはや、すごーい。
シカのオスには角(つの)がある。この角には、いろんな形があるので、オスは、それで識別できる。
シカのオスは、メスの発情期にだけなわばりをもつ。メスは四季を通じてなわばりをもたない。メスは2年に1回、子どもを産む。メスは発情期の秋に、24時間だけオスを受け入れる発情状態になる。
シカの鳴き声は13種類ある。シカの鳴き声のほとんどは秋に集中している。そして、鳴き声は1キロメートル先まで届く。「メェーフーン」には、威嚇の状態がある。
生まれてくる子ジカは、直後の30分間を乗り切れば、あとは自力で移動して、自分の身を守ることができる。その動けない30分間をカラスは狙ってやってくる。うむむ、何と厳しい生存競争でしょうか...。
シカの母子間の認知は、音が役にたっているものの、最終的には、匂いが母子間の認知のカギになっている。
シカは基本的に集団で生きている動物。シカの子は、祖母やその姉妹、そして自分の姉たちとともに生きる。
オスの多くは2歳までにメスの家族群から離れて生活するようになる。メスは、生涯をずっと家系集団で暮らすことが多い。オスもメスも母と子の関係は、母親が死ぬまで続く。
捕食者から狙われる草食獣にとって、集団で生活することは、自分の身を守り、さらに血縁者の身を守り、自分の遺伝子を残すことにつながる。シカにとって、この母系の血縁グループは、とても大切なものである。
オスは孤立している。成長したオスは、オスになっても孤独を愛している。
シカが、匂いを使ってもコミュニケーションしているのは間違いない。
シカの歯は、すり減ってしまえば、生きていけなくなる。
いやあ、まったくもって驚きました。サルの顔が識別できるというのにも執念すら感じますが、150頭のシカ全部を識別して名前をつけて行動観察するなんて...、すばらしいにもほどがあります。ぜひ、手にとって読んでみてください。出色のできばえの本です。そのすごさに、ついつい目を見晴らされました。
(2022年2月刊。税込3960円)

2022年4月 4日

菌類が世界を救う


(霧山昴)
著者 マーリン・シェルドレイク 、 出版 河出書房新社

菌類はどこにでもいるが、なかなか気づかない。菌類の90%以上の種類は未確認だ。知れば知るほど、菌類は、さらに分からなくなる。
植物は菌類の助けを借りて5億年前に陸に上がった。植物が独自の根を進化させるまでの数千万年間、菌類は植物の根の役目を果たした。今日では、植物の90%以上が菌根菌に依存している。
キノコは胞子を拡散する多様な手段の一つにすぎない。菌類の大多数は、キノコに頼らず胞子を放出する。
菌根は1年で50メガトン、これは50万頭のシロナガスクジラに匹敵する、におよぶ胞子をつくる。
世界には220万種から380万種の菌類がいる。現状は、菌類全体のわずか6%しか発見されていない。
人間の脳は数百万種の色彩を区別し、耳は50万種の音を聞き分ける。ところが、鼻は数兆種の匂いをかぎ分ける。ええっ、ホ、ホントでしょうか...。人間の鼻は、1立方センチあたり3万4千個の分子という低濃度の化合物でも嗅ぎ分けられる。この濃度は、2万個のオリンピック用水泳プールの中の1滴の水に匹敵する。
トリュフは栽培できない。マツタケと同じく、トリュフは収穫してから2日から3日以内に新鮮なまま客の皿にのせなくてはならない。トリュフの香りは、生きて代謝している活性プロセスでしかつくれない。トリュフの香りは、胞子の成熟とともに強力になり、細胞が死ぬと失われる。トリュフは乾燥させて後日食べることはできない。
菌類は、高速データの伝達に電気信号を使える。
菌糸体は脳のような現象だ。植物は大気中から得た炭素の30%を菌類パートナーに与える。菌根菌は、植物が必要とする窒素の80%、リンについては100%を与えることができる。
菌糸体は土壌をまとめる粘り気のある生きた継ぎ目だ。菌類を除去すると、土壌は洗い流されてしまう。
人類にとってもっとも親しみ深い菌類は酵母だ。酵母は、人間の皮膚の上、肺の中、消化器官系に棲息し、あらゆる穴の内面にいる。人類は、はるか昔から酒づくりに発酵を利用してきたと思われる。酵母は、糖がアルコールに変わるプロセスにかかわる。
キノコ、カビ、酵母は本当に人間の生活に欠かせないものだということがよく分かる本でした。
(2022年1月刊。税込3190円)

