弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2024年7月28日

水族館飼育係だけが見られる世界


(霧山昴)
著者 下村 実 、 出版 ナツメ社

 これは面白くて楽しい本でした。水族館だからもちろん魚を扱うわけです。でも、ジンベエザメって、これも魚なんですかね...。最大全身14メートルという、最大の魚類。イルカやクジラはもっと大きいわけです。こうなると、魚って何者なのか...という疑問も湧いてきます。
 ジンベエザメの「ハナコ」さん。立ち泳ぎして、1ヶ所にとどまって餌を食べるそうです。慣れてくると、頭をなでさせてくれ、背ビレにつかまっても悠々と泳いでいく。いやあ、ここまで慣れるのですね...。
 ただし、頭をなでられて喜ぶのは犬と一部の哺乳類だけ。多くの生き物にとって頭頂部は急所なので、触られるのは嫌なこと。
ジンベエザメは24時間、泳いでいる。寝ているあいだも泳ぐ。これって、マグロと同じですよね。
 水族館の飼育係になるのに、特別な免許は必要ない。ただ、潜水士の資格はもっていたら都合がよいし、潜水経験があって、泳げたら、うれしい。
 ただし、飼育係も接客業なので、コミュニケーション力は重要。人間同士で話し合うコミュニケ―ション能力がないと、生物たちと通じ合うのは無理。なーるほど、ですね。意思伝達は必要なのですね、相手が魚であっても...。
 マンボウの体表についていた寄生虫を指でこすって取ってやると、1回しただけなのに、マンボウはそれを覚えていて、著者を見ると、近寄ってくるようになったそうです。ちゃんと人間を見分けているのです。
毒をもつ生物は多いので、要注意。アカエイは痛い。カラスエイは激痛。マダラトビエイも激痛。ハオコゼは痛い。ゴンズイも痛い。カカクラゲは激痛。アンドンクラゲも同じく激痛。オオスズメバチは熱い痛い、苦しい。そしてミノカサゴは激痛かつ苦しい。
 ヤモリは、「チーチー」と鳴くそうです。わが家の台所の窓にはヤモリが夜になると貼りつきます。でも、「チーチー」なんて鳴き声を聞いたことはありません。本当に鳴くのでしょうか...。
 同じ水槽に小さい魚と大きな魚を入れて共存させるための秘訣(ポイント)は、小さい魚を先に入れて優先権を与え、小さい魚が逃げ隠れできるようにする。大きな魚には適正に餌を与えて、極力空腹にならないようにする(もっとも肥満にも気をつけるとのこと)。
 水族館で魚を飼うときに気をつけないといけないのは、「衝突死」が多いこと。つまり、水槽のアクリルガラスに衝突して死んでしまう個体が少なくないそうです。
 日本は水族館大国と言われるほど、水族館が多く、100館もあるとのことです。
 鹿児島の水族館も大きな水族館ですけれど、沖縄の「美ら海(ちゅらうみ)水族館」のスケールの大きさにはど肝を抜かれました。スカイツリーにも「すみだ水族館」があるそうです。
 著者は「さかなクン」と同じで、幼いころから「魚、大好き少年」だったようです。それを一生の仕事にしたというのです。すばらしいことですよね、尊敬します。
(2024年5月刊。1540円)