2022年3月22日

はぐれイワシの打ち明け話


(霧山昴)
著者 ビル・フランソワ 、 出版 光文社

不思議な本です。いえ、読んでいると不思議な気分にさせる本です。海中にいる魚たちがみんな話しているというのです。
海は音で満たされていて、人間が生きている空気中よりもずっとにぎやかだ。水は空気より密度が高いため振動しやすく、音がよく伝わる。水中では、音は光より遠くまで伝わり、弱まることなく何キロメートルも先まで届く。
クジラは2千キロメートルをこえる距離からデートに誘ったりしている。どんな海でも、クジラの声は海のなかの音のかなりの部分を占めている。冷水と温水の境界である水温躍層の境界でクジラの声は水平方向に何千キロメートルもまっすぐに伝わる。
本のタイトルにもなった有名な52ヘルツの声を出す孤独なクジラがいる。
人間がシャチやイルカと協力して狩りをしているという話もまた有名です。
人間に協力するイルカたちの集団は固有の文化的特徴を有している。このイルカたちは、自分たちの集団に属することを好み、他の集団には混ざらない。
人間に協力するイルカたちは固有のアクセントや鳴き声があって、それが人間と「話す」ことのない同種のイルカとの相違点になっている。
イワシのようにぎっしり詰められるという。たしかにイワシの群れの密度は、1立方メートルあたり15匹。ラッシュアワーに地下鉄の密度の4倍に相当する(これは日本の地下鉄ではなく、アメリカかフランス)。イワシたちは適切な距離と互いを尊重した速度を保つことができる。
イワシの群れでは、何百万匹いても、議論の必要はなく、自然に決断がなされる。そこにはリーダーも全体を支配する集団も、命令も存在しない。ひとまとまりになったイワシの群れは、一致団結して泳いでいる。
スウェーデン海軍は海中に不振な音を探知し、それはロシアの原潜によるものだと疑った。しかし、ロシア海軍は頑張に否認した。学者に調査してもらった結果、それはニシンの群れによる音だった。ニシンは内臓のガス(つまり、おなら)を一定のリズムで排出していて、それによって複雑な情報をやりとりしているのだ。
ザトウクジラは、子育てに長い時間をかけ、頻繁に会話している。ザトウクジラは、集団内で長年にわたって歌を伝承する。
絶えず泳ぎ続けているマグロは、毎日、自分の体重と同じ量のエサを食べなければいけない。マグロは魚のなかで唯一の恒温動物だ。
著者はまだ20代のフランスの物理学者です。流体力学を研究しているとのことですが、スピーチ大会で優勝するほど優れた話し手というわけですから、話の流れが実に見事で、驚くばかりの展開です。海中のにぎやかな会話を翻訳機にかけてぜひ聞いてみたいものです。
(2021年11月刊。税込2090円)

 日曜日、庭の一隅にフジバカマを植えました。インターネットで取り寄せたのです。これでアサギマダラ(チョウチョ)を呼び寄せるつもりです。さて、うまくいくでしょうか。
 庭のチューリップが一斉に咲きはじめました。赤・黄・白と、本当に華やかで、春到来を実感させてくれます。
 春の味覚、アスパラガスも地上に顔を出してくれるようになりました。これから楽しみです。
 日曜日は、午前・午後とロシアのウクライナ侵略戦争反対を街頭で訴える活動に参加しました。黙ってなんかおれません。映像を見るたびに心が痛みます。とりわけ子どもたちの心に大きなショックを与えていることが心配でなりません。
 道の両側に白いコブシの花がずらり、やっぱり平和が一番です。

2022年2月14日


(霧山昴)
著者 稲葉 一男 、 出版 光文社新書

細胞にも毛がある、と言われると不思議な気がします。ええっ、あんな小さな細胞に毛なんてあるわけないでしょ、つい、そう思ってしまいます。でも、あるんです。
その一つが精子。精子が活発に動きまわるために必要なのが、「細胞の毛」。鞭毛(べんもう)とか繊毛(せんもう)と呼ばれているそうです。
そして、ヒトの気管にある細胞の毛。空気中の細菌やウィルスが体の中に入ってきたとき、それを追い出そうとして、気管でさかんに動いている繊毛がそれ。
この細胞の毛を動かすには水分が必要。細胞の毛は十分な水の中にいるときこそ最大限に力を発揮するので、口の中が乾燥しないようにマスクをするなどして湿度を保つ必要がある。
ヒトの女性は一生のうちに卵子を500個つくる。男性の精子は20兆個。精子の毛は細胞膜が変形したもの。ヒトの精子の毛(鞭毛)は30から50マイクロメートル(ミクロン)。毛の太さは0.2から0.3マイクロメートル、つまり200ナノメートルから300ナノメートル。
この細胞の毛の中に、毛を動かすエンジン、つまりダイニンと呼ばれるタンパク質の分子モーターがずらりと並んで入っている。この大きさは10から20ナノメートル。こんな小さな分子がATP(アデノシン3リン酸)という物質を分解することで得られるエネルギーを用いて、鞭毛の中で力を発揮させている。
細胞の毛の中には、9本+(プラス)2本のパイプが通っている。ダイニンのついた9本のパイプは「タブレット微小管」で、筒状になっている。その内側にもう2本のパイプ「シングレット微小管」が通っている。この構造は「軸糸」と呼ばれ、微小管の本数から「9+2(きゅうプラスに)」と呼ばれている。
この鞭毛(繊毛)がすごいのは、まず自ら波打って動くこと、単細胞生物の繊毛とヒトの鞭毛の構造はほとんど同じであること、体の維持に大切なことによる。
鞭毛(繊毛)が遺伝的になくなってしまうと、精子では運動がおかしくなって受精できなくなる。また、気管では、バイ菌を外に出せなくなる。嗅覚、つまり匂いを感じるのは、鼻の奥、鼻腔の上部にある嗅上皮。
また、匂い物質は、嗅上皮の粘膜に溶けることにより、嗅細胞を経て匂いとして認識される。ヒトの周囲にはたくさんの臭い物質があるので、嗅細胞は、これらを高感度で識別できる。それが出来るのは、細胞の毛があるからこそ。
1分子のATPが分解されると、10のマイナス20乗ジュールあまりのエネルギーが放出される。
以上みてきたように、本書で扱っている毛は、細胞の毛であって、体表面にはえている毛ではありません。
なぜ猿やオランウータンなどは毛深いのに、ヒトだけ体表面がツルツルなのでしょうか。毛皮や服を着る前もツルツルだったら、冬の寒さには耐えられませんよね。ヒトは一度、水の中で生活していたので、体表面の毛をなくしたという仮説が提唱されました。私は面白いと思ったのですが、今は否定されているようです。まだまだ、この世は謎だらけですね。ぜひ、もっと深く知りたいです。
(2021年11月刊。税込1034円)

 コロナ禍がおさまりませんね。福岡県南部で、このところ急増しています。保健所をなくしてしまったツケを払わされています。PCR検査体制も不十分ですし、自宅療養という美名での放置はひどすぎます。アベノマスクも半分も残っていて(倉庫代6億円)、それを希望者に配布(その費用が10億円)するというのに、安倍元首相はお詫びの一言もありません。
 日曜日の午後、雨があがったので、庭に出て雑草を少し取りました。チューリップの芽が地上に出てきていますが、雑草に埋もれてかわいそうなのです。芽をとったらいけませんので、用心しながら雑草を抜いていきました。
 ずいぶんと陽が長くなり、夕方6時まで庭仕事ができるようになりました。春は、もうすぐそばです。