2024年7月16日

生き物の「居場所」はどう決まるか


(霧山昴)
著者 大崎 直太 、 出版 中公新書

 ニッチ(居場所)をめぐる新書です。ニッチとは、天敵からの被害を最小限に抑えることのできる「天敵不在空間」。
モンシロチョウ属の最大の天敵は、アオムシサムライコマユバチという寄生バチ。モンシロチョウ属の幼虫の体内に産卵し、孵化(ふか)したハチの幼虫はチョウの幼虫の体内で寄生生活を送る。ハチの幼虫が十分に育つと、チョウの幼虫の体内から脱出して蛹(さなぎ)になり、残されたチョウの幼虫は死んでしまう。
 この天敵から逃れるため、3種のチョウは異なる天敵回避法を獲得している。モンシロチョウは新たに栽培されるキャベツを求めて移動し、コマユバチのいない世界に「逃げる」。ヤマトスジグロシロチョウは、ハタザオ属という他の植物の下草として覆われるように生える植物を利用してコマユバチから「隠れる」生活をしている。スジグロシロチョウは幼虫の体内でコマユバチの卵を殺してしまうという「攻める」生活をしている。
 モンシロチョウ属のチョウは、カラシ油配糖体を含む、一度も経験したことのない新奇な植物に出会うと常に産卵する。そして、チョウは産卵できる植物の葉の形を学習して記憶し、離れた場所から視覚的に産卵植物を探し出す。
 北海道の北半分にはエゾスジグロシロチョウ(エゾ)が棲んでいて、本州にはヤマト(ヤマト)スジグロシロチョウが棲んでいる。
 学者ってすごいね、偉いなと思うのは、このエゾとヤマトのとてもよく似た卵と幼虫を見ただけで識別するのです。もちろん、それには年月がかかります。
 ヤマトの幼虫の体色は緑色っぽくて、エゾの幼虫のそれは青っぽい。この体色の違いを識別できるようになるまで、2年間を要した。すごいことですよね、2年間もじっと見つめて観察していたのですから...。
 さらに、蛹の重さはキレハ(黄色い花の帰化植物)で育てると平均184mg、コンロンで育てると132mgだった。つまり、キレハで育てたときのほうが重く大きな蛹になった。
 すごいですね、体色で見分けるだけでなく、体重が184mgなのか、132mgなのか、計測までするということです。これって「ミリグラム」の世界ですからね、本当に根気のいる、大変な仕事だと思います。しかも、実験や観察で得られたデータを数式をつくって予測し、分析するのです。私のような凡人にはとてもまね出来ません。
 前半は、私としては少し難しすぎでしたが、後半に具体的なチョウの知られざる生活のところは大変興味深く読み通しました。
 私は、アサギマダラ(チョウ)が来てくれることを願って、フジバカマを大切に育てています。今では、フジバカマは20株ほど植えてアサギマダラを待ちかまえているのですが、まだまだ、やってきてくれません。それこそ、今年の秋には、ぜひ来てほしいと願っているのですが...。
(2024年1月刊。1050円+税)

2024年7月 1日

森を失ったオランウータン


(霧山昴)
著者 柏倉 陽介 、 出版 A&Fブックス

 ボルネオ島には、孤児となったオランウータンを保護し、育てあげて10年たったら森に戻すという施設があります。人間と同じ大型哺乳類なので、オランウータンを森の中の大自然に戻すには10年もかかるというのです。
 なんで、ボルネオから森がなくなったのか...。それは人間の都合。アフリカ原産のアブラヤシをボルネオで大々的に栽培するようになった。このアブラヤシからとれるパーム油はお金になるから。森は大々的に伐採され、なくなっていった。
 オランウータンは生まれつきの木登りの天才というのではなく、木登りをまず学ぶ必要がある。1~3歳は、木登り。そして、3~6歳は森林の中で生きていくことを学ぶ。
 ボルネオの熱帯林の焼失が急速に進んだため、野生のオランウータンは80%も減ってしまった。
 1964年に開設されたボルネオ島にあるリハビリセンターでは、これまで750頭以上のオランウータンが保護された。
リハビリセンターで、また森の中で遊んでいる自然な様子のオランウータンの顔を見ていると、オランウータンの保護というのは、それは人類の生存環境の保全にもつながっていると感じさせられます。アマゾンやボルネオの熱帯雨林を次に「開発」と称して消滅させていったら、次は人間の居住する環境も悪化していくことにきっとつながると思います。
 ところで、こんなに大々的に森林を植樹されてつくられるパーム油って、いったい何に使われているのでしょうか...。世界の生産量の85%を占めるのは、ボルネオ島を保有するマレーシアとインドネシア。
 ともかく、熱帯林をこれ以上減らすのは、ぜひ止めてほしいです。
(2024年3月刊。1980円)