2022年1月31日

本能


(霧山昴)
著者 小原 嘉明 、 出版 中公新書

きれいな花に成りすまして、ハチやチョウなどの昆虫をおびき寄せ、これをまんまと仕留めて食べるハナカミキリ。メスを装って騙し、生殖相手のメスを横取りするサケのオス。何千キロにも及ぶ長距離を、羅針盤を用いることなく飛び続けて目的地にたどり着く渡り鳥...。こんな超能力を動物たちは、いったい、どうやって身につけたのだろうか。それが本能...。
でも、本能とは、いったい何なのか...。
キタオポッサムやアカシカのメスは、体調がいいときには息子を多く産む。
アカゲザルのメスは、メスだけから成る母系社会を形成している。そして、社会的順位の高いメスはメスの子を、逆に社会的順位の低いメスはオスの子をより多く産む。それがそれぞれのメスの繁殖にとって有益。上位のメスの高い地位を引き継ぐのは、母系社会ではメスの子だから。
マダラキリギリスは、2桁の種類のセミのメスに成りすまし、近寄ってきたセミを肢で捕まえて食べる。一度も遭遇したことがない種のセミのメスも模倣する。いやあ、不思議ですよね...。
シロアリは排泄物を室内に積み上げる。すると、それに含まれていた共生菌が排泄物を栄養源にして生長し、キノコが育つ。シロアリは、このキノコを食べ、キノコの上に排泄物を積み上げる。これが再びキノコの生長に利用される。シロアリは、これを繰り返して、キノコを持続的に栽培している。これに似ているのが、ハキリアリ。
ワタリガラスは、エサを隠して貯め込む。しかし、仲間が近くにいるときには、仲間に対する警戒心から、貯蔵するエサが少ない。
ヨーロッパにすむスゲヨシキリのオスは、さえずりでメスにアピールする。さえずりのレパートリー数が多いオスほど、メスを強く惹きつけてつがいを形成する。
セアカゴケグモは、オスがメスに比べて、とても小さい。体重は256ミリグラムなのに対して、オスは、なんと4ミリグラムしかない。オスは、チャンスをとらえてメスの腹部に取りつき、メスの精子受容器官の中に差し込んで精子をメスに送り込む。そのあと、オスは、「でんぐり返し」をして、メスの口の中に投身自殺する。メスは、もちろん、このオスを食べてしまう。メスは、オスを食べたあとは、ほとんど再交尾しないので、オスは自死によって自分の子を確実に残すことができる。うむむ、なんということか...。
アオガラは、表面上は一夫一妻で繁殖する。しかし、実のところ、メスが産む子の中には夫以外のオスの子が含まれていることがある。これはDNA検査で判明したこと。
ウズラのメスは、一緒に育ったオスには関心を示さない。近親交配を避けているということ。
シジュウカラのメスは、オスのさえずりを手がかりとして、生殖相手として近親者を避けている。つまり、昔聞いた父親のさえずりに似たさえずりをするオスを避けている。
両親から受け継いだ46本の染色体に含まれるDNAの長さは約2メートル。人体を構成する細胞30兆個以上のすべての細胞に、この2メートルのDNAが格納されている。
本能とは、行動にかかわる組織や器官が、経験に依存することなしに適切に発生し、適切に機能して発現する行動と定義される。つまり、経験がかかわっていたら本能ではない。それは学者効果があがっているということ。
男が好む女は、細いウエストと大きめのヒップ。くびれたウエストは、女が妊娠していないか処女だと思わせる。女は男ほど肉体的特徴を問題にしない。女が好む男は、平均して3歳だけ年上。
女子学生は、自分のタイプと異なる体臭の男子に好感を抱く。それは近親交配の回避の意味がある。
まことに本能とは、いかにも摩訶不思議なものですよね...。
(2021年8月刊。税込946円)