2024年6月17日

森の鹿と暮らした男


(霧山昴)
著者 ジョフロワ・ドローム 、 出版 エクスナレッジ

 フランスの若い男性が、ルマンディー地方の森の中に入って、そこで生活して、鹿と仲良くなって7年間も暮らしていたという驚くべき話です。信じられません。
夜の森は退屈とは無縁だ。夜行性の動物はたくさんいて、サイズもさまざま。昼夜を問わず活動する動物もいる。たとえばリスは、日中は庭をちょろちょろしているが、夜は森を縦横無尽に駆けまわっている。
 森で過ごすようになって、人生はより濃密になり、喜びと発見に満ち、おだやかだった。
両親が私を縛りつけようとすればするほど親子の絆(きずな)はほころびていき、ついに切れた。私は森で暮らすことにした。
森の冒険は4月に始まった。できるだけ森で採れるものを食べ、完全には難しいとしても、菜食主義に近い食生活をしようと決めた。同じ森にすむ動物を狩って食べるなんてことは考えられなかった。
ある晴れた朝、道端で葉っぱを食べていると、1頭のノロジカが私の目の前を横切り、数歩先でとまった。この出来事がきっかけで、ノロジカと暮らし、彼らの生き方を学ぶことにした。正しいサバイバル法はノロジカのダゲを観察することで分かった。
ノロジカは昼夜を問わず、短いサイクルで休む。1回に1、2時間ほどの休憩を何度もとる。こまめに眠れば、夜にまとまった睡眠をとる必要がないことが分かった。
そして、森では、昼よりも夜のほうが生産性が高い。完全なる自給自足は一朝一夕で達成できるものではない。私の貯蔵法は、採取した植物を日中はメッシュ生地の袋に入れて日当たりのよい枝につるし、夜は湿気ないようにジップロックに入れるというもの。
イラクサ、ミント、オレガノ、オドリコソウ、セイヨウナツユキソウ、セイヨウノコギリソウ、シシウド・・・。食べられる植物と毒のある植物を正確に見分け、それぞれの栄養価を把握する、これには長い時間がかかった。量にも注意が必要。スイバはとてもおいしくて食べやすいが、大量に摂取すると、ひどい消化不良を起こす。小さな花をつけるアカバナの根は万能薬。
食料の蓄えがあり、大きなケガをせず、適当な体力があれば、1年ほどで栄養面の自活・自立は成し遂げられる。
シカと生活し、移動を共にするうえで、いちばん難しいのは、雑念を払うこと。
いたずら好きで、遊び心のあるノロジカたちに、私はすっかり魅了された。
森に善悪はない。しかし森は、常に私たちに自問することを強いてくる。
シカは習慣の生き物だ。だから、シカに会いたいと思ったときは、いつも現れる付近に腰をおろして待つのが賢い。
森で生活するとき、洗濯はしない。人間社会のにおいを森に持ち込みたくないからだ。
ノロジカは美食家だ。栄養価が高く質の良い食べ物を選んで食べている。
神経質そうに見えて、ノロジカはおだやかで、生きることを楽しむ生き物だ。
冬のもっとも寒い時期は発汗が命取りになるので、なるべく汗をかかないようにする。低体温症にならないように、体を濡らさない。体温を保つこと、十分に食べること。冬場のまとまった睡眠は死に直結する。
気温が最も高くなる午前中の終わりに少しだけ眠った。
ノロジカは人の感情を理解する。それだけではなく、その人の善悪、つまり動物の命を尊重する人と、危害を加えようとする人を見分けることができる。
著者は19歳のときに森に入って生活を始めました。そして、26歳のとき、パートナーに出会って写真展を開いたのです。39歳になった今も、森の近くの町に住んでいます。すごい本です。思わず力が入り、うんうん唸りながら読み進めました。
(2024年4月刊。1800円+税)

2024年5月27日

植物観察の事典


(霧山昴)
著者 大場 秀章 、 出版 ヤマケイ文庫

 私の数少ない趣味、というか生き甲斐の一つがガーデニング(庭づくり。つまり、花と野菜の栽培)です。東京そして神奈川に10年間住んでいました。憧れて上京したのですが、自然の四季折々を実感することができないのが本当に寂しく思いました。それで、東京直下型大地震の話が出たとき、これは何としても田舎に帰ろうと思ったのです。今は、広い庭(東京だと建売住宅が少なくとも4軒以上は十分に建つ広さがあります)に、四季折々の花を楽しんでいます。
 3月末から4月にかけては、なんといってもチューリップです。毎年、少なくとも300本は自宅の周囲に球根を植えて、愛(め)でて楽しんでいます。その前後は水仙ですね。チューリップが終わるころにジャーマンアイリス、そして黄ショウブ、それからクレマチスが次々に咲いてくれます。今はアマリリスの大輪の花が魅惑的です。私個人のブログで写真を公開しています。一度のぞいてみて下さい。
 そして、ジャガイモを梅雨に入る前に掘り上げます。タマネギをつくっていたときもありますが、あまりにたくさんとれて、今はつくっていません。ジャガイモより難しいのはサツマイモです。今年も苗を植えましたが、なかなかうまくいきません。小粒で、大きくならないのです。恐らく、土地が肥えすぎているのだと思います。長年にわたって生ゴミを庭に植えこんでいますので、庭の土はふかふか、黒々としています。
 こうやって日曜日の午後を過します。私の最大の楽しみの一つになっています。
 キャベツを植えたこともあります。これは大変でした。毎日毎朝、青虫を割リバシでつまんで取り除くのですが、いつだって取りきれません。これは、農家が農薬を使いたくなるのも当然だと思いました。
 ネギも植えました。これは失敗がありません。薬味として、刻んで、美味しくいただきます。
 ドングリは、たくさんの、実のなる年と、それほどでもない年がある。それは、何年かに一度、たくさんの果実をつくると、急に動物が増えることはないので、ドングリを食べきれず、多くのドングリが生き残る。そうやって子孫を確保している。うむむ、そういうことですか...。
 トリカブトの毒も、少量なら薬になる。人間にとって、アルカロイドは毒であると同時に薬でもある。ソテツの実やヒガンバナの球根は猛毒だけど、人間はすりつぶして水にさらし、リコリンというアルカロイドを抜いて、飢饉(ききん)のときに食べていた。やはり、生きるための知恵ですよね。
ひところ黄金色に輝くセイタカアワダチソウの群落があちこちに見ましたが、今は、それほどでもありません。繁殖力は旺盛なのですが、時間が経過すると、個体の寿命の到来とあわせて自家中毒によって、自らもその場所から追い出されてしまうのです。
 知らない植物の話が盛り沢山の本でした。
(2024年3月刊。1100円)

2024年5月13日

生きものたちの眠りの国へ


(霧山昴)
著者 森 由民 、 出版 緑書房

 依頼人と話しているとき、不眠症の人が意外に多いことに驚かされます。
ベッドに入るのは10時ころ、眠るのは午前3時で、朝の7時には目が覚める。なので、毎日の睡眠時間は4時間。これは30代の男性の話です。いやあ、大変ですよね・・・。ぐっすり眠れないと疲れがどんどんたまっていき、病気になってしまいます。
 「眠りは、優しい母と美しい姉が一体になったものだから、なかなか僕の寝室には恥ずかしくて来てもらえないのだ」(中井英夫「眠り」)
 睡眠は非常に効果的に脳の機能を回復させる。
私は徹夜したことは高校生時代に1回、そして大学生のときに1回だけあります。弁護士になってから徹夜したことは1回もありませんし、30代のころ午前2時まで起きて書面作成したことが1回ありましたが、回らなくなった頭ではどうしようもありませんでした。高校生のときは、実験的に徹夜してみたのですが、まるで効率が悪いことをして1回でやめました。大学生のときは、サークルの夏合宿のときに彼女と話し込んで夜が明けたというわけですが、これまた次の日は散々でした。
 ともかく夜の12時を過ぎたら頭が回転しなくなります。身体全体が明らかに機能不全になっていることが分かります。なので、最近は夜11時までに寝るよう心がけています(それでも、ときどきは12時近くになってしまいます。でも12時過ぎまで起きていることは絶対にありません)。
レム睡眠とノンレム睡眠と、はっきりしているのは、ほ乳類と鳥類だけ。ちなみに、鳥類については、「ここまでが恐竜で、ここからが鳥」という客観的な区分はできないので、恐竜そのものの延長線で考えられている。レム睡眠のあいだに、記憶の重みづけが行われると考えられている。
水族館のイルカは、泳ぎながらの「遊泳睡眠」、プールに浮いて眠る「浮上睡眠」、沈んで眠る「着床睡眠」の3つがある。
オランウータンは、ベッドに入ると、体の上に枝葉をかけぶとんのようにかぶる。雨が降ると、枝葉を傘のように使う。
オランウータンは、毎日夕方の5時から6時くらいに数分間でベッドをつくる。ゴリラは、夜でも地上で眠ることが多い。
犬は平均して30~40分を1単位とする睡眠をとっている。1回のレム睡眠は10分以内。動物園のゾウは、ひと晩に4~6.5時間しか眠らない。
カイメン類の祖先は6億年以上前からすでに存在していた。もっとも原始的な多細胞動物の姿を受け継いでいるようです。このカイメンには、全身をつなぎ合わせてコントロールする神経は存在しない。それどころか、ばらばらの細胞にされても、また細胞が寄り集まって再生する。
睡眠が大切なことを改めて認識させられる本でした。
(2023年12月刊。2200円+税)