2022年1月24日

野生の青年期


(霧山昴)
著者 バーバラ・N・ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ 、 出版 白揚社

人間も動物も波乱を乗り越え、おとなになる。タイトル(野生の青年期)が繰り返し実証されている本です。なるほど、若者が怖いもの知らずというのは、ヒト(人間)だけではなく、動物全般に共通する特質なんだということがよく分かりました。
アフリカのサバンナに生息するヌーがワニ(クロコダイル)の群がる川を渡るとき、一番に川に飛び込むのは、体つきは大きいが、ひょろりとした若手たち。未経験さゆえに、危険が潜んでいるのも気づかず、われ先に川にジャンプして飛び込む。もっと分別のある年長のヌーたちは、じっと待っていて、ワニが若い先頭のヌーを追いかけるすき間に、安全に川を渡っていく。
若者の衝動性、何でも試して目新しさばかりを求めること、未熟な意思決定といった特徴は実行機能を担う脳の部位、とくに前頭前野が脳のほかの領域と比べて成熟時期が遅い点と関係がある。
ヒトについては、15歳から30歳までがティーンエイジの脳として、膨大な記憶を蓄えていく。
動物はみな4つの課題を突きつけられる。①安全でいるには...、②社会的ヒエラルキーのなかをうまく生き抜くには...、③性的なコミュニケーションを図るには...、④親から離れて自立するには...。S(safety)安全、S(status。ステータス)、S(SEX、せっくす)、S(Self-Reliance。自立)。この4つのスキルは、ヒトでも体験の核にある。
この本では、太古より無数の動物が体験してきた過程を、4匹の野生動物の成長物語として語りながら進んでいきますので、とてもイメージがつかめます。キングペンギンのアーシュラ、ブチハイエナのシュリンク、ザトウクジラのソルト、ハイイロオオカミのスラウツの4匹です。発信機が取りつけられ、行動状況を追跡していくのです。
捕食者の怖さを知らないというのは、ヒトの若者が、ほとんど何の経験も積まずに外の世界に出ていくときの状態でもある。彼らは何が危険なのか区別できない。たとえ危険だと気づいても、どう対処したらいいかわからないときが多い。
若者が危険なことに向かっていくのは動物界全般で観察される。動物は、最後には親の保護がなくなり、自分自身で危険な世界に立ち向かう。
青年期(ワイルド・フッド)の間に情緒面や肉体に迫る危険を経験し、そこから会得したとっさの反応と対処法は死ぬまでその個体の役に立つ。
青年期のひとつの不思議な特徴は、その時期を送る者がみな自分たちこそそうした体験を初めてする唯一の世代であるかのように感じるところにある。自分たちは特別だと感じる年代層がどっと現れるたびに、それを迎えるおとな世代は、こうした若者たちの若さの過剰ぶりに我慢ならないと、いらいらする。
若者の搾取は、青少年を徴兵する制度に如実にみてとれる。この制度は、過去も今も世界中でやられている。古代ローマでは、軍団のうちもっとも貧しく年のいっていない兵士の若者は、「飛び道具歩兵」や「近隣歩兵」の部隊にまわされた。戦いの経験もなく、強い武器も持てず、一番危険な最前線にやられた若者たちからは多大な死傷者が出た。
動物の集団が大きくなるほど、そのメンバーは安全になる。
変わっているというのは、動物にとって危ないこと。捕食者の関心を引くのは、目立ちやすさ、風変わりなこと。
動物は絶えず、「不採算性の信号」を送る。襲いかかろうとする相手に、自分をねらっても割にあわないことを伝える。おまえの行動は、とくにお見通しだという信号を出す。
オオカミに自分の子を殺された母親バイソンは、次に子どもを持ったときは、子どもを失ったことのない母親よりも警戒心が5倍以上も強くなった。
青年期は孤立して過ごしてはいけない。仲間がいないまま大きくなった動物は、現実世界で必要な身を守るためのスキルを身につけることができない。子どもをあまりに長く保護したまま、捕食や危険や死について学ばせないのは、ヒトでもほかの動物でも、親のおかす最悪の誤ちとなる。過保護にするのは子どものためにならないということですね...。
ヒトの社会では、幼児や年少の子ども時代は、階級についてよく知らないで過ごすことがある。しかし、青年期に入ると、階級、序列、ステータス、地位が急に鮮明になる。青年期の最大の難関は、恵まれない境遇に生まれた者が不当に扱われるおとなの世界に入ることだ。
ステータスの上昇は、動物の生存チャンスを高める。ステータスと気分とは、つながっている。勝者は勝ちつづけ、敗者は負けつづけ、敗北の連鎖反応はしばしば止まらない。戦いに負けた個体は、それ以後の勝負で攻撃性がぐんと低くなり、さらに負けやすくなる。いじめは、ほとんどの場合、ステータスを得るため、また維持するために行われる。自然界には、公平な条件での競争の場はない。親の序列の継承は実際に行われている。
動物の性教育は、交尾に関してではなく、コミュニケーションのほうに力が注がれる。おとなになるには、自分自身の欲求を表現し、相手の欲求を理解する方法を習得しなければならない。
カメ(ズアカヨコクビガメ)のメスは、セックスのために近づいてきたオスのうち実に86%を拒む。
若者が親元から離れて自立することが分散という。その行動は、家族メンバー間の親近交配を防ぐ利点がある。しかし、分散する若者たちは、しばしば危険に遭遇する。
青年期の特質なるものは、ヒトだけでなく、パンダや鳥や魚まで、あらゆるものに該当することを知り、とても勉強になりました。
(2021年10月刊。税込3300円)