2024年5月 7日

奄美でハブを40年研究してきました


(霧山昴)
著者 服部 正策 、 出版 新潮社

 ハブ捕り名人がいるそうですし、1匹4000円(今は3000円)でハブを地方自治体が買い取ってくれるそうですから、今やハブは絶滅危惧種の一つだと勝手に思い込んでいました。
 ところが、なんと奄美にハブは7万匹、徳之島にも4万匹はいるそうです。奄美大島の人口6万人弱よりも多いのです。なあんだ、絶滅を心配する必要なんてないのですね。
 ちなみに、奄美のマングース退治は成功し、ほぼ絶滅状態になったそうです。
それでも、今でもハブに咬まれる人が年に30~50人はいるとのこと。かつては年に300人以上だったそうですから、減ってはいます。
 そして、ハブに咬まれて死ぬ人は、明治時代は2割ほどだったが、今では10年ぶりに1人亡くなったという程度。
 ハブに咬まれたら、ともかく患部を吸い出したらいいそうです。そして、ハブ毒は飲み込んでも、それで死ぬことはないとのこと。
 ハブは神経質で臆病な生き物なので、人間を恐れている。ハブがいきなり襲ってくることはまずない。
 といっても、家の中に侵入してきて、就寝中にハブに咬まれる人がいるそうです。ともかく、油断しないこと、油断した人が、どんなにベテランであってもハブに咬まれるそうです。楽天的で大雑把な人ほどハブに咬まれる。
 ハブの毒は、ヤマカガシやマムシより弱い。ええーっ、そ、そうなんですか...。これも、イメージと違いますね。
 わが家の庭にも昔からヘビが棲みついていますが、マムシではなく、ヤマカガシではないかと心配しているのです。黒っぽい身体に毒々しい黄色なのです...。
 ハブに咬まれたら、体を温めて、すぐに病行に行くこと。咬まれたところを切開し、毒を洗い出し(吸い出し)、血清を注射すれば、まず生命は助かる。
 ハブは7月に産卵し、8月から9月にかけて孵化(ふか)する。
子ハブも大きいハブも木の上にいることが多い。ハブの寿命は最長30年ほど。
 ハブは寝たふりをして人間をやり過ごすことが基本だが、産卵後だけはピリピリしていて攻撃的。
ハブは気まぐれで、人に飼われてもなつかない。ハブは飛ばない(飛べない)し、いきなり飛びかかってくることもない。
 著者は、今では島根の山あいの田舎で農業をしているそうです。お元気にお過ごしください。面白い本でした。
(2024年3月刊。1600円+税)

2024年5月 3日

考える粘菌


(霧山昴)
著者 中垣 俊之 、 出版 ヤマケイ文庫

 タンパク質分子は、ブラウン運動によって常に激しく小刻みに揺れ動いていて、細胞の端(はし)から端まで数十秒ほどかけて移動する。これは、小ホールの中に満たされたおびただしい数のグリーンピースがすべて振動しながら、数十秒で端から端まで移動する様子を思い浮かべる、そんなイメージ。いやあ、そんなイメージはちょっと出来ませんよね...。
 単細胞には脳がない。だからどうやって情報処理をしているのか...。一般に、生物の情報処理は自律分散的。
 この本のテーマは粘菌。粘菌は数百種類もいる。アメーバには性がある。そして接合する。ところが、性は2つ以上ある。うぬぬ、性が2つ以上あるとは、一体、どういうこと...??
 粘菌にオートミールを餌(えさ)として与えたとき、絶食させたあとと満腹してからでは、食いつき方がまるで違う。なので、単細胞だって人間と同じ生き物だということが分かる。
 そして、粘菌にも歴然とした好みがある。最も好むのは、有機栽培の、オーガニックのもの。タバコの煙も好まない。
 粘菌は紫外線を浴びると危ないので、すぐに逃げ出す。
 生きものの賢さの根源的な性質を調べるためには、粘菌という生物は、またとない、すぐれたモデル生物。
粘菌を迷路実験すると、粘菌には迷路の最短経路を求める能力のあることが判明する。
 人間の脳のなかにも司令官のようなものは存在しない。誰かが全体を見張っていて、それぞれの管に指令を出しているわけではない。
 粘菌は、決して人のようには考えていないにもかかわらず、結果だけ見れば、あたかも考えたかのように見える。考えていないのに、粘菌は考えている、と言える。うむむ、なんだか分かったようで、分からない表現です。
 いやはや、生物の世界も不思議に満ちていますね...。
(2024年1月刊。880円)

2024年4月30日

カワセミ都市トーキョー

(霧山昴)
著者 柳瀬 博一 、 出版 平凡社新書

 この本によると、目が慣れると、東京都内はカワセミだらけだったというのです。驚きました。
 なので、著者は都内6ヶ所でカワセミを定期的に観察しているそうです。
カワセミが活発に活動するのは2月から6月のこと。この期間は、観察するため6ヶ所をぐるぐる回るので、大忙しなのです。
 カワセミがいるのは、川のすぐ近く、湧水のつくった水辺のある森の近く。そして、著者の結論は、カワセミは東京の未来のまちづくりの先生だということ。
 カワセミは、川のつくった流域地形に生息する生き物の一種として、世界中に分布している。アジア・ヨーロッパ全域から北部アフリカまで、生息域は広い。
 ただし、住む地形を厳格に選ぶ。水中の生物のみを捉え、川が削った崖に巣穴をつくるカワセミは水辺から離れることはできない。
 カワセミは、英語でキングフィッシャーと呼ぶ。ブッポウソウ目カワセミ科の一種、スズメよりひとまわりほど大きい程度。日本では、『古事記』に既に登場している。
 カワセミの餌は、魚やエビ、カニ、オタマジャクシなどの水生昆虫、1羽1羽がなわばりを持ち、繁殖期でないときには、オスとメスとでも縄張り争いをする。
 カワセミは、年に1度から2度、繁殖活動をする。
 カワセミは1980年代に入って、東京都内に少しずつ戻ってきた。公害対策の成果だ。
 カワセミのメスは下唇が赤い。カワセミを見つけるには、その白いウンチ跡があるのを見るのが一番。白いペンキを細く飛ばしたようなしみが何本も残っていたら、それはカワセミのウンチの跡なので、近くにカワセミがいた証拠。
東京のカワセミは、人が声をあげても、体を動かしても驚かないというほど、都会生活に適応(順応)している。カワセミ夫婦は、抱卵も餌狩りも、餌運びも役割分担せずに一緒にやる。完全な共働き。
カワセミは狩りをして、獲物を食べて、お腹が一杯になったら、お風呂に入る。羽を清潔にしておかないと生命にかかわる。カワセミの生活は規則正しい。
東京でカワセミが繁殖するための3条件とは...。
① 餌(えさ)となる水生生物が豊富にいること。
② 巣穴をつくる穴があること。
③ 十分な縄張りの範囲が確保されていること。
巣穴については、コンクリート壁の水抜き穴で子育てをしてるのは間違いない。
構造色のライトブルーの可愛らしい小鳥がカワセミです。我が家の近くの小川でも先日、見かけました。 はっとする、美しい鳥です。そんな小鳥が東京にわんさかいるとは驚きです。

(2024年1月刊。1100円+税)