2021年12月20日

生物はなぜ死ぬのか


(霧山昴)
著者 小林 武彦 、 出版 講談社現代新書

タイトルの問いかけに対する答えは簡単です。だって、一つの個体がいつまでも長生きしていたら、次世代が活躍できないからです。
それは、政治の世界でも同じこと。80歳を過ぎてもなお国会議員の椅子にしがみついていたらいけないのです。潔く後進に席を譲るべきでしょう。その意味で、今回の選挙で自民党の長老たちが福岡や熊本で落選したのは良いことでした。でも、福岡にはまだアッソーという、とんでもない長老が居すわっていますね...、残念です。
これまで、地球では5回もの大量絶滅を迎えている。それは、大規模な火山の噴火とか隕石の衝突によるとみられている。しかし、現在、再び大絶滅が進行中。それは火山の噴火などではなくて人類の活動が原因。本当に子や孫、次の世代の人たちに申し訳ないことです。グレタさんの呼びかけに私たちはもっと真剣に耳を傾けるべきだと思います。
ヒトのご先祖は、今も生息するツパイのようなネズミに似た、小さな夜行性の哺乳類。恐竜が絶滅したおかげで、食料と生きる空間を拡大し、現在につながっている。
地球上にいる生物種は、名前のついているものだけで180万種。その半分以上の97万種は昆虫。昆虫は、もっとも進化して複雑化した生物。カブトムシなどの昆虫は大きくなれるのは幼虫のときだけ。つまり、幼虫の仕事は、食って大きくなること。
ハツカネズミは、野生だと寿命は1年以内。中型(体長20センチ)のハリネズミは10年、大型(体長1メートル)は20年。体長が大きくなると、寿命ものびる。
ところが、アフリカの乾燥した地域にアリの巣のような穴を掘りめぐらして、その中で一生を過ごすハダカデバネズミは、寿命が30年。これは、天敵が少ないこと、低酸素の生活環境で暮らしていること、低体温、食べる量も少ないことなどによる。このハダカデバネズミは、真社会性の生きもの。1匹の女王を中心とした分業制の社会システム。面白いのは「フトン係」といって、子どものネズミを温め、体温の低下を防ぐだけのネズミがいる。分業により仕事が効率化し、1匹あたりの労働量は減少する。このストレスの軽減が、寿命の延長に役立った。
ハダカデバネズミは何が原因で死ぬのか分かっていない。死ぬ直前までピンピンしている。老年で元気のない個体はいない。ええっ、本当でしょうか...?
ニホンザルの寿命は20年、ゴリラやチンパンジー、オランウータンは40年。そして、ゾウの寿命は80年。成獣になるまで20年もかかる。
日本人のうち100歳以上の人が8万人超。ところが、115歳をこえた日本人は、11人。全世界でも50人はいない。ヒトの最大寿命は115歳なのか...。
生物の生と死を考えさせてくれる新書です。
(2021年4月刊。税込990円)

2021年12月18日

ダニが刺したら穴2つは本当か?


(霧山昴)
著者 島野 智之 、 出版 風濤社

ダニについて書かれた本です。本のオビには世にも美しいダニの電子顕微鏡写真を多数掲載とあり、実際、その見事にグロテスクかつ美しいダニの姿がとらえられています。
私は自然豊かな田園地帯に住んでいますので、夜になると窓にヤモリが張りついていますし、すぐ近くをタヌキが夜だけでなく、昼間、堂々(悠々)と闊歩している姿を見ることができます。そして楽しみの庭仕事をすると、腰が痛くなるばかりでなく、腕やら脚を何かにかまれて発赤し、痒(かゆ)みを覚えてしまいます。大自然の近くで生活すると、そんな苦労がつきまとうことになります。それはさておき、ダニの話に戻ります。
ダニは世界に5万種、日本には2000種いる。血を吸うマダニのようなダニは日本には20種類ほどしかいない。多くのダニは人間には被害を与えることなく、人間とは関係のない自然の中で暮らしている。人間の血を吸うダニ種は、世界中にいるダニの1~2%でしかない。
たとえば、アナタカラダニは花粉食であって、人間の血は吸わない。そもそも、その口器は人間をかめるような構造になっていない。また、このカベアナタカラダニにはオスがおらず、メスがメスを産む単為生殖。
ダニは、熱帯はもちろん、南極大陸から北極圏まで、地球上のあらゆる場所に生殖している。高山から海岸そして7000メートルの深海底にまで生活している。
ハモリダニは、60度の熱にも耐えられる。
身体の大きさを抜きにして、ササラダニは、かの凶暴で名高いティラノサウルスの6倍から10倍ほどアゴの力がくわえているとのこと。
島には、たくさんのダニがまとわりついている。ダニは風で吹きとばされる。
マダニは、光、酪酸、体温という3つの感覚がまだ残っている、
毎日毎日、ダニたちを研究対象にしている学者って、本当に大変ですよね。本のタイトルの疑問の答えは、本当ではないということのようです。
(2021年6月刊。税込1980円)

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