2024年4月 8日

極東のシマフクロウ


(霧山昴)
著者 ジョナサン・C・スラート 、 出版 筑摩書房

 本のタイトルからすると、なんだか恋愛小説かもしれないと思わせますが、内容はタイトルどおり、世界一大きなフクロウを探してアメリカ人の大学院生がロシアの辺境の地でシマフクロウを保全するため捕獲しようとする話です。いやはや大変な苦労をともなう作業です。よくぞ極寒の地での生活に耐えられたものだと驚嘆しました。
 シマフクロウを捕獲するのは、その個体が次々にどのような状況になっているのか識別し、比較するためには欠かせません。遠くから観察しているだけでは足りないのです。
 シマフクロウの羽衣の色は、周囲の樹皮の黒や茶色、灰色に溶け込み、ほとんど区別がつかない。たしかに気のウロにいるシマフクロウの写真がありますが、遠くから見たら、とても見つけられそうにありません。
この本の舞台はロシアですが、日本の北海道にも、100つがいのシマフクロウが生息しているとのことです(2022年現在)。これは1980年当時の5倍で、それは保護する努力が実ったからだそうです。たいしたものです。
 日本では、19世紀に500つがいがいたのが、1980年当時には20つがいにまで減ったのでした。もちろん、人間による開発という名の自然破壊の結果です。
 シマフクロウのつがいは、声を合わせて歌う。シマフクロウのデュエットは、たいていオスが始動する。オスがまず、短く、苦しげにホーという声を絞り出す。するとメスは、すぐにホーと、オスより低い音色で鳴き返す。フクロウは一般にメスのほうが声が高いので、珍しいこと。
 次にオスが、さっきより長めで少し高めのホーという声を出し、メスはこれにも鳴き声で応える。この四つの音による泣き交わしは3秒で終わり、その後は1分から2時間までの一定の間隔をあけてデュエットが繰り返される。2羽の声は美しくシンクロし、シマフクロウのつがいによるデュエットを聞いた人の多くが、歌っているのは1羽だと勘違いしてしまう。
 シマフクロウは、200ヘルツという低い周波音域でホーと鳴き、それはカラフトフクロウの鳴き声の周波音域とほぼ同じで、アメリカワシミミズクの2倍の低さだ。シマフクロウの声はあまりに低く、マイクで拾うのは難しい。シマフクロウが低い周波数で鳴くのは目的にかなっている。周波数の音声は、密林ではより伝わりやすく、数キロも離れた遠くからでも聞きとることができる。木があまり繁らず、ひんやりとした爽やかな空気が音波の伝達を容易にする冬と春の初めは、とくにそうだ。
 シマフクロウのデュエットには、なわばりの宣言と、つがい同士の絆(きずな)を確認するという二つの意味がある。つがいがもっとも活発に鳴き交わすのは、2月の繁殖期である。この時期は、1回のデュエットの時間が長くなって、何時間も続き、ときには一晩中続くこともある。
 オスが木と声を絞り出すときには、喉の白い部分が大きく膨らみ、直立したぼさぼさの大きな羽角(うかく)が、シマフクロウが身体を動かすたびにコミカルに揺れる。
シマフクロウは季節的な移動を行わず、夏の暑さにも、冬の霜にも耐えて、同じ場所に留まる。なので、デュエットを聞いたら、そのつがいは、森のその場所に伝え住み着いているということ。
 シマフクロウは長生きする。野生のなかには25年以上生きていた例がある。デュエットするつがいは、毎年、同じ場所に住み続けている可能性が高い。
 シマフクロウは、横穴型のうら(木の側面にできた樹洞)を利用した巣穴を好む。それは、暴風雨から身を守る効果が高いから。
 メスが巣についているとき、オスはたいていどこか近くでメスを見守っている。
 メスはオスに比べて尾羽に白い部分が多い。これは性別を判断するうえで、信頼性の高い基準だ。
 シマフクロウは、胸元の薄い黄褐色の羽毛により濃い色の横縞(しま)が転々と入っていて、それがこの鳥を木の一部のように見せている(擬態)。まるで、木の大きなコブに命が宿り、復讐心を燃やしているかのようだった。
 一般に、シマフクロウのつがいの片方が死ぬと、生き残った一羽は、その場所に残り、新しいパートナーを呼び寄せるために鳴き声を上げる。
 シマフクロウを捕獲するためには苦労する。真っ先にワナを変えた。シマフクロウを仕掛けたわなで捕まえてみると、驚くほどおとなしかった。あちこち突き回されても、呆然として横たわっているだけで、ほとんど抵抗しない。人間の側の安全のために拘束ベストを着せた。
 身体を計測し、血液を採取し、個体識別用の足環(あしわ)をつける。
 捕まえたシマフクロウには名前をつける。なわばりと性別で、たとえばファータ・オスというように。
 シマフクロウは、冬は中核エリアから離れない。メスは巣について離れず、オスは巣の側で見張りをし、パートナーに食べ物を届ける。
 春には、シマフクロウの関心は隣接するなわばりとの関心に向かった。
 いやはや、鳥そしてひいては人間の安全に生息できる環境を守るための努力というのはこんなに苛酷なことも求められるものなのか...。粛然たる思いがしました。
(2023年12月刊。3300円)

1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